真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第十一話 |
〜曹操side〜
「華琳様。どうやら孫策軍が後退を始めたようです。それに続いて劉備軍も後退を始めました。」
「……理由は士気の低下。さしずめ、先ほどの演説が原因ってとこかしら。」
「恐らくその通りかと…。」
秋蘭からの報告を聞き、眼前に聳える水関の壁上を見つめる。
そこには、私が認める覇道の妨げとなる人物……徳種聖の姿があった。
想像通り、やはり彼が組した董卓軍は厄介な敵となった。
ここしばらく、大した戦闘も行っていないというのに此方側の兵の数だけが減っている。
それは主に孫策軍、劉備軍からではあるが、その報告を聞くことで残りの軍の兵の士気さえ下げようとする狙いがあるように思える。
また先ほどの演説。
前線に配置された劉備軍は、まだ義勇軍上がりの新参軍のため、兵士達の思いは一枚岩ではない。
その近くに布陣する孫策軍も、この間の孫堅死亡の報の時に多くの兵を失い、今回の参軍には袁術の所の兵士を拝借していることであろう。その為此方も孫策に忠誠を誓っているわけでもなく、心は離れやすい。
この二軍の兵を減らすために彼は、戦闘以外の方法で一番効果のある策を実行してきたと言えよう。
これにより此方の前線には多大な被害が予想される。
ならば、彼は次に何を行うというのか……。
どこか彼は直接真っ向から戦闘を行うというのを避けているように思われる。
動くとしたら今この時ではあるのだが、その様子も見えない…。
ここで行動を起こさない…??何のために……??
次の一手を最大に効果良くさせるためには何が必要……??
そして、彼の言った真実を見せるために必要なこととは……??
「――――様…。華――様…。華琳様!!」
ここまで来てようやく桂花が私を呼ぶ声に気付く。
どのくらいの時間私に呼びかけていたのだろう、彼女の顔は真っ赤に染まり息を乱れていた。
「どうしたの、桂花。」
「あの……華琳様、お加減が優れないのですか??」
「大丈夫よ、少し考え事をしていただけ。それよりも、報告があるのでしょう?」
「はっ!! 袁紹より伝令が来てますが…。」
「……どうせ、前線の二軍に変わってせめて来いとかって言うんでしょ…。まったく、馬鹿の一つ覚えじゃあるまいし、同じ様に突っ込んだところで結果は見えてるわ…。」
「では、どうなさいますか。」
「今は様子を見るわ。麗羽には適当に言っておきなさい。どうせ、私が動かないと分かれば自分で行くでしょうし……その時、きっと彼は何か動くはず、そこで動けるように準備しておくことこそ今一番大事なことよ…。」
「御意!! 仰せのままに…。」
桂花はそう言って去っていく。
さて、次にあなたはどんな策を用いて私たちの戦力を削ごうというのかしら…。
〜袁紹side〜
「ま〜ったく、劉備さんは何をなさっているのです?? さっさとこんな関ぐらい突破しちゃいなさいな。折角この偉大な私が総大将を勤める連合軍の、名誉ある先陣を任せて差し上げたのに……。」
「しょうがないですよ麗羽様…。劉備さんとこは兵も少ないですし…。」
「違いますわ、斗詩さん。兵が少なくとも私たちのところみたいに優秀な兵なら問題は無いはずですわ!!」
「でも姫〜…。劉備んとこはまだ出来たばっかだし、装備も碌に整ってないから無理なんじゃ〜……。」
「そういう言い訳は聞きたくありません。名門袁家出身の私が総大将を勤める連合軍において、一番大切なのは華麗に勝つこと。負けてスゴスゴと引き下がる様なんてあってはなりませんわ!!」
語気を荒げながら、苦々しく水関を眺める。
予定では、こんな関など一瞬の内に抜いて次の関攻略を始めているはずだというのに…。
こうしている間にも、董卓が汚い罠に帝を嵌めて、洛陽の民たちに重税をかけ、私腹を肥やし漢王朝の中枢を乗っ取ろうとしているはずなのに……。
あぁ〜……何と可哀想な帝……。
「こうしていられませんわ!!!! 斗詩さん!!前線の二軍と代わるように華琳さんに伝令を出した、その返事はまだですの!!!?」
「そ……それが………。曹操さんからは、今は動く時ではないって………。」
「もう!!!! 使えない人たちですわ!!!! 良いです。ならば、総大将の私自ら前線に出ます!!」
「「ええぇっ!!!!!!??????」」
自らを指し示すように指を広げた格好でそう宣言する袁紹に、驚きを隠せない部下の顔良と文醜。
「『えぇ!!??』では無いですわ!!!! あなた達も一緒に来なさい!!!!」
「で……でも……麗羽様。いきなり本隊が動いて良いんですか!?」
「このまま状況が改善しないままよりはずっとマシですわ!! 我が袁家の兵力を持って、水関なんてあっという間に抜いて差し上げますわよ!!!」
「でも…もし負けたら……。」
