#ダメだこの悪魔はやく何とかしてあげないと〜あくまぱんつ狂想曲 |
暁美ほむらの朝は、軽くシャワーを浴びることから始まる。
寝汗を流し、さっぱりと気分よく脱衣場からバスタオル一枚を巻いた姿で出てくると、清潔な新しい下着を身につけ始める。が、今日はふと、自分の手にした一枚の白い布を見て、しばし考え込む。
昨日のことだ。鹿目まどか、巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子の四人が並んで歩いているとき、偶々突風に煽られて、四人のスカートが大きくめくりあがるのを目撃してしまったのだ。
こういうことに無頓着そうな佐倉杏子はともかく、他の三人の身に付けたそれぞれの下着の三者三様のバリエーションの豊富さに、ほむらは率直に驚いてしまった。巴マミの中学生とは思えないやたら大人っぽい下着はもちろん、美樹さやかのスポーティでありながらもファッション性にも欠けていない下着、果ては鹿目まどかの愛らしさを基調にしつつも子供っぽさは感じない、あくまで少女らしいデザインの下着。
そのときはあくまでそのときの驚きだったが(まどかの下着が目に残ってその後動悸がしばらく治まらなかったのはともかく)、今こうして自分の下着を手に取ってみると、あの三人と引き比べてなんという差だろうと思わずにいられなかった。
ハッキリ言ってしまおう。こどもぱんつである。
ほむらにとって下着とは、実用品の域を出るものではなかった。それは、無論知識として下着にファッション性を求めたり、その……性的、な関心を寄せるようなことも知ってはいた。
過去のループにおいて、そういうことに自分よりも更に無知だった佐倉杏子に、思わずその直前に仕入れた新たな知識を披露するつもりで「そこに価値があるのよ」なんてドヤ顔で言ってしまったことなどもあるが。あのときのことは、今思い出しても顔が赤くなる、言うなれば黒歴史、というヤツに相当する。
閑話休題。
ともかく、彼女、暁美ほむらにとって、自分の身につける下着は、穿き心地、清潔感、丈夫さだけが選択の要素であり、そこにファッション性などというものを加え入れる余地など全くなかった。が、無理もあるまい。まだ人間だった頃、世間並のお洒落などには縁がなかった退院直後は言うに及ばず、その後魔法少女になってからも、彼女にとってはまどかを救う戦いだけが最優先事項であり、下着に実用性以外を求めるなどということは論外であった。そもそも、戦闘時に身に付けた下着のことに少しでも意識が取られるなどということは、即、自らを危険に陥れるという意味しか無いのだ。
そんな発想しかある意味許されないような状況が、彼女の主観において何年分も積み重なれば、それは彼女にとって疑いをさしはさむ余地もない常識となってしまうのは当然だろう。
つまり、まどかが概念化してこの世から消えてしまった後の残された日々も、あのまどかを取り戻し、自らを〈悪魔〉と称した〈叛逆〉の後でさえ、彼女にとって下着とはただただ実用品に過ぎないものであり続けていたのだ。
だが、その常識を揺さぶられてしまったのがあのまどか達三人の下着をアクシデントで目撃してしまったあの瞬間であったのだ。これが、もっと年上の誰か、あるいは、同年代であってもまったく自分と縁のない赤の他人のものであったならこうはならなかっただろう。あくまで〈そういう知識〉の範疇の中の出来事としてすぐに忘れてしまっただろう。
だが、元々お姉さん的な立ち位置だった巴マミはともかく、あまりフェミニンな要素とは無縁だと思っていた(あくまでほむらの主観では)美樹さやかに、自分にとっては庇護対象であり、その幼い容姿からもそういったこととは更に無縁だと思い込んでいた鹿目まどかまでが、自分には思いもよらなかったような洒落っ気のある下着を着けていたという事実が、ほむらにとって自分でも意外なほどに動揺を誘ってしまっていたのであった。
とはいうものの、なにしろ彼女はこういったもの以外の下着というものを全く一切これっぽっちも持っていない。暁美ほむらは、ひとつのささやかな決意を抱き、その日はそのいつもの下着を身につけて登校したのだった。
暁美ほむらの決意。
