恋姫異聞録172 − 武舞 第三部 − |
二股にわかれた鏃は、ライデン瓶の+と−に繋がれ、人体に突き刺さることで通電、蓄えられた電気を放出する
後方から現れた人々の手によって作られた大量のライデン瓶は、矢に付けられ次々に警備兵に運ばれ秋蘭たちの手へと届けられる
「我が娘の作りしこの鏃、貴様等に引導を渡す雷火と心得よ!」
次々に襲い来る騎兵に一歩も引かず、兵を引き連れ矢を放つ秋蘭は、後方に涼風と美羽が来ている事を昭の言葉で知ったのだろう
まるで昭のように、互いの感情が通じ合い感化しあうように、表情を表に出さぬ秋蘭が怒りの形相へと変わっていく
ここから先には一歩足りとも進ませはしない、進みたくば私の屍を越えて行け、容易く抜けると思うなとその身から発する極寒の殺気が語っていた
「静電気と言ったわね、確か竹は雷を通さないはず。あの武器は竹で出来ているようだけどどういうこと?」
「流石は華琳様、戦場を良く見て居らっしゃいます。全ての答えは、鳳統が我等の城に忍び込んだ時より予測された事」
稟が言う予測とは先ほどの迷当の考えと同じ、鳳統が魏の城に潜り込んだのは自分達が使おうとしている火薬がないか
有るならば戦の方法を変える必要がある
だが、敵の城には無い。ならば大量に生産し、騎兵に持たせ、戦場を火の海へと変え魏軍を一気に滅ぼそうと思案して居るはずだ
「しかし、此処で軍師として先を見た時、自分達が使う武器の恐ろしさがどうしても鳳統の心に歯止めを掛けます
こんなに恐ろしいモノを広めるわけには行かない、広めればせっかく統一をしたとしても簡単に国を内部から転覆されかねないと」
次々と聞こえる爆発音と血雨に軍師とは思えぬ瞳の鋭さと冷酷で亀裂のように口角の裂けた笑を見せる稟1
「恐れは思考を狂わせる。情報漏洩を避けるため火薬を作る職人の数を限定し、限られた時間で大量に火薬を作り
竹筒へ詰める作業を行わせることになる。一体職人は何人居たのか、百ですか?二百ですか?」
大軍勢である騎兵隊、その殆どが火薬を着けた矢を放ち、此方へと攻撃をする様子に、魏の兵達が肉体を四散させ地面を血で染める様に
稟は、大きな笑い声と共に、敵騎兵隊、そして炎の壁の先に居るであろう鳳統に蔑みの眼を向けていた
「一人あたり幾つの矢を作らねばならないのか、間に合うはずなど無い。杜撰な作業では火薬を完全に密封出きているはずがない
密閉出来たとしても、必ず何処かに穴が出来る。例えば、その導火線などにね」
竹に繋がれた導火線は黒色火薬を芯にして絶縁体である紙を巻かれて作られているのだが、鳳統は高価で大量に手はいらぬ紙を使わず
薄く麻や綿で巻いただけ。容易に芯薬の黒色火薬に引火してしまう
「それに、間に合わないのですから持っているはずですよ。革袋か、それとも何か他のモノか。足りなくなった時、自分で作る為の筒と火薬をね」
ゆっくり此方に向かう騎兵へ指をさした稟の予測を肯定するかのように、騎兵の腰に携えた革袋が秋蘭の放ったライデン瓶の放電で大爆発を起こす
「クククククッ、予備の竹筒や火薬を容易してるから大惨事ですよ。怖いのならば使わぬのが身のため、過剰な力は身を滅ぼします」
なおも笑い続ける稟は、次々に指示を出して後方から警備兵を呼び寄せ矢を前線に送り、陣形を整え直していく
「まさか雷を操るとは、真名の示す通り天から授かりし鬼才。王と同じ天命を持つ者でありながら異なる存在」
水鏡の眼に映る稟と言う異形の存在は、彼女の不感症とも言える心に大きく痕を残すのだろう
畏怖と羨望、そして興味が入り混じった表情で稟を見つめていた
