ポケモンになってしまった俺物語 IFエンド 2
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“エリオ・モンディアル”

魔法少女リリカルなのはStrikersに登場する年少組の魔導師の一人。

八神はやてが設立した古代遺物管理部機動六課に所属し、フェイト・T・ハラオウンが隊長を務めるライトニング分隊のメンバーの一人。階級は三等陸士。

10歳という時点で陸戦Bという素質を持ち、六課解散時までに陸戦AAまでに至った才能を持っている。

9歳の時点でAAA+の素質を持っていた高町なのはと比べると幾らか見劣りするかもしれないが、それは高町なのはが異常なまでに魔法の才を有していただけにすぎない。

管理局においてAランク魔導師となれば一小隊の隊長を任せられることも多い。小隊長のほとんどは20代以降から就くことが多く、10代で小隊長クラスのランクになれれば世間一般で天才、秀才、エリートなどと称されること間違いない。

それが10歳という時点でBランク、そして六課解散までの一年余りでAAランクまで至っているエリオがエリート中のエリートであることは疑う余地もないだろう。

近代ベルカ式の魔導師で、魔力変換資質「電気」を保有する。将来的には騎士を目指していたようだ。

高町なのはの行う正規の訓練とは別に夜天の書の守護騎士である烈火の将シグナムより訓練を受け、その中で学んだ剣技(エリオの場合は槍技だろう)や付加強化、さらにフェイトから学んだ高速機動と電気魔法などを駆使した戦闘を行う。

生来の生真面目さで素直な性格もあり、教えられたことはスポンジに吸収される水のごとく吸い取り自らの力としていった。

優れた師に恵まれ、環境に恵まれ、学び、身に着けてきたのだ。元々の才能を考慮してもこの短期間でAAランクにまで至ったことは、あるいは必然だったのかもしれない。

 

……そして、その出生は富豪モンディアル家夫妻の実子“エリオ・モンディアル”の人造魔導師(クローン)である。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「……いやいや、まじですか? リリなのですか? エリオですか? ……そうですか」

 

以前はピカチュウとして、そして今度はエリオとして姿を変えてしまった。

これは一体何の因果なのだろう、電気タイプ繋がりなのだろうか?

せっかく元の世界に帰れると思った矢先にこれだよ。俺って絶対何かに憑かれてるだろ。

もしくは神様が俺のことがよほど嫌いなのか……。

ともあれ、こんなことになったのはやはりあの時のロケット団の介入のせいに違いないだろう。あいつらはいつか絶対ぶっ飛ばす。

今の状況を考えるに以前のように姿が変わってしまっただけということはないだろうから、おそらく魂が抜けてこの肉体に憑依してしまったということだろうか。

ロケット団の介入のせいでミュウの技も暴発したみたいだし、本来の俺の体が今どうなっているのか分かったものじゃない。

肉体だけは元の俺の部屋に戻ることができたのか、はたまた暴発したことでそれに巻き込まれて俺の体も『ドカーン!』で『グチョッ!』なんてことも。

……ま、まぁ、どうなったかなんて考えてもこうなってからではどうしようもないし、このことは頭の隅にでも追いやっておくとしよう。

本来ならもっといろいろと考えて不安になったり焦ったり、この状況に混乱したりするところなのだろうが前回似たような体験をしたためか、前回ほどの混乱もしていないようだ。

 

さて、このリリなののような世界に来てから、前回のポケモンの世界のことも含めていろいろと気になっていたことがある。

これは以前からうすうすと浮かんでいた考えなのだが、いくらミュウと言えど漫画などの二次創作の世界へ現実世界の人間を事故とはいえ連れてくることなどできないのではいか、ということ。

そして、このリリなののような世界に来たということで俺の考えは半ば確信に変わった。

リリなのの世界観にある多次元世界、その数多くある世界の中に俺が元いた世界も、あのポケモンたちの世界も、そしてこのリリなのの舞台となる世界も存在しているのだろうと。

