ISとエンジェロイド |
第一五話 銀の福音とセカンド・シフト
時刻は十一時半。砂浜で俺と一夏、箒が僅かな距離を置いて並んで立っている。
エンジェロイドは最終防衛ラインとして待機してもらった。
「来い、白式」
「行くそ、紅椿」
「キュリオス、作戦行動に移る」
全身が光に包まれ、ISアーマーが構成される。
「じゃあ、箒。宜しく頼む」
「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」
作戦の性質上、俺では変形後しか最高速度が出せないので、一夏の移動手段は箒になっている。
『織斑、山下、篠ノ之、聞こえるか?』
ISのオープン・チャネルから織斑先生の声が聞こえる。
『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』
「了解」
「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすれば宜しいですか?」
『そうだな。だが、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない』
「わかりました。出来る範囲で支援をします」
箒の落ち着いた返事のようだが口調は弾み、浮ついた印象を受けた。
それから少しの間、声が聞こえなくなったが、再びオープンになって号令をかけた。
『では、始め!』
――作戦、開始。
箒は一夏を背に乗せたまま、一気に上空三百メートルまで飛翔し、俺は巡航形態に変形して機体後部にテールブースターを展開して後を追う。
箒は紅椿を加速させると、俺もGNバーニアに蓄えているGN粒子を一気に開放して紅椿と並行する。
「見えたぞ、一夏!」
「!!」
『((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))』はその名の通り全身が銀色で、頭部から生えた一対の巨大な翼がある。
「加速するぞ! 目標に接触するのは十秒後だ。一夏、集中しろ!」
「ああ!」
「先制攻撃を開始する」
機体上部にあるGNキャノンでビームを撃つが、福音は回避する。だが、気を逸らせることに成功した。
「うおおおおっ!」
一夏が零落白夜を発動。それと同時に瞬時加速を行って間合いを詰めた。
光の刃が福音に触れる瞬間、最高速度のまま反転して後退の姿となって身構えた。
「敵機確認。迎撃モードへ移行。《((銀の鐘|シルバー・ベル))》、稼動開始」
「!?」
オープン・チャネルから聞こえたのは抑揚のない機械音声だった。
福音が体を一回転させ、零落白夜の刃を避ける。
「航! 箒! 援護を頼む!」
「了解した」
「任せろ!」
俺はテールブースターを収納して人型に変形、キュリオスからデュナメスに変更する。
脚部のホルスターからGNビームピストルを取り出し、予想回避先にビームを撃つ。そこに一夏が再度斬りかかる。
しかし、どれも紙一重の回避をされる。それはまるで泳いでいるような、踊っているような動きだ。
それに翻弄された一夏は、大振りの一太刀を振るう。その隙を福音は見逃さなかった。
「!!」
銀色の翼を広げるように開く。
一斉に開いた砲口に対して、GNミサイルとGNビームピストルからビームを連射する。
福音の弾丸をある程度相殺したが、相殺出来なかった弾丸は一夏に命中した。
「三方向から攻めるぞ。一夏は右、箒は左だ」
「おう!」
「了解した!」
GNビームピストルをホルスターに収め、腰部からGNビームサーベルを二本取り出す。
俺達は複雑な回避運動を行いながらも連射の手を休めない福音へと、三面攻撃を仕掛ける。
――けれど、俺達の攻撃は掠りもしない。福音は、回避と同時に反撃もしてくる。
「一夏! 航! 私が動きを止める!!」
「わかった!」
「ああ」
言うなり、箒は突撃と斬撃を交互に繰り出す。
更に箒は紅椿の機動力と展開装甲による自在の方向転換、急加速を使って福音との間合いを詰めていく。この猛攻には、流石の福音も防御を使い始めた。
GNビームサーベルを収納して、再びホルスターからGNビームピストルを手にすると、福音の前面反撃が待っていた。
「La………♪」
甲高いマシンボイス。その刹那、ウイングスラスターはその砲門全てを開いた。全方位に向けての一斉射撃。
