機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳
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「こんな娘まで巻き込まれていたとはな……」

 

ミネルバ第1医務室。

軍医長はベッドに寝かされているステラの様子を見て、そう言った。

 

「すみません……」

 

マユは俯きがちに、申し訳なさそうに言った。

 

「マユのせいじゃないだろ」

 

付き添い人として付いてきてくれたイチカはそう言って、マユの方を見ながらそっと頭を撫でる。それが気持ちいいのか、マユは嬉しそうにそれに委ねた。

 

「しかし奇妙な話だ」

 

軍医長が呟くように言う。

 

「なにがですか?」

 

イチカが聞き返した。

 

「この子、見た目からしてナチュラルだ。にもかかわらず、気を失ったままMSのデッドスペースに押し込まれて打撲や内出血はあるものの、軽傷だよ。こんなことってありえるんだろうか」

 

軍医長はもう一度ステラを見ると、頭を捻りながら、そう言った。

 

「一応、身体が暴れないようにはしましたし、それにOS未調整でそこまで鋭い動きは出来ませんでしたから」

 

マユは言い訳をするように言う。

 

「それでも、だよ……まさか強化人間……なんてことは無いだろうな」

 

軍医長はその単語を口にしつつ、払拭するように軽く笑った。イチカはその単語を聞いて、怪訝な顔になる。

 

「強化人間?」

 

マユは、その単語を反芻し、聞き返した。それをイチカが説明する。

 

「ヤキンの時に連合が使った薬物によって身体能力を向上させた兵士のことだよ。連合はブーステッドマンと言ってたな」

 

「薬物で……」

 

「能力では平均的なコーディネィターを凌駕するものがあったようだが、情緒が不安定になって統率に難があった上に、薬物依存症の状態で行動時間が限られた。つまり、成功とはいえなかったようだ」

 

「薬物、依存……」

 

イチカの説明を聞いたマユは、哀しそうな表情で軽く俯いた。そして、視線をステラに移した。その中でイチカはそっと自分の左腕を見ていた。

 

「…………」

 

何かを言おうとして、マユが口を開きかけたとき。

突然、ミネルバが激しく揺さぶられた。

 

「うわぁぁぁっ」

 

「きゃあぁぁぁぁっ」

 

「な、何事だ!?」

 

マユと軍医長、イチカは衝撃に床から投げ出され転がった。

 

「ふもふっ!!」

 

さらに、イチカの上にベッドから転げ落ちてきたステラが折り重なる。その際、彼の顔はステラの胸に押し付けられる形になり、マユの眉がぴくりと反応していた。

 

「ぅ……ぁ……」

 

その衝撃でか、ステラはイチカの上に乗ったまま、目を覚ました。

 

「ステラさん、気がついたんだ?」

 

マユはイチカの事をむすっとした顔で見てたが、ぱっと表情を明るくした。だがステラはそのマユの言葉にはまったく感応せずに、

 

「ここ……どこ?さっきのは何……?」

 

おずおずと、辺りを見回す仕種をしながら、ステラは不安げな表情で言う。

 

「あ……だ、大丈夫、ここはミネルバの医務室だから……うん」

 

マユは慌てて笑顔になって、苦笑交じりにそう言った。

 

「ミネルバ……ネオ、ネオはどこ?」

 

その単語を理解できなかったのか、ステラは不安そうな表情のまままたキョロキョロと辺りを見回すと、誰かを探すような言った。

 

「ネオ?」

 

イチカが聞き返すが、ステラはそれが聞こえなかったかのように、首を横に振って声を出す。

 

「ネオがいない……ステラ、怖い……」

 

「え」

 

ステラの態度に、イチカははっとする。

 

「ステラ、怖い、いやぁぁぁぁっ」

 

「お、おい待て!」

 

ステラは上半身を上げて振り乱し、親とはぐれたことで恐慌状態になってしまった子供の様に暴れかける。

だが、咄嗟にイチカはぎゅっ、とステラを抱き締め、押さえつけるように力を入れつつも、頭を交差させたステラの耳元に、優しく言う。

 

「大丈夫、大丈夫だから。誰も君を傷つけたりしないから……」

 

だが、ステラの力は幾分弱まったもののなおも暴れようとする。

 

「いや、ステラ、怖い!!」

 

駄々を捏ねる子供の様にステラは声を上げる。

 

「だ……大丈夫、ステラのことは……そう、俺が守るから」

 

イチカは咄嗟に、そんな言葉を口に出した。何故敵にそんな事を言ってしまったのかは、今のイチカにはまだ知る由もなかったが

 

「守る……?ステラを?」

 

ステラは力を抜き、イチカの顔を見た。ステラを落ち着かせようと、勢いで言ってしまったイチカは、決まり悪く笑いながらも、

 

「あ、ああ……大丈夫。俺が誰にも君を傷つけさせないから」

 

と、途中から笑顔を明るいものにして、そう言いきった。

 

「守る……ステラを……」

 

ステラは、うわ言の様にイチカの言葉を反芻する。

 

「さ、落ち着いたのならベッドに」

 

軍医長がそう声をかけてきた。

 

「あ、はい」

 

イチカは軍医長に向かって返事をしてから、

 

「ステラ、怪我してるから……治さないと」

 

と、言って、ステラにベッドに戻るよう促した。

 

「ステラ……守る……」

 

うわ言のような言葉を繰り返しながらも、ステラは軍医長の指したベッドに戻った。

 

『マユ、マユ・アスカ』

 

イチカがほっと胸を撫で下ろすと、館内放送がマユの名前を呼んだ。

 

