魔法少女大戦  7話 地獄
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7話 地獄

 

 「待った〜?」

 「いや、今来たとこ」

 「またまた、そう言うテンプレはええねんて」

 

 次の日。恭の住んでいる街の有名な待ち合わせスポット(噴水のある緑豊かな公園で、平日ならまだしも休日は結構な人間で賑わう)で、恭と璃音は待ち合わせた。

 彼らの通う学校の創立記念日と言う事で、やはり同じ学校の高校生達が多い。むしろ他の学生っぽい人達の境遇が気になる所ではあるが、そこまで気にする必要も無いかと恭は意識を切り替える。

 恭は良くあるタイプの黒いTシャツと灰色の上着に下はジーンズ、璃音は白いフリフリのワンピースに銀色のヒールを履いていた。髪はいつものようにポニテでまとめている。

 それにしてもデフォルトで身長の高い彼女がヒールを履くと自分との身長差が露骨に強調されてしまうなと恭は少し悲しくなる。彼は同年代の男と比べても決して大きい方では無く、逆に璃音はバレーやバスケでもやっているのではないかと言うくらい背が高い。

 一度『長身にヒールって必要なの?』と聞いたら彼女は『別に背を高くするための物や無いねん』と一周された事を彼は思い出した。理由は未だに分かっていない。

 

 「んじゃ、最初はどうする?」

 「せやな……じゃあ、Magdala行こ。買いたい物があんねん」

 

 恭の手を引いて歩きだす璃音。振り回される予感しか無かったが、恭はそれに黙ってついて行った。

 

 

 胸のあたりがちくちくと痛む事くらい、少し考えれば分かりそうなものだった。

 

 

 「なあ、真田くん。どっちがええ? どっちがうちに似合う?」

 「……あの、こっちに向けないで貰えますか?」

 

 Magdalaは町のほぼ中央に位置する大規模なショッピングモールだ。大体何でもそろう上に、近くには映画館やゲームセンター、ボウリング場等等の娯楽施設も充実しており、この町の中でも有数のデートスポットになっている。お金がかかり過ぎるのが玉にキズみたいだが。

 そんなわけで服を買いたいからと璃音について来てみれば、よもや下着選びに付き合わされるとは恭も思っていなかった。黒いシックなやつと桃色の可愛い系のどっちが良いかなんて訊かないでくれと彼は嘆息する。

 ……本当にデートみたいだ。いや、璃音からは間違いなくデートだと言われているのだが。恭はこの状況に当惑しながらも振り切れない自分に苛立ちを募らせる。

 ちなみに彼女はスレンダーで基本的に何でも似合う。だが下着がどんなものであろうと関係ないんじゃないかと恭は一蹴したかったが、そうするとまた何か言われそうだった(でもなんだろう、ので黙っていると、どうやら彼女は自分の中である程度決着がついたらしい。

 

 「これにしよ。こっちもかわええんやけど、こっちはどんな服にも合うしな」

 「そういう基準で選んでたのか……んで、良いから見せるな」

 

 黒い下着から目を背ける恭は、そむけた先に羽型のアクセサリーを見つけた。割と有名なメーカーの物だ。比翼連理の何とやら、意味はよく知らないが恭はそのデザインに惹かれた。

 

 「なあ、璃音。これどう思う?」

 「ん? おお、かわええなぁ」

 「これ買ってやるよ。プレゼントって事で」

 「へぇ〜、真田くんもそれくらいの甲斐性身につけてくれたんか。ありがとな」

 

 折角のデートなのだが、彼女が選ぶような下着にお金を払えない恭は別の物でお茶を濁す事にしたのだが、それでも璃音は喜んでくれたらしい。

 アクセサリーは天使の双翼をモチーフにしており、二つの片翼に分かれるようになっている。これをお互いに持つようにするらしい。その性質上包装する事も出来なかったので、購入して開封すると半分を璃音に渡した。

 

 「んじゃ、携帯につけるな」

 「ああ、俺もそうするわ」

 「それじゃ、映画行こか」

 

