[HXL] 福岡港改造生物密輸事件 9 |
博多臨海警察署は、4階建ての古い感じのする白いビルだ。
そこに、異界のロボットが襲いかかった。
周りには警察をたよって逃げ込んだ多数の市民が居る。
そんなことしたって無理なのに。
そこに、エアマフラーのレーザーが襲った!
ドカーン!!
巨大な爆発が、警察署を襲った!
「クオーレ! ドルチェ!」
広美の悲壮な叫びが響いた!
くそっ!あの子は…。
「大丈夫だ! 生きてる!」
オレはランナフォンからの映像を解析して確信した。
「爆発したのは、エアマフラーだけだ。 レーザーのエネルギーに傷ついた機体が耐えられなかったんだ。 レーザーの照射時間も短い。 警察署は無事だ!」
ランナフォンの画面に映った、爆炎の中から現れた白い警察署を見せてやる。
そこには駐車場でBOOTS隊員に囲まれたドルチェが写っていた。
橘花とシュヴァルベも一緒だ。
広美は心底ほっとしたのか、その場にへたり込んだ。
「残り2機が、千鳥橋ジャンクションに取り付きました!」
レイドリフトが自分のスマホを見ながら言った。
千鳥橋ジャンクションは、福岡都市高速環状線と福岡都市高速1号香椎線が交差する。
場所は御笠川の上。 広い川だ。
当然その上には、車で避難している大勢の人が居る。
しかも川を渡る橋は、車線が上下2段になっていた。
そこへ2機のエアマフラーが、ちょうど橋と川辺が重なっているところへ降り立った。
そして攻撃を防ぐため、橋の下の段へもぐりこんだ。
人々は車を捨てて逃げ出そうとした。
だが、エアマフラーがその前に立ちはだかった!
『全員、動くな!』
薄気味悪い電子音声。
『君たちに、危害は、加えない。 ただし、条件が、ある。 私達に、一切、攻撃を、加えないこと、だ。 もし、攻撃してきたら、この橋を、破壊する!』
『こちら指令本部のノックパパ! 攻撃中止! 一切の攻撃を禁止する!』
ノックパパの判断は、素早かった。
遠くから聞こえていた攻撃音も、徐々に消えていく。
で、次はどうするんだ?
新たな通信がとどく。
『これ以上人質を取られないよう、市民を一か所にまとめろ。 スーパーヒーローが前に出れば、敵も手が出せない』
それはいいだろうが、奴らが強硬手段に出ない保証はあるのか?
「向こうは人質を取ったんですよ。 いきなり、その利点を不意にすることはないでしょう」
レイドリフトはそういうが、オレには信じられなかった。
「そんなのわかるもんか。 上の星を見ろ!」
オレは思わず声を荒げ、空を指さした。
そこには、キュウキザウルスが放った不思議な砲弾のせいで、重力に反発するようになった瓦礫が分厚い壁になっている。
その向こうは環境が破壊されつくした惑星スイッチアだ。
「奴らがオレ達並みに命を重要視してるとは思えない。 今すぐ橋の人質を救出すべきだ」
レイドリフトの目が、なんでそれに気付かなかったんだ!? という感じで見開かれる。
こいつは、発想が普通の自衛官並みだから、他機関の大人にとっては分かりやすい。
だが、そこが弱点でもある。
……後のレイドリフトの仲間たちに聞いてみよう。
「君たちは黒魔道士だな。 人を巨大化させる魔法は使えるか?」
黒衣に箒を握りしめた少年少女たちが、一斉に手を挙げた。
「手を上げた者の中で、低空飛行の得意な者は?」
3人残った。
頼もしいな。
「1人ついてきてくれ。 オレとイーグルロードは千鳥橋ジャンクションへ向かう。
オレが降下したら巨大化魔法をオレに掛けろ。
ぎりぎりまで近づいて、オレが救い出す―あれ?なんだこれ」
オレがそこまで言った時、HMDに変なもの映し出された。
「ジャンクションの周りに配置したランナフォンが、地下からの不自然な振動をキャッチしたんだ。
北東の方向から地中を進み、川の下へもぐりこむ、直径200メートルほど?」
その次の瞬間、今度は映像で、その正体が明らかになった。
最初、ジャンクジョン下の川から、港にあったガントリークレーンが立ち上がったのかと思った。
それほど巨大で、無骨で、器用に動いていた。
それも、橋の左右から何本も。
先端からバチバチ白い電光を放つ。
その光に照らされて、立ち上がったものの緑色の表面が見えた。
「植物!? アステリオスだ!」
その多数のアームは、一瞬で橋の上のエアマフラー2機をつかんだ。
すかさず川の上に引き出す!
