逆襲の魔女〜悪魔ほむら対ワルプルギスの夜〜 |
「はいっ中沢っ君っ!」
「えっと……どっちでも、いいんじゃないかと……」
見滝原中学のとあるクラスの朝の恒例の光景。
「それでは、転校生を紹介します」
「なんかこのクラスって妙に転校生多くね?」
そう呟いたのは、長く赤い髪をポニーテールに結んだ気の強そうな少女だった。
「卯月さん、どうぞ?」
担任教師である早乙女和子の呼びかけに応えるように、背筋をぴん、と伸ばしてきびきびとした動作で教室に入ってきたのは、髪をショートにした綺麗な少女であった。その姿に、クラス中がどよめく。
「卯月、真夜です」
彼女の快活な表情や態度とは裏腹な印象の名前だが、不思議とその少女には似合っている。
彼女は、ぐるり、とクラス中を見渡して、深ぶかと頭を下げる。だが、彼女がクラスメイトたちの顔を見渡した時、そのうち四人の顔で、真夜が一瞬だけ目を止めていたことに気付いたのは、その当の四人だけであった。すなわち。
ポニーテールの少女、佐倉杏子。
左右で長さの少し違うショートカットの少女、美樹さやか。
明るい色の髪を短めのツインテールに結んだ小柄な少女、鹿目まどか。
そして、気だるげに頬杖をつき、表面的には転校生に対し無関心に見える長い黒髪を真っ直ぐに伸ばした少女、暁美ほむらである。
休み時間。転校生の周りにクラスメイトたちが集まって質問攻めにするよくみる光景。真夜は、涼しげに、かつ気さくな態度でクラスメイトたちの質問に答えてゆく。
「うん、ずっといろんなとこ回ってきたんだ。日本だけじゃなくてね、ほかの国とかも」
「へぇー、インターナショナルなんだー」
まどか、さやか、杏子、そしてほむらの四人は、そんな真夜のことをそれぞれに意識しながら遠巻きに眺めていた。
「美樹さん、佐倉さん、左右はお願い! 私は正面を!」
「わかりました、マミさん!」
「オッケイ!」
魔法少女たちにとって日常と言える夜毎の魔獣退治。
だが、この夜は普段とはいささか様子が違っているようだった。
無数に地面から湧き出してくる魔獣の群れ。それをさやかは両手に持った双剣で、杏子は槍で、そしてマミは次々と生成されるマスケット銃で薙ぎ払ってゆく。
「今夜はちっとばかし魔獣が多く出てきやがるぜ! どうなってやがんだ、マミ!」
「判らないわ、けれども、私たちのすべきことはひとつ、でしょう!」
「そういうことよ、杏子!」
「ちぇっ、しょうがねえ!」
だが、一体一体は彼女たちの敵ではないとはいえ、今夜の魔獣たちは想像以上の物量で現れてくる。
「杏子!」
「やべぇっ!」
戦闘スタイルからどうしても突出しがちになる杏子が魔獣の群れの中に孤立する。どれだけ槍を振るっても埒が明かない状態に陥ってしまった。
そのときだった。
「あら、私だけ仲間はずれなの?」
くすくす、という笑いとともに放たれた無数の光の矢が、杏子の周りを囲んだものだけでなく、新たに湧出した魔獣どもをも針鼠のようにしてゆく。
「暁美ほむら……」
さやかが、その矢を放った魔法少女の姿をしたモノを睨む。
「あらこわい。折角助けてあげたというのに。そんな顔をしていては、あの子にも嫌われてしまうわよ?」
「大きなお世話よ!」
「美樹さん、何をそんなに怒っているの?」
「さやか、お前あいつにはどうしてそんなにつっかかるんだ?」
さやかの様子にマミと杏子もいぶかしげな顔をする。
マミも杏子も、彼女、暁美ほむらのことはあまり印象に強く残っていない。可憐な容姿とそれに似つかわしくない妖しい表情、そして強大とすら言っていい力を持った魔法少女に対して、これほど印象に残っていないこと自体が不自然だと言っていいのだが、そのことにすら二人は気付いていない。
ただ一人、さやかだけが、自分ですら分明でない理由により、異常なまでにほむらを敵視しているのだ。それは、むしろ理由が判らないからこそ一層敵意がかきたてられているのかも知れない。
