本編
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悪魔騎兵伝(仮)

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第五話 幕開けた時代

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C1 栗拾いの娘達

C2 追放令

C3 妬み

C4 母親

C5 放火

C6 放浪

C7 新天地

C8 邂逅

C9 過ぎる日

C10 アレスの黒剣

次回予告

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C1 栗拾いの娘達

 

神聖マロン帝国モンブランブランの森。アレス王国のヴェルクーク級人型機構の開かれたコックピットの真ん中で吐息をたてるファウス。

 

モリィ『まったく、私達の職場に不法駐車するとはふてえ野郎だわ。』

 

コックピットのハッチによじ登る栗拾いの娘のアムとモリィ。

 

アム『まったくね。どんな顔をした奴なのか。』

 

アレス王国のヴェルクーク級人型機構のコックピット内に入っていく二人。アムが口に手を当てる。

 

モリィ『あら、かわいい子。』

 

アムがファウスの傍らに寄り髪を撫でる。

 

アム『さらさらしてるわ。』

 

鼻を動かすアム。

 

アム『…いい匂い。羨ましい。』

 

モリィがアムの隣に座り、ファウスの服を見つめる。

 

モリィ『…軍服のようね。でも、こんな子供が軍服なんて…。』

 

モリィはアレス王国のマークを見、眼を見開く。

 

アム『見たところ高貴な出のようだけど…なんでこんな。』

 

モリィはアムの肩を叩きアレス王国のマークを指差す。眼を見開くアム。二人は顔を見合わせる。

 

モリィ『ね、起こしてみましょうよ。』

 

眉を顰めるアム。

 

アム『でも…こいつってあの…。』

 

耳打ちするモリィ、頷いて笑みを浮かべ、モリィを見つめるアム。

 

アム『でも、起こすたって…どうぶつの?モリィ?』

モリィ『それは簡単こうやって…。』

 

拳を上げるモリィ。ファウスの眼が開く。尻餅をつくアムとモリィ。ファウスの眼は二人を捉える。

 

ファウス『ひっ!』

 

後ずさりして震えるファウス。アムとモリィは顔を見合わせる。ファウスの方を向くアム。

 

アム『だ、大丈夫よ。お姉さん達怖くないからね。なあんにもしないからこっちへいらっしゃい。』

 

アムに近づくモリィ。

 

モリィ『駄目よ…。』

 

アムに耳打ちをするモリィ。アムはモリィの方を向いて頷いた後、ファウスの方を向く。

 

アム『お、お姉さん達は、栗拾いなの。』

 

ファウスは上体を上げる。

 

ファウス『栗拾い…?』

 

モリィがアムの傍らに寄る。

 

モリィ『そうそう。この神聖マロン帝国のね。』

 

眼を見開くファウス。

 

ファウス『…神聖マロン…ここは神聖マロン帝国なんですか。』

 

頷くアムとモリィ。

 

アム『ええ。』

 

ファウスの傍らに寄るモリィ。

 

モリィ『ええ。ところであなた、こんなところで寝ぼけて道に迷ったのかしら?』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『いえ、僕は…。』

 

モリィはアムに目配せする。頷くアム。

 

アム『迷ったのなら街まで道案内をしてあげるわ。』

 

ファウスはアムとモリィを見つめる。

 

ファウス『で、でも…。』

 

モリィはファウスに向けてウィンクする。

 

モリィ『大丈夫。私達、仕事の関係でこの辺は詳しいから。』

 

C1 栗拾いの娘達 END

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C2 追放令

 

神聖マロン帝国モンブランブランの森。アレス王国のヴェルクーク級人型機構のコックピット内部。操縦するファウスに栗拾いの娘のアムとモリィ。彼女らの傍には籠が置かれている。籠を覗き込むモリィ。

 

モリィ『はぁ、こんだけ拾ったって売上にならないっての。』

アム『まったくよね。他国の栗に押されてるんだから…特にカン大陸産は安いし…。』

モリィ『お偉いさんが調子に乗って関税外すからよ。ボーナス出るのかしら。』

アム『化粧代も馬鹿にならないってのに…。ああ、早く金持ちのいい男みつかんないかな。』

 

アレス王国のヴェルクーク級人型機構はモンブランブランの森を抜けて、神聖マロン帝国の市街地に出る。

 

ファウス『あの。』

 

ファウスの方を向くアムとモリィ。

 

ファウス『僕…本当にお姉さま方に感謝しています。』

 

笑みを浮かべるモリィ。

 

モリィ『気にしなくていいのよ。』

 

俯くファウス。

 

ファウス『でも…僕は。』

 

アムはファウスの方を向く。

 

アム『いえ、ほんとエスコートしてくれて助かるわ。』

 

モリィは頷いて、眼を細めてファウスの方を向く。

 

モリィ『そうそう。ここらへんに王子に成りすました農奴の息子が潜んでるらしいからね。』

 

青ざめるファウス。

 

アム『怖いよね〜。そんなのに襲われたらと思うとゾっとするわ。』

 

ファウスは顔を上げる。

 

ファウス『あの…僕、お姉さま方をお家まで送り届けたら僕…行きますね。』

 

眼を見開くアムとモリィ。

 

アム『そ、そうなの!?』

モリィ『で、でも、せっかくエスコートしてくれたんだし…お茶ぐらい…。』

 

モリィはアムに目配せする。

 

アム『そ、そうよ。』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『いえ。』

 

アムは周りを見回した後、アレス王国の大使館を見た後、その手前の黄色いハンカチのかかった家を指差す。

 

アム『わ、私達の家はあそこよ。ちょっと立ち止まって頂戴。』

 

アムの方を向いて頷くファウス。ファウス機は跪き、コックピットのハッチが開く。駆けていくアム。操縦席に座るファウスの手を引っ張るモリィ。

 

ファウス『あ、あの…何を!』

 

モリィは笑みを浮かべる。

 

モリィ『いいから、いいから。』

 

ファウスの腕を引っ張り、アレス王国のヴェルクーク級人型機構のコックピットを出る二人。ファウス達の方を向く人々。

 

ファウス『や、止めて下さい!』

 

周りを見回すファウス。

 

ファウス『このままだと…。』

 

モリィはアレス王国大使館前にファウスを引っ張って行く。アレス王国兵士Aの傍らに立つ眉を顰めるアム。

ファウスはアレス王国大使館を見つめ、唖然とする。

 

アム『…モリィ、そいつに出されてたの追放令だって。』

 

眉を顰めるモリィ。

 

モリィ『えっ…。』

アム『だから、追放令。アレス王国に引き渡しても一銭にもならないわよ!』

 

舌打ちしてファウスを突き放すモリィ。地面に倒れるファウス。

 

モリィ『何よ、折角ここまで苦労して運んできたってのに1銭にもならないわけ!冗談じゃないわよ!』

 

起き上がるファウス。

 

ファウス『…追放令??』

 

肩をいからせて去っていくモリィ。

 

モリィ『行くよ!アム!!』

 

モリィに駆け寄っていくアム。アレス王国兵士Aは大笑いしながら二人を見つめる。

 

アレス王国兵士A『ちなみに奴の乗っているヴェルクークはアレス王国が譲渡したものだ。盗もうとなど思うなよ。小娘ども!』

 

ファウスを睨みつけた後、去って行くアムとモリィ。

 

モリィ『折角一攫千金になると思ったのに。』

アム『あ〜あ〜。嫌だわ。また栗拾いの毎日じゃない。』

 

ファウスは立ち上がる。

 

ファウス『あ、あの…。』

 

アムとモリィの方へ手を向けるファウス。振り返るアムとモリィ。モリィは腰に両手を当てて上体を前に出す。

 

モリィ『付いてこないでよ!』

アム『そうよ。もう二度と私達の前に顔を見せないで頂戴!』

 

アムとモリィに向けて深々と頭を下げる。

 

ファウス『…ありがとうございました。』

 

ファウスの方を向くアレス王国兵士A。ファウスの方を指差し、口を動かす人々。ファウスはアレス王国兵士Aの方へ駆け寄る。

 

ファウス『あの…追放令というのは。』

 

アレス王国兵士Aはファウスを睨みつけた後、正面を向く。首をかしげるファウス。アレス王国兵士Aの剣がファウスの首の横に付けられる。斬られた銀髪が数本風に靡いて飛んでいく。ファウスは眼を見開く。

 

アレス王国兵士A『貴様に出された命令が追放令でなければ…この場でそっ首を跳ねたいところだ。』

 

ファウスは青ざめる。

 

アレス王国兵士A『…今まで農奴の息子でありながら、王族として我々を騙したのだ!この悪党め!』

 

アレス王国兵士Aはファウスを見つめる。

 

アレス王国兵士A『王族の生活は良かったのか?このクズ野郎!』

 

アレス王国兵士Aは顔を手で覆う。俯くファウス。

 

アレス王国兵士A『俺達の血税はこんな農奴の息子と親父のブレン達の豪勢な生活費に当てられていたのか。』

 

溜息をつくアレス王国兵士A。ファウスはアレス王国兵士Aを見上げる。

 

ファウス『…ブレン…さん。』

 

アレス王国兵士Aはファウスの鳩尾を蹴る。咳をしながら転がるファウス。アレス王国兵士Aは後ろを向く。

 

アレス王国兵士A『二度とアレス王国に顔を出すな!』

 

アレス王国大使館に去っていくアレス王国兵士A。

 

アレス王国兵士A『王女もメフィス王も寛大すぎる。なぜ、あんな奴を追放令にしたのだ。殺せばよいものを!』

 

地面に唾を吐くアレス王国兵士A。ファウスはアレス王国兵士Aの背中を見つめながら涙を流す。立ち上がるファウスを指差す神聖マロン帝国の市民A。ざわめきが巻き起こる。ファウスは周りを見回す。眉を顰め、ファウスを睨みつける市民達。ファウスは俯いてアレス王国のヴェルクーク級人型機構の方へ去っていく。

 

C2 追放令 END

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C3 妬み

 

シュヴィナ王国トーマ城城下町付近の森林地帯。木々の間から崩れ去ったトーマ城が見える。瓦礫と化した城下町には闇市が立ち、人が蠢いている。森林を歩いていくファウス。木々の間から、トーマ城城下町の市民達が見える。

 

トーマ城城下町の市民Aは切り株に腰を下ろしてフィオラ山地にある差し押さえの札が貼られた豪邸を見上げる。地面に唾を吐くトーマ城城下町市民B。

 

トーマ城城下町の市民B『けっ、ブレンの奴め。アレス王国を騙した金で豪勢な生活を送りやがって!』

 

ファウスはしゃがみ、生い茂った木々の隙間からトーマ城城下町の市民達を見つめる。

 

トーマ城城下町の市民女A『そうよ。まったくいい時を狙ったもんだわ。ほんと狡賢いわね。ただのごくつぶしのごろつきだった癖に。』

トーマ城城下町の市民B『奴の末子は合法的に口減らしの間引をする為に毎日極寒のフィオラ山に槇拾いに行かせてたって話じゃねえか。』

 

トーマ城城下町の市民Eはトーマ城城下町の市民Bの方を向く。

 

トーマ城城下町の市民E『だからその末子があのファウス王子に成りすましていたんだよ。』

目を見開くトーマ城城下町の市民B『なんだと!』

 

