真・恋姫無双 〜乱世に吹く疾風 平和の切り札〜第5話 襲撃のM/変身、W!
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『え、あれ?なんで一刀さんの声が直ぐ近くから聞こえるの?近くに何処にもいないのに………お〜〜い、一刀さぁ~ん!』

「おい、劉備さん…」

『あれ、やっぱり隣から声が聞こえる…でも隣にはだーれもいないし……う〜ん……』

「………」

 

――相棒の選択、間違えたかもなぁ。

 

変身してから数十秒後に抱いた、一刀の感想がコレである。

 

 

 

時を少し遡る事、先程の火山弾が二人に向かって直撃しようとしていた時より前。

 

『自分の力で、自分で力を振るって沢山の人を助ける覚悟……あるか?』

 

劉備は最初、一刀が何を言いたかったのかよく分からなかった。

横からは火の玉が迫ってきているという絶体絶命の中、彼は冷静な口調でそう問いかけて来たのだから。

だが、一刀の眼を見て劉備の心の何かが動かされた。

 

劉備に向けられた一刀の瞳は、真っ直ぐで濁りの無い、真剣な眼差しそのものであった。

 

その眼が、劉備の決意を後押ししたのだろう。

劉備は一刀の出した問いに応えるかのように、一刀から3色のガイアメモリを受け取った。

 

劉備がメモリを受け取ったことを確認した一刀は劉備の腰にWドライバーを一度巻いて、ドライバーに劉備という人物を『認識させた』。

そしてすかさず自分の腰にWドライバーを巻き直しつつ、ジョーカーメモリを手に持ち直す。

 

一刀がWドライバーを腰に巻いた瞬間、劉備の腰にも一刀のそれと全く同じものがどこからともなく出現した。

もちろん、突拍子もない出来事だったため劉備は自分の腰を見て慌てふためく。

 

しかし一刀は危機的状況のため、そんな彼女の反応はスルー。

劉備の腰にWドライバーが現れた瞬間、一刀は劉備の手をとって彼女に緑色のガイアメモリ――サイクロンメモリを持たせ、ボタンを押す。

 

≪Cyclone(サイクロン)!≫

 

そして、彼女のベルトのバックルにメモリが差し込まれた。

バックルにサイクロンメモリが差し込まれた瞬間、劉備はマリオネット人形の糸が突然切れたかのように意識を失い、そのまま吸い込まれるように地面へ倒れ込む。

 

すかさず一刀は気を失った劉備を片手で支え、自分の手にあるジョーカーメモリのボタンを押す。

 

≪Joker(ジョーカー)!≫

 

「変身!」

 

先ほど同様、今度は自分のベルトのバックルへ。

 

その瞬間、一刀の身体を中心に強烈な風が吹き上がり、迫りくる火山弾の軌道をずらした。

火山弾は的外れな方向へと軌道を変えて直進。

そのまま何も無い地面へと着弾し、爆発を起こしていった。

 

 

 

 

 

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これが、先ほど起こった出来事である。

 

 

そんな嵐のように進んでいく展開に頭が付いて回らなかった劉備はご覧の有様、抜け殻になった自分の肉体と今の自分の身体をあたふた見比べたり、近くにいるのにどこに姿がない一刀を探してオロオロしたりと、パニック状態。

まぁ、こうなったのも説明不足な一刀と常識外れ過ぎるメモリの力の所為だろうが。

 

「とりあえず劉備さん、現状について色々と説明したいから一旦落ち着いてくれないか?」

『一刀さん?ねえ、ホントに一体どこにいるの?』

「だからそれも説明するってば。とりあえず、劉備さんは今の身体が自分のじゃないってこと、気付いてる?」

「ん〜?………………あ、ホントだ!」

 

そう言われて劉備はようやく自分の身体が変わっている事に気付いた。

ちょっと遅い気もするが、非現実的な体験を味わった反動という事にしておこう。

 