「やるなっ……! だが、押し切る!!」
箒が光弾の雨を紙一重でかわし、迫撃をする。――隙が、出来た。
「!」
何故か一夏は福音とは真逆の、直下海面へと全速力で向かっていた。
「一夏!?」
「うおおおっ!!」
瞬時加速と零落白夜を行い、一発の光弾に追いついた一夏はそれを掻き消した。
「何をしている!? 折角のチャンスに――」
「船が居るんだ! 海上は先生達が封鎖した筈なのに――ああくそっ、密漁船か!」
一夏の零落白夜が消えた。即ち、一撃必殺の作戦は失敗に終わった。
「馬鹿者! 犯罪者などを庇って……。そんな奴等は――!」
「箒!!」
「ッ――!?」
「箒、そんな――そんな寂しいことは言うな。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。全然らしくないぜ」
「わ、私、は……」
明らかな動揺を顔に浮かべ、それを隠すかのように手で覆う。その時に落とした刀は空中で光の粒子へと消えた。
「箒ぃぃぃっ!!」
一夏は刀を捨てて一直線に箒へと向かった。
視線の先では福音が再び一斉射撃モードへと入っていた。しかも、今度は箒に照準を絞っている。
俺が出来ることは、一発でも多くの光弾を撃ち落とすことだけだ。
一夏と箒の方に横移動しながら、GNミサイルとGNビームピストルでビームを撃つ。
「ぐああああっ!!」
次の瞬間に一夏が福音と箒の間に割って入り、庇うように抱きしめた瞬間、相殺出来なかった光弾が一斉に背中に降り注いだ。
「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」
「ぅ……ぁ………」
一夏と箒が海に落下した。2人を抱えながらの撤退は危険だな。福音が追撃をしてくるか不明だし、撒くことは難しそうだ。
ならば、することは一つ。ここから少しでも福音を引き離すことだな。
中〜遠距離だと手数が足りないので、デュナメスからエクシアに変更、TRANS-AMを起動させる。
両肩後部からGNビームサーベルを取り出して接近する。
迫り来る光弾はGNビームサーベルで切り裂き、刺突と斬撃を交えながら迫撃。
福音が再び防御を使い始めてから約一〇分。ここでTRANS-AMが切れてしまった。
GN粒子の再チャージまで時間がかかる。その間、性能は格段に下がっている状態ではまともに立ち向かえそうにない。
GNビームサーベルを投擲して両腰にあるGNブレイドを手にする。防御しやすいように、右手のGNショートブレイドは逆手で持つ。
投擲したGNビームサーベルは福音の光弾に撃ち落とされた。残りの光弾にはGNシールドとGNソードのバックラー部分を正面に構えた。
凄まじい衝撃が襲って来るが、なんとか耐え切った。GNブレイドは破損して刀身が折れてしまったけど。
GNブレイドを収納してGNソード・Sの切っ先を福音に向けて突撃する。
突撃は回避され、振り向いた時には一斉射撃モードに移っていた。全身に光弾を浴びながら、俺は海に墜落して気を失った。
「……………」
旅館の一室。壁の時計は四時前を指している。
ベッドで横たわる一夏は、もう三時間以上も目覚めないままだった。航は行方不明になっており、現在も教師によって捜索されている。
『作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば召集する。それまで各自現状待機しろ』
海から引き上げられ、旅館に戻った箒を待っていたのはその言葉だった。千冬は一夏の手当を指示して、すぐに作戦室に向かう。箒は、責められないことが辛かった。
「あー、あー、わかりやすいわねぇ」
突然ドアが開き、遠慮無く入ってきたのは鈴だった。
「………………」
「あのさあ。一夏がこうなったのって、あんたのせいなんでしょ?」
ISの操縦者絶対防御、その致命領域対応によって一夏は昏睡状態になっている。
「………………」
「で、落ち込んでますってポーズ? ――っざけんじゃないわよ!」
突然烈火の如く怒りを露にした鈴は、項垂れたままだった箒の胸倉を掴んで無理矢理に立たせる。
「やるべきことがあるでしょうが! 今! 戦わなくて、どうすんのよ!」
「わ、私……は、もうISは……使わない……」
「ッ――!!」
バシンッ!!