目を見開くトーマ城城下町の市民B。

 

トーマ城城下町の市民B『…王族の子としがない俺らの子を入れ替えればよ…俺たちだってな…。』

 

トーマ城城下町の市民D『いや、しかし…アレス王国の王族が鉄仮面を外すのは10歳の時で…。』

 

トーマ城城下町市民Dを一斉に睨みつける集うトーマ城城下町の市民達。トーマ城城下町市民Dは喉を鳴らして口を閉ざす。

 

トーマ城城下町の市民A『兎も角、あいつら許せねえ。俺たちがあくせく働くのを詐欺まがいで手に入れた大金と地位で嘲り笑いやがった!』

トーマ城城下町の市民達一同『そうだ!殺せ!!』

 

目を見開くファウス。トーマ城城下町の市民女Bが周りを見回す。

 

トーマ城城下町の市民女B『でも、どうするの。ブレンの奴らは避難のどさくさに紛れて高跳びしちゃってるし…。』

 

蹄鉄の音。騎乗したシュヴィナ王国市民代表ジージェットが現れる。立ち上がり、ジージェットの方を見つめる。馬が嘶き、懐からメガホンを取り出すジージェット。

 

ジージェット『皆さん!お聞きください!』

 

ジージェットは周りを見回した後、トーマ城城下町の市民達を見つめ、メガホンを2、3回拳で叩き、再び口元に置く。

 

ジージェット『あ〜あ〜…後ろの方まで聞こえますか?』

 

手を挙げるトーマ城城下町の市民A。頷くジージェット。サイドカーの付いたバイクに乗ってシュヴィナ王国兵士達が現れ、ジージェットの隣に止まる。

 

シュヴィナ王国兵士A『アレス王国から逃げ出した農奴の子がモンブランブランの森に現れたそうだぞ!』

シュヴィナ王国兵士B『神聖マロン帝国にて栗拾いの娘達を手籠めにしようとしたらしい。』

トーマ城城下町の市民女A『まあ、怖い。モンブランブランの森と言ったらここから近いじゃない。』

 

ファウスは目を見開き、握り拳を震わせる。

 

トーマ城城下町の市民A『ブレンもブレンだが、息子も息子だ!俺たちはあんな奴に頭を下げていたのか!』

トーマ城城下町の市民B『あの城壁の高みから俺たちを見下していたんだ!』

トーマ城城下町の市民女C『最低の奴よ!』

 

ファウスは立ち上がり、トーマ城城下町の市民達を見つめ、一歩前に出る。トーマ城城下町の市民Aが立ち上がる。

 

トーマ城城下町の市民A『おう、この辺に潜んでいるのか。ちょうどいい。見つけ次第八つ裂きだ!』

 

トーマ城城下町の市民Aの方を見るトーマ城の城下町の市民達。トーマ城城下町の市民Bは笑みを浮かべる。

 

トーマ城城下町の市民B『お、おう。』

 

顔を見合わせるトーマ城の城下町の市民達。

 

トーマ城城下町の市民C『そうだ!』

トーマ城城下町の市民女A『そうよ!』

トーマ城城下町の市民E『ぶっ殺そうぜ!』

トーマ城城下町の市民D『でも、相手はヴロイヴォローグを倒した…。』

トーマ城城下町の市民女B『そんなの関係ないわ。』

トーマ城城下町の市民B『この人数でかかればいいのさ。相手は一人だ!』

 

トーマ城城下町の市民達は拳を上げる。

 

トーマ城城下町の市民達『殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!』

 

青ざめ一歩後ろに下がるファウス。シュヴィナ王国の兵士達は耳をふさぐ。シュヴィナ王国兵士Aはシュヴィナ王国兵士Bに耳打ちする。

 

トーマ城城下町の市民達『殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!』

 

震えて蹲るファウス。銃を天に掲げて撃つシュヴィナ王国兵士B。一斉にシュヴィナ王国の兵士たちを見つめるトーマ城城下町の市民達。

 

シュヴィナ王国兵士A『うるさい!』

 

シュヴィナ王国兵士Aを睨みつけるトーマ城城下町の市民達。

 

シュヴィナ王国兵士A『アレス王国の王子に成りすました農奴の子に出されたのは追放令だ。ご丁寧にもヴェルクーク級人型機構一体付でな。

まだ何も事を起こしていない。みだりに殺せば、お前らが罪と罰を受けることになるぞ。』

 

一歩前に出るトーマ城城下町の市民A。

 

トーマ城城下町の市民A『お、おい!アレス王国はそんな危ない奴に人型機構一機をくれちまったってのか!?寛大にも程がある。』

トーマ城城下町の市民B『犯罪者にそんなもん渡して追放なんてアレス王国はこのフィオラの地を何だと思っているんだ!!』

 

青ざめるトーマ城城下町の市民の女達。

 

トーマ城城下町の市民女A『栗拾いの娘達を手籠めにしようとしたんでしょ。』

 

トーマ城城下町の市民女Cがトーマ城城下町の市民女Aの方を見る。

 

トーマ城城下町の市民女C『…手籠めか。でも、あの子、結構かわいかったし…。』

トーマ城城下町の市民女B『何言ってんの、ブレンの血を引いているのよ。しかも一文無しじゃない。』

トーマ城城下町の市民女C『そ、そうね。』

トーマ城城下町の市民女A『怖いわ。』

 

シュヴィナ王国兵士Bはトーマ城城下町の市民女Aを見つめる。

 

シュヴィナ王国兵士B『分かった分かった。何か起こったら対応する。』

 

眉を顰めるトーマ城城下町の市民の女達。

 

トーマ城城下町の市民女C『何か起こったら遅いのよ!』

シュヴィナ王国兵士A『分かった。我々もパトロールを強化する。この森の近辺にいるよりも町に帰った方が安全だ。さ、行った行った。』

 

去っていくトーマ城城下町の市民達。シュヴィナ王国兵士Aはジージェットの方を向く。

 

シュヴィナ王国兵士A『…ジージェットか。あんた…なんでここに?』

 

ジージェットは頭を掻く。

 

ジージェット『…いえ、伝えたいことはあなた様方がおっしゃりましたので…。』

 

暫し、沈黙。

 

シュヴィナ王国兵士A『そ、そうか。まあ、町の方が安全だ。さ、帰った帰った。』

 

ジージェットは頷いて懐にメガホンを入れて去っていく。溜息を付、砂煙をあげて消えていくサイドカーの付いたバイクに乗ったシュヴィナ王国兵士達。

 

C3 妬み END

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C4 母親

 

シュヴィナ王国差し押さえの札が貼られたブレンの邸宅を見上げるファウス。ファウスはブレン邸宅の壁を触り、見上げる。

 

ファウス『…ここが。』

 

ファウスは俯き、ブレン邸宅の壁に額を当てる。酒瓶の割れる音。壁から額を離し、ファウスは草むらに駆け込み、身を顰める。

 

ブレン邸宅の庭を酒瓶を持ちながら千鳥足で歩くブレンの妻のヘレを茂みの中から見つめるファウス。ヘレは酒瓶にくちをつけて飲み、右手で口を拭って地面を蹴る。

 

ヘレ『ふざけんな!!!!!!!』

 

ヘレは酒を飲み、右足で地面を何回も踏みつける。

 

ヘレ『この!この!こんちくしょうが!!』

 

崩れ落ち、泣き出すヘレ。

 

ヘレ『あんなに尽くしてきたのに!どん底の時代からずっと一緒だったのに!』

 

顔を上げるヘレ。

 

ヘレ『なんで…なんで…私を捨てたのよ!ブレン!!』

 

歯を食いしばり、地面を睨みつけるヘレ。目を見開き、ヘレを見つめるファウス。

 

ヘレ『…パリス、ヴァグナ、オイフォン、ヴァレン、グレーテル、メネラも…も、揃いにそろって!』

 

立ち上がり、額に手を当てるヘレ。

 

ヘレ『今まで育ててきた恩も忘れ…。』

 

葉が音を立てて揺れる。

 

ファウス『お母様…。』

 

目を見開いて立ち上がったファウスの方を向き、尻餅をつくヘレ。

 

ヘレ『アレ…。』

 

ヘレはファウスを睨みつけた後、左右を見回して酒瓶をファウスの方へ向け、突き出す。

 

ヘレ『こ、この家は渡さないよ!わ、私のもんだ!こ、この!この!このっ!!』

 

ファウスはヘレの方に向かって歩く。

 

ファウス『お、落ち着いてください。ぼ、僕…。』

ヘレ『旦那にも子供たちにも見捨てられた私からこの家すら取ろうとするのか!この鬼畜!ろくでなし!!お前らはそうやっていつもいつも人の弱みにつけこんで!自分がされたときのことなんて露程も思っちゃいないんだ!』

 

ファウスは眉を顰めて俯く。

 

ヘレ『だいたいアレス…。』

 

ヘレは状態を前に出し、目を開いてファウスを見つめる。暫し沈黙。

 

ヘレ『お前…アレス王国の…。』

 

顔を上げるファウス。ヘレは歯ぎしりをしてファウスを睨みつける。

 

ヘレ『…この、ゴミ野郎が!』

 

ヘレはファウスに酒瓶を投げつける。酒瓶は壁に当たり、割れ、酒が飛び散る。目を見開くファウス。ヘレはファウスを指さす。

 

ヘレ『お前だ!お前のせいでこうなったんだ!』

 

口を開け、一歩前に出るファウス。

 

ヘレ『出ていけ!お前の顔なんか見たくもない!』

 

俯くファウス。

 

ヘレ『出ていけ!失せろ!!消え失せろ!!』

 

ファウスは肩を落としてその場から去る。罵声を発し続けるヘレ。

 

フィオラ山地の森林内。アレス王国のヴェルクーク級人型機構の開かれたコックピット内で体操座りをするファウス。彼はトーマ城を見た後、ブレン邸宅の方を見、溜息をついて俯く。風がかすかな音をたて、木の葉が舞う。ファウスは顔を上げ橙色に染まる街並みを暫し見つめる。風が音をたてる。ファウスは掌を広げ、見つめて溜息をついた後、俯く。風が音をたててアレス王国のヴェルクーク級人型機構を揺らす。

 

顔を上げ、体を震わすファウス。繰り返される風の音。ファウスは立ち上がり、左腕をさすりながらコックピットのハッチに近づく。

 

突風によろめくファウス。

 

ファウス『うっ。』

 

ファウスは風になびき、夕日に煌めく銀髪を抑えた後、正面を向き、溜息をついてコックピット内の方を向く。ファウスは目を見開き振り返ってブレン邸宅の方を見る。黒い煙を吐くブレン邸宅。上体を前に出すファウス。火柱が上り、爆発音がする。

 

トーマ城城下町の家々から出てくる人々はブレン邸宅の方を向き、指をさす。火炎がブレン邸宅を染める。ファウスはアレス王国のヴェルクーク級人型機構の中に駆け込み、操縦冠を装着する。立ち上がるファウス機。木の葉と落ち葉が舞う。ブレン邸宅に駆けていくファウス機。

ファウス機の方を向く人々。サイレンの音。

 

C4 母親 END

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C5 放火

 

