無表情と無邪気と無我夢中8-1 |
【無表情と無邪気と無我夢中8-1】
「……どうでしょう」
「んぐんぐ……むぅ」
あの会合から1ヶ月。
こっちは学校が始まってしまったため休日でしか会えなくなってしまいましたが。
彼女が来店する度に試作のシュークリームを食べてもらい評価をもらっています。
さて、今週の成果は。
「ん〜……何だろう」
首をコテンと傾げ、人差し指でクルクルと円を描きながら考え込んでしまいました。
「なんかこう、どこにもアクセントが無いっていうか……食べててつまんないっていうか」
そう、ですか。
ここ最近はなのはと一緒に挑戦して、自分なりに色々考えて作っているのになかなかいい評価をもらえません。
「あ、でもね、最初の頃に感じていたおいしくない感じは無くなってるかな」
いい意見もらいました。
まだまだ、まだまだなのですね。
「はいくぅちゃん、どうぞ」
「いただきます」
はやてちゃんとあらしちゃんの家で私はくぅちゃんに自作のシュークリームを食べてもらってます。
あの日からおうかちゃんと一緒にお母さんから習い、少しずつ腕を磨いてる最中。
そして翠屋二代目を目指すべく、第一歩としてお母さんが起きる時間に一緒に起きてお店の仕込みのお手伝い。
やれることは多くないし朝が辛くて足手まといになっちゃってるしれないけど、お母さんは嬉しいって言ってくれてるから。
その期待に応えたい一心で毎日辛いなりに頑張ってます!
「……なのは。これ、皮の作り方変えた?」
「うん。前より生地を薄くして作ってみたんだけど……」
「なんか、食感がない……」
あうっ!!
お母さんのと食べ比べてみて自分のがなんか生地が厚い気がしたから薄くしてみたんだけど。
あのサクサク感には程遠かったの。
「どんまいやなのはちゃん。こういう失敗は繰り返してええもんやで」
「ありがとうなの、はやてちゃん」
「ああでも、翠屋二代目なのはちゃん楽しみやなぁ」
「えへへ、待ってて。おうかちゃんを追い越してお母さんを継いでみせるの!」
他愛もない日常。
こんな平和で楽しい生活はずっと続くと思ってた。
だけどそれは私達の知らない所で起きた原因で簡単に崩れてしまう。
ちょっとしたことで世界観がガラリと変わってしまう。
抱えていた夢も望みも目的も。
同じ頃、彼女達が住む世界とは位相の違う異空間で、そこを航行する船の事故は起きた。
ロストロギアと呼ばれる、遺跡から発掘された宝が事故による衝撃で運んでいた船からそのまま異空間へと落ちていく。
その瞬間を同乗していた一人の少年は見てしまった。
少年は責任感と使命感に襲われる。
あれがもし別の世界に散りばめられてしまったら。
あのロストロギアの特性を知っている分、放ってはおけなかった少年は何も考えずにそれを追った。
それが最善な行動だったのかは誰にもわからない。
ただこの行動で一つの世界における最悪な結果だけは回避することが出来たのは確か。
どんな結果が待っているのかは、この後の少年少女の行動次第だろう。
真夜中。
「ふぁ……にゅう」
起きてしまいました。
最近頭痛が酷くてたまりません。
時期が時期ですし、無理矢理前世の記憶を照らし合わせているのが原因です。
春にジュエルシードで、秋から冬にかけて闇の書。
ズキッ!
むぬぬ。
思い出そうとしてないのに。
ふと思い浮かべただけでこれです。
気持ちいいものではない。
いやだ。
こんな気分が悪くなる状態から逃げたいけど、今後のこと考えたら。
ズキッ!
ああもうイライラします!
ベッドの上で枕を叩いて、叩いて、叩いて叩いてッ!!!
……忌々しい。
こんな記憶なんて無ければいいのに。
結局私は叶わぬことにモンモンとしながらそのまま朝を迎えてしまいました。
「おはよう……ございます」
「おはようおうか。遅かっ―――ってどうした?」
台所で新聞を読んでいたお父さんに挨拶をします。
が、寝不足であることを悟られたみたいです。
「頭痛くて、寝れませんでした……」
嘘は言ってません。
心配したお父さんが私の額に手を当て、看てくれます。
この手、いいです。
頭の痛さと気持ち悪さが和らいで。
「熱はないようだな。あまり無理はするなよ」
コクッと頷いて―――頷いた拍子に寝かけましたが―――洗面所へ向かいます。
もう、考えないようにしよう。
きっと何とかなるでしょう。
その日一日は頭痛の余韻が残る中で過ごしてました。
なんとかお昼まで持ちこたえたので、まあ大丈夫ですかね。
「将来の夢、かあ……」
なのは、アリサ、すずかの仲良し三人娘に交じって一緒にお弁当を食べます。
どうやらなのは達のクラスでは将来の夢について作文の課題が出されたようです。
ズキッ!
