真・恋姫†無双 異伝 〜最後の選択者〜 第三十三話
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第三十三話、『解き放たれた力』

 

 

――私の目の前で、一刀さんは倒れてしまった。私がどんなに気配を消して近付こうと普段なら絶対に気付く筈の彼。その彼が、

 

私が声をかけるまで気付かなかった。疲れているのだろうか、とも思ったけれど、どうにも様子がおかしい。そして、彼は私の

 

目の前で血を吐きながら倒れてしまった。あれほどの氣を操りながらまるで平然としていた彼が。

 

あれから暫く。一刀さんと朱里は同じ部屋で軍医の診察を受けている。連合はまだしばらく動かないだろう。だが、私は自分の

 

中に芽生えたある予感から、思考を逸らすことが出来なかった――

 

 

 

(side:灯里)

 

――私達は軍医の診察のため、一刀さん達のいる部屋を離れ、虎牢関の城壁上にいた。翠は部屋の見張りに立っている。

 

「……灯里、隊長と朱里の容体は?」

 

「……あまりに脈が激しくて、まるで二人の生命が凄まじい勢いで削られていっているようだと軍医が言っていたわ。そして病気

 

 なのか氣の使い過ぎなのか判別がつかないけど……少なくとも病気ではないらしいわ。それが軍医から聞いた最新の情報よ」

 

「今日の二人は酷く疲れている様子だったからな……だが、私も氣を使うようになって長いが、使い過ぎて疲労することはあれど、

 

 隊長や朱里のように血を吐くほどに身体に負担が掛かったことは無い。一体何が起こっているというんだ?」

 

一応、一刀さん達を除けば虎牢関に詰めている主要武将は皆ここにいる。皆不安そうだ。それはそうだろう。あれほどまでに強く

 

慕われている一刀さんが倒れたのだから。朱里のことも、皆が不安に思っていることがわかる。二人の力はあまりにも強大であり、

 

この事態も私達の理解が及ぶところではないのかもしれない。氣の扱いにかけては一日の長がある凪もあんなに酷くなったことは

 

ないという。何が原因でああなってしまったのか……。

 

「……こんなことを言うのはあれだけど、隊長が魏に居た時に似てるの……」

 

「沙和……それを言うな……!」

 

「でも、あの時の隊長は尋常じゃなかったの!沙和にはそれくらいしか心当りが無いの!」

 

「沙和さん!凪さんも!喧嘩はやめてください!」

 

一刀さんが魏に居た時。それは歴史の大局を改変した反動による負荷、それが続いての……一刀さんの消失という悲劇的な結末を

 

迎えた事。かつて魏に属していた者が多くいるこの軍に在って、私もそのことについては色々と聞かされている。だけど、沙和の

 

推理はおそらく間違っている。反証が複数あるからだ。管理者が明言しているものなので、それは確実なものだろう。

 

(では、いったい何が起こっているのか……)

 

歯を食いしばり、必死で思考を巡らせる。沙和が指摘した可能性はまずありえない。そうなると残る可能性は何か?

 

(……二人が使う『氣の自在制御』、或いは北郷流剣術に原因が?でも、二人から聞く分には二人の家族や関係者に今回のような

 

 ことは起こったことが無いという……素質の問題?いえ、二人の素質は非常に高い。特に一刀さんは北郷家でも最高峰の素質を

 

 持っていると、あの項羽と互角に渡り合ったらしい、一刀さんのおじい様が太鼓判を押しているという……朱里は元々戦闘には

 

 向かない人間ではあったけど、鍛えるうちに急速に素質を開花させていったという……よってこの可能性も無いでしょうね)

 

一つ一つ可能性を挙げ、潰していく。考えれば考えるほどにわからなくなってくるけど、情報は幸いにして多い。その一つ一つを

 

拾い上げ、他の情報と突き合わせて検証し、その蓋然性を判定する。十分に有り得ると判断できる可能性がいくつか出て来るけど、

 

それを否定する情報があるので打ち消される。

 

「……」

 

ふと、さっきから黙っている恋に意見を求めたくなった。恋が口数の少ない人間だとは知っているけど、最早子ども同然の素直な

 

性格の恋は、難しく考えない代わり、直感的な解答能力に優れている。誰も考えつかない、それでいて核心を突いた言動も多い。

 

彼女はこの事態をどう思っているのだろうか。私は恋に訊いてみることにした。

 

「……恋、あなたはこの事態をどう思う?」

 

「……?」

 

「一刀さんと朱里が倒れてしまった原因。あなたがどう思うかも訊いておきたいんだけど、いいかしら?」

 

「……(コクッ)」

 

恋は私の言葉に頷いてくれる。いつも無表情な恋だけど、一刀さんが絡むと感情が表に出やすいというのが分かってきた。彼女は

 

『超越者』で、一刀さん達とも『始まりの外史』からの付き合いだというし、それだけに二人に対する想いも強いんだろう。

 

「……氣の使い過ぎなんかじゃない。ご主人様と朱里の身体、むしろ氣で満ち溢れてる」

 

「溢れてる?もしかしてそれが原因かしら?」

 

「……恋の考えは、たぶん合ってたとしても半分。後の半分はわからない」

 

氣の使い過ぎではない。凪が言うには氣は生命の力でもあるから、使い過ぎたり、慣れない人が使おうとしたりすると酷く疲れる。

 

私も『幻走脚』を修得するために氣の制御方法を朱里から教わったけど、慣れないうちは本当に疲れた。でも二人は項羽に教わる

 

以前から、北郷流剣術を極めるために氣の制御を体得していて、項羽から教わる頃には既に氣を使いこなしていたという。つまり

 

慣れない事をしたからという線も薄い。そして恋は「二人の身体は氣で満ち溢れている」として、「氣の使い過ぎ」という見解を

 

否定した。つまり、逆に氣が満ち溢れてしまって身体に負担がかかっているのではないかと、恋はそう言っているのだと思う。

 

「そう……あなたが言うことならおそらく間違いないでしょうね。『氣の自在制御』を最も早く使いこなしたのはあなただしね」

 

「……灯里は、恋の次に早かった」

 

「ええ……まあ、まだ完全に使いこなせてはいないけれど。ありがとう、恋。だいぶ答えに近づいた気がする」

 

「……どういたしまして」

 

恋の言っていることは先の戦闘での状況に符合している。私は戦場で、一刀さんや朱里が発した恐るべき闘気を感じた。静里との

 

戦いに集中していたとはいえ、二人の闘気は尋常なものではなかった。人間にこんな凄まじい闘気が出せるのかと恐怖したことは

 

白状しなければならない。正直、ここまで考えられただけでも恋に訊いた意義はあったと思う。

 

「……あの時のご主人様と朱里の闘気、凄かった」

 

「そうね……白十字隊からの報告だと、一刀さんは袁紹軍相手に刀を抜くこともせず、吹き飛ばしたそうよ」

 

「……恋には、できない」

 

「出来たら怖いわよ。たとえあなたでもね。でも、おそらくはそれに関連する原因なんでしょうね」

 

「……だと思う」

 

恋も私の意見に同意している。他の皆は黙って聞いているけど……修正力は恐らく関係ない。それは管理者が否定していることだ。

 

だから彼女達の懸念は、とっくの昔に否定されていることになる。それはわかった。そして氣の使い過ぎ、あるいは病気でもない。

 

 

――では、これは一体どういうことなのだろう?

 

 

「……灯里は、どう思う?」

 

「……あんな闘気を人間が出せるのかと思ったけど、そういうことなのよね。常識外れもいいところよ。今回のことも……」

 

そう、常識外れ。二人の力は常識という言葉を明後日の方向に盛大に投げ捨てている。それに二人の存在からして常識を逸脱して

 

いる。天の国から遣わされた『天の御遣い』……その実態は、異なる『外史』からやって来る異邦人。この外史の人間には及びも

 

つかない知識と思考を持ち、それを以て乱れた世を平定する者。その前提からして常識外れだ。

 

だから、今回のこともそれと同じなのだと思う。つまり……。

 

「……きっと、私達にはどうやったってわからないことなんでしょうね」

 

……そう、私達が考えること全ては、恐らく否定される。そうだと決めつけるのは良くないけど、恐らくはそういうことだと私は

 

思う。解答を導き出せないのは悔しいけど、それは仕方のないこと。私達は此方に在り、彼らは彼方に在るのだ。私達には彼らに

 

追いつくだけの力が無い。つまりそれは、私達では彼らがこうして苦しんでいる原因を突き止められないということ。

 

もしかしたら、二人も私達のように解答を得ることができないことなのかもしれない。だけど、それは私達にはわからないことだ。

 

それは結局、私達にはこの状況が理解できないということの証左に過ぎない。

 

(……私達はどこか、二人を遠く見過ぎていたのかもね)

 

人間には言葉がある。それは交わそうと思えば誰とでも交わせる、ごく簡単な、それでいて絶大な力を持つ「相手を知る手段」だ。

 

それを十分に使ってこなかった私達にも、今回の原因の一端があるような気がしてならない。そして、私は嫌な予感を覚えていた。

 

(……このままでは、二人は今よりも、もっと遠くに行ってしまうのかもしれない……)

 

まだ確証の無い、単なる勘だ。でもそれは私の中で次第に大きくなり、すぐに私はそこから思考を逸らせなくなってしまっていた。

 

(……今さら、よね。それに気付いた時には、話したい相手はもう見えないくらい遠くにいるんだから……人間って、馬鹿よね)

 

気付いた時にはすべてが遅い。そんな誰でも知っているようなことが、今の私には何よりも重く感じられた。

 

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□反董卓連合軍・袁紹軍陣地(参加諸侯合同軍議)

 

「――お前、今なんて言った……!?」

 

突然軍議の場に姿を現し、袁紹に向かって劉備が言い放った言葉。それを受け、最初に反応を示したのは公孫賛であった。この頃

 

すっかり大物という雰囲気を醸し出すようになった公孫賛にしては珍しい、以前のような完全に面食らった表情を浮かべている。

 

「……劉備さん、今は戦闘継続の正否についての軍議中ですわ。継続が決まっていれば未だしも、それも決まっていない現状では

 

 あなたの申し出を受け入れることなど到底出来ません。これは盟主としての命令です。受け入れて欲しければ、あなたも軍議に

 

 参加なさい。そこで継続が決まれば、改めてあなたの申し出を受け入れるかどうかの詮議に入りましょう」

 

袁紹は最初こそ驚きはしたが、すぐに厳しい表情で劉備の申し出を却下する。無碍にはしていない辺り、一つの意見として配慮を

 

見せているようだが、袁紹はどちらかと言えば停戦に傾きつつあり、どっちつかずの孫策はともかく、今だ戦闘を続けようとする

 

曹操の意見を内心疎ましく思っていたし、まして積極的に戦うという劉備の申し出など彼女個人としては到底承服しかねるもので

 

あったため、詮議をするにしても劉備の申し出を却下する方向で話を進めようと考えていた。

 

「……こうしている間にも、洛陽に住む人達は苦しんでいるんです。それなのに、そんな悠長な事をしていられません!」

 

しかし、劉備は袁紹の言葉の意味も考えないまま、間髪入れずにその口から思いの丈を迸らせる。これには袁紹も流石に憤慨した。

 

「悠長……?……今の今まで引き籠っていたのは何所の何方?武に長けていなくても良いですわ、ですがあなたは戦場に立とうと

 

 しなかったのではないですの?そんな人間がこうして軍議をしているのを『悠長』だなどと……恥を晒すのも大概になさいな!」

 

袁紹も怒りを顕わに劉備を咎めるも、劉備は袁紹を無視し、関羽がまるで袁紹を脅すように敵意以外の何物でもない気迫を発する。

 

「劉備!貴様、謝罪どころか何の釈明も無しに……よくもまあぬけぬけとそんな要求を口にできたものね!」

 

「気持ちはわからないでもないけど……あなた、今がどういう状況なのかちゃんと理解してる?」

 

劉備の態度は不遜に過ぎるものであった。曹操が怒りのままに吼え、孫策は一応の理解は示しつつも否定的な口調で劉備に非難を

 

飛ばす。流石にこの二人は関羽が睨みつけようが動じることは無かった。しかし当の劉備は家臣のそんな態度を咎めようともせず、

 

ただそこに立っていた。そんな様子を見かねた公孫賛が劉備の腕を引いて下がらせようとするが、劉備は公孫賛の腕を振り払った

 

ばかりか、公孫賛にまで怒気を向けた。しかしそれでは諦めず、公孫賛は劉備に訴えかける。

 

「桃香!お前は一体、今の今まで何を見てきた!?何を聞いてきた!?戦場の光景も!そこで飛び交う声も!お前の心には何一つ

 

 届かなかったのか!?理想を掲げ、力を得て、何がしたかったんだ!?私が言ったことすら、お前は何も覚えて……っ!」

 

そこで公孫賛は言葉を詰まらせてしまった。傍らの程cがそっと寄り添い、次いで感情の起伏が見えにくいその顔に、はっきりと

 

怒りを滲ませて劉備を見上げる。劉備はそんな二人の方を見ようともしなかった。しかし程cもそれには構わず、口を開いた。

 

「……桃香さん、あなたはいつまでお兄さん達に甘えているつもりですか?お二人はもう風達の……連合の敵になったのですよ?

 

 あなたも一軍の大将であるなら、現実を見て欲しいのです……この状況、どう考えても勝算の欠片も見い出せないのですよ?」

 

程cはあくまで冷静に述べはしたが、暗に「ここまで言われてわからないのなら劉備軍はお終いだ」と告げていた。しかし程cの

 

言葉にも劉備は反応せず、そして程cの言葉を遮るかのように関羽が反応する。

 

「風……いや、程立よ。桃香様と袁紹殿との話に口を挟むのは止めてもらおうか。それに、勝算が見いだせないだと?そんなもの、

 

 貴様が無能だからではないのか?如何なる状況からでも勝算を導き出すのが軍師であり、それを実現するのが武将であろう」

 

「風はもう程立ではなく、程cと名乗っているのです。それに……如何に優れた軍師でも、勝算を導き出せないことは……」

 

「言い訳しかできぬなら黙っていろ」

 

「……孔明ちゃん、あなたならわかっているはずなのです。この状況、最早覆しようがないことは……」

 

「黙れと言った」

 

関羽の言葉に程cは一応は黙ったものの、あまりに状況が読めていない関羽の物言いには軍師として憤りを禁じ得なかったようだ。

 

自分が無能呼ばわりされようが程cは一向に構わなかったが、理想論にすらなっていない単なる我儘と場違いな敵意を誰彼構わず

 

振り撒き、それを憚りもしない。仮にも一軍の長や将がである。程cはあまりの怒りに身体の震えを抑えることが出来なかった。

 

「……成程。ご自分の要求を通す事以外は頭に無いと見えますわね。議論する気など欠片も無し、要求が通らなければ勝手に動く

 

 腹積もりなのでしょう……はっきり申し上げますが、劉備軍だけでどうにかなるとお思いなのでしたら、即刻立ち去りなさいな」

 

袁紹が話す間も、劉備はじっと黙ったまま、睨みつけるようにして袁紹に対峙していた。まるで袁紹の推測を肯定するかのような

 

態度である。元々強引な性質である劉備だったが、この時の強引さは常軌を逸していた。袁紹は話を続ける。

 

「補給も届かない現状、もうわたくし達には降伏か、全滅か。そのどちらかしか選択肢が与えられておりませんわ。あちらの言を

 

 信じるのであれば、命まで取られはしないでしょうけど……戦闘を継続することを選んだとしたら、例えここで勝てたとしても

 

 洛陽に辿り着く前に全滅ですわ。向こうが洛陽に戦力を残していないという保証は一切無い。敗北は決定的ですわ」

 

「麗羽……あなた、まさか降伏する気なの!?」

 

「だから今は継続か降伏かで軍議をしているのでしょうに。華琳さんは戦闘継続以外の選択肢は無いと仰るのかしら?」

 

「それ以外に何があるの!?あなたこそ連合を糾合しておいて、今更……!」

 

「わたくし達は民のためと起ちあがった連合である筈。連合が民のためにならぬとあれば、潔くそれを認めるべきですわ。実際は

 

 まだ何も確たる情報が入っていないのですから、降伏はあくまで選択肢の一つでしかない……ですがどの道連合は負けますわよ」

 

袁紹の言葉に弱小諸侯は口々に非難を飛ばすが、今まで安全な後方から離れようとしなかった日和見の役立たずに袁紹を非難する

 

資格などあるはずもなく、袁紹に一喝されて黙るより他なかった。袁紹は最後の確認を取るように、劉備に訊ねる。

 

「もう一度お訊ねしましょう、劉備さん。あなたは民のために進撃を選ぶんですの?それとも、あの二人を取り戻すために?」

 

「……両方です。わたしは……わたし達は皆を笑顔にするために戦っているんです!だからご主人様達もわたし達と一緒に笑って

 

 いてくれなきゃ、意味が無いんです!そうじゃなきゃ、わたし達は一体今まで何のために戦ってきたのかわからなくなります!」

 

「わたくしは申し上げた筈ですが?どちらにせよ、あなたは見限られたのだとね……それすらあなたは覚えていないんですのね?」

 

袁紹は淡々と冷たい口調で劉備を問いただすが、流石に今の言に我慢がならなかったのか、劉備より先に関羽と孔明が反応した。

 

「いくら袁紹殿と言えど、我らの何よりも固い絆を否定することは許されない!即刻訂正して頂きたい!」

 

「私達の大切な人達を、董卓さんは奪ったんです!どこまでも民のために在ろうとする、そんな方々を!だから私達は……っ!」

 

二人の顔は憤怒と焦燥で歪んでいた。必死さは伝わって来たものの、袁紹はそれでも訂正する気などまるで起きなかった。袁紹は

 

公孫賛との会話である程度は事の真相に気付いていたので、目の前の三人の言葉を信じる気すらなかった。こうなる以前の自分を

 

そこに見ているような気がして、嫌悪感と同時に自責の念もある。この戦を起こしたのは他ならぬ袁紹であり、今更そんなことを

 

考える資格などないとは彼女とてわかっている。だが公孫賛が指摘している通り、人は変わろうと思えば変われるのだ。劉備達は

 

果たして袁紹が起こした戦のせいで変わってしまったか、それとも――。

 

「……もう良いですわ。これ以上の議論は無駄でしょう。好きになさいな」

 

「えっ……?」

 

「そもそもあなたに議論する気が欠片も無いのでしょうに。互いに誠意が無ければ議論など成立し得ませんわ。一国の相としては

 

 あるまじき態度……いいえ、もうやめましょう。勝手になさいな。わたくし達はどの道……もう戦えないのですからね」

 

袁紹はそこまで言い切って、劉備を見る。袁紹を睨みながらも少し驚いたような表情。軽く嘆息してから、諸侯に向けて言い放つ。

 

「軍議の意味も無くなりましたわね。それでは解散といたしましょう」

 

これ以上軍議を続ける意味も意義も無いと判断した袁紹は解散を宣言した。それを聞いて、諸侯は少し急ぎ足気味にその場を離れ、

 

自陣へと帰っていく。孫策は特に何もなかったが、曹操は袁紹を実に嫌な目つきで睨み、袁紹が特に反応しないのを見るとさらに

 

嫌な表情を浮かべながら去っていく。後には袁紹と劉備達、そして公孫賛と程cが残された。

 

「……兵や兵糧を都合したのだからと、そんな恩着せがましいことを申す積りはありませんわ。ですが覚えておきなさい。世の中、

 

 己の想いが届かぬことのほうが、想いが届くことよりも多いのですわ。諦めることもまた、一つの強さですわよ。よろしくて?」

 

「……諦めません。わたしは絶対に諦めません!何があっても、諦めなければきっと想いは届きます!そうじゃなきゃわたし達が

 

 戦っている意味が無いんです!ご主人様も、きっと……きっとそう思ってる!だから、わたし達がご主人様の想いを守ります!