「ありゃ」

 

マユは間の抜けた声を出す。

 

『ブリッジに出頭、報告をしてください』

 

「いけない、行かなくちゃ」

 

呼び出され、マユは医務室を後にした。

 

「ねえ」

 

マユが部屋を出ていくと、イチカはステラに声をかけられる。

 

「何だい?」

 

笑顔になって、イチカは振り返った。

 

「名前……」

 

不安そうな表情でベッドに横たわったステラは、そう訊ねてくる。

 

「ああ、そっか」

 

イチカは決まり悪そうに苦笑して、一度ステラの方を向く。

 

「俺はイチカ。イチカ・オリムラだよ」

 

「イチカ……」

 

ステラは、イチカの名前を反芻する。

 

「それじゃあ、俺はこれから用があるからまた後でね」

 

イチカはステラに言い、再び踵を返した。

 

「うん……待ってる」

 

イチカはステラの言葉を聴きながら医務室を出る。その扉が閉まったところで表情を重くし、はぁ、とため息をついた。

 

「ウソ、ついちまってるよな……」

 

 

 

「マユ・アスカ、出頭しました!」

 

ブリッジに入って、直立不動で敬礼し、申告する。

 

「戦闘に巻き込まれた民間人を医務室に届けており、報告が遅れまして申し訳ありません!」

 

敬礼したまま、そう告げる。その正面に立ったタリアがまず返礼する。

 

「いや、ご苦労だった。マユ・アスカ。糾弾の意図はない。楽にしてくれたまえ」

 

デュランダルが砕けた口調でそう言った。

 

「状況は君も理解してくれていると思うが、我々はこれを看過することは出来ない。解るね?」

 

「はい、当然です」

 

デュランダルの言葉にマユははっきりと答えた。

 

「ついては君を正式にガイアの搭乗員に補し、このミネルバの搭乗員として参加してもらいたい」

 

「ええっ!?」

 

デュランダルが言うと今度はマユは目を円くして驚いてしまった。だが、声を出して割り込んできたのは、男性の声だった。

 

「議長、それはいくらなんでも。そもそも彼女は正式な実戦部隊の人間じゃないんですよ!?」

 

アーサーが慌てた口調で言う。マユは本来なら正規のアカデミー卒業年齢までは非実戦部隊に配属されることになっていたし、ガイアにも本来の搭乗員がいる。タリアは直接口には出さなかったがやはりあまり良い顔をしていない。

 

「だが、この状況で彼女ほどの人材を遊ばせておくのは適切ではないと思うがね」

 

「ですが……」

 

アーサーは言葉に詰まりながらもなおも食い下がる。

 

「そうか、それならばこうしよう」

 

デュランダルは悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うと懐から蓋の透明なプラスチックのケースを取り出した。マユに差し出されたそれはプラスチックのケースの中にGをかたどった襟章が納められていた。

 

「マユ・アスカ、君をイチカ・オリムラ君の補佐としてGUARDIANに任命する」

 

FAITHというものがザフトにはある。プラント国防委員会直属戦術統合即応本部特務隊。単に特務隊と略称されることもある。隊と呼ばれるものの、実際には個々において他のザフト軍組織隊員を統率し、作戦の立案、戦力の抽出、実行の権限を有する、いわば上級将校である。それをサポートするのが、GUARDIANつまりFAITHの補佐的存在なのである。

 

「議長、それこそ無茶な!!」

 

アーサーが泡を食ったような表情で声を上げる。マユは事態が理解できずに、目を円くして立ち尽くしてい た。

 

「そんなことは無いよ」

 

デュランダルは薄く笑いながら、アーサーにむかってそう言う。

 

「彼女はあの状況で、ガイアの強奪を阻止し、なお襲撃者の撃退という充分な功績を上げている。国防委員会も私の決定に異は唱えないはずだ」

 

デュランダルは自信ありげな表情で断言した。それから、マユの方に向き直る。

 

「襟章は予備のもので申し訳ないが、受け取ってくれるね、マユ」

 

「えっ!?」

 

デュランダルは優しげな口調にして、マユにそう言った。

 

「あっ、は、はいっ、身に余る光栄、謹んでお受けいたします!!」

 

我に返ったマユはガチガチに緊張した様子でわたわたとしながら、一度敬礼し、そしておずおずと手を伸ばして、それを受け取った。

 

「GUARDIAN……私が……」

 

マユはまだ興奮した様子で、ケースに入ったままのGUARDIAN襟章を見つめている。これで自分は二人に一歩近付けた。それどころか実の兄を抜いたのだ。ちょっぴりの申し訳なさと嬉しさで興奮は冷める様子を見せなかった。

 

『ブリッジ』

 

ちょうどその時に、艦内通信で呼び出す声が聞こえた。通信用ディスプレイに、アリサの顔が映し出された。

 

『戦闘中のことで報告が遅れまして申し訳ありません。アーモリーワンからの出港時、我が軍のMSに搭乗した民間人2名を拘束。詰問したところ、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハとその随員と名乗っています』

 

興奮冷めやらぬ様子だったマユだが、軽く身体を跳ねさせ硬直させた。

 

「彼女がこの艦に?」

 

デュランダルが怪訝そうな表情をする。

 

『負傷なさっておりましたのでその治療をした後、現在は士官用ゲストルームの方に滞在なさっています』 

 

「解った。そのままくつろいでいただいてくれたまえ。私もそちらに行く」

 

デュランダルはそう言った。

 

「そういうわけで、申し訳ないが私は失礼するよ……マユ・アスカ?」

 