頬を打たれ、支えを失った箒は床に倒れる。そんな箒を再度鈴は締め上げるように振り向かせた。
「甘ったれてんじゃないわよ……。専用機持ちっつーのはね、そんな我儘が許されるような立場じゃないのよ。それともアンタは――」
鈴の瞳が、箒の瞳を直視する。
「戦うべきに戦えない、臆病者か」
その言葉で、箒の闘志に火がついた。
「どうしろと言うんだ! もう敵の居所もわからない! 戦えるなら、私だって戦う!」
自分の意志で立ち上がった箒を見て、鈴は溜息をついた。
「やっとやる気になったわね。……あーあ、めんどくさかった」
「な、なに?」
「場所ならわかるわ。今ラウラが――」
言葉の途中でちょうどドアが開く。そこに立っていたのは、軍服に身を包んだラウラだった。
「出たぞ。ここから三〇キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は持ってないようだ。衛星による目視で発見したぞ」
ブック端末を片手に部屋の中に入ってくるラウラを、鈴はにやりとした顔で迎える。
「流石ドイツ軍特殊部隊。やるわね」
「ふん……。お前の方はどうなんだ。準備は出来ているのか」
「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済みよ。シャルロットとセシリアの方こそどうなのよ」
「ああ、それなら――」
ラウラがドアの方へ視線をやる。そして、それはすぐに開かれた。
「たった今完了しましたわ」
「準備オッケーだよ。いつでもいける」
専用機持ちが全員揃うと、それぞれが箒へと視線を向けた。
「で、あんたはどうするの?」
「私は――戦う……戦って、勝つ! 今度こそ、負けはしない!」
「決まりね」
腕を組み、鈴は不敵に笑う。
「じゃあ、作戦会議よ。今度こそ確実に墜とすわ」
「ああ!」
俺は福音との交戦で敗れ、墜落して岩礁に流されて打ち上げられていた。
今の状態を確認すると、頭部と左肩から先の装甲がない。武器は腰背部のGNビームダガー二本と右手首のGNバルカン、中破したGNソードだけだった。
次にGN粒子残量と現在位置、討伐対象の現在地を調べる。福音とはそんなに離れてないが、GN粒子の残量を見て心許ない。
ヴァーチェだと高速戦闘に合わないからキュリオスで向かうとすると、『最重要項目』と表示されたログが出現している。視線でログを見ると詳細が表示されたから読んでみる。
――経験値が一定量を超えました。これより『第二形態移行』します――
読み終えると、淡い緑色が俺を包みこんだ。
「…………………」
海上二〇〇メートル。そこで静止していた『銀の福音』は、まるで胎児のような格好で蹲っており、膝を抱くように丸めた体を守るように東部から伸びた翼が包む。
――?
不意に、福音が顔を上げる。
次の瞬間、超音速で飛来した砲弾が頭部を直撃、大爆発を起こした。
「初弾命中。続けて砲撃を行う!」
五キロ離れた場所に浮かんでいるIS『シュヴァルツェア・レーゲン』とラウラは、福音が反撃に移るよりも早く次弾を発射した。
姿は通常装備と異なり、八〇口径レールカノン《ブリッツ》を二門左右それぞれの肩に装備、遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして、四枚の物理シールドを左右と正面に展開されている。
これが、砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲンであった。
(敵機接近まで……四〇〇〇……三〇〇〇――くっ! 予想よりも速い!)