 

 ご主人様の想いを縛り付けて、無視して、踏み躙る董卓さんは、絶対に許せない!そんな人に、負けちゃいけないんですっ!!」

 

袁紹の助言を劉備は聞き入れず、言いたいことだけ言って踵を返し、去っていった。謝罪も、弁明もしないまま。去り際に関羽は

 

袁紹達に今まで以上の敵意を叩きつけ、孔明も無言のまま去っていく。その背を見届けてから、袁紹は傍らの二人に向き直る。

 

「……後のことは、お願いできますわね?」

 

「……わかっている。最善は尽くそう」

 

「お願いしますわ。こんなことをお願いするのは心苦しいのですが……」

 

「……構わんさ。損な役回りには慣れている」

 

「……罪には、相応しき罰を……」

 

主語も何もない会話だったが、果たして公孫賛は袁紹の意図を汲み、短く頷くと、程cと共に去っていった。後に残された袁紹は

 

これ以上ないほどに落ち込んだ様子で天幕に戻っていく。その顔はこの戦が始まった頃とはまるで違う、苦渋に満ちたものだった。

 

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(side:白蓮)

 

――最悪だ。本当に最悪の気分だ。

 

「……結局、こうなるのか……麗羽の言う通りだ。世の中、想いが届かぬことの方が多い……」

 

「相手に想いを受け止める用意が無いのですから当然なのです。白蓮様が悪いわけではないのですよ」

 

「……誠意無き対話に意味は無い、か……すまんな、風」

 

「いえいえ」

 

こうして陣に帰ってきてからも、私は天幕に戻らず外に佇んでいる。風も私に付き合って戻らずにいる。微風すらも吹いていない

 

この地に佇んでいると、異様な気配が満ちているように感じられる。何かが起きそうな、そんな予感がする気配だ。

 

「風も、あんなに怒ったのは久しぶりなのですよ」

 

「お前が怒るところというのをなかなか想像できないんだがな。星以上に飄然としているから掴みどころがない」

 

「これでも結構激情家なのです。顔に出ないだけで」

 

「ふっ……そうか。私は直ぐに顔に出てしまうからな。お前を連れて行って正解だったかもしれん」

 

「策略家は腹の中で何を考えているのかわからないくらいがちょうどいいのですよ」

 

「違いない。お前は特に曲者のようだからな。潜んでいるものもとびきり厄介なものなんだろう」

 

「お褒めに預かり光栄なのです」

 

私の言葉に、風はそう応じて控えめに笑う。まったく、こういう時にさえ悪戯っ子のような表情をする……本当に食えない娘だな。

 

まあしかし、風を連れて行って正解だったと言うのは本音だ。優雨や静里あたりを連れて行ったら、桃香達にさらにきつい言葉を

 

浴びせていたかもしれんしな。まあ、風もきつかったがな。

 

それはいいとして、今はやるべきことをやらねばならない。麗羽のやつ、見抜いたんだな。曹操や孫策さえ見抜けなかったのにな。

 

何故かと言えば、私が麗羽に色々と『毒』を吹き込んだからだが。さて、最後の『毒』を仕込むとしようか……。

 

「……この戦いに幕を引く時が来た。風、何をすべきかわかっているな?」

 

「勿論ですよ〜。風は先に戻っているのです。しばらくしたら、白蓮様もいらっしゃってくださいね〜」

 

「わかった」

 

風が踵を返し、天幕に戻っていくのを見届けてから、私はなんとはなしに辺りを見回し、劉備軍の陣地に目を留める。

 

(……いよいよ、この戦いも終わる。洛陽で待ち受けるもの……桃香、お前にそれを受け止める覚悟があるか?)

 

劉備軍の陣地を見据えながら、そんなことを思う。あいつが現実を受け止めることができればいい。いくらあいつでも、現実さえ

 

理解すれば……いや、洛陽が現実には栄えていることを見れば、己の過ちに気付くだろう。麗羽に釈明させるのも良いかもしれん。

 

連合を糾合した張本人であるあいつが釈明をすれば、桃香も気付かざるを得ないはずだ。最初から欺瞞に塗れた連合であったとな。

 

今の麗羽なら断りはすまい。だが――。

 

(……それでもまだ現実を見ようとしないなら……例え我らの友情が壊れようとも、私がお前を正してやる……)

 

無意識に握り締めてしまったのであろう私の拳が、ぎりぎりと不快な音を立てた。

 

 

 

(side:雛里)

 

――どうして、こうなってしまったんだろう。

 

(私は、ちゃんと伝えたのに。『この連合に正義は無い』って、伝えたのに。桃香様や朱里ちゃんには、届かなかったの……?)

 

簡易寝台の上で膝を抱えながら、私は独り、そんな意味の無い問いを繰り返していた。桃香様や愛紗さん、朱里ちゃんは具体的な

 

作戦の打ち合わせのため、桃香様の天幕にいる。星さんは鈴々ちゃんと何かお話しているみたいで、ここには私しかいない。

 

私が桃香様の天幕に呼ばれない理由はわかる。反対するのが目に見えているからだ。私が度々、厳しい意見を言っていたせいか、

 

どうも私は警戒されているみたい。星さんにしてもそれは同じ。鈴々ちゃんも今の桃香様達の姿勢には否定的な様子だ。言葉には

 

していないけど、冷静に状況を見ている。でも自分の意見を聞いてもらえないので、辛そうだった。

 

「……」

 

ここまではっきり拒絶されると、無力感に苛まれてしまって気が休まらない。昨日、桃香様にお話した時もそうだった。

 

 

『――桃香様、これ以上は駄目です。この連合に正義はありません。もう、取り返しのつかないところまで来ているんです……!』

 

『――そんなことない!雛里ちゃんは、都で民を苦しめ、わたし達のご主人様を奪った董卓さんが正義だって言うの!?』

 

『――その前提がそもそも間違っています!都の民が苦しんでいるなど根も葉もない……確かに先帝がおわした頃はそうでしたが、

 

 今の洛陽はきっと栄えています!そうでなければ一刀さん達が向こう側についている理由を説明することができません……!』

 

『――ご主人様は脅迫されているんだよ!それ以外に、ご主人様がわたし達の敵になる理由はないよっ!』

 

『――お二人はそんな脅迫に屈するほど弱くありません!それは私達がよく知っている事じゃないですか!』

 

『――じゃあなんでご主人様はわたし達のところに帰ってきてくれないの!?脅しに屈してないなら!』

 

『――お二人の意志で私達の許を離れ、董卓軍側についたということです!もし本当に董卓さんが悪政を敷いていれば、お二人は

 

 董卓さんの排除なり、何か行動を起こすはずです!それをしていないということは、お二人が董卓軍側につくに足る理由がある、

 

 それ以外に何があるというのですか!?桃香様は、お二人がくだらない脅迫に屈するような方々だとでもお思いなのですか!?』

 

『――その理由ってなに!?』

 

『――私は申し上げたはずです!この連合に正義は無いと!』

 

『――わたし達のご主人様を奪った董卓さんに、正義なんてないよっ!そんなことありえないんだよ、雛里ちゃんっ!ご主人様は

 

 確かに、わたし達なんかよりずっと強い!でも、董卓さんは都の人達を苦しめてる!都の人達を人質に取られたら……っ!』

 

『――あなたという人は……!』

 

 

その後、天幕に飛び込んできた愛紗さんにいきなり首根っこを掴まれ、私は天幕の外に放り出された。様子を窺っていた星さんが

 

制止しても駄目だった。私は頬を打たれた。さすがに平手だったけど……それでも、頬が切れて血が出るくらいの強さで打たれた。

 

今は膏薬を塗って手当てしたから問題ないけど……。

 

(こうまでして、反対意見を封じ込めたいと言うのですか……それとも、彼女を傷付けたくない一心でこうしたの……?)

 

二つの場合を思い浮かべる。或いはどちらにも該当するのかもしれない。愛紗さんは烈火の如く怒っていた。あれは味方に向ける

 

怒りなんかじゃなかった。あれは敵に対して向ける怒りだった。正確には、それに似た怒りだった。でも、そんな些細な違いには

 

何の意味も無い。桃香様や愛紗さん、そして朱里ちゃんの態度という問題の本質は、もっと別な所にある。

 

(……そんなに傷付くのが嫌なら、なんで戦うの?)

 

傷付きたくないなら戦わなければいい。戦うなら、傷付くことを覚悟しなければならない。そうでなければ、戦うことは出来ない。

 

一応、皆は傷付くことを覚悟しているようにも見える。でも、それははっきり言って表層的なものだ。本心から「傷付きたい」と

 

思う人間はいないと思うけど、じゃあ傷付かずに戦う方法はあるのかと問われれば、「無い」とはっきり言うことができる。

 

 

『――傷付く覚悟の無い者に傷付ける資格などない。覚悟があるからと言って傷付けて良いわけではないし、その後で幾ら善行を

 

 重ねても罪は消えない。だがこれだけは言える……戦っていること自体が既に罪なんだ。罪には相応しい罰が与えられるものだ。

 

 雛里、君ならわかるな?戦って、戦って、戦い抜いた先に待っているものが、明るい希望だけなんて訳がないことは……そして、

 

 傷付くことを恐れる人間ほど互いを傷付け、殺し合う戦いに呑まれやすいものさ。そしてその最期は……決まって悲劇的だ』

 

 

一刀さんの言葉が、ふと私の思考の中に浮かんできた。

 

(……戦うこと自体、既に罪。そして、罪には罰が与えられる……それが摂理。いずれ必ず、裁きは下される……)

 

そうであるならば、おそらくその裁きは間も無く下されることになる。そして今、裁かれるべき罪の上塗りを、桃香様達はそうと

 

知らずにしようとしている。あるいは、自分達が間違っているという現実を見たくないだけなのかもしれない。誰だって、自分が

 

間違っているだなんて考えたくない。間違いだと承知でそれをできる人間は限られている。一刀さん達はそういう部類の人間だ。

 

桃香様達も、自分達が間違っていることを心のどこかではわかっていると思いたいけど……。

 

「ううぅっ……」

 

胸がきりきりと痛む。連合に参加してからこっち、桃香様達の無体な振る舞いを見るたびに胸が痛む。できることなら、私はもう

 

この場所を棄てて一刀さん達の許へ行きたい。そう思ってしまうほどに、自分が追い詰められつつあるのがわかる。でも、そんな

 

ことはできない。私自身が決めたことを最後までやり通さなければ、誰よりも私自身が納得できない。だから。

 

「……私は、負けないよ……朱里ちゃん……」

 

大切な親友の真名を呼ぶ。でも、私の心に浮かんだのは何故かここにいる朱里ちゃんではないような、そんな気がした。

 

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(side:一刀)

 

――誰かに、呼ばれたような気がした。

 

恐ろしく重くなっていた瞼をどうにか開くと、そこは虎牢関の中の一室だった。俺は言うことを聞かない身体を上体だけ無理矢理

 

起こし、周囲を見回す。隣には朱里が眠っている――当然ながら仮面は外されている。

 

「……一体、なんだったんだ……うっ!?」

 

瞬間、酷い頭痛に襲われる。思わず右掌を頭に宛がい、爪を立てる勢いで握ってしまう。しかし、痛みはほんの一瞬だったようで、

 

俺は大きく息を吐く。落ち着いてみると、俺を呼ぶような声が何だったのかが気になった。これが誰かに名前を呼ばれていただけ

 

ならば別に気にすることでもないのだが、気になる内容が混ざっていたので、妙に印象に残っていた。

 

(『汝、『――なるもの』たらんと望むや?』……駄目だ、一部しか思い出せない。一体なんだったんだ……)

 

内容だけ考えれば『――なるもの』という『何か』であること、或いはそれになろうと欲するかと問う言葉だ。何のために、とか

 

他のことも問われた気がするが、どうしてもこの一節だけしか思い出すことができない。そもそも、誰が何のために、俺にそんな

 

問いかけをしたのだろうか。

 

「――ううっ……」

 

不意に、小さな呻き声が聞こえる。思索を中断してそちらに顔を向けると、眠っていた朱里が目を覚ましていた。

 

「朱里……」

 

「……一刀、様……私は、一体……」

 

俺が起きているのを見て身体を起こそうとする朱里を手で制する。朱里はしばし困惑していたが、結局は俺の制止に従った。俺も

 

詳しい状況はわからない。音々音が報せに来た直後、俺もまた倒れてしまったので、報告はそこで途切れてしまった。だいたいの

 

ことは音々音も要約して最初に話してくれたのだろうが、詳しいことは朱里と話していた面子に訊かないとわからないだろう。

 

「……皆と話していた時に突然苦しみ出して倒れたと、ねねが言っていた……直後、俺も倒れたみたいだな」

 

「っ!?か、一刀様は、大丈夫だったんですか……!?」

 

俺の言葉に朱里は余程驚いたのか、上体を起こしかける。

 

「俺も今、目を覚ましたところだ。朱里、寝ていた方がいいと思うぞ?」

 

「……いえ、今のショックで完全に身体が目を覚ましてくれました。まだ重いですけど……取り敢えず起きられます」

 

言いながら朱里は上体を起こし、大きく息を吐く。俺達の他には誰もいないので、俺達が目を覚ましたことを気付く者はいないと

 

思っていたら、扉が静かに開き、誰かが入ってくる。手に持った燭台の灯りで、誰かはすぐにわかった――灯里だ。

 

「……二人とも、気が付いたんですね」

 

「灯里ちゃん……」

 

「突然倒れたと聞いたから……心配したわよ、朱里。他の皆もそうだけど、私が見張りに付くからと納得させて、部屋に帰したわ。

 

 でも、思ったより早く目を覚ましてくれて本当に良かった……これで皆も安心できる。皆に知らせるのは明日にしましょう」

 

灯里は落ち着いていた。これが他の面々だったら騒ぎそうなものだが、年齢に合わず落ち着いている灯里が最初に気付いてくれた

 

ことは有り難かった。今騒がれると流石に辛い。灯里もその辺りはわかっているのだろう、ちゃんと配慮してくれている。

 

「灯里、軍医の診察ではどういう結果だった?」

 

「あ、はい。じゃあ、そこからお話しますね。皆と話したことも含めて……」

 

灯里は、順を追って説明してくれた。軍医の診察、皆と話したこと……だが結局の所、何もわかっていないのと同じだった。

 

「……成程。つまりよくわからないということか」

 

「そういうことになりますね」

 

灯里の説明は、それほどの時間を要さなかった。軍医の診察によれば、俺達は異常に脈が速くなっていたらしい。全身が妙に重く

 

感じられたのはそのせいだろう。少なくとも病気ではないらしいが。また、凪や恋達との会話の内容も包み隠さず話してくれたが、

 

その内容は中々重かった。殊に、俺が魏に属した外史での結末に似ているという沙和の推理は。

 

「沙和の推理に関しては、外史について誰よりも詳しい管理者が既に反証を明示しているので、間違いと断言できるでしょう」

 

「それはそうだな」

 

とりあえず、それはないと断言することはできる。症状は似ているが、違う部分のほうが多いからだ。

 

「だが、恋の推察は気になる……俺達の身体が氣で満ち溢れているって?」

 

「はい。恋は物事を単純に言うので、意訳すれば『氣が溢れすぎて許容量を超え、それによる負荷がかかっている』ということで

 

 あるのだと思います。でも、恋自身はこれを『合っていたとしても半分』と、原因がそれだけではないと感じているようで……」

 

「……『氣の自在制御』は精神力を氣に変質させる故に無尽蔵だが、肉体が耐えられないから出力が無限にはならない。それにだ、

 

 そんなことは理論上有り得ないんだよ。通常は、という但し書きはつくけどね。となると、何か尋常でないことが……」

 

「可能性としてはそれが一番かと思います」

 

俺達の症状に対して正確な解答を得られるはずもない。華陀がいればもう少し情報を得られたかもしれない。あいつはその方面の

 