その方が、創作物の世界へ入り込んでしまったなどというよりも現実味がある、と思う。

だとすると、いつかはわからないが、もしかしたらまたあの世界に戻れるかもしれない。

沢山のポケモンたちがいて沢山の不思議があって、そしてイエローや仲間たちがいるあの世界に。

確かに元の俺のいた世界にも帰りたいとは思うが、今では元の世界にもポケモンの世界にも行ける可能性が出てきているのだ。

あんな別れ方をした手前、イエローはきっと俺のことを心配しているだろうし、まずは姿が変わったけどとりあえず無事でいることを知らせるためにあの世界に戻らないとな。

そう考え、気持ちを新たにした俺は……まず衣服を探すことにした。

 

「……あぁ、なんか寒いと思ったら、ポットから出てマッパだってこと忘れてた」

 

濡れている肌が外気に触れ、若干冷えてきている。

こんなどことも知れないところで風邪をこじらせて動けなくなるのはいろいろと危険すぎる。

まだ力が入り難くだるさが残る体に鞭をうち、この世界で初の冒険(衣類さがし)が始まった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

研究所内を荒らしてみると以前の研究員が使っていたと思われる部屋のクローゼットに、いくらか衣服が残されていたためそれを着ることにした。少しサイズが合わず不格好なところもあるが、もともと他人のものだしそれはもう仕方ない。

白衣もあったのでそれも羽織っている。これは別に何の意味もないのだが、いわゆる昔の憧れというやつだ。昔学校に通っていた時、理科の先生が来ている白衣をかっこいいと思ったことがある。

別に理科の先生になりたいなどと思ったことはないが、あの白衣を一度でいいから着てみたいと思っていたのだ。オーキド博士の白衣姿にも触発されているところがあるが……。

 

衣類を身に着けた俺は先ほどの研究室に戻ってきた。

いつまでもここにいるつもりはないが、この世界を冒険するに当たり色々と足りないものがある。まず俺に足りないのは俺自身への理解だ。できるならばここがどんな世界なのかも知っておきたい。

俺自身、それなりに修羅場は潜ってきたと自負している、それはピカチュウの時のこと。

今の俺がどれくらい力を持っているのか、この世界に危険な生き物はいるのか、もしいるならばそいつらは今の俺が倒すことができる相手なのか。

とりあえず言葉や文字はこの体の恩恵のためか問題ないようなので、テーブルの上や床などに散らかっている書類を集めて読み漁る。

にしても、残されている研究書類の数が少なすぎる。

こういう研究で得た情報をまとめるならもっと莫大な量になるだろうに、ここにはA4用紙サイズの大きさの紙で10枚程度しか残されていなかった。

……いや、この魔法科学が発展した世界ではむしろ紙にまとめることの方が少ないのだろうか? デバイスという超高性能な情報端末もあることから、確かに紙媒体にするメリットはあまり多くないかもしれない。

それを考えると、10枚もの書類を紙媒体で作成した研究者はいったい何を考えて行っていたのだろうか。

もうここにはいない研究者のことがやけに頭に残ったが、とりあえずさっき斜め読みしたものも含め、残された研究書類に目を通し始めた。

 

……その書類に書かれていたのは簡単に言うと研究日誌のようなものだ。

しかも俺の体に関することや廃棄された理由などが書かれている。

ほんと、なぜこんなのを残したのか訳が分からない。

とりあえず、俺の体に関することを簡単に上げてみると次のようになる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

・この検体はエリオ・モンディアルの人造魔導士である

・実験としては戦闘能力の強化に重きを置いていた

・今の実年齢は8歳くらい

・肉体を色々な薬で成長させ外見年齢は16歳くらいとなっている

・身体能力は想定していた本来の約2倍にまで上昇

・リンカーコアの改造により魔力総量はAAAまで上昇

・魔力変換資質「電気」を保有

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

……うぅむ、これなかなかに高ランクじゃないの?

確かエリオ自身の魔力量ってそれほど高くなかったんじゃなかったっけ?

記憶があやふやだけど確かAかそれより少し低いくらいだったか?

この研究ってここまで見たところかなりうまくいってるよな。身体能力は何を想定してかはわからないがかなり上がってるみたいだし、魔力総量なんて幼少時のなのはさん並にはある。

これだけの強化ができたんなら、個人的には成功もいい所だと思うんだが、なんで廃棄なんてしたんだ?