「民を連れて来るなんて、意味解ってるのっ!?」
「元より死は覚悟の上、王に勝利を捧げられるならば、私の命など路傍の石ころのようなもの」
桂花の批難と心配の混じった言葉に対し、稟は更に更に口角を深く裂けるように釣り上げ笑う
「私が答えを導くまで半刻も不要、呂布はお任せいたします昭殿っ!」
ビキッと額に浮かび上がる血管と共に、稟は全開で己の能力を使いはじめた
今手に入る全ての情報を、先ほど見た諸葛亮の戦闘法を、目に入る全ての情報を脳内に叩きこみ、まるで実在するかのように先の戦場を脳内で創りあげ
数百手先を導き出していく。代償は、大量の鼻血。ダラダラと流れ落ちる鼻血。脳がオーバーヒートするのを避けるため
自然と身体は、防衛本能として鼻血と言う冷却法を選び出す。明らかにオーバーロードであり、脳は耐えられぬと悲鳴を上げるが
稟は眼にはいらない、そんなことは知りもしない、壊れるならば勝手にしろと他人ごとの様に、答えを導き出していく
「さあ、修羅兵よ。舞王と舞えっ!!」
眼が忙しなく動き、限界で視界がぼやけ始めた頃、目線の先に佇む魏の一文字が震えていた
怒りとは違う、悲しみとも違う、ましてや歓喜などではない
それは、人にとって大切なモノを危険に晒した時に感じる自然な感情
己の肉体を、己の心を、己の命を危険に晒した時と同様、いやそれ以上のモノを危険に晒した時に感じる恐怖
己の心体魂よりも優先されるもの、それは愛する子であり未来への系譜
恐怖は、何時しか理不尽な運命への怒りへと変わり、怒りは何時しか勇へと変わり、己の心体魂を越え愛する者を守る大盾へと変わる
「・・・だれ?」
呂布の前に居た、苦悶の表情を浮かべる者はもう居ない、凶悪な形相をした人間はもう居ない
居るのは、ただ強く、強く、負けるものかと剣を握る男の姿
一人の父親の姿
「大将、お待たせしました。俺らを使ってください」
「我等、昭様の四肢なれば、例え呂布であろうとも退くことはありません」
「命令を頼みまーす!行くぞーっい!!」
呂布の目の前に立つのは張燕こと統亞、于毒こと苑路、張雷公こと梁、そして更に
「我らが恩を返すは、今を置いて他に無し。四肢なれば四つの肉と一つの魂。我、赤馬が四肢の一つとなりましょう」
鉄刀【桜】を二つ構え、昭の側に立つは傷つきし者達の邑長、張奐こと無徒
兵隊の混乱を収めた四人が昭の側に立ち、呂布へと武器を構える
先ほどの凶悪な人物とはまるで別人のような表情と雰囲気を持つ昭に、誰だとつい口にしてしまった呂布は、現れた四人に対し心を乱すこと無く武器を構え
地面を蹴り、眼前の敵を討ち滅ぼすべく弾丸のように前に飛び出した
「梁、俺の言うとおりに叫べ」
「分かりましたー!行くぞ野郎どもーっ!!」
巨体で鉞をもつ張雷公の得意なものは、まるで雷のような大音声。戦場に響き渡る声は、張三姉妹の拡張された声を上回る
思わず空気を震わせる衝撃波のような振動に片目を閉じてしまう呂布であったが、肉体は畏れるなと前へ突き動く
守る者が居るのは自分とて同じ、何を畏れる事が在ろうかと、己の意志を込めた方天画戟が空を切り裂き一直線に昭へと襲いかかった
「さんっ!ろくっ!ななぁっ!!」
華琳達本陣の前、炎の壁の間で壁が揺らぐほどの大音量が響き渡る
梁の声と共に、昭の側に居る男達が一斉に膝を軽く曲げ、小さく跳ね、昭の鉄刀【桜】に武器を重ねる
後方の兵達も同様に、昭達四人の背後に取り付き武器を合わせ、武器が届かぬ者は前の兵の背中を掴む
同時に兵達も同じ動きを、膝を曲げ小さく身体を浮かし、武器と身体を重ねていた
「ぐぅっ!?」
方天画戟が当たった瞬間、感じる強烈な重みとすり抜けるような軽い相反する手応えに、呂布の顔は驚きと困惑に包まれた
「つぎぃ!ごとよん、あときゅうだぁっ!」
インパクトの瞬間、更に後方の兵達が前で身体を宙に浮かす男達の身体を一斉に後方に引っ張り呂布の一撃を受け流すようにして通らせていた
だが、呂布も一撃で攻撃は終わらない。返す刀で此れなら避けられまいと密集する場所に居る昭の頭上に刃を落とすが
「・・・またっ!」
引っこ抜くように梁が昭の身体を掴んで自分の元へ引張り、通り過ぎる方天画戟に上から押さえつけるように無徒の刀が振り下ろされ
武器を固定された呂布へ、統亞と苑路のナイフと三尖刀が襲いかかる
「うあああああっ!!」
無理やり武器を引っこ抜き、敵の攻撃に躯を削りながら捻るようにして後方へ脱出すれば、眼の前の兵達の姿が先ほどと変わっていた
「まさかテメェらがくるとはなぁ、戦は嫌だったんじゃねえのかよ?」
「全くだ、徴兵免除された警備兵が、態々好き好んで戦場に来るとは、気でもふれたか?」
統亞と苑路が現れた警備兵達に皮肉めいた言葉を吐くが、その顔は笑っていた
警備兵達の姿に、武器を持ち呂布の前に立つ姿に、最後の戦に対する覚悟を見たのだろう
「遥か後方には、我等の邑の者まで居るでは無いか。立つことすらままならぬと言うのに」
無徒の言うとおり、遥か後方に旗を掲げ此方に近づいて来る人々の中には、魏の旗ではなく董の旗を掲げる人々が
歩けぬ者は、腕が無い者の背に背負われ、眼の視えぬ者は前を行く者の服を掴み、聞こえる戦場の音
二度と聞こえることが無いようにと願ったはずの死と生の声が入り乱れる戦場に、音を頼りに足を進めていく
【馬鹿が】と吐き捨てるように呟く無徒は、握りしめる刀に己の全てを預けるがごとく、赤壁でみせた鬼神の形相と殺気を放つ
再び呂布の攻撃が繰り出されるが、瞬時に昭が眼を使い呂布の動きを予測、梁が全兵に伝達、一斉に訓練され続けた動きを
血反吐を吐きついて行けずとも無理やり何度も繰り返えした、雪蓮の眼に蓮華の眼に、薊の眼に映ったあの訓練の光景を
天子、劉協の前で見せた息の合った動き、まるで全てが一つの生物のような、意志を持った巨大な生き物のように
戦神の舞を使わず、戦神の舞と同様の動きを、同様の意志の繋がりを、叢の一文字を三百の兵が体現して見せた
「じゅうにぃ!さんとよんをまぜろぉ!あとはごだぁ!!」
横薙ぎの攻撃を全員が右足を蹴るように地面から放し、崩れ落ちるように倒れれば、頭上を通り過ぎる方天画戟
スプリットと呼ばれるダンスの動で方天画戟を避け、フロアーと呼ばれるテクニックの一つ、両手を地面に付き呂布へ向けて一斉に蹴りを突き出す
「今度は・・・下っ!?」
間一髪宙に避け、方天画戟を上段から打ち下ろそうとした時、後方の兵隊達が一斉に前の兵達、そして昭達を後方へと引張り
その場から一斉に消え去るように後方に、文字通り飛んでいた
全ての兵が舞を、梁の言葉に従い一糸乱れぬ動きを見せる。良く見れば、後方で詠が全てを理解したのだろう兵に対して次々と指示を行っていた
「風、他の兵は頼んだわ。三百の兵は、全て昭の肉と魂。僕は頭」
「はいはいー、了解なのですよー。存分にあばれちゃってくださいねー」
着地する呂布に突出される兵と昭達将の一斉の突き。後方で引っ張った兵達が、体勢を崩し着地する呂布に対し一斉に前へと押し出せば
呂布は無理やり武器で払うが、幾つかを身体に受けぼたぼたと落とす赤い血で地面を染めていた
「お前が一人で三万の兵と同等だと言うならば、この三百の兵が、後ろで見守る娘たちが俺の力だ」
刀を二振り両手に、呂布の前に立つ昭は、呂布から発せられる気迫に退かず、それどころか前へ前へと兵達と共に突き進む
「一歩たりとも進ませはしないっ!!」
始まるは、昭と兵達による群舞
全員が同じ動きで呂布の攻撃を見切り、一つの生き物のようにして仲間と手を取り、身体を引いて、更には押して武器を避ける
「虚が混じるわよっ!目線がズレたっ!!」
先ほどと同じく足の動きを変化させ、フェイントを混ぜようとする呂布の動きを詠が見切る
目線を、武器を持つ腕を、昭の眼で追えない場所を、己が覚えた拳闘を軸にして呂布に反映し予測する
体力に限界が来れば前後が入れ替わり、新たに加えられた兵が前線で昭と共に武器を重ね、攻撃を防ぎ、前に足を踏み込み武器を突き出す
「コレが、僕達の群舞っ!最終演舞【叢雲】よ!!」
一人で三万の呂布に対し、たった三百の剣、たった三百の兵、だがそれは唯の三百ではない
心と肉体、そして魂を一つにした三百
一人では手にすることの出来ぬ力、一人では手に入れることのない繋がり、それは一をニや三にではなく、百、二百の力へと変え
一人では到達出来ぬ領域へと、群れを叢へと、唯の雲を落雷を放ち雹を降らせる積乱雲へと変えていく
攻撃を避けられ、四方から攻撃を受ける呂布
敵は此れほど近くに居るというのに、此れほど多く、武器を薙げば容易く当たるほどだというのに
武器は空を切り、大地を削るのみ。次第に呂布の表情が苦悶へと変わる
虚実を混ぜた攻撃が効かない、己の力で押し通せない、実態の無い雲に武器を振り回し、分厚い鋼鉄の壁を相手に武器を当てている感触
「たくさん・・・重い・・・」
呟く呂布は、霰のような攻撃に一度顔を伏せるが、再び顔を上げ己の背を支える小さな掌を思い出す
【お前は沢山、居る。自分は一人だけ。でも、その一人は、この世界の人間を集めても足りないくらい、お前の沢山の手よりも大きく強いものだ】
真っ直ぐ突き刺さる視線から呂布の感情が流れ込んだ昭は、前へ飛び出す先程よりも加速した呂布に眼を大きく開けば、詠の顔が視界に入る
「知るかぁっ!!」
加速して突きを繰り出す呂布に対し、昭は刀を手放し微塵も恐れず前に足を踏み出した
交差した瞬間、誰もが身体を方天画戟がつらぬいたと眼を覆いそうになったが、弾けたのが呂布の顔
詠の動きをそのままに真似て、突き出された方天画戟に合わせ右足を踏み出し、左肩をつま先に重ねるようにして身体を捻り
頬の肉を削り取られながら伸ばした腕と十字になるよう放つクロスカウンター
「俺には、美羽に涼風、俺を信じる秋蘭が居る。秋蘭は、誰よりでっかい手で、何時だって俺を支えてくれてるんだっ!」
完璧に真似たクロスカウンターだが、昭の腕力ではたいした威力が無い。握力は有ろうが、真似ただけの動きでは力が充分に伝わらない
拳を出した昭自身が呂布と同じようによろけていた
「恋どのーっ!!」
背後から響く陳宮の声に、呂布は踏みとどまり隙ありとばかりに襲いかかる兵を切り伏せる
「まけ・・・ないっ!」
体勢を立て直し、武器を握る手に力が篭る。眼を潰せば終わる。目の前の男を討てば終わる
呂布の心が昭を討つことのみで染まった時、目の前から昭の姿が消えていた
「恋ーっ!!アンタの相手はこの僕よっ!!」
「っ!?」
気がつけば、昭が居た場所、自分の目の前からは、後方からこちらへ一直線に走ってくる詠の姿
だが此れは囮だ、必ず何処かにヤツが居る。ヤツを潰さなきゃ、この三百の兵を完全に黙らせる事は出来無い
呂布は統亞達や無徒と兵達の攻撃を払い、昭を探す。必ず何処かに居る。下手に攻撃をすれば、隙を必ず突いて来る
先ほどの武器を捨てた昭の拳は、強く呂布の心に刻まれていた
「よそ見してて良いの?遠慮無く行くわよっ!!」
右にも左にも、ましてや後ろにすら姿の無く、気がつけば詠が目の前に
身体を屈めて拳を固め、思い切り腕を後ろに撃鉄のようにして回し身体を捻る
踏み出した左足で思い切り地面を蹴り上げ、身長差のある呂布の顎へと飛び上がるようにして拳を突き上げた
「・・・遅い」
首を横に傾けられ、盛大に空振った詠。兵達は凍りつく、呂布の目の前で完全な無防備
払った方天画戟を戻すように横薙ぎで払うのは容易く一瞬だ
兵達に緊張が走った瞬間、無徒は、払われた武器を捨てて己の身体を盾に無理やり間に入ろうとしたが
「来なくて良い。そこで黙って見てなさい」
視界に入った白刃が迫る詠の顔に微笑みを見て無徒が呆けるのは一瞬
「合わせなさいっ!」
詠は地面に足を着けると同時に再び右腕を拳を握りしめ撃鉄のように引き上げれば
「応っ!」
上空に、空へと舞い上がって居た昭が身体を思い切り反らせ、半円を描き頭上へと両膝を落とし
視界が歪んだ呂布は、振り戻した方天画戟はあらぬ方向へ振りぬいた
同時に同じく半円を描くように腕を思い切り振り回し顎から強烈な一撃が、まるで巨大な鉄槌を叩きつけられたような衝撃が走り
視界は暗闇へと沈んで行った
背後から自分の真名を呼ぶ大切な者の声が耳に響いていたが、呂布はか細い声で大切な者の名をか細い声で呼ぶことしか出来なかった
「無茶な事させるよ、俺に素手で殴れなんて・・・」
「今の【月輪】って名前でどう?」
「聞いてるか、俺の話?」
「アンタこそ聞いてる?それとも眼で訴えないと理解できないの?」
唖然とする兵達。詠は、呂布との戦いを後方で見ながら、昭の視界に自分を入れ込み己の意志を伝えたのだ
拳で呂布の思考を導き、固定しろ。自分の使った技を使え、お前なら出来るはずだと
友人であるからこそ出来る技。出来る無茶苦茶な提案
即興で群舞の締めに合わせ技を使い、言い合いのような事を始める詠と昭に、兵達は戦場であるというのに吹き出していた
「さあて、これで士気も元通りね。秋蘭が後ろで派手にやってるけど、此方も負けてられないわよ」
「ああ、格好悪い所なんて見せたくないからな」
「後、怒らないでね。皆来てるけど・・・涼風とか」
視線をずらし、遠くを見る詠に対し、昭は凶悪な顔を見せてにっこり微笑む
「無理だ」
恐らく知っていたであろう詠は、昭の怒りを肌で感じ、同時に再び自分達の右側から爆発音が響き身体を飛び上がらせていた
爆発音は、前方で戦う凪達の耳にも届いていた
「策は上手くいったようだ、今頃、曹操は肉片になっているかもしれんぞ」
鞭のようにしなり、凪に襲いかかる厳顔の武器【桃厳狂】
一度厳顔が前に踏み込めば、乱撃と言う言葉がそのまま当てはまるように、嵐のような剣撃が壁のよう迫ってくるのだ
変化する武器の動きに凪は攻撃を仕掛けられず、皮膚を削りながら歩法と体捌きで避け続けていた
炎の壁を背に、魏の兵達は一歩も退かずその場を固持し続けていたが、厳顔の言葉に動揺が走る
想像が希望から絶望へと足を向ける。誰もが士気を下げ、苦戦する自分達の将達の姿に敗戦と言う文字が過った時
「勝機っ!」
凪の呟きと同時に、後方から自分達の仲間、梁の大音声が鳴り響き火炎の壁を歪ませ、呂布と戦う雲兵達の姿を見せた
昭達が見せる群舞と、後方から響きわたる張三姉妹の歌声が届き、兵達に王の生存を確信させ、兵達は己の心を鼓舞するように【曹魏】と
声は紡がれ、重なり、まるで音楽となり凪達の居る場所を包み込む
「ぬぅ!?」
突然繰り出される凪の攻撃。先ほどまで厳顔の攻撃に対して手も足も出ず、防御に徹するのみであったはずが
凪は急に身体を思い切り捻り、振りかぶるような乱暴な動きで拳を振り回し、厳顔へと放てば
厳顔は、上半身を逸らして避け、武器をしならせ反撃に出ようとした瞬間、顔が凍りつく
「くっ、このっ!」
見え見えのフック気味の拳を避ければ、身体が眼前でくるりと独楽のように周り、一瞬だけ凪の背が視界に入り突然現れる後ろ回し蹴り
武器を握ったままであり、腕を上げて防ぐことの出来ない厳顔は、更に身体を倒すようにして蹴りを避ければ
凪は、着地と同時に足刀を二つ、前に前に槍のように付き出し、逃れるように後方にはねた厳顔に再び独楽のように回転して前へと間合いを詰める
襲いかかる裏拳に対し身体を屈め、しなる剣を合わせれば凪の身体はそのまま回り、身体をたたみ、下段回し蹴りへと変化する
「がっ!」
太ももに突き刺さる凪の踵。よろける厳顔は、歯を食いしばり、更に追撃を自分に入れてくるはずだと武器を手に倒れ込みながら剣を横薙ぎに振るえば
「・・・・・・こ、このっ!!」
虚しく空を切る厳顔の大剣。唖然とする厳顔
凪は、厳顔の反撃を敏感に感じ取り、スタスタと軽いステップを刻んで後方に歩くようにして下がっていたのだ
更には、挑発するように足の裏と拳を当てて、右構え、左構えとスイッチし掌を厳顔に向けて折り曲げれば
厳顔の額に分かりやすく、怒りを表す血管が浮き上がり、握る武器がギシギシと音を立てていた
「舞のような動き、今までその武を使わず防御に徹して居たのか、儂を馬鹿にしているのかっ!」
「・・・」
無言のままの凪に、厳顔の苛立ちは増すばかりであった。何故ならば、先ほどの詠春拳とは違い、まるで舞っているかのような動き
武で有ることは間違いない。だが、その動き全てが幻惑するような、目の前で実直な動きで武を体現していた将からは、想像のつかない動きであった
厳顔が矢を放てば、構えを瞬時にスイッチして躱し、スッスッと足を軽く動かして間合いを潰し、攻撃の出始めを足刀で潰す
剣の間合いで武器を振るえば、凪は拳闘のヘッドスリップやパリング、詠春拳の歩法を混ぜ
更には、厳顔の武器の腹を狙い腕を当てて滑らすように軌道を変えて、交差法のようにして拳が飛んでくる
「腕が触れれば此れかっ!!」
中距離に近づけばまた大振りの攻撃。対応して交差法を選択すれば、必ずと言っていい程、凪は厳顔に背中を向ける
コレが厳顔に取って最もいやらしく、気持ちが悪く、悍ましい攻撃方法であった
実際、組手などで敵に背後を見せる後ろ回し蹴りや裏拳は、無防備で反撃を食らいやすいように見えるが
対峙してみた時、此れほど恐ろしい攻撃方法は無い。何故ならば、目の前に背中があり、此方が先手をとっているならまだしも
攻撃の合間等に入れられれば、急に背中から上段、中段、下段の何処から襲い来るか予想の出来ない攻撃が飛んでくるのだ
正面ならば、肩の動き、足の動き、挙動で攻撃をある程度予測出来できようが、これでは避ける事はおろか、防ぐこともままならない
かと言って、間合いを潰し、近づきすぎれば詠春拳特有の散弾銃のような連撃が襲いかかるため、どうしても厳顔の手は途中で止まってしまう
「何だと言うのだ、その武は一体!!」
「・・・名は、そうだなお前たちの道を断つ拳【截拳道】とでも名付けようか」
「截拳道だと」
そう、詠と春蘭の協力で葉門士気詠春拳を作り出し、昭との訓練によって手にした龍佐の拳、更に秋蘭から授かった舞の蹴り技
全てを混ぜた事によって生み出されたのは、李 小龍の創りだした武術【截拳道】
厳顔が舞っているようだと言ったのは間違っていない。かつての兄弟子達は、彼が作り上げた截拳道を見てこういったようだ
【まるで舞を舞っているようだ】
皮肉にも取れる言葉だが、言葉の通りにとれば、まるで舞っているように連続した攻撃がとどまらず、一連の流れを持って居るとも言える
「僅か数ヶ月で此処まで力をつけるとは、だが面白い。儂の攻撃がこのまま終わると思うなっ!」
しなり、空気を切り裂き、衝撃波と破裂音を響かせ襲いかかる厳顔の手にする桃厳狂
だが、凪は一切踏み込みを見せずに回し蹴りを一つ
完全に厳顔の剣筋を見切り、しなる剣に確実にそして力負けすることなくインパクトする凪の蹴撃
弛んだ厳顔の武器に対し、凪は冷静に踏み込みと同時に切り裂くような左のフィンガージャブ
截拳道の異質な技と言えば此れだろう。名の示す通り、素早い目突きにて敵の攻撃、挙動、視線を断つ
当たるわけではない、当てるわけではない、手を開き力を抜き、加速させることで凪の指は剣速を遥かに超える
「虚かっ!!」
思わず反応し弛んだ剣を戻せず防御の為に腕を上げたまま硬直してしまう厳顔
凪はその一瞬を見逃すことは無い
踏み込み、返す右拳で厳顔の腹を抉る
「ゴフッ!?」
直ぐ様拳を引き、凪の右拳はそのまま同じ場所を、脇腹を破壊する為に再度、厳顔の脇腹に襲いかかるが
「儂の腹を壊そう等とっ!生ぬるいっ!!」
身体を折りたたみ、戻した剣で腹に防御を固めれば、凪の拳は直前で軌道を変えて厳顔の顎を削り取るように直撃した
強烈な一撃に意識が僅かに飛んだ厳顔は理解が出来なかった。確かに、凪の拳は真っ直ぐ腹を狙っていたのだ
だというのに、凪の拳は防御を固めた瞬間に軌道を斜め上に変えて顎を撃ちぬいた
此れこそが截拳道の真髄。敵の攻撃を断ち、変幻自在に、自由に、水のように
雲がその姿を千に変え、万の姿に化けるが如く、凪の拳に決まった軌道などありはしない
「常に己であれ。己を表現し、己を信頼しろ。これが、私が隊長の元で学んだ事だ」
崩れ落ちる厳顔は、思い切り足を踏みしめ身体を力で戻し、近距離の凪へ頭突きを繰り出せば
凪は右腕を横にし頭突きを受け止め、左の掌底から右フックへと繋ぐ
崩れ落ちる厳顔を横目に、魏延は一度歯を食いしばり目の前の真桜へと武器を乱打するが
「ようやっとノッてきたようやな」
「凪ちゃんのアレは、音楽に乗らないと出来無いから仕方ないのー」
漆黒のまるで甲羅のような槍に着けられた甲殻に己の武器が一切通用しな事に、何時しか苦悶へと変わっていた
「こ、これだけ攻撃してると言うのにっ!ヒビさえ入らない!?」
そう、先程から嵐のような厳顔の乱打に近い攻撃の暴風が襲っていると言うのに、後ろへ下がったのは最初だけ
今は、攻撃を受けながら前へ、前へと一歩ずつ間合いを詰めてくる真桜と沙和に、魏延は焦りと困惑で染まっていた
「アホウ、あったりまえやろ!この玄天の甲殻は玉鋼と気の流れを一定に導く特殊鋼材で出来とるんや、ちょっとやそっとで壊れるかあ!」
真桜の言うとおり、先程から打ち出される豪天砲の気の塊と鉄杭を受け止め、受け流し、鈍碎骨での金棒の一撃さえも弾き返す
「もうちょっとなのー真桜ちゃん」
「まかしとき、ウチとコイツなら何者も通さん盾になれるっ!」
だが、それだけでは魏延に納得がいくわけが無い。何故なら、明らかに力の劣るはずの敵が、己の攻撃を受けているとはいえ、前に進んで来るのだから
