BADO?風雲騎士?思想
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ララが連れ去られて数分後、激しい雷雨が訪れた。それはまるで凪の心の中を表しているかの様に凄まじい者だった。事実、今の凪は怒りで回りが見えなくなっていた。肩を怒らせて進行方向にある物体を全て破壊し尽くして前進する、正に暴風雨だ。自宅の扉も乱暴に蹴破った。あまりの威力にドアは真っ二つに折れてしまい、邪美や烈花達は即座に得物を構えて攻撃に備えていた。

 

「どうしたんだい?そんな血相変えて。ララは?」

 

「連れ去られた。イルマの配下に。あの大型ホラーを仕留めた後の一瞬の隙を突かれてしまった。奴の目的は大方想像がつく。俺を誘き出す為の餌だ。」

 

凪は棚の中を漁り、そこから二本の魔導筆、そして大漁の札と薬を引っ張り出してはコートの中に突っ込んで行く。

 

「どこに行く気だ?」

 

肩に置かれた獅子緒の手を凪は無言で乱暴に振り払った。

 

「イルマとララに触れたあの薄汚いクズをバラバラに切り刻む。欠片も残さん。」

 

「お前正気か?!イルマは兎も角、あいつは人間だぞ!?」

 

「ああ、人間だ。だが我々の世界を知ってしまい、暗黒騎士の誘惑に負けて肩を並べている人間だ。最早救う見込みも、価値も無い。」

 

ありったけの怒りと侮蔑を込めてそう吐き捨てた。何が何でも彼らを我が手で亡き者にしなければ収まりそうにないどす黒い憎悪が部屋を満たす。邪美や烈花も、その迫力に気圧されて思わず半歩足を引いた。

 

「記憶を消しさえすれば」

 

「暗黒騎士ならばその術を解く事位造作も無い。それに、ブルトスレイヴを持っている以上その類いの術が通じるとは考え難い。奴らの分断も恐らくほぼ不可能だろう。ゲルバ、位置は把握しているな?」

 

「うむ。早く来いと言わんばかりの強い邪気だ。」

 

「ならば望み通り出向いてやる。」

 

「待ちな。何の仕掛けも無しに相手が待っているとは思えない。死ぬよ?」

 

「ララを生きたまま救出する事が出来るならばこの命、幾らでも、何度でも喜んで差し出そう。俺の家系はその使命故に元々短命だからな。今更死ぬ事などどうとも思わない。どうなっても構わん。」

 

「そう思ってるのは兄さんだけだよ?」

 

戸口の方から声がした。振り向くと、革の上下に継ぎ接ぎの黒いコートを着た男が立っていた。零だ。

 

「断言する。俺もそうだけど、ララちゃんは自分一人だけ助かっても絶対に喜ばない。寧ろ兄さんの後を追って自殺する可能性の方が高い。いい加減自分に正直になりなよ?」

 

「・・・・・何の話だ?」

 

「とぼけるな。知ってるんだろ?ララちゃんが兄さんの事が好きだって事が。兄さんもララちゃんの事が好きだって事は、俺も知ってる。」

 

「お前程の騎士が根拠も無しにそんな事を言うとはな。浅薄な見立てに哀れみすら覚えるぞ。」

 

「兄さんは今までずっと自分を戒めて来た。責めて来た。家族を救えなかったから。その日から兄さんは人と深い関わりを持つ事が怖くなった!怖いんだ。これ以上家族を手にかけたくないから、何も失いたくないから、今までずっと自分に嘘をついて来た。でも、心の奥底では分かってる!今までずっと知っていた筈だ!兄さんは、ララちゃんの事が大好きだって!」

 

「黙れ!!!」

 

遂に凪は抜刀して振り抜いた。零の右頬に細い切り傷が出来て、そこから一筋血が流れ出た。

 

「お前に何が分かる!!俺はあの時程自分の無力さを、無能さを呪った事は無い!!あの日から俺は修練を積んだ。バラゴにせめて一矢報いようと、死に物狂いで修練を積んだ。だが費やしたその全ての年月は結局無駄に終わった!お前が既に黄金騎士と共に奴を葬ったからだ!!!仇を討つ事が出来たお前には到底分かるまい!!」

 

ひた隠しにして来た全ての思い。胸中に押し止め、長年秘めて来た悲しみ、憎悪、無念、そして小さな恋。それらがまるで堰を切った濁流の様に流れ出した。

 

「竜清法師は、死に際に彼女を俺に託した。だから、俺が守らなければならない。俺が。自分の力で。」

 

か細い声でそう続けた。

 

「兎に角、あの二人は俺が倒す。手は出すな。」

 

「そうは行かない。ブルトスレイヴとそれを持っている奴らは俺が潰すって言ったろ?だから、別件だが行く道は同じだ。」

 

「俺はレオに探知機を作って貰ったから否が応でも同行させてもらうよ。これ一個しか無いし。まず俺達はブルトスレイヴを潰しに行こう。邪美と烈花ちゃんも、協力してくれ。」

 

「その為に呼ばれたからな。行くよ、烈花?」

 

烈花は無言で頷いた。

 

「兄さんはさ、使命感に捉われ過ぎだ。そりゃあ風雲騎士って大事な使命を抱えてはいるけど、一人で背負うには重過ぎる。人を頼る勇気を持つのも、強さの一つに区分されるよ?痩せ我慢にも限度はあるから。今の兄さんは、一昔前の鋼牙や翼に似ている。」

 

「あの頃だったら、頭の固さは凪と良い勝負よね?」

 

シルヴァもそう付け加えた。

 

「だな。ひょっとしたら勝ってるかも。兄さん、これ受け売りなんだけど、正直に答えて欲しい。魔戒騎士は『守りし者』の為に戦う。兄さんに取って、『守りし者』は、何?」

 

「俺にとっての、『守りし者』・・・・・?」

 

「その顔を想い、命を賭して戦える者の事さ。ララちゃんはいつも兄さんと一緒にいて、片時も側を離れた事は無いでしょ?兄さんの『守りし者』はララちゃんじゃないの?」

 

凪は弟分の口が紡ぐ言葉に対して何も言えなかった。全く以てその通りだからだ。それも図星と呼べる様な程度ではない。涙を乱暴に拭い、凪は膝をついた。魔戒剣を目の前に置くと深々と頭を垂れた。

 

「零。先程お前に刃を向けてしまった無礼を許してくれ。そして、俺に力を貸して欲しい。俺達が二人掛かりで歯が立たなかった相手と更にもう一人が相手では勝てない。だから」

 

「分かってる。俺達皆で、ララちゃんを連れ戻そう?」

 

差し出された弟分の手を、凪はしっかりと握って立ち上がると、剣を再び携えた。

 

説明
さて、ララが連れ去られてしまいましたが、いよいよ戦地に赴きます
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