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

・幼少時における過度な実験が精神に影響を与えたのか情緒不安定

・不安定な精神状態から魔力が暴走しがち

・魔力が暴走した時、電気変換資質を伴って周囲に被害をまき散らす

・暴走を抑える研究を行っていたがそのどれもが失敗に終わる

・研究費用、修繕費用etc...がバカにならないところまで来たため、実験を凍結

・研究費用以上に修繕費用の割合が多く、これ以上は割に合わないと判断

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

……そりゃ、6歳児に2年にわたって非道な実験やり続けたら精神に異常をきたしてもしょうがないだろうに。

原作のエリオ、よく一時的に荒んだだけで済んだな。

まぁ、保護したフェイトさんやその周囲の援助あってのものかもしれないが。

……しかし

 

「……俺、体が変わっての違和感以外で変に感じてるところとかなんだけどな」

 

もしかしてあまりの実験の過酷さにこのエリオの精神が死んでしまったとかか?

だから俺がすんなりこの体に入ることができて、俺とこいつの二つの魂の間で起きそうな拒否反応も起こらないとか?

……これもまたありそうでいやな気分だな。

でも、結局なんでここの研究者はエリオをこの状態で放置したんだ? 

実験も凍結したわけだし、過酷な研究をしてきたことから別にこの研究者がエリオに対して情を抱いたっていう可能性は……うん、ないよな。

それなら、なんで失敗作として破棄されていないんだ?

……まぁ、研究者なんていう頭がいい奴らの考えてることなんて俺みたいな平凡な頭をしてるやつに理解できるわけないか。

それよりも、たしかこの体、魔力変換資質「電気」持ってるんだよな?

 

「……よっ」

 

『バチバチバチ!!』

 

ピカチュウの時のように手に電気が集まるイメージをすると、何の問題もなく手から電気が迸る。

 

「おぉ、普通に使える。リリなの世界だから術式の構成だとかなんだとかあると思ったんだけど……あ、そうか『魔力変換』だし魔力をそのまま電気に変えてるだけだから、そんな難しく考えなくていいのか」

 

ならば

 

「“雷パンチ”!」

 

今まで“雷パンチ”を使ってきた時と同じようにイメージして行うと握った拳に迸っていた電気が集束され、強い光を放ちながら先ほど以上に『バチバチ!』と音を立て始める。

イメージ通りにできたことに満足すると、次にそれを近場にあった机に向かってぶつけた。

すると机は車にでもぶつかったのではないかという勢いで吹っ飛び、壁にぶつかるとそこで止まった。

何かの金属製であるにもかかわらず衝撃でボロボロになった机は、“雷パンチ”の影響か帯電していて時折バチバチと音を立てていた。

ポケモン世界でいうところの麻痺状態といったところか。

 

「……やっぱりそうか」

 

そう俺は思った。

過去ピカチュウの時に鍛えた電気の制御技術が今も健在であった。

確かにピカチュウの時に比べればいささか違和感もあるが、それもいつか拭えるだろう。

あれほど鍛えたのだ、身体が変わろうとも電気の使い方はすでに魂にまで刻まれている……とまでは言い過ぎかもしれないが使う感覚は知っているのだ。自転車に乗れる人が何年も乗っていなくても、特に練習の必要なくまた乗ることができるように、電気を使うことができるこの体ならばその制御も難しくはない。

その後、俺は自分の体がどの程度動けるのかを調べるために研究所の中でも広い場所、恐らく以前ここでいろいろと実験をさせられていただろう場所で試してみた。

ポットに入っていてしばらくは録に動けないだろうかと思っていたが、あの後いつの間にか普通に動けるようになっていた。

恐らく俺が浸かっていた培養液にそういう効果のあるものも含まれていたのだろう。

 