「それで続きだが…さっき俺が劉備さんにベルトをつけたよな?」

「え……『べると』?」

「腰に巻いた奴の事」

「う〜んと……そう言えばそんなの付けてたような……でもすぐに外してなかった?」

「ああ、あれは劉備さんが俺の相棒だという事をあのベルトに認識させるためにつけたからな」

「?」

「で、その後俺がベルトをつけた時、劉備さんの腰にいきなりベルトが出て来た筈だけど」

「………あ、出てた出てた!なんかいきなりホワ〜って出て来たよ!」

「ああ、あれで劉備さんもこの前山賊が襲ってきた時、俺がやったみたいに変身したんだ」

「……でも私の身体、そこに倒れてるよ……ホントにどうなってるの?これ」

 

そう言って劉備は、後ろで倒れている自分の身体を指差す。

 

「これはどう説明したらいいだろうな……そうだな……劉備さんの精神が俺の身体に宿ったって言ったところか」

「せい…しん?」

「あ、この時代って精神とかの概念がはっきりしてないのか、う〜ん………まぁその辺りの話はまた今度するとして、この状態の時は劉備さんの意識は俺の身体にってことで納得して」

「えっと……う、うん?」

「いや、そこで語尾を疑問形にされても」

 

説明する身としても、この時代の人間には最近の造語や英語などは全くと言っていいほど通じないので言葉選びにも気をつけなければならない。

ぶっちゃけると、どう説明すればいいのか一刀自身も分からないので面倒だという事なのだが。

加えて今はあまりゆっくりしていられる事態でもないため、強引に劉備を納得させてこの話題は一時中断とした一刀である。

 

案の定、劉備は話の内容の半分も理解できているか微妙な所だが。

 

 

 

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『おいてめえら……余程オレの事を馬鹿にしたいみてえだなぁ…!』

 

そして、マグマ・ドーパントの怒りのボルテージも現在進行形で上昇しているわけで。

確かに劉備が来た辺りから、扱いが空気のようになっている。

別にドーパントの方に非があるわけでもないのに、なぜこんなことになったのだろうか。

 

それはともかく、マグマ・ドーパントは既に戦う姿勢を一刀たちに向けている。

 

「いや、こっちとしても色々突然の事態だったから別にアンタの事を馬鹿にした訳じゃないんだが…」

『知るか!』

 

どうやら一刀の言い分は却下らしい。

かと言って説得力のある言い訳を用意していたわけは無いので、どのみちこのような展開になっていたかもしれない。

 

マグマ・ドーパントは先ほどから散々馬鹿にされている事にご立腹で、その鬱憤を晴らすかのように、今度は高熱の火炎を放射状にして一刀たちに放つ。

ボゥ、と激しい勢いを見せる火炎は水流の様な滑らかさで一刀たちに向かっていく。

 

「ふっ、そんな攻撃今の俺たちには通用しな――」

『あ、危なぁーい!』

「いよおおぅ!?」

 

正面から迫りくる火炎。

しかしその軌道は直線的で速度も驚くほどではない、避けるのが容易いくらいだ。

 

向かってくる炎に対し余裕なそぶりを見せる一刀はその火炎放射を華麗に躱そうとした。

が、その時、劉備の慌ただしい声が聞こえたと同時に、自分の身体があらぬ方向へ引っ張られる感覚を受けた。

何とも間抜けな声を上げつつ、一刀の身体は地面へすっ転ぶ羽目になってしまった。

 

だが火炎は仰向けに倒れた一刀の真上を通過したため、結果的に炎を避けることが出来たが。

 

「いてて……おい劉備さん!なんで勝手に動いたんだよ!」

『うぇ!?だ、だって火がこっちに来て危なかったから……』

「この状態だと互いが好き勝手に動いちゃダメなんだよ!二人の息をうまい具合に合わせて動かないと身体がちゃんと機能しなくなるんだ!」

『そ、そんなこと言われても……って、うわ!また来たよー!』

「うぉん!?いやだから勝手に動かすなってーー!」

 

肝心な説明をしようとした途端、マグマ・ドーパントの攻撃が再び一刀たちに襲い掛かってくる。

 

『はははは!!随分と情けねえ姿晒してるじゃねえか!これならさっきの黒い奴の方がマシだったぜ!』

 

先程からぎこちない動きばかり見せてくる一刀たちの姿を嘲笑しながら、マグマ・ドーパントは、火炎に加えて更に火炎弾も交えて攻撃し始めてくる。

 

 

 

