そらのおとしもの 新ショートストーリー 中学生はBBA 3rd story |
そらのおとしもの 新ショートストーリー 中学生はBBA 3rd story
前回のあらすじ
『それでは幼女愛という真実の愛に目覚めた紳士たちとそんな紳士を愛して止まない神聖なる幼女たちによる会合を始めることにする』
『私は魔術の名門アーチボルト家の頭首、そして幼女たちの守護者であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。気軽にペドネスと呼んでくれたまえ。但し、幼女に限るっ!』
『俺の名は長谷川昴。高校1年生の爽やかバスケマンさ』
『好きなものはバスケと幼女、いや、智花さ♪ 座右の銘は『まったく、小学生は最高だぜ!!』人は俺を変態ロリコン王子と呼び、将来の夢はBBAを1匹残らず駆逐することさ』
『す、昴さんとお付き合いさせて頂いている彗心学園初等部6年湊智花です。趣味はバスケです。よ、よろしくお願いします』
『俺はなァ、学園都市最強のロリコン、一方通行ことアクセラロリータだァッ!!』
『今日初めて会う奴もいるから語っておくぞッ! いいかァ・・・・・・中学生ってのはなァ、BBAなんだよッ!!』
『ミサカはミサカって言うんだよ。この人と一緒に住んでいるの。って、ミサカはミサカはこれ以上の情報は色々あって開示できなかったりぃ』
『俺の名は桜井智樹。平和と全裸と幼女を愛するどこにでもいるごく平凡な中学2年生の男子だ。好きな歌は俺が作詞作曲した「チクチクBチク」だ。よろしくな』
『智樹の妻の桜井ニンフです。夫共々よろしくお願いします』
「真奥さん。あそこのお客さんたち……放置して置いていいんですか?」
マグロナルド幡ヶ谷店の女子高生アルバイター佐々木千穂は大きな瞳を細めて心配げに隣のレジに立つ男に尋ねた。
「下手に動けないのが現状なんだよなあ」
時間帯管理者である中肉中背の青年アルバイター真奥貞夫が大きく息を漏らしながら千穂に返答する。
真奥の視線は問題の一角へと向けられている。年齢的に不釣合に見えるカップルたちが3組、そして金髪でカソック姿の西洋人が座る一角を。
「ですが、放っておくとこのお店にまた変な噂が立てられちゃいますよ」
千穂は眉をしかめて難しい表情を見せながら真奥に耳打ちする。
「ただでさえこのお店はマッスル・ドッキングやマッスル・インフェルノという親が子供に絶対に聞かせたくない卑猥すぎる単語やロサキネンシス・アンブゥトン・プティスールやロサ・ギガンティアというドキドキ!プリティアも真っ青な百合百合過ぎる単語が飛び交うお店としてネット上で晒されてしまっています。この上にロリペドの集う店という評判まで加わってしまったら……」
「確かにネット上での評判は無視できない」
真奥が目を閉じた。
「だがだ、ちーちゃん」
千穂の肩を掴みながら真奥は目を開いた。
「マグロナルドは全国的に店舗を展開し、均質なサービスを提供していることもよく知られている」
「確かに、マグロナルド以上に有名なファーストフード店はありませんよね」
コクコクと頷く千穂。
「だからだ。仮にネットの検索を通してこの店を訪れる人がいたとしても、その際に重視するのは店の位置だけだろう」
「匿名掲示板の噂を気にする方はあまりいないということですね」
千穂の言葉に真奥が頷いた。
「そうだ。ネット上の噂はさほど怖くない。しかし、この幡ヶ谷の住民、及び勤め人に悪評が立つことは絶対に避けなければならない。それは店の経営を破綻させる」
真奥が表情を険しくさせた。
「でも、だったら……あのお客さんたちに対して何らかの対応をしないといけないのでは?」
千穂が首を店外へと向ける。そこには少女が2人、窓ガラスに張り付きながら店内のとある一角を凝視している。
