ゆりおん!(唯×律) |
「りっちゃーん」
「何だよ、唯か」
「いきなりその発言はひどいよ!」
私の部屋にいきなりノックもせずドアを開ける唯に素っ気無いことを言うと、
相変わらずの百面相をして悲しそうな顔をしている。
しかしこれは心底っていうよりは表面上っていったところか。
唯はすぐに顔には出るが心根はけっこうタフだったりする。
最初こそはあんなに梓のことを考えて寂しそうにしていたのに
ものの数日ですっかりいつも通りになっているのだから。
梓に対して気の毒だなって思っていた。
「えーん」
「用がないなら追い出すぞ〜」
「用事ならあるよ!りっちゃんを遊びに誘おうとしたんだよ」
唯の言葉に私はうつ伏せになって本を読んでいた姿勢を直して唯に
視線を向けた。
彼女は時折見せるやる気十分なポーズをして「ふんす」とか言っている。
「何で私なんだよ。他の面子は?」
大学に入ってからはすっかり仲間も増えて遊べる相手が増えたというのに。
「それがみんなの部屋行ったんだけど、誰もいなかったんだよぉ」
「へ〜」
と言いつつ私は頭の隅で澪が話していたことを思い出していた。
『律。明日、私幸と出かけてくるから』
『おう』
他にもムギとかも他の約束していて居ないんだと思えた。
すっかり憤慨している唯にこのことを言うタイミングを逸してしまったよ。
だけど怒っていても迫力ないなぁ、唯は…。
「わかった。わーかった。付き合ってやるよ」
「ありがとう、りっちゃん」
甘い猫なで声で言ってくる。まぁ、唯と居て飽きることはないだろうから
遊んでやるっていう考えで心にこそばゆい気持ちになるのを抑えた。
いつも感じたままの気持ちでいると、唯に弄ばれてる気がしてならないからだ。
たまにはからかってやりたいという思いに駆られる私がそこにいた。
「どこいくんだ?」
唯を一度追い出して、外出用の洋服に着替えて出ると。
同じく着替えてきた唯がニコッと満面の笑みを浮かべながら楽しそうに
こう言ってきた。
「りっちゃんの行きたい所ならどこでもいいや」
「お前…」
「ほぇ?」
「いや、なんでもない」
唯の真っ直ぐな笑顔に眩しさを感じる。私に気を遣って言ったことではなく
本音でそう言ってくれてるのだろうが、さりげない優しさに胸を打たれそうになる。
「別に遠慮しなくても唯の行きたいとこいっていいぞ」
「んー。りっちゃんと遊びに行くとこって私も全部楽しいからさ。
遠慮とかじゃないんだよ」
両手を頭の後ろに回してから再び笑いかけてくる唯に、私は遠慮することなく
私の好きなように遊びにいくことになったのだった。
「おー、最初はカラオケかあ」
「私達といったらここでしょ」
「だね〜」
寮から少し離れた場所にあるカラオケのチェーン店に足を運ぶ私達。
少し離れてるといっても歩いて行ける距離だから何てことはなかった。
人は多からず少なからずほどほど込んでいるのを確認して私達はすぐに部屋を取った。
ほどほど広く涼しい部屋の中。ソファーに座って私は背中を預けると
検索機を手に取る。
画面の表示には新譜の情報が出ていて私の好きなグループの名前と曲名も
書かれていてテンションが上がってきた。
「私は探してるからりっちゃんから好きなのをどうぞ」
唯はもうひとつの機械に手を伸ばしてからそう言ってきた。
「お、おう…」
こいつは私の表情の変化一つで考えてることまでわかるのだろうかと、
少々末恐ろしいなと思う。
それから、私が歌ってる間は唯はリズムに乗って体を動かしながら
歌う曲を念入りに探していた。
私の後で流行のバンドグループの曲を熱唱する唯。唯がこういうのが好きだとは
意外だったのと、格好のだらしなさとかそれとなく着こなしているのを見て
複雑な気持ちにさせる。レディース用のTシャツとジーンズ。
シャツはしっかり伸ばさずに少しよれているが、それが逆にラフな感じを醸し出している。
思わず見惚れていた私は唯が歌い終わるのと同時にドアが開かれ店員さんが
中へと入ってきた。
「ご注文のお菓子盛り合わせです〜」
「あー、そこに置いといてください〜」
店員さんは唯が座っていた位置と私の間に注文されたらしきものを置いて
部屋から出ていった。
「いつの間にこんなものを…」
「りっちゃんが新曲を情熱的に歌ってた時だよ〜」
「情熱的とか言うな」
別にそういう風に歌うのは恥ずかしくはない。澪じゃないんだから。
でも敢えてそう言われるとちょっとだけ気恥ずかしく感じる気がした。
するとお菓子の中からポッキーを取り出して、私にそれを見せてから
そっと先端を潤った唇で咥えるところを見せる唯。
そして思い立ったという顔をしてから一度ポッキーを離した後に
とんでもないことを唯は口走ったのだ。
「そうだ、ポッキーゲームしようず!」
「しようずって…」
「勝負だよ、勝負。もしかしてりっちゃん負けるの怖いんでしょ〜」
ゴンッ
「痛いよ〜」
「ふざけたことぬかすからだろ」
案外私も負けず嫌いだからか、唯のくだらない挑発に乗ることにした。
唯の真意はこの時の私には全く想像することができなかったが。