炎に包まれるブレン邸宅に辿り着くファウス機。窓から吹き出る火。黒ずんで倒壊していくブレン邸宅。ファウス機のコックピットのハッチが開く。

 

ヘレの声『た、助けて!誰か!誰か!!助けてーーーーーー!』

 

コックピットのハッチに飛び出、左右を見回すファウス。

 

ヘレの声『は、早く!誰か!熱い!熱いぃ!!』

 

ファウスは左右を見回し、倒れた柱の下敷きになっているヘレを目に映す。胸に手を当てるファウス。

 

ファウス『…お母様。』

 

ファウスは頷き、ファウス機のコックピットの中に入っていく。動き出すファウス機。顔を上げるヘレ。ファウス機が柱を取り除き、ヘレを掴んでコックピットの高さまで上げる。ファウス機のコックピットのハッチが開き、現れるファウス。

 

サイレンの音が鳴り響く。

 

ファウス『お母様!大丈夫ですか!?』

 

ヘレの眼に映えるファウス。ヘレは目を見開いて眉を顰める。

 

ヘレ『お前か…。』

 

後ずさりするファウス。

 

ファウス『…お母様?』

ヘレ『あんたに母親呼ばわりされる覚えはないわよ!くたばれ!』

ファウス『えっ…。』

 

ヘレはファウス機の手の指を叩く。

 

ヘレ『くたばれ!くたばれ!くたば…。』

 

ヘレは俯き、涙を流す。一歩前に出るファウス。

 

ファウス『…お母様。』

 

炎に反射し、光沢を放つファウス機。多数の消防車が現れる。消防車より降り立つ消防隊員A。

 

消防隊員A『おおい!危ないぞ!後ろに下がれ!』

 

ファウスは消防隊員Aの方を向いた後、泣いているヘレの方を見る。

 

消防隊員A『おおい!』

 

ファウスは消防隊員Aの方を向いて頷き、ファウス機のコックピットの中に入る。動き出すファウス機。消防隊員達が動き、ブレン邸宅に向かって放水する。消防車の後ろに止まり、ファウス機は跪き、ヘレを降ろす。地面に崩れ落ち、顔を両手で押さえて泣くヘレ。ファウス機のコックピットのハッチが開き、ファウスがヘレに駆け寄る。

 

ファウス『お母様!』

ヘレ『…家が…私の家がぁ…。』

 

眉を顰めて俯くファウス。爆発音。炎が木々に燃え移る。音をたてて倒れる木々。ファウスはヘレを庇う。ファウスたちの後ろからサイドカーの付いたバイクに乗ってシュヴィナ王国兵士達が現れる。立ち尽くすシュヴィナ王国の兵士達。ブレン邸宅の周りの森林を包む炎。

 

シュヴィナ王国兵士A『なんて事だ…。』

 

シュヴィナ王国兵士Bがシュヴィナ王国兵士Aの方を向く。

 

シュヴィナ王国兵士B『こ、このままじゃ…山火事になっちまうぞ。』

 

シュヴィナ王国兵士Aはシュヴィナ王国兵士Bの方を向いて頷く。

 

シュヴィナ王国兵士A『国境を越えれば神聖マロンの栗場だ…。』

 

眉を顰めるシュヴィナ王国の兵士達に近づく消防隊員A。

 

消防隊員A『駄目だ!火勢が強すぎる!魔術師はいないのか!?』

 

俯き首を横に振るシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『いや、宮廷魔術師達はエグゼナーレ様と共にシーラ城へ。』

シュヴィナ王国兵士B『エグゼナーレ様には連絡をしてあるが…。』

消防隊員A『シーラ城!?あそこからここまで三日はかかろうな。それまでに山は丸焼けだ!下手をすりゃ栗が跳ぶぞ!』

 

燃え広がる火。シュヴィナ王国兵士達の後ろから現れるトーマ城城下町の市民達は炎に包まれるフィオラ山地を見つめながら青ざめる。ファウスはトーマ城城下町の市民達を一瞬見て、顔を背けて震える。

 

トーマ城城下町の市民A『…これは。』

トーマ城城下町の市民B『な、なんて事だ!』

 

トーマ城城下町の市民Cは炎に包まれるフィオラ山地の方を指差す。

 

トーマ城城下町の市民C『おい、この先は神聖マロンの…。』

 

消防隊員Aはトーマ城城下町の市民達の方を向いた後、シュヴィナ王国兵士の方を向く。

 

消防隊員A『ともかく水術師…、雨術、いや上級水術が使える奴なら誰でもいい!』

シュヴィナ王国兵士A『…他の術師どもは新天地を求めて他国へ去った。わ、我らなら下級の水術ぐらい使えるぞ。』

 

消防隊員Aはトーマ城城下町の市民達を見た後、舌打ちをし、燃え盛るフィオラ山地の方を向く。

 

消防隊員A『下級水術では間に合わん…炎が栗場に行く前に消えるのを祈るしかあるまい。』

 

放水を続ける消防車。眉を顰め青ざめるトーマ城城下町の市民達の方を再び向くファウス。ファウスは燃え盛る炎を見た後、目を閉じて歯を食いしばる。立ち上がるファウス。ヘレはファウスを見上げる。ファウスは消防隊員Aの方を向く。

 

ファウス『僕できます!』

 

一斉にファウスの方を向く口元を緩める一同。ファウスを目に映した彼らは眉を顰める。一歩前に出るシュヴィナ王国兵士A。

 

シュヴィナ王国兵士A『お、お前は!』

 

消防隊員Aはファウスを睨みつけながらシュヴィナ王国兵士達の前に手を出す。消防隊員Aに近寄り、見上げるファウス。

 

ファウス『…水術。上級水術…いえ、雨術ができればいいんですね。』

消防隊員A『できるのか?』

 

頷くファウス。

 

消防隊員A『なら頼む。』

 

消防隊員Aは消防車の方へと去っていく。ファウスは炎に包まれるフィオラ山地の方を向く。

 

トーマ城城下町の市民E『お、おい。あいつは。』

トーマ城城下町の市民女A『大丈夫なの。あんなやつに任せて。』

トーマ城城下町の市民C『あ、あいつ。あんなことを言って、火勢を強くするつもりだろ!』

トーマ城城下町の市民女B『失敗したら八つ裂きよ!』

 

歯を食いしばるファウス。ファウスの方を見つめるヘレ。ファウスは深呼吸して呪文を唱える。木々が揺れ、火の粉が舞う。

 

トーマ城城下町の市民F『おい、まだかよ!』

トーマ城城下町の市民女C『結局できないじゃないのよ!この役立たずが!』

 

地面からファウスの体に淡い灰色の雲が螺旋状に舞う。唖然とするトーマ城城下町の市民達。倒れる木。消防隊員Bが消防隊員Aの方を向く。

 

消防隊員B『お、おい。大丈夫なのか?』

消防隊員A『今は、こっちの作業に集中しろ!』

 

ファウスを包む淡い灰色の雲が天に向かい飛んでいく。ファウスは息を切らす。灰色の雲は大きくなる。空を見上げるトーマ城城下町の市民達の額に滴が落ちる。目を見開くヘレ。滴がファウスの髪に落ちる、空を見上げるファウス。雨が降り出す。

 

消防隊員B『お、あ、雨だ!雨が降ったぞ!』

消防隊員A『よし、このまま消火活動を続けるぞ!』

トーマ城城下町の市民A『雨だ!やった!やったーー!』

 

雄たけびを上げる一同。雨は勢いを増し、フィオラ山地に広がる炎が徐々に消えていく。

 

C5 放火 END

-9ページ-

C6 放浪

 

黒焦げの木々が倒れているフォイラ山地。消防隊員達が動き回る。無線機を取り、2、3回頷く消防隊員A。

 

消防隊員A『…んっ、ああ。分かった。火は鎮火できたか。念のためにしばらくはこのまま様子を見る。』

 

歓声を上げる民衆達。ファウスは微笑みを浮かべてヘレの方を向く。焦げたフィオラ山地とブレン邸宅を見つめるヘレ。

ファウスはヘレの方を向いた後、俯く。トーマ城城下町の市民達は眉を顰め、顔を見合わせる。ざわめき。

振り返るファウス。眉を顰め、ファウスとヘレを睨みつけるトーマ城城下町の市民達。

トーマ城城下町の市民Aがファウスを指差す。

 

トーマ城城下町の市民A『放火だ!こいつらが屋敷に火を放ったんだ!』

 

目を見開いて唖然とするファウス。

 

トーマ城城下町の市民C『なんて野郎だ!』

トーマ城城下町の市民A『こいつは再び英雄に戻るために自作自演したに違いねぇ!』

 

トーマ城城下町の市民女Aは眉を顰める。

 

トーマ城城下町の市民女A『最低よ!』

 

ファウスは周りを見回す。

 

ファウス『み、皆さん…何を言って…。』

 

ファウスとヘレを睨みつけるトーマ城城下町の市民達。

 

トーマ城城下町の市民B『この放火魔め!』

トーマ城城下町の市民女B『この悪党が!お前のせいで、あやうく神聖マロンのやつらと争うところだっだじゃない!』

 

ファウスは青ざめる。ファウスは目を閉じて下を向き、勢いよく首を横に振る。

 

ファウス『違います!』

 

トーマ城城下町の市民達の方を向くファウス。

 

ファウス『僕はやっていません!本当です!信じて下さい!』

 

腕組みをするトーマ城城下町の市民B。

 

トーマ城城下町の市民B『やったやつはたいていはそう言う。』

トーマ城城下町の市民E『なんて野郎だ!』

 

トーマ城城下町の市民Bは周りのトーマ城城下町の市民達に目くばせする。立ち上がるヘレ。

 

ヘレ『…お前。』

 

ファウスはヘレの方を向く。

 

ヘレ『…お前が私の家に火をつけたのかぁ!!!!』

 

ファウスは、彼を睨みつけるヘレの顔を見つめた後、後ずさりする。ファウスの両肩を掴むヘレ。ヘレの手はファウスの首を絞める。

 

ヘレ『お前がぁ!!!!!!!!』

ファウス『あ、ぐっ!……信じて。』

 

首を横に振り、目に涙をためながらヘレの方を見つめるファウス。トーマ城城下町の市民Fがトーマ城城下町の市民達の方を向き、ヘレを指差す。

 

トーマ城城下町の市民F『いや、あの邸宅はアレス王国に取り押さえられたもの。あいつがやってないってならあの女がやったに違いない!』

 

トーマ城城下町の市民Fの方を見るトーマ城城下町の市民達。

 

トーマ城城下町の市民A『確かにそうに違いない!』

 

ヘレはファウスの首から手を離し、立ち尽くす。

 

ヘレ『あ、あんた達…何を。』

 

咳をして崩れ落ちるファウス。

 

ヘレは2、3歩後ずさりする。

 

ヘレ『…わ、私がやった!?じょ、冗談じゃない。』

 

ヘレはファウスの方を指差す。

 

ヘレ『こ、こいつがやったのよ!こいつが!!』

 

ヘレの方を見つめるファウス。トーマ城城下町の市民達はヘレを睨みつける。

 

トーマ城城下町の市民女A『二人で共謀したんじゃないの?親子だし!』

トーマ城城下町の市民A『親子そろって最低の奴らだな!』

トーマ城城下町の市民女C『あんたらみたいな奴らのために神聖マロンと争わなきゃなんないなんて最低よ!』

 