ある程度動いてみてわかったことなのだが、身体的な能力が通常より強化されているということらしいがそれでもピカチュウだった時と比べると格段に劣っていた。

まぁ、それはポケモンと人間という種族の壁があるからしょうがないか。

電気能力は、まだ不慣れだというところを除いてもあの頃よりは電気量は上だと思う。

今までは“十万ボルト”を撃つのに少なからずタメが必要だったが、この体だとそのタメにかかる時間がほとんどない。

ピカチュウの時には電気総量がそれほど多くなかったために戦闘で撃つことすら考えさせられていた“雷”も、それほど疲労を感じることなく撃つことができた。

あの時とは比べられないくらいほどに電気総量―――魔力総量なのだが―――が増えているという実感が持ててふつふつと感動がこみ上げてくる。その新たに得た力を確かめるように、ばかすか“雷”を撃っていると気が付かないうちに限界一歩手前まで消費してしまったようで、めまいを覚え倒れそうになってしまった。

まぁ、いままで憧れのピカチュウであるにもかかわらず、他のピカチュウと比べて少ない電気総量を節約しながらいろいろとやりくりしていたのだ。精神的にいい大人でも新しくおもちゃを買ってもらった子供張りに浮かれてしまった俺の心も察してもらえれば幸いだ。

そして、魔力を体に通しての強化とこの体の能力を合わせることでようやく以前の動きに追いついただろうかというくらいだった。

 

 

 

つまり

 

 

 

身体能力:以前>現在

身体能力(魔力付加):以前≧現在

電気能力:以前<<<現在

制御能力:以前=現在

 

 

 

こんな感じだ。

……戦力的には微妙に落ちてるような、いや電撃が今まで以上に使えるということを考えると十分プラスに傾いているか。

それに魔法という今まで以上に戦闘の幅を広げられる要素もある。

「こんなことになって」と若干悲観に感じてはいたが、これから習得する魔法を取り入れてどのような戦い方をしていこうか、そう考えるとこれから先がとても楽しみに思えて仕方ない。

今もこの増えた電気量をどのように使っていこうかと次々と頭に浮かんでくる。

今までも戦い方をいろいろ考えてきたが、電気不足で廃案になっているものも多いのだ。

 

「……ふっふっふ、今まで節約しながら細々と使うことを強いられてきてストレスたまってたんだよ。こうなりゃぁ、今まで我慢してきたぶん盛大につかって戦闘に活かしてやらんとなぁ!」

 

……と、そこまで意気込んでふと思った。

 

(あれ、なんか俺、バトルジャンキーになってきてないか?)

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

俺の体のことについてはだいたいわかった、後はこの世界についてだ。

俺は実験室を出て先ほどの部屋に戻りそこで研究日誌に再び目を通す。

日誌というくらいなのだから日付もつけられているだろう、そう思ってのことだ。

そして見てみるとそこには新暦71年と書かれていた。

 

「……て、ちょっと待て、そもそもこの日誌がいつかかれたのかもわからないじゃん」

 

とりあえず、ここに最後に書かれているのが新暦71年、つまり今はそれ以降となる。

他に年号を調べることができるものがないか、部屋の中を探してみるとなんと都合のいいことか電子時計が壁に立てかけられていた。

その電子時計は埃をかぶっていて最後に整備されたのがかなり前だとわかる有り様だったにもかかわらず、それは確かに今現在の時を知らせていた。

そしてそこに書かれている年度表記を見る。

 

「新暦73年? ……えっと、確かStrikerS本編始まったのが新暦75年くらいだっけ?」

 

見たのがかなり前だったからあやふやだが、大体そのくらいだろう。

つまり、原作が始まるまで約2年。

……まぁ、原作とかそんなのどうでもいいんだけどな。

別にどっかの二次創作みたいに「原作に関わってやる!」だとか「原作なんて死亡フラグばっかだ、絶対関わらねぇぞ!」だとかいうつもりは俺にはない。

自分が関わったからっていい結果を出せるなどと驕るつもりなど傍からないし、自分が関わって最悪な展開に陥る可能性もあるわけだからな。

それは置いとくとして、そもそもポケモンの世界でもそうだったが俺を動かしてる大半は好奇心だ。今までにない不思議なものを見つけるとついふらふらとそちらへ行ってしまう。