「あのポニーテールの女子高生とピンク髪の翼の生えた女学生のお客さんは、あのグループがロリペド撲滅法違反者だって……」
「ああ。あの2人はやけにうるさかったな。多分……直接的な知り合いなんだと思うが」
真奥は大きくため息を吐いた。
千穂は15分ほど前のやり取りを思い出していた。
『いらっしゃいませぇ』
接客マニュアルに従って来店した客に対応した千穂が目にしたもの。それは怒りで目を真っ赤に充血させたポニーテールの髪型をした高校生らしき少女だった。
『ビッグマグロバーガーセットをお願いするわ。テイクアウトでっ!』
制服姿のポニーテールの少女は怒った口調のまま注文を告げる。
『ついでに、あの窓際の席に座っているピンクの短髪の女の子の隣にいる長谷川昴って男はロリペド撲滅法適用対象者なの。今すぐ死刑にしてくれない?』
そして思いも寄らなかった追加注文を告げた。
『あの、お客さま……ここはファーストフード店ですので、死刑の注文は承っていないのですが……』
千穂はとても困った表情を見せながら返した。
『分かったわ。なら、私が今すぐここで昴を死刑にするわ。お色気タップリで一途な幼馴染で趣味の合う可愛い女子高生の私じゃなくて、小学生でちっちゃくて胸もないロリィな智花ちゃんを選ぶなんて。生かしておいたら社会のためにならないもの』
ポニテ少女は注文した品を受け取ると、束ねた髪を翻しながら早速ロリペド撲滅法の適用に向かい始めた。
ロリペド撲滅法は裁判の時間及び経費の削減のために裁判抜きで死刑を含む刑の適用が認められている画期的な法律。全人類から高い支持を受けている。
ポニテ少女が昴という少年を法に則って死刑にするつもりなのは間違いなかった。
『まっ、まあ待てっ! 待つんだ、お客さんっ!』
事態の危険性を見て取った真奥がカウンターを出てポニテ少女の手を掴む。
『離してよっ! 私は蒼き清浄なる世界の実現のために正義を成すんだからっ!』
『食べ物屋の中をスプラッタハウスにするなってんだ。肉が食えなくなるだろ』
『だけど、いつでも手が出せるもう結婚も可能な私を放っておいて、小学生にばっかり欲情するアイツが許せないのよぉっ!』
『気持ちは分からなくもないが、俺が責任者の時に店内で流血沙汰は勘弁してくれぇ〜。グリーンランドに飛ばされるってのっ!!』
昴に向かって進もうとする少女。真奥は手を離さずに必死に食い止める。
そんな必死な攻防戦を繰り返している間に店内にもう1人少女の客が入ってきた。少女はピンク色の髪をしており、コスプレなのか背中から大きな翼を生やしていた。
『いらっしゃいませぇ』
千穂は真奥たちのことが気になったが、レジにいるのは自分だけということもあり接客を開始する。
『……ビッグマグロバーガーセットを1つ持ち帰りでお願いします』
『はい。ビッグマグロバーガーのセットをテイクアウトですね』
落ち着いて接客に集中する。今なすべきことをしようと千穂は心に誓う。
『……それから、ランドセルでマスターをたぶらかした青髪ツインテール幼女モドキの淫獣(ダウナー)を髪の毛1本残さずに破壊し尽くしてくれませんか?』
『へっ?』
とても嫌な予感がしながら聞き返してしまう千穂。
『……マスターが幼女に走ったのはあの淫獣(ダウナー)のせいです。なら、巨乳大好きを幼女好きに変えてしまった元凶は滅ぶべきなのです。そうすればマスターは私のものです』
コスプレ少女の瞳が赤く染まった。
『駄目ですぅ〜。平和がこの世界には一番求められているんです』
千穂もまたレジを飛び出してコスプレ少女の手を掴んで制止に掛かる。
『……離してください。あの見た目幼女を討伐しない限りこの世界に光が注がれることはないんです』
『どんな理由があろうと幼女殺しは許されないんです!』
『……幾ら私がスイカに目がなくて、赤い制服を着た貴方の胸がスイカにしか見えなくても邪魔をするなら容赦はしませんよ。うっ……スイカ相手だと思うと力が出ない』