「悪魔……暁美ほむら、あいつが悪魔だって知ってるのはあたしだけ……でも、どうしてあたしはそれを知ってるの?」
孤独と焦燥の中で、さやかはそう誰にも聞こえない声で呟いた。
「美樹さやかさん、ちょっといいかしら?」
「真夜さん?」
翌日の下校途中、不意に声をかけてきた卯月真夜に振り返るさやか。真夜は、その彼女に片手をかざしてみせる。
「あんた……魔法少女?」
そう、真夜のかざした手にあったのは、さやかにとっては見慣れたソウルジェムの指輪と、爪の印形。
「美樹さやか」
真夜は、さやかの目の前でぱん、と手を叩く。
さやかは、その音にハッとした様子で真夜を見返す。
「あ……あんたは」
「そうよ。ワルプルギスの夜。そう呼ばれていた存在よ、美樹さやか、いいえ……人魚の魔女」
「……思い、出したわ、全部」
「どうする? 百江なぎさ……お菓子の魔女も記憶を奪われているんでしょう?」
「そうだね……でも、できれば、あの子はもう巻き込みたくないわ」
「……そうね。あの子はまだ小さいし、人間として生きられるのなら、それも良いかもしれない」
真夜は、同意するように頷いた。
「でも、あんたが来るなんて……一体、円環の理に何が起きているっての?」
「愚問ね、暁美ほむら、あいつから円環の理……鹿目まどかを取り返す、それ以外に私の目的なんてないわ」
「……出来るの、そんなことが?」
「私を誰だと思っているの?」
「……そりゃあね、あんたは最強の魔女だったし、魔法少女としてだってすごく強い。絶好調のマミさんだってひょっとしたら敵わないかもしれないくらい。だけど、あいつは……あの暁美ほむらは……」
「悪魔、だっていうんでしょう? 笑ってしまうわね、あの私の周りを小蠅みたいに飛びまわっていたあいつが、悪魔だなんて」
「……今のあいつを、あんたが知ってるあいつだと思わない方がいいわ」
「もちろん、円環の力を奪ったあいつの力は侮れない。だけど、そんなの所詮あいつ自身の力じゃないわ」
「……そう、かな」
すべてを思い出したさやかは知っている。あのとき、円環の理であるまどかの両手を掴み、宇宙すべての法則をすらひっくり返すかのように円環の理に〈叛逆〉した彼女。
あんなこと、きっとこの全宇宙の誰にだって出来やしない。一体、どれほどの想いがあの事態を引き起こしてしまったのか。自分は、ほむらの想いを理解していたと思っていた。それが、とんでもない間違いだったと思い知らされたのがあの瞬間だった。
いや、自分だけじゃない。マミさんも、杏子も、なぎさも、そして、まどかですら、ほむらの想いをこれっぽっちも理解できていなかったのだ。あいつの想いの表面を撫でただけで、わかったつもりになっていただけだったのだ。記憶を取り戻した今にして、ようやくそれが判る。
「あたしたちのしなきゃいけなかったのは、あいつのことを、本当に判ってやることだけだったのかも知れないのに……」
真夜が立ち去った後、さやかの口からこぼれたのは、そんな言葉だった。
「えっと、鹿目まどかさん?」
まどかがその声に振り向くと、そこには、転校生の卯月真夜が立っていた。
「えっと、卯月……さん?」
「真夜でいいわ。ね、貴女も最近転校してきたんですって? よければ、転校生同士仲良くしてくれないかしら?」
そう言って真夜は右手を差し出す。
「え、っと、その、私で、よければ」
まどかも、それに応えるように、だが引っ込み思案気味な彼女らしく、少しおそるおそるその右手を握る。
「それじゃ、よろしくね。まどかさんって呼んでいいかしら?」
「あ、うん。いいよ、真夜……さん」
「まどかから離れなさい」
鞭のような声。
「ほむら……ちゃん?」
「暁美ほむら……」
「貴女……何者?」
「わからない? あんなに何度もたたきのめしてやったってのに、もう忘れたのかしら?」
真夜はそう言ってにいっと嗤う。その釣り上った口の端が、ほむらの脳裏に忘れがたいあの嗤い声を想起させる。