まぁ、イエローも若干その気があったようだし、特にそのことに関しては怒られたことはなかったけど。ずっと森に囲まれた場所で暮らしていたこともありいろいろなものを見たいという願望もあったようで、よく一緒にふらふらとあっちへ行ったりこっちへ行ったりしては問題ごとにもかかわってしまうことも珍しくはなかった。

何かしらのことから関る機会があり、その時の俺の好奇心が刺激されるようなことがあったら結果がどうあれ関わってしまうかもしれない。その時の流れに身を任せるってやつだな。

下手に今、関わるか関わらないかなんて考えるのも面倒なだけだし。

仮に「関わるんだ!」って言っても二次創作でみるようながっつくようにかかわって行ったら、それこそウザがられるし変な目で見られる。仮に「関わらないんだ!」って言っても極端に避けようとするとそれがフラグとなって関わっていくことになる、そう思うわけだよ俺は。

と、いうわけで目下の予定はあのポケモンの世界を見つけること、そしてそこに帰ること。

ポケモンの世界を探すそのついでとして、この沢山の世界を見て回るというのもいいかもしれない。

姿かたちが変わってはいるけど、きっとイエローならわかってくれる、他の仲間たちならわかってくれる、そう信じている。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

それからしばらくした時、俺は思った。

いつまでもこの研究所に居続けることもできないと

……だって、食料が全くないから!

まぁ、当たり前なことだがこの研究所が破棄されてからかなり経つのだ。食料があるはずがないし、仮にあったとしても保存食以外のものだと腐ってるだろ絶対。

この研究所を荒らしまわったのだが、その保存食もないしここがどこかわかるような地図もないし、二次創作でありがちな破棄されたはずなのになぜか使えるデバイスもなかった。

……現実はいつだってこんなはずじゃ(ry

 

結局俺は外に出ることに決めた。

電子時計を見るにちょうど朝の8時くらいになる時間。

夜だったら考えるところだけど、朝だったら考える必要などない。

金なし、地図なし、飯なし、デバイスなしと、なしなしづくしだけど、いつまでもここにいたらそれこそ餓死してしまう。

幸い俺にはこの電気技があるし身体能力も普通に比べれば高い。戦闘経験もかなり持ってると自負している。

この世界の魔導師や魔法生物がどれほどの力を持っているかはわからないが、それこそミュウやミュウツーなどのように規格外な能力を持っている存在でない限りそう簡単に負けることはないだろう。

……まぁ、人間の姿での戦闘は初めてだし、もしかしたら弱い相手にすら苦戦する可能性がないわけじゃないけど。

 

出口らしいところにつくと、そこは大きな鉄扉があり鍵がかかっていた。

研究所だからそれくらいあっても不思議ではないとは思うが、こんな最先端な世界でなぜに鉄扉と思わなくもない。

 

(まぁ、鉄扉の方が俺としては助かるけどな。下手にデジタル機器だったらそんなハッキングとかの知識のない俺じゃ開けられるかわからないし、壊す以外に案が出なかっただろうからなぁ)

 

俺は手を鍵のある部分にかざし電気を浴びせる。

そして数秒後、『ガコン』という重い音とともに鍵が開けられる。

何をしたのか、それは慣れた電気使いにとっては結構簡単なことなのだが、電気を操作して疑似磁石を作り出して鍵を動かしたのだ。

うん、鍵もちゃんと鉄製で出来ていてよかった。

とりあえず鉄扉を押しあける。かなりの重量があるように見えるがこの体の身体能力に魔力の強化、それだけで十分に開けることができた。

外を見てみるとそこはかなりの広さの森が広がっていた。下手したらトキワの森よりも広いかもしれないと思えるほどに。

まぁ、こんな研究所だと町にあったとしても地下か、それか人目につかないような森の中しかないだろうけど、これは村または町を探すのにも一苦労しそうだ。

俺はため息を一つはき、その広大な森に一歩足を踏み入れた。

 

途中、普通よりかなり大きいイノシシのような生物や、5,6匹くらいのオオカミのような生物の群れに襲われたが出会い頭の“十万ボルト”、“電撃波”で特に問題なく撃破することができた。電気技に関しては問題なく実用できるようだ。