一刀が言ったように今の二人の状態…仮面ライダーWは、互いの息を合わせることが重要となる。

勿論、お互いが全く同じタイミングで全く同じ動きをしろという無理ゲー同然のことはしなくていい。

今のWは、ベースとなる肉体部分が北郷一刀となっており、その体に劉備の精神が入っている状態。

この場合一刀が基本的に自身の身体を動かし、劉備はここぞという時に一刀の肉体を後押しするかのように助長する。

 

これが、本来の仮面ライダーWの理想的な扱い方だ。

 

「また来るぞ!今度は右に避けるぞ!」

『う、うん。分かった!』

「よし……って、そっちは左だぁぁぁ!」

『うわわわ、ごめんなさい!なんか焦っちゃって…』

 

だが、今の二人の動きはまるで噛み合っておらず、ヘンテコな動きばかり見せている。

右へ身体を動かそうとしたら急に左側へ体を寄せ、そのまま横転したり。

火炎弾を蹴り壊そうとしたら拳も一緒に出してバランスを崩して転んだり。

取り敢えず言えることは、とにかくカッコ悪いということだ。

 

「(くそ、なんとか息を合わせたいところだが……まだ劉備さんが落ち着けてないからなぁ……)」

 

歯痒そうに左の拳を握りしめる一刀。

 

本来劉備は戦は勿論のことだが、こういった奇怪な体験が似合わないほど平和に過ごしてきた、ただのか弱い女の子だ。

一刀を連れ戻しに来たと思えば突然こんなことに巻き込まれ、不思議な感覚に身を落とし、今でもまだ冷静でいられていない。

そんな彼女に『息を合わせろ』というのは無茶振り以外の何物でもない。

 

苦しい現状に一刀が頭を悩ませていると………

 

 

 

 

 

「ぐす……ひっく……お母さぁん……」

 

 

 

 

 

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戦いに没頭していた3人の耳に、消え入りそうなほどに弱弱しい涙声がスルリと届いた。

声の聞こえた方向へと、一刀(と劉備)とマグマ・ドーパントが振り向く。

 

3人の視線の先には、一刀たちよりも10歳くらいは歳が離れているだろう小さな女の子が

、大きく壊れた家屋の陰に座り込んで泣いていた。

黒い髪を中くらいの長さまで切り揃え、若草色の質素な服を着ており、服と紅潮した頬には軽く煤が付着している。

 

少女は幼い頃から共に過ごしてきたであろう母の名を呼んではいるが、近くに母親の影は無い。

怪物の襲撃による混乱ではぐれたのか、それとも……

 

『なんだ、まだ残ってる奴がいたのか……』

 

マグマ・ドーパントの眼が鋭くギラつく。

その眼はまるで、眼中に獲物の姿を捉えたかのように貪欲で野蛮な性質を宿していた。

 

『安心しな……今すぐ母親のトコに送ってやるからよ』

 

一刀たちに向けていた腕を少女の方に向ける。

そして火山弾を一発、少女に目掛けて放った。

 

「ひ……!」

 

人間の生存本能が働いたのだろうか。

泣きながら母を求めていた少女は自分に迫りくる気配を敏に察すると、その方に涙でくしゃくしゃになった顔を向け、小さな悲鳴を上げる。

 

迫りくる火山弾。

恐怖で金縛りにあったかのように体が止まった少女に、それを避けられる手段は一切無い。

 

罪の無い小さな命が、獣(けだもの)の手によって儚く失してしまうのか、と思われた瞬間……

 

 

 

 

 

その場に、疾風が駆け抜けた。

 

 

 

 

 

「させるかぁ!」『させない!』

 

 

 

一刀と劉備、二人の声がシンクロする。

否、声だけではない。

二人の意志も、肉体も、まるで一つのものであるかのように行動を起こした。

 

「おらぁ!!」

 

火山弾と少女の間に飛び込んだ一刀は、右足に竜巻のような風を纏わせ火山弾を蹴り砕いた。

火山弾は一刀の蹴りで豆腐のように脆く粉砕され、原型を残さず粉々に散っていった。

 

「ふぇ…?」

『い、今……あいつ一瞬であそこへ行きやがった…何しやがったんだ…!?』

 

一体何が起こったのか。

少女は突然現れた一刀たちと砕け散った火山弾を見て茫然とする。

少女を仕留められたと確信していたマグマ・ドーパントは突然の事態に頭が付いて回らず、困惑する。

 