『私の胸はスイカじゃありませんってばぁ』
真奥とポニテ少女、千穂とコスプレ少女の引っ張り合いは次の客の一群が来るまで続いた。
結局、ロリペド撲滅法の執行は店外に出てから行ってもらうことを渋々了承してもらった。
「あの2人、あれからずっとお店の窓に張り付いてますもんね」
「あのグループが店の外に出た時に何が起きるのか想像したくもない。事件の映像と共にこの店がテレビに映りでもしたら……頭痛ぇ」
真奥は頭を抱えた。
「とにかく、あのグループがロリペド撲滅法に引っ掛かるような連中だとしても……今は放置しておかないと騒ぎがもっと大きくなりかねない。下手すりゃグリーンランド行きだ」
真奥は喋りながらゲンナリとしている。左遷というプレッシャーをヒシヒシと感じているようだった。
「私は……真奥さんと一緒ならグリーンランドでも楽しく暮らせると思います、よ」
千穂はドサクサ紛れに告白を試みる。純情女子高生少女の精一杯の想いの伝達。
「ちーちゃんにはこの幡ヶ谷でちゃんと高校を卒業してもらわないとな」
真奥はさり気なく千穂の告白をかわした。
「女の子は16歳から結婚できるのに。ぶーぶー」
千穂は頬を膨らませてちょっと不満そうな表情。
「学生の本分は勉学です」
真奥はキッパリと言い切った。
「ううっ。でも、私みたいにもうお嫁にいける年齢の“大人”な女の子と恋をするのはともかく、小学生の女の子との恋愛ってどうなんでしょうね?」
3人の少女はどう見ても小学生にしか見えない。一方で男の方は高校生ぐらいに見える。そのアンバランスなカップリングは幸せなのか千穂には判断できない。
「俺は魔界の住民だからなあ。異常恋愛っていうか、奇妙な執着を見せるやつは幾らでも見てきた。だから、アイツらを見ても実際にはどうとも思わんな。強いて言うなら法に外れているってことが問題だな。順法精神に欠けている」
「そんなものですか?」
「同じ種族で男女でたかが数歳差だろ? 俺の年齢が300歳以上なのを考えると、人間を恋愛対象としてみなすこと自体が不自然になっちまうしな」
「私は年の差恋愛を応援しちゃいますよぉ〜。頑張れ女の子ですっ」
千穂は自分の将来の幸せのために、店の客の一部から漏れ出ている不満の空気を無視することに決めた。
それは結局、世界に正義がなされる結果をもたらすことへと繋がることを彼女はまだ知らないでいた。
「さて、参加者の紳士幼女のみなさんには、幼女がいる素晴らしき生活について語り合ってもらいたいと思う」
ケイネスは主催者らしく優雅な振る舞いを見せながら最低な提案をしてくれた。
「だから幼女幼女言わないでよ。体型は私にとってコンプレックスなのだから」
私はケイネスの幼女至上主義な考え方に反発を示した。
「はて? 幼女以上の褒め言葉がこの世界に存在しただろうか? あるとすればロード・エルメロイという私の称号ぐらいしか思い当たらないが?」
おまけにこのロリペドはこれ以上ないぐらいに自信家だった。
「幼女よりクソガキの方が褒め言葉なンじゃねェのかッ? 少なくとも俺にとってはな」
「まったく、貴方の歪んだ愛情の示し方にはいつも困ってしまう。って、ミサカはミサカは頬を赤らめてみたり」
こっちのバカップルも相当な変わり者だった。クソガキが褒め言葉だったとは全く気がつかなかった。言葉って難しい。
「確かに幼女って言うと対象が広すぎるからなあ。小学生って言うとグっとくるけど、さすがの俺も幼稚園児は守備範囲外だしなあ」
「えっ? 昴さん……この間デートした時に、小学校5年生はまだ幼すぎるから恋愛対象にはとても見えないって……」
「えっ? あっ? そ、そうだったっけ。そ、そうだよ。俺は智花と付き合ってるんだから、小学校6年生以外は目に入らないって。あっはっはっは」
昴はわざとらしく笑った。コイツ……もしかしなくても浮気男なんじゃ?