 璃音は恭の手を引いて、映画館へと歩きだすのだった。

 

 

 比翼連理、それは夫婦仲の極めて良い例えなのだが、二人はそれを知らなかったのか、あるいは璃音だけは知っていたのか。それは分からない。

 

 

 映画自体はとても良い作品だった。色んなジャンルのアニメを見る恭としては、こう言うタイプの作品や○ィ○ニーや○ブリみたいなもの以外(特に深夜系統の萌えアニメ)を低俗と一周する風潮はさっさと無くなって欲しいと思うのだが、まあそれはしょうがないわけで。むしろこう言うアニメをきっかけにして萌えアニメへのいわれない偏見が払しょくされて欲しいな〜と言うのは恭だけでなく作者も思ってます。

 二人はMagdalaに戻ると、一階の喫茶店で外の景色を楽しみながらケーキセットを食べていた。璃音は表面が狐色に輝くベイクドチーズケーキと輝きの中にも透明感のあるダージリン、恭は甘さ控えめのザッハトルテに無糖のブルーマウンテンをご賞味だ。

 

 「最後良かったな〜、桜くんが黒うさちゃんに『お前が居てくれるなら、俺はずっと不幸でもいい!』って叫ぶとこ」

 「せやな〜、黒うさちゃんの立場やととても誰かに一緒に居て欲しいなんて言えへんもんな。桜くん男前やわ〜」

 

 フォークを恭に突きつけ合い力説する璃音と恭。ちなみに上記の恭の台詞は、存在するだけで周囲の人間を不幸にする少女に少年が言い放った台詞だ。『人外少女』と言う作品の根幹に存在する、『人では無い異常者に対しどう向き合うか』という一貫したテーマに対する答えの一つでもあった。

 そう言えば……と、璃音は恭の方を向く。

 

 「なあ、真田くん」

 「どうした?」

 「もし、うちが急に人間やなくなっても、今まで通りでいてくれたりするんかな?」

 「そりゃそうだろ。まあ何かゾンビ化とか鬼人化とかで根本的に精神がイカレちまうならまだしも」

 「そっか……せやな。うちかてきっと同(おんな)しや」

 

 ふふっと笑い、璃音は持っていたフォークでケーキを突き刺し口へ運ぶ。口の中でとろける味に彼女は頬を緩ませた。恭もザッハトルテを切り分けそのうちの一つを口に運ぶ。甘ったるい味が口いっぱいに広がり、そこに恭はコーヒーを流し込む。

 ……と、恭は人混みの中に白い髪の少女を見つけた。見逃すはずは無い、と言うかあんな特徴的な外見の人間を恭はそんなに知らない。

 

 「あれ……?」

 「ん、どないしたん?」

 「いや、九兵衛が居たような……」

 「へぇ〜、きゅうちゃんもこう言うとこ来るんやな。デートとかやったりして、あの子モテるし」

 「やっぱりそうなん?」

 「そりゃあな、真田くんですら気付いてんねんで。裏で相当告白されてるみたいや」

 

 軽くけなされたような気がしたが、成程と思った。名前が多少変で引っ込み思案な所を除けば彼女は可愛い。と言うか後者の性格と言う面は彼女の外面とのコンボで相当なプラスに働くかもしれない。

 そんな事を話していると、璃音の携帯が鳴った。璃音の顔色が変わる。電話の方みたいだ。

 ちょっと待ってな……と言いながら璃音は電話に出る。恭もあまり深く聞くわけにはいかないにしても聞こえる内容をいくつか拾うとどうやら親かららしい。

 

 「ごめん、真田くん。今日兄貴が帰ってくる言うてたんやけど、それが早まったみたいでな。家族で飯食いに行くから帰って来いって」

 「ああ、そういやそんな事言ってたな……」

 「ごめんな、うちから誘ったのに……その、何や、真田くん」

 「どうした?」

 「……楽しかった、また明日な」

 