ゴーッ!!と雷差ながらの電撃を食らわせる!
すると異星のロボットは、赤く溶けた鉄になって、川に滴り落ちた。
「アステリオスが、人質を助けたの!?」
ああ。イーグルロードの言うとおりに見える。
それも今からはっきりする。
アルクベインから、電話が掛かってきたんだ。
『アウグル? 今、大丈夫ですか?』
と同時に、川からさらに巨大な緑の塊が盛り上がった。
**********************************
川から現れたのは、緑の塔だった。
植物らしく、幹からは枝が生え、葉が茂っている。
だが、こんな植物があるはずがない。
幹に対し、枝葉があまりに小さい。
これは、ただひたすら空高く塔を伸ばすため、アステリオスが自力を振り絞って作り上げたものだ。
幹のあちこちから、牛やウマの頭や足が固まって突き出している。
あれ? あいつ鹿なんて飼ってるのか?
と思ったら、ウマの頭から2本の枝が生えていただけだった。
塔の周りに、新たなアームが生えている。
その塔の周りをオレは、イーグルロードに吊り下げられながら飛んでいる。
橋の避難は、とどこおりなく再開されていた。
『あった。あれじゃない?』
イーグルロードがアステリオスに指定された場所を見つけた。
塔の側面に、横に張り出した丸い平らな所がある。
まるでヘリポートのような場所に、オレ達は降り立つ。
後ろの木製クレーンと合わせると、かごの鳥になったみたいだ。
突然、塔の壁面がもぞもぞと動き始めた!
出てきたのは、アステリオス・・・ではなく、あいつの胸像だった。
「アウグル・・・」
その木像がしゃべった!
しかし、なんだかほっとしているような声だ。
オレ達は敵同士なのに。
「悪いけど、通信はきってくれないか?」
なんてずうずうしい奴だ!
「できるわけないだろ!」
オレはきっぱりと言ってやった。
イーグルロードがギョッとした目でこっちを見る。 なんだ? そんなに不安なの?
それでも、アステリオスは安心したようだ。
「そうだ。それでいい。それでこそ僕の・・・じゃない!我が見込んだ男だ」
ちょっとだけ、こいつの地が見えた。
「で、何する気なの? まさか私に恋しちゃったとか?」
怒気、いや、殺気さえ含んだイーグルロードの叫び。 同時にレーザー砲が突き出される!
いいぞ! もっとやれ!!
だがここまでしても、アステリオスの余裕は崩れない。
むしろ「違う。 君たち、いいなぁ」なんてつぶやいている。
そして、予想外のことを言ってきた。
「頼みがある。私の言うことを、すべてのヒーローに伝わるようにして欲しい。 今すぐに」
「・・・いつでもそうしてる」
そう言ってあごでしゃくると、ゴリラ型ランナフォンがアステリオスのほうへ駆け寄った。
受け取ったアステリオスは、顔をくしゃくしゃに、泣きそうな顔をしながらそれを受け取った。
その表情は、悔しさとうれしさが入り混じったように見えた。
やがて涙をぬぐい、息を整えてから話し始めた。
「私はマジン団の怪人。 農耕怪人アステリオス。
この戦いに参加しているすべての同胞に感謝を。 そして迷惑をかけた、この街の市民、ヒーロー達に謝罪する。
この戦いが起こったのは、ひとえに私の・・・私に相手を見る目がなかったからだ」
最初は浪々と話そうとしていたようだが、だんだん感情が混じってきた。
「私はスイッチアという惑星国家と取引した! かの星はロボットが支配する、長年の環境破壊によって破壊されつくした星だ!
彼らは環境を浄化するために、私が開発した作物家畜。 農作物と家畜をハイブリッドしたものを輸入したいと持ちかけた!」
こいつ、本当に悔しがってるんだな。
「だが奴らには、我々を、地球人を尊重しようという気持ちを持ってはいなかった!
我々マジン団は、ノッカーズの自由のために存在する。 それが獲得された世界に、平和を愛するノーマルがいても、それはすばらしい結果であると考える。 そのことを承知していただきたい。
やつらは博多中に存在する屋台から、ノッカーズの力の根源でもある超常物質デミアジュウムを奪い、その力を使う触媒として、多くの人々をさらった!
僕はそんなスイッチアを許せない!」
まさに息つく暇もない。 そんな感じで一気にまくし立てる。
「僕は奴らに復讐したい! 今、そのために塔を伸ばしている。
この塔は、レールガン。 電磁力で砲弾を打ち出すものです!