あっという間に距離が一〇〇〇メートルを切り、福音がラウラへと迫る。
「ちぃっ!」
砲戦仕様はその反動相殺の為に機動との両立が難しいのに対して、機動力に特化した福音は三〇〇メートル地点から急加速を行い、ラウラへと右手を伸ばす。
避けられないが、ラウラは口元を歪めた。
「――セシリア!!」
伸ばした腕が突然上空から垂直に降りてきた機体によって弾かれる。
青一色の機体――ブルー・ティアーズによるステルスモードからの強襲だった。
六機のビットはスカート状の腰部に接続、砲口は塞がれてスラスターとして用いられている。
手にしている大型BTレーザーライフル《スターダスト・シューター》は全長が二メートル以上あり、ビットを機動力に回している分の火力を補っていた。
強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備しているセシリアは、時速五〇〇キロを超える速度下での反応を補う為、バイザー状の超高感度ハイパーセンサー《ブリリアント・クリアランス》を頭部に装着している。
『敵機Bを認識。排除行動へと移る』
「遅いよ」
セシリアの射撃を避ける福音を、真後ろから別の機体が襲う。
それは先刻の突撃時にセシリアの背中に乗っていた、ステルスモードのシャルロットだった。
ショットガン二丁による近接射撃を背中に浴び、福音は姿勢を崩したがそれも一瞬のことで、すぐさま三機目の敵機に対して《銀の鐘》による反撃を開始した。
「おっと。悪いけど、この『ガーデン・カーテン』は、そのくらいじゃ落ちないよ」
リヴァイヴ専用パッケージは、実体シールドとエネルギーシールドの両方によって福音の弾雨を防ぐ。
防御の間もシャルロットは得意の『高速切替』によってアサルトカノンを呼び出し、タイミングを計って反撃を開始する。
加えて、高速機動射撃を行うセシリアと、距離を置いての砲撃を再開するラウラ。三方からの射撃に、福音はじわじわと消耗を始める。
『……優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先に』
全方向にエネルギー弾を放った福音は、次の瞬間に全スラスターを開いて強行突破を計る。
「させるかぁっ!!」
海面が膨れ上がり、爆ぜる。
飛び出してきたのは真紅の機体『紅椿』と、その背中に乗った『甲龍』であった。
「離脱する前に叩き落とす!」
福音へと突撃する紅椿。その背中から飛び降りた鈴は、機能増設パッケージ『崩山』を戦闘状態に移行させる。
両肩の衝撃砲が開くのに合わせて、増設された二つの砲口が姿を現し、計四門の衝撃砲が一斉に火を噴いた。
『!!』
肉薄していた紅椿が瞬時に離脱し、その後ろから衝撃砲による赤い炎を纏った弾丸が一斉に降り注ぐ。
「やりましたの!?」
「――まだよ!」
拡散衝撃砲の直撃を受けてなお、福音はその機能を停止させてはいなかった。
『《銀の鐘》最大稼動――開始』
両腕を左右いっぱいに広げ、更に翼も自身から見て外側へと向け、エネルギー弾の一斉射撃が始まった。
「くっ!!」
「箒! 僕の後ろに!」
前回の失敗をふまえて、箒の紅椿は機能限定状態にある。そう設定し直したのは、防御をシャルロットに任せて集団戦闘の利点を生かした役割分担であった。
「それにしても……これはちょっと、きついね」
防御専用パッケージであっても、福音の異常な連射を立て続けに受けることは危うかった。
そうこうしている間にも物理シールドが一枚、完全に破壊される。
「ラウラ! セシリア! お願い!」
「言われずとも!」
「お任せになって!」
後退するシャルロットと入れ替わりにラウラとセシリアがそれぞれ左右から射撃を始める。
「足が止まればこっちのもんよ!」
直下からの鈴の突撃。双天牙月による斬撃のあと、至近距離からの拡散衝撃砲を浴びせる。――狙いは、頭部に接続されたマルチスラスター《銀の鐘》。
「もらったあああっ!!」
エネルギー弾を全身に浴びながら、鈴の斬撃は止まらず、拡散衝撃砲の弾雨を降らせ、互いに深いダメージを受けながら、ついにその斬撃が福音の片翼を奪った。
「はっ、はっ……! どうよ――ぐっ!?」
片翼だけの翼になりながらも、福音は一度崩した姿勢をすぐに立て直し、鈴の左腕へと脚部スラスターで加速させた回し蹴りを叩き込み、一撃で腕部アーマーを破壊し、海へと墜とす。
「鈴! おのれっ――!!」
箒は両手に刀を持ち、福音へ斬りかかる。
急加速に一瞬反応を失った福音の右肩に刃が食い込むが、左右両方の刃を手のひらで握りしめる。
「なっ!?」
刀身から放出されるエネルギーに装甲が焼き切れるが、お構いなしに福音は両腕を最大まで広げる。
刀に引っ張られ、箒が両手を広げた無防備な状態を晒し、そこに残ったもう一つの翼が砲口を開放して待っていた。
「箒! 武器を捨てて緊急回避をしろ!」
しかし、箒は武器を手放さない。
エネルギー弾がチャージされ、一斉に放たれた。
(……ここで引いて、何の為の……何の為の力かっ!!)