デュランダルは黙りこくって立ち尽くしたままのマユに、怪訝そうな顔をした。

 

「あっ、はっ、いえっ!!マユ・アスカ、任務に戻ります!」

 

マユは敬礼して、デュランダル達より先に、ブリッジを後にした。

 

 

 

「本当にこんな設定にしていいんですか?」

 

格納庫。 正式に自らの愛機になったガイアを、マユは整備兵のユーリ・エルレヴァインと共にOSの初期設定をしていた。

 

「良いんだって」

 

VPSの設定を見て、怪訝そうにするユーリにマユはにんまりと笑いながら言う。

 

「4脚MAの弱点って手足でしょ、胴体は少し抑え気味でも良いんだよ」

 

「でも、だからってここまで極端な設定にしなくても……」

 

得意そうなマユにユーリは苦笑気味に反論する。

 

「ええい、この襟章が目に入らぬか!」

 

「ふええ、ひきょーですよマユちゃん。職権乱用ですー!」

 

マユがおどけた様子で襟章を見せ付けるとユーリも冗談交じりにそう言った。艦内からの外部電力で、ガイアのVPSに通電する。四肢が白に、胴体がやや暗めの青に染まった。

 

「ふへへへへ」

 

マユは自慢げに顔を綻ばせて、得意そうに笑う。

 

「次はオートバランサーの……」

 

マユが、キーボードに手をかけたとき、

 

「ZGMFー1000ザクはもう既にご存知でしょう。現在のザフト軍主力の機体です」

 

と、格納庫壁面のキャットウォークの方から、デュランダルの声が聞こえてきた。

ちらりとマユはそちらに一瞬だけ視線を向ける。その隣にカガリ・ユラ・アスハとその随員と思しき男性の姿を見た。マユはさりげなくを装って、シートに深く座りなおし、その相手から顔を隠した。

 

「ねぇ、マユちゃん?」

 

ガイアの間接に取り付いたユーリと入れ替わるように、ルナマリアがガイアのコクピットに近づいてきた。

 

「見た?オーブのカガリ・ユラ・アスハだって」

 

「ふーん……」

 

アリサの問いかけにマユは無関心を装ってそう言った。

 

「ふーんて、気にならないの?ヤキン・ ドゥーエの英雄って言われてる人だよ?」

 

「別に」

 

マユはルナマリアの顔を見ようともせず、キーボードを叩き続ける。

 

「どうしちゃったのマユちゃん?なんか様子が変だよ」

 

「そう?」

 

後ろでデュランダルとカガリのやり取りが聞こえる中、マユはルナマリアに対してそっけない反応を続ける。

 

だが━━

 

「だが、それでは今回の事はどう説明するのだ。あの新型機の為に貴国が被った被害のことは!!」

 

カガリの怒声が聞こえてきた。ビキッ、とマユの額に血管が浮く。

 

「だいたい、どうして力が必要なのだ!今更!」

 

カガリは血が滲みかねないほどに力を入れて拳を握りながら、デュランダルに食って掛かる。

 

「我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さないと!互いに手を取って歩む道を選ぶと!」

 

「勝手な語弊は止めて頂けませんか?」

 

カガリがデュランダルに向かって、啖呵を切る如く言うと。別の声がカガリの言葉を否定した。

 

「な……?」

 

キャットウォークでデュランダルに詰め寄っていたカガリは言葉を詰まらせ、手すり越しにガイアの反対側に置かれたゲルググの胸に立つイチカを見る。その傍らに控えていたアレックスも軽く驚いたような表情をする。

 

「どういう意味だ!」

 

カガリが表情を険しくしてイチカに問いただす。だが、イチカは年長者のカガリに睨み返されて怯むどころか、むしろ呆れの色を寄り強めてカガリを静かに見据える。タリアが慌てて割って入ろうとするが、それをデュランダルが手で制した。口元で薄く笑み、タリアに視線を走らせる。

 

「ユニウス条約は悲劇的な戦争行為の禁止……戦争そのものを終結させる講和条約ではありません。来るべき再戦に備えて軍備を揃えるのは当事国の政府として当然の事です」

 

「だから、過ぎる力はその悲劇を呼び起こすだろう!!」

 

カガリは激情を伴った表情と口調で言い返す。

 

「ですが今回、ザフトの兵器はユニウス条約をまったく逸脱していません。プラントは条約を遵守しています」

 

イチカは険しい表情を崩さずに淡々と言った。 

 

「しかし━━」

 

「むしろ、あの襲撃者達こそどこから来たのですか?禁止されているミラージュコロイドを使って」

 

カガリが言い返そうとしたのを遮ってイチカは畳み掛けた。

 

「それは……」

 

カガリは言いよどむ。視線が定まらなくなり、泳ぎ始めた。

 

「あのような存在に備える為にも、力が必要なんです。その為にオーブだって軍備を増強している。違いますか?」

 

イチカは容赦なく、カガリを睨みつけたまま言う。

 

「オーブの軍備は専守防衛のためだ!」

 

カガリは勢いを取り戻し、イチカに視線を向けて言い返す。

 

「プラントの軍備も防衛の為です。まさか侵略の為とでも仰ると?」

 

「その為にあれほどの力が必要なのか!?」

 

「それはプラントの政府と国民が決めることです、オーブが決めることではない筈です」

 

「ユニウス条約の趣旨に反していると言っているのだ!!」

 

「また条約ですか?プラントがユニウス条約を締結した相手は地球連合各国です。オーブはこの時点では主権国家ではない。ユニウス条約においてオーブは第三国に過ぎません」

 