スイッチアに、僕の開発した作物家畜を打ち込むためのものです!
だが、これを起動させるには、太陽光による光合成が必要なんです!
だから、だから、夜明けまで僕を守ってください! お願いしますぅ!」
最後は完全に涙声になっていた。
だが、聞き取りにくいから取り直しっていったら、殺されそうだ。
「どうしてオレに頼むんだ? お前は魔神でエレクトロマスターじゃないか。 でかいスピーカーでも作ればいいのに」
「あっ」
そう言ってアステリオスは固まった。
気づいてなかったのか!
だが、すぐにその表情が柔らかくなった。
「それに気づいていても、やっぱりあなたに頼んだと思う。 ノーマルもノッカーズも平和に暮らせる世界はすばらしい。 それは我が・・・もう古語考えるのは面倒だ!
僕は君たちが好きなんだ!
幸せになって欲しいんだ!」
こいつ! いい人!?
だが、その一言も広美本人にぶち壊されることになる。
「あんたバカ? 私達はね、アンタの迷惑な作物家畜があちこちにばら撒かれるのが、ほっとけないから来てるの。
あんたはどこにも種を飛ばせないし、どこにも逃げらんない」
「そういうことだな」
そう言ったら、言い返された。
「そうかい? ほんとにそう思ってる?」
そういってる間に、あいつの声は怒気を含みだした。
そして、怒鳴られた。
「アウグル! やっぱりアンタは変態だ!
イーグルロード! あんたも!
何だよ! ノッカーズ女子高生にメカニックヒーロー!?
どんなありえないカップルだよ!
普通ノッカーズの恋って言ったら、ストーカー扱いされるじゃないか!
どんな遠くでも見抜く目! 追いかける羽! 邪魔なものを焼き尽くすレーザー砲!
そんな凶悪能力なのに、何で普通に恋してるの!?
君たちは一生イチャイチャして! 来年には子供産んで! その子が歩けるようになったら大声で歌いながら手をつないで幼稚園に送り迎えしてればいいさ!
僕には・・・・・・そんな人はいなかった・・・」
その後アステリオスはどうしたと思う?・・・げらげら笑いだした。
「やっぱり君たちはいい奴だ。 だからさ、手柄立てろよ」
木像の右手が差し出される。
その人差し指の先に、小さな葉っぱが付いていた。
「実は、僕がどれほどすごい存在か見せようと思って、両親や農大時代の同級生を、さらってきたんだ。
みんなコンテナトラックに入れて港のそばに置いたんだけど、この事件だろ? トラックに乗せたまま逃がしたんだ」
葉っぱが徐々に大きくなる。 丸い葉がA4紙くらいになると、アステリオスはそれをちぎってオレに差し出した。
「葉の脈を見てくれ。 トラックのナンバーだ。 アルクベインに見せれば見つけてくれるだろ。
10人も誘拐被害者を助ければ、ちょっとしたもんだろ? これがお礼代わりだ。
そうすれば、2人の将来も一気に−」
そのとき、背後からとてつもない光が生まれた!
振り向くとクレーンのはるか向こう。 市街地のど真ん中で太陽が燃えていた。
その中で、直径361m、全高82mの空飛ぶ円盤、エアクラウンが融けていく。
あれが地上に降りた最後の奴だな。
その直後、海面を丸い衝撃波が波を起こしながら通りすぎた。
強い風が俺たちを襲う。
太陽の中に小さな黒点(太陽の温度が低いところ)が見える。その黒点が、徐々に大きくなっている!?
ランナフォンのシステムが、それを警戒すべき目標だと教えてくれた。
フクイペリオン マジン団幹部。
彼は俺たちの頭上100メートルほどの塔の壁に、巨大なクレーターを作って止まった!
信じられないジャンプだ!!
