真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 23
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「…………」

 

 部屋に戻った俺はベッド(厳密には違うんだが)の上で寝転がりながら、後悔、のような感情に苛まれていた。申し訳ない、と思う気持ちもあるのだが、それと同等、いや、それよりも少し多いくらいにあれでよかった、という思いがあるのだ。

 

(だが、やっぱりスッキリしねぇな)

 

 もう少し言い方があったのではないか? もうちょっと後で話しても良かったのではないか? なんてことが延々と頭の中を巡り続けている。だが、その途中で何度も挟まるのが、“あれでよかったんだ”といった言葉だ。

 

(このままだと、いつか俺は棘に絡め取られていたか、突発的に出て行ったかもしれない)

 

 まぁ、それでもアレを関羽から返してもらった後、だが。

 

(そういや……)

 

 なんで俺は彼女にアレを渡してしまったのだろうか? いまだに疑問だ。おまけに……

 

(うっ)

 

 そのこと思い出すたびにあの笑顔が、記憶に焼き付いてしまったあの笑顔が浮かび上がってくる。で、そのたびに顔が熱くなるわけだが。

 

「……だぁー! くそぅ!」

 

 で、そのこと忘れようとすれば、さっきの思考に戻ってしまうワケで。

 

「……くそったれ」

 

 雪華が未だに戻っていないのが幸いだった。もし、この場にいたら俺はあいつに悟られないように振る舞わなければならなかったから、余計悪化しそうだった。

 

「はぁ〜……どうしたもんかねぇ……」

 

 ため息一つ吐いたところで、扉越しに声が届いた。

 

『玄輝殿、いらっしゃいますか?』

「関羽?」

 

 俺はベッドから体を起こすと、扉へ向かい、それを開いた。

 

「何か用か?」

「いえ、大したことではないのですが……」

「ん?」

「今夜の星の歓迎会の買い出しに付き合ってもらえないかと、思いまして」

 

 そういやそんなこと言ってたな。

 

「主催者は?」

「いまだに終わって無いようで、とても……」

「孔明の方は?」

「あちらは急な案件が出来てしまったようで、そちらに追われていました」

「そうか……」

 

 となれば鳳統と雪華も駄目だし、朱里の方も買い出しは無理だろう。張飛は論外として、趙雲は主賓だし、劉備は……。

 

「……そうだな。分かった、少しだけ待ってくれ」

「はい」

 

 いったん扉を閉めて、釘十手を腰の定位置に差し、外套を羽織らずに俺は再び扉を開いた。

 

「じゃあ、行こうか」

「ええ」

 

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〜街中〜

 

「で、何を買うんだ?」

 

 街へ出て10分ほど。俺は関羽に何を買うのかを聞いてみた。

 

「え〜と、メンマですね」

「……一応聞くが、それは何個買う予定なんだ?」

「…………」

「答えられないほどか?!」

 

 アイツのメンマ好きは公孫賛の所にいた時から気が付いていたが、まさかこれほどとは。

 

「い、いえ、壺自体は一つなのですが、この店で、と……」

 

 彼女が袖から出した紙(どうやら北郷のノートの1ページのようだ)に地図が書かれていた、のだが。

 

「え〜と、うわっ、ずいぶん面倒くさいとこにあるな……」

 

 いわゆる、裏通り、しかも治安が割と悪いところにその店はあるようだ。

 

「これ、アイツが間違えた、って訳じゃないよな?」

「おそらく」

 

 こりゃ、十手だけでも持ってきたのは正解だったな、こりゃ。関羽は青龍刀を持ってないし。

 

(まぁ、だからといって、ここらのゴロツキ程度が相手になるわけがないんだが)

 

 ハッキリ言って、素手ならば30人ぐらい集まって、やっとこさ勝てる可能性が砂粒一つ見えるような気がしなくもないというぐらいの差だ。

 

「……ここでうだうだしててもしょうがない。とりあえず行ってみようか」

「そう、ですね」

 

 ただ、気のせいか、彼女の顔が若干青ざめたような気がするのは気のせいだろうか?

 

〜裏通り〜

 

「こ、こいつはまた……」

 

 目的の裏通りへたどり着いたのだが、すでに日が暮れはじめていた。だが、その通りはまるでそこだけが夜と思ってしまうくらい暗かった。

 

「まぁ、とりあえず入ってみる、ん?」

 

 そこで俺はようやく異変に気が付いた。

 

「…………」

 

 関羽がおかしい。何というか、挙動不審だし、さっきから俺の服の裾をガッチリ掴んでいるし。

 

「え〜と、関羽?」

「ひゃい!?」

 

 ひゃ、ひゃい!?