青ざめ、首を振りながら2、3歩後ずさりするヘレ。

 

ヘレ『ち、違う…。』

 

ファウスとヘレに向かって石を投げつけるトーマ城城下町の市民達。ファウスはヘレを庇う。

 

トーマ城城下町の市民D『この野郎!』

 

ファウスの体に当たる石。

 

ファウス『うっ!』

 

ヘレはファウスを見つめる。

 

ヘレ『…お、お前。』

ファウス『お、お母様。大丈夫ですか?』

 

ファウスを見つめるヘレ。石をファウス達に投げつけるトーマ城城下町の市民達。ファウスはトーマ城城下町の市民達の方を向く。ファウスを睨みつけるトーマ城城下町の市民A。

 

トーマ城城下町の市民A『こいつめ!こいつが来てから俺たちはひどい目にあったんだ!』

トーマ城城下町の市民女C『そうよ。まったく代表たちは死んじゃうし、戦争が起きて家はボロボロ…どうしてくれるのさ!』

 

俯くファウス。

 

トーマ城城下町の市民A『ともかくこいつがいるとまた何かあるかもしれねえ。』

トーマ城城下町の市民女D『もう嫌よ。住宅ローンだって残ってるのに!』

 

一斉にファウスを睨みつけるトーマ城城下町の市民達。

 

トーマ城城下町の市民A『出ていけ!!この疫病神が!!!』

トーマ城城下町の市民女C『この町から出ていけ!!』

 

トーマ城城下町の市民達はファウス達に向かって絶え間なく石を投げ続ける。

 

トーマ城城下町の市民達『出ていけ!出ていけ!!出てけ!!!!』

 

立ち上がるファウスの頭に石が当たる。ファウスを見上げるヘレ。ヘレの腕に石が当たる。トーマ城城下町の市民達の方を向くヘレ。

 

トーマ城城下町の市民F『お前もだ!』

トーマ城城下町の市民女C『だいたいあんたみたいなのが居たからこうなったんだ!消えろ!』

 

ヘレに石を投げつけるトーマ城城下町の市民多数。

 

ヘレ『ひっ、ひぃ!』

 

ヘレは青ざめて、後ずさりする。震えるヘレ。ヘレを庇い、ヘレに手を差し伸べるファウス。ファウスの背中に石が当たる。ファウスを見上げるヘレ。

 

ファウス『…行きましょう。』

 

ヘレは頷いてファウスの手を取り、立ち上がる。二人はアレス王国のヴェルクーク級人型機構へ向かう。

 

トーマ城城下町の市民達『失せろ!消えろ!』

 

ファウスとヘレはアレス王国のヴェルクーク級人型機構に乗り込む。石を投げていたトーマ城城下町の市民達の手が止まる。ファウス機はブースターから火を放ち、パノラマウンテン跡地へと飛んでいく。ファウス機に罵声を浴びせるトーマ城城下町の市民達。

 

C5 放火 END

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C6 放浪

 

薄暗いパノラマウンテン跡地を移動するファウス機。ファウス機のコックピット内に蹲り、カーディガンを膝に書けすすり泣いているヘレ。

 

ヘレ『セバスチャンもロウザーもハレも皆トンズラしやがって!あんなに愛し合ったのに…うっ、うっ、うっ!あいつら金だけを愛してたんだ!ちくしょう!!』

 

コックピットのハッチの床を叩くヘレ。ファウスはヘレの方を向き、正面を向く。止まるファウス機。ヘレの方を向くファウス。

 

ファウス『あの…。』

 

ヘレを見つめるファウス。顔を上げ、ファウスを睨みつけるヘレ。

 

ヘレ『何だい!!!』

 

ファウスは胸に手を当て、目と口を開いた後、俯き、再びヘレの方を向く。

 

ファウス『…も、もう夜も遅いですし、そろそろ休息した方がいいと…。』

ヘレ『あんたはこのあたしに指図をしようってのかい!』

 

ファウスは首を振る。

 

ファウス『…ち、違います。もうこんな夜更けでお体にさわると思って…。』

 

ヘレは上体をファウスの方へ傾ける。

 

ヘレ『はぁ!!?そういって自分が疲れたから休みたいんじゃないのかい!』

 

ファウスは首を横に振る。

 

ファウス『ち、違います。』

 

鼻で笑うヘレ。

 

ヘレ『疲れたんなら疲れたで勝手に眠ればいいんだ。』

 

ヘレはファウスから顔を背ける。

 

ヘレ『だいたいお前のせいで私は…私は…。』

 

ヘレはファウスを睨みつける。

 

ヘレ『私はぁ!!!!!』

 

ファウスは眉を顰め、俯く。溜息を付くヘレ。

 

ヘレ『…私の生活も何もかも無くしちまったんだ!ちくしょう!』

 

舌打ちをして、蹲るヘレ。ファウスは顔を上げ、一歩足を踏み出すが、よろけてヘレに向かって倒れる。顔を上げるヘレ。

 

ヘレ『えっ!』

 

ヘレはファウスを抱き止める。

 

ヘレ『ちょっと!お、お前…。』

 

眼を閉じて、吐息をたてるファウス。ヘレはファウスの顔を見つめる。

 

小鳥の囀り。

 

眼を開けるファウスは差し込む日の光を、拳を上げて、遮る。眼を見開き、勢い良く起き上がるファウス。ヘレは腕組みしてファウス機のコックピットから外を眺めている。

 

ヘレ『ようやく起きたのかい。』

 

ヘレを見つめるファウス。

 

ファウス『あの…。』

ヘレ『まったくか弱い女子一人置いてぶったおれちまうんだからさ。夜盗が出たらどうするんだい。

だいたいあたしはこんなのの操縦もできないんだよ!』

 

舌打ちするヘレ。ファウスは俯き、彼を包んでいたカーディガンを掴む。眼を見開き、それを見つめるファウス。

 

ヘレ『ふん。お前のせいでこうなっちまったんだからきちんと責任とってもらうよ。』

ファウス『…ごめんなさい。』

 

ヘレはファウスに近寄り、しゃがむ。

 

ヘレ『お前は私らの生活をむちゃくちゃにしたんだ。お前は私から全てのものを奪ったんだ。

いいこと。だからお前は私の為に働くんだよ。一生私の下僕。ははははは。あはははははは。』

 

顔を上げるファウス。

 

ファウス『はい。』

 

眉を顰めるヘレ。

 

ヘレ『えっ…。』

 

ファウスはカーディガンを見る。

 

ファウス『倒れた僕に寒くないようにカーディガンを掛けて下さったんですね。』

 

ヘレは顔を赤くしてそっぽを向く。ヘレの顔を見つめるファウス。

 

ファウス『僕、お母様の力になりたいんだ。』

 

ファウスの方を向いた後、尻餅をつくヘレ。

 

ファウス『だ、大丈夫ですか!?』

 

ファウスはヘレに手を差し伸べる。ファウスの手を払うヘレ。

 

ヘレ『…今さらのこのこ息子面か!最悪のことをしておいて!この親不孝者め。』

 

俯くファウス。立ち上がるヘレ。

 

ヘレ『まあいい。』

 

顔を上げ、ヘレを見つめるファウス。

 

ヘレ『ゼウステスの奴らは嫌いさ。あいつらは身分で人を見る。私達が農奴の出だと分かるとすぐに掌を返した態度をとりやがった。フォレストの方がいいさ。戦争で王族の身内を殺した奴でも実力さえあれば将として取り上げられるんだからね。でも…。』

 

正面を見つめるヘレ。

 

ヘレ『近場じゃあね。お前の顔がばれてしまう。ヒートは王族がクソだし…。ふぅ。フッシあたりが妥当なところかね。』

ファウス『…フッシ王国へ行くんですね。』

 

頷き、ファウスの方を向くヘレ。立ち上がるファウス。

 

ファウス『では…。』

ヘレ『この人型機構についているアレス王国のマークは目立ちすぎるし、お前の軍服もマークも目立つ。これじゃあ、すぐにあんたが王子を名乗っていた農奴ってバレちまうよ。』

 

ヘレの方を向くファウス。

 

ヘレ『まず、すぐにアレス王国のマークを消すんだ。』

 

ファウスは自身の軍服を見つめる。

 

ファウス『…でも。』

ヘレ『なんだい。まだ、アレス王国に未練があるのかい。』

 

首を横に振るファウス。

 

ファウス『これは…アレス王国から頂いたものですから。』

 

ヘレはファウスの両肩を掴む。

 

ヘレ『馬鹿言ってんじゃないよ。いいかい。お前がこのマークを消さなければ、私達はまたフィオラの地で受けたことを受ける羽目になる。』

 

眼を見開くファウス。

 

ヘレ『分かったね。』

 

ファウスは頷く。

 

フッシ王国ポーの町付近の森に止まり、しゃがむファウス機。コックピットのハッチが開き、ヘレが出てくる。

 

ヘレ『分かったね。出てくるんじゃないよ。』

 

ヘレは森を抜け、ポーの街へと入っていく。ファウスは体操座りし、暫く木々の間から見えるポーの街並みを見つめる。木々がざわめく。顔を上げるファウス。木々からの木漏れ日がファウスを照らす。ファウスは膝の上で腕組みして、俯く。

 

暫し沈黙。

 

足音。

 

顔を上げるファウス。ヘレが片腕に服を携えて、ファウス機のコックピットのハッチに上がり込む。

 

ヘレ『住居は手に入れたよ。さ、着替えな。』

 

ファウスの手前に服を置くヘレ。ファウスは頷いて立ち上がり、アレス王国の軍服のボタンを外す。ファウスを見つめるヘレ。ファウスはアレス王国の軍服の上着を脱ぐ。風がファウスの髪を揺らす。目を見開くヘレ。ファウスはヘレの方を向き、首を傾げる。

 

ファウス『…どうかなさいましたか?』

 

首を横に振り、溜息をつくヘレ。

 

ヘレ『…お前みてたら…変な気分になっちまうよ。』

 

ヘレはファウス機のコックピットから出ていく。ファウスは2、3歩進む。

 

ファウス『あの…。』

ヘレ『着替えるまで出てくるんじゃないよ。』

 

ファウスは立ち止まり、コックピットの床に置かれた服を見つめる。コックピットのハッチに腰を下ろし、木々の間から見えるポーの街並みを見つめるヘレ。ヘレは頬杖をつく。

 

靴音。

 

降りてくるファウスの方を向くヘレ。

 

ファウス『…着替え終わりました。』

 

ファウスの方を向いて立ち上がるヘレ。

 

ヘレ『じゃあ、行くよ。』

 

ファウス機に乗り込むファウスとヘレ。動き出すファウス機。ヘレはアレス王国の軍服を箱の中に入れる。

 

ヘレ『道路に出たら宿の女将さんが誘導してくれるから。』

 

ファウスは辺りを見回し、ヘレの方を向く。

 

ファウス『女将さんって…。』

 

ヘレはファウスの方を向き、前方を向いた後、ふくよかな女性を指差す。

 

ヘレ『ああ、あれ。あのふとっちょの。』

 