専門家だ。氣の扱いに関しても達人級だし、誰よりも詳しい。まだ連絡が取れないので、漢中から相当離れた場所にいるのだろう。

 

この時期、あいつは中原付近にいたはずだが……。

 

「……わかりもしない推理を続けても仕方ないので、もっと切羽詰った話をしましょう……連合に動きが見られました」

 

「なに?」

 

「忍者からの報告です。今日の昼間に軍議が行われ……そこで一悶着あったようです。ついさっき入った報告なので、まだ私しか

 

 知りません。劉備の進言……要求と言った方が正しい表現のようですが、それにより連合の一部は動く気配を見せてます。確定

 

 情報はまだありませんが、劉備軍は確実に。曹操軍と孫策軍にも動きがありますね」

 

「愚かな……何故そんなことに?」

 

「白蓮さんからの連絡によれば、劉備は未だに『洛陽の民は董卓によって苦しめられている』、『董卓は一刀さん達の想いを縛り、

 

 踏み躙っている』と言っているそうで……袁紹も遂に放任したようです。曹操もそれに乗るものかと。孫策は……自分から動く

 

 わけではなく、袁術……いえ、張勲の命令で動かざるを得ない様子です」

 

(七乃……雪蓮の手勢を削るつもりだな。単純に美羽のわがままというわけでないのは確実だ。何かしら勘付いたんだろう)

 

そうなると、孫呉の独立のために動いている蓮華と祭も危ないな。七乃はああ見えて、本気になれば一国をたった一人で切り盛り

 

できるほどの鬼才だし、雪蓮らの考えに勘付いた可能性も否定できない。とはいえ雪蓮も少々やり過ぎたので、ちょっと考えれば

 

独立を企んでいることくらいすぐにわかってしまうだろう。七乃もそのあたりをわかっていて、敢えて泳がせていたのかもな。

 

「……劉備の発言の内、後者は軍議が解散された後、袁紹個人に対してのものということです。また軍議の場には関羽と諸葛亮を

 

 伴っていましたが、具体的な献策等は一切無く、あろうことか関羽は諸侯に敵意としか取れない気迫を向けた……殆どの諸侯は

 

 怯えたそうです。袁紹は動じなかったようですが……劉備は、そんな関羽を咎めようともしなかったと」

 

「なんだと……!?」

 

「どうあっても自分達の要求を連合に呑ませたかったんですね。私見ですが、劉備さんは完全に……あなたのことしか見ていない」

 

灯里がゆっくりと俺に振り返る。当然、その意味はちゃんと理解できた。しかしそこまでするとは……正直、悪い意味で予想外だ。

 

悪い予感というのは得てして当たるらしい。水関での緒戦に際してふと浮かんだそれは、殆ど最悪の形で的中したことになるな。

 

それも周囲に敵を増やす形で……彼女達は考え無しに敵を増やしてしまった。

 

「……報告は以上です。私は見張りに戻ります」

 

そう言って、俺達の返事を待たずに、灯里は部屋を出ていってしまった。微かに肩が震えていたところからすると、灯里も怒りを

 

禁じ得ないという様子だ。殊に、妹弟子の孔明が関わっているとなれば。雛里が心配というのもあるだろう。俺達も同じだが……。

 

「……雛里ちゃんは強い子です。私達も、彼女を信じなければいけません」

 

朱里の言葉に、俺は頷く。朱里とて無二の親友のことが心配にならないわけではない。だが、それ以上に信頼しているのだ。

 

「……一つ、聞いていいか?」

 

「……おそらく、私が一刀様にお伺いしたいことと同じだと思います」

 

話を切り替えて、あの謎の声のことを訊こうとするが、朱里もまた同じことを俺に訊こうと思っていたようだ。朱里が話を続ける。

 

「……『汝、『――の鱗』たらんと望むや?』と。これは一体どういう事なのでしょう?」

 

「鱗?……俺は『汝、『―なるもの』たらんと望むや?』だった。この違いは何を意味する……?」

 

朱里も、同様の内容の声を聴いていた。内容は微妙に違うようだが。しかし問われた内容自体は、この一節の違いだけで他は全く

 

同じなのだろう。なんとなく、そんな気がした。朱里も困惑していて、整理できていないようだが……。

 

「……今は気にしても仕方のないことかもしれないな。朱里、もう寝ようか。早いところ回復しなければ」

 

「そうですね……おやすみなさい、一刀様」

 

俺達は再び横になり、目を瞑る。まだ全身に残っていた気怠さが睡魔に変わるのに、時間はかからなかった。

 

-5ページ-

 

――連合は、数日は動けない様子だった。一方俺達はさっさと回復してしまったので、予定より多少遅くなったが、凪と翠、恋、

 

灯里の隊を残し、流琉と沙和、そして音々音の隊を洛陽に先に帰すことにした。灯里はこうなることをわかっていたらしく何も

 

言わなかったが、他の面々は一様に不安そうだった。だが戦略を崩壊させるわけにはいかないので、俺は敢えて予定通りに動く

 

ことを皆に要請し、皆も従ってくれた。本当は恋の隊も帰さなければならないのだが、凪の強い進言により、戦力として強力な

 

恋の隊は残すことになったのだ。そして洛陽先行帰還組と別れた俺達は、連合の動きを見守っていた――

 

 

 

□反董卓連合軍・劉備軍

 

――劉備達は、軍を率いて虎牢関に向かっていた。

 

未だ納得していない様子の鳳統や趙雲も含まれていたが、劉備達は二人の意見を拒絶し、軍の後方に回してそれ以上の反対意見を

 

封じ込めてしまった。張飛は敢えて黙って前衛に出ていたが、いざとなれば二人の義姉や孔明を殴り倒してでも止める気概でいた。

 

この異常事態に兵も動揺したが、関羽の脅迫じみた命令に従うより他なく、抗弁する者は現れなかったのである。

 

「……桃香様、まもなくです。そろそろ敵の旗印も見えるでしょう。あまり遠いと見え難いですからね」

 

「うん……なんだか、敵さんの旗が少ないね?」

 

「他の連中は撤退でもしたのか、あるいはこちらを油断させるための罠か……何れにしても卑劣な」

 

元より関羽は献策を理解することはするが、正面切っての戦いにどうしてもこだわる傾向にある。そのため戦いにおいて策を弄し、

 

敵を欺くことが必要だとは分かっていても、本心から納得しているわけではなかった。そして自分達が策を弄することは納得して、

 

敵が策を弄することを「卑劣」と評すあたり、関羽はまだ未熟であった。

 

「十文字旗は二つともありますが……他の人達が撤退しているとなれば、あれも罠と見た方がいいでしょう。どちらにしても罠が

 

 張られていることは確実です。難攻不落にして絶対無敵、七転八倒の虎牢関に拠って立つのに、罠を張らない理由は……」

 

孔明もやはり、董卓軍の罠を疑っていた。さすがに「何の罠も張られていない」という可能性は考えていないようで、それに言及

 

することはなかった。実際、罠を疑わない方がおかしいのである。恐ろしく堅牢な虎牢関に拠って立つ軍勢は、それだけで相当に

 

有利なのだ。ここで罠を張らない方が愚かである。そして孔明は姉弟子である徐庶が敵方についている以上、何らかの策は確実に

 

動いていると確信していた。軍人像棋でも一度も勝てたことのない相手。自分の打つ一手を悉く先読みする強敵。徐庶とまともに

 

やり合い、かつ勝利したのは鳳統くらいだ。師匠の司馬徽でさえ、徐庶にはただの一度も勝てていないのだから。

 

「……朱里ちゃん、こんなことを訊くのは嫌かもしれないけど、敵の軍師である徐庶さんはどんな人?」

 

「情報戦にかけては私が知る限り右に出る者のいない軍師です。また、私は軍略で彼女に一度でも勝てたことがありません」

 

「朱里が一度も勝てなかっただと!?徐庶という軍師はそれほどの者なのか?」

 

「はい。私は元々戦略……他には政方面の専門なので、軍略は言うほど得意ではないです。でも、水鏡先生でさえ勝てないほどの

 

 相手です。元直ちゃんに軍略で勝利したのは雛里ちゃんだけです。軍略においては『鬼才』と呼ばれた雛里ちゃんだけしか……」

 

「……成程。もう一つ訊きたいのだが、徐庶も武将としての技能を持っているのか?」

 

「静里に剣を教えたのも元直ちゃんなんです……その技量は凄まじいですよ。少なくとも、曹操軍や孫策軍の有力武将級の実力は

 

 あると見ていいです。それと、気配を消すのが非常に上手いです。気配を消して一日過ごしてもらったことがありますが、日が

 

 沈むまで誰も彼女の姿を見つけることができませんでした。余程気をつけていないと、誰も気付かないうちに殺されます」

 

姉弟子を敵として分析することに抵抗を覚えないわけではない。だが、状況がそれを許さない。それは孔明とてわかっているのだ。

 

しかし、孔明がそこまでの評価を付けるほどの優秀な将が董卓軍についていることに、劉備と関羽は納得ができない様子であった。

 

「……それほどの将が、何故董卓軍などに。お前の姉弟子なら、きっと桃香様の理想に賛同する筈だ……」

 

「うん……お話できれば、きっと力を貸してくれると思うんだけど……このままじゃ朱里ちゃん達が可哀そうだよ」

 

身勝手なことを言う関羽と劉備。自分達の理想こそが最高だと信じきっているが故の傲慢さが滲み出ている。殊に劉備は表面こそ

 

孔明や鳳統への気遣いがあるように見えるが、そこに当の徐庶への配慮は含まれていない。だが、劉備がそれに気づくことはない。

 

「でもなんで曹操さんと孫策さんも動いたんだろう?」

 

劉備がふと疑問を口にする。曹操軍、孫策軍の両軍は劉備軍以上に大打撃を被っており、碌に戦える状態ではない筈なのだ。この

 

疑問は尤もなことであった。以前の劉備なら「一刻も早く虎牢関を突破するため」と結論付けてしまったのだろうが、それをせず

 

疑問を疑問のままに止め、孔明に質問したあたり、劉備もさすがに場数を踏んで多少は成長したと言えるのだろう。孔明もそれを

 

理解し、劉備の質問に答える。

 

「孫策さんは多分……袁術さんの我儘で無理矢理に出されたのだと思います。曹操さんは……これはご主人様ご自身が仰っていた

 

 曹操さんの野望……天下を支配するための力或いは象徴としてご主人様達を捕え、自らのものとしてしまうつもりなのでしょう」

 

「くっ……曹操め、王どころか人の風上にも置けぬ!卑劣の極みだ!」

 

孔明の推理は正しい。狙われる理由を誰よりも理解している一刀自身から、劉備軍に与えられた情報なのだから。それを得たのは

 

関羽であったが、自分達が曹操と同じ穴の貉だということには未だ気が付いていないようである。この頭の固い少女は、自分達の

 

行為は一刀達の意向に完全に沿っていると思い込んでしまっており、一度そうなれば絶対に譲ろうとはせず、事実に気付かぬのも

 

当然のことと言えた。

 

「でも、孫策さんもご主人様達を狙っています……が、一個の軍として独立している曹操軍は兎も角、袁術軍の別動隊でしかない

 

 孫策軍がお二人を捕虜にしたとしても……それは袁術さんの捕虜になるも同然です。袁術さんも碌な政治をしていないみたいで、

 

 豫州も冀州と同じく荒れ気味だそうです。そんな所にご主人様達を渡すわけにはいきません」

 

「そうだね、朱里ちゃん。だってわたし達のご主人様なんだもん。他の所にご主人様を渡すわけにはいかない。絶対にご主人様を

 

 助け出そうね。そして、また皆で、皆が笑顔でいられる世界の実現を目指そうね。そうじゃなきゃ、今までのことに意味なんて

 

 ないんだから」

 

「……はい」

 

孔明の言葉に劉備は相槌を打ったが、ふと孔明は疑問を抱き、一瞬応じるのが遅れてしまった。

 

(……どうして桃香様は、ご主人様『達』と仰らないんだろう?ご主人様と御前様が揃ってこそなのに……)

 

先の軍議では、途中までは劉備も『達』と複数形で呼んでいたのだが、軍議の最後の方から「ご主人様」という単数形での呼称に

 

変わり、以後劉備はそれを貫いている。孔明や関羽はまだ『達』と呼んでいるのにも関わらずである。軍議の時は頭に血が上って

 

いたので気にならなかったのだが、幾分冷静になった今はそれを「包括的表現」と納得することもできず、不安を感じていた。

 

そしてまた虎牢関へと軍を進めていく。劉備軍は虎牢関に立てられた旗を、どうにか判別できる位置にまで達していた。

 

 

 

――ふと、風に乗って笛の音が聞こえてきた。

 

 

 

「この笛の音は……」

 

「……っ!ご主人様っ!!」

 

「えっ?ああっ!?桃香様っ!?」

 

笛の根の正体に誰よりも早く気付いた劉備は、周囲が制止する間もなく全力で駆け出していた。仕方なく劉備軍は全速で動き出す。

 

関羽達が引き戻せばいいだけなのだが、いつもなら同年代の少女より多少はあるという程度の体力しかないはずの劉備はこの先に

 

一刀がいると見るや、凄まじい勢いで疾走していってしまった。関羽が先行し、孔明が軍を率いて統制を失わないよう全速行軍を

 

する。そして真っ先に突っ走っていった劉備が虎牢関の前に認めた姿は――

 

 

 

「――ご主人様ぁぁあぁぁあぁぁぁぁああぁあああっ!!!」

 

 

 

――果たして、北郷一刀と北郷朱里のものだった。その姿を見るや否や劉備はさらに速度を上げ、全力で駆け寄ろうとする。だが

 

そんな劉備の想いは虚しくも何もない虚空によって阻まれ、劉備は弾き飛ばされてしまう。見れば、虚空に薄らと光る壁のような

 

ものが見える。尻餅をついた劉備であったが、涼しげに横笛を吹き続ける一刀の姿を見て、堪らず再び突っ込もうとする。しかし、

 

その度に光る壁によって阻まれる。そのうちに軍も到着し、劉備の要請を受けて関羽も突進するが、突破は叶わなかった。

 

「ご主人様っ!ご主人様っ!!ご主人様ぁぁぁああぁあああっ!!!」

 

言い知れない悲しみに襲われた劉備の声が、虎牢関を前にして響き渡る。その声音は、あまりに悲痛で――

 

 

 

「――来たか、桃香」

 

 

 

――待ち構えていた青年の凪いだ声音と、あまりに対照的であった。

 

-6ページ-

 

(side:一刀)

 

――少し、時を遡ろう。俺達が虎牢関を出る前、俺達の出陣に凪は反対していた。

 

「二人とも、まだ回復したばかりなのです。連合も最早碌な戦力を残していないでしょう。私達にお任せください」

 

動いた勢力の状況を見るに、戦力的には恋と凪、そして灯里と翠の隊で十分にお釣りがくる。本来ならば恋ではなく沙和がここに

 

残っていたはずだが、恋が残るとなると戦力バランス的に于禁隊は帰さなければならず、沙和は流琉と音々音を伴って都に帰った。

 

結果的に残存戦力は当初の想定よりも強力になっていたが、それが逆に作戦の遂行を妨げている部分もあった。

 

「ありがとう。だが、これは必要なことなんだ。凪、それはちゃんと最初に話したことだよな?」

 

「しかし、隊長達が倒れるというのは完全に想定外です。状況は変わっているのでは?」

 

「向こうから見たら何も変わっていない。寧ろ、大局的に見ればよりこちらに有利な状況になっている」

 

「しかし……!」

 

「何かあった時のための君達だ。恋が残ることも想定外だぞ?結果的に、保険はついた形と言えるだろう?」

 

「……確かに、呂布隊は二つの十字隊に次ぐ戦力です。恋個人も殲滅力では他の追随を許しません。ですがそういう問題では……」

 

凪の言う通りである。実際、俺達が今ここで出ても俺達の側には実利が一切ないのだ。自分達でやっておいて「お前が言うな」と

 

指摘されるだろうが、もう酷いを通り越して可哀相なレベルの損害を被っている曹操軍と孫策軍、組織としての崩壊が見え始めて

 

いる劉備軍が相手なのだから、もう二度と戦闘できないように叩き潰してしまえばいい話である。灯里から報告を受けた後にまた

 

忍者……これは公孫賛軍に残っていた忍者だが、そいつが持って来た白蓮からの手紙には驚愕の内容が記されていた。

 

(……麗羽、君はそこで見ていろ。幕を引くのは、俺達の仕事だ)

 

その内容は敢えてここでは言わないが、あの見栄っ張りの麗羽の発言とは思えない、そんな内容だった。白蓮も全てを聞いたとは

 

書いていないので、白蓮が麗羽の意を汲んだというところだろうか。当然、手紙は音々音に持たせ洛陽に持ち帰らせている。あの

 

手紙は俺よりも才華が読むべきものだからだ。

 

「だからこそ、だよ。俺達ならば『交戦せずに』敵を叩き潰すこともできる。『次回作』も小道具がそろそろ揃うからな、今回は

 

 はっきり言って駄目押し程度なんだ。既に董卓軍の勝利が確定的となっている以上、実際にはあまり意味は無い。ただ、今後の

 

 ためとは断言できる。念の入れ過ぎのような気もするが、まだ洛陽からの撤退は完了しきっていないし、時間稼ぎも含めてな」

 

「……理由はわかりました。ですが、やはり隊長達だけでは……」

 

「……ん。凪、もういい」

 

「恋?」

 

尚も言い募ろうとした凪の肩に手を置いて、恋は凪を制止する。

 

「……ご主人様がここまで言ったら、もう翻意してくれない」

 

「いや、しかしだな」

 

「……ご主人様を、信じる」

 

恋は口数が少ない。そもそも言葉を弄して相手を説得するということが不得手なのだ。だが端的な言葉には確かに言霊が込められ、

 