「なっ……」

 

自らの理論の根底を崩すイチカの反論にカガリは絶句し、目を真ん円くして軽く身を退いた。それまで傍観者を決め込んでいたデュランダルだったが、イチカのその発言に軽く驚いたような表情になった。

 

「そもそも、オーブが主権を回復できたのはアイリーン・カナーバ暫定議長らプラント側代表団の手腕です、オーブはその恩も忘れて大西洋連邦の走狗になる事を選ぶと言うのですか?オーブの理念と言うのはそんな薄っぺらなものだったんですか、あの戦争で犠牲になったオーブの市民は、一体なんだったんですか!!」

 

イチカの言葉に激情が混じり始める。ルナマリアやユーリ、マユは普段のイチカからは想像できない姿にただ絶句して、イチカを見上げている。

 

「そ、それは……しかし……いや……」

 

イチカが冷静を欠き始めるより劇的に、カガリはうろたえた。自らの理論を支えてい根底をことごとく覆されたのである。専門のネゴシェーターでもないカガリにそれ以上の理論を組み立てるのは無理だった。

 

『目標接近、距離8000。コンディションレッドに移行。全パイロットは出撃待機に移れ。艦長、艦橋にお戻りください』

 

イチカに対し反論が無いまま、その放送がこの場を遮った。

 

「ご歓談のところ、割り込みまして申し訳ありません。然るべき処分は後ほど甘んじてお受けいたします。それでは!」

 

マユはデュランダル達に敬礼すると、ゲルググの胴を蹴って、ブリーフィングルームへと移動して行った。

 

「申し訳ありません、代表」

 

愕然としていたカガリに、背後からデュランダルが 穏やかな口調で声をかけた。

 

「彼はオーブ出身だと聞いていたのですが……」

 

困惑の混じった薄い苦笑で、デュランダルは言う。

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「ボギーワン変針、本艦からアップ60、右15。前方のデブリ帯に侵入します」

 

男性オペレーターが告げる。

 

「デブリ帯に進入して撒こうって言うのか!?」

 

アーサーは素っ頓狂な声を出し、戸惑ったように言う。

 

「副長のあなたがそれでどうするの!?」

 

背後からちょうど入ってきたタリアがそう言った。

 

「あ、艦長、それに……えぇ?」

 

振り返り、続いて入ってきた数人を見てアーサーは驚いて声を出した。 デュランダルの後ろにカガリとアレックスがいたのだ。

 

「議長の提案よ」

 

タリアがため息混じりに言う。

 

「オーブの皆さんにも、我々の戦いを見ていただこうと思ってね」

 

デュランダルは目を細めながら言った。タリアは艦長席に、デュランダルとカガリ達は指揮官用のスツールに座る。アーサーも慌てて自分の席に着いた。

 

「ボギーワンか」

 

デュランダルはディスプレィの表示を見て、呟くように言う。

 

「あの艦の本当の名前はなんと言うのだろうね」

 

「はぁ……」

 

デュランダルの隣に腰掛けたアレックスは、返事に迷い、そうあいまいに言った。

 

「名は、その存在を示すものだ。もしそれが偽りだったとしたら……その存在はどう定義すべきなのだろうね、アレックス……いや、アスラン・ザラ君」

 

「!」

 

デュランダルは穏やかな口調で言ったが、その瞬間、アレックスの身が凍りつくように硬直した。

 

「議長、それは!」

 

カガリは反射的にスツールから立ち上がり、声を上げる。

 

「ご心配には及びません。私は何も彼を咎めようと言うわけではない」 

 

カガリを落ち着かせるようにデュランダルは言う。そして再度アスランに視線を向けた。

 

「ただ、話をするなら本当の君と話がしたい。それだけのことだ」

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「カタパルトリンゲージアップ。システム正常。シン・アスカ、インパルス行きます」

 

既に扉の開かれた左舷発艦デッキで、射出待機位置についたインパルスから前方に向かってガイドLEDが順次点灯する。リニアカタパルトが作動し、インパルスは宇宙空間に躍り出た。

今回のシルエットはフォースシルエットと呼ばれる高機動戦闘用のシルエットである。

その機体色はソードシルエットの赤とは違い、青色だった。インパルスの各シルエットは必要とされるエネルギーがそれぞれ異なるため、装着したシルエットにより機体が消費するエネルギーも異なる。そのため、装着したシルエット毎にVPS装甲に掛ける電圧を調整し、エネルギー消費の更なる効率化を図っている。その副次効果により装甲の色は装備するシルエットごとの固有に変化する。色割りはソードが赤、ブラストは暗緑色、そしてフォースが青となっている。

 

フォースインパルスに続き、アリサのブラックカラーのスラッシュザクファントム、イチカのゲルググジェネラル、ショーン・ラッケンのゲイツRが発進する。

もしもの為にミネルバにはレイとマユ、ルナマリアにデイルを残し、五機は敵に接近していく。

 

『あんまり成績よくないんだけどね。デブリ戦……』

 

アリサが通信機越しに、ぼそりと呟く。シュミレーションでの戦歴の話だ。小惑星やコロニーの構造材らしき破片が、時折視界を遮る。シンは同僚を低く咎めた。

 

「向こうだって、もうこっちを捉えてるはずだ。油断するな!」

 

すると、アリサが言い返す。

 

『もう、わかってるわよ!レイやイチカみたいなこと言わないでよ。調子狂うじゃない』

 

『仲良いよなぁ、お前ら……』

 

「『良くないっ!!』」

 

そんな会話をしてるうちにも彼らと二機のゲイツRはデブリの海を進む。

破壊されたコロニーの破片が漂う、前大戦の墓場のような場所だ。戦艦の位置を示す大型の熱量が、手元のモニターに光点として表示されている。これが敵艦━━ボギーワンだ。その光点はさっきから一カ所に留まり、待ち構えるように動かない。

 

(何でだ?)