それは、大方の予想通りであろう、新しいお洒落な下着を購入しよう、という決意に他ならなかった。
放課後、意を決し、学校で女生徒達の噂話にさりげなく耳をそばだてたり、こっそりスマホで検索して下調べしたりして、ここなら、と目星をつけていたランジェリーショップに、周囲の目、とくに同じ見滝原中学の生徒たちの目を気にしながら突入を図った。〈悪魔〉を自称した自分が一体なにをやっているのか、と思わないでもなかったが、その日、学校で過ごした時間を思い出し自分を奮い立たせる。
あの、恐らく独りよがりな思いこみなどではなく、自分以外のすべての女子生徒たちがすべて、少なくとも自分よりはかわいく、大人っぽく、お洒落な下着を身につけているに違いない、という気持ちが、彼女にとってどれほどの針のむしろだったのか言うも愚かであろう。
とくに美樹さやかだ。過去のあのとき、佐倉杏子との戦いに割って入ったときも、あのとき、まどかにソウルジェムを投げ捨てられ、必死でそれを取り戻したときも、結界の中での巴マミとの戦いの後、彼女に救出され、一触即発となったときも。自分が〈悪魔〉となり、自分に対し怒りをあらわにするさやかに挑発的な言葉をなげかけたときも。
それらすべての美樹さやかとの対立的であることが多かったやりとりにおいて、もしかしたら、いいや、恐らく全ての時において美樹さやかは自分よりお洒落で大人っぽい下着を着けていたのだ。そう思っただけで、暁美ほむらは謎の敗北感、謎の屈辱感に襲われずにはいられなかったのだった。
なんだこれは。
それが、店内に一歩足を踏み入れた暁美ほむらの率直な感想であった。
これが……ぜんぶ下着だというのか。それまで白い木綿のこどもぱんつしか穿いたことのなかった彼女にとって、それはまさに異次元の光景に他ならなかった。
それ以後のことで覚えているのは、親切そうな女性店員に曖昧に返事をしながら、ともかくもこれまでの自分から一歩か二歩くらいは踏み出せたかな、と思う程度にかわいらしい下着を選び、店外へとおぼつかない足取りで出たところまでだった。
尤も、ここで〈大人っぽい〉下着を選べなかったのが彼女の限界なのであるが、ここでそれを指摘するのは酷であろう。
翌朝。彼女にとって重大な決意の日。
これまでのこどもぱんつを脱し、ちょっとだけ大人な自分への一歩を踏み出そうという決意の日である。
ああ、自分はこんなこどもぱんつを穿いて自分を〈悪魔〉だなんて自称していたのか。なにしろ、あの大胆に胸元や腰を露出させた〈悪魔〉の姿のときでさえ、ぱんつは普段通りのこどもぱんつのままだったのだ。今思い出すだけで顔から火が出そうな思いだ。あのとき不敵にインキュベーターに「愛」だと言い放ったり妖しい笑みを浮かべつつ顔をうりゅうりゅしたあのときもこどもぱんつ。なんてこと。だけど、そんな日々ももう過去のもの!
まだまだ巴マミみたいな大人っぽいのまでは勇気が出なかったけど、きっとこれなら美樹さやかと同じ土俵にくらいは立てるはず。ゆくゆくは、がんばってあの悪魔スタイルでも恥ずかしくないようなおとなぱんつを……いや誰かに見せるわけじゃないんだけど!
そう思いつつ買ってきた下着を広げてみる。
瞬間。ほむらに電流走る。
なにこれ小さい。
これ……本当に自分の穿けるサイズなの?
そう思ってタグを確認するが、ちゃんと記載自体は自分のサイズに合っているようだ。店員さんにもちゃんと聞いて買ったのだし間違いはないはずだ。
ともかく、おそるおそる身体に巻いたバスタオルを取り、新しいぱんつを穿いてみる。意外と伸びることに新鮮な驚きを感じつつ。たしかにサイズは合っているようだった。だが。
何というか、一言で言うなら、心もとないのだ。布地が自分のお尻を包んでいる面積が小さいのだ。もっと、しっかりとお尻をガードしてくれないと不安で仕方ないのだ。確かに、この上にストッキングを穿いて二重にガードするとはいえ、これまでのぱんつではちゃんとガードされていたはずの部分の途中までしか布地に覆われておらず、これまで覆われていた部分の途中にゴムで締め付けられる感触がある、という事実が彼女にとって落ち着かなさを倍加させている。
なんてことなの。みんな、こんな感覚で平気なの?