そして時折出る強い口調と相俟って、下手に言葉を弄するよりも余程説得力がある言葉を発するのだ。

 

「……わかった。ですが隊長、もしもの時には……」

 

「ああ。その時には頼む。兵にもいつでも動けるように準備させるんだ」

 

「はっ!恋、行くぞ」

 

「……わかった」

 

納得した凪は恋を連れて兵達の待機所に向かい、入れ替わりに灯里が入ってくる。どういうわけかいつものポニーテールではなく、

 

ハーフアップに髪型を変えていた。所々酷くはねているのは直しようがないのかそのままだが、ハーフアップの特徴として気品の

 

ある雰囲気を醸し出していた。酷くはねているとはいっても髪質は見た目にも相当良いので、お嬢様に見えなくもない。

 

「灯里ちゃん、髪型変えたんですか?」

 

「私って意外と気分で髪型変える人なのよね。あなたはそういうことないの?」

 

「以前よりちょっと伸ばした程度なので……前は肩に届かない位置で切り揃えてましたし」

 

「私からすればあなたの癖の無い髪は羨ましいんだけどね。手入れ大変だし……それはそうと。一刀さん、新しい情報です」

 

そう言って苦笑する灯里だったが、すぐに表情を切り替え、懐から手紙を取り出す。白蓮のものは既に洛陽に送ったので、これは

 

白蓮のものではないだろう……とは言い切れない。何か状況が変わってしまったのかもしれない。しかし、開けてみて驚いた。

 

それは雛里からの手紙だった。走り書きをしたような、普段の雛里であれば書かないような荒い字体だ。それでも綺麗だと思える

 

あたり、さすがに徹底していた。

 

 

『――危急故、挨拶も無しに不躾とは存じますが、どうしてもこれだけは書面で伝えたく思いまして筆を取りました。一刀さんが

 

 予想した最悪の事態が、今の劉備軍内では起こりつつあります。白蓮さんから報告は行っていると思いますが、桃香様は諸侯を

 

 前に身勝手な言動を繰り返し、朱里ちゃんもそれを止めようとせず、士気が低い兵達を愛紗さんが怒鳴りつけて無理矢理にでも

 

 動こうとしています。今、劉備軍は割れています。兵達はともかく、将は桃香様はじめ愛紗さんと朱里ちゃんが進軍し、洛陽の

 

 奪回とお二人の奪還を成そうとしています。私と星さんはこれに反対する立場なのですが、反対したからなのか軍議に呼ばれず、

 

 ただ命令に従うしかない状況です。星さんは私ほどではありませんが、少し遠ざけられているみたいです。鈴々ちゃんは中立を

 

 保っていますが、どちらかと言えば私達寄りです。鈴々ちゃんは薄々、この連合の真実に気付いているようです。ですがやはり

 

 私達寄りの言動を咎められて、桃香様達からは遠ざけられています。内部分裂はだんだんと顕著になり、すぐに完全分裂しても

 

 全くおかしくはありません。そして、これは星さんの推測ですが、桃香様は一刀さんただ一人しか見ていない可能性が高いです。

 

 私も桃香様と直接お話した時や、何度か盗み聞きしたりした時に、桃香様が一刀さん達のことについて言及する際、『達』とは

 

 付けず、おそらくは一刀さんのみを指す『ご主人様』としか口にしていません。邪推ですが、包括的な表現ではないと思います。

 

 鈴々ちゃん含め、その理由については私達三人の中である程度推測を立てました。簡単に言えば、桃香様が一刀さんに強く懸想

 

 しているが故であり、そのため朱里さんに対する嫉妬が、本人の自覚無しに表出しているのだと思います。このままでは、この

 

 戦いで劉備軍は完全分裂を起こしかねないばかりか、他の諸侯、殊に白蓮さんと対立する可能性が極めて高いと言わざるを得ず、

 

 本当に危険な状況ですが、それが選び取られた結果であるならば、仕方のないことなのかもしれません。では。―― 鳳統士元』

 

 

……成程。おそらくここに書いてあることは全て事実であるが、事実の全てではないだろうな。走り書きをしたような字体なので、

 

取り急ぎ伝えなければならない重要事項のみを記したように思える。ただ、行間から雛里が相当な苦境にあることは見て取れた。

 

「……私の推測は当たってしまったみたいですね」

 

「そのようだ。恋は人を狂わせもする……言い方を変えれば、強くしていると言えないことも無いのかもしれないがな」

 

「振られた後もこうでは、未練がましいとしか言いようがありませんけど……それだけ、想いが強かったのでしょう」

 

「ま、一方的に突っ走っていられるうちは色々頓珍漢な事をするものよね。私は経験無いけど……それにしても、劉備さんの場合、

 

 些か過激な好意ね。病的と言うべきなのでしょうけど、それで振り回される兵達……そして雛里に星さん達はたまったものでは

 

 ないわ。しかも関羽が脅して無理矢理にやらせていると来ている。女の私が言うのもなんだけど、女って怖いわね」

 

病的な好意、か。確かにそうかもしれないな。そして、女が怖いのではなく、人間が怖い。げに恐るべしは人の心なのだ。

 

「……一刀さん、このままだと都に連合が入っても話が拗れたままになりそうじゃないですか?月がどんな政をしているかなんて

 

 彼女達には関係無い。なまじ彼女達は『『天の御使い』によって?郡が栄えた』という実例を知っています。一刀さん達がいる

 

 所ならどこでも栄えるのだと。今の洛陽の賑わい振りは月の手によるものではないと断じると思いますが……」

 

それは言えているのかもしれない。現に桃香は平原が栄えたのを「ご主人様達のおかげ」と述べている。それに?郡が栄えたのも

 

俺達のおかげだとし、白蓮の壮絶な努力を、知らなかったとはいえ半ば無視していた。?郡では俺達はあくまで助言をし、白蓮の

 

手伝いをしていたに過ぎない。今の?郡の繁栄は、白蓮の凄まじいまでの努力で作られた地盤が無ければ実現し得なかったのだ。

 

「……俺達が居たところで、栄えるというわけでは決してないんだ……」

 

「それだけ、予言を聞いて以降、彼女は強く『天の御遣い』を求め続けた。そして実際に出会ったのは、強く賢い、まさに理想の

 

 男性。劉備さんも女性、好意を抱かぬ筈が無かった……傍らにいるもう一人の『御遣い』に対しては、尊敬よりも対抗心の方が

 

 強かった。そして白蓮さん……月もそうですが、他の誰にも取られたくない。何故なら自分の理想の人だから。自分がこの人の

 

 大切な存在に……一番になりたい。はっきりそうとは言わなかったとは思うけど、きっとそういう事なんでしょうね」

 

「一歩間違えれば……いえ、間違えなくても、それって殆ど『所有欲』ではないでしょうか……」

 

私情剥き出しの行動。君主としてあるまじき行為。それに気付こうとしないならば、身を以てわからせてやらねばならないだろう。

 

「……朱里、灯里。この戦いに幕を引く時が来た。俺達の力と覚悟を、決別の意志を……彼女達に示す。わかっているな?」

 

「はい……!」

 

朱里が応じ、灯里も無言で頷く。最早、手心は加えられない。命まで奪わずとも良い、だが、思い知らせてやらなければ……!

 

-7ページ-

 

□虎牢関前

 

――虎牢関に接近した劉備軍の前に姿を現したのは、『天の御遣い』、北郷一刀と北郷朱里。たった二人だけであった。

 

しかし、劉備軍は二人の姿を少し離れた場所に捉えてはいたが、それ以上接近することができなかった。不可思議な光る壁により

 

行く手が遮られ、進むことができなかったのである。総大将である劉備が何度も何度も突進するが、その度に弾き飛ばされる。

 

「こんなの……こんなの!こんなのっ!ご主人様がそこにいるのにっ!早く助けないといけないのにっ!!」

 

悲痛な声で叫びつつ、劉備は無駄な体当たりを続ける。関羽もまた愛用の『青龍偃月刀』を振るって光の壁を打ち壊そうとするが、

 

どうやっても光の壁は衝撃を受ける度に不可思議な音色を奏でるだけで破ることができない。そんな様子を見ていた孔明は何とか

 

打開策を探ろうと高速で思考するが、そもそも見たことのないそれをどうやって破れば良いかなど見当もつかない。三人の顔には

 

これ以上ないほどの焦燥が浮かんでいた。一方の一刀は劉備に一声かけてからも全くその場を動かず、まったく涼しい顔で横笛を

 

奏で、美しい音色を生み出していた。こんな戦場でなければ聞き惚れてしまうであろう、見事な音色。しかし、劉備達にはそれを

 

楽しむ余裕など無かった。そして、そうこうしているうちに曹操軍と孫策軍が接近し、劉備達はさらなる焦燥に駆られる。

 

「これは一体……まさか妖術!?おのれ董卓め、妖術に手を染め、ご主人様達を拐かしたか!」

 

「……違うのだ、愛紗」

 

「鈴々?」

 

いつの間にか劉備達の傍に来ていた張飛が、ごく落ち着いた口調で義姉の推測を否定する。彼女の得物『丈八蛇矛』は破壊されて

 

いるので、兵の装備の中で特性の似た重めの薙刀を選び、持って来ていた。水関での戦闘でこれと同じものを見ている張飛には

 

何が起きているのかすぐに分かったのである。

 

「これはお兄ちゃんの技なのだ。『護光壁』って言ってたかな……氣で壁を作る技らしいのだ」

 

「……水関での戦いで、お前はご主人様と当たっていたな……その時に、ご主人様がこれを?」

 

「そうなのだ。鈴々の蛇矛を思いっきり叩きつけたけど、破れなかったのだ。お兄ちゃんがやめてくれない限り、無駄なのだ」

 

張飛の説明に関羽は驚く。張飛の『丈八蛇矛』による攻撃は関羽ですらも実現し得ない破壊力を誇っている。その剛撃が通用せず、

 

さらに妖術でもないと説明されて、関羽は武器を下ろし、手で壁に触れてみる。確かにそれには何度も感じた一刀達の氣の感触が

 

あった。関羽もさすがにこれは認めざるを得なかった。氣の性質は、個々人で異なるからだ。これは董卓には再現できない。

 

不意に笛の音が途絶える。演奏が終わったのだ。それと同時に壁も消える。すぐさま劉備は全力で駆けだし、劉備軍もそれに続く。

 

「ご主人様ぁぁぁぁぁああぁあああっ!!!」

 

喉が張り裂けんばかりの絶叫をあげながら、劉備が一刀に駆け寄ろうとする―が、またしても弾き飛ばされる。今度は一刀が立つ

 

地点まであと少しといった距離。先程よりも光度の強い強固な壁は、最早注意して見なくとも容易に見ることができた。

 

「……盛り上がってくれたのは良いが、舞台への突撃は礼儀知らずがやることだ。観客は大人しく席に座っていろ」

 

一刀の落ち着いた声音は、しかし恐ろしいまでの圧力を以て劉備達の足を地面に縫い付けた。指一本動かず、瞬きすらもできない。

 

少しずつ乾いてくる目に痛みが走るが、それでも誰も瞼を閉じることができなかった。追いついてきた二つの軍も、それ以上には

 

近付けず、目前に立つ二人に視線を注ぐより他なかった。

 

「……目を開けさせたままは流石に可哀相か。それに、口も動かないんじゃ話も出来ない」

 

そう一刀がひとりごちると同時、瞼を閉じることはできるようになった。だが身体は相変わらず石になったように動かない。

 

「……なんて奴なの……覇気をここまで操って、私達の身体を思うさま束縛するなんて……!」

 

「くっ……『天の御遣い』とやらはこんなことまで出来るというの……?天ではなく冥府からの遣いの間違いではないの……!?」

 

孫策の驚愕と悔しさが入り混じったような声と、曹操の憎々しげに毒づく声が、劉備達の耳に届く。口も動くようになったようだ。

 

「冥府からの遣い?はははっ……人殺しがそんなことを言ったところで、まるで説得力が無いな、曹操?」

 

「人殺しですって!?私の覇道を、矜持をなんだと……!」

 

「知るか、そんなもの。孫策、それに劉備も、よく聞くがいい。理想を持つのは良い。そして今は乱世だ。理想を実現するために

 

 誰かの命を奪わなければならないこともままあるだろう。しかしだ、それは決して肯定されない、犯してはならない罪なんだよ。

 

 結局は誰も彼もが同じ穴の貉だ。俺達も含めて、ここに居る人間は、一人残らず人殺しだ。唾棄すべき罪人だ」

 

一刀が放つ一言一言が、凄まじい重圧を持っているようだった。曹操に代わり、今度は孫策が口を開く。

 

「あら、獣を屠殺することに何の罪があるのかしら?」

 

「それを問うている時点で、あんたは単なる人殺しだ、孫策」

 

「あなたは違うって?」

 

「何も違わないさ。強いて言えば、唯一違うのは自分から牢屋に繋がれに行くつもりでいることだけだな」

 

冗談めかした口調で、まるで親しい友人と話すように気楽に話す一刀。しかし彼の口調は気楽そうでも、言葉に込められた重圧は

 

ますます強くなり、地面に引っ張られるようにして倒れたり、そうでなくとも跪くような姿勢になってしまう者が続出した。孫策

 

のみならず曹操も、あまりの重圧に耐えかねて膝をついたものの、それ以上に屈辱を感じ、怒りのままに吼えた。

 

「北郷一刀!貴様、この私にここまでの屈辱を……見事だとは言っておくわ。けれど、このままで済ませるとは思わないことね!」

 

「もとより君相手にただで済むだなんて欠片も思っちゃいないさ、曹操。だがな、今こうして反董卓連合に参加し、民のためにと

 

 ここまで歩みを進めて来たのなら、その程度の屈辱などなんでもないだろう。仮に俺が君の立場だったとしても、涼しいそよ風

 

 程度にしか思わなかったな。尤も、もうすぐ冬なわけで、今の時期の風は些か寒いわけだが」

 

「貴様などに……貴様などに、私の誇りが、矜持がわかるものか!私は……!」

 

「なあ曹操。別に俺は君を馬鹿にしてるわけじゃ無いんだぜ?俺が言いたいのはな、民あってこその国であり王なのに、王の君が

 

 屈辱を受けただけで……周囲が怒るのは兎も角、本人が怒ってしまっては台無しだなってことだよ。それだけで激怒して、己の

 

 覇道を美化し、益々孤独になる……そんな必要は無いのにな。それでは力を持ち過ぎた、我儘な子供にしか見えないな」

 

「……なら、貴様は違うというのか」

 

「それは声を大にして『違う』と言わせてもらおう。俺が傷付いたり、屈辱に塗れるだけで民が生きていてくれるなら、どんなに

 

 許し難い屈辱を受けても、また民と一緒に笑いあえる。王が民を護っているのではない。民が王を護っているんだ。俺を信じて

 

 未来を託してくれた、あるいは兵として力を貸してくれる民が、俺をこうして戦場に立たせ、そしてそこを生き延びさせ、また

 

 皆がいる場所に帰してくれる。俺は強くなんてない。ほんの少しだけ、他者より力があっただけだ。孤独な者が何を護れるか?

 

 真に孤独な人間はそうはいない。大抵は自分自身に耽溺しているだけさ。そしてそういう孤独は、人を強くなどしてくれない」

 

馬鹿にしているわけではないと一刀は言うが、遠まわしに曹操を非難していることは明らかだった。そんな非難をした理由は少し

 

冷静になれば頭の良い曹操にはわかるはずだった。一刀もそれを期待して敢えて遠まわしな非難をしたのだが、しかし怒り狂った

 

曹操に、一刀の真意が届くはずも無かった。それを解った上で、一刀は続ける。

 

「これくらいの屈辱で怒り狂って吼えていては……程度が知れるというものだな、曹操?あくまで誇り高くあってほしいものだが」

 

「何を……!?」

 

「誇りと意地を履き違えるなよ。本当に自分個人のことで屈辱を受けたのなら、個人として怒るのはいいさ。当然の権利だからな。

 

 だがな、誇りというものはたとえどれほど他人に汚されようと、尚も燦然と輝くものではないか?別に怒らなくたって、誇りは

 

 その輝きを失わない。誇り抱く者の命が輝く限りは……それとも己が覇道を成すことに意地になっているだけなのか、君は?」

 

「……」

 

曹操は何も言い返すことができなかった。言い返せばそれだけ墓穴を掘ると悟ったのと、一刀の言うことがまさに今の曹操自身の

 

心情を皮肉っており、今や半休眠状態にある曹操の理性が「一理ある」と一瞬でも感じてしまい、悔しかったためであった。

 

「話を戻す……というのも不適切か?まあいい。お前達、俺があれほど言ったのに、まあ懲りもせず攻め込んできたな。どうやら

 

 余程名声や権力が欲しいらしい。鏡も無しに厚化粧では、不細工にもほどがあるというものだがな。せっかくの美貌が台無しだ」

 

厚化粧。それが意味するところはすぐに解る。「罪の上塗り」ということだ。眼前の青年の優男然とした外見を裏切らない軽薄な

 

表現の仕方ではあったが、それを言葉通りに受け取ることは愚かだということはこの場にいる殆どの人間が理解していた。

 

「例え話が過ぎるんじゃない、御遣い君?」

 

「まあな。だが俺は世間話をしているわけじゃ無いんだ、少しは頭を使った方がいいだろうに。冗談半分だったことは白状するが」

 

一刀の言葉は相変わらず気楽であった。本人はこう弁解しているが、口調からすればどう考えても世間話をするような口調である。

 

それにも関わらず、言葉に込められる凄まじい重圧。不意に孫策は恐ろしくなった。一人の武人として、強敵を渇望する気持ちは

 

勿論ある。だが、あの青年は単なる敵でも強敵ですらも無い、何か恐ろしい存在に思えた。恐怖という感情を半ば忘れかけていた

 