しかし、劉備は理解できた。

自分の今の力…仮面ライダーWの扱い方を。

そして一刀もまた、劉備がそのコツを掴めた事を察することが出来た。

 

「劉備さん、なんとなく分かってきた?」

『…うん、なんとなく要領が見えてきたかも!』

「…なら良かった」

 

一刀はそれだけ言うと、踵を返して背後で座り込んでいる少女の方を向き、彼女と目線の高さがなるべく近くなるまで腰を落とす。

 

「怪我はしてないか?お嬢ちゃん」

「え、あ、うん……ありがとう…お兄ちゃん」

『あ、私はお姉ちゃんだよ〜!』

「え?…あれ?」

「話をややこしくしないでくれ劉備さん……まぁ、君が無事で良かったってこと」

 

そう言って一刀は左手で少女の頭を優しく撫でてあげる。

一刀は今の自分の手がライダースーツ仕様だったため、少女が嫌そうな反応を執るんじゃないかと若干不安だったが、そんな心配は杞憂に終わる。

 

「うん……♪」

 

一刀に頭を撫でられた少女は、先ほどまで抱いていた恐怖感が取れたかのように安堵の表情を浮かべ、肩に張っていた緊張感も大分抜けていた。

一刀たちが怖い人でない事を感じ取った少女は、一刀たちに向けて小さいながらも健気な笑顔を見せてくれた。

自分が無事だという証拠の笑顔だということなのだろう。

 

少女の笑顔を真正面から見て、一刀と劉備も安心感を持つ事が出来た。

 

「よし、あの怖い奴は俺たちがやっつけてくるから、お嬢ちゃんは此処から――」

「だ、だめ…!ここにお母さんが、いるから…」

『え、お母さん?………あっ、一刀さん!そこの屋根の下、人が倒れてるよ!』

 

劉備の指摘を受けて、一刀は彼女の言っている方向を注目する。

 

 

 

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崩れた家屋の屋根だった部分。

その下には、助けた少女と同質の黒い髪をした妙齢の女性が頭から一筋の血を流していて倒れていた。

 

それを確認した一刀は、血相を変えてその傍に駆け寄った。

見た所、頭部に軽傷があるくらいで他には目立った外傷は見当たらない。

家が崩れた際に何かが頭にぶつかり、そのショックで気を失ったのだろう。

 

「っ!大丈夫ですか、しっかりしてください!」

『お母さん!お母さん!しっかりして!』

「……っう……」

 

二人の大きめに張られた声が届いたのか、黒髪の女性はか細い呻き声をあげつつ、僅かに瞼を持ち上げる。

 

「…こ、ここは……それにこれは、一体…」

「お母さん!」

「…!香菜(かな)、香菜なのね…!…そう言えば、あの時得体の知れない妖(まやかし)が現れて……見つからない様に家に隠れてたら天井が崩れて……香菜、あなたは大丈夫!?」

 

意識がはっきりしていく度に鮮明に蘇っていく記憶。

少女――香菜の母親は我が子の安否を心配そうに確認する。

 

しかし、香菜はそんな心配は杞憂だと言わんばかりに笑顔を浮かべ、口を開く。

 

「うん、大丈夫。このお兄ちゃんお姉ちゃんが助けてくれたのっ」

「…………………えっと、あなたは…?」

 

その眼は、とても訝しげだった。

 

「あ、いや別に俺は怪しいものじゃなくてですね…」

『そ、そうそう!なんだか変な恰好してるけど、何も悪い事なんてしてませんよ!』

「変な恰好って言うな!後その言い方だと余計に怪しく思われるだろ!…あ、いや、そんな目で見ないで!俺たちはこれっぽっちも怪しくないですから!」

『…一刀さんだって、そんな言い訳したら誤解されちゃうよ?』

「え、うそ?」

 

今の一刀たちの身体は、ライダースーツを纏った一刀の肉体が一つあるだけの状態。

なのに、先程からもう一人が傍にいるかのように喋っているため、一刀たちの会話風景は非常に怪しいものがある。

 

『と、とにかく一刀さん!この人をここから助けて安全な場所に避難させないと!』

「あ、ああ、そうだな。とりあえず上の屋根を取っ払――」

 