 

接近するに従って、シンは徐々に不審を抱き始める。敵艦までの距離は既に一五〇〇を切った。さっきアリサに言ったとおり、向こうでもこちらの接近に気付いているはずだ。

 

(何でまだ、何も手を打ってこない……?)

 

その時、コロニーの残骸の陰で何かが動いた。

一拍遅れて事態を悟った。全身の毛が逆立つ。

 

「しまった!」 

 

『((囮|デコイ))だ!』

 

シンとイチカが叫んだのは、ほぼ同時だった。

 

デブリの陰から飛び出したのはカオスとアビスの二機だった。シンは息をのみ、咄嗟に回避行動に入る。こちらの四機は散開し、アビスのビーム斉射がその間を駆け抜ける。第一波はかわした。

 

『うわぁぁぁぁぁっ』

 

音声レシーバーにショーンの叫び声が聞こえてきた。フルバーストの奔流がゲイツRを掠める。

ショーンは辛くもそれを避けていたが、遺棄された公転軌道ステーションの太陽電池パネルに突っ込み、破片を散らばせた。

 

『アビスとカオス!』

 

アリサの緊迫した声。アビスがショーン機に向かってさらに掃射をかけようとしたところへ、アリサ機のタックルがアビスを弾き飛ばした。

 

「ぐぉ!」

 

コクピットの中で、アウルが声を漏らす。

 

「本当なら一気に行きたいところだけど!!」

 

MMI-M826ハイドラ ガトリングビーム砲を放ち、ショーン機に近付きながら、アビスを射撃で牽制する。

 

「アウル!!」

 

弾き飛ばされたアビスに、カオスのコクピットのスティングは一瞬そちらに気を採られたが、

 

「!?」

 

脳裏に閃きのようなものが走り、急機動でカオスをその一体分ずらす。一瞬前までいた空間をビームの閃光が薙いだ。

 

「やっぱりデコイか!!」

 

イチカは静かな口調ながらも忌々しそうに言った。ゲルググジェネラルにビームナギナタを抜かせ、カオスめがけて突っ込んでくる。

 

「こいつ……!」

 

一気に間合いを詰めてきた純白色のゲルググジェネラルにスティングもまた忌々しそうに言う。

 

一方。

 

「こぉのぉっ!」

 

「おっと!」

 

ゲイツRを射撃で追い詰めようとしていたアビスに、シンのインパルスがビームサーベルで斬りかかる。アウルはそれをシールドで受け止めた。バチバチと火花が散る。

 

「色は違ってるけど、てめぇ、あの時の合体野郎だな!!」

 

アウルが毒つくように言う。

 

「なめんな!」

 

アウルが間合いを取ろうとした瞬間、シンはタックルによる追撃を入れた。それによりアビスは辛うじて避ける。

 

「何だこいつ、前より動きが良く、べっ!?」

 

目を円くして呟きかけた瞬間、アビスを複数のビームが掠めた。太陽電池パネルに踏ん張るようにアリサ機がハイドラガトリングビーム砲でアビスを狙う。

 

「ミネルバ、応答してください、ミネルバ!先の目標はデコイ!ミネルバ!」

 

アリサ機に寄り添いながら、ショーンはミネルバを呼び出す。だが応答はなく、代わりにデジタル変調が妨害されるピーガー音が返って来た。

 

「くそっ、ダメだ、妨害されてやがる!!」

 

他の四人にも聞こえるように通信機のPTTを入れたまま、ショーンは毒ついた。

 

 

 

その頃ミネルバは資源天体の至近を通過していた。その地平線を感じられるような、ギリギリの距離である。

 

「追っ手を撒く為とはいえ、こんなところを通るかね……正気の沙汰じゃないよ」

 

アーサーが呆れたように呟いた。その時アスランははっ、と閃いた。

 

「それだけ向こうも必死って事よ。よほど捕まってはまずい事情があるんでしょう」

 

タリアがそう言った、その直後、

 

「デコイだ!」

 

と、アスランは叫んでいた。

 

「えっ!?」

 

デュランダルとカガリを含めた、ブリッジの主要なメンバーが、アスランに視線を向ける。

 

「罠ですよ!艦を衛星から離して!早く!!」

 

「タリア!」

 

アスランが言うと、その傍らに座っていたデュランダルが険しい顔で声を出した。

 

「アップ45、いえ60!離脱ー!!」

 

タリアがそう叫び、ぐぐっと乗員に激しいGを与えながら、ミネルバは方向を変えた。その直後。無数のミサイルが資源天体に降り注いだ。変針していなければミネルバがそこを通ったであろう位置だった。

 

「距離800。熱源反応あり!!」

 

「なんですって!?」

 

男性オペレーターの声にタリアが反射的に絶叫する。

 

「MSもいます!複数、最低でも4機!」

 

「艦長ぉ!」

 

タリアを振り返って情けない声を上げたのはアーサーだった。

 

「しっかりしなさいアーサー!!」

 

タリアはアーサーを叱咤してから、

 

「ミサイル発射管、全門ディスパール装填!!レイ機とマユ機、ルナマリア機にデイル機は直ちに発艦!」

 