そこでふと、「肉弾戦ではどこまでやれるのだろうか」と気になったため、ためしにオオカミのような素早い相手に電気技を使わないで挑んでみた。

が、やはり体が別物のためか違和感がすごかった。

 

(体が大きくなったからか小回りが利かない。戦いの感とか動体視力はピカチュウの時とそう変わらないようだけど緊急回避の時に体がついて行かなくてワンテンポ遅れてる感じがする。

体の大きさも体の作りも違うのに、咄嗟の時に今までの戦闘で慣れてきた動きをしようとするから余計やり辛い。

……これは矯正にかなり手間取るぞ)

 

『体は子供、頭脳は大人』のようになんとも感覚と体の動きが一致しない違和感で正直やり辛くて仕方なかった。

今までの戦闘経験は活かせるところもあるが、体が違うのでまた一から戦い方を身に着けていかなくてはならないだろう。そういう意味では以前の経験がとても邪魔に思えてきてしまう。

 

(……まぁ、デメリットだけじゃなくメリットもちゃんとあるんだ。そこらへんはあきらめるしかない、か)

 

そこでため息を一つはく。同時に『グー』と腹の虫が鳴き出した。

戦闘のことで忘れていたが目覚めてから何も食べていなかった。そのことを思い出すと余計に腹が減ってくる。

と、俺はふと先ほど倒したイノシシのような生物に目を向けた。

 

「……(ジュル」

 

……まぁ、うん……おいしかったよ。

イノシシのような生物を電気で火を起こして焼いて食べた。調味料がないため味付けはない。ただ焼いただけの料理ともいえないような物だったが、肉の焼けた香ばしい香り、肉の歯ごたえ、あふれ出る肉汁、そして何よりも空腹であったこと。空腹が最高の調味料とはよく言ったものだ。俺は肉を一口食べた直後、周囲の警戒も忘れて次々と腹に詰め込んでいった。

幸運にも食事中に敵がやってくることはなかったが、俺はもしものことがあったらどうするのだと腹が膨れて落ち着いた後、静かに猛省した。

イノシシのような生物が養殖されたものでなかったことや長い間胃に固形物が入っていなかっただろうことから、腹を下さないか心配もしたが今のところ調子が悪くなる気配はない。運が良かったのか、それなりに体は丈夫ということなのだろうか。

 

そんなこんなで大体3日後、やっとの思いで村を見つけることができた。

そこは100人くらいしか住んでいないような小さい村であった。

村内を見て回ってみると文明レベルはそれほど高くないのか機械の類は少なく、そのほとんどは木材や石材、巨大生物の骨などの天然素材で作られているものが多かった。

とりあえず、俺は早速その村の人達と接触を行うことにした。

そこの人たちは俺の事をよそ者だといって避けたりすることもなく友好的で、俺の聞いたことにも面倒がらずに答えてくれた。

そこで知ったことは

 

 

・この世界の名前は第67統括世界ハーレス

・この世界でも魔法文化は存在している

・この近くにはここのような規模の村がいくつか点在している

 

 

……ん、統括世界? 管理世界とか管理外世界とかじゃなくて?

話を聞いて浮かんできた疑問、それについて聞いてみたところ

 

 

・管理局ももちろん存在しているがここは管理局の勢力下には入っていない

・このハーレスはギルドの勢力下に収まっている

 

 

……ギルド? ギルドってあのゲームとかによく出てくる冒険者組合みたいなギルドの事か?

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

組織の正式名称は『次元世界間依頼幹線局』。誰が呼び始めたかはわからないが、通称として“ギルド”と呼ばれる。

ギルドが創設されたのは時空管理局が設立するよりも少し前であり、創設者ミカド・クサナギが創り上げた。

その名の通り数々の次元世界から依頼を受け、それを局員に幹線することを主としている。

依頼が次元世界単位なため、まず支部がない世界での依頼は連絡端末が主要都市に配布されそれを通して本拠地である第1統括世界アスガルドに集められる。そこから依頼現場に近い次元世界の支部へと連絡がいき、ギルド局員が出動するようになっている。支部がある世界ではそのまま支部へと依頼を申込むことになっている。そして、これもまた誰が呼び始めたかはわからないが、ギルドに所属している局員のことを通称“冒険者”と呼んでいる。