「まさか……ワルプルギスの夜?」
「そう呼ばれていたことも、あったわね」
「ほむらちゃん、真夜さん、一体なんの話をしてるの?」
まどかが二人の会話についていけずおろおろしている。
「今日のところは、挨拶だけにしておくわ、それじゃあね」
そう言ってほむらの横をすり抜けるように歩み去ろうとする真夜だったが、すれ違い際に、ほむらの耳元で、彼女にだけ聞こえる程度にこう囁いて言った。
「暁美ほむら、私は、貴女を許さない。鹿目まどかは、私を、私たちを救ってくれた大事な人だ。それを引き裂き、穢し、貶め、奪い取った貴女を倒し、必ず、円環の理を取り戻して見せる」
「そう? できるものならば、やってみるといいわ。もちろん、私がそれを許すと思うならば大間違いだけれど」
真夜の挑発を受け流すようにほむらはそう返す。
「ほむらちゃん……」
「何の用かしら、まどか」
「真夜ちゃんと、何があったの? 彼女と知り合いみたいな感じだったけど……」
「貴女には、関わりのないことよ」
「ううん、そうは思えないよ。真夜ちゃんも、それにほむらちゃんだって、わたしの大事な友達だもん」
「友達……ね」
その言葉にほむらがひどく傷ついたような顔をしたことに、まどかは、自分の中のなにかがざわめき出すのを感じる。
そう、自分が知らないうちに、知らないことで、そのために大事な誰かのことを深く、ふかく傷つけてしまったような気分を。
「行きますよ!」
さやかの仲介でマミたちと引きあわされ、その夜の魔獣退治へと真夜もまた参戦することとなった。魔法少女の姿となった真夜は、長いドレスの裾をはためかせて、まるでダンスを踊るようにくるくると回る。傍目からも、彼女の周囲にすさまじいまでの魔力が渦を巻いているのが見て取れる。
「すごいわね、彼女」
マミが感嘆の声を洩らす。
彼女の武器は、二本のやや短めだが幅広の曲刀。それを回転の動きを生かして舞うように縦横に操ることで、集団戦においても、強力な単体の敵にも対応することが出来る。一見、さやかの戦い方に似ているようだが、受ける印象はかなり違う。
「やるじゃねーか、あたしらも負けてらんねーな、さやか」
「う、うん。そうだね、杏子」
「どうした? なんか気になることでもあんのか?」
「いや、大丈夫よ、杏子」
「ならいーんだけど……」
「今日は来ないのかな、あいつ……」
さやかがそう呟いた声は、誰の耳にも届かなかった。
魔獣たちを一掃し、それぞれに解散してゆく中、真夜だけがその場所に残っていた。
5
「そろそろ出てきたらどうかしら、自称悪魔さん?」
4
「あら、気付いていたのね」
3
言うまでも無く、そこに現れたのは制服姿の暁美ほむらであった。嘲るようなせせら笑いを口の端に浮かべ、真夜を見据えている。
2
「あんまり待たせるのも何だしね、今、この場で決着をつけてやろうか」
1
真夜の背後に幕があがり、一瞬で炎の中に燃え尽きる。
そこに、真夜の背後に現れた姿こそ、最強最悪の魔女と謳われた〈ワルプルギスの夜〉に他ならなかった。かつてのほむらのソウルジェムの中の結界の中の戦いにおける美樹さやかと人魚の魔女のように、真夜もまた、魔法少女の自分と魔女の自分とを同時に現出させることが出来たのだった。
「とうとう本性を現したわね。ふふっ、それじゃ、私はこちらの方を相手しようかしら。あなたたちは、真夜の相手をなさい」
ほむらは、偽街の子供たちにそう指示を出すと、白とすみれ色を基調とした魔法少女の姿へと変身する。その左手に光が集まったとみるや、黒い弓へと結晶した。
「ずいぶんと舐められたものね。一度として私に勝てたことのない貴女が!」
そう叫ぶや、真夜は偽街の子供たちとの戦いに突入してゆく。
「こいつら、普通の使い魔とは違う?」
刃を合わせた瞬間、そこから伝わってくるものに真夜は警戒を強める。こいつらは、まさに魔法少女に匹敵するだけの力を秘めている。