「了解!」

 

メイリンがはきはきと答える。

 

「さすがに避けたか。そうそうラッキーヒットはないだろうな」

 

3機のダガーLを引き連れ、資源天体の地表高度をミネルバを側面から捉えようとしていたネオはミサイルが外れたのを見た瞬間、一気に進路を上げミネルバに迫る。ウィンダムの背中には改良型対装甲装備キャリバーンストライカーが備えられていた。

 

「さて、それならば直接沈めるだけのことだ!!」

 

「ルナマリア・ホーク、ガナーザクウォーリア、行くわよ!」

 

紅いガナーザクウォーリアが、ミネルバの右舷発艦デッキからカタパルトに射出されて飛び立つ。

 

「……うふふふ、なんか今日は負ける気がしないのよねぇ」

 

少々ラリッたような表情で笑いながらルナマリアはそう言った。アカデミー時代は射撃先行で火力支援機を前提に教練を受けてきたルナマリアだったが、土壇場で的を外す事が多かった。特にデブリ戦では敵と間違えて 小規模デブリを撃ち、敵味方共に大混乱させてしまったこともある。挙句にはとうとう『誤射マリア』というありがたくない2つ名を頂戴した。

良くザフト・レッドを着れた者だと、アカデミー卒業時には、周囲は驚きを隠さずにそう言った。

 

「マユちゃん!援護お願い!」

 

『了解です!』

 

ガイアから、そのコクピットに収まるマユの返事が返ってきた。通信用ディスプレイにはまだ幼さを持ちすぎている少女の姿が映し出されている。

ガイアのビームライフルが接近してくるダガーLと不明の新型機の編隊を捉える。

 

「来たぞ!散開しろ!」

 

ウィンダムのコクピットに収まるネオが僚機に向けて怒鳴り気味の声で指示する。

 

「遅いっ」

 

ガイアの射撃の火線に紛れるように、灰白色のザクファントムは飛び込んできた。ネオはいち早く距離をとっていたが、ダガーLの動きはそこまでクイックではなかった。

 

「うわっ、わぁぁぁっ」

 

レイ機のザクファントムに肉薄され、エールストライカーを装備した ダガーLは、大降りにビームサーベルを振り上げ──それを振り下ろすより速く、腰部をビームトマホークで斬り裂かれていた。

 

「!」

 

ガナーザクウォーリアのコクピットに近接アラートが鳴る。補助ディスプレィが後部カメラを移した。

 

「甘いわよッ!」

 

ルナマリアは瞬時にガナーザクウォーリアを振り向かせる。

シールドに収納されていたビームトマホークをブーメランの要領で投擲する。そして投擲されたがダガーLの装甲に突き刺さった。

 

「げぇっ!?」

 

「とりゃあっ!!」

 

気合一閃。ルナマリアはトマホークに驚いたダガーLに肉薄し、二本目のトマホークでダガーLを真っ二つに斬り裂いた。

それと同時に、四本脚にモードになったガイアがグリフォン・ブレイドを展開してダガーLを横に真っ二つにしと。

こうして2機のダガーLは完全にロストした。

 

「後はアンタだけよっ!」

 

素早くトマホークを構えなおさせると、そのままウィンダムに飛び掛った。ネオは射撃で動きを妨害してくるガイアを黙らせようとしていたが、ゲイルは接近戦に応じず射撃しつつ逃げ回っていた。

 

「くぅっ!?」

 

近接アラートに、ガイアの追撃を諦め、ルナマリア機と相対する。

ルナマリア機のトマホークと、ウィンダムの対艦刀が交錯する。

 

「対艦攻撃と出てきたが、これならエールかガンバレルを……何!?」

 

ネオがぼやきかけた瞬間、ウィンダムのコクピットに、近接アラートが鳴り響いた。

 

「!!」

 

背後を取ったザクファントムとガイアがそれぞれビームトマホークとビームサーベルを構え、振りかぶっていたのだ。

ウィンダムはガナーザクウォーリアを蹴飛ばし、どうにかそれを回避する。しかしその瞬間に、ガナーザクウォーリアのオルトロスが閃いた。

 

「あーっ!?あたしの射撃って、こんな距離でも外れるの!?」

 

とどめの一撃と放ったそれをかわされて、ルナマリアは思わず不満げな声を上げた。その鬱憤を晴らすかのように、トマホークを構えなおさせつつ、再び一気に間合いを詰めていく。

 

「ルナマリアお姉ちゃん、どうしてあれでわざわざ射撃を選んだんだろう」

 

ルナマリアの射撃センスの無さを知っているマユは、溜め息を吐くように言った。敵新型とガナーザクウォーリアの一騎打ちとあっては、これ以上ガイアに出番はない。近接格闘がメインで、まだ実践慣れしていないマユでは足手まといにならない様にするのがベターだ。

 

「でも……相手の不用意でルナマリアお姉ちゃんが圧してるけど、あのパイロットも……只者じゃない。長引くと面倒だけど……お兄ちゃんたちはまだ気付かないのかな?」

 

表情を引き締め、呟く。最後の方は苛立ちが混じった。

 

ビームランスの刀身ビームが機動防盾のアンチビームコートに触れ、激しく火花を散らす。

 

「喰らえッ」

 

「くっ」

 

防御したインパルスを、アビスのフルバーストが狙う。

 

「させるかぁぁっ!!」

 

甲高い少年の声がインパルスのコクピットに響く。フルバーストはインパルスを掠めるほどの、しかしギリギリ回避する。

 

「このぉっ!!」

 