エネルギー弾が触れる寸前に、紅椿は一回転をする。その瞬間、爪先の展開装甲が箒の意志に応えるように開き、エネルギー刃を発生させる。
「たあああああっ!!」
踵落としのような格好で、エネルギー刃の斬撃が決まり、両方の翼を失った福音は、崩れるように海面へと墜ちていった。
「はっ、はぁっ、はぁっ……!」
「無事か!?」
「私は……大丈夫だ。それより福音は――」
突然、海面が強烈な光の珠によって吹き飛んだ。
「!?」
球状に蒸発した海は、まるでそこだけ時間が止まっているように凹んだままだった。その中心、青い雷を纏った『銀の福音』が自らを抱くかのように蹲っている。
「これは……!? 一体、何が起きているんだ……?」
「!? 不味い!これは――『第二形態移行』だ!」
ラウラが叫んだ瞬間、その声に反応したかのように福音が顔を向ける。
無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れないが、確かな敵意を感じて、各ISは操縦者へと警鐘を鳴らす。
しかし――遅かった。
『キアアアアアアア……!!』
まるで獣の咆哮のような声を発し、福音はラウラへと飛びかかる。
「何っ!?」
あまりに速いその動きに反応できず、ラウラは足を掴まれる。
そして、切断された頭部からゆっくりと、エネルギーの翼が生えた。
「ラウラを離せぇっ!」
シャルロットは武装を切り替えて近接ブレードによる突撃を行うが、その刃は空いた方の手で受け止められてしまった。
「よせ! 逃げろ! こいつは――」
その言葉は最後まで続かず、ラウラは眩いほどの輝きと美しさを併せ持ったエネルギーの翼に抱かれそうになるが、どこからか二つのビームが福音に命中し、ラウラは開放された。
全員がビームが飛んできた方を向くと、一機の青と白で構成されたISがやってきた。
特徴的なのは、見覚えがあったスラスターは両肩に存在し、右腕に取り回しの悪い武器がなくなっている。
「ダブルオー、目標を駆逐する!」
そう言って航は福音に突撃する。両手にあるGNソードU・Sで突きと斬撃を交互に繰り出す。
そこに急加速によって接近した箒が、続けざまに斬撃を放ち続ける。
箒は展開装甲を局所的に用いたアクロバットで敵機の攻撃を回避、同時に不安定な格好からの斬撃をブーストによって加速させ、航は両肩のGNドライヴを小刻みに向きを変え迫撃する。
「うおおおおっ!!」
「はああああっ!」
三機による回避と攻撃を繰り返しながらの格闘戦にシャルロット、セシリア、ラウラが介入する余地がない。徐々に出力を上げていく紅椿とダブルオーガンダムに、僅かに
福音が押され始める。
(いける! これならっ――)
箒は必殺の確信を持って、雨月の打突を放つ。しかし――
キュゥゥゥン……。
「なっ! また、エネルギー切れだと!? ――ぐあっ!」
その隙を見逃さず、福音の右腕が箒の首を捕まえる。箒が捕まったので、航は迂闊に攻撃できず手を止める。
そして、ゆっくりと翼が箒を包み込んでいった。
(すまない、一夏……!)
「ぐっ、うっ……!」
ぎりぎりと締め上げられ、圧迫された喉から苦しげな声が漏れる。
福音の手は硬く箒の首を掴んで離さず、更にはエネルギー状へと進化した『銀の鐘』が紅椿の全身を包んでいた。
箒を盾にされる可能性がある為、四人は攻撃ができないでいた。
「いち、か……」
箒は知らず知らず、その口からは一夏の名前を呼ぶ声が出ていた。
「一夏……」
更に輝きを増す翼に、箒は覚悟を決めて瞼を閉じる。
ィィィィンッ……!!