 

「な、なんですか?」

「…………」

 

 平静、を装っているように見えるが、全然そうは見えない。いや、むしろ逆効果と言っても過言ではない。

 そういや、初めて会った時……

 

(もしや)

 

 試してみる価値はある。

 

「関羽、後ろ!」

「ひゃあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「ぬぐぁ!?」

 

 思わず変な声が出てしまったが、それほどまでに凄まじい音量だった。正直、鼓膜が破れちゃいないだろうか、不安になる。未だに、キーン、という耳鳴りがしている。

 

「う、ぅううう……」

 

 その場でしゃがみこんでしまった関羽の側に同じようにしゃがみこむ。

 

「す、スマン、後ろにでっかい蛾がいてな。肩に留まろうとしていたから、つい」

「へ?」

 

 若干涙目になりながら振り返った関羽に、俺はお誂え向きに飛んでいた蛾を指さす。と、

 

「ふ、ふふふふふ……」

 

 あ、あれ? この殺気は……

 

「玄輝殿、少々武器をお借りしたいのですが」

「あ、はい」

 

 素直に渡すと、目にも止まらぬ速さで、蛾を粉砕していた。

 

「……私の側を飛んでいたことを、あの世で後悔するがいい」

「…………(ガクブルガクブル)」

 

 ま、マズイ。本当は脅かそうと思っただけなんて知られたら、蛾の後を追うことになる……!

 俺は運よく蛾が飛んでいたことに感謝し、そして、犠牲になった蛾に哀悼の意を心の中で捧げてから裏通りへと二人で入っていった。

 

 裏通りの中は表よりも遥かに肌寒く、鬱蒼としていた。さっきの事から彼女はこういった類の事が嫌いだと見当をつけていたのだが、どうやらさっきの一件が相当頭に来たのか、それとも吹っ切れたのか、店まで何事も無くたどり着いてしまった。

 

「ここのようですね」

「だな」

 

 外装は、普通の民家にしか見えないが、中からは芳しい匂いがうっすらとしてくる。

 

「料理屋、か?」

「とにかく入ってみましょう」

 

 とりあえず、中に入ってみるとその匂いは一層強くなって、胃袋を刺激する。

 

「……いらっしゃい」

 

 奥の厨房らしき場所から、いかにも頑固そうな親父が出てきた。坊主頭で、ねじり鉢巻きをしているのがより強面を強調している。

 

「その、店主。ここでメンマは取り扱っているか?」

 

 その一言で親父の眉が吊り上る。

 

「……誰から聞いた?」

「趙雲という者だ。聞いたことはないか?」

「趙雲? もしや、趙子龍か?」

 

 どうやら知っているらしい。

 

「……証明できるものは?」

 

 俺は関羽の方へ視線を向ける。関羽は袖から地図と同じノートの切れ端を取り出した。

 

「これを」

 

 関羽から手渡された紙を広げると、店主は小さく何度も頷いてから、店の奥へと姿を消した。

 

「関羽、あれは?」

「星に何か聞かれたらこれを渡せば大丈夫と、私も中身は見ていませんので……」

 

 そんな会話をしていると、店主が奥から戻ってきた。その手に少し大きめの壺を持って。

 

「慎重に持って帰れよ」

「あ、ああ」

 

 壺を俺が受け取ると、関羽が代金を払おうとするが、店主はそれを手で制した。

 

「代金は要らん。趙雲の奴に“今度美味い酒もってこい”とでも伝えてくれ」

 

 それだけ言うと店主は再び奥へ消えてしまう。一度関羽と視線を合わせると、互いに首をかしげて店内を後にした。

 

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「変な、店でしたね」

「だなぁ」

 

 店を出てすぐ、関羽が不思議そうに話しはじめる。

 

「どう考えても客は集まらなそうですし、菜単もありませんでした」

「そういや……」

 

 菜単って確か、メニューの事だったはず。確かにそれらしきものは無かった。

 

「……まぁ、後で趙雲に聞きゃいいだろ」

「そうですね」

 

 で、早足で元の通りへ戻ると、そのまま城へ足を向ける。

 

「…………」

 

 その道中、関羽の顔が何か聞きたそうな表情をしているのに気が付いた。

 

「どうした?」

「…………」

 

 そう尋ねると、彼女は少しだけ迷うそぶりを見せた後、一度小さく頷いてそれに答えた。

 

「その、桃香さまの事について、何か知っていないだろうか、と思いまして」

「…………」

「……知っているのですね?」

「……ああ」

「一体何があったのです? 部屋の外から声をお掛けしても答えてくださりませんし、戸すら開けてくださいませんでした」

 

 それを聞いた瞬間、心に針で刺されたようなチクリとした痛みが奔る。だが、過去は変えられない。

 

「……関羽、俺が劉備に対してあまりいい感情を抱いてないのは気が付いていたよな?」

「ええ、薄々は……」

「それを劉備に感づかれてな。それで少しキツイことを、な」

「そうでしたか……」

 

 関羽の表情に影が差す。それも致し方ないことだが、さっきのよりも強い痛みが俺に突き刺さる。

 

(何で……)

 

 こうまで痛い? 自分の感情が、自分で分からないなんて……。

 

「あなたは、桃香様の理想が、嫌いなのですか?」

「何でそう思う?」

「桃香様が能天気な発言するたびに、顔が歪んでいましたから」

 

 ……正直な表情、ってのも困ったものだ。

 