アビスに対してビームライフルでアビス目掛けて射撃する。

 

「おっと!」

 

アウルもまた、アビスを瞬間的な機動でインパルスの射撃線上から避けさせる。

 

「お返しだぜ!」

 

アビスは左のシールドを前に突き出し、インパルスに向かってシールドタックルをかける。

 

「ぐあっ!?」

 

シンは悲鳴のような声を出しつつも、インパルスにシールドを構えさせた。

接触と同時にアビスはさらに加速し、シールドを押し当ててインパルスを圧す。

 

「潰れて、バラバラになっちまえっ!!」

 

インパルスは太陽電池パネルに叩きつけられた。パネルはインパルスの背中を中心にクレーター状に陥没し、硬化アクリルが剥がれて破片になる。

 

「ひゃっはぁ!!」

 

「調子に……」

 

アウルがとっぽい歓声を上げたが、次の瞬間、インパルスの手がアビスの頭部を鷲づかみにした。

 

「乗るなっ!!」

 

インパルスほど強烈にではないが、アビスはその文字通りの顔面から、太陽電池パネルに叩きつけられた。

 

一方。

 

「畜生、なんであたらねェんだよぉっ!!」

 

スティングが毒つく。ビームポッドを切り離し、本体の射撃とあわせて、 純白色のゲルググジェネラルを追い詰めようとするが、イチカはそのこと如くをかわしていく。

 

「ぐっ!?」

 

ゲルググジェネラルが、カオスの射撃の合間を縫ってカオスにシールドタックルを仕掛けてきた。ちなみに、シールドは予備のアブゾーブシールドが無かった為、対ビームコーティングシールドである。そして正面から喰らいカオスは弾き飛ばされる。

 

「畜生が!」

 

スティングは射撃戦では不利と悟ると、毒つきつつもカオスにビームサーベルを抜かせた。

 

「…………」

 

口を結んだままだが、イチカもまた表情を引き締めると、ゲルググにシールドに備えられているテンペストビームソード抜き放つとを構えさせて、カオスと正対に突っ込んでいく。

カオスのビームサーベルの刀身ビームが、ゲルググのシールドのアンチビームコートに散らされ、激しく火花を散らす。一方、実体剣の状態にしてあるテンペストビームソードはカオスのシールドに食い込んだ。

 

「貰った!」

 

「!!」

 

スティングの表情ににやりと笑いが走り、イチカの目元に緊張が走った。 カオスが分離したままになっていたビームポッドのランチャーから、ミサイルが放たれ、ゲルググジェネラルに迫ってくる。

 

「くっ!!」

 

ゲルググはカオスを蹴飛ばして、その相対的上方に逃げる。左手に装備されたM181SEドラウプニル4連装ビームガンでミサイル自体を叩きつつ、急機動で回避していく。都合24発のミサイルはとうとうゲルググに1発も命中しなかった。

 

「あいつ、マジで化け物だ」

 

カオスのコクピットで、スティングは吐き捨てるように言った。

 

『ショーン!アリサ!ミネルバに戻れ!!』

 

イチカが通信越しに叫ぶ。

それを聞きながらシンは起き上がりかけたアビスをインパルスが蹴飛ばした。

 

「え……」

 

「で、でも……」

 

2人はゲイツRでビームライフルを構え、スラッシュザクファントムがハイドラガトリングビーム砲を放たせたまま、一瞬躊躇した。

 

『こいつらは陽動だ!ミネルバが危ない!こっちは2対2だ何とかなる』

 

それでも仲間を置いてミネルバに向かうことを戸惑う二人に、シンが怒鳴る。

 

「FAITHの命令だぞ、2人とも!!」

 

「そういうことなら、しょうがない」

 

「ごめんシン、後頼んだ」

 

ショーンとアリサはそう言い、ゲイツRとスラッシュザクファントムに踵を返させる。

 

「べっ!」

 

「逃がすかってんだよ!」

 

アビスが仕返しとばかりにインパルスの脚を払う。今度はインパルスが顔から太陽電池パネルに突っ込んだ。そのままアビスはバーストモードになってゲイツRとスラッシュザクファントムに砲口を向ける。 

 

「お前の相手は、こっちだっ!!」

 

そう叫びながらインパルスがアビスの背後にタックルをかけた。

 

「ぐっ、こんのぉ!!」

 

アウルはコクピットで毒つく。

 

「まずい、完全に相手が悪いぞ」

 

スティングは、カオスでイチカのゲルググと斬りあいながら、焦れたようにそう呟いた。パイロットのトータルの力量という点では、自分達が劣っているということはない。だが機体との組み合わせが悪い。砲戦型という意味ではアビスとカオスは共通するが、宇宙空間での格闘戦となればカオスの方がまだしも向いている。かといってアウルでは、目の前の純白色の新型量産機には苦戦必至だ。

 

こんなときこそ、いてくれたら…………

 

そう思い、スティングははっとした。

────誰がだ?ネオか?