孫策の全身を、言い知れぬ恐怖が満たしていく。

 

「……さて、演説も冗談もここまでにしようか。この巫山戯た茶番劇も終幕が近い……山場に必要な役者は揃っているな」

 

そんな孫策の恐怖を知ってか知らずか、一刀は徐にそう言った。そして一度深呼吸をすると、低く鋭い声で告げる。

 

「……来い、桃香。話がある」

 

その瞬間、劉備の身体は束縛から解かれる。劉備はそれと殆ど同時、弾かれたように立ち上がり、一刀に駆け寄っていく。

 

-8ページ-

 

「ご主人様っ――あうっ!?」

 

ほんの数十歩の距離を一気に詰め、一刀の許に飛び込む勢いで駆け寄っていった劉備だったが、あとほんの少しといったところで

 

今度はそれ以上近づけなくなった。足が動かないのである。何とか踏み出そうとするも、脚が震えて言うことを聞かない。

 

「肉薄せずとも話はできるだろう。この程度の距離で十分だ。いちいちひっつかれるのも疲れるからな」

 

心底やれやれといった口調。実際それは本心である。一刀達が平原にいた頃、劉備は何かと理由をつけては、あるいは理由も無く

 

一刀の傍に居たがったし、朱里の目が無いところではそれをいいことに彼の腕に自分の腕を絡めてはその豊かな胸を押し付けたり

 

などして気を惹こうとすることが多かったのである。それが仕事を終わらせてからならまだしも、劉備の場合は仕事を終わらせる

 

どころか、仕事を始めてもいないのにそんなことをしていた。そのたびに一刀は執務室に劉備を押し込まなければならなかった上、

 

「その気」の欠片も無かったので、ただ疲れるだけだったというのが一刀の正直な感想である。

 

そんな一刀の内心を慮る材料は十分にあったのだが、劉備はその全てをすっかり無視、自分の想いの丈をぶつけるばかりであった。

 

そして今、別の意味でも余裕を失くした劉備に一刀の内心を慮れる筈も無く、今まで以上に想いをぶつけなければと口を開いた。

 

「ご主人様っ……!」

 

「その名で呼ぶのは禁じたはずだ。人との約束を忘れるとは、厚顔無恥も甚だしい。失礼千万だと思わないか?」

 

が、一刀はにべも無くそう断じる。無論、理があるのはしっかりと禁じてそれを劉備に了承させた一刀の方であり、それを忘れた

 

劉備の言葉がそう断じられてしまうのも当然のことであった。一刀とて自分の内心を慮ってほしいわけではない。あくまで一刀が

 

言っているのは常識論以前の、人間としての倫理観の問題である。

 

「でも、わたし達に力を貸してくれるって……!」

 

「そう。俺は確かにそう言った。だが、俺達が君達の主人になることをいつ承諾した?君達は打診すらしなかったな?自分勝手な

 

 思い込みで俺達を神輿に祭り上げ、理想の象徴とした……相手の承諾を得ずとも、君達が良いと思えばそれをやっていいのか?

 

 まして、俺達にそれを打診することはいつでも出来た筈なのにだ。それをしなかったことが一番礼を失している」

 

「だって、御遣い様はみんなを笑顔にするために大陸に降りてきてくれたんだもん!わたし達にとってはご主人様なんだよ!」

 

劉備の言い分は、あまりに身勝手なものであった。一刀があくまで感情論を排して事実だけを淡々と挙げ、糾弾しているのに対し、

 

あろうことか『天の御遣い』の存在意義を都合良く曲解し、自分達の理想の象徴となるべき存在だと、劉備はそう主張する。他に

 

『天の御遣い』を欲する者、具体的には曹操や孫策だが、この二人は存在意義そのものを曲解することまではしていない。それを

 

自分達の理想や悲願のために利用しようとしただけだ。劉備が言っていることは、ある意味では「別の解釈」と言えなくもないが、

 

やはりそれでも押し付けであることに変わりは無かった。堰を切ったかのように、劉備は続ける。

 

「愛紗ちゃんに鈴々ちゃん、朱里ちゃんに星ちゃん……みんなこの大陸を笑顔で一杯にするために協力してくれてるんだよ……?

 

 わたしと同じ理想を持っていてくれて、一緒に理想の実現を目指してくれる仲間なの。ご主人様はそうじゃなかったの……?」

 

「その呼び方はやめろと言った。結論から言おう。俺と君の理想は違う。もっと言えば、俺達に理想などない」

 

「えっ……そ、そんな筈ないよ!だって……だってご主人様は、大陸を笑顔で一杯にするために天の国から来てくれた――っ!?」

 

劉備は突然口を閉じた。二人の会話を聞いていた者達にも、その理由がわかった。いや、わからない方が可笑しかったのである。

 

「ふっ……くくっ……ははははははっ……」

 

一刀は嗤っていた。

 

心底可笑しそうに、険の無い表情を浮かべ、渇いた笑い声を漏らしている。その様子だけ見れば、遂に気が狂ったようにも見えた。

 

しかし、放たれる重圧はそんな一刀の様子とあまりにもそぐわなかった。

 

今まで感じていた、血も凍るような冷酷な重圧。しかし今は、燃える太陽の如き熱量を内包した、血が沸騰するような凶悪な重圧。

 

大地から立ち上る陽炎のような、空気の揺らめき。その中心に立つ一刀の姿は、しかし一片の揺らぎも無くそこに在った。傍らの

 

朱里は、仮面でその素顔は見えないが、まったく涼しげにそこに立っていた。そして黙ったまま、こちらも同等の重圧を放つ。

 

味方をも威圧してしまうような覇気の使い手は、連合側にもいくらか居る。しかし、連合の前に立つ二人が放つ覇気は、極限まで

 

研ぎ澄まされ、一切の無駄が無く、むしろ美しささえ感じるほどであった。

 

「笑顔?笑顔か……大陸を笑顔で満たす。確かに素晴らしいな。なんと美しく、なんと心安んじられる理想だろうか」

 

「だ……だったら、どうしてわたし達の前に立ち塞がってるの!?わたし達の理想をそんな風に思ってくれるなら、どうして!?」

 

「ん?あくまで客観的な意見を言っただけだがな?俺は君の理想に賛同も共鳴もしていない……覚悟が足りない理想など、不気味

 

 過ぎて賛同する気にもなれない。力とはそれを使う心に宿るもの……心無き力は闇に呑まれ、力無き心もまた闇に呑まれる」

 

「覚悟はあるよ!わたし達は、力で何でも解決しようとするような人達が許せないから戦ってるの!ご主人様もそうでしょっ!?

 

 そんな人達がいるから、どこかで誰かが泣いてるの!皆で笑顔になれなければ、わたしが理想を掲げた意味が無いんだよっ!!」

 

眼尻に涙をためながら、自らの想いを訴える劉備。だが、それがますます状況を悪化させていることに、必死な彼女は気付けない。

 

「……本気で言っているのか?」

 

地の底から響くかのような静かな轟音が高まっていく。あまりに強大な一刀達の覇気に空間が鳴動し、音として聞こえているのだ。

 

「正義だの理想だのと……そんなものを朗々と語り、全ての罪から目を背け、そこに逃げるのか?それは許されて良いことか?」

 

悲哀。そこにあったのは悲哀の感情だった。最早怒りですらない、ただただ悲しそうな、哀しそうな、そんな一刀の言葉。それが

 

問いかけという形で発せられたにせよ、どこか自問しているような印象であった。

 

「罪……?それってどういうこと?わたし達、弱い人たちを守るためにずっと戦ってきた。それだけだよ。罪なんて犯して……!」

 

しかし、一刀の言葉は劉備には届かなかったようだ。いや、言葉は届いたのかもしれない。だが、想いまでは届かなかったのだ。

 

確かに劉備が言うこともまた一つの事実。人を助けることにどんな罪があるのかと問われれば、大概の者は返答に窮するであろう。

 

そう、『大概の者』であれば。

 

「人を助けるためにどれほどの命を失ってきた?どれほどの命を奪ってきた?そして、それを君は覚えているか?」

 

そして、一刀や朱里はその『大概の者』に属さない人間であった。「力を持つ」ということの意味を、真に理解しているのである。

 

「俺が今までこの手で奪った命の数を聞きたいか?この大陸に降り立ってからでも、配下の者を含めて既に一万九千七百十三人だ。

 

 直接俺が手を下していない者を数えれば、その数は五万を優に超えている。俺の部下が奪った命は、俺が奪ったのと同じなんだ。

 

 そして、俺がこの手で奪った命の数の中には、その部下達の命も含まれている。俺が戦わせ、死なせてしまったからだ」

 

「で、でもそれは人を助けるために仕方なく……!」

 

 

――その言葉が、一刀の逆鱗に触れてしまった。

 

 

「……仕方ない?……仕方がないだと……!?貴様はまた逃げるのか……己が生み出した犠牲の意味からも、その罪からも!!」

 

大地に亀裂が走る。空は厚い黒雲に覆われる。雷鳴が遠くから近づいてくる。空間が激しく蠕動する。大地が震えだす。雷が轟く。

 

「人を助けるためには犠牲も仕方がないだと!?貴様が衝動的に動いたおかげで、失われてはならない命が数多く消えていった!

 

 そして敵とされた者達の命もまた、数多く消えていった!それが仕方ないだと!?命を軽く見るのもいい加減にしろ、劉備!!」

 

世界が奏でる異常な不協和音の中でも、一刀の怒声はよく聞こえた。いや、耳に響いてくるのではない。頭に直接響いてくるのだ。

 

「か、軽く見てなんてないよっ!人の命が大切だから、わたし達は連合に参加したのっ!どうしてわかってくれないの!?」

 

「わかりたくもないな!真偽を確かめるために物見を飛ばすこともせず、最初から殺し合いに持ち込み、無為の犠牲を出した事を

 

 自覚していない人間の言うことなど!嘗て貴様は言ったな!犠牲が出るのは辛いが、それを受け止めなければ人を助けることは

 

 出来ないと!これについては賛同しよう……だがな!この戦いで貴様が払った犠牲は、払わずともよかった犠牲だ!!」

 

「それはっ!」

 

「我が軍のせいだとでも言うつもりか!?貴様はただ一つの犠牲も払っていないと言って、全て我らに責を被せるつもりか!?」

 

一刀の声は攻撃部隊の最後方にいる筈の者達はおろか、出陣しなかった公孫賛軍や袁紹軍、袁術軍その他の軍にまで聞こえていた。

 

「犠牲を出すということの意味を履き違えるな!貴様の身勝手のために何人死んだか、知らんとは言わせん!犠牲になった者達の

 

 家族は、その死をどれほど嘆くだろうな!?そしてその死が貴様の身勝手のためだと知れば、どれほど貴様を恨むだろうな!?」

 

「っ!?」

 

「皆が笑顔でいられる世界だと……ッ!?ふざけるなッ!貴様の身勝手で数多の人間が涙を流し、苦しみ、そして絶望した!挙句、

 

 言うに事欠いて『皆で笑顔になれなければ意味が無い』だと!?兵の犠牲は肯定しながら、貴様に近しい者や貴様自身の犠牲は

 

 否定するのか!?絶望を背負う覚悟も無い貴様の自尊心を満足させるために絶望を振り撒き、それに背を向けるのか!?」

 

「そ、そんなことっ!?」

 

一刀の言葉が、劉備の闇を暴いていく。それが理解できない劉備は必死に反論を探そうとするが、一刀はそれを許さず畳み掛ける。

 

「絶望から目を背ける者が、他者を絶望から救い出せるものか!失われた命を背負えぬ者が、理想を掲げていい筈はないッ!!」

 

「ご、ご主人様っ……!どうして、どうしてわかってくれないのっ!?」

 

「その名で俺を呼ぶなッ!!最早、問答無用!!道は既に分かたれた!!俺は貴様の『敵』、そして、貴様は俺の『敵』だッ!!」

 

瞬間、巨大な雷が轟いた。

 

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落雷の衝撃が大地を駆け抜けた直後、誰もがいつの間にか身体が束縛から解き放たれていることに気付き、慌てて立ち上がる。

 

「これが最後の警告だ、劉備!曹操!孫策!降伏し、皇帝の裁きを受けろ!貴様らの前後に、既に道は無い!」

 

一刀はあくまで連合、いや、事ここに至っては既に連合ではない三つの軍に向かって警告を行った。今までも警告してきたものの、

 

この日に至るまで彼らは降伏せず、そして今、あろうことかこうして向かって来ている。孫策は袁術の命令で止むを得ず。曹操は

 

己が野心と意地を剥き出しにして。そして劉備は切実な、そして一方的で身勝手な想いを抱いて。

 

「退くというのであれば、こちらも敢えて剣を抜くことはしない!だが、向かって来るならば……」

 

一刀の怒気に困惑していた劉備軍はまだ迷いを見せていたが、曹操はすぐさま自軍に戦闘態勢を取らせる。孫策も袁術の目がある

 

以上は戦わないわけにはいかず、武器を一刀達に向けた。一刀は言葉を途中で切り、その様子を見て取ってから再び口を開く。

 

「……それが答えか。民のためにと起ちあがったであろう貴様達が、己が意地と野望のために剣を取るというのか!」

 

怒りに満ちた一刀の叫びに、兵達は気圧されてしまう。だが、雪辱に燃える曹操はあくまでも憤怒に目を爛々と輝かせ、反駁する。

 

「我が覇道は民のためにこそあり!貴様のような下郎に、我が覇道を阻ませてなるものか!!」

 

曹操は猛烈な怒りで燃えていた。最早己の意地や野望と、民の為に為すべきとした覇道を、彼女は完全に取り違えてしまっていた。

 

「私達には元々退路が無い……だからこそ、あなた達をここで倒して先に進むしかないのよ!!」

 

本心では戦うべきではないと理解している孫策。しかし、戦わなければ孫呉の独立はおろか自分達の前途すら危ういのである。

 

「それを今ここで貫くことが、真に民のためとなるか!?己が胸に問い、そう答えを得たのならば、立ち向かって来るがいい!!」

 

だが、一刀は敢えてそれらを言葉にすることはせず、二人に応じた。腰に差した『五行流星』にゆっくりと手を掛ける。

 

「そしてその答えを得たからには、敗北を受け止める覚悟はあるのでしょうね!?そうであれば、最早問うことはありません!!」

 

今まで黙っていた朱里もまた、一刀の後を受けてそう口にし、そして両腰の『陽虎』と『月狼』をゆっくりと引き抜く。

 

その様子を見た曹操と孫策は示し合わせたように、真っ先に二人に向かっていく。続いて甘寧、夏候惇、夏侯淵、許緒が駆け出す。

 

一刀達の方はといえば、流石にこのまま戦闘に入るのは少し拙いと思ったのか、大跳躍をして一気に後方へと下がった。この点に

 

ついては、両者の間に暗黙の了解があったと言える。劉備を巻き込む云々ではなく、劉備軍に妨害される可能性が高かったからだ。

 

曹操達もそれを理解し、凄まじい速度で二人を追う。

 

武将達に続いて、両軍の兵達もそれぞれ震える脚を叱りつけて果敢に駆け出していく。だが、それは勇気がそうさせるのではない。

 

恐怖がそうさせるのだ。具体的な内容などない。ただ、恐ろしかった。それは、根源的な恐怖心だった。

 

 

 

「――そ、そんなっ!やめてぇっ!!ご主人様を傷付けないでぇぇえええっ!!!」

 

圧倒的物量差で二人に向かっていく両軍を見て、喪失の恐怖に駆られた劉備はなんとか止めなければと懸命に駆け出すが、即座に

 

反応した張飛が、半ば飛び掛かるようにして劉備を力一杯引き留めた。

 

「ダメなのだお姉ちゃん!今行ったら死んじゃうよっ!!」

 

「っ!離して鈴々ちゃんっ!!ご主人様が、ご主人様が死んじゃうっ!!守らなきゃっ!守らなきゃっ!!」

 

「それでもなのだっ!お兄ちゃんたちは鈴々たちに守られなきゃいけないほど弱くないのだっ!!」

 

言い争う二人を見て、一瞬呆けていた関羽はすぐさま憤怒にその美貌を歪め、駆け寄って張飛を劉備から引き剥がしにかかる。

 

「鈴々っ!!桃香様の邪魔をするな!!ご主人様達の危機だというのに、お前はこんな時まで我儘をっ!!」

 

「馬鹿愛紗!ワガママはそっちなのだ!まだお兄ちゃんたちは鈴々たちの主人じゃないのだっ!!」

 

「あのお二人は、我らの主なのだ!そこに疑問を差し挟む余地などない!!曹操や孫策などに、お二人を渡してはならんのだ!!」

 

劉備を擁護する関羽と、二人の身勝手を必死に咎める張飛。そんな様子を見て、兵達の動揺は増していく。

 

「はわわ、ど、どうしよう、どうしよう……!このままじゃ、お二人を助けることなんて……っ!」

 

本来気の弱い孔明もまた、三人の言い争う姿に動揺してしまう。二人を救出するための策を必死に考えていた彼女だったが、今の

 

状態では救出はおろか、軍を動かす事さえままならない。兵の士気は下がるし、良いことなどどこにもない。加えて、ふと感じた

 

劉備の言動への疑問。それらが孔明を苛み、いつもは明晰な彼女の思考には晴らし難い濃霧がたちこめてしまっていた。

 

そんな彼女達をよそに、戦闘は始まってしまっていた。

 

 

 

――信じられない。

 

攻め込んでいった両軍の兵達のみならず将達も、一様にそんな感想を抱いた。目の前で起きていることを、全く理解できないのだ。

 

「くっ……強い!我らの総力をまるで意に介さないとは……!」

 

「くそっ!これでは華琳様を傷付けた報いを奴らに受けさせてやれないではないか!!」

 

「なんで!?ボク達が束になってかかって、なんで、こんなっ!?」

 