取っ払おう、と言い切ろうとした時だった。

一刀は自身に接近してくるものの気配を感じ、言葉を一旦止めて自身の左腕を振るう。

 

 

 

一刀の左腕と衝突する、炎を宿した黒い豪腕。

 

先ほどまで遠距離攻撃に務めていたマグマ・ドーパントが一刀に肉薄し、その拳を振るってきたのだ。

 

『ふん、この俺と戦ってる最中に生き残りを助けるつもりとは随分と余裕だなあ』

『当然だよ!怪我してる人を放っておくなんて出来ないもん!』

『てめえ馬鹿か?自分の身もロクに守れねえ弱い奴なんざ勝手にくたばらせておきゃいいだろうが。恵まれねえ弱い奴はいつまでたっても弱いままだ、そんな奴を生かす価値なんてねえだろうよ』

「……そう言うアンタも、元々貧しい所で過ごした人間じゃないのか?だったら自分と同じ境遇に遭ってる人たちを助けようって思わないのか?」

 

戦う前のマグマ・ドーパントの言葉から推測していたが、この化け物は元々権力者から搾取され続けた貧しい民の一人。

苦しい日々を身を持って体験した目の前の男が、強大な力を得た今やっている事は、まさしく暴徒の所業。

 

自分さえよければそれでいい。

そんな意思を思わせるドーパントの言動に、一刀は自身の言葉に怒りが籠っている事が実感できた。

 

『ああ?これっぽっちも思わねえよ。オレはな、選ばれたんだよ!人間を凌駕する程の強大な力を与えられたオレは、天から気に入られたんだ!選ばれねえ連中のお世話なんてするわけねえだろ!』

「……そうか」

 

一刀はそれだけ言うと、もう片方の腕でWドライバーからジョーカーメモリを抜き取り、別のメモリを差し込んだ。

 

その色は、青色。

 

『銃撃手』の記憶を持つトリガーメモリだ。

 

≪Cyclone(サイクロン)!≫

≪Trigger(トリガー)!≫

 

 

 

 

 

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一刀の黒色の左半身が、瞬く間に青色に変貌する。

そしてドーパントの腕を防いでいない腕には、青色の銃が握られていた。

 

一刀は銃の照準を敵の胸部へと定め、引き金を引く。

 

「食らいな!」

「どゅふ!?」

 

銃口の先から放たれたのは、拳大の大きさを誇る風の塊。

高い密度を得た風弾はマグマ・ドーパントの胸の中央に直撃し、壁の様な胸板を強引に抉る。

 

その衝撃にマグマ・ドーパントは苦の声を挙げつつ、身体を後方へと下げられる。

 

「まだまだ、行くぜ」

 

追い打ちと言わんばかりに、同じ個所に向けて更に風の弾丸を撃つ一刀。

 

『ぐほぉっ!』

 

続けざまに風の弾丸を受けるマグマ・ドーパントはどんどん後方へと吹き飛ばされ、最後の一発では体を支えきれずに吹き飛ばされる。

 

「よし、この隙にこの人を助けるか」

『ねぇねぇ一刀さん、今の何だったの?なんか手に持ってた物からドシューン!って飛び出してきて、あの変な人が吹き飛んじゃって…』

「ああ、あれはトリガーメモリの力で……いや、今はゆっくり説明してる場合じゃないって」

 

劉備の食い入る様な疑問を受け流しつつ、一刀は香菜の母親の上に覆いかぶさる屋根を取り払い、誰もいない開いた箇所に放り投げる。

 

「うし、これで大丈夫だな…」

「香菜!」

「お母さん!」

 

自由となった身を早速動かし、娘の元に一目散に駆け寄る少女の母。

 

それと同様に、母が助かったことで憂いが無くなった香菜も母の元にトテトテと走り、母の胸に飛び込む。

 

「良かった……無事でよかった…香菜……」

「お母さん……お母さぁん…!」

 

互いのぬくもりを感じ、涙の混じった声を出す母と泣きじゃくる香菜。

 

『…良かったね、一刀さん』

 

その光景を見て、桃香は小さくそう呟いた。

 

彼女の言葉に肯定するように、一刀も小さく頷いた。

 