「なのははもちろん翠屋二代目よね」
そう、確かあの時の出会いがあった日、そんな話をしていた。
「言わずもがな、なの。あとはこうだったらいいなとか」
ズキンッズキンッ!
「へぇ〜、どんな感じ?」
この話、やです。
早く食べ終えて、三人には悪いですけど教室に戻りたいです。
「えっとねぇ、キッチンには私とはやてちゃんがいて……」
ジュエルシードなんて降ってこなければいい。
輸送船の事故なんて起きてなきゃいい。
そもそもユーノ君がジュエルシードなんてものを発掘しなけりゃ……。
「カウンターにはおうかちゃん。ホールにあらしちゃん。で、マスコットにくぅちゃん!」
「……あんた、飲食店に動物はマズくない?」
「はうっ!」
魔法なんて、管理局なんて、違法研究なんて。
この世界に関係ないことはいらない、いらない、いらない!
「おうかちゃん、大丈夫……?」
…………え?
「保健室、行く?」
誰が私に話し掛けてくれてるのでしょう。
「……大丈夫です。これくらい、これくらい……」
私は立ち上がりました。
お弁当を膝の上に置いていたのを忘れて。
「おうか!?」
…………え?
パキッ!
何か踏みました。
「おうかちゃん……?」
ゆっくり、ゆっくり理解していきましょう。
………………。
どうやら私が踏んでしまったのはお弁当箱のふたみたいです。
しかも立った拍子にぶちまけられたお弁当の中身が私の足下に散乱していて。
それを、確認した、私は……
「おうか?!!」
「おうかちゃん?!!」
「おうかちゃん……?!」
グチャッ、グチャグチャッ!
バキバキッグチュ!
…………。
なぜ、あんなことしてしまったのか。
零してしまったご飯類を何度も何度も踏みつけるという愚行。
今までの私だったら絶対、というか最近の私だったらむしろやらない。
お菓子作りに精を出しているからこそ食べ物を粗末に扱うなどあってはならないし、気持ちの籠もった料理を無碍にするなんて。
気に入っていたお弁当箱も原型が分からなくなるくらいボロボロに壊してしまいました。
あの後気を失った私は保健室に運ばれ、そのまま早退するという形に。
お父さんの運転する車の中で横になっています。
「おうか」
お父さんの声です。
気怠さを落ち着かせて「はい」と返事をします。
「お前が何を抱えているか、話してはくれないのか?」
私が、抱えているもの。
悩み。
苦しみ。
前世の記憶。
誰かに話してしまえば、楽になるのでしょうか。
………………。
言えない。
言えるわけない。
そもそも何て言ったらいいのですか。
前世の記憶があります、ならまだしも。
私の前世は高町なのは、あなたの娘でしたって訳がわかりません。
私は高町おうかで、高町なのはの姉で。
前世には特にこだわってないのに、その記憶に振り回されていて自分じゃどうしようもなくて。
それらに耐えきれなくなると、今日のお昼のようなことをしてしまう。
そんな自分が、怖くて。
だけど。
「……ごめんなさい」
誰かとそれを共有してもらうなんてわがままなこと、出来ません。
「……そうか」
心無しか残念そうに聞こえました。
ごめんなさい。
お父さんのこと、大好きです。
大好きだから、一緒に苦しんでもらうなんて出来っこない。
ゴロッと寝返りをうって顔をシートに伏せます。
私に、自分のことを託し信頼出来る、楽しいことも苦しいことも共有出来るパートナーがいれば話は別なんですけど。
……“あいつ”だったら。
私は全てを預けてもいいかもしれない。
淡い希望を胸に残して、私は目を閉じてお休みすることにしました。
夜。
あのまま車の中で眠ってしまった私はお父さんにそのままベッドに運ばれたみたいです。
夕飯のじかんもとっくに過ぎてしまって。
今、何時でしょう。
とりあえずちょっと、サッパリしたいです。
シャワーを浴びて少し楽になりましたけど、今度はお腹がすきました。
何かないかと私は台所に行き、冷蔵庫を漁ろうとしたら気付きます。
テーブルの上に夕飯であろう食事が。
丁寧にラップが掛けられていて、その下にメモ用紙が挟まってました。
―――おうかへ。お腹がすいたらレンジで温めて召し上がれ(横にハートマークとニコニコマークが添えてある)お母さんより―――
私は素直にお皿をレンジに入れてタイマーをセットしてスイッチオン。
すると。
パタパタパタと誰かが廊下を走る音が聞こえました。
この軽い音からしておそらくなのはでしょう。
私が起きたのに気付いて来てくれたのですかね、ふふふ。
「なのは」
「にゃっ!!?」
……なぜ声を掛けただけで驚く必要が?