『!?』
突然、福音は箒を掴んでいた手を離す。
いきなりの出来事に混乱している箒が、瞳を開けた時に見たのは強烈な荷電粒子砲による狙撃を吹き飛ぶ福音にビームが迫ってる姿だった。
戸惑う箒の耳に届いたのは、さっきからずっと願い思って止まない声だった。
「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」
箒の視線の先には、白く、輝きを放つ機体がある。
「あ……あ、あっ……」
目尻に涙が浮かび、僅かに潤んだ視界に見えるのは、白式第二形態・雪羅を纏った一夏だった。
「一夏っ、一夏なのだな!? 体は、傷はっ……!」
一夏は、慌てて声を詰まらせる箒の元へ飛んで答える。
「おう。待たせたな」
「よかっ……よかった……本当に……」
「なんだよ、泣いてるのか?」
「な、泣いてなどいないっ!」
目元を拭う箒に、一夏は優しく頭を撫でる。……全く、今は戦闘中なのに。
「心配かけたな。もう大丈夫だ」
「し、心配してなどっ……」
「ちょうどよかったかもな。これ、やるよ」
「え……?」
一夏は持ってきたものを箒に渡す。
「り、リボン……?」
「誕生日、おめでとうな」
「あっ……」
「それ、折角だし使えよ」
「あ、ああ……」
「おい、いつまで話ししている。戦闘中だぞ」
「悪い。今行く」
言うなり、一夏は福音と正面からぶつかった。
「再戦と行くか!」
《雪片弐型》を右手だけで構え、斬りかかる一夏。
それを仰け反ってかわした福音を、俺が両手のGNソードU・Sで追撃する。
「逃がさねえ!」
一夏の左手の指先からエネルギー刃のクローが出現し、福音の装甲を斬る。
『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』
エネルギー翼を大きく広げ、胴体から生えた翼を伸ばす。そして次の回避後、福音の掃射反撃が始まった。
「そう何度も食らうかよ!」
「無駄だ。GNフィールド!」
一夏は左手を構えて、左腕から変形した。光の膜が広がって、福音の弾雨を消していく。
俺は両肩のGNドライヴを前方に向け、GNフィールドを展開して凌ぐ。
『状況変化。最大攻撃力を使用する』
福音の機械音声が告げると、翼を自身へと巻き付け始める。それは球状になって、エネルギーの繭に包まれた状態へと変わった。
翼が回転しながら一斉に開き、全方位に対してエネルギーの弾雨を降らせる。
一夏は仲間の盾になろうとするが、それを怒鳴り声に蹴飛ばされた。
「何やってんのよ! あたし達は腐っても代表候補生よ? 余計な心配してないで、さっさと片付けちゃいなさいよ!!」
「鈴……わかった!」
俺と一夏は再度福音に向かって行く。
「ぜらあああっ!!」
零落白夜の光刃がエネルギー翼を断つが、両方の翼を斬るのは無理みたいで、福音に二撃目を回避される。そうしている間に失った翼は再構築され、連続射撃を行う。
「くっ!」
「下がれ、一夏!」
俺はGNフィールドを展開して、一夏の前で攻撃を防ぐ。
ダブルオーのツインドライヴが不安定だけどワンオフで一気に決めるしかないか……。
「一夏!」
「箒!? お前、ダメージは――」
「大丈夫だ! それよりも、これを受け取れ!」
紅椿の手が、白式に触れる。
「な、なんだ……? エネルギーが――回復!? 箒、これは――」
「今は考えるな! 航も受け取れ!」
「悪いけど必要ない。いい加減、終わらせるぞ!」
「おう!」
一夏は雪片弐型を最大出力まで高める。
「うおおおっ!」
福音は一夏の横薙ぎを縦軸一回転して回避、一夏を再び視界に捉えると同時に光の翼を向ける。
「航! 箒!」
「ああ! TRANS-AM!!」
「任せろ!」
TRANS-AMを起動してダブルオーが赤く輝く。
一夏に向けられた翼を、紅椿の二刀の斬撃で断ち切り、ダブルオーのGNソードU・Bでもう片方の翼を斬り落とす。
最後の一突きを繰り出そうとする一夏に、福音は体から生えた翼全てで一斉射撃を行う。
それを俺が見過ごす訳がなく、福音の体から生えた翼を全て切り裂いてGNソードUをハードポイントに戻して拘束すると、一夏は福音の胴体へと零落白夜の刃を突き立てた
。
福音は抵抗出来ずに機能を停止した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「疲れたー。……あっ!?」
GNドライヴがオーバーロードを起こしてTRANS-AMを強制終了、福音の操縦者を抱えたまま俺は海へ落下していく。
「航さん!?」
「大丈夫だよ」
「私とシャルロットが間に合ったからな」
セシリアが海面へと落下する俺に驚き、海面ギリギリでシャルとラウラにキャッチされた。
「終わったな」
「ああ……やっと、な」
一夏と箒は肩を並べて、空を見る。青かった空は既に、赤くなっていた。
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