当初は先にいったように依頼を受けて仕事をこなすことを主としていたが、今現在ではそれに加えて第1統括世界アスガルド本拠地において孤児院や、各種専門知識、資格を得るための教育機関などといった施設の運営も行っている。

ギルドが設立して数年、そのころになってようやく時空管理局も設立を果たした。

最初はそれほどでもなかったのだが、年々と両組織が大きくなるにつれ勢力圏も増えていき、いざこざが生まれやすくなっていく。

そしてついには時空管理局がギルドに対し、組織を解散し自分たちの勢力下にはいるように圧力をかけてきた。

もちろんそんな一方的な話に従うギルドではない。管理局の圧力をものともしないギルドに管理局はついに武力により訴えてきた。

管理局の最初の要求から数年後のこと、両組織間の全面戦争へと発展する。

当時では今のようなアルカンシェルなどという物騒でありながら抑止力となりえる強大な兵器や、魔法に非殺傷などという便利なものがまだ開発されていなかったため、両陣営に多数の死者が出た。

長く続く戦いの末、これ以上の被害を恐れたギルドが管理局に対して話し合いの機会を与えた。与えたというとギルド側が立場が上のように感じられるが、実際その時の流れがギルド側に傾いていたのだ。

それは若干ではあるが長い歴史を持つギルド故に数が勝っていたためか、はたまた創設者であるミカド・クサナギの手腕によるものか。

恐らくその両方であろう。

全体の数を比べてみても冒険者の人数の方が若干多く、創設者ミカド・クサナギの戦場での功績も目を見張るものがあった。記録ではミカド・クサナギを足止めするために当時でも希少であったSランク魔導師が数名必要だったとある。つまり、ミカド・クサナギ一人相手に管理局の戦力の要であるSランク魔導師が釘付けになり、それでも倒すことができなかったのが実状だ。

さらにギルドはミカド・クサナギだけが主戦力ではない。Sランク相当の実力者はギルドにも存在している。ミカド・クサナギにSランク魔導師が掛かり切りになっている間に、ギルドのSランク相当の冒険者が着実に管理局の戦力を削り続けていく。管理局員も何とか戦線を維持しようと奮戦していたようだが、殲滅力で決め手に欠けていたようだ。どちらがより消耗していたかは、もはや明らかだろう。

しかし、ギルドとしては別に管理局を壊滅させたいと思っているわけではない。このまま戦争を続けていくと、管理局だけでなくギルドにも多大な被害は出てくるのは明白。なによりこちらが先に攻撃を受けた側で今は同情的にみられているが、長引けば商売相手である周辺の次元世界に住む人々の心象が悪くなっていく可能性もある。それでは仮に管理局を壊滅させたとしても冒険者の減少に依頼数の変化などといいところがない。

そこでギルドは管理局に和議を持ちかけたのだ。

管理局側としてもこのまま続けば貴重なSランク魔導師を失う可能性、それだけでなく管理局壊滅の可能性もあり得ること。そのことを管理局の高官達も理解していたのだろう。話し合いの提案が持ち出された時に「次元世界は我々管理局によって統治されるべきなのだ!」などと反対の声も多少はあったものの、これ以上の戦いはお互い、むしろ自分たちの被害が大きすぎて最悪管理局自体が瓦解する可能性もあり得ると悟った者達の根気強い説得のかいもあり、お互いの高官たちが話し合いの場に参加することとなった。

 

そこで両組織間にいくつかの条例が結ばれた。

 

