無表情と無邪気と無我夢中7-1 |
【無表情と無邪気と無我夢中7-1】
おうかです。
ついに来月から小学三年生になります。
私は緊張しています。
これから起こり得る事件が迫ってるからではなく。
春休み。
翠屋のお手伝いをしていた私は今緊張しているのです。
「ねぇねぇ店員さん。オススメってある?」
だって目の前にいるのが―――
「ねぇ」
前世で親友だった金髪の似合う―――
「ねぇ聞いてる!?」
「あ……ごめんなさい。オススメはこの手作りシュークリームです」
いけません、仕事をしなくては。
メニュー表の写真を指差して告げます。
少女はメニュー表を見て、う〜んと悩んでいます。
ちょっと可愛いですね。
「よかったら一つ食べてみますか?」
「いいの!?」
「今回だけです」
そんないい笑顔をしてくれるのならば奢るかいもあります。
金髪少女をカウンター席へ案内し、座らせます。
そして慣れた手つきでケースから取り出して専用のお皿に乗せて、どうぞ。
「ありがと!」
少女はお礼を言って早速出されたシュークリームを豪快に一口パクつきます。
「……!」
目を閉じて噛み締めてますね。
あれですか。
感動したというやつですか?
ふふ、そうでしょうそうでしょう。
お母さんのシュークリームは魔法のシュークリームなのですから!
おや、今度はハムスターのように細かく小さく食べていきます。
「……おいしい」
???
ちょっと待ってください。
何故いきなりしおらしくなっているのですか貴女。
さっきまでの元気一杯さはどこにいったのです?
あ、また噛み締めてます。
最初はこの少女があの子であると思ったのですが。
これは瓜二つなだけで別人ですね。
私は頭を押さえて頭痛をこらえます。
前も行ったと思いますが、前世の記憶を思い出そうとすると頭が痛くなるのであまり思い出したくないのです。
「大丈夫?」
「あ……すみません大丈夫です」
心配させてしまいました。
別人。
別人です。
一回深呼吸して向き直ります。
「どうですか。翠屋自慢のシュークリームは」
「おいしかった!」
「そうですか。お母さんの自信作なんですよ、それ」
「アナタのお母さんが作ったの?すご〜い!」
「そうです凄いのです最強なのです」
「でもアナタもすごいよね。私と同じくらいなのにもう働いているなんて」
「いえ、ここはお母さんのお店なので私はお手伝いしているだけです」
「あ、そっか。あ〜そうだっけ全然まだなんだっけ?」
……何がですか?
「あらいらっしゃい、可愛いお客さん」
と、お母さんがキッチンから出て来ました。
「おうかの新しいお友達?」
「いえ、今出会ったばかりです」
と、ねぇねぇと金髪少女が肩をトントンとしてきました。
「この人があなたの最強お母さん?」
「さい…………」
「…………」
一瞬、空気が凍りました。
「……おうか?」
お母さんの笑顔が引きつって。
「色々スゴいんですってね!」
あ、あああああ!!
何ですかこの子は天然さんですか?!
やめてそれ以上はやめて!
お母さんの笑顔から温かさが無くなって―――
「ちょ〜っとおうか、何言ったの?」
「いや何も―――貴女も何か説明を……」
「え……あ……」
……え〜!!
何でいきなり人が変わったかのようなリアクションなんですか!?
目を伏せて恥ずかしがらないでください!
そんな反応していたらお母さんがいらない誤解をして矛先は私に―――
「来なさいおうか」
この天然金髪少女!
前世であの子に似てるから見逃してましたがもうダメ。
この天然さは悪で―――って!
「ぷっ……くくっ……」
天然、じゃない、だとぉ!!!
恥ずかしがって俯いてるかと思いきや笑いをこらえてますこの子!
「来なさいおうか」
そのことを訴えようとしても私はお母さんに手を掴まれてキッチンに引きずられていきます。
やられた!
初めて出会ったパツキンにしてやられた!
「何やってるの」
パコンッと金髪少女の頭を誰かが叩きましたがそれが誰か確認出来ぬまま私はキッチンへずるずると。
OHANASHIーTIME
午後。
精神的に疲れきった私は癒やしを求めるべく八神家へ。
「あらし〜!私は、私は悔しいです〜」
「よしよし」
「だけど、おうかちゃんは感じちゃってるんやな」
「……あらし〜はやてが何言ってるかわかんない〜」
「よしよし。はやてがマセてるのはアタシがよく知ってるから大丈夫」
「にへにへ」
「くぅ?」
パツキン二重人格娘にハメられた私はあらしの胸の中で震えます。
悔しくて、悔しくて、悔しくて。
って、八神家にいるはずの久遠に癒やしを求めていたはずなのに何故私はあらしに抱きついてるのです?
「知るか。アンタから抱きついてきたんじゃない」
「何があったかまだ説明されてもないしな」
「突然のミニコントにはついてけない」
久遠からミニコントという言葉が出るとは。
八神姉妹に調教されてしまったのですね、可哀想に。
「取りあえず、離れよっか」
そうですよ。
いつまで抱きつかれているつもりですか。
「その小さい独り言となって漏れてる心の声どうにかしよっか」
「アドバイスやおうかちゃん。あらし、イラついてるで」
ゆっくり離れます。
「金髪の女の子なぁ……あらしわかる?」
「ん〜……知らないわね」
二人もわかりませんか。
私は子狐状態に戻ってもらった久遠をモフモフしながら考えます。
あのパツキン。
あのパツキン……
あのパツキンんん!!
