ビヨンド ア スフィア 〜プロローグ〜 |
おおかみはしばらくの間、雄の子羊と共に実際に住み、ひょうも子やぎと共に伏し、子牛、たてがみのある若いライオン、肥え太った動物もみな一緒にいて、ほんの小さな少女がそれらを導く者となる
-イザヤ11:6-9 ホセア2:18
2008年5月29日午前4時27分東京、山梨間の県境でその事故は起こった。
東京都上空約4500フィート、アラスカ基地から横田基地へC-130Eを使用したプラント20690の輸送計画「ベンド・ホライゾン」その任務に就く6人の米兵のうちの一人空軍少佐機長ブライアン・リービンは、副操縦士ジェームス・M・ボウマン大尉に横田基地着陸許可の無線連絡を指示する。「ノーベンバーエコー52、ノーベンバーエコー52、コントロール22カムイン」ボウマンはフォネティックコードの一覧が書かれたバインダーを片手に、無線パネルのPTTを押しながら横田との連絡を試みる。「コントロール22、ノーベンバーエコー52、OK、レディ ゴー テイクダウン ウエルカム ヨコタ」ボウマンのヘッドセットに横田基地からの無線応答が入る。「ノーベンバーエコー52、アイ コピー オーバー」無線交信を終えたボウマンは機長に目配せを送る。「後は本国にこの機を運べば任務は終わり。退役ですよ」リービンはボウマン大尉に横目でニヤリと笑みを浮かべる「おめでとう。良かったな、アラスカは懲り懲りか?」と「2年ですよ。長かった。これが終わればデルタ航空のパイロットですよ」右手を斜め上に掲げ飛行機が空に上昇していくような仕草をしながらボウマンは嬉しそうに言う。リービンは親指を立ててシート後方を指差しながら「後ろの連中にランディング準備をするように言っとけよ」とボウマン大尉に促す。ボウマンは機内無線のPTTを押すと「タッチダウンの準備だ」とヘッドセットのマイクに向かって言った。
機体は丁度埼玉上空から東京都内へと入った辺り。着陸の機内無線を聞いた貨物室内の4人は、黙々とサイドに据付けられた折り畳みの簡易式横長チェストに腰を下ろしシートベルトを装着しようと金具に手を伸ばすその時だった、「ゴン・・・」貨物室内は密閉されていて外の飛行音もくぐもった音に聞こえる為、適度な硬さの物が鉄板を軽く叩いたような、そんな鈍い音が全員にはっきりと聞こえた。4人は顔を見合わせ音が発せられた事を無言で確かめ合うとその音の元に目をやる。「プラント20690」と白い文字でテンプレートペイントされた高さ2.5M、長さ4M、幅3Mほどの液体窒素が充満した水槽に4人の目が釘付けになる。「何か音がする・・・・・・」空軍2等軍曹ジョナス・ホーサンが口を開いた。2等軍曹アーロン・オールマンがプラントに耳を近づける。炭酸水が発泡するような「シュワシュワ・・・」という音がプラント内から聞こえ、それが徐々に大きくなっていくのがはっきりと音で確認できる。「ゴン!」再び中から水槽内壁を叩く音が響く、その聞こえるはずの無い音を聞き、オールマン軍曹が思わず仰け反りはっきりと異常事態が進行していることを認識すると、全員が自分の持ち場に移動し、それぞれの受け持つ任務を遂行し始めた。アンディ・ファーガソン准尉は機内無線で操縦室に「NE52、J11、A63進行中繰り返すA63進行中コマンドへこれより現場処理C02を遂行する」オールマンは全員分の緊急脱出用のパラシュートハーネスを準備、ホーサンも後部ハッチの開閉準備を整える。貨物室からの無線を聞いたボウマンは「オー・・・マイガー・・・」とつぶやき横田基地に緊急無線回線を開く「NE52、NE52、コントロール22、メーデーメーデー機体進路をポイント103に向ける。5分後に全員ベイルアウトする」リービンは機体を右方向に傾け、進路を東京武蔵野、多摩湖方面へ向ける。「山岳地帯まで届かないかもしれない。ボウマン、お前は先に後ろに行って地上に降りろ。」リービンはボウマン大尉にそう告げると自動操縦装置に進路をセットする作業に取り掛かる。ボウマンは胸に拳を当て「少佐・・・感謝します。無事に戻れたら1杯おごります」そう言って座席のハーネスを外し貨物室へと席を立つ。後部貨物搬入口を大きく開け、轟音を轟かせる貨物室ではすでに低高度降下の装備を整えた4人がボウマン大尉を向かえ、2人がかりで大尉に緊急用のパラシュートハーネスを装着する手伝いを始める。ファーガソンは腕時計に人差し指を当て「リービン少佐はどれぐらいかかりますか?」と大声で尋ねる。ボウマンはヘルメットの無線を機能させると「山岳地帯に機を誘導するのに5分かかる。脱出はその後になる」とヘッドセットのマイクに向かって叫ぶ。「大尉は先に降りてください。2名残ります。幸運を。」とファーガソンは叫びボウマン大尉の背中を後方のハッチの方向に押し、他の2人に降下の指示を送る。大尉を先頭に機外へ次々にダイブしていく。3人全員が外にダイブした直後、水槽の上方にある除き窓から赤い強い光が発せられる。