巴マミなんか、これよりもっと心もとなさそうなぱんつなのに。美樹さやかなんか、あんなに動き回るのに。まどかでさえこれまでの自分のものよりもっと小さいものを着けていた。だが、せめて美樹さやかにだけは負けたくないという気持ちで自分を奮い立たせ、暁美ほむらはブラを……そこで第二の衝撃。
合って……ない。いや、ブラそのものは今まで通りのものだ。だが、ぱんつ同様カップなどない子供ブラである。つまり上と下が合っていないのである。これまでそれに気付かなかった不覚にかるく絶望しかけるも、どうにか自分を持ち直す。今日は体育がないのがせめてもの救いであっただろう。もし体育があったなら……そしてこの上下合っていない下着を美樹さやかやまどかに見られたらと思うと気が遠くなる思いだった。今日の帰りはブラの方も買って帰らねば……と思うほむらであった。
……落ち着かない。すこぶる落ち着かない。歩いているだけでストッキングの下のぱんつがずり落ちそうな不安が絶え間なく暁美ほむらを襲っている。みんな平気なの? それとも不安なのは私の錯覚で本当はずり落ちたりしないのかしら? そうならいいのだけれど……と少し不安を落ち着かせる。だが。
「やっだー下着ずれちゃったー」
「あはは、ばっかでー、あ、あたしもだ」
自分の横を走りぬけて行った二人の女生徒がそんなことを言いながら、スカートの上から腰のあたりを整えるのを目撃してしまったのだ。
やっぱりずれるんじゃない!
暁美ほむらの額に脂汗が浮き出てくる。やばい。さっきより足取りが重くなる。
一歩歩くごとにコンマ数ミリずつぱんつがずれ落ちているんじゃないかという不安。
「あ、ほむらちゃん」
「ひゃいっ!?」
背後から聞こえてきた自分の名に、思わず昔、眼鏡をかけていたころくらいにしか上げたことがないような上ずった声をあげてしまう。言うまでもないだろう。それは、美樹さやか、佐倉杏子とともに登校してきた鹿目まどかの声であった。よりによって普段あんまり遭わないのにどうして今日に限って出くわすの! ほむらの額や首筋をはっきり判るほどに汗が流れる。
「お、おはよう、まどか。今日ははやいのね」
ぎぎぎ、ときしむように振り返ったほむらは、不自然な笑顔でそう言った。
「あれ? ほむらちゃん、なんか変じゃない?」
「おかしいな」
「おかしいわね……なんか人に言えないことでもしてるんじゃないの?」
三人とも、とくに自分に普段から敵意を抱いている美樹さやかにあっけなく自分の動揺を見抜かれてしまったことに、さらに動揺を強くする。
「な、なななにを言ってるのかしらぁ?」
そうは言うものの妙に高い声といい自分でも言い繕えていないのは判っているだけにさらなるドツボにはまってゆくほむら。
「うーん、でもまあ……悪だくみしてる風じゃないみたいだけどねえ」
不審げながらも警戒心は多少緩めてくれたようで少しホッとするが、そんな自分が少しだけ腹立たしい。
「……」
「ど、どうしたの、まどか?」
気付くと、まどかがじーっと自分の顔を見上げている。どことなく頬を上気させて、ぽーっとした顔で。
「あ、うん、ナンデモナイヨほむらちゃん(なんかさっきの声かわいかったなウェヒヒ)」
「……なにか言ったかしら?」
「な、なんでもないってばぁ、い、行こ、さやかちゃん、杏子ちゃん」
そう言って、まどかは二人を連れて走り出していった。
「何だったのかしら……」
走ってゆくまどかの耳が赤く染まっている気がしたが今のほむらにはぱんつの方が気になっていたのだった。
「慣れないことはするものではないわね……」
その日の暁美ほむらを一言で言うならば、まさに昼休みになったとき彼女がふと呟いたこの一言に集約されるだろう。
そんな彼女だが、男子生徒たちの視線が妙に自分の方に集まっていることには気付いていた。
「一体何なのかしら……私の方なんて見ても仕方ないでしょうに。ぱんつを見られたりした覚えもないし、それに巴マミみたいなのならともかく、そ、そこまで大胆なものってわけでもないし……」