宿屋の女将がファウス機に向かって手を振る。宿屋の女将の後をついていくファウス機。何も置かれていない駐車場に案内されるファウス機。ファウス機は宿屋の女将の指差したスペースに止まり、しゃがむ。ファウス機のコックピットのハッチが開き、降りてくるファウスとヘレ。宿屋の女将は腰に手を当てて、ファウス機を見つめる。

 

宿屋の女将『ほぅ。人型機構持ちと言っていたけど結構立派じゃない。』

 

頷くヘレ。

 

ヘレ『ええ、旦那の形見で。』

 

ヘレはファウスの肩に手をかける。

 

ヘレ『亡き父親の形見なんでねぇ。この子が幼い頃より整備して…。』

 

すすり泣くヘレ。目を見開き、ヘレを見つめるファウス。

 

ファウス『えっ、何を…。』

 

ファウスの口を手で軽く抑え、耳打ちするヘレ。

 

宿屋の女将『…ほぅ。そうかい。あんたも色々あったんだねぇ。ま、ここは訳ありの連中が多いからねぇ。』

 

宿屋の女将はポケットから部屋の鍵を取り出す。

 

宿屋の女将『さ、あんたらの部屋の鍵だ。』

 

宿屋の女将から部屋の鍵を受け取るヘレ。ヘレは部屋へ向かって歩いていく。ファウスは宿屋の女将に一礼してヘレに続く。部屋の扉を開き、中に入るヘレとファウス。扉を閉め、天井を見つめて溜息をつくヘレ。ファウスはヘレの顔を覗き込む。

 

ファウス『あの…嘘は良くないと思います。』

 

ファウスを睨みつけるヘレ。

 

ヘレ『はぁ?お前、置かれた立場が分かってんの?』

 

ヘレは周りを見回し、ファウスを見る。

 

ヘレ『お前は、王子に成りすました農奴の子。私はその母親。そんなことがばれたら私たちはここに居られなくなるんだよ。』

 

ファウスはヘレを見つめる。

 

ファウス『でも…。』

 

ヘレはファウスを平手打ちする。倒れるファウス。

 

ヘレ『馬鹿か。お前は。フィオラの地で私がどれくらいひどい目にあったとおもっているんだい。』

 

頬を抑えるファウス。ヘレはファウスから目をそらす。

 

ヘレ『宿代もただじゃないんだ。』

 

ヘレはファウスを見つめる。

 

ヘレ『昨日、私が言ったこと覚えてるね。』

 

ヘレの方を見つめるファウス。ヘレは扉の方を向く。

 

ヘレ『あ〜やだやだ。昨日の今日で忘れちまって…。あのお母様の力になりたいんだって言葉も嘘だったのかねぇ。』

 

ファウスは首を横に振る。

 

ファウス『そんなことありません!僕は…。』

 

ヘレは薄ら笑いを浮かべ、ファウスの方を向く。

 

ヘレ『なら、稼げ。』

ファウス『えっ?』

ヘレ『稼いで償えよぉおおおお!』

 

ヘレはファウスの頭を足蹴にする。

 

ファウス『あ…う…。』

 

ヘレはファウスの頭を何回も踏みつける。

 

ファウス『い、痛い!痛いよ!!』

ヘレ『お前が!お前さえ!!!…はぁはぁ。』

 

ヘレは息を切らして、ファウスに背を向けて歩み、椅子に腰をかけ、うな垂れてテレビを付ける。涙を流しながらヘレの方を見つめるファウス。溜息をつくヘレ。ヘレは顔を上げる。立ち上がり俯くファウス。

 

ヘレ『…ああ、話つけといたから。』

 

首をかしげるファウス。

 

ヘレ『日雇いの。』

 

ヘレは眼を細めてファウスの方を向く。

 

ファウス『…あっ。は、はい。』

 

ファウスは後ずさりする。ヘレはテレビの方を向いて笑い出す。

 

ヘレ『お前は一生貢んだよ!このあたしにさ。あっははははは。ひはははははは。あーせいせいするわ。ひひひ…。』

 

俯くファウス。

 

C6 放浪 END

-11ページ-

C7 新天地

 

ベルの音が響く。目を開くファウス。酒瓶を持ったヘレがファウスの包まっている毛布を剥ぎ取り、ファウスの横腹を蹴る。

 

ファウス『うっ、ぐ!』

ヘレ『起きな!』

 

横腹を押さえながら起き上がるファウス。

 

ヘレ『起きたら、とっとと仕事に行くんだよ!』

 

ヘレを見つめるファウス。

 

ファウス『…はい。』

 

ヘレは暫し、ファウスを見つめた後、顔を背ける。

 

ファウス『…な、なんだい。そ、そんな眼で見つめてさ…ヒック。』

 

ヘレはファウスに背を向けて千鳥足で前に進む。眼を見開き、ヘレに駆け寄るファウス。

 

ファウス『こんな朝早くからお酒なんて!』

ヘレ『五月蝿い!』

 

舌打ちをして椅子の方へ向かうヘレ。ファウスは正面を向き、酒瓶の大量に置かれた机を眼に映す。眼を見開き、ヘレに駆け寄るファウス。

 

ファウス『…こ、こんなに飲んだらお体を壊してしまいます!』

ヘレ『黙れ!』

 

ヘレは大きな音を立てて椅子に座り、酒瓶に口をつけて飲んだ後、口を拭うヘレ。ヘレは台所の方を向く。

 

ヘレ『そこに仕事場の場所示した地図あるから。』

 

ファウスは胸に手を当て、ヘレの方を向く。

 

ファウス『…あまりお酒は体に良くありませんよ。』

 

ヘレは眉を顰めてファウスの方を向く。

 

ヘレ『はぁ?分かったらさっさと行くんだよ!』

ファウス『でも…。』

ヘレ『仕事に遅れてもいいってのかい?』

ファウス『…それは。』

 

ファウスは俯いて歩き、台所に置かれた地図を見た後、横の弁当箱を見る。ヘレの方を向く。

 

ファウス『あの…。これは?』

 

ヘレ『…弁当。腹へって倒れられても困るからね。体は資本なんだ。たんまりと稼いでもらうよ。ははははは。さ、行った行った。』

 

ヘレを見つめた後、扉に手をかけるファウス。ヘレはファウスの方を向く。

 

ヘレ『ああ、そうそう。人型機構に乗っていくんだよ。』

 

ファウスはヘレの方を向く。

 

ファウス『は、はい。』

 

部屋から出て行くファウス。ヘレの笑い声が響く。ファウスはファウス機に乗り込み、地図を見た後、起動する。

 

 

フッシ王国ポーの町のアコン商店街改良工事現場に現れるファウス機。建築現場の作業者は手を止め、ファウス機の方を向く。ポーの町の町内会長がファウス機に駆け寄る。ファウス機から降りるファウス。

 

ポーの町の町内会長『いや、君がファウス君か。』

 

ファウスはポーの町の町内会長の方を向き一礼する。

 

ファウス『あ、は、はい。…僕、ファウスと申します。』

ポーの町の町内会長『いや、話は聞いているよ。ははははは。助かった助かった。』

 

ポーの町の町内会長はファウスの肩を叩く。よろけるファウス。ファウスは態勢を直し、ポーの町の町内会長を見上げ、首を傾げる。

 

ポーの町の町内会長『いや、こちらの工事をキャンセルして建築業者がロズマールやフィオラの方へいってしまってね。まあ、この町の人も少ないし、年寄ばかりに支払う金も少ない。そりゃ、復興で金が集まる所へ行くのも無理はないがね。しかし、…まったく郷土愛ってものがないよねぇ。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『は、はぁ。』

 

ポーの町の町内会長はファウスの方を向く。

 

ポーの町の町内会長『まあ、人が居ないし、重機も無いって所だ。そこに人型機構を持った君がちょうど来てね。いや、助かるよ。』

 

建築現場の責任者がファウス達の側へ来る。ファウスは建築現場の責任者の方を向いて一礼する。

 

ファウス『こんにちは。』

 

建築現場の責任者は腰に手を当てる。

 

建築現場の責任者『おう、こいつが例の。』

 

ファウスを見る建築現場の責任者。

 

建築現場の責任者『おう。俺はここの責任者だ。話は聞いているぞ。』

 

建築現場の責任者はファウスの顔を覗き込む。

 

建築現場の責任者『こいつは…思ったよりも…。』

 

ポーの町の町内会長を見る建築現場の責任者。

 

建築現場の責任者『こりゃ、上玉だな。こんなところで働くよりも…。』

 

眉を顰め、咳払いをするポーの町の町内会長。建築現場の責任者は笑い出す。

 

建築現場の責任者『はは、さ、仕事だ仕事だ。』

 

ファウス機に近寄り、装甲を2、3回叩く建築現場の責任者。

 

建築現場の責任者『これが、お前の持ってる人型機構か。』

 

建築現場の責任者はファウスの肩を勢い良く叩く。

 

ファウス『わっ!』

 

建築現場の責任者は腰に手を当て、資材が積んである場所を見る。

 

建築現場の責任者『じゃあ、まずは資材運びをやってもらおうか。』

ファウス『…資材運び。』

 

頷くファウス。

 

ファウス『は、はい。やってみます。』

 

建築現場の責任者は資材が積んである場所を指差す。

 

建築現場の責任者『あいつを…。』

 

建築現場の責任者は商店街の建設現場の方を指差す。

 

建築現場の責任者『あそこまで運べばいいからな。ま、詳しいことはあそこにいる吸血野郎に聞いてくれ。』

 

建築現場の責任者は勢い良くファウスの肩を叩く。

 

建築現場の責任者『期待してるぞぉ!』

 

笑い声を上げて去っていく建築現場の責任者。ファウスは建築現場の責任者方を向く。

 

ファウス『は、はい。』

 

ファウスはファウス機に乗り込み、資材が積んである方へ行く。ファウス機は止まり、コックピットのハッチが開く。ファウス機に駆け寄るチュパカブラ獣人。降り立つファウス。ファウスとチュパカブラ獣人は向かい合う。

 

チュパカブラ獣人『お、お前が新入りちゅぱか。ここの事は何でもきいてくれればいいちゅぱ〜。』

 

ファウスは瞬きする。

 

チュパカブラ獣人『…どうしたちゅぱ。俺の顔に何かついてるちゅぱか?』

ファウス『…い、いえ。』

 

ファウスは一礼する。

 

ファウス『どうかよろしくお願いします。』

 

チュパカブラ獣人は腰に手を当てる。

 

チュパカブラ獣人『いいぜ。…おっと!いいちゅぱぜ。こっちこそよろしくちゅぱ!』

 

顔を上げファウス機に乗り込むファウス。チュパカブラ獣人の指示に従って資材を運ぶファウス機。

 

昼の音楽が流れる。チュパカブラ獣人がファウスに合図を送る。止まるファウス機のコックピットのハッチが開く。コックピットから顔を出すファウス。

 

チュパカブラ獣人『昼ちゅぱ〜!昼飯の時間ちゅぱ!昼飯をちゅぱるぜ!』

ファウス『…あ、はい。』

 

ファウスはファウス機のコックピットを閉じ、チュパカブラ獣人の後に続く。

 

チュパカブラ獣人『まったく馬車ウマのようにこき使いやがってちゅぱ〜!ウマじゃないっての!…ちゅぱ。』

 