 

「いまだ!」

 

「なっ!?」

 

削り取るような、今までの激突音とはまた違う音が響いた。ゲルググのテンペストビームソードの切っ先に、カオスの機動防盾が抉り取られ、腕から離れていった。

 

「しまった!」

 

シールドを失ったカオスは、イチカ機の前に防戦一方を強いられていた。 ビームライフル1発、キレイに当たれば致命傷だ。

 

(くそっ、無理はするなとネオには言われたが、今退けばそのネオが……)

 

スティングが追い詰められかけていた時、

 

『スティング、アウル、まだ生きているか!?』

 

と、通信機越しにネオの声が届いてきた。

 

「ネオ!そっちこそ」

 

『悔しいが、ここは一度引き下がる。改めて仕切り直しだ』

 

『けどよ、ネオ!』

 

アウルが異を唱えようとする。

 

「アウル。ネオの指示に従え」

 

スティングは、アウルをいさめた。

 

「ちっくしょー!」

 

「なっ!?」

 

おのおの、格闘戦用の武器で斬り合っていたアビスとインパルスだったが、アビスはヒュッ、とビームランスを回すとその柄の方でインパルスを突き飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

ビーム刀の切っ先ばかり気にしていたシンは虚を突かれて、弾き飛ばされてしまう。

 

「今度会ったら絶対にバラバラにしてやるからなーッ!!」

 

アウルの捨て台詞を残して、アビスとカオスは一気に離脱をかけた。

 

「逃がすか!」

 

シンはガイアのビームサーベルを振り、一直線に逃げる2機を追いかけようとするが、

 

『待て、今はミネルバが心配だ』

 

と、イチカがそれを制した。

 

「くっ……それもそうだな」

 

シンは落ち着きを取り戻し、追撃を中止した。

 

『おそらく大丈夫だとは思うけど……』

-4ページ-

「どうやら、敵は引き上げたようだね……」

 

ミネルバ艦橋。

デュランダルが呟くように言った。

 

「ええ、残念ですが逃げられてしまったようです……」

 

タリアは申し訳なさ半分、憤慨半分といった感じで、ため息混じりに言った。

 

「いや、皆この状況で良くやってくれたよ」

 

デュランダルは労うように言う。

 

「後は政治と情報セクションで何とかするしかないだろう」

 

デュランダルはそう言ってから、

 

「しかし、さすがだね、アスラン」

 

と、隣に腰掛けるアスランに向かって言い、微笑んだ。

 

「あの君の咄嗟の機転がなければ、ミネルバはより深刻な窮地に陥っていただろう。感謝するよ」

 

「ありがとうございます」

 

称賛するデュランダルに、アスランはそう短く答えた。それから、

 

「ひとつ、質問させていただいたよろしいですか?」

 

と、改めてデュランダルに視線を向け、アスランは問いかけた。

 

「私に答えられるものであればね」

 

デュランダルは笑顔のまま、そう答える。

 

「あの子……マユ・アスカと言いましたね、新型機のパイロット」

 

「ああ。彼女が何か?」

 

「いつからザフトはあのような子供まで、戦場に向かわせるようになったのですか?」

 

アスランは深刻そうな顔で、デュランダルに問い質す。

 

「今回のことは行きがかりでね、もちろん彼女は本来は実戦部隊に配属される身分ではなかったんだが……その経緯は説明するまでもないだろう」

 

「ええ」

 

「もっとも、彼女が飛び級でアカデミーを修了してしまう程の成績優秀者であったのは事実だし、その実力は今見てもらった通りだ」

 

「…………」

 

デュランダルは饒舌に語るが、アスランは視線を伏せがちに、表情を固くしたままだ。

 

「もっとも生来の天才というよりは2年前の彼女の年齢からは信じられないような努力があったと、聞いているがね。それは第二次ヤキン・ドゥーエで人材不足を補うために士官アカデミー在中から戦場に駆り出された彼女の兄、シン・アスカ君も、そこでの活躍でFAITH入りを果たしたイチカ・オリムラ君にも言える」

 

「そうですか」

 

アスランは言い、軽くため息をついた。同時に、あの時の大戦でアカデミーの学生が戦っていたことに憤りを感じていた。

 

「これから世界はまた、大きく動き出すだろう。そのきっかけを作ってしまった我々がこんなことを言うのはおこがましいのかも知れないがザフトは優秀な人材を必要としている」

 

デュランダルは、前面ディスプレイに映し出される宇宙を見ながら言った。それから改めてアスランを向き、微笑む。

 

「例えば、君のようなね」

説明
PHASE3 星屑の戦場
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コメント
ジンさんへ ふぅははははは!!羨ましいか?だがやらん!!あ〜確かにそうかもしれません……ちょっち修正加えておきます(アインハルト)
つうかマユって種運命開始時のとき11歳だから流石にフェイス任命はやりすぎじゃね?よくてフェイスであるイチカの副官が妥当だと思いますけどね?(ジン)
神話はミソロジーっていうそうですけどやっぱりイチカ的にはギャラクシーでもいいかな?マユに似ている妹ってことは結構お兄ちゃん子っていうか甘えん坊ってことですか!いいなぁ〜(ジン)
カイさんへ 大丈夫、ヅラとならともかくイチカはシン直々に許されてるから(アインハルト)
マユが頭撫でられてる時、シンが居なくて良かったね(カイ)
昔書きためてたのを書き出したり直すという簡単なお仕事ですから。でも、ヅラザフト再入隊までしか残ってないから、そこから先は止まりそうですが……(アインハルト)
ジンさんへ 神話って英語で何でしたっけ?候補としてはエターナル、リヴァイヴ、ディヴァイン、ギャラクシーです。マユのはそうですね。うちの次女はマユによく似てるし似せてるところもあるので(アインハルト)
この頃調子がよさそうなのでこれからも頑張ってください応援してます。(ジン)
そう言えばイチカの後継機って何になるんだろう?運命、伝説ときたら神話かな?そしてイチカに頭をなでられて目を細めて喜んだであろうマユを想像して不覚にも萌えたわ^^アインハルトさんは妹に同じことをした時の反応を想像して書いたのかな?(ジン)
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