そんな昴を智花も疑いを含んだヤンデレな瞳で見ている。
血を見る予感がした。
「ニンフはニンフだからなあ。幼女っていうか、ペッタンコだし」
「ペッタンコ言うなぁっ!!」
我が夫は少しも私の援護射撃をしてくれない。情けなく思う。
本当にこんな男を好きになっちゃった私はバカなんじゃないかと思う。
まあ……幸せなんだけど♪
「それでは、まずアインツベルンの雇われ魔術師とその幼女妻の新婚生活について語ってもらおうではないか」
ペドネスは余計な話を振ってくれた。
「俺たちの新婚生活って言われてもなあ」
「何を話して良いのか困るわよね」
智樹と顔を見合わせながら首を捻る。
私と智樹は“ごく普通”の夫婦なので特筆して語るようなことはない。
「フム。質問が抽象過ぎたようだな」
ケイネスがいちいちキザな仕草を取りながら私たちを見る。
「では、毎日キッスをしているのか正直に告白するが良いっ」
そして偉そうに指を差しながら質問の内容を具体的にしてきた。
「キス、ねえ……」
「キス、か」
智樹ともう1度顔を見合わせる。
もっとスゴイことを聞かれるかと思っていたのでちょっと拍子抜けだった。
「キッ、キッ、キッスッ!? だとォオオオオオオオオオオオオオオォッ!?」
一方で過剰な反応を示したのが白もやしだった。
「テメェらァッ!? まだランドセルも脱いでないガキの前で何を非倫理的な話をしてやがるゥッ!? 常識は死ンだのかァッ!?」
目を剥いて怒っている。へっ?
「説明しておくと、この人は唇へのキッスは結婚するまでしちゃダメっていう、今時小学生でも抱いていないピュアな心の持ち主なの♪」
ミサカが代わりに説明してくれた。
どうしようもないほどのロリコンで、幼女との生活を守るために全てと敵対すると宣言しておきながらこのシャイぶり。
一体何なの、この学園都市最強のロリコンを名乗るアクセラロリータという男は?
「もう少しトークを続けていれば恥ずかしさで頭が沸騰して何もできなくなるから安心して続けて良いよ。って、ミサカはミサカは未来の旦那さまのシャイぶりにちょっと困りつつも楽しげに秘密を暴露してみたり」
「おいッ! クソガキがァッ! いい加減なことを行ってるンじゃねェぞッ!」
一方通行は怒りに満ちた視線をミサカへと向ける。幼女の危機!
「ニンフ……俺たち1日に何回ぐらいキスしているか?」
幼女の危機に対して智樹は早急に解決策を提示した。
「さあ? あんまりちゃんと数えたことはないわね」
私も即座に呼応する。
「なァッ!? 智樹ッ、テメェは見た目うちのクソガキと変わらない幼女とそンな毎日たくさんキスしてるってのかよォッ!? ……グヘェッ!?」
一方通行は口から血を吐き出した。
ミサカの言う通り、ヤバそうな見た目と言動の割りに中身は天然記念物クラスのピュアな男だった。
「じゃんじゃん続ければこの人は大人しくなるよ♪ って、ミサカはミサカは将来に備えてこの人にエッチな話の免疫を作らせようと煽ってみたり」
そして一方通行のまだ幼い恋人はとても逞しかった。
「アインツベルンの雇われ魔術師とその幼女妻はそんなに数多くのキッスを重ねているというのか?」
ケイネスもまた驚いた表情を浮かべている。
「そんな驚いた表情をされてもなあ……俺たち夫婦だからなあ」
「そうよね。私たち、夫婦だもんね」
智樹と顔をまた見合わせる。
結婚した直後に夫が参考に見せてくれたDVD『新婚夫婦の愛の営み24時 眠れない新婚住居 R-18』と比べて別に逸脱したことは何もしていない。
それでも1日にどれだけキスしているのか指を折って数えてみることにする。
「おはようのキッスでしょ。朝ごはんの時のキッスでしょ。行って来ますのキッスでしょ。校門前で勉強頑張りましょうのキッスでしょ。お昼ご飯の時の午前中お疲れ様でしたのキッスでしょ。放課後になったら1日頑張りましたのキッスでしょ。家に帰ってただいまのキッスでしょ。夕飯のお買い物に行く時のキッスでしょ。帰ってきた時のキッスでしょ。夕ご飯の前にキッスでしょ。それからお風呂……」