彼女は気付いていなかった。
普段何事にも無関心そうで、気だるげで他人を寄せ付けない風を装っている彼女が、今日に限って、どことなくそわそわしているようで、目がうるんでいるようで、お尻のあたりを気にして落ちつかなげで、そんないつもと違った雰囲気が、妙に周囲の男心をざわめかせていることに。
なにしろ、当人の自覚はないとはいえ元々ひときわ目を引く美少女である。そんな彼女が頬を赤らめてため息をついてみたり、もじもじとうつむいて目線を泳がせたりしている様は、あの暁美ほむらがなんだか可愛いぞ、とクラスを超えて複数のクラスにすらまたがるほどの噂になるのには、その日の昼休みまで待てば十分すぎるほどだった。
尤も、その原因がまさか慣れない一枚のぱんつによるものだということまでは、預かり知る者などいるはずもなかったが。
そして、男子生徒以外にも、そんな暁美ほむらに熱い視線を送るひとりの少女の姿があった。
言うまでも無く、鹿目まどかである。
「ほむらちゃん、なんだか今日は様子がおかしいな」
ほむらには、米国から帰国し、この見滝原中学に転校してきた初日に声をかけられ、親切にしてもらったものの、ある種異様とも言うべき言葉を投げかけられ、そのまましばらく疎遠になっていた。
だが、それはまどかの心に不思議と強い印象を残し、見知らぬ存在であったはずの彼女を見ていると、なぜかずっと昔から知っているような、大事な人なのにそれを忘れてしまっているような不思議な感覚にとらわれることがよくある。そして、時にそんな感覚が強まると、決まって我に帰った時、奇妙なほどに真剣な顔をしたほむらに抱きしめられている。と、そんなことが一〜ニ週間に一度くらいの割合で起きている。そのたびに、まどかはほむらへの不思議な想いを強めているのだった。
そして、普段は超然とした、と言っていいような態度の彼女が、今日は珍しいことにおどおどと落ちつかなげな態度と表情を見せている。
何故か、まどかはそんなほむらに、眼鏡をかけさせて三つ編みにしたら可愛いだろうな、なんて奇妙なことを思う。無論、まどかの前でほむらがそんな姿を見せたことなどない。それなのに、どういうわけかその姿がありありと目に浮かぶのだ。そして、そんな彼女のことが、とても〈可愛い〉と思うのだ。春の陽だまりのように柔らかな笑顔を見せる眼鏡をかけたほむらの面影。これはいったい何だろう、と思う。こんなほむらは知らないはずなのに。にもかかわらず、こんなに鮮明に思い浮かべることができる。そして、そんなほむらにはっきりと特別な感情を抱いている自分を次第にまどかは自覚していった。
「うう、変だよね、わたし……」
暁美ほむらは、激しく後悔していた。あんな一時の気の迷いに流されるなんて。おかげで今日一日は台無しだわ。まるで自分の一挙一動がぱんつを気にして心理的な制限を受けているよう。
やっぱり今まで通りでよかったんだ。どうせ誰かに見せるわけではないのだもの。穿き心地と清潔さと丈夫ささえあれば下着なんて充分なんだ。そうなんだ。明日からはまたいつものぱんつを穿いて来よう。昼休み以降のほむらの思考は、もはやこれ一色になっていたと言っても過言ではなかった。まがりなりにも世界を改変した自称〈悪魔〉の考えることにしてはあまりにあんまりではあるが。
従って、放課後になったとき、それをこの校内で最も安堵の気持ちで受け取ったのは、きっと暁美ほむらであったに違いなかった。
「まったく……何事も無くて今日ほど良かったと思った日もそうそうないわね……」
自宅に帰ったらすぐにぱんつを穿き替えよう。それだけを思いながら、ぱんつを気遣いつつも、それでも少しだけ軽い足取りで帰途につくほむら。だが。
「あ、ほむらちゃん……その、一緒に帰らない?」
「ま、まどか……」
嘘だ。よりによってこんな日にこんなことが起こるなんて。ていうか、なんで?