始めてしばらくしてから思い知らされることになる。
ポリポリ
少しずつ食べ進めていくゲーム。先にポッキーから離れた方が負け。
至ってシンプルなゲームだ。
私はこういうのを以前に澪とやって負けたことがない。
大抵相手が恥ずかしがって離れていくもんだ。多分唯もその程度だと高を括っていたのだ。
しかしどんどん顔が近づいてきても唯は離れようとしない。
そろそろ互いの唇が触れそうってくらい近づいた瞬間に唯は自ら私の唇に迫った。
触れてそのままキスの形に持っていかれる。
「んぅ…」
半分喘ぐような嫌らしい音が私と唯の両方から漏れていた。
それが余計に自分達の気持ちを高まらせていた。
唯の自然に私の口の中に舌を浸入させてきて誘ってくるのを私は拒みきれずに
唯の舌に触れた。ぬりゅっとした感触が気持ち悪い。
気持ち悪いのに私の中では胸のドキドキは高まるばかり。
顔もひどく熱くなっていった。体は汗ばみ服が少しずつ私の体に張り付いてくる。
「ぷはぁっ」
どれだけの間、キスしていたのかわからないほど長く感じていた。
気だるく、力なくソファーに背を預ける私に上から覆いかぶさるように
唯が私を見下ろしてきた。
「りっちゃんかわいー」
「からかうなよ…」
私の言葉にきょとんとした表情で唯は言い切る。
「からかってないよ。私は本気だよ」
「梓や憂ちゃん。ムギにも言ってなかったけか」
「あと澪ちゃんにもね。でもね、私はいつだってみんな同じくらい大好きなんだよ」
「…」
一見女たらしな発言に見えるけど、唯の目は綺麗なままで全て本音なのだろう。
そして同じくらいどの子も愛せるのだと思う。
私も唯とこういうことしていても嫌だと思うことなんてできないし。
もうキスをした以上、体も心も拒むことはできない。だから…。
「あー、わかったよ。好きにしろ!」
「わーい。大好きりっちゃん〜」
そういってガバッと私の体を包み込むように抱きついてきた。
柔らかくて良い匂いがする。私は目を瞑ってその感触に浸っている。
カラオケに来たというのに歌を途中から歌わず、ただイチャイチャするだけ。
こんな客。他にいるだろうか…。
互いに触れ合ってるうちに部屋から音が鳴り響いて私達は気がついた。
終了の時間が目前に迫っていたのだ。唯が電話に出て応対してくれた。
その時の様子はさっきまでキスをしていたとは思えないほど冷静で
可愛らしい笑顔を見せていた。
延長をせずに店を出た私はこの後どうしようかと考えていると
不意に唯が私の手を握ってきた。
「おいっ」
「え、ダメ?」
まるで動物のように愛くるしい表情で見つめてくる唯にダメと言い切れずに
口ごもっていると、手を握ることに対して肯定的な意味と取られて
私を引っ張るように歩き出した。
「ちょっとお茶しよ〜っ」
何だかんだでその後はずっと唯のペースであちこち回ったけれど、
全部楽しかったから良しとした。
寮の唯の部屋に帰ってくると。綺麗とは言い難いが汚くもないのを見て関心する。
家に居た頃はずっと憂ちゃんに頼りっきりだったから余計に関心させられる。
「何とか生活できてるみたいだなー」
「私だってやればできるんだよ!」
「それでも綺麗とは言い難いけどなぁ」
「ひどいよ、りっちゃん!」
とか言いながら私の腕にしがみついてくる唯の頭を撫でる。
唯の誘いでこの部屋に来たけど、これを見せたかったのだろう。
ちょっと厭らしいことでもされるのかと思って疑ってしまったことには
少し反省。
そんなことを考えていると絡めていた腕を下げて指を絡めるように
手を握ってくる。柔らかい感触と唯の温もりが伝わってくる。
「頑張ったな、唯」
「うん」
あの憂ちゃんから離れて生活なんて最初は想像できなかったけど。
いや、慣れるまでは色々大変なこともあったがみんなでフォローしたおかげかもしれない。
「私達にも感謝しろよ」
「わかってるよ〜」
部屋を見渡していた私は再び唯へと視線を戻すと、愛おしい気持ちが湧いてきた。
他には誰もいないわけだし、今日は唯とずっと一緒に居てもいいなと思えてきた。
「せっかく二人きりだし」
「イチャイチャしようか!」
「おい…」
遠まわしな言い方は絶対にしない。いつまでも恥ずかしげもなくストレート。
そんな唯の考え方に振り回されつつも、どこか居心地が良くて私は唯に
捕まったままなのかもしれない。
部屋の中で私は疲れを感じて唯のベッドの上に倒れこむと同じように唯も
私の隣に飛び込んできて甘えてくる。
「ねぇ、りっちゃん。ちゅーしようよ」
「さっきしただろう!?」
「あれじゃ足りない〜」
こんなおねだりも悪い気分にはならないわけで。
「仕方ないなぁ」
「えへへ、りっちゃん愛してるよ!」
「ぐぬぬ…」
私はずっと唯には敵わないのだろうと、感じたのだった。
終
説明 | ||
ツイッターでリクをもらったので書いたお話です。唯らしさが出てればいいんですが、どうでしょうかね。設定としては大学編での出来事です。 | ||
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