数えるのを止める。これ以上後の時間のキッスを報告するのはさすがに恥ずかしい。
「な、なななな、なんと……幼女妻はそんなにも積極的だと言うのか!? 幼女は無垢で奥ゆかしいというのは私の頭の中にしかない幻想だったのか……」
ペドネスは激しくショックを受けていた。
「何だかよく知らないけれど、女の子は生きているのよ。アンタの思う通りの都合の良い存在なわけがないでしょうが」
ペドネスのふざけた幻想をこれを機会にぶっ殺せたらいいなとふと思った。
「だが、この幼女妻はアインツベルンの雇われ魔術師に毒された純然ではない幼女だ。私の幼女道はいささかも揺るぎはしない」
「チッ」
ペドネスを改心させることはできなかった。
そして──
「………………ッ」
白もやしは白目を剥いて気絶していた。刺激が強すぎたらしい。
「耐性を付けてもらわないとミサカと結婚する時に困るのに、ヤレヤレ。と、ミサカはスタンガンをこの人の首筋に打ち込んで強引に蘇生させてみたり」
ミサカは一方通行の首にスタンガンを押し当てると笑顔でスイッチを押した。すごいスパルタ教育。
「木ィイイイイイィ原ァアアアアアアァく〜〜〜〜んッ!!」
よく分からないことを叫びながら目を覚ます白もやし。
「智花。智樹たちは毎日10回以上はキッスをしているようだぞ。俺たちはどうする?」
「私と昴さんは朝錬始まりのキッスと行ってきますのキッス、そして部活後のお疲れ様のキッスの1日3回がほとんどです。私、もっと頑張って昴さんにいっぱいっぱいキスしてもらうようにしますね♪」
「はっはっは。智花は頑張り屋さんで偉いなあ。よしっ、頑張った智花にごほうびのキッスだ♪」
「はいっ♪ ふにゃぁあああああぁ」
昴はここがファーストフード店内であるにも関わらず、堂々と小学生少女の唇にキスしてみせた。
高校生男子と小学生女子のキス。見ていて恥ずかしいというかヤバいでしょそれはという複雑な想いが胸の中に渦巻く。
「…………ブハッ!?」
昴と智花のキスシーンを眼前で見せ付けられた一方通行は致死量なんじゃないかと思うぐらいの吐血を盛大にして、ひっくり返って気絶した。
「ああっ!? これはちょっと、スタンガンでも蘇生できないかもぉ」
ミサカは両手を口に当ててアワアワしながら当惑している。無理もない。普通だったらもう死んでいる。
「……まだ、まだ死ンでられっかよォオオオオオオオオォッ!!」
一方通行は起き上がった。ううん。背中に真っ黒な翼を生やして、その翼をはためかせることでかろうじて倒れないでいる。
根性だけで己を律している。突風ではた迷惑なそんな光景だった。
ていうか、キスの話題が何故こんな命懸けで語られているのだろう?
「やっぱり智花の唇は柔らかくて最高だなあ♪ 3日前に遊園地でデートしてキスした時はちょっと乾燥してたみたいだけど」
「えっ? 私、3日前に昴さんと遊園地に行ってはいないんですが? その、昴さんとはまだ遊園地に行ったことありませんし……」
「あれ? そうだったっけ? 3日前に遊園地デートしたのは……ひなたちゃんだったっけ? それとも真帆だったか? いや、紗季だったか?」
「昴……さん? 私以外の子ともデートしてたんですか? してたん、です、ね」
「あっ」
智花の瞳が完全に光を失った。
この会合、本当に命懸けのものとなりそうだった。
「幼女がこんなにも恋に対して積極的だったとは……この天才ケイネス・アーチボルトをおしてまだ研究せねばならん分野が存在したとは喜びを伴う発見だ。はっはっは」
ケイネスは持ち前のポジティブシンキングというかジコチューを発揮してこの場を乗り切った。
まあ、この真性ペドネスが私たちにどうこうできるとは最初から思っていないのだけど。
「では続いて、幼女との触れ合いについて語り合おうではないか」
血迷ったバカはまたまた面倒な話題を提案してくれた。