音も無く、怪しく2〜3回点滅した直後、水槽の真上方向に「バチバチっ!」という強烈な轟音と共に太さ5cmほどの真っ白な一本の光が伸び、火花を散らしながらさらにC-130Eの貨物室天井を突き破った。その光は上空に向けて一本の光の線を描き、先に降下した兵たちにもはっきり確認できた。貨物室内にいたファーガソン准尉とホーサン軍曹はそれを見て後方ハッチの方に後ずさる。「軍曹、お前も先に地上に降りろ!」と指示をすると、ファーガソンはホーサン軍曹の胸を押して機外に誘導する。「准尉、自分も残ります!3人で降下を!」「ダメだ。俺には部下を守る義務がある」そう告げてファーガソンはホーサン軍曹のパラシュートハーネスから展開用の金具を引き抜き、機外に突き落とす。ホーサン軍曹が機外に投げ出され、直後にパラシュートが開くのを確認するとファーガソンは水槽を煽るように見上げる。先ほどの光の柱の影響か、機体が異常に振動しているが奇妙なほど水槽は静けさを放っている。そこへリービン少佐が貨物室内に移動してくる。「さっきの振動で機内無線が死んだようだ、他の奴らは外に出したか?」「アイサー、後は我々だけです」「よし、脱出するぞ!ハーネスを・・・・・・・」リービン少佐が言い終わる前に水槽を前後に真っ二つに切り裂くように真っ白い光の柱がC-130Eの機体の胴体を一周するように発せられた。光は水槽を2つに分断し、機体の薄い部分は貫通して外まで光の柱が走る。分断された水槽から液体窒素が勢い良く噴出し、音を立てて気化している。装甲を焼かれたC-130Eの胴体は、剛性を失い捩れ、今にも空中分解しそうな状態になっていた。リービンは自分がパラシュートハーネスを装備する時間がもう無いことを察して「君だけでも脱出しろ」とファーガソン准尉に促すが、ファーガソンは首を横に振りリービン少佐にハーネスを着ける手伝いをする。しかしすでにコントロールを失った機体は大きく揺れて思うようにハーネスを装備することが出来ない。機体の穴から液体窒素が空に振りまかれる。奥多摩付近上空に到達した頃、分断された水槽の破断面から光を帯びた「何か」が姿を現した。ハーネスを身につける作業中の2人はその手を止め、中から出てきた「何か」に目が釘付けになった。
直後、C-130Eは前後に空中分解して東京都と山梨県の県境山中に墜落した。
「落ちた?なんで?」世界中の言語で流れるニュース番組を映し出す、12面の有機液晶パネルTVをコントロールできるリモコンを操作しながら、グリュックスブルク財団総帥レオナ・マルグレーテ・リュクスボーは回答に質問で返す。「さあ?事故と報告が入ってますが。」ビールを手にリュクスボーの質問に答えるのはアメリカ軍第一特殊部隊派遣分遣隊、通称「デルタフォース」を退役しグリュックスブルク財団の運営するPMF組織「ダークフォース」に籍を置くサミュエル・イーノス、通称サム・イーノスという男だ。「西園寺ん所のはづみちゃんは洋上にいるよね?」椅子の肘掛に左肘をつき頬杖を付いてだるそうに呟くレオナ、「俺もDDGに乗り込むところを確認してる。」サムはビールを煽り、自前の違法軍用無線機のチューニングをし、米軍無線の会話を傍受しながら答えた。「おっ?なんだろう?ピーキー・・・なんて言ってるんだろう?事故暗号だな、C02・・・で対処・・・?」公式に入る連絡網とは別に傍受する無線の会話内容を聞き取ろうとしているサムは、聞こえた単語の中で有用そうなものを片っ端から口に出す。するとレオナは気が付いたように、頬に添えていた手を額に置き直しニヤリと微笑む。「12人目か・・・・機長に羽田に戻るように言って。」サムは無言でフランクな仕草の敬礼をすると、自家用とは言いがたいバートルータン製の特注ジャンボジェットの機首に向かって歩みを進めた。それを見送りつつ、レオナはスマートフォンに手を伸ばし短縮で電話をかける。「臨海にあるジャパンWITO第2基地の幕僚長官に繋いで、現場に立ち入りするって言っておいて」と伝言をするかのように通話先に短く言う。その通話を切ると再び別の短縮をコール「キャスリン・ミラー秘書官?長官に伝言をお願い。今夜の長官の祝賀会には出席できそうにないって言っておいて。」そう告げて通話を切った。機体の高度が徐々に下がっていくのを体で感じながらレオナは笑みを浮かべた。
ファーストアローへ続く
説明 | ||
小説というか、絵を描いているのでそれ用の覚書みたいなものです。 良く忘れるのでシナリオっぽいものを書いてみました。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
491 | 490 | 1 |
タグ | ||
シナリオ 兵器 ミリタリー | ||
ざわ姐さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |