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俺達は現在国道を走っている。三時間半は経ったな。横転した車、炎上している軽トラ、そして屍。とりあえずこの道を辿る事にした。

 

「なあ、俺少し腹減って来たんだけど?」

 

「我慢しろ。富裕層の癖に。」

 

田島が軽く俺を睨んで来た。そんなに裕福でもねえよ。非番の時は生活費の為に他の日雇いの仕事をしてるんだよ。俺の身にもなってみろ。『夜の運動』も一週間に何度かする破目になる。

 

「んな事ねえよ。俺だって家事とかやってんだからな?」

 

掃除と言うか家事の一部は最早傭兵時代に染み付いた生活習慣病としか言えない物だ。流石に女の部屋に本人の断りも無くズカズカ入り込むなんて無粋な真似はしないが、掃除の時となると話は別だ。掃除の時、リカはまるで俺が別宇宙から来た未知の生命体に変異したかの様な目で見て来る。

 

静香はこの事に関しては職業上敏感であり、それなりに出来る。まあ、極稀にドジを踏む事はあるが。だが、他の所謂『家事のさしすせそ』の『そ』以外は壊滅的だ。洗濯機から紫色の泡が溢れるなんて何をどうしたらそうなるんだよ・・・・

 

「そうよ、田島。私の代わりに彼と静香が家事をしてくれてるから助かってるの。富裕層って言っても、他より少しってだけだからさ。あ、あのショッピングモール行ってみましょう。あそこなら食料とか他の必需品も絶対見つかるし。」

 

「後ろに駐車した方が良い。あんまりおおっぴらにしてると碌な事にならない。」

 

後ろの方が車が多かったが、その方が都合が良い。他の車に出来るだけ紛れ込ませれば奪われる心配も無い。だが、問題はエンジンだ。キー無しでエンジンをかけた物だから、一度切ってしまえば次に掛かる保証はどこにも無い。

 

「リカ、大丈夫なのか?」

 

「出来る事はする。無責任な約束はしないわ。」

 

結んだワイヤーを引き剥がし、エンジンが止まった。

 

「俺は先に降りる。武器は持ったままでも良いよな。二人はまあ、どうぞご勝手に。」

 

田島は手持ちの武器(MP5、八十九式、手榴弾など、軽量の銃器)を積んであるダッフルバッグに入れられるだけ入れると、それを持って非常口付近で待った。取り残された俺とリカの間に沈黙が流れた。防弾ベストと手袋を外し、アサルトスーツを脱いで作業着みたいに袖を腰回りに結んだ。多分これは脱いだ方が良いな。汗で途轍も無く気持ち悪い。リカも同じ様に気持ち悪そうに自分の体を眺めた。

 

「リカ。」

 

「ん?」

 

「分かってると思うが、もし俺が」

 

「言わなくても良い。分かってる。」

 

俺達は目を閉じた。唇を合わせるだけの、ハードじゃないキス。ただそれだけの筈なのに、まるでヤクでもキメた見たいに心身共に疲労が吹き飛んだかの様な体が軽くなった。頭も俗にいう花畑状態に陥っている。車内でなければ何の躊躇いも無くどちらかが押し倒して更に先へ行っているだろう。少なくとも上はお互い大して重ね着してないしな。が、俺の考えとは裏腹に、先に離れたのはリカだった。口角についた唾液を舐め取るのがたまらなくエロい。

 

「今はまだ駄目。もう少し我慢して。」

 

「へいへい。俺だってTPOぐらい弁えてるっての。」

 

俺が先頭に立ち、USPを引き抜いた。ドアノブを回して中に入った瞬間、殺気を感じ、俺は瞬時に身構えた。扉を開いた時に隙間から溢れ出た日の光が暗がりを照らし、何かに反射したのだ。恐らく何らかの刃物だろう。持ち主の顔はよく見えない。

 

「・・・・・誰だ、お前?」

 

「それはこちらの台詞です。」

 

女か。その割には少し声が低めだが。

 

「俺は警官だ。」

 

とりあえず警察手帳を見せた。当然銃は構えたまま。手帳を見て納得したのか、カチンと音がした。マウントしてあるライトの電源を入れると、日本刀を腰に差した制服姿の女が立っていた。さっきの反射はあれの刃だったのか。

 

「確か、毒島冴子、だったかな?高城総帥の資料によると。」

 

「失礼ですが、貴方は?」

 

「滝沢圭吾。SAT第一小隊副隊長だ。後ろにいるのが俺の上司と同期。所属は同じだ。よろしく。」

 

「こちらこそ。SAT・・・・と言う事は、鞠川校医の・・・?」

 

「いるのか?ここに?」

 

頼むぞ・・・・いてくれよ、静香・・・・

 

「はい。」

 

「連れて行ってくれ。俺もそうだが、リカの方が一番会いたがっている。」

 

彼女は無言で頷き、付いて来る様に目配せした。映画では良く使われる場所、ショッピングモール。映画だけじゃなく、現実でもこう言う所は意外に役に立つ物資が大量に手に入る。それにここは確か結構大手の筈だから色々と手に入る筈だ。いざとなればモロトブ・カクテルでも作ればいい。スプレー缶などは一カ所に集めて一発弾をぶち込めばかなりデカい爆発を起こせる。

 

暫く歩き、ベッドに横たわっている老婆を懸命に看病している金髪の美女。やっとだ・・・・やっと見つけた。

 

「「静香!!」」

 

「え・・・・リカ!?圭吾!?え、えええええ?何で?どうやって・・・・・?!えええ?!」

 

これは夢なのだろうか。そんな惚けた顔の静香を俺達は笑顔で迎える。

 

「全く・・・・・あんたドジだから心配したのよ?」

 

「本当だぜ、手間かけさせやがって。探すのに苦労したんだぞ?洋上空港の仕事ほっぽり出す破目になるわ、撃ち殺されそうになるわ、銃撃戦に遭遇するわ、大変だった。けど、お前の為にここまで来たんだからな?」

 

足腰の力が抜けたのか、立ち上がった瞬間生まれたての子鹿の様にヘタリと座り込んでしまった。田島は空気を読んで少し離れたベッドの上に寝転がる。あのままじゃ恐らくすぐ眠っちまうな。運転を任せっぱなしですまんと心の中で謝っておく。

 

「うぅ・・・・うぇええ??????ん!!!!」

 

あ?、始まった・・・・・・

 

「ほら、大人でしょ?泣かないの。」

 

静香は言うなれば赤ん坊みたいな所がある。一度泣き出したらそうそう簡単には泣き止んではくれないのだ。リカが幼児をあやすかの様に静香を抱きしめ頭を撫でてやる。こうして見るとまるで本当の姉妹だな。

 

だが、これで良い。これでやっと静香が俺達の目と手が届く所にいる。これで、やっと少しは安心出来る。

 

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