「そんなに急いでどうしたのですか?」
「え、え〜っとえ〜っと」
「まあいいです。一人で晩御飯は寂しかったので、話し相手になってくれますか?」
「え、それは……」
それは、なんですか。
私、何かしてしまったのですか?
「ごめんねおうかちゃん。私―――」
「まあまあまあ。ご飯少し分けてあげますから、さぁ」
「―――おうかちゃん、痛い……」
ギュッと、なのはがどこかに行かないように強く腕を掴みます。
「待って!私、行かなきゃダメなの。だから……」
「こんな時間にどこへ行くというのですか?」
「それは、その……」
またどもります。
なのはは一体どこに行って何をしようとしているのですか。
「ごめんおうかちゃん。放して、放して!」
なのはは強情に無理矢理私の手を振り払おうとして。
バシッ!
「……!?」
「あ……」
勢い余ってなのはの手は私の猫髭傷のところに当たって。
「ご、ごめんなさい!」
放心する私に謝罪をして、そのまま外へ飛び出していってしまいます。
しばらく、私は動けませんでした。
頬の傷が疼く。
はたかれてしまった箇所に手を当てて、へたりと座り込んで。
「なの、は……」
なのははどこに行ったのか。
―――考えなくてもわかるでしょ―――
なのはは何しに行ったのか。
―――あなたは知ってるはず―――
ズキッ……ズキッ……
―――そして、なのははあなたに隠し事を―――
「ふぇ……」
―――かつてのあなたが秘めていた事と寸分違わず―――
「叩かれ、ちゃった……」
心が痛い。
痛いよ。
その後のことは覚えてません。
晩御飯を食べたかどうか、何を食べたのか。
いつどうやってベッドに入ったのか。
ただ起きた時枕が濡れていたので、また泣いていたんでしょう。
でもベッドから出る気はないです。
カチャッと私の部屋の扉を開ける音が聞こえても被った布団をどけて確認する気もありません。
「おうかちゃん……」
なのは、ですか。
昨夜あんなことしてしまったのに、私は嫌われてしまったのに何の用でしょう。
「あのね、昨日のことなんだけど……」
昨日……
ズキッ!
「えっと、えっとね」
「……何も言わなくていいです」
「え……」
今誰の姿も見たくありません。
だから声だけで会話します。
「誰にも言えないことなのでしょう。じゃあ言わなくていいです」
「で、でも……」
「学校、行かなくていいのですか。遅刻しますよ」
「お、おうかちゃんは―――」
「私は体調悪いからいいんです。だから早く出てってください」
「そんな……」
ショックを受けているのが声色でわかります。
もう、ほっといてくれませんかね。
「なのは。この子の言う通り、もう行かないと学校遅れちゃうよ」
……誰でしょう。
―――知ってるくせに―――
ズキッ!
もうなんなんですか!
勝手に私の頭の中に語りかけてこないでくださいよ。
あなたが語りかけてくるたびに頭痛がするんです。
「でも……」
「…………」
喋る気なくなりました。
「……それじゃ、いってくるね」
「…………」
パタンと扉が閉まります。
もう何も考えない方が楽です。
あの後お父さんやお母さんが部屋に来て何か話しかけてきましたけど、私は終始無言で微動だにしませんでした。
このまま寝よう。
寝れなくても目を瞑ってボーッてしていれば頭痛もしなくてすむ。
苦しまなくてすむ。
あの声が聞こえることもない。
ただ、それも午前中まででした。
彼女達が来るまでは。
説明 | ||
8話目前編。 いつもより長くなってます。 高町おうかというイレギュラーな逆行キャラをどういう風に原作の流れに干渉させるか、まあ悩みました。 この展開、どうでしょう? |
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