「これほどの力……野放しにしておいては危険過ぎるわ……!」

 

水関での戦いにおいても『天の御遣い』は凄まじい戦闘力を見せた。だが、恥も外聞もかなぐり捨てて圧倒的な物量差で挑んだ

 

筈の両軍を、二人の『天の御遣い』は事も無げに薙ぎ倒していく。その光景が、ただ信じられなかった。

 

「やはり……やはり奴らは『天の御遣い』などではない!奴らは『鬼』だっ!」

 

「強過ぎる……!兵が傷付くのを覚悟で物量攻めしてるのに、それでも私達の牙が届くには遠過ぎるの!?」

 

絶対に負けられない戦い。だからこその卑怯との誹りを受けかねない物量攻めなのである。兵達が必死に隙を作ろうとし、そこに

 

どうにかして打ちこもうと将達は狙うが、そんな狙いすら片手間でいなし、兵達を退けていく二人の武人。その様は甘寧の言葉を

 

借りれば『鬼』であった。しかし、そこに殺戮は無い。ともすれば一方的とも言える暴力をただ退けているだけだ。

 

「喰らえぇぇええっ――がはっ!?」

 

「全力であることはわかりますが、それでは遅過ぎるのですよ!」

 

夏候惇が果敢に打ちかかるが、常人であれば避けることは叶わない一撃を朱里はあっさりと躱し、空中で一回転して強烈な蹴りを

 

見舞う。その一撃は夏候惇の鎧をものともせずに肋骨を数本折り、一瞬で逆回転して正面に蹴り飛ばす。

 

「取ったぞぉおおっ――うぐっ!?ぐぁあっ!!」

 

「気配を消したつもりだろうが、生憎それが通用するほど俺は甘くないぞ!」

 

気配を消していた甘寧が斬りかかるも、一刀はそれを見ようともせずに易々と躱し、その左腕を空いている片手で捕え、捩じ折る。

 

そしてその反動を利用して甘寧を空中に投げ、落ちてきた彼女の腹部に強烈な正拳突きを見舞い、吹き飛ばす。

 

「思春っ!……ああ、もうっ!これじゃジリ貧じゃない!」

 

両軍随一の武将をいとも簡単に戦闘不能にした二人の前に、孫策をはじめとした武将達は攻めあぐね、兵達は戦意を喪失しかけて

 

いた。数で襲い掛かっても勝てない、名の知れた武将が全力で立ち向かっても勝てない。そんな状況では無理も無かった。

 

「どうした!?その程度か、曹操!孫策!答えを得た貴様達が、その程度であるわけがないだろう!かかって来い!!」

 

「くっ!なめるな!はぁぁあああ!!」

 

「甘いなッ!喰らえ!『((龍火弾|りゅうかだん))』ッ!!」

 

「なっ!?あああああっ!!」

 

激発した曹操が一刀に挑む。万一に備えて用意されていた二本目の『絶』を振るい、その兇刃を一刀に向ける。これまでで最高の

 

速度で繰り出された刃は、しかし一刀の刀に難なく受け止められ、彼が左手で放った逆襲の氣弾に直撃されて吹き飛ぶ。

 

「華琳様っ!……よくも!喰らえっ――何っ!?ぐっ!」

 

そして夏侯淵が報復にと放った幾本もの矢を、一刀は見ようともせずに手で全て掴み取り、あろうことかそれを夏侯淵に投げ返す。

 

矢は夏侯淵が放った時よりも高速で主に襲い掛かり、この事態に対処できずにいた夏侯淵は回避しきれずに一本を肩に喰らった。

 

「曹操!夏侯淵っ!下がってなさい、次は私がっ!」

 

「ボクも行くよ!でりゃぁぁぁああああっ!!」

 

孫策と許緒が同時に朱里へと向かっていく。無駄だとわかっていても、立ち向かわずにはいられない。そうでなければ蹂躙される。

 

だからこそ、互いの利益を超えた共闘体制が暗黙の裡に完成していたのだが、力の差というものは無情に、厳然と存在するもの。

 

「『陽虎』・『月狼』、展開!受けなさい!『((蛇龍剣|じゃりゅうけん))・((雷蛇|らいじゃ))』ッ!!」

 

朱里の双剣が秘められた凶悪な姿を顕す。伸びた刃を両者は辛くも躱すが、自在に動く蛇腹剣は両者を容易く捕え、その直後――

 

「「――ああぁぁあぁぁぁああっ!!??」」

 

蛇腹剣に雷光が奔り、捕えられた両者に激烈な衝撃と苦痛を与える。ほどなく両者は力を失い、地面に倒れ伏してしまった。

 

「こんな……!この私と、英雄たる孫策が率いる軍が束になってかかって、たった二人にここまで無様に圧倒されるなんて……!」

 

先程の攻撃からどうにか回復した曹操が、立ち上がりながらそう毒づいた、その時だった――

 

 

 

「――もうやめてぇぇぇぇぇええええええっ!!!」

 

 

 

――大きく引き離しておいたはずの劉備が、軍を率いて駆けつけてきた。

 

-10ページ-

 

「曹操さんも!孫策さんもっ!もうやめてっ!ご主人様を、傷付けないでぇっ!!」

 

最早悲鳴に等しい声をあげながら、劉備は必死に走ってくる。それを追うようにして関羽、兵達が続く。張飛はやや遅れ、それに

 

さらに遅れて孔明もやって来る。鳳統や趙雲の姿もあったが、二人はこの上ない苦悶の表情を浮かべながら、後方に佇んでいた。

 

「邪魔をするな、劉備!援軍に来たのならまだしも、友軍の邪魔をするとは何事だ!」

 

「黙れ、曹操!卑劣にも我らが主達に数の暴力で襲い掛かっておいて何を言うか!貴様らのような者共にご主人様達は渡さん!!」

 

曹操が吼えるが、劉備は一刀の方を向いたままで応じず、代わりに烈火のように怒る関羽が怒声と共に立ち塞がった。曹操は再び

 

激昂し、『絶』で斬りかかるが、関羽の『青龍偃月刀』がそれを弾き、その衝撃で曹操は後退を余儀なくされてしまう。いつもの

 

曹操ならその程度で押し込まれはしないが、それだけ一刀達との戦闘で生じた故障が酷かったのである。

 

「あははははっ!!あんたら一体、どっちの味方よ!?」

 

その様子を見て孫策が遂に切れるが、先程の朱里の攻撃のせいでまだ碌に動けない。関羽は孫策にも激しい敵意を向け、威圧する。

 

「黙れと言ったぞ、孫策!お二方は我らの主にこそ相応しい方々だ……貴様らの野望の道具となるために降臨されたのではない!

 

 そこで無様に転がっていろ!ここでお二人をお救いし、都を荒らす董卓に天罰を下す!そして劉備様の理想を、今こそ大陸中に

 

 広め、我らの手で平和を取り戻すのだ!貴様らこそ我らの……劉備様の邪魔をするな!人でなし共がっ!!」

 

分を弁えない関羽の物言いに、曹操・孫策両軍の将達の怒りは最高潮に達するが、負傷している現状ではどうすることもできない。

 

加えて、興味もあった。先のやりとりでは劉備の隠されていた闇が一刀によって暴かれた。この期に及んで劉備は何を訴えようと

 

いうのか。それもあって、将達はとりあえずある程度回復するまで、それを見せてもらうというところで妥協したのである。

 

「……どこまでも身勝手な連中だな、貴様達は……!」

 

「仮にも味方を脅迫するとは、どこまで恥知らずなのですか、あなた達は……!」

 

一刀は曹操達以上の怒りを顕わにしていた。朱里も劉備達のあまりに身勝手な態度に、激しい怒りを隠そうともせず気迫を放つ。

 

「さあ、ご主人様、御前様。桃香様以下、天軍たる我ら劉備軍がお迎えに上がりました!すぐにお戻りください!そして、董卓を

 

 我らと共に誅滅し、都の民を、皇帝陛下をお救いし、そして天下に我らの理想を広めようではありませぬか!さあ、お早く!」

 

「ご主人様、お願い!目を覚まして!ご主人様は、わたし達のご主人様なんだからっ!董卓さんの所になんかいちゃダメっ!!」

 

いよいよその傲慢さを露わにする劉備と関羽。さらに怒りが高まった一刀達が何かを言う前に、張飛が二人の義姉に反論した。

 

「二人とも、言ってることが滅茶苦茶なのだっ!お兄ちゃんたちが言ってたこと、忘れちゃったのかっ!?」

 

「世迷言を言うな、鈴々!今はお前の我儘につきあっている場合ではないのだ!我儘ばかり言うのであれば引っ込んでいろ!」

 

だが関羽は張飛の言葉を拒絶し、あろうことか張飛の頬を思い切り殴りつけた。その醜態に、一刀達の理性は振り切れそうになる。

 

「それが懸命に訴える義妹に対する報いですか!なんて愚かなことを!独善を振り翳すのもいい加減にしなさいッ!!」

 

先に理性が振り切れてしまったのは朱里の方だった。凶悪な本性を顕した朱里の剣が一瞬にして関羽の首に絡みつき、締め上げる。

 

関羽は偃月刀を取り落し、自身の首に巻きついて今にも命を奪わんと締め上げてくる剣を必死で引き剥がそうとするが、剣は既に

 

熱を帯び、関羽の首の皮膚が焼け、引き剥がそうとする指もまた焼けていく。その凄絶な光景に、劉備が激発した。

 

「やめてぇぇえええっ!!」

 

腰に佩いた『靖王伝家』を鞘走らせ、朱里の剣を断ち切ろうとするが、強靭なる朱里の剣はその程度では傷一つつかない。しかし

 

朱里は気が済んだとばかりに剣を戻す。関羽は地面に膝をつき、荒い息を吐いた。そして関羽の傷を見ていた劉備は、不意に顔を

 

上げ、きっと朱里を睨みつける。

 

「どうして愛紗ちゃんに剣を向けたのっ!?何も間違ったことは言ってないのに、どうしてっ!?」

 

今まで一刀の事しか見ていなかった劉備は、ここに来てようやくもう一人の『天の御遣い』に目を向けた。しかし、そこに一刀に

 

向けているような狂おしいまでの慕情は無い。そこにあったのは激しい怒りだった。それを見た朱里は、敢えて事実を暴露した。

 

「……どうやらあなたは知らないようですね。そもそも、水関で関羽を落命寸前まで追い詰めたのはこの私だということを!」

 

「なっ!?」

 

「ご、御前様が、愛紗さんを……!?そんな!?」

 

劉備のみならず、孔明もまた激しく息を呑む。今の今まで知らされなかった事実。あまりに残酷な事実に、しかし劉備は激昂する。

 

「どうしてそんなことをしたのっ!?愛紗ちゃんは仲間なのに、どうしてっ!?」

 

「理由なら、一刀様が先にお話になったことが全てです!あまりに身勝手だったのですから!今もそう!それだけに過ぎません!」

 

「身勝手なんかじゃないよっ!それを言うなら、あなたの方がずっと身勝手じゃないっ!わたし達のご主人様を独り占めしてっ!

 

 わたし達の気持ちを全然わかってくれなくてっ!今だって理不尽な理由で愛紗ちゃんを傷付けたっ!あなたは、身勝手ですっ!」

 

常ならぬ憤怒を顕わに、朱里に反駁する劉備。しかし、そこにあったのは、一方的な恋情と嫉妬、さらには独占欲。つまりは女の

 

情念であった。これを受け、殆ど何も知らない外野も、二人の関係性を容易に推察することが出来た。

 

「……そうか、そうなんだ!あなたが董卓さんと通じて、ご主人様を……ご主人様を、わたし達から引き離そうとしているんだ!」

 

「言うに事欠いて何を言いますか!」

 

「いつも隣にいたはずのご主人様の気持ちさえ全然わかってないくせにっ!ご主人様はそんなこと、望んでなんかいないのにっ!

 

 あなたみたいな酷い人、ご主人様には相応しくないっ!わたし達のほうが、ご主人様の気持ちをずっとわかってるんだからっ!

 

 そんな仮面を着けて素顔を隠してるのだって、誰にも、ご主人様にも言えないような、やましいことがあるからなんでしょっ!

 

 ご主人様は皆のものなのっ!あなたのものなんかじゃないっ!いなくなっちゃえ!どっかに行っちゃえばいいんだっ!!」

 

狂おしき慕情と深い嫉妬、激しい怒りと苛辣な驕傲。それらが融け合い醸成された濃密極まる憎悪は、さらに劉備を狂わせていく。

 

曹操達は劉備の迫力に驚愕していた。一つ二つでは済まされないほど抜けているかのような少女が、ここまでの激情を見せるとは

 

誰も想像していなかったのである。まして彼女が憎悪を向ける朱里は、一度は彼女達が主と仰いだ相手なのだから。

 

「と、桃香様……駄目です!そんな感情に身を任せてはっ!」

 

主君のあまりの豹変ぶりが恐ろしくなったのであろうか、孔明が劉備に駆け寄り、なんとか落ち着かせようとするが、劉備は全く

 

耳を貸そうとしない。関羽も何故か黙りこみ、孔明のように劉備を止めようとはしなかった。それが孔明には信じられなかった。

 

「……と、いうことらしいですが。如何ですか、『ご主人様』?」

 

そこに、突如として朱里の精緻な水晶細工を思わせる声が響いた。どういうわけか、一刀を劉備達と同じように呼んで。

 

「……ああ。語るに落ちるとはこのことだな。我が軍師、『臥龍』よ」

 

そして、一刀は静かな声でそれに応じた。どういうわけか、孔明の道号であるはずの『臥龍』と、朱里をそう呼んで。

 

「ど、どういう、ことですか…?」

 

孔明は戸惑っていた。朱里は一刀を『ご主人様』とは呼ばない。そして一刀が朱里を指して呼んだのであろう『臥龍』は、孔明が

 

師匠である司馬徽から与えられた道号なのだ。何故一刀は朱里をそう呼んだのか。何故朱里は一刀を名前で呼ばなかったのか。

 

「確かに私が関羽を傷付けたのは事実ですが、それをこの状況で明かせば、きっと劉備は隠されていた激情を曝け出すと思っての

 

 ことです。ここまで激昂するほどの慕情だったとは流石に予想外でしたが……見事に見え透いた罠に嵌まりましたね」

 

「!!」

 

「もう一つ言わせて頂くならば、よくよく周りが見えていないのですね。その感情をよりによってこの状況で曝け出すとは」

 

「!!!」

 

孔明は事ここに至ってすべてを悟った。今までのことは全てこの時のための布石だったのだ。一刀が見せた凄まじい怒りまでもが

 

演技だとは思えないが、朱里はそれすらも策の内に織り込んで立ち回り、こうして劉備の隠されていた憎悪の感情を曝け出させた。

 

朱里も凄まじい怒りを見せていたが、彼女は途中で気付き、瞬時に策を仕掛けてきたのだ。主君の想いすら、策の布石に変えて。

 

「語るに落ちたな、劉玄徳!貴様の最大の関心事は、結局は貴様個人の幸福のようだな!やはり、貴様の許を離れて正解だった!」

 

「そ、そんなことないっ!ご主人様のことも、都で助けを待ってる人達のこともっ!助けたくて、ここに来たのっ!」

 

「本当に民を思うなら、まず一言目に『民』と言うべきだったな!何をおいてもまずは民だ!それが王たる者の責務だッ!」

 

「わたしは、偉い立場の人になりたくて理想を掲げたんじゃないのっ!わたしはただ、皆で仲良く暮らせればそれで良かった!」

 

「皆で仲良く笑顔で暮らすために、それに匹敵する絶望を背負う覚悟があったのかッ!?俺達を主人と仰いだのも、それを俺達に

 

 押し付けるためだったのではないか!?民のためと言っておきながら、その実、貴様が絶望から目を背けたかっただけだッ!」

 

「違うっ!違うぅっ、違うぅぅううっ!!わたしは、わたしはっ!!ただ、皆に笑顔でいてほしかっただけぇぇぇええぇっ!!!」

 

長い桃色の髪を振り乱し、涙に濡れた愛らしい顔をこの上ない悲嘆に歪め、一刀に反駁し続ける劉備の姿は、あまりに醜悪だった。

 

しかし、そこで誰も予想しなかったことが起きた。

 

「民は貴様の自尊心を満足させるための道具ではないッ!!手段と目的を履き違え――ッ!?ぐぅッ!?がはぁッ!!??」

 

「一刀様!?――っあ!?うぐッ!?ああぁぁあぁッ!!??」

 

一刀と朱里が不意に苦しみだし、一気に大量の鮮血を吐き出したのである。一瞬、その光景に喚き散らすことも忘れて呆けていた

 

劉備は真っ先に一刀に駆け寄ろうとし、関羽も続こうとする――が、何か凄まじい力によって、劉備達の接近は阻まれてしまった。

 

見れば、一刀と朱里の身体は揺らめく光に包まれ、風が、光が、音が一点に集い、その輝きは広がり、高まっていく――

 

-11ページ-

 

(side:一刀)

 

――目の前が急に暗くなったような、そんな感覚だった。俺は、桃香……いや、劉備と舌戦をしていた筈なのに。

 

 

 

『――汝、数多なる世界を救わんと望むや……?』

 

 

 

俺は何を間違ったのだろうか。そもそも彼女を『計画』に組み入れてしまったことが、間違いだったのか?彼女は劉家の血を継ぐ

 

者……つまり『天の御遣い』の血をひく、『外史の後継者』に成り得る存在だった。加えて俺は彼女のことをよく知っていたのだ。

 

だが、それが間違いだったのか?俺は彼女の闇に、果たして一度でも直接向き合ったことがあったか?

 

 

 

『――汝、数多なる世界の救済を望まば……』

 

 

 

桃香の闇は、あまりにも暗かった。何故、あそこまで空虚なんだ?いったいどうしたら、あんな空っぽな人間が出来上がるんだ?