ファウスは苦笑いを浮かべる。

 

ファウス『は、はあ。』

 

建築現場の作業員達が集まる一画に入るチュパカブラ獣人とファウス。ファウスの方を向く建築現場の作業員達。

 

建築作業員A『おお、こいつが新入りか。』

 

ファウスは顔を赤らめて一礼する。

 

ファウス『あ、あのファウスと申します。よろしくお願いします。』

 

建築作業員B『ほお、かわいいのお。こんな所で働くよりもっと別の所があるのに…。』

建築作業員C『まあまあ。』

 

建築作業員Cはファウスの方を向く。

 

建築作業員C『いや、大分作業がはかどったわ。』

 

建築作業員Dがファウス機を見上げる。

 

建築作業員D『しかし、その年でこんなええ人型機構を持ってるとはな。』

 

ファウスは俯く。

 

ファウス『…あの人型機構はその、父の…父の形見で。』

 

歯を食いしばるファウス。

 

建築作業員A『そうか。父親のなあ。』

 

溜息をつくファウス。

 

 

夕焼けに照らされて資材を運ぶファウス機。音楽が流れる。作業が止まる。手を振るチュパカブラ獣人。ファウス機のコックピットのハッチが開く。

 

チュパカブラ獣人『おお〜い。もう終わりだ〜………ちゅぱ。金をもらうぜ!…ちゅぱぜ。』

 

人型機構から降り立つファウス。ファウス機のコックピットのハッチが閉まる。チュパカブラ獣人に続くファウス。

 

 

ポーの町の町内会長と建設現場の責任者から金の入った袋を貰う建築現場の従業員達。金の入った袋を受け取るファウス。

 

ファウス『あ、ありがとうございます。』

建設現場の責任者『いや、助かったよ。ありがとう。これからもよろしくな。』

 

ファウスは一礼する。

 

ファウス『は、はい。』

 

 

部屋の扉を開けるファウス。椅子に腰かけ、シーン皇国産のアニメ“魔法陰陽師っ子せーめーちゃん”を見ているヘレ。

 

ファウス『ただいま戻りました。』

 

ファウスの方を向くヘレ。ヘレの傍らによるファウス。ファウスは金の入った袋をヘレに差し出す。ヘレはファウスから金の入った袋を奪い取ると封を開ける。眉を顰めるヘレ。ヘレは溜息をつく。

 

ヘレ『…なんだこれっぽちかい。』

 

ヘレは袋から札束を数枚取り出し、それで机を数回叩く。

 

ヘレ『こんなんじゃ、全然足りないのよ!使用人抱えて、豊かな豪邸…。』

 

ヘレは酒瓶をファウスの前に突きつける。

 

ヘレ『こんなクズ酒じゃなくて高級酒!!高級料理!綺麗な夜景…。』

 

泣き出すヘレ。

 

ヘレ『全部全部…あんたのせいで。』

 

俯くファウス。

 

C7 新天地 END

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C8 邂逅

 

夕焼けがフッシ王国ポーの町のアコン商店街改良工事現場を染める。金の入った袋を持ち、工事現場から去っていく人々。アオダイショウ人の作業員と共に歩いているチュパカブラ獣人。アオダイショウ人の作業員がファウスの方を見る。

 

アオダイショウ人の作業員『おい、若いの!』

 

顔を上げ辺りを見回すファウス。

 

アオダイショウ人の作業員『お前だ。お前。』

 

アオダイショウ人の作業員はファウスに歩み寄り、肩に手をかける。

 

アオダイショウ人の作業員『なっ、若大将。』

 

アオダイショウ人の作業員は舌でファウスの頬を舐める。

 

ファウス『ひゃっ…。』

 

ファウスに歩み寄るチュパカブラ獣人。

 

チュパカブラ獣人『今から歓楽街でもいかないちゅぱか?』

ファウス『か、かんらく…。』

アオダイショウ人の作業員『折角、金も入ったとこだしよ。ここいらでパーっと使ってヤっちまおうぜ。な!』

 

首を傾げるファウス。

 

ファウス『…やるって…何をやるんですか??』

チュパカブラ獣人『楽しいとこちゅぱよ。』

 

ファウスは下を向く。首を振り、二人を見るファウス。

 

ファウス『お母様が帰りを待ってるんです。』

 

腰に手を当てるアオダイショウ人の作業員。

 

アオダイショウ人の作業員『多少の寄り道位はいいだろ。一皮むけるぜ。』

 

ファウスは胸に手を当てる。

 

ファウス『…折角のお誘い…うれしいんです…でも、やっぱりお母様が心配で。それに…お金が必要なんです。』

 

頭を深々と下げるファウス。

 

ファウス『…ごめんなさい。』

アオダイショウ人の作業員『そうか、お母さん思いなんだな。』

チュパカブラ獣人『そっか。残念だな。…ちゅぱな。』

 

去っていく二人。ファウスは金の入った袋を両手で抱えて去る。

 

 

部屋の扉を開け、唖然とするファウス。金の入った袋がファウスの足元に落ちる。テレビには暗黒大陸連邦の青春コメディドラマ“リバティヒルズコップ製造工場青春白書”が流れ、椅子が倒れ、床には酒と割れた瓶が散乱している。

 

机に駆け寄り周りを見回すファウス。

 

ファウス『お、お母様!お母様!!』

 

ファウスは部屋の奥に進む。

 

ヘレの声『おぇええええええええぇええええ…うっ…えっ…。』

 

ファウスは目を見開き、トイレの方を向く。

 

ヘレの声『はぁ、はぁ…。』

 

トイレに駆けるファウス。開いているトイレの扉。中ではヘレが壁にもたれかかり息を切らし目を閉じて顔を上にあげている。ヘレに駆け寄るファウス。

 

ファウス『お母様!!』

 

ヘレをさするファウス。

 

ファウス『お母様!大丈夫ですか?しっかりしてください!』

 

目を開くヘレ。

 

ヘレ『…お、お前。』

 

ヘレは顔を赤くして、ファウスから体を反らす。

 

ファウス『お、お母様?』

 

泣き出すヘレ。

 

ヘレ『こんな所でゲロ吐いてる私なんて汚らわしい女だと思っているんだろ!汚らしい女だと思っているんだろ!』

 

ファウスは眉を顰める。

 

ファウス『何を言ってるんですか…。』

 

ヘレはファウスを睨みつける。

 

ヘレ『私が酷い仕打ちをしたから、ざまあみろくそババアぐらいに思ってるんだろ!こんなみっともないところみてせいせいしてるんだろ!』

 

泣き崩れるヘレ。ファウスは首を横に振りヘレに近づく。

 

ファウス『そんなことありません!お母様は大切な人だから!』

 

ファウスはヘレの傍らに座り、ヘレの背中をさする。

 

ヘレ『えっ…。』

 

ヘレはファウスを見つめ、涙を流しながら下を向く。

 

ヘレ『…私、駄目な女よね。最低の母親よね。』

 

ヘレはファウスの方を向く。ファウスは首を横に振る。ヘレは目を見開き、ファウスを抱きしめる。

 

ヘレ『ねえ、こんなクズだけど見捨てないでおくれよ!見捨てないで…。お願いよ!』

ファウス『見捨てるなんて…そんな酷いこと。僕はお母様の力になれればと思って…でも、僕の力が足らなくて…ごめんなさい。』

 

ヘレはファウスの顔を覗き込んだ後、再びファウスを抱きしめる。

 

ヘレ『ごめんね。私、お前に八つ当たりばっかりして…本当にごめんね。私、駄目な母親よね。』

ファウス『…お母様。』

 

 

ソファで吐息をたてるヘレ。

 

鶏の鳴き声。包丁の音。

 

ヘレは目を開き、台所にいるファウスの方を向く。

 

ヘレ『…何、してるの?』

 

ファウスはヘレの方を見て微笑む。

 

ファウス『あ、おはようございます。』

 

起き上がり、片手で自身の髪を撫でるヘレ。

 

ファウス『あの朝食と…お昼の支度をと。』

 

ファウスは包丁で指の先を切る。

 

ファウス『いたっ…。』

 

切れた指を抑えるファウス。ヘレはファウスに駆け寄る。

 

ヘレ『大丈夫?』

 

ヘレを見つめるファウス。

 

ファウス『あ、はい。』

 

ヘレはファウスの血が出ている指を見つめる。

 

ヘレ『血が出てるじゃないか。』

 

ヘレはファウスの傷口を舐める。顔を赤らめるファウス。

 

ファウス『あ、あの…。』

 

立ち上がるヘレ。

 

ヘレ『宮廷生活が長いんだ。こういった事は私がやるから。』

ファウス『でも、僕ができれば少しでもお母様の苦労が減らせると思って…。』

 

ファウスに背を向け、目に手を当て、涙を流すヘレ。

 

ファウス『どうしました?僕…何か悪いことでも…。』

 

首を横に振るヘレ。

 

ヘレ『…嬉しいのさ。こんないい子を授かってさ。』

 

目元を腕でふき、微笑んでファウスを見つめるヘレ。

 

ヘレ『いいよ。これから私が教えてあげる。』

 

ファウスはヘレの方を向いて微笑む。

 

ファウス『わぁ、本当ですか。うれしい。』

 

C8 邂逅 END

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C9 通ぎる日

 

フッシ王国ポーの町。ファウス達が借りている部屋。料理をするヘレと手伝うファウス。

 

ファウスはヘレを見上げる。

 

ファウス『ねえ、お母様。』

 

ファウスの方を向くヘレ。

 

ヘレ『何だい?』

ファウス『僕ってどんな子でした?』

 

ヘレはファウスを見つめる。

 

ヘレ『どうしてそんなこと聞くんだい?』

ファウス『…僕、小さい頃の事…まったく覚えていないんです。』

 

ヘレは目を見開いて、ファウスを見つめる。

 

ファウス『お父様やお母様にご迷惑をかけるような悪い子だったのかな?…フィオラの町の人達は口減らしの…間引きとか言っていましたけど。僕、意味が分からなくて。』

ヘレ『そんな言葉知らなくていいの!』

 

ファウスを強く抱きしめるヘレ。

 

ヘレ『お前は…本当に優しくていい子で、正義感が強くて…そうじゃなきゃこんな事にはならなかったんだよ。』

 

ヘレはファウスの頭を何回か撫でる。

 

 

部屋からでるファウスとヘレ。ファウスはヘレに一礼する。

 

ファウス『行ってきます。』

 

手を振るファウス。手を振るヘレ。ファウスは顎に人差し指を当てる。

 

ファウス『あっ…。』

 

ファウスはヘレに駆け寄る。ファウスを見つめるヘレ。

 

ファウス『お母様。お酒は程々にして下さいね。』

 

頷くヘレ。ファウスはヘレに手を振って去っていく。ヘレはファウスに手を振った後、呟く。

 

ヘレ『…お酒。』

 

 

昼の音楽が流れ、フッシ王国ポーの町のアコン商店街改良工事現場での作業を止める作業員たち。建築現場の作業員達が集まる一画で昼飯を食べるファウス。チュパカブラ獣人は南部バンガロール産官複合体千年大陸連邦従属王国のタイガートラスト社生産の血パックを飲むチュパカブラ獣人の隣で俯くファウス。アオダイショウ人の作業員がファウスに近づく。