もしあのまま二人のどちらかを助けることが出来ていなかったらと思うと、二人はゾッとした。

今流している嬉し涙もきっと、悲しみに満ちた違う色となっていただろう。

死んだ者を助けることなどできない。

もし二人のどちらかが死んでしまえば、残されたものは生涯、悲しみに心をとらわれることとなっていたに違いない。

 

だからこそ劉備と一刀、二人は彼女たちの無事を喜び、笑うことが出来た。

 

 

 

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「さて……これ以上被害が増やさないためにも、そろそろ終わりにするか」

 

そう言うと一刀は先ほどのトリガーメモリを抜き取り、再びジョーカーメモリをWドライバーに挿し込んだ。

 

≪Cyclone(サイクロン)!≫

≪Joker(ジョーカー)!≫

 

再び緑と黒の色調になる一刀の身体。

 

Wドライバーからもう一度ジョーカーメモリを抜くと、一刀は劉備に向かって話しかける。

 

「なぁ、劉備さん」

『…?どうかしたの、一刀さん』

「戦う前、あいつは『あの女から聞いて最初は胡散臭い話だと思ってたが、こんなに美味い話だとは思わなかった』って言ってたんだ」

 

以前までの窮地を脱し有利な状況に立った今、一刀は戦う前にマグマ・ドーパントとの話の内容を思い返す。

 

あの時、マグマ・ドーパントは『変わった奴を見つけろ』と、誰かに依頼されていた。

そしてその話に乗っかり、今回の騒動を起こしたと考えられる。

ドーパントは、その人物が女性だったと漏言していた。

 

この情報から推測されることは一つ。

 

この騒動には黒幕が存在する。

一農民を扇動し、桃桑村を襲わせるように仕向けた本当の敵が。

恐らく、それが貂蝉の言っていた【管理放棄者(イレギュラー)】なのだ。

 

その推測が経ったとき、一刀は此処がまぎれも無く【管理放棄者(イレギュラー)】が身を潜めている、ガイアメモリの存在する三国志の世界だという確信を得た。

 

「この襲撃、裏に誰かが潜んでいる……恐らく、そいつはこれからももっと色んな人たちを苦しめ続けるかもしれない…今回のように」

『…そうなの?』

「あくまで可能性の話だけどな。だけどこれだけの騒ぎを起こしておいて、もう何もしないって言うのも有り得ない話だと思う」

『…なら、直ぐにでもその人を止めないと…!』

「どこにいるのかも分からないのに、どうやって止めるつもりなんだ?それに俺はともかく、劉備さんはまだこの力に全然慣れてないだろ?そんな状態で黒幕の所に行ったって返り討ちに遭うぞ」

「う……」

 

そこを指摘され、劉備は何も言えなくなってしまう。

 

確かに一刀と劉備は先ほど少女を助けた時、実に息の合った動きを見せた。

そしてそれをきっかけに劉備も自分がどう動けばいいのかが分かってきている。

しかし、さっき見せたトリガーメモリの力を見た劉備の反応を見てわかる事だが、劉備はまだまだ自分の力を把握しきれていない。

現在、一刀たちの手元にあるメモリの数は6つ。

そしてその内の半分は、その能力をまだ明かされていない。

 

加えて、黒幕の居場所が分からないというのも痛いところだ。

この時代には自動車や新幹線などの交通機関が無く、速いものでも精々、馬ぐらいのものだ。

今の一刀たちには長旅に耐えられるような屈強な馬も無ければ、それを仕入れるための資金、長旅に必要な路銀も蓄えも無い。

 

完全な準備不足。

今のまま黒幕の元に出向いても逆に殺されることは明白だ。

 

 

 

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だからこそ、一刀は劉備に提案する。

 

「俺たちは、もっと力を付けなくちゃいけないんだ。こんな時代に悠長な事してられないかもしれない、だけど焦って俺たちが死んだら、誰が代わりにあいつらを倒してくれると思う?きっと俺たちでないと倒せないような強い奴だって出てくる筈だ」

『…そんな人たちに、私で勝てるのかな…?』

「別に劉備さん一人で戦う訳じゃない、俺だって一緒に戦う。けど俺一人じゃ勿論、今の俺たちでもまだまだ力不足で、守りたい人たちも守れない。だから……」

 

 