まさか、この日だからこそ、ほむらがぱんつを替えてきたことこそがまどかにこの行動を取らせたのだとは彼女には思いもよらなかった。
「ねえ、ほむらちゃん?」
「ど、どうしたの、まどか」
まどかが下から自分の顔を上目づかいで見上げてくる。その愛らしさに頬が熱くなるのを感じるが、努めて平静を装おうとする。もっとも、そうしようとしても隠しきれない気持ちを漏れ出させてしまうその行為こそが、まどかの胸を一層ときめかせているのだが。
「ほむらちゃんってさ……眼鏡かけてたこと、ない?」
「……え」
予想外のまどかの問いに心臓が跳ね上がる。まさか、記憶が?
しかし、まどかの様子からは、そのような気配は感じられない。
「今日のほむらちゃん見てたらね、なんか、眼鏡かけて三つ編みにしたほむらちゃんの姿が思い浮かんできたの。それ想像したら、なんだかとっても可愛いなって思ったんだけど……」
はにかんだような笑顔でそうほむらに語りかけるまどか。やはり、記憶の一端は戻りかけているのだろうか。だが、今のところは通常通りに見える。とはいえ、何が切っ掛けで本格的に記憶が戻りだすかは分からない。慎重に受け答えしなければ。
「そ、そう。そんな格好をしていたことは、ないわね」
視線が微妙に泳いでしまう。
「……本当かな?」
「ほ、本当よ」
「ふーん、まあいいや。ね、ほむらちゃん。これからウチに寄っていかないかな?」
「な! なんでそうなるの」
予想をさらに超えたまどかの言葉に声が高くなる。
「いいじゃない。ほら、転校してきたときも親切にしてもらったし、このリボンだって貰ったし。お父さんやお母さんも、機会があったら連れて来なさいって言ってくれたし。ね、来てくれない……かな?」
……だから、その上目づかいは反則だってば。
結論として、ほむらは折れた。
「いらっしゃい。どうぞゆっくりしていってくださいね」
まどかのお父様の優しそうな言葉に迎えられ、ほむらは鹿目家へと迎え入れられた。
「は、はい。暁美……ほむらです。よろしく、お願いします」
ぱんつが気になるだけでもないがどうにも調子が出ない。気を張っているのが綻びて、つい素の自分が出てしまうようだ。尤も、ここでまどかの家族に悪魔アピールするのは流石に痛すぎるのは自分でも判る。うん、だからいいんだ、これでいいんだ。
まどかのお父様のホットココアは、とても美味しかった。巴マミの紅茶もとても美味しかったけど、それとはまた違う方向で。そんなこんなでもてなされて、気持ちが緩んでいたのだろう。
「ね、ほむらちゃん、私の部屋に行かない?」
そんな言葉に、ついうっかり素直に従ってしまったのは。
ほむらが我に返ったのは、まどかについて彼女の部屋のドアをくぐったその瞬間だった。流石にここまで来たら引き返すに引き返せない。当惑しつつも、言われるままにクッションの上に座らされる。
「その……まどか、私が怖くないのかしら?」
「えぇー、どうして?」
すっかり崩れてしまった悪魔の仮面の欠片のいくつかを拾ってそう言うも、あっさりかわされてしまう。なんだかヤケに積極的だ。アメリカでの三年の生活のせいなのかしら? とも思うが世界改変によるアメリカ生活の〈経験〉ってどの程度ホントに身についてるんだろう、と改変した当人である自分でも疑問に思ったりもする。
「えっとね、なんかね、ずっとほむらちゃんのことが気になってたのはホントだよ。たしかに最初はちょっと怖かったけど、私のこと気にかけてくれてたの、判ってたもん」
そう言ってまどかは笑う。
「まどか……」
その笑顔に。自分に向けられるまっすぐな好意に胸の奥が熱くなる。お父様が改めて部屋まで持ってきてくれたココアの甘さとまどかの言葉の甘さを噛みしめるように、ほむらはうっとりとこの時間に身を浸す。
「ねぇ、ほむらちゃん」
「……なに、まどか?」
「ほむらちゃんはさ、わ、私のこと、好き……かな?」