「な、何をやっているっ!!貴様にこんな力があるはずがっ!?」
攻めているにも関わらず後退してしまう状況に僅かに狼狽え始める魏延に対し、真桜はニヤリと笑う
「アンタの言うとおり無いな。でもなあ、ウチにはこの玄天豪雷槍が、大切な人が何時だって付いとる!」
凄まじい機械音を立て始める真桜の新たな武器、玄天豪雷槍は、螺旋状の穂先が全てを吸い込むような回転を始め更に前へ前へと突き進む
「いい加減に、砕けろっ!!」
思い切り鈍碎骨を振りぬいた後に、直ぐ様、豪天砲の引き金を引けば、辺に広がる光と共に魏延は地面に吹き飛ばされていた
「・・・!?」
砂煙を上げ、地面に転がる魏延が見たものは、槍の先端を天に掲げ、まるで雷を逆に地から天に放つかのように
「チィっ!治まれぇっ!!」
凄まじい回転をする穂先から気の塊を解き放つ真桜の手にする玄天豪雷槍の恐ろしい姿であった
説明 | ||
武舞 三部でございます ようやっと出せました。色々と出せました 長かったなー。とりあえずは満足です 今回、合わせてお聴き頂きたい曲は 昭の所を【拍手喝采歌合】 http://www.youtube.com/watch?v=V9m3OtwFkhw 凪の所を【Pushing the sky 】 http://www.youtube.com/watch?v=LiUjOFYDiBE 真桜の所を【バルサ走る】 此方はどこにも無かったので、精霊の守り人音楽編を持っていらっしゃる方は合わせてお聴きくださると良いかと思います 眼鏡無双の方は楽しんでいただけたでしょうか? まだプレイしていないという方は、此方の献上物からどうぞ http://poegiway.web.fc2.com/megane/index.html フリーゲームですので、無料で楽しむことができます 感想などを送っていただけると喜んだりしますw 何時も読んでくださる皆様、コメントくださる皆様、応援メッセージをくださるみなさま、本当に有難うございます。これからもよろしくお願いいたします |
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コメント | ||
凪の動きから怒りの鉄拳を思い出してしまった。そして案の定ブルース・リーだったww絶影さんとはいい酒が飲めそうww(やはから) 命掛けで駄目なら魂を…それでも駄目ならそれ以上のものを…恐ろしい攻撃です…さて、蜀に更なる逆転の策はあるか…(アーバックス) >口角の裂けた笑を見せる稟1これだと稟2とかがいる事になっちゃいますよ(笑)いくつかの勝負に決着がつきましたね。詠の参戦は予想外すぎましたが。そして凪、截拳道ってあ〜た。もうここの武術には驚かされっぱなしですよ。(KU−) 稟ちゃんの思考に追いつかないのは分かるけども、代償が鼻血ってところに吹いたww 真面目なシーンなのにww いや、稟ちゃんだし、仕方がないことだけれどもww(神余 雛) ま、まぁ後で大人しく怒られようね詠ちゃん。そしてキタキターマオえもんのオーバーテクロノジー!!!確かに秘密を知るものは少ないほうがいいですからねぇ、作業員は増やせなかったでしょうね。(shirou) 今回の凪はかっこいいなぁ〜。さて、とうとう反撃開始ですね。これからも応援しています。稟、戦が終わったら・・・(破滅の焦土) ここから魏軍の反撃が始まるのですね。これからも、目が離せませんねぇ(ロドリゲス) |
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