「アインツベルンの雇われ魔術師よ。貴様はその幼女妻とどのようなスキンシップをしておるのだ?」
「スキンシップって言われてもなあ……」
「まあ、私たちは夫婦だから、普通の夫婦な感じじゃないかしら?」
結婚した直後に夫が参考に見せてくれたDVD『新婚夫婦の愛の営み72時 3日連続で眠れない新婚住居 R-18』と比べて別に逸脱したことは何もしていない。
「夫婦……まさか、貴様はその幼女妻と一緒に入浴してなどおるまいなっ!?」
ペドネスが焦ったようにして訊いてきた。
「入ってるぞ」
「えっ? 夫婦ってそれが普通なんじゃないの?」
DVDでは新婚夫婦が常に2人でお風呂に入っていた。それが人間の夫婦の普通なのだろう。
「もっとも、気分が盛り上がった時は一緒に入るだけじゃなくてグッヒョッヒ……ブベッ!?」
ハレンチなことを言い出そうとした智樹をグーで殴る。
「ちょっと、あなた。ここはファーストフード店の中だってことを忘れないでちょうだいよ」
「…………っ」
智樹は体をビクンビクン震わせながら芋虫が地を這う姿勢でコクッと頷いてみせた。
公序良俗は守ってもらわないと困る。
「智樹テメェ……俺のクソガキと見た目あンま年齢変わンねぇその女と一緒に風呂に入ってるってのかよォ…………ブホッ!?」
一方通行が喀血すると共に漆黒の翼の右羽が消し去った。白もやしはもはや死んでしまう直前の状態だった。
「俺も智花と風呂に何度も一緒に入ったことがあるもんな♪」
「ふえぇえええぇっ!? 昴さんっ、そんな恥ずかしいことを人に言っちゃダメですよぉ」
ドヤ顔を見せる昴に対して智花は真っ赤になって恥ずかしがっている。
この長谷川昴という男、智花を恥ずかしがらせて楽しんでいる。爽やか系に見えて相当なドSだ。
「長谷川昴ぅッ! テメェも幼女と一緒に風呂に入ってるって言うのかァアアアアアアァッ!! ………………ウゲェッ!?」
一方通行が更に激しく血を吐く。今度は口からだけじゃない。鼻からも。
そしてその血と共に残っていたもう1枚の漆黒の羽も消し飛んだ。
後一撃、精神攻撃を受ければ……一方通行は死んでしまう。
それはもう避けようのない事実だった。
「1週間前に智花が泊まりに来て一緒にお風呂に入った時のことはよく覚えてるぜ。風呂場で恥ずかしがる智花は可愛かったなあ」
「えっ? 私、1週間前に昴さんのお宅にお泊りしたことありませんよ。1週間前はちょうど家族旅行の最中でしたので」
智花の瞳が再び光を失う。
「あれ? そうだっけ? 銀色の長髪を丁寧に洗ってあげたらとってもくすぐったそうにして、同じ布団で寝た際に『ギンガと本当の親子になる』って言うから、俺と結婚すれば父さんと親子になれるぞって言ったらとても喜んで俺のお嫁さんになってくれるって言って大胆に……あっ」
昴の顔が引き攣った。
「ミミちゃん……お泊りしたんですね……」
ヤンデレの瞳で智花はストローをナイフのようにして構えていた。
「いや、ちょっ! 待つんだ、智花っ!? 俺は、智花が旅行中だから浮気し放題なんて全然考えてなくて、洋ロリと過ごす甘い日々にヒャッホーなんて飛び跳ねたりしなくて」
「さようなら……私がこの世界でただ1人愛した男性昴さん……」
「止めろ……智花……うわぁあああああああああああああぁっ!!」
長谷川昴は“転校”した。店の中にいた誰もが長谷川昴について“転校”したと言うのだから、それはもう“転校”以外の何でもなかった。
「チッ! 長谷川昴……オメェの方が先に逝くとはなッ」
一方通行は息が絶え絶えになりながら“転校”した友を悼んだ。
「だが、安心しな……俺も……すぐに……」
焦点の合わない瞳で荒い息を繰り返す一方通行。
「みんなみんな、仲良しカップルで一緒にお風呂に入っているのが羨ましかったり。と、ミサカはミサカは期待に瞳を輝かせながらこの人を見たり」
ミサカが一方通行をキラキラした瞳で見る。このパターンは……。
「ミサカはミサカはあなたと一緒にお風呂に入って背中を流しっこしてみたかったりぃ〜♪」