 

俺の、俺達のせいなのか?俺達が、本来の彼女にはない闇を与えてしまったのか?俺達が彼女の本来の光を奪ってしまったのか?

 

 

 

『――吾、汝に宿りて、吾が力を以て汝の意を遂げん……』

 

 

 

身勝手だとは散々言ったが、考えてみれば、俺達の方が余程身勝手じゃないか?俺達は彼女の気持ちを利用し、踏み躙ったも同然

 

なんだ。俺は桃香の好意を断ったが、俺は知っていたはずだ。彼女は元々、この手のことには強引であることを。自分より他人を

 

優先しがちという印象を受けたこともあるけど、彼女は決して好意を俺に示すことを憚ることは無かった。

 

桃香が俺に強い好意を抱いていることを承知で離れたんだ、こうなることはある程度予想していた。だが、俺は無意識にそれから

 

目を逸らそうとしていたのかもしれない。俺は、彼女の闇から半分以上は目を逸らしてしまっていたのだ。

 

俺では彼女を導けないのだろうか。導き方を間違ったのだろうか。俺は、彼女を変えることが出来ないのか――

 

 

 

――いや、違う!そうではない!

 

 

 

ふと、俺の中の何かがそう言った。ごく短い言葉だったが、俺はその真意を完璧に理解することができた。

 

(……桃香を……いや、劉備をこのままにしておいては駄目だ……!)

 

そうだ。俺はそう思ったからこそ『計画』を第三段階に進める時『甲計画』を破棄し、『乙計画』を採択したのだ。それは彼女と

 

敢えて敵対する道。敵として彼女を導き、高めるための計画。それを選んだことに後悔はない。

 

そして今――俺にはやらなければならぬことが、果たさなければならぬ使命がある。もう一人の『継承者』……劉協という少女を、

 

また稀有な為政者であり、嘗ての仲間である月……董卓を護り、否応なしに乱世となるであろう大陸に平和を取り戻すということ。

 

そして、あらゆる外史を蝕む『敵』を退け、二つの世界を護るということ。

 

 

 

『――吾、汝に問う……』

 

 

 

そのためには、どんな手段であろうとそれを取る。たとえそれが数限りない絶望と修羅を背負う、道無き道であろうとも……!

 

 

 

 

 

『――汝、『祖なるもの』たらんと望むや?』

 

 

 

 

 

……そうだ。護るべきもののために。俺達の戦いの先に唯一つの希望があると信じて。今一度往こう、血塗られた阿修羅の道を!

 

 

 

「護るべきすべての命達のために……!我、新たなる始まりとならん!!おおおぉぉおぉぉおぉおおぉおおおッ!!!」

 

 

 

(side:朱里)

 

――突然、何も見えなくなってしまった。何も聞こえなくなってしまった。

 

 

 

『――汝、数多なる世界を救わんと望むや……?』

 

 

 

先日倒れたことといい、今回のことといい……ああ、これは罰だ。私達が選んだ道が私達に下した、私達の罪への報いなんだ。

 

二つの世界を救うために作り上げた『計画』。そこに個人の事情や感情を勘案するような余地は無い。だからこそ私達は、敢えて

 

感情を排して『計画』のために動いてきた。嘗て愛した者、嘗ての友。それらを犠牲にしようとも、二つの世界を救うために。

 

 

 

『――汝、数多なる人界の救済を望まば……』

 

 

 

でも、それが駄目だったのだろうか。失い過ぎれば、そこに残るのはあまりに空虚な結果。それが今の桃香さんだ。彼女の心には

 

大きな穴が開こうとしている。元から空っぽな所がある人だとは思っていた。でもあそこまで空虚な人間が他にいるだろうか。

 

 

 

『――吾、汝に宿りて、吾が力を以て汝の意を遂げん……』

 

 

 

結局、身勝手なのは私達も同じだったんだ……私達が関わらなければ、彼女は今のように空虚な人間になろう筈もなかっただろう。

 

彼女の言う通りだ。事情があるとはいえ、私は今まで自分の素顔を偽ってきた。いつの間にか、それが顔だけでなく心までも覆い、

 

本当に正しいことを見極めるための心眼を私から奪ってしまったのかもしれない。

 

私は元々軍師として冷徹な部分を持っていた。でも、一刀様は違う。どこまでも優しかった一刀様。時には苦しみ、独り落涙する

 

場面を見たことは一度や二度ではない。そんな優しい人に傷付くことを求めた私は、確かに相応しくないのかもしれない――

 

 

 

――違う!そうじゃない!

 

 

 

――私の中の何かが、絶望しかけた私に必死に訴えてくる。短い言葉だったけど、私はその真意を完璧に理解した。

 

(……桃香さんの空虚さ……このままにしておいては、いけない……!)

 

そう。彼女の理想にも、そして彼女自身にも、中身がまるでないように感じられた。どこまでいっても茫洋としていて、掴み所が

 

無い。それも彼女の個性だと、これまでの外史では思っていた。でも今、それが恐ろしい意味を持って私達の前に存在している。

 

冷たい仮面を被り、自らを偽ってまでここまで歩んできた私の使命とは、『計画』を完遂し、二つの世界を、数多の命を護ること。

 

そのためには、『継承者』足り得る才華さん、そして彼女を支えられる月ちゃんが必要不可欠だ。

 

理想という仮面で空虚さを覆い隠し、自分以外の全てを呑み込もうとする桃香さん……いえ劉備は、このままにはしておけない。

 

 

 

『――吾、汝に問う……』

 

 

 

示さなければならない。道無き道を歩む覚悟を。数限りない絶望と修羅を背負うとも、歩みを止めないと決めたのだから……!

 

 

 

 

 

『―汝、『変幻の鱗』たらんと望むや?』

 

 

 

 

 

……そうだ。護るべきもののために。私達の戦いが限り無い絶望を打ち破ると信じて。今一度歩もう、血塗られた阿修羅の道を!

 

 

 

「護るべきすべての世界のために……!今こそ鱗を得、我は天高く舞う!!ああぁぁあぁあぁぁああぁあああッ!!!」

 

-12ページ-

 

(side:雛里)

 

「――ああぁぁあああっ……!!」

 

一刀さん達と桃香様の舌戦を見ていることしかできなかった私は、不意に胸を締め付けられたように苦しくなり、蹲ってしまった。

 

「どうした、雛里!?」

 

「……あぁ……あああっ……!」

 

言葉が出てこない。胸が苦しい。どうしてだろう。確かに私は、桃香様達の無体な振る舞いを見るたびに胸が痛くなっていたけど、

 

今回のはそれの比じゃない。苦しいけど息はできる、でも苦しさを少しでも解消することはできない。何か、何かが私の心に強く

 

響いてきて、私の心の中からも何かが湧き上がってくる。これ以上ないくらいに、強く、激しく。

 

「くっ……なんと、なんという哀しみ……!これほどまでの悲哀を背負って、あの二人は戦っているのか……!」

 

星さんも、私と同じような苦しみを感じているのかもしれない。星さんの顔が、例えようもない苦悩で歪んでいる。

 

悲哀……そうか。そういうことなんだ。誰かが目の前で悲しんでいれば、自分も悲しくなってくる。それと同じなんだ。でも私の

 

心の中から湧き上がってくるこの悲しみは、それとは根本的に何か違うような気がする。これは、私自身の悲しみ……?

 

「あああっ……一刀、さん……朱里さん……っ!」

 

眼尻が熱くなってくる。最近、あまり泣かなくなってしまったせいか、やや錆びついてしまっていた私の眼尻は、私の言うことを

 

まったく聞いてくれない。涙を流さないように、私の精一杯の力を込める。歯を思い切り喰いしばり、拳を強く、固く握り締めて。

 

お二人がこんなにも悲しんでいるのに、私が私自身の悲しみなんかで泣くわけには……っ!

 

「雛里、しっかりしろ……!」

 

星さんが励ましてくれる……その姿は頼もしかったけど……でも、私はもう限界だった。

 

「……駄目、もう、駄目ぇ……っ!!」

 

今までどうにか我慢してきたけど、もう限界だった。胸を抑えていた手を離し、服の袖口で必死に涙を拭う。絶え間なく湧き出す

 

涙を拭い続ける間にも、胸の苦しみは益々強くなる。益々涙が溢れてくる。堪らなくなって、私は叫んでしまう――

 

 

 

「――お願い……っ!……ご主人様……朱里ちゃんっ……!そんなに、悲しまないでぇ……っ!!」

 

 

 

――え?……私、今……なんて……?

 

自分の口から飛び出た言葉に驚いてしまった私は、ほんの一瞬だけ、涙を拭うのを忘れてしまっていた。

 

 

 

(side:月)

 

「――うぅぁぁああっ…!!」

 

城壁の上から、今まさに戦いが行われている虎牢関の方角を眺めていた私は、不意に胸が苦しくなって、その場に蹲ってしまった。

 

「月っ!?どうしたのですかっ!?」

 

「さ……才華、さま……くぅ、ううぅぁああっ……!」

 

上手く口が動かない。今までに経験したことのない胸の苦しみ。かつての外史で連合を迎え撃つために兵の皆さんが命を落として

 

いくのをただ見ていることしかできなかった時も、皆が私を守るためと言って必死に動いてくれてるのに、何も出来なかった時も、

 

ここまでの苦しみを感じたことは無かった。勿論、その時も凄く苦しかったけど……今のは激しくて、強い苦しみだ。

 

「……なんでしょう……ここは戦場から離れている筈なのに、途轍も無い哀しみが伝わってくる……!」

 

才華様にも感じ取れるほど、伝わってくる苦しみは激しいみたい。でも、哀しみ……うん、確かに才華様の仰る通りかもしれない。

 

戦場から伝わってくるのは、ご主人様と朱里ちゃんの哀しみ。二人の鼓動がここまで伝わってくるみたいで、私の心もそれに同調

 

していくのがわかる。なんて……なんて深い哀しみだろう。どんなことが起きて、何故そこまで哀しんでいるんだろう。

 

「……朱里ちゃん……ご主人様……っ!」

 

「月!?この途轍もない哀しみは、一刀達のものだと、あなたにはわかるのね!?」

 

「は、い……でも、こんな……こんなっ……!」

 

さっきから天候もおかしい。空は分厚い黒雲に覆われ、雷も鳴っている。凄い音量の地鳴りもしている。一体何が起きてるの……?

 

「……天が、地が、彼らのために怒っている……この哀しみは嘆きに非ず。己が((宿命|さだめ))を熾った者が、最後に流す涙の熱さ……!」

 

才華様がそうひとりごちるのを、私はどうにか胸を宥め賺しながら聞いていた。確かに私も感じている。これは単純な嘆きなんか

 

じゃない。怒りも、哀しみも、そして覚悟も。何もかもを包み込んで流された涙の、強烈な熱。また胸が苦しくなってくる。

 

「うぅう……うぅぁぁああっ……!」

 

「月……!」

 

才華様がそっと寄り添ってくださっている。それでも、熱くなってきた眼尻は冷めてなんてくれなくて、私は思わず手で顔を覆う。

 

とめどなく溢れる涙と胸の苦しみは連動して、どんどん強くなり、溢れてくる。耐えきれなくなって、私は叫んでしまう。

 

「そんなにも、強い哀しみを……っ!二人だけで、背負わないで……っ!!」

 

虎牢関の方角に向かって叫んだ一瞬の間に、私の頬を一際熱い一滴が流れ落ちるのを感じた。

 

 

 

(side:灯里)

 

――虎牢関の城壁から戦闘の様子を見ていた私は、突然襲ってきた胸の苦痛に耐えかね、壁に手をついて体を支える。

 

「これ、は……ううぅっ……!!」

 

意図しない苦悶の声が漏れる。状況を把握しようと思っても、それを中々許してくれそうにないほどの苦しみだ。久しく味わって

 

いなかった、激しい情動による胸の苦しみ。しかも他人の感情につられてなんて、私にはまったく経験が無い。これは一刀さんや

 

朱里の哀しみなんだろうか。

 

耳を澄ませていたので、虎牢関の近くで始まった戦闘が一段落した後、劉備さんと言い争った内容は大体把握している。やっぱり、

 

私の推測は当たってしまっていた。ならば、二人の哀しみの理由も半分はわかるけど……後の半分は推測するしかない。

 

「……何故、こんな……何故、二人がここまで悲しまなければ……っ!?」

 

思わず虚空に向かって問い掛けてしまうほど、二人から伝わってくる哀しみは凄まじいものだった。それは、戦いに生きる者達の

 

宿命だから、そういう意味では至極当然。でも、一刀さんや朱里から伝わってくる哀しみは、それとは似ているようで違う。

 

「うぅううっ……!」

 

でも、哀しみに呑まれてはいない。ほぼ直感だけど、私の直感は外れたことが無いので、信頼の置けるものだった。かつての私が

 

抱いたそれと似ていると思う。これは悲嘆だけの哀しみなんかじゃない。何もかも心を決めて、何かと決別する時の哀しみだ。

 

そこに後悔はない。ただ、前に進もうとする意志があるのみ。進む先に歓喜や感謝などなく、哀しみしかないと知っていても。

 

「……あれ?」

 

不意に、私は自分の眼尻が熱くなっていることに気付く。触れてみると、そこには涙があった。もう何年も流していない筈の涙が。

 

とっくの昔に流せなくなってしまった筈の、流し方を忘れてしまった筈の、私の頬を濡らす熱い涙が。

 

「……私、泣いているの?」

 

思わず声に出して確認してしまうほどに、私にとっては意外な出来事。いつしか存在を忘れかけていた、私自身の目から流れる涙。

 

そして突然、私は理解する。何故、二人は哀しんでいるのか。何故、私はそれに呼応するかのように涙を流してしまっているのか。

 

「……これは、孤独だ……」

 

その哀しみの根源は、孤独だった。決して嘆いているわけではない。ただ、たった一人になっても己が信念を、意志を貫くという

 

覚悟の表出たる孤独だった。それは、あまりにかつての私のそれと似ていて。思わず、私は叫んでしまう。

 

「あなた達を、孤独にはしない……!だから、それ以上は……っ!!」

 

叫びながら、涙を拭うことを忘れていたことに気付くよりも、私の顎を伝って熱い滴が落ちるのが、一瞬速かった。

 

 

 

 

 

青年と少女の咆哮。それは世界を激しく震わせる轟然たる音。

 

 

 

三人の少女達の涙。それは世界に静かに響き渡る澄明なる音。

 

 

 

少女達の澄明なる涙が、轟然と震える世界に落ちた時――

 

 

 

 

 

――戦場は、処刑場と化した――。

 

-13ページ-

 

あとがき(という名の言い訳)

 

 

……実に四十七日ぶりの投稿となります。Jack Tlamです。ちゃんと生きております。

 

読者の皆様には、長らくお待たせしてしまったことを深くお詫び申し上げます。

 

第三十三話、第四章最大の山場ということで、今までで一番執筆に時間がかかりました。

 

 

第二十四話に併せて掲載した予告編とは大分異なっていますが、第四章に入ってからというもの、

 

私の個性が表出しやすくなってきているので、このような内容となりました。

 

二次創作ということである程度原作の書き方に準えようという考えは今でもあるのですが、もう

 

ここまで来たら私の個性を全開にしてしまって、昏い情念や悪意を盛りに盛りまくってしまえと、

 

例えるなら○郎の全部マシマシ状態ですね。あれを完食するのには骨が折れました。

 

 

『恋姫†無双』という作品を題材にした本作でここまでのことをしていいものかと悩みました。

 

悪意的な描写、殊に桃香の独善的で身勝手な言動や行動を描くことは、以前どなたかが仰って

 

いたように、私自身が相当な苦痛を味わいました。ですが、こうしないと物語は進みませんし、

 

なにより元が明るい作品なので、各キャラクターの闇の描写というのはどうしても抑え目です。

 

ですので、本作では人間ドラマの中で恋姫達の、殊にメインヒロイン級の恋姫達の闇に迫って

 

いけたらと思って描いている部分もあります。

 

結果として、原作ではネタキャラ扱いされていた恋姫達が光ってくるわけですが。白蓮は特に。

 

 

内容について細かくは言及しません。キリがないから。

 

 

今回じゃ終わらなかったので、もう一話増やし、次回は…まあ、最後まで読んでいただけた方なら

 

だいたいご理解いただけているでしょう。

 

 

 

次回もお楽しみに。

 

-14ページ-

 

次回予告

 

 

 

悠久の時を越えし御遣い達。その力は輝きとなり、大地を揺るがせ、暗雲を貫き、天へと至る光となる。

 

 

次回、『輝ける意志、天に至りて』。

 

 

覚悟無き意志は天に届かず。意志無き理想は無明の闇。戦場を照らし輝く力は、決して折れない意志の形。

 

 