「ぶっ!」
突然過ぎる言葉にほむらは、口に含んだココアを霧のように吹き出し、カップを膝の上に取り落としてしまう。
「わ、だ、大丈夫、ほむらちゃん、熱くない? ごめんね?」
慌ててまどかがタオルを持ってほむらのもとへ向かう。そして、ココアでぬれたストッキングを引き剥がそうとする。
「ちょ、まどか、何を……」
「急いで冷やさないと、ヤケドになっちゃうよ!」
「だ、大丈夫、大丈夫だから!」
実際、このくらいの熱さで今の彼女にヤケドをさせることなどは出来ない。だが、まどかは強硬だった。
「女の子の肌にヤケドの跡が残るなんてそんなの絶対ダメなんだよ!」
そう言って強引にほむらのストッキングを脱がしてしまう。そして、ココアをタオルで拭き取ったあと、すぐに氷水と冷やしタオルを持ってきて、自分のベッドに座らせるや、ほむらの白い足に当てる。
「ごめんね、ほむらちゃん。私が変なこと聞いちゃったせいで」
「う、ううん、気にしないで、まどか。私も大げさすぎたわ」
一生懸命自分の足をタオルで冷やしてくれるまどかの真剣な顔を眺めるほむら。
「……うん、赤くなったりしてないよね。大丈夫……なのかな?」
「だから言ったでしょう、大丈夫だって」
赤くなっているのはほむらの頬の方だったが。
「ウェヒヒ、でも、ほむらちゃんって、可愛いぱんつ穿いてるんだね」
またも突然の爆弾発言に、ほむらのほの赤くなっていた頬が一気に真っ赤になる。肌が白いだけにそれはもう劇的に。
「な、にゃにいうのまどか」
動揺のあまり舌まで噛んでしまう。言うまでもないが、さっきストッキングを脱がされたとき見られたのだ。
あのときは非常事態のようなものだったし、やむを得ない事故だとは思ったが……。
「ほむらちゃんのことだから、きっともっと大人っぽいの穿いてると思ってた、ウェヒヒ」
まどかの頬が妙に赤い。その顔に浮かぶ笑みに、ほむらは何故か本能的な危機感を覚える。
「まど……か?」
いやたしかに自分としては大人っぽいのはハードルが高過ぎると思ってそれでもせめてこどもぱんつよりは可愛い系でとは思ったけど、思ったけど!
「ち、ちがうのまどか、こ、これ、穿くの今日がはじめてで……なれてなくて……」
一体自分は何を言っているのか。何をばか正直にそんなことを説明しているのか。
「ふぅーん、それじゃ、普段ほむらちゃんはどんなぱんつ穿いてるのかな?」
まどかの中で、奥底で、マグマのような昂りが抑えきれないほどに膨れ上がってゆく。
「そ、それは……ふつうの、しろいの……」
その言い方と、今現にほむらの穿いているぱんつが、普通の中学生が穿いていてこんなに気にかけるほどの大胆さなど全くないことから、ほむらの言う〈普通〉がどの程度のものなのか、まどかにも察しがついたようだった。
「そっかぁ……普段のほむらちゃんはこどもみたいなぱんつ穿いてたんだねウェヒヒ、あんなに大人ッぽそうでクールな顔して、こどものぱんつ穿いてたんだねウェヒヒ」
「そんな……ひどいこといわないで」
その言葉が、まどかの最後の理性の線を切った。
「ほむらちゃん」
「ま、まどか?」
「いただきまーす」
まどかは、ゆっくりとほむらの身体をベッドに押し倒していった。
「え、きゃあっ! だ、ダメよ、まどかぁ……!」
あくまは、おいしくいただかれました。
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8さんへのたったひとつの返信ツイートから妄想が暴走炸裂してもの凄い勢いでたった一日で書きあげてしまいました。悪魔ほむらちゃんのぱんつをめぐるスーパーまどほむタイム、「#ダメだこの悪魔はやく何とかしてあげないと」シリーズ第二弾です。 | ||
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