 

アオダイショウ人の作業員『よう若大将。隣いいか。』

ファウス『あ、はい。』

 

ファウスの隣に座るアオダイショウ人の作業員。ファウスはアオダイショウ人の作業員の方を向く。

 

アオダイショウ人の作業員『お母さんは元気か?』

ファウス『…え、ええ。』

 

チュパカブラ獣人はファウスの方を向く。

 

チュパカブラ獣人『気を付けた方がいいちゅぱぜ。こいつ昨日、こっぴどくフラれたからな。…ちゅぱな。』

アオダイショウ人の作業員『うるせー!無理に…無駄にちゅぱちゅぱ言いやがって!』

 

苦笑いをするファウス。ファウスは上を向いた後、アオダイショウ人の作業員の方を向く。

 

ファウス『あの…間引きとか口減らしって何ですか?』

 

腕を組み、眉を顰めるアオダイショウ人の作業員。

 

アオダイショウ人の作業員『そいつはあんまりいい言葉じゃないな。』

ファウス『えっ…。』

アオダイショウ人の作業員『…養っていけないから子を殺すことさ。』

 

ファウスは目を見開く。

 

アオダイショウ人の作業員『…しかし、何でそんなことを?』

ファウス『あ、いえ…そのテ、テレビで…ニュースでやっていたので…その。』

 

頷くアオダイショウ人の作業員。

 

ファウス『あの…少し席を外してもよろしいでしょうか。少し…一人になりたくて。

 

頷くアオダイショウ人の作業員。

 

ファウス『申し訳ありません。』

 

ファウスは立ち上がり、建築現場の作業員達が集まる一画から離れ、空を見上げる。

 

ファウス『お母様…ありがとう。』

 

 

夕方、部屋に入るファウス。

 

ファウス『ただいまもどりました。』

 

ファウスは机の上に金の入った袋を置く。首を傾げ、部屋の奥に入るファウス。

 

ファウス『お母様ー。』

 

部屋を見回すファウス。

 

ファウス『お母様ー。お母様ー。』

 

部屋を調べていくファウス。

 

ファウス『…ここにも居ない。』

 

ファウスは部屋から駆け出て女将の部屋の呼び鈴を押す。扉が開き現れる宿屋の女将。

 

宿屋の女将『…ああ、ファウスちゃんかい。どうしたの?』

 

ファウスは宿屋の女将を見つめる。

 

ファウス『あの、お母様を見ませんでした?』

宿屋の女将『ああ、ヘレさんなら歓楽街へ遊びに行ったよ。』

ファウス『…歓楽街ですか。』

宿屋の女将『ま、息抜きってところかね。』

ファウス『そうですか。』

 

ファウスは胸に手を当てて、首を左右に振る。

 

宿屋の女将『心配せずとも戻って来ると思うよ。』

 

宿屋の女将はファウスの肩に手を当てる。

 

宿屋の女将『ね。』

 

ファウスは頷く。

 

ファウス『そ、そうですね。ありがとうございます。』

 

去っていくファウス。宿屋の女将の部屋の戸が閉まる。

 

 

ファウス達が借りている部屋。時計の音が鳴る。ファウスは時計の針を見る。

 

ファウス『…遅い。』

 

胸に手を当てて立ち上がる。

 

ファウス『…お母様に何かあったのかもしれない。』

 

ファウスは部屋から飛び出し、宿屋の女将の部屋の呼び鈴を押す。

 

暫し沈黙。

 

ファウスは宿屋の女将の部屋の呼び鈴を何回か押す。

 

宿屋の女将『…たくっ。こんな夜更けに何の用だい?』

 

ファウスは宿屋の女将に頭を下げる。

 

ファウス『ごめんなさい。本当に申し訳あしません。』

 

ファウスは顔を上げ、宿屋の女将の顔を見る。

 

ファウス『お母様がまだ戻ってきていないんです。僕、心配で。あの、歓楽街ってどこですか?』

 

宿屋の女将は目を見開く。

 

宿屋の女将『…そうかい。まだね。』

 

宿屋の女将はネオンで照らされる街並みの方を指差す。

 

宿屋の女将『歓楽街はあっちだよ。あのネオンが華やかな所さ。』

 

ファウスは宿屋の女将に頭を下げる。

 

ファウス『ありがとうございます。』

 

駆けていくファウス。

 

フッシ王国ポーの町歓楽街。胸に手を当て周りを見回しながら歩くファウス。壁にもたれかかり煙草を吸っている露出度の高い服装の娼婦がファウスを見つめる。娼婦の前を通るファウス。

 

娼婦『ねぇ。ぼく?』

 

娼婦の方を見るファウス。

 

娼婦『見ない顔だね。ここははじめてかい?』

ファウス『はい。お母様を探しているんです。』

 

娼婦はファウスを見つめる。扉の開く音。ホストクラブから追い出されるヘレ。ヘレの方を向く通行人を含めた一同。閉まるホストクラブの扉。ヘレの方へ駆けていくファウス。

 

ファウス『お母様!!』

 

ヘレは笑いながら酒瓶を一気飲みする。倒れるヘレ。ファウスはヘレをさする。

 

ファウス『お母様!お母様!!』

 

呻き声を上げるヘレ。ファウスは辺りを見回す。娼婦は街角を指差す。

 

娼婦『い、医者なら…あっちだよ。』

 

ファウスは娼婦に一礼する。

 

ファウス『あ、ありがとうございます。』

 

ヘレを背負うファウス。

 

ファウス『お母様。心配ないですよ。すぐにお医者様が診てくれます。』

 

 

フッシ王国ポーの町歓楽街、ボロアパート群と隣接するヤーブ医院。ヘレを背負い呼び鈴を押すファウス。暫くしてファウスは扉をノックし始める。呼び鈴を何度も押し、ノックし続けるファウス。扉が開き、欠伸をしながら現れる医者のヤーブ。ヤーブは眉を顰めてファウスを見る。

 

ヤーブ『こんな夜更けに何の用だ?』

ファウス『ごめんなさい。でも、お母様が倒れてしまって…その。』

 

ヤーブは2、3回頷き、ヘレの方を向き、首に手を当てる。眼を少し開き、眉を顰めるヤーブ。ヤーブは再び首筋に手を当て、懐から懐中電灯を取り出すと、ヘレの右目を開き、次に左目を開く。ヤーブは溜息をつく。

 

ヤーブ『あー…こりゃ、私の仕事じゃないな。教会の仕事だよ。』

ファウス『教会…。』

ヤーブ『…死んでいるよ。』

 

ファウスはヤーブの顔を覗き込む。

 

ファウス『…えっ?』

 

下を向く医者。

 

医者『ご愁傷様…。』

ファウス『…嘘でしょ。』

 

ファウスはヘレを降ろし、顔を覗き込んだ後、ヤーブを見る。

 

ファウス『…眠っているだけでしょ。だって…。』

 

ファウスはヘレの顔を見る。

 

ファウス『こんなに…。』

 

首を横に振るヤーブ。

 

ヤーブ『残念だけど…死んだ者は我々医者では生き返らすことはできないんだよ。』

 

崩れ落ちるファウス。溜息をつくヤーブ。ファウスはヘレをさする。

 

ファウス『…ねえ、お母様。お母様。眠っているだけですよね。お母様。』

 

片手で頭を抱えるヤーブ。

 

ファウス『起きてください。お母様。お母様。ね、ね。』

 

ファウスの眼から大量の涙が毀れる。

 

ファウス『起きて!ねぇ、起きてください!!起きて…。お願いです!お母様!!』

 

ファウスはヘレを抱えて泣く。

 

ファウス『こんなの嫌だ!一人にしないで!!』

 

赤ん坊の泣き声。ボロアパートの住人女Aが顔を出す。

 

ボロアパートの住人女A『ちょっと、せっかく赤ちゃんが泣き止んだと思ったら起きちゃったじゃないの!どうしてくれるの!』

 

ボロアパートの住人Aが窓から顔を出す。

 

ボロアパートの住人A『てめぇ!五月蝿いぞ!今、何時だと思ってるんだ!』

 

次々と窓から顔を出し、罵声をファウスに浴びせるボロアパートの住人達はファウス目掛けて色々なものを投げる。

 

大量のカエルの玩具が降り注ぐ。フリスビーが壁に当たる。投げられた賞味期限切れの非常用食材が医院の正面に散乱する。

 

ヤーブ『こ、こりゃたまらん!ともかく中へ!』

 

ヤーブに連れられヘレの遺体と共に医院の中へ入っていくファウス。

 

C9 過ぎる日 END

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C10 アレスの黒剣

 

フッシ王国ポーの町ヤーブ医院内部。ベットに横たわるヘレの遺体。横の椅子に座るファウス。ファウスはヘレを見つめる。扉が開き、ヤーブがファウスの横に立つ。

 

ファウス『やっぱり…起きないんです。何時間待っても、起きないんです。頼んでも、お願いしても。』

 

ヤーブは2、3回頷く。

 

ファウス『…どうしてこんなことに。』

 

両手で顔を覆い、泣き崩れるファウス。

 

ファウス『もっと一緒に居たかった。もっと色んなことを教わりたかった…もっと。』

 

ヤーブはファウスの肩に手を当てる。

 

ヤーブ『死んだら、何もできないからな。せいぜいできていい墓を立ててやるぐらいなもんだ。』

 

ファウスはヤーブの顔を見る。

 

 

フッシ王国ポーの町ヤーブ医院から出るファウス。

 

ヤーブ『遺体は教会に回収してもらうから、その後に教会に聞けばいい。教会は…。』

 

ヤーブは歓楽街から見える聖堂を指差す。

 

ヤーブ『あそこの建物だ。』

 

ヤーブは番号の書かれたメモをファウスに渡す。

 

ヤーブ『この番号を事務所に言えばいい。最近は成りすましで死体を盗む連中が出てきているらしいからな。』

 

ファウスはヤーブに向けて深々と頭を下げる。

 

ファウス『…はい。何から何までありがとうございます。』

 

ファウスは肩を落とし去っていく。

 

 

フッシ王国ポーの町。ファウス達が借りている宿に戻るファウス。話している町内会長と宿屋の女将がファウスの方を向く。ファウスに駆け寄る町内会長。

 

町内会長『おお、ファウス君。探したぞ。君がいないので仕事があまり進まなくてな。』

 

宿屋の女将は腰に両手を添える。

 

宿屋の女将『いったい今まで何処に行ってたんだい?で、ヘレさんは見つかったのかい?』

 

ファウスは宿屋の女将を見た後、俯き、涙を流す。

 

ファウス『…お母様は…お母様は…死に…。』

 

ファウスは歯を食いしばる。

 

ファウス『死にました。』

 

顔を見合わせた後、眉を顰める町内会長と宿屋の女将。ファウスはファウス達が借りている部屋へ入っていく。

 

 

フッシ王国ポーの町オンディシアン教会ヘッポコ聖堂の前で立ち止まる金の袋を持ったファウス。ファウスはヘッポコ聖堂の扉を開き、中に入り、受付に行くファウス。

 

ファウス『あの…。』

 

ファウスは番号の書かれたメモを取り出す。教会の事務員Aはメモを見る。

 

教会の事務員A『遺体番号2256789ですね。少しお待ちください。』

 