「あらっ!? 何を言ってるのかしら、斗詩さん…。我が軍には、あなた達二人のような優秀な人が多いから、負けることなんて万に一つもありはしませんわ!!!!! お〜っほっほっほっ!!!!!!!!!!」
高飛車な笑い声を上げ続ける袁紹を尻目に、溜息を吐く顔良。
「まっ……姫は一度言い出したら聞かないし……あたいもここでじっとしてるよりは、楽しそうで良いかな!!!」
それに対し、文醜はにししと笑いながらそう告げる。
「もう、文ちゃんまで!!!?」
「何だよ斗詩…。あたいと斗詩の二人がいるんだから、負けることなんて無いだろ? それに、斗詩の背中はあたいがしっかり守ってやるから安心しな!!!!!」
笑顔のまま親指を立てる文醜を見て、更に深い溜息を吐く顔良であった。
〜聖side〜
「敵前曲後退。代わりに後ろに控えていた本隊が出てくるようです。」
「了解…。じゃあ、手筈どおりに準備しておいて…。」
「はっ!!!!」
部下を見送りながら溜息を一つ吐き出す。
まさか、一番起こり得ないだろうシナリオ通りに事が進むとは誰が分かるであろうか…。
先ほどの演説はいわば前口上、売り言葉に買い言葉。
向こうがこっちが間違ったことをしていると言うなら、こっちも向こうが間違っていると言うだけ。
まぁ、多少情に訴えかけることもあったが、それだけで連合軍の士気をあれだけ落とすことが出来たのは本当に出来過ぎたことだ…。
そしてさらに、士気の下がった敵がむやみに突っ込んでくること無く退いてくれたのも大きい。
その代わりに前線に立つ部隊が本隊って言うのには流石に驚いたが、予想のぎりぎり範囲内であったから大丈夫であろう…。
さて、ならばそろそろか……。
「全軍!!!! 華麗に雄々しく、美しく進軍!!!! この関を直ぐに落としてしまいなさい!!!!」
戦場に響く声高な命令によって、先ほどまでとは比べ物にならないほどの数の兵士が水関に押し寄せる。
城壁の上に座ってそれを眺めているだけなのだが、地面を覆いつくす人の波は、見ていると酔ってきそうだ…。
「さて……一刀!!! そっちの準備は良いか!?」
水関の城壁側から見て右側に布陣した一刀の隊に向かい声をかける。
すると、顔を覗かせるようにして一刀が顔を出し、俺と目が合うとサムズアップを返してくる。
「うしっ…。じゃあ、合図があるまでは待機!!! 次!!!! 霞!!!!! 準備は良いか!!!!」
城壁側から見て左側に布陣した霞隊に声をかける。
すると、姿は確認できないが「ええで〜!!!!! 何時でも来ぃや〜!!!!!」といつもの霞らしい返事が屈強な男達の中から聞こえてくる。
「よ〜し……。じゃあ、次は奏!!!! 準備は良いか!!!!!!」
城壁のど真ん中、俺の直ぐ後ろにいるはずの奏に前を向いたまま声をかける。
すると、奏は俺を上から覗き込むようにして顔を見せると、にかっと音がしそうなほどの笑顔を見せて
「あぁ。何時でも来いって感じだよ!!!!!」
と言いながら、後ろから俺の胸の前で手がクロスするように抱き締められる。
奏もこんな人前でいちゃつくようになったか……と思っていると何やらどす黒い感情の気配が……。
少なからずいるであろう奏ファンの面々から、嫉妬と怒りと殺意の波動を感じますとも…。
でも今は、まぁそのぐらい闘志むき出しの方が戦いには向くだろうし良いだろ…。
「敵、城壁に密着!!! 梯子やら鉤付きの縄を使って城壁を登ってきます。」
「よしっ……全軍用意!!!!! 放て!!!!!!!!!」
〜袁紹軍side〜
「先頭が城壁下に接着。城壁登りに移行してます。」
「そのまま、一気に攻め潰すのですわ!!!!!!」
お〜ほっほっほっと相変わらずの高笑いを発しながら、全軍の指揮を取る袁紹。
ここから見ている限りでは、今のところ何の問題も無く攻城戦は進んでいる。いやっ、敵の抵抗が全くと言っていいほど無く、順調に進み過ぎていると言った方が正しい。
何か裏があるのではないかと疑いたくなるが、文ちゃんや麗羽様に進言したところで『そんなの気にしていられませんわ』とか言われて却下されるんだろうなぁ〜…と、その光景が目に見えている分、苦労が絶えない顔良であった。
「全軍用意!!!!!!! 放て!!!!!!!!」
そんな中、此方の兵が城壁を少し登ったところで、城壁の上から号令がかかる。
すると、先ほどまで黙っていた敵から、初めてと言っていい抵抗が浴びせられる。
………漢字のミスではない。確かに浴びせられたのだ……。何かしらの液体を……。
「うわっ!? 何だこれ…………油……??」
先頭を登っていた兵士は、その液体を全身に浴びながら、梯子や縄にもその液体を染み込ませて行く。
そして……。
「第二陣!!!!!! 放て!!!!!!!」
再度城壁上から放たれたのは火矢。
狙う先は先頭を登っている兵士の服。
「うわわぁぁああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「梯子が!!!!!!! 梯子が燃えてるぞ!!!!!!!!」