そもそも、一体一体が固有の容姿を持った使い魔など真夜はほとんど見たことがない。魔女の使い魔たちは、基本的に、同じ容姿のものは互いに区別をつけるのが難しいほど似通っているか、違う容姿のものはまったく違う役割のために生み出され、それこそ人と犬、鳥と熊ほども違う姿をしているものだ。同じ人間型でありながら、さながら固有の人格の差と思えるような違いを持っている十四体の使い魔たち。いや、こいつらは本当に使い魔なのか? そんな疑惑すら真夜の脳裏に浮かぶが、人形たちの統制のとれた猛攻は、真夜の力をもってしても気を抜くことを許さないほどの脅威であった。
「……っ、こいつら……」
どこか不気味な、しかし奇妙な愛嬌を感じさせる人形たちの無表情な笑みに囲まれながら、真夜は冷静に攻撃をさばいている。しかし、一瞬の隙を見つけてはそれを逃すことなく人形たちを打ちすえ、叩き飛ばすが、こいつらはダメージを感じさせないタフさを持っており、無機的な、どこか操られているような動きで幾度となく起き上がり、立ち向かってくる。
「ちょーっと、侮ってたかしら……?」
真夜の額に一筋の汗が伝う。
ほむらは、逆しまになってくるくると回る巨大な人形、巨大な魔女、ワルプルギスの夜の周囲を跳躍し、弓を射る。
だが、その光の矢は空しく巨大な人形に吸い込まれてゆき、何の痛痒も与えたようには見えない。逆に、ワルプルギスの夜からは、無数の使い魔たちや本体からの衝撃波、火炎などが絶え間なくほむらを襲う。射るために大きなモーションの必要な弓から武器を銃器に持ち替えて、自動小銃やアサルトライフルの掃射で使い魔たちを掃討するほむらだが、本体よりの全方位攻撃に思うように近寄ることができない。だが、その攻撃も彼女の顔からせせら笑いを引き剥がすことは出来なかった。
「そろそろかしら」
ほむらの呟きに導かれるように、ワルプルギスの夜の体内より、紫色の光が発せられ、その右肩、左わき腹のあたりが内側よりはじけ飛ぶ。
「何ですって!?」
偽街の子供たちと戦っていた真夜が驚愕の声を上げる。
「私の魔力の矢を貴女の体内で炸裂させたのに決まっているじゃない」
理屈は真夜にも容易に理解できる。だが、今までそんなことを、それほどのダメージを与えた者は今までいなかった。そう、いなかった……はずだった。
何かの記憶が真夜の脳裏にかすかにフラッシュバックするが、人形たちの攻撃がそれをじっくり反芻することを真夜に許さない。
「さあ、そろそろおしまいにしましょう」
ほむらはそう言うや、それまでの魔法少女の姿から、大胆に胸元や腰を露出させた黒いドレスをまとった〈悪魔〉の姿へと変わってゆく。
ほむらは、再び弓を構えるや、ワルプルギスの夜に向けて、凄まじい魔力を凝縮させた矢を放つ。
「あ……あ」
真夜が驚愕に目を見開くその前で、ワルプルギスの夜は、跡形もなくこの世界より消滅させられていたのだった。
真夜の身体を十四の衝撃が打ちすえたのは、言うまでも無くその一瞬の先のことだった。
「ええ、貴女はとてもよくやったと思うわよ? さすがは、魔法少女の頃の私がどうしても勝てなかっただけのことはあるわ。でもね……」
ほむらは、倒れた真夜の上にかがみこみ、その顔を両手で愛撫するように挟み、彼女の目を覗き込むように見据える。
「思い出すといいわ。貴女が、どんな風にして何度も何度も繰り返しまどかを殺したのかを」
その言葉を聞いた瞬間、真夜の目が大きく見開かれる。
「あァあああアあぁあーッ!」
「貴女は、私のことを許さないなんて言ってくれたけど、私の方こそ、貴女のことを許す気はないの。だって、あんなにも、何度も、何度も、何度もまどかを傷つけ、殺してきた貴女を許すなんて、神であるまどか本人ならいざ知らず、悪魔である私が出来るわけがないでしょう?」
ほむらによって、彼女が経験してきた繰り返しの中においてどのようにワルプルギスの夜がまどかを傷つけてきたか、殺してきたか、あるいは斃されてきたのかの記憶が真夜の脳髄に流れ込んでくる。