教会の事務員Aは電話をかける。

 

教会の事務員A『あ、受付です。遺体番号2256789お願いします。』

 

受話器を置く教会の事務員A。

 

教会の事務員A『手続きの方はどうされます?』

ファウス『手続き…?』

 

教会の事務員Aは料金表を出し、二番目に書いてある葬儀と墓のセットでの料金をペンで指す。

 

教会の事務員A『こちらのセットになりますと。』

 

金額を見るファウス。

 

ファウス『あの…。』

 

ファウスはお金の入った袋を出す。

 

ファウス『…これしかなくて。』

 

中身を確認した後、ファウスを見る教会の事務員A。

 

教会の事務員A『…あーこれじゃ全然足りませんね。まあ、葬儀は諦めて、下層の共同墓地でやっとですね。』

ファウス『共同墓地…。』

 

車輪の音がして、教会の事務員Bが台車にヘレの遺体を持ってやってくる。

 

 

フッシ王国ポーの町オンディシアン教会ヘッポコ聖堂下層の共同墓地に入れられるヘレの遺体。ファウスは胸に手を当てて見つめる。

 

夕日が墓地を照らす。教会の事務員達はファウスに一礼して去っていく。風がファウスの髪を靡かせる。ファウスは跪いて下層の共同墓地に向かい祈りを捧げる。

 

草の潰れる音。ファウスは後ろを振り向く。ファウスの見開かれた眼にはアレスの黒剣の一人三枚舌のファフティフニスが映る。体を震わせるファウス。

 

ファフティフニス『よう。久しぶりだな。』

 

歯を食いしばり立ち上がるファウス。

 

ファウス『あ、あなたは。何でここに。』

 

ファフティフニスは髪を掻き揚げる。

 

ファフティフニス『調査ー。お前が偽王子に成りすました10数年前の事件のな。』

ファウス『えっ?』

ファフティフニス『俺達をはめた奴が、俺達の中に居るかもしれないってことでな。で、お前のかーちゃん死んだんだって。』

 

ファフティフニスはファウスに近づき、ファウスの顔を見つめる。

 

ファフティフニス『で、…誰に殺された?』

 

ファウスは俯く。

 

ファウス『…僕が殺したも同じです。』

 

眉を顰めるファフティフニス。

 

ファウス『僕が…あんなことを言わなければお母様は、お酒を飲みすぎて死ぬこともなかったのに…。』

 

ファフティフニスは2、3回頷く。

 

ファフティフニス『ふーん。そう。で、お前の人型機構は。』

ファウス『えっ…。』

 

ファウスを影が覆い、背後に立つアレスの黒剣の一人、黒甲冑のクラウラルン。

 

クラウラルン『…おう、ファフティフニスよ。こいつがあのクソの農奴の息子か?』

 

口に手を当てるファフティフニス。ファウスは振り返り様に殴り飛ばされる。地面に這い蹲るファウス。クラウラルンはファウスの背を踏みつける。

 

ファウス『あう!』

 

ファウスの髪を掴み引き上げるクラウラルン。

 

クラウラルンに駆け寄るファフティフニス。クラウラルンはファウスを睨みつけ、握り拳を上げる。

 

ファフティフニス『止めろ!クラウラルン。』

クラウラルン『何故止める!こいつは農奴の息子でありながら、王と我々を謀った逆賊だろうが!殺さなくていい道理などないだろう!』

 

ファフティフニスはクラウラルンの拳に手で掴み、おろす。

 

ファフティフニス『今、職務中だろ。元々追放された我々がここで事を起こすと後々厄介だぞ。』

 

クラウラルンは歯軋りして、ファウスを地面に叩きつける。

 

ファウス『あぐ!』

クラウラルン『こいつが…こいつさえ、農奴の息子だとあの時に名乗っていりゃ、俺の嫁は将来に絶望して首をくくらなくてもすんだんだよ!お腹の中の子も死ななくて済んだんだよ!こいつが…。こいつが…。』

 

ファウスは唖然として、地面を見つめる。クラウラルンはファウスに唾を吐く。しゃがむファフティフニス。

 

ファフティフニス『それで、人型機構は?録画ディスクを回収…。』

ファウス『…なさい。ごめんなさい。記憶が無いんです。…その時の記憶が無いんです。ごめんなさい。ごめんなさい。…。』

 

ファフティフニスはクラウラルンを見た後、溜息をつく。

 

ファフティフニス『で、人型機構は?』

 

涙を流すファウス。ファフティフニスはファウスの胸倉を掴む。

 

ファフティフニス『ひ・と・が・た・き・こ・う・の・ば・しょ・は?』

ファウス『…商店街の近くの宿屋の駐車場に。』

 

ファウスの胸倉から手を離すファフティフニス。

 

ファフティフニス『良かったね。お前が受領しているという事になっていなければ、機体ごともらっていったのにねぇ。』

 

去るファフティフニスとクラウラルン。蹲るファウス。

 

 

フッシ王国ポーの町。ネオンに照らされる都市部の人ごみの中を俯き、歩いていくファウス。高層ビルに設置された巨大TVを指差し見上げる人々。ざわめき。ファウスは立ち止まり、TVを見上げる。

 

TVに映るゼウステス99世の遺体を祭壇の上に運ぶ民衆達。祭壇の中央に置かれるゼウステス99世の首と体。ファウスは眼を見開く。

 

ファウス『ゼウステス99世様…。』

 

TVに映るナルキス王子をゼウステス99世の横に置くディライセン。

 

ディライセン『王は、かつては偉大で聡明な方であった。民達も慕い、国家も美しく統治されていた。』

 

涙を流すディライセン。薪を持って来る民衆達。ディライセンの方を見つめるフテネを映すカメラ。

 

フテネ『火葬か?しかし、王族は…。』

 

頷くディライセン。

 

ディライセン『非道を行った魂を少しでも天に導く為に。』

 

頷くフテネ。立ち上がるディライセン。

 

ディライセン『しかし、暴虐で残虐極まりないネロス王子の口車に乗って道を踏み外してしまった!我々が愛する民に離宮造営の為に増税に次ぐ増税、更には労役を課し、不平を言うものは車裂きの刑に処した。古から続く伝統ある我が国家は、民草の血で穢れた。それもこれも、王が民を御疑いになってしまったばっかりに…。』

 

ゼウステス99世とナルキス王子の遺体に薪がかぶせられる。火を持って祭壇を登る民衆達。

 

ディライセン『アレス王国で農奴の子が王子に成りすまし長年、王子として過ごしていた事が露見した為、王の中の秩序が崩壊してしまったのだ。そしてネロスの言いなりになった。思い出してほしい。王の施した政を。』

民E『アレス王国の農奴め!なんて酷い奴なんだ!』

 

テレビから流れる民衆のすすり泣き。ファウスは俯く。

 

ディライセン『王のした事は決して許される事では無い。』

 

薪に火がくべられる。

 

ディライセン『そして、王を止められなかった我々にも責任はある。』

民A『そんなことはありません。あなた方は必死に王を諌めていらしたではありませんか。中には施しをする方も。』

 

ディライセンが一礼する。

 

民B『そうだ!ネロスが悪い!そして、アレス王国の農奴の子が悪い!』

民C『そうだそうだ!』

 

ファウスは胸に手を当てる。

 

ファウス『僕の…せいだ。僕の…せいだ。』

 

TVに映るディライセンの顔。

 

ディライセン『王を殺した我々は重罪人だ!』

民B『何も後悔することはない。あんたらは我々の為に立ったんだ!』

民女A『そうよ。でなければ恐怖で怯える日々がずっと続いていたのよ!』

民女B『私達の為に主殺しの罪に手を染めたのよ!』

民C『あんたらは何も悪くない!』

 

ディライセンは一礼する。

 

ディライセン『ありがとう…。』

 

ディライセンは炎に包まれるゼウステス99世とナルキス王子を見つめる。

 

ディライセン『王と王子そして、亡くなった方々のの魂に安寧を。』

 

祈りを捧げるディライセン。フテネは敬礼をする。フテネに合わせて敬礼するゼウステス王国の武官達。ゼウステス王国の文官達は祈りを捧げる。黙祷する民衆達。立ち上がるディライセン。

 

ディライセン『この荒廃したゼウステスの地。王は居なくなり、聖女も死んだ。暴政の跡を残すだけ…。』

 

民Cが拳を上げる。

 

民C『そんなことはない!我々にはフテネ様とディライセン様に文官様と武官様がおられるではないか!』

民F『そうだそうだ!』

民女A『我々をネロスの悪逆非道から救って下さった英雄!』

民女B『きっと、きっと。ええ。きっとゼウステスの地は元に戻りますとも!』

民G『我らと共にこの地の復興を!』

民女C『そうよ!我々と復興を!』

 

周りを見回すディライセンとフテネ。

 

民衆達『フテネ様万歳!ディライセン様万歳!』

 

拍手喝采。歓声が巻き起こる。顔を見合わせるTVを見つめる人々。蹲るファウス。

 

ファウス『…僕のせいだ。…僕のせいだ。』

 

テレビの画面がニュースキャスターに切り替わる。少しの間。

 

ニュースキャスター『えー次のニュースです。神聖マロン帝国皇帝クリキントンが…栗の生産地偽装の為、退位しました。』

 

TVの画面が切り替わる。カメラのフラッシュがクトリンキンを何回も照らす。クトリンキンの隣に座る異母兄弟のモンブラン・ルブラン。

 

モンブラン・ルブラン『…この度は兄の偽装工作により、栗の諸外国の消費者の信頼を損ね、生産者である我々のブランドを著しく傷つけたことを遺憾に思う。』

 

椅子に座るクトリンキンに目掛けて毬栗を投げつける民衆。

 

モンブラン・ルブラン『兄にはこの責任を持って皇帝を退位して頂く。』

 

クトリンキンは歯を食いしばって、拳を振るわせる。

 

歓声。

 

赤絨毯を去るクトリンキン目掛けて、毬栗を投げつける民衆達。神聖マロン帝国の漁業ギルド長が海栗をクトリンキンに投げつける。海栗に群がり、取り合う民衆達。

 

画面が切り替わる。

 

ニュースキャスター『速報です。神聖マロン帝国の新皇帝がモンブラン・ルブラン氏に決まったようです。』

 

スーツを着こなした女性が蹲るファウスに躓く。スーツを着こなした女性はファウスを睨んだ後、交番に入っていく。ファウスに向かって駆けてくる巡査。

 

ファウス『…僕のせいだ。僕の・・・。』

 

巡査はファウスの肩を叩く。巡査の方を向くファウス。

 

巡査『ちょっと君、この人ゴミの中だと危ないから。違う場所に行ってもらえないかな。』

 

立ち上がるファウス。

 

ファウス『…ごめんなさい。』

 

ファウスは俯きながら去る。

 

ニュースキャスター『先ほどのニュースに訂正があります。神聖マロン帝国皇帝クトリンキンの名前がクリキントンとなっておりました。ご指摘ありがとうございました。』

 

C10 アレスの黒剣 END

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次回予告

 

成すべきこと

説明
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・食べ物を粗末にする描写が含まれておりますので、それが我慢ならない方は絶対に読まないで下さい。

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R-18グロテスク 悪魔騎兵伝(仮) 

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