絶対、絶対ギャフンと言わせてやりたいの!
でもどこにいるのか誰なのか全く情報がありません。
「もしかしたら、新しく越してきた人かもね〜」
「もし桃子ちゃん特製シュークリームが気に入ってたらまた来るとかないん?」
……そうです。
あの特製シュークリームは一度食べたら止められない、病み付きになって溺れてしまう薬でも入ってるんじゃないかと疑ってしまうほど美味しいのです。
これでイケメンで逞しいかつ最強のお父さんを落として自分のモノにしたという逸話もあります。
ということは、翠屋にいればあの少女はまた来る可能性がある。
ふふふ。
私は立ち上がりそのまま玄関へ。
「ちょっと、アンタどこ行くの?」
「どこって、翠屋ですけど」
「今行ってももうおらへんちゃうか?」
「いえ。準備です……復讐のための下準備を……」
パタン。
「あらし。アレ、止めたほうがいいと思う?」
「気の済むまでやらせれば?―――てか何しに来たのよ」
「…………久遠は?」
「…………あれ?」
あれから一週間。
ついに、ついに、ついに。
「待っていましたよ……え〜と、名前も知らないパツキンの貴女!」
「ぱつ……え?」
あの屈辱から私はお母さんに必死に頼み込んでシュークリームの作り方を習いました。
最初はお母さんも嬉しそうに教えてくれましたが、三日前に私の企みに気付いたらしく。
とあるバラエティー番組で見たカラシ入りシュークリームを作ろうとしていたのを感づかれて一言。
『ごめんねおうか。娘にこんなことしたくないんだけど』
脳天チョップの一撃を貰ってその日ずっとお説教でした。
お菓子とはなんなのか。
邪な気持ちで作られるお菓子の身になってみなさいとか。
パティシエとしての心得からお菓子の何たるかを一から叩き込まれたのです。
次の日私は悟ったのです。
お菓子に恥じないやり方で彼女を見返す方法ならば問題が無いと!
私はもう一度お菓子と向き直りました。
お菓子と会話するかのように丁寧に作り上げ。
失敗を幾度となく繰り返し。
そして彼女の来店を待ち伏せていて、ついにその時が来ました。
「さあこっちです。座りなさい」
「いや、私シュークリーム買いにきただけなんだけど……」
「そんなものは後です後。まずこっちの用件からです」
カウンターのイスをバンバン叩き急かせます。
彼女が座ったのを確認して、ケースから他と分けて入れておいたシュークリームを一つお皿に乗せて出します。
「さあ、召し上がれです!」
「…………はい?」
これが私の答え。
今持てる力全てを発揮して作ったこのシュークリームの試食係に、目の前の名前も知らない金髪少女を勝手に任命させていただきました。
試食係ということは、私のシュークリームが完成形が見えるまで食べ続けなければならないということ。
この半永久的な拘束は立派な復讐となりえるでしょう。
お菓子に恥じず復讐を実行しながら自らの腕も磨いていく。
策士!
我ながら策士です!
ふふ。
ふふふ。
さあどうです。
お味の程は。
「おいしくない」
ぐはっ!!
や、やはり付け焼き刃ではこの少女の舌を唸らせることは厳しかったか。
「これ、あそこにあるシュークリームじゃないよねどう考えても」
「当たり前です。これは私が作りました」
「…………え、私毒味させられたの?」
「人聞きの悪い。試食といいなさい試食と」
「……自分ですればよくない?」
「ダメです。なんてったって貴女はもう私のシュークリームの試食係なのですから」
「待って待って。意味わかんない」
「決定事項なのです。もう貴女以外考えられないのです」
だいぶハイテンションになってかた私はそこで彼女の手を取り宣言します。
「共に最高のシュークリームを目指しましょう!!」
「……その猫みたいな顔で言われてもなぁ」
猫みたいな顔ですか?
ああ、そうでした。
先週復讐のことで頭いっぱいだった私は八神家から久遠を抱いたまま帰ってしまったのでした。
どうやら久遠が暴れても私は離さなかったみたいで。
しまいに顔を猫の髭みたいな形で引っかかれてしまったのです。
つまり私の両頬に三本の傷がありそれが猫の髭に見える。
しばらくなのはやあらしにからかわれてました。
ただはやてだけは何言ってるかさっぱりでしたけど。
「にゃんにゃんおうかにゃ〜ん、にゃ〜ににゃんにゃんしとる〜ん?」
「にゃ〜」
……見られてた。
このタイミングで来店とは、何か持ってますねこの姉妹。
「その子が例の金髪ちゃん?」
「確かに見ない子やね。引っ越してきたん?」
「え、う、うん……」
まあいいです。
水を差されてテンションが戻った私は彼女が食べかけのシュークリームをパクり。
……確かにおいしくない。
今までは作り立てを食べていたから大丈夫だと思ってましたが、時間が経つとこうも風味がなくなってしまうのですね。
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よし、7話目前編! ようやく三年生に。 やっとあの子が登場。 妹は後編で→ |
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