そのクレーターから、首がとても長い人影が事も無げにオレたちの所へ降りてくる。
「フクイペリオン様・・・・・・ごめんなさい!!!」
アステリオスが迷うことなく頭を下げる相手。
太陽の力を持つ魔神が、オレたちのいるところまで降りてきた。
HMDに資料がうつしだされる。
そのとおり、姿は巨大な草食恐竜フクイティタンを後ろ足で立ち上がらせたものだ。
灰色のウロコに覆われた体に、長い首。
それに古代ギリシャ風の鎧兜をまとっている。
金に輝く、兜、胸当て、ホブロンと呼ばれる丸盾、すね当て。
兜にはモヒカンのように、赤い毛の飾りが付いていた。
手にした長槍は自分の頭よりも長く、3メートルほどもある。
そして、全身がすすけていた。
「はじめまして。 私はフクイペリオン。
君はイーグルロード。 君は、アウグルかね?」
「そうです」
すすけていても、その威厳は失われることはない。
そしてその威厳のまま、こっちへやりの切っ先を向けた。
同時に、イーグルロードが2丁目のレーザー砲を生成した。
そしてアステリオスとフクイペリオンに同時に向ける。
それでもフクイペリオンは動じない。
「私にレーザーは効かない。
これから我々は、私の部下をたばかった者たちにけじめをつけさせなくてはいけない。
それに、我がマジン団と君たちヒーローが手を取り合う可能性もゼロではない。
ここは引いてもらえないだろうか」
そう。 確かに、マジン団はノッカーズ全体から見ても、周囲の被害に気を使っているほうだ。
金次第ではヒーローの中にも彼らを使うものもいる。
オレはできるだけやさしく、イーグルロードのレーザー砲を手で制した。
そして地面に下げさせる。
「ありがたい。 納得してもらえたのだな」
そう言ってフクイペリオンも槍を納めた。
いや、そうじゃなくて。
「フクイペリオン、アステリオス。
あんた達の献身に免じて、一つ忠告しておきます。
次のオペレーションは、すでに始まっています」
HMDに、とてつもなく巨大な攻撃予想範囲が、赤いCGで景色に重ね書きされる。
フクイペリオンを中心に。
その範囲に、オレ達も入っていた。
オレはイーグルロードの手をつかむと、全速力で後ろに走り出した。
「飛べ! 下のほうに!」
後ろから空気を膨張させる爆発音。
オレとイーグルロードの手が離れる。
代わりに背中のサブアームががっちりつかまれる。
そして、水面まで急速降下が始まった。
一瞬で攻撃予想範囲からぬけた。
その進行方向の何もない空間に、亀裂が走る。
現れたのは、3本ヅノを持った、巨大な牙を持ったあご。
そのすべてが星空でできている。
キュウキサウルスだ。
破れていく空間は、オレが使っていためたマテリアルのスーツと同じ効果を持つのだろう。
時空の物理法則を変えるキュウキザウルスによる、光を曲げる空間。
その大怪獣が猛スピードでフクイペリオンとアステリオスの塔に向かっている!
ドカーン!
さっきのフクイペリオンの太陽以上の衝撃波が、川を波立たせる!
キュウキサウルスのキバとツノが、巨大な塔をえぐった。
そのキュウキサウルスは、鍵爪の付いた羽で巨大な灰色の鉄の塊に抱きついていた。
空間の裂け目が徐々に広がる。
鉄の塊は、右ストレートを繰り出すスーパーレジェンド・オブ・ディスパイズの右腕だった。
スーパーレジェンド・オブ・ディスパイズの全高は1,200メートル。 キュウキザウルスの全長は150メートル。
その二つの力がすべて炸裂した。
技名は、GOGOキュウキパンチ。
「イーグルロード! 福岡タワーへ向かえ!
そこが最終作戦の指揮所だ」
「分かった!」
一直線にタワーへ向かう。
ドカーン!
更なる衝撃波!
キュウキサウルスの鼻先で、太陽が再び輝いた!
【キュバリエー!!】
太陽がその姿を変える。
4本足の、全長300メートルはありそうな首長恐竜の姿に整えられていく。
鎧兜の形はそのままに、巨大化して主人を守る。
槍と盾は、全身からほとばしるプラズマの渦、プロミネンスに乗って宙を舞った。
フクイペリオンのキュバリエ体だ。
【水上の不利を知れ! 私が川に落ちれば、水蒸気爆発で、すべてが吹き飛ぶぞ!】
そう言って、スーパーレジェンド・オブ・ディスパイズの左腕に抱きついた。
黄色いプラズマをまとって槍と盾が巨大ロボットを襲う!
その輝きを受けて、アステリオスの塔は、緑の輝きを増していく。
小さかった枝はどんどん大きくなり、いまや高さが2キロメートルにまで及ぼうとしている。
塔の先端に動きがあった。
巨大な板が、いや、戦斧の刃が飛び出した。
そして、飛び回るキュウキサウルスや重装甲のスーパーレジェンド・オブ・ディスパイズに立ち向かう!
最後の戦いが始まった。
説明 | ||
最終決戦始まる! アステリオスとフクイぺリオンの師弟愛の行方は!? あれ、なんかおかしいな。 | ||
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