ミサカは満面の笑みで微笑んだ。
「おいっ、智樹。それからニンフ」
一方通行は私たちに声を掛けた。
「時々でいい……このクソガキの様子を見てやってくれ……」
真っ白に燃え尽きる直前の少年は瞳が細まりながら、ミサカの肩を掴んだ。
「俺がいなくても……しっかり生きろよ……クソガキ…………ブハッ!?」
その言葉を最後に一方通行は激しく吐血。
後ろにひっくり返り、そのままもう2度と動くことはなかった。
その眠った顔はとても穏やかだった。
「幼女のために死す。幼女の看取られて死ぬ。紳士としてこれ以上名誉な死に方はあるまい。長谷川昴も一方通行も己が死をあの世でさぞ誇りに思っていることだろう」
会合の2人の参加者の死をケイネスはそう述べて締めくくった。
「まっ、アンタはそう考えるわよね」
「ハァ〜。惜しい同志を2人も失っちまった」
7人で始まった会合は2人が星に還り、2人の幼女は帰宅した。現在残っているのは夫とケイネスと私のみ。何とも面倒臭い会合になってしまった。
「我々は2人の勇敢なる同志を失ってしまった。だが、まだ本日の会合を終わらせるわけにはいかぬ。何故なら私の悩みを聞いてもらうのが本日の会合の主旨なのだから」
「最初に出会った時から思ってたけど、コイツって本当にウザいわよね」
「鳳凰院・キング・義経並の自己主張だよな」
気のせいか地上に降りて時間が経てば経つほど変態な知り合いばかり増えていっている気がする。何でこんなことになってしまったのやら。
「で、お前の悩みってのは何だ?」
もう帰りたくなったらしい智樹がケイネスに話を促す。
どうせ幼女満載の女湯を覗きたいとか小学校の女子更衣室を覗きたいとかくだらないことに決まっているのだけど。
「実は私は……恋に落ちてしまったのだっ!」
ケイネスは両手を広げた。自分に酔った仕草。
見せ付けられている私たちの瞳は果てしなく白い。
「知りたくないけれど、一応訊いておくわ。誰に恋をしたの?」
聞く所に拠ると、コイツには成人女性の婚約者がいるとかいないとか。この変態は婚約者を放っておいて一体どこに突き進むつもりなのやら?
「私は……超一流の魔術師である私は……許されぬ恋をしてしまったのだぁああああぁっ!!」
大げさに嘆いてみせる超一流の変態+魔術師。
「だから誰に恋をしたのよ?」
「聞きたいのかな?」
「どうせ語るつもりなんでしょうが」
ウザい。まじ、ウザい。
「前置きは良いからさっさと喋りなさいよ」
二次元美幼女への恋だと判明した瞬間に全力で攻撃を加えよう。
今後の方針を心の中で密かに立てながらケイネスの返答を待つ。
「私が恋をしてしまった少女。それは……」
ケイネスは勿体付けて間を置く。
そして、人格さえまともなら超一流の魔術師はとんでもない告白をしてくれたのだった。
「我が宿敵のアインツベルン家の血を引く小学生魔法少女イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだっ!!」
「アインツベルン、だと?」
「小学生魔法少女?」
私と智樹はそれぞれ別の部分に引っ掛かりを覚えた。
「フッ。私の思慕相手を知ってしまった以上……私の恋の成就を手伝ってもらうぞ」
「「えぇえええええええええええええぇっ!?」」
私と智樹の声が揃う。
解散にするつもりが逆に私たちのやることが増えてしまった。
果たして私と智樹はこれからどうなってしまうのだろう?
幡ヶ谷の大空からデルタと昴と一方通行が笑顔でキメながら私たちを見守っていた。
「真奥さん、私……グリーンランドでも一生懸命働きますからね♪」
「俺は真面目に働いていただけなのに……何で同じ日に2人も店内で天に還るんだぁあああああああぁっ!!」
昴と一方通行の血で真っ赤に染まった店内を見ながら若い男性店員が泣いていた。
了
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