 璃音は顔を赤くして恭の方を向き一言そう告げると、荷物をまとめ自分の分の代金をテーブルに置き急いで帰って行った。

 本当はあの後告白するつもりだったんだろうな〜と、そんな事を考える度に恭は何と言っていいやら分からなくなってしまう。本当はその辺りのけりをつけるつもりだったのに、当てが外れてしまったみたいだ。

 とりあえず恭はケーキを平らげコーヒーを飲み干し、会計を済ませる。肩すかしをくらった気になりながら、恭はその店を後に……

 

 「木村、さん……?」

 

 見間違いかと最初は思った。しかしそれは違う。見間違うわけがないじゃないか。そんなはずは無い。鍛えられた肢体、ボーイッシュな短髪、動きやすい白のTシャツに行動的なホットパンツ。何よりも恭を引き付けるそのオーラ。

 

 木村鳴、その人だった。

 

 「……っ、おい! 待てよ!!!!」

 

 目が合った。互いの存在をその場で確認する。そして彼女がとった行動は、逃走だった。恭は必死で彼女を追う。普段なら絶対に追いつけない恭だったが、彼女を前にすればどこまででも走れる気がした。

 結局、見失いそうになりながらも屋上の誰も居ない遊具スペースに彼女を追い詰める事に成功した。流石にこの場所からは逃げられないだろう。恭は荒げた息を落ちつかせ、彼女に詰めよった。

 

 「今まで……どこに行ってたんだよ!!!??」

 「……さい……」

 「何だっt」「うるさいって言っとるやろ!!!!」

 

 鳴は恭の手を払いのける。誰も居ないそのスペースに残響がこだまする。

 

 「別に、真田くんには関係なか……ちっ」

 「何だよそれ……っ!?」

 

 周囲の床が、壁がどす黒く歪むのを二人は見た。黒く歪んだ渦が密集し、そこから無数の化物が姿を現す。妙に無機質な鳥や蜥蜴だ、まるで生きていないかのような……

 一つしかない入口もぬかりなくふさぐように、化物たちは二人を取り囲む。鳴は舌打ちすると、観念したように恭の方を向いた。

 

 「一度しか言わんし、信じてくれんでも良い……私、魔法少女なんよ」  

 「えっ……っ!!?」

 

 恭の動揺を置いてけぼりにし、彼女は首にかけた濁りの強い宝玉を額に当てる。光が拡散し、彼女を覆う。その光が晴れる刹那、彼女の身体は白衣と緋袴に包まれ足には足袋を履き、靴も草履になっていた。

 その姿は、誰もがよく知っている巫女のそれだ。左目は金色に輝き、右の黒い瞳との対比が美しかった。

 

 「来い、明電(めいでん)!!!」

 

 光を集め、漆黒の柄、先端には銀の鈴を付けた金色の杓杖に具現化させる。鈴と鈴が打ち鳴らされる度に先端はほのかに電撃を帯び、それだけでも化物を威嚇する。

 強者を打ち倒すべしと判断したのか、ふらつきながら化物は鳴に襲いかかる。彼女はそれを限界まで引き付け、杖で薙ぎ払った。接触するたびに電撃が視覚出来るほど激しく迸る。何体か倒すと、残された化物は明らかに退散と分かる形で消滅ようとした。

 鳴は杖の柄を地面に突き立てる。突き立てた部分を中心に周囲へ魔法陣が広がり、その範囲内の化物は全て黒焦げになった。彼女が強いのかもしれないが、それを差し引いてもこの敵は魔法少女と呼ばれる存在にとってとるに足らない存在である事は恭にもおぼろげながら理解できた。

 

 「……ちょっとした理由があって、契約したとよ」

 「契約って……それで誰も木村さんの事を覚えてないって事か?」

 「そう言う事。真田くんが覚えとったのは何でか知らんけども」

 

 変身を解除し、元の姿に戻る鳴。心なしか、首にかけた宝玉がさっきよりも濁っている気がする。中心には薄く光がともっているがそれも消えてしまいそうだった。

 