「……そうだな。嫌いと言えば嫌いかもしれん。だが、その優しさは尊いものだとは思っている」

「なら、何故?」

「覚悟が見えないんだよ。誰かを助けたいという想いはもちろん、それを貫こうとする意思も見える。そのために何をしなくてはいけないという頭も、無いわけではない。だが、その道中に起こる試練を一人で乗り越えようとする覚悟が見えない」

「それは、」

「私たちで支えればいいってか? 甘いな」

 

 彼女の言葉をさえぎって話をつづける。

 

「これから先、全員が生き残れるという保証が何処にある? 未来は見えない、過去は変えられない。関羽、お前だってなんかのはずみで死ぬことだってあり得る。いや、お前だけじゃない。周りのみんなが全員死ぬことだってありうる」

「そんな事を言っていては、何にも出来なくなってしまう!」

 

 彼女は一歩前に出て強い口調でそう言うが、それは俺自身も分かっている。

 

「ああ、そうだ。だからこそ、一人で背負っていく覚悟が必要なんだ。周りの皆がいなくても、一人ででも、決めたことをやり通す。その覚悟がアイツにはない。だいたい、今いる仲間の一人でも死んだらあいつがどうなるかなんて容易に想像できるだろう?」

 

 口を閉ざす関羽。彼女も、それが分かっているのだろう。だが、それを分かっているうえで、彼女は口を開いた。

 

「……あの御方の事です。何にも出来なくなるでしょう」

「そうだろうな」

「ですが、桃香様は、それを糧にして必ず立ち直ってくれます。時間が掛かっても、その間に何もかもを失っても、目の前に、苦しむ人がいれば、泣いている人がいれば、必ずもう一度立ち上がってくれます」

 

 その瞳には、確信している光があった。心の底からそう信じているのだろう。

 

「……そうか」

 

 正直、うらやましいと思う。ここまで信じてくれる仲間がいるということが。俺には、そんな仲間を作るなんて到底、無理だ。

 

(……ああ、そうか)

 

 たぶん、雪華が見たのは、これかもしれない。自分を信じてくれる仲間を作る才能、それをアイツは見たいのか?

 

(って、聞いたところで分かるはずもないか)

 

 雪華はこいつらの何かが見たいから、ついて行きたいって言ったんだ。分かっていたら最初からそう言っているだろう。まぁ、それはおいおい分かることだ。俺は、思考をそこで止め、関羽との話に戻す。

 

「お前がそう信じるのは、自由だ。だが、そうだとしても俺はやはりあいつを……」

 

 信じることはできない、と言うつもりだったのだが、

 

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「なら、私たちを信じてはもらえませんか?」

 

 関羽がそれを遮った。

 

「何?」

「私たちが信じている者なら、信じられませんか?」

 

 優しい笑顔でそう言ってくれる彼女の顔は、あの時の表情のように脳裏に焼き付いてしまう。

 

「そ、それは……」

「ここで信じて下さらないと言うことは、私たちも信じられないと言うことになりますが?」

 

 ぐっ!

 

「か、関羽、お前……」

 

 なんちゅーセコいことを……。頭を軽く掻いてから、俺は溜め息混じりで答えを返した。

 

「……はぁ、そう言われたら信じるしかないだろうが」

「ふふっ」

 

 悪戯っぽく笑う彼女は、たぶん信じているのだろう。自分の主を、そして俺を。

 

(楽観的だな)

 

 だが、悪くない。

 

「さて、思わぬ時間を食ってしまいましたね。急ぎましょう」

「へぇへぇ」

 

 少し足早に歩く彼女の後ろを歩く。その後ろ姿は、夕日の中においても決して色あせることなく、俺の目に映り込む。

 

(…………)

 

 その時の感情は、一体なんだったのか、この時の俺には分からなかった。一つだけ分かったのは、それは、俺にとってとても大事な何かだという事だった。

 

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あとがき〜のようなもの〜

 

え〜、どうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。

 

いやはや、気が付けば1月も半ばを過ぎていますねぇ〜、年を取れば取るほど「光陰矢のごとし」の意味が身に染みてきます。まったく、いつからこうなったのやら……

 

さて、前回に引き続き、前日譚その弐でございます。話はずれますが、どうして劉備と関羽をワンセットにしちまったんだ、ba〇〇son! そこは単体でもいいだろう! と思っていた時もあったのですが、落ち着いて考えれば、そうなるととんでもない量を書くことになるって最近気が付きました。

 

この物語も、ここまで、ワードで約140Pになってますから、多分、「真恋姫」全体で見れば万近く書くんだろうなぁ〜と思ってしまったのです。でも、やっぱ単体で書いてほしかったと思う自分もいるわけで……

 

まぁ、結局のところ、苦労はやってみなけりゃわからん、ってわけで今日もちまちま書いていこうと思います。

 

では、今回はこの辺で。何かありましたら、コメントの方にお願いいたします。また次回〜

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
naoさん:まぁ、本人はまだ自覚していませんがw でも、仮に惚れていなかったとしても、彼女の事は信頼していますので、どっちにしろ信じちゃうんですけどねw(風猫)
玄輝の不信が愛紗のおかげで少し軽くなった!どんな人間も惚れた人にはよわいって事かw(nao)
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蜀√ オリジナルキャラクター 鬼子 真・恋姫†無双 

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