「やめて……やめてェえええッ!」
「ゆっくりと味わいつくすことね。貴女が、貴女の最も崇拝する女神を貴女自身の手で殺し続けてきた記憶を」
「あ……がぁアああ……」
「ワルプルギスの夜……貴女さえいなければ、まどかは死なずに済んだ。貴女さえいなければ、私はまどかを失わずに済んだ。貴女さえいなければ、私は魔法少女にならず、ひいては悪魔になることさえなかった」
「そこまでよ、ほむら」
「美樹さやか……ずいぶん遅いご登場ね」
ほむらの背後に立った魔法少女姿の美樹さやかは、どこか沈痛な表情を浮かべていた。
「今度はあなたが相手になろうっていうのかしら?」
倒れた真夜を見下ろすようにほむらは立ち上がる。
「……いいや、あたしは、見とどけに来たんだ」
「私が斃されるところを期待していたのかしら?」
さやかは、その言葉に黙ってかぶりをふる。
「あんたにさ、見せたいものがあるんだよ、ほむら」
「……?」
ほむらは、さやかの様子に違和感を覚える。そう、これまでの彼女から感じていた敵意がぬぐったように消えていたことに。
「あたしは……あんたのことは大嫌いだよ、ほむら。スカしてて、なんでも知ってますって顔してて、言ってることは嘘ばっかり。でも……でも、憎くはないの」
「美樹さやか?」
「だってそうでしょう? あんな……あんなに傷ついて、苦しんで、それも、ぜんぶまどかだけのために」
「……」
「以前はわからなかった。でも、今は知ってるもの。あんたが、どうしてそんな嘘ばっかり言うのか。どんな想いで嘘ついてるのか」
「何が……言いたいの?」
思いがけないさやかの言葉に、自分でも意外なほどにほむらは動揺していた。
「みんな……あたしたちのせいだったんだ。あんたに全部押しつけて、判ってやろうともしなかった、あたしたちの」
「……っ、いまさら、そんなことを」
「そうだね、今さらだ。もうそんなことを言ったって取り返しなんか付かない。あんたも、あたしも。そして、真夜も」
「助けに来たんじゃないの、彼女を?」
「残念だけど、真夜はもうソウルジェムが濁りきってる。グリーフシードも無い今、あの子を助けることは出来ない。このまま、導かれるのを待つだけよ」
さやかは、痛ましげにうつむいて言った。
「円環の……理に?」
「そうだよ、ほむら。あんたが引き裂いた、円環の理。まどかの人間としての記録を喪った、円環の理」
「まどかを……喪った?」
「そうだよ、ほむら。あんたは人間としてのまどかを円環から奪い取ったけれどさ、まどかを奪われた円環がどうなるかまでは考えたの?」
「何が言いたいの、美樹さやか」
「もうすぐ、わかるよ」
そうさやかが言う間もなく、真夜のソウルジェムは濁りを限界まで溜めこんでゆく。
それは、本来ならばやがて魔女となるはずだった。
だが、この世界にはその前に魔法少女たちを導く、円環の理が存在する……はずだった。果たして、天空、彼女たちの真上より光が差す。
だが、それは無機的で、冷たく……。
光の中より、翼と長い髪、大きく広がるドレスをまとった少女のかたちをしたモノが降りてくる。
しかし、その顔を見ることはかなわなかった。その顔は、まるでモザイクがかかったように隠されていて。
「まどか……? ううん、違う? 顔が……無い。あれじゃ、まるで……」
「まるで、何に見える?」
「まるで……そう、まるで、魔獣じゃない!」
暁美ほむらの声は、さながら悲鳴のようだった。
続く?
説明 | ||
叛逆の物語のその後、円環の理よりまどかを取り戻すための刺客として悪魔ほむらちゃんのもとにワルプルギスの夜がやってきたら……という構想をしばらく前に思いついたので書いてしまいました。構想としてはあくまでここまでです。続きは……もし思いついたらで(ぉ | ||
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