説明
第四章も遂に佳境。一刀と桃香の直接対決がメインとなります。

リアルで何かをぶっ壊したくなりそうな展開です。では、どうぞ。

※アンチ展開・残酷描写有


最近、字数制限ギリギリを攻めるのが当たり前になってしまいました。


2014/10/21 本文を加筆・修正を施した改訂版に差し替えました。
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コメント
>>みおあず様 コメントありがとうございます。面白いと感じて頂けたなら幸いです。朱里は恋姫初プレイ時から好きでしたので、今作のメインヒロインに抜擢しました。成程……聞いてみよう。ご愛読ありがとうございます。執筆は誠心誠意頑張らせていただきたいと思います。(Jack Tlam)
>>心は永遠の中学二年生様 まさかそんな、畏れ多い……超有名作ばかりではないですか……身に余る光栄です。ありがとうございます。(Jack Tlam)
初めまして。最初から一気に読ませていただきました。凄く面白いです。自分は、朱里は好きなキャラトップ3なので。読んでいる内に、この作品の主題歌は歌詞的に某魔法少女A’sのOPか、某炎髪灼眼2期のJOINTが合うと思いました。執筆頑張ってください。(みおあず)
一刀、もとい恋姫がここまで深い覚悟を持ってる作品は実は結構少ない・・・真・恋姫†無双想伝〜魏†残想〜(魏√→今ここ)と燐・恋姫無双(無印→真)と悲恋姫†無双(魏√→再ループ魏と敵対、超お勧め)くらいか・・・?この3作品以外ではここしかない!!だからすごくこの作品好き!(心は永遠の中学二年生)
>>心は永遠の中学二年生様 コメントありがとうございます。そう言っていただけるのは大変光栄です。これからも応援よろしくお願いします。(Jack Tlam)
これは善いSS(心は永遠の中学二年生)
>>kaito様 コメントありがとうございます。凝り性が発症したためもう少し送れますが、今週中には何とか…(Jack Tlam)
>>なるっち様 もうちょっとお待ちください。凝り性が発症いたしまして……(Jack Tlam)
続き、今月中に投稿出来ますか?(kaito)
>>ディヴァン様 コメントありがとうございます。色々トラブっていて遅れております。お待たせして大変申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください。(Jack Tlam)
ツヅキマダー?(ディヴァン)
>>KU− 様 コメントありがとうございます。次を今書いていますが、第三十三話よりはずっとハイペースです。この回は1ページ書くのに一週間要した部分もあって、そのため四十日以上更新ができませんでした。最後の方は一晩で3ページ仕上げましたが…内容を濃くしている分、表現で困って詰まることも度々ありますが、どうか気長にお待ちください。(Jack Tlam)
処刑場、どういう風になるのか楽しみにしています。分けたからその分早い更新になるか、濃い内容になる分、更新に時間がかかるかのどちらなんでしょうね?お早い更新お待ちしてます。(KU−)
>>アーマイル様 当たらずとも遠からず…ですね。それが良い影響をもたらしている部分もあるにはあるのですが、悪いものは目立ってしまうものでして…。(Jack Tlam)
前の外史(主に蜀の外史時の関連的に)と関連があるとするならやり直される際に記憶が消されても無意識に本能が覚えているせいで桃香の闇がむき出しになってしまったのではないかとも取れてしまいます。その後の展開あまり想像したくないな。(アーマイル)
>>続き そう言っていただけると幸いです。無限に増大する悪意に負けるか、ほんの一欠片の善意を心に持ち続けるか。詭弁でしかありませんが、悪意に負けるということは即ち己に負けるということです。己に克つことにこそ、私のテーマの到達点があります。元々私はSF系なので、どうもそっち方向の影響を受けやすくて…。(Jack Tlam)
>>アーマイル様 結局の所、彼女達もまたどこかで致命的な間違いを犯してしまったのでしょう…自分でも気付かない間に…。神になれる人間などいないのです。守るべきもののために悪魔になった人間はいますが。(Jack Tlam)
続き 人の悪意がテーマになっているせいか悪意について考えたときに見るとすごく参考になります。今回のセリフの一部ロボットアニメに出てきそうなセリフが多かったような気がします。あとがきの方もです。(アーマイル)
続き 華琳の場合は覇道がどうで民が云々と言っているけど自分の筋を民に押し付けて名声得ようとして民の負荷すら考えてないわがままで雪蓮は獣を殺すには云々とか言ってるけどどう足掻こうが命を奪うことに罪意識がなく業すら背負えてない。上品ぶった賊軍というより神様気取りの愚者だな。(アーマイル)
>>アーマイル様 コメントありがとうございます。もう最低の状態ですよね…雛里はのけ者にこそなっていませんが、彼女の意見は拒絶されてしまっています。確かにもう北郷軍側に来てもらうのが良いのですが、雛里がそれを望んでいないのでまだ無理なのです。そうするのが良いとは、私自身痛いほどよくわかっていますが。(Jack Tlam)
トチ狂い、気狂い、愛憎狂い、順番ずつ見ていくと桃香の愛憎狂いは痛い。さらに全体的に劉備軍自体が痛くなっている。本人平和がどうとか言いつつその中に朱里や雛里をのけ者にする始末、それ以前に雛里が可愛そう過ぎる肝心なところが伝わらずに愛紗に怪我させられる始末、一刀が強引に雛里を引き抜いてもいいんじゃね? って思うぐらいに、(アーマイル)
>>白黒様 コメントありがとうございます。そんな感じはしますよね…外史だからと言えばそれは仕方がないのですが、それでも良くない部分ばかりが目立ちましたよね。それでいて演義みたいに聖人君子みたいな扱いをされているから、猶更叩かれてしまうんだと私は思っています。(Jack Tlam)
桃香と真の愛沙はもともとこんなもんでは?特に桃香は劉備の悪い部分だけえらんでつくったとしか思えんかったが(白黒)
>>flamme様 コメントありがとうございます。私自身、喘ぎながら書いていたくらいなので…。でも、言ってしまえば彼女達のやっていることの本質はそれでしょう。原作で華琳がいみじくも指摘したように、言ってることとやってることの乖離が激しすぎるんです。私もそうさせてあげたいですが、二人がまだそれを望まないでしょう…。(Jack Tlam)
桃香の身勝手な感情爆発は予想していましたが、予想以上の醜悪さに絶句しました。反対意見を暴力と脅迫で排除する愛紗に怒りを通り越して呆れました。こんなのの下で命を散らした兵達と、遺された家族達は本当に報われないですね・・・。鈴々と雛里も哀れでなりません。いっそ愛想つかして一刀達のところへ行ってしまいなさい、とさえ思います。(flamme)
>>ジン様 そうですね…曲がりなりにもあくまで大きな目的のために動いていたシャアと、どこまでも個人感情で動いている桃香ではそもそも違いますけどね。まあでも「貴様のその歪み以下略」ということに。次回投稿は早めにできると思います。今回は信念とか理想とかのぶつかり合いだったので時間がかかりましたが、次回はぶちのめすだけなので。(Jack Tlam)
また登場 あれですね、劉備の歪んだ感情は某赤い彗星の再来さんでも器になることができなさそうですね^^; てか某OOの純粋種さんも理解することを放棄しそうですね。 次回がいつ投稿されるかわかりませんが楽しみに待ってます。(ジン)
>>ataroreo78様 コメントありがとうございます。確かに精神崩壊しそう。ですが、人の悪意とはこの程度では終わらないものです。ましてそれが無自覚な悪意であれば、それは無限に増大するのです。つまり、この程度では終わらないということです。(Jack Tlam)
これほどまでに強く歪んだ負の情念が入り混じった戦場なんて某NTのカ○ーユさんなら精神崩壊するレベルですな。読者視点からでももうやめてえええ!って感じ。(ataroreo78)
>>Kyogo2012様 うわあそんな固有結界いらない。発動したところであっという間に一刀達の結界に侵食されるでしょうけど。しかし…あながち、間違っていると言えないのが恐ろしいところですが。(Jack Tlam)
またの登場です。「この劉備の身体は、一刀への想いで出来ている。血潮も一刀への想い。心も一刀への想い。幾たびの戦場を越えて全敗。ただ一度の完勝も無く、ただ一度の勝利も無し。・・・・」なんか書いてて、固有結界が発動しそうだな?と思った。桃色緩々天国結界発動だな。いやだな。オイっ。そんな結界は要らない。ケケケケケ(Kyogo2012)
>>なるっち様 コメントありがとうございます。そうですね、華琳はまだなんとかなりそうですが…こういう時に意地を張ってしまうのが華琳という子ですので。桃香はこれからどうなるんだろう。結局、徐州に行くことにはなりそうですが、稀代の名君達からの滅多打ちは避けられないでしょう…。才華の采配をお楽しみに。(Jack Tlam)
>>レヴィアタン様 コメントありがとうございます。一刀達の技量を侮ってはいけません…巨大な力を振るいながらも、傷付ける相手を細かく選ぶことくらいできるのです。死人を出すつもりもないですし。鈴々は…ちゃんと救いは用意しますが、それが鈴々にとって本当に救いになるかは…。(Jack Tlam)
なんつうか・・・ここまで言えると逆に清々しいな、もう。鈴々にはせめて救いの手を!このまま巻き添えとか可哀想過ぎる(´;ω;`)・・・他については、このまま関羽、劉備のままならどうでもいいやw 話に関してはこれは一つの外史として見ているのでぜんぜん良いと思いますよ〜。次は何時かなら?楽しみに待ってます!(レヴィアタン)
>>たっつー様 コメントありがとうございます。救いがあると良いのですが…果たしてそれが鈴々にとって救いと言えるものになるかは、救いの有無とイコールではないのです…(Jack Tlam)
>>クラスター・ジャドウ様 清々しいまでの開き直り。そんなだから単なるエ○要員だとか言われてしまうんですよ…。腹黒いというか、無責任なだけだと個人的には思います。蜀√では一刀が居るので改善が見られますが、他だと単なる危険人物にしか見えませんしね。わざわざありがとうございました。(Jack Tlam)
えっと、どういうコメントでしたっけ?<…生憎と、ハッキリ全文覚えている訳ではないですが、桃香のキャラクター性に対する問いに対し、「女の子はみんな、どこかしら腹黒い所があるんです!」みたいに返していたスタッフが居た筈。それを読んだ当初から、「それは擁護どころか煽ってないか?」と思ってましたが、やっぱり逆効果だったと思います。(クラスター・ジャドウ)
>>続き おそらくはまだ先になるかと思います。これでも全部はお見せできていないのですが、そう仰って頂けると大変励みになります。これからもよろしくお願いいたします。(Jack Tlam)
>>禁玉⇒金球様 コメントありがとうございます。野望が悪だと言っているのではなく、それをこの時点で貫くことが正しいのかと問いかけているだけです。実践性があるため、二人の野望それ自体には一人の王として敬意を払ってはいます。桃香は…そう言われても仕方ないですね。彼女が兵に返すものが魚目燕石なものにならないと良いのですが…。(Jack Tlam)
白蓮と雛里と星と鈴々が少しでも関羽と劉備に関して報われて欲しいですがまだまだ先でしょうか、それとも見限るか斬るか。こういった細やかな展開というか見せるところを全部見せる表現が好きです、心よりの応援をば。(禁玉⇒金球)
更新有難うございます。野望=悪じゃない。裏切りました、領民を部下を友人を恩人を同僚をあらゆる方向に敵しかいない、理由が恋慕。挑発に一応でも問答し兵を率いた二人と要求だけで兵を引っ張ってきた二人随分と異なる。最悪は自分こそ善で正義と称し言いがかりと捏造を肯定する姿、どこかの国の政治家か。(禁玉⇒金球)
>>ユウヤ様 コメントありがとうございます。間違いなくあなたではないのでお引き取り願いますね。(Jack Tlam)
>>mokiti1976-2010様 コメントありがとうございます。後悔するかな、どうかな。追い詰められると人間どうなるか。都合の良いことしか考えないですよね。つまりはそういうことになりそうですね。でもまだ序の口だっていうのが自分でも恐ろしい…(Jack Tlam)
>>続き まだ全部は読み切っていませんが、そういう評価もできますね。私は桃香アンチなのではなく、これまで主役だった三国の闇に対してアンチを展開しております。桃香が一番闇が深いと思うので結果的に目立っているだけです…えっと、どういうコメントでしたっけ?(Jack Tlam)
>>クラスター・ジャドウ様 コメントありがとうございます。第二十九話に遡ってそれを注釈書きに追記しておきます。アドバイスありがとうございます。確かにその二言がここまで当て嵌るのもそうそういないですね。(Jack Tlam)
>>2828様 コメントありがとうございます。まあ、そうなりますね。本当に地で行っております。(Jack Tlam)
>>牛乳魔人様 コメントありがとうございます。ARMSですか…確かに思い出しますね。さすがにそんなトチ狂ったことは言いませんが、どうあがいても覆せない絶望的な力の差を思い知っていただこうとおもいます。(Jack Tlam)
始まりと聞いて  一刀「違う始祖だから引っ込んどこうな?」  orz(ユウヤ)
三国志演義を劉備主役の観点から見ると、早い話ヤクザのサクセスストーリーですが、今作の桃香と愛紗はヤクザより酷いですな。桃香アンチ展開の恋姫二次創作は多いですが、やはり元凶と言うべきは、そのキャラ造形に対して開き直りコメントをやらかした製作スタッフでしょう。冗談抜きで、その罪は重いと思ってますよ。(クラスター・ジャドウ)
おいおい、だんだん劉備と関羽のひどさが増してるじゃないですか。特に関羽は記憶が全て戻ってからこれまで自分がやった事を思い返して後悔の念にさいなまれまくってほしい位です。(mokiti1976-2010)
…いやはや、連合軍が荒れまくってますな、特に劉備。「偽善は時として邪悪にも劣る」とか「憧れは理解から尤も程遠い感情」とか言いますが、今作の劉備ほど、この二言が当て嵌まるキャラもそうそう居ないでしょう。そろそろ冒頭の注釈書きか登録タグに、「アンチ展開・残酷描写あり」と追記した方が良さそうな気がします。(クラスター・ジャドウ)
百害(ですまなさそうだが)あって一利なしを地で行ってるのぅ(2828)
なんかARMS思い出した。「力が欲しいか!?力が欲しいのなら・・・・・・くれてやる!!」みたいな。次回は「ヒャッハー!汚物は消毒だー!」の巻ですな、楽しみにしております。(牛乳魔人)
>>nao様 コメントありがとうございます。殺しはしません。殺しは…。ただ、どんなに力を磨いても、どんなに策を巡らしても、絶対に対抗できない、絶望的なまでの力の差を連合側に思い知ってもらうというだけです。(Jack Tlam)
連合側の劣化がひどすぎるw処刑場と化すって武将連中もやってまうのですか?wまぁここまで劣化してると元にも戻れなそうだしな^^;(nao)
>>h995様 コメントありがとうございます。そうですね。それはこれから考えていくことになると思いますが…得られる結論は、最悪のものになってしまうかもしれません。(Jack Tlam)
一刀と朱里は一度、桃香が何故そこまで空っぽなのかをじっくりと考えてみるべきでしょう。そこで得た結論次第では、出足で取り返しのつかないミスをしてしまった事になりそうですが……(h995)
>>asayake様 コメントありがとうございます。気になる終わり方ができているのであれば、本当に嬉しい事です。続きをお楽しみに。(Jack Tlam)
選択者分を補給できてもまた気になる終わりで続きが待ち遠しすぎて養分摂取が過多に・・・。あ、続き楽しみにしてます。(asayake)
>>孔明様 コメントありがとうございます。私の個性が全開となり、『恋姫』の世界観がどんどん変容してしまっています…ですが、それは一刀達の決して折れない意志の力に半分は起因しているのです。…どことなく、冨野御大の影響を受けまくっていることは否定しませんが。(Jack Tlam)
次回、処刑場…! Jack先生(勝手に略してゴメンナサイ)流の『恋姫』は、いつもその世界観に魅せられます!(孔明)
>>続き 本当ならそれが良いのでしょうが、ここでそれをやってしまうとどんな綻びが出るか…桃香が命を落とすにしても、彼女が蜀の地に移ってからにしないと、何が起きるかわかりません。本当はその方が良いとは、私自身重々承知しているのですが。(Jack Tlam)
>>Kyogo2012様 コメントありがとうございます。思い通りにいかなければ他人のせい、自分達の理想に責任を持とうとしない身勝手さを一刀達は怒っています。言っていること自体はそれほど間違ってはいないので。犠牲を出すにも、出し方というものがあるでしょう…。そしてKyogo様。こんなのまだ序の口なんですよ?(Jack Tlam)
張飛・超雲など、自分達の仲間に対しても、こんなことが出来る関羽は、ここで、殺してしまったほうが言いかと。後々、ややこしくなくなるかと。あと、劉備も殺してしまったほうがいい。理想ばかりを追いかけて、他人の害にしかならないような軍はとっとと潰されろと思うよ。ケケケケケ(Kyogo2012)
ふむ。ま、たしかに、他の諸侯を恐喝し、あまつさえ、うまくいかなければ、諸侯のせいだと言い張る劉備軍。まっさきに潰されるか、もしくは、処刑かですね。しかし、ひどいな。これはひどすぎるわ。ここまでだったとは・・・・。(Kyogo2012)
>>殴って退場様 コメントありがとうございます。ほぼ休載状態になってたw 雪蓮は上からの命令でどうしようもなかったわけですが、後の二人は私利私欲剥き出し。さあどうなるでしょうか。へんてこなこと言ってさらなる怒りを買いそうですね、華琳は…(Jack Tlam)
再開待っていました。皆の前で私利私欲剥き出しになってしまった桃香 、これでほぼ詰みとなってしまったか。あと問題はこちらも私利私欲剥き出しの華琳をどう裁くか見物です。(殴って退場)
>>ジン様 コメントありがとうございます。半ばそれでしたが、少なくとも「白虎」に当たる「何か」はまだ目覚めていません。何が目覚めたのか。応援ありがとうございます。次こそはそんなに間を空けず更新したいと思います。(Jack Tlam)
>>MASADA様 コメントありがとうございます。一つ申し上げていただくならば、彼女とて感情的にはその犠牲を納得してはいません。戦いで犠牲が出るのはどうしようもないというだけです。でもまあ、駄目ですね。本当に色々なところが駄目。無印の愛紗であればそんなことはしないと思いますが、ここの愛紗は…(Jack Tlam)
最強白虎と無敵青龍が覚醒しましたね^^ 次回の更新楽しみにしているので頑張って下さい応援します。(ジン)
劉備は完全に兵士たちも元は民だってことを忘れていますね。しかも兵士が死ぬのは仕方がないとか...それよりひどいのは関羽かと。人が何か反論しようとすると威圧して黙らせるって、それ、武将というよりヤクザですよ...三姉妹のうち、唯一の良心は末妹だけとか...しかも姉二人は聞こうともしない。連合の崩壊は、劉備の身近から起きていますね...(MASADA)
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