 「真田くんも分かっとるかもしれんけど、私の居場所ってないじゃん? だからもう……私の事は忘れて」

 「何言ってんだよ、こうしてまた会えたのに……忘れられるわけないだろ!!?」

 「じゃあずっと、居もしない人間の事を追い回してる変人だと思われながら生きていけばいい。私はああやって化物と戦わんといけん、真田くんとは違うとよ!!」

 「だったら俺だって戦うよ!! だから一人で背負」「ふざけんな!!!!」

 

 激昂する鳴。彼女がこんなにも怒ったのを見るのは初めてだった。彼女自身そこまで声を荒げるつもりは無かったらしく、恐らく恭よりも発言者本人の方が驚いていたかもしれない。

 

 「……ごめん。でも真田くん、男やん。魔法少女って言うたやろ、何で真田くんg」

 「そうでもないんじゃないかな、鳴」

 

 澄んだ声が響く。恭もよく知る声だ。だが、そのよく知る声の相手はこんな無機質では無かったはず、聞き間違いではないかと恭は声のする方を向く。

 九兵衛だった。妙に達観した様子で、彼女は二人の元へと歩いてくる。

 

 「やっぱりお前も関係者か……」

 「九兵衛! 真田くんは関係……」

 「人間の真似ごとは疲れるね、きょうちゃん。普通に話させて貰ってもいいかな?」

 「猫かぶってたのか……」

 「ボクが鳴の居る学校に入ったのはね、資質のある子を探すためだったんだ。でも、魔法少女はこれ以上生み出せない。ボクが探してたのはね、魔法少女を護る騎士なんだよ」

 

 彼女曰く(開き直った彼女は『ボク』と言う一人称にも違和感を感じさせなかった)、九兵衛と魔法少女両方の承認を以て生じる騎士と言う存在を学校で探していたらしい。その条件は鳴の事を覚えている人物、出来れば鳴と何らかのつながりがあった方が良いと言う事だった。

 魔法少女になった人間は人々の記憶から抹消される。しかし、魔力の資質がある人間は例え魔法少女となった相手でも忘れる事は無い。九兵衛が恭に質問したのはその資質ある者を探すためだったのだ。

 そしてその性質上、魔法少女と騎士は一心同体である。その為、相思相愛であることは非常に好都合なのだと言う。

 

 「この世界と関われば、真田くんは全ての日常を失う事になる……だから、真田くんは帰って」

 「何言ってんだよ、木村さん一人置いて帰れるわけないだろ!!」

 「じゃあ何? 真田くんがこれからもずっと私を護ってくれるって? ……ごめんね、それ、困る……」

 「……………」

 

 彼女をずっと護るの答えに当たり前だろ!!!!! の解答が出せなかった。何と情けない、恭は歯噛みする。何故だ、自分は彼女以外有り得ないんじゃなかったのか。

 それが彼女が望んでいなかったとしても、自分は鳴を好きで居るんじゃなかったのか。恭は踏み出す事が出来なかった。情けないが、それが真田恭と言う人間だった。

 

 「真田くんの事は嫌いじゃないよ、勿論。でも、真田くんとずっと一生一緒に居たいかって言うたら、何かそれって違う……とにかく、真田くんいなくても大丈夫やけん」

 

 彼女は張り付いたような笑顔で笑うと、デパートの中へ戻って行った。九兵衛もそれに続いて行く。彼は動けなかった。鳴を追えなかった。あれほどに好きだった彼女を。

 

 恭は振られたも同然で、そんな人間に彼女を追う資格など無かった。所詮自分はどんなに過大評価しても『傍に居てくれると嬉しい人間』で、『一生一緒に居たい人間』にはなりえなかったのだ。

説明
恭さん屑すなぁと書いてて思いました。鳴ちゃんラブなら璃音とデートすんなやと。ただまあ璃音も必死なんですよ。必死な理由は次くらいで出てくるかな。
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