 

一緒に戦ってほしい、そして強くなっていってほしい。

 

 

 

『……ねえ、一刀さん。もしも、私が今よりもっと強くなれたなら……たくさんの人を守ることが出来るの?力の無い私でも…誰かを救うことが出来るの?』

「出来るかどうかは劉備さん次第だ。劉備さんがみんなを救う気持ちを持ってれば…きっと助けられる」

「…………」

 

その時劉備は、今の世の在り様を思い出した。

一体今の世の中はどうなっているのだろうか。

 

漢王朝の腐敗化。

匪賊の急増。

飢饉の発生増加。

疫病の出現。

 

それらが脳裏に浮かんだ時、劉備の口から言葉が飛び出す。

 

 

 

『一刀さん』

「ん?」

『……一緒に、戦おう!苦しめられてる人たちを助けるために、沢山の人たちが笑って過ごせるためにっ!』

「……ああ!」

 

劉備の口から放たれた、覚悟の籠った言葉。

 

その言葉を聞き届けた一刀は、仮面の中で小さく微笑みながらジョーカーメモリを腰のスロットに挿し込んだ。

 

≪Joker(ジョーカー)!≫

≪Maximum Drive(マキシマム ドライブ)!≫

 

風が一刀を中心に吹き起こる。

風は一刀の身体を軽々と持ち上げ、空高くへと浮上させる

 

『ねえ、一刀さん…』

「なんだ?」

『私の真名、受け取って欲しいの』

 

彼女からそれを聞いて、一刀は首を横に振るようなことはしなかった。

これから共に歩んでいく仲間を受け入れるために。

彼女の信頼を無下にしないために。

 

一刀は、こくりと頷いて見せた。

 

『私の名前は劉備玄徳。そして真名は……桃香だよ』

「ああ、確かに受け取った……行くぜ、桃香!」

『うんっ!』

 

一刀から真名で呼ばれたことで、劉備――桃香の返事も随分とクッキリとしたものとなった。

これが真名を預けるという事、即ち信頼の証なのだ。

 

互いの信頼を胸に、一刀たちは浮上した身体をマグマ・ドーパントに向けて傾け、風に身を任せてドーパント目掛けて突撃した。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

『たあぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

二人の身体が左右に分かれる。

瞬間的に加速した一刀の黒い肉体が、初段手としてマグマ・ドーパントの肉体に蹴りを叩き込む。

それに続き、緑色の身体もドーパントに強烈なキックをかました。

 

『そ、そんな……このオレが……選ばれた存在であるこのオレがあ……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

一刀たちの必殺技――ジョーカーエクストリームをモロに受け、マグマ・ドーパントの肉体はダメージに耐えきれずに巨大な爆発を巻き起こす。

 

その爆発の中から紅色のメモリ――マグマメモリが飛び出し、ヒビを立てて崩れ去っていった。

 

「…終わったな」

 

爆発の勢いで未だに炎が燃え盛っている光景を見つめつつ、一刀は小さくそう呟いた。

 

 

 

 

 

こうして、マグマ・ドーパントによる桜桑村襲撃事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

――続く

 

説明
第5話です。

ついに仮面ライダーWへと変身した一刀と劉備。
前回は締まらない形で終わったが、今回こそ一刀はカッコよく決められるのか…?
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コメント
デーモン赤ペンさんへ はい。いきなり変則的なルナだと桃香にはキツイかなぁ、と思って今回は難しくなさそうなフォームにしました。ルナの体得は2年後になるでしょうね。(kishiri)
さて、イレギュラーはどんな手を使ってくるのか・・・ そういや本編ではルナ使ってたけどここではトリガーでしたね(デーモン赤ペン)
THISさんへ やはり皆さんアクセルは気になるようですね。ただ配役を誰にしようか迷ってまして……詳しいことは次回のあとがきにて書こうと思います。  そしてご評価ありがとうございます!(kishiri)
hoiさんへ ありがとうございます!ズバリ、アクセルは登場させます!ただもう暫くはWの活躍シーンを出していきたいので、出番はもう少し後になります。(kishiri)
 確かにアクセルは気になりますね。でも本当に良かったですWW(THIS)
最高でした!! 気になったんですが、アクセルは出るんでしょうか?(hoi)
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