「早く降りろ!!!!!!!!! 全員燃え広がるぞ!!!!!!!!」
まさに一瞬の内にそこは阿鼻叫喚の図とかした。
火矢から燃え移った火は、兵士の服を燃やし全身を燃やし、それが飛び火して梯子や二番目を登っていた兵士を巻き込んでいく。
目の前に広がる悲惨な光景に、一瞬何が起こったのか理解できない袁紹軍の将三人。
そこに更に追い討ちをかけるように城壁上から投石が行われたことで、意識が何とか戻ってきた。
「人を燃やすとは悪逆非道も良いところですわ!!!!!! 正義の名にかけて、必ずや逆賊を討ち滅ぼしてくれますわよ!!!!!!」
「おらおら!!!!!!! どんどん攻撃を仕掛けろ!!!!!!!! 圧倒的な兵力の差があるんだ、負けることはねぇぞ!!!!!!!!」
単純思考の二人は、攻城の手を更に激化することで何処かで状況の打開を考えているみたいだが、まだ他に何かしらの策があるのではないかと顔良は思った。
しかし、先の二人の圧倒的な発言力や行動力に押される形でどんどん進められていく現状を、彼女一人でどうこうすることは出来ない。また、敵の策が何なのか、それを考え付くほど頭が切れるわけではない彼女は、それ以上は深く考えることはせず、自分も兵士に指揮を飛ばす。
何とも苦労人な顔良………知力34の彼女であった……。
〜聖side〜
「投石を続けろ!!!!!! 敵から、登ってこようとする意識だけ削いで、どうやって登るかだけを考えさせろ!!!!」
繰り返される投石に一人、また一人と梯子から落ちていく敵兵。
しかし、その歩みが中々止まることはなく。またその兵力に物を言わせて、どんどんと攻め込んでくる。
どうも、思惑通りには事は進まないようだ……。
「うむ……。どうも、袁紹軍は相手にし辛いね……。」
俺の漏らした愚痴を聞き漏らす事無く聞いていた奏は、不安そうな顔つきで覗き込んでくる。
「大丈夫なのか……お頭…。」
「今のところはな………。ただ、敵さんが兵力に物を言わせて、一昼夜攻め込み続けられると流石に不味いな…。」
「でも、それだと向こうにも多大な被害が出るんじゃないのかい?」
「その通りだけど、それを考えずに猪突猛進してるのが現状だよ…。もう少し後々の事を考えてくれる奴がいればこっちもやりやすいんだがな………。」
「へぇ〜……袁紹軍ってのは馬鹿ばっかなんだね……。」
奏が何か納得したような風にそう呟くのを聞いて、からかいたくなる俺。
「奏に言われるようじゃ、袁紹軍の軍師も終わったな。」
「なっ!!? どういう意味だい、お頭!!!!!」
「言葉通りさ。」
「ぐっ………。確かに……あたいは勉強は出来ないけどさ………。」
ちょっと落ち込んだ奏を見てると無性に庇護欲をかきたてられる。
ここら辺が奏の良さなんだよな〜と惚気満載でいると、再び袁紹軍が攻勢をかけてきている。
そろそろ投石の残数も考えると潮時だな……。
「全軍に通達!!!!!! 少し早いが、アレの使用に移る!!!!!! 相手の戦意を削ぐには十分な代物だ。派手にぶちかましてやれ!!!!!!!」
俺の一言で城壁上の此方の軍に一瞬の緊張感が生まれる。
そう………アレと呼ばれるものの恐怖を一度味わったことがある者の緊張が……。
弓史に一生 第九章 第十一話 激化する戦い END
後書きです。
第九章第十一話の投降となります。
アレとは何なのか凄い気になる終わり方をしましたが、続きは次話をお待ちください。
あんまり用いているようなイメージは無いですが、レッドクリフで使われていたことを考えれば既に技術的にはあったのではないかと………。
そして、苦労人斗詩……。
知力34の彼女の頑張りに、作者は恋姫一頑張ったで賞をあげたいです。
さて、次話はまた日曜日に……。
もしかしたら投降が間に合わないことになるかもしれませんが、その時は次週に持ち越すことになると思っていてください!!
では、また日曜日に!!!!!
説明 | ||
どうも、作者のkikkomanです。 投降が遅くなってしまって申し訳ありません。直前まで執筆、加筆修正を行っていたもので……。 ただし、内容的には十分だと思いますので、安心してお読みください。 さて、前話で先陣の二軍は後退する羽目に……。そしたら次に起こることは……?? 完全に原作とは異なった水関の戦いをお楽しみください。 |
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コメント | ||
>禁玉⇒金球さん コメントありがとうございます。 おっぱいは正義ですね、分かります!!! (kikkoman) 斗詩か、おっぱいムチ子だからいいんです。(禁玉⇒金球) |
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