・管理局の勢力下世界を「管理世界」、ギルドの勢力下世界を「統括世界」と呼ぶ。

・第一に両組織の勢力下世界で勝手に権力をふるうことを禁ずる

・第二に両組織の局員はお互いの組織の承諾なくその勢力下世界に立ち入ることを禁じ、破った場合厳しく罰する

・第三にギルド局員が依頼により管理局の勢力下世界に入らざるを得ない場合第二の条例を順守せずともよい

・第四に管理局が追っている事件の容疑者がギルドの勢力下世界に侵入した場合第二の条例を順守せずともよい

・第五に何らかの事故によりやむを得ず両組織の勢力下世界に侵入してしまった場合第二の条例を順守せずともよい

・第六に第三、第四、第五の条例に相当する場合、事前または事後の報告を義務付ける

・第七に両組織の局員が発見したロストロギアの管理権は見つけ、処置をした局員の属する組織が有する

・第八に発見した次元世界を勢力下におく場合、最初に発見した組織がその権利を持ち、その勢力下世界の情報は必ず組織間で共有する 】

 

その他にも細かい条例が結ばれたようだが、これらの事柄が主となるもので間違いない。

そのようなことがあり、今この次元世界は『時空管理局』と『次元世界間依頼幹線局』の二つの巨大組織が勢力を広げ続けている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

……以上がギルドと管理局にまつわる話だ。

ちなみにこれは話を聞いた村人の先祖が、実際にギルド側で戦争に参加していた時の話を伝え聞いたものだという。

 

「……てか、そのミカド・クサナギってもしかして、転生者とかじゃね?」

 

その話を聞いて初めに思ったことがそれだった。

いや、確かにこの世界がリリカルなのはの世界に似ている世界だとしても全てが全て同じとは限らないことを俺はあのポケモンの世界で知ったはずだ。

それでも、俺という例がいるわけだし転生者、転移者、憑依者というたぐいの存在がいないとも限らない。というかいるだろ、一人二人なんて数じゃなくそれこそ数十、数百と。

どこまで二次創作と同じなのかはわからないが、流石に神に力をもらってとかは無しにしてほしいものだ。

 

(我様な英雄王の宝具の雨なんてきたら俺に避けれるか? 某僧兵さんの必殺級の概念が籠った一撃を避けれる幸運なんて俺には絶対ないぞ? 

ていうか他作品と他作品の能力合わせてもらってんじゃねぇよ、なんで反発しないで力がうまく体になじむんだよ! 

見ただけで相手の技コピーってどんなだけだよ! コピーできてもなんで使えるのさ、元の身体能力とか力とか劣ってても同程度の技を出せるってありえんだろ、体ぶっ壊れるわ! 

神に匹敵する能力なんて、もう神じゃん勝てるわけねえっつうの、ミュウ連れてくんぞ! 

……連れてこれねぇけど!)

 

……とりあえず、そういうやつらがいる世界っていうのはあるかもしれないということを念頭に置いておこう。

備えあればっていうけど、結局のところ俺が使えるのって大体がピカチュウの時に使ってた力だからね、人間になって魔法使えるようになって引き出し増えるかもしれないけど、そういうやつらに対してどこまでやれるのかわからないし。

ほんと、そういうやつら相手にするなら伝説のポケモンクラスの能力じゃないと相手にならねぇっつうの。

 

と、いろいろと愚痴ってもしょうがないのでひとまずここは脇に置いておく。

とりあえず、俺はそのギルドというところに行ってみることにした。もちろんギルドに入るためだ。

「管理局は?」 と考えもしたが、やっぱり組織って結構面倒だろうしなぁ。

それに配属とかなんかあっていろんなところ見て回る機会少なくなるし。

話を聞くとギルドだったらソロ(つまり個人で)で依頼を受けることもできるそうだしソロが難しかったらパーティ(つまり複数で)で受けることもできるそうだ。もちろんその場合一人分の報酬も減るけど。

そう考えると、周りを気にせずソロで依頼を行えて、いろいろな所へ行くことのできるギルドの方が好奇心で動くきらいがある俺にとっては都合がいい気がするのだ。

どうやらこの世界にもギルドの支部が存在しているということらしいので早速つれていってもらうことになった。

転移魔法でこの世界の支部がある都市に移動するという。

案内してくれるのは先ほど話を聞かせてくれた人だった。

恐らくデバイスのような物だろう杖を掲げると、足元に以前アニメで見たことのあるミッド式ともベルカ式とも違う六芒星の魔法陣が現われる。いわゆるこの世界独自の魔法というものだろうか?

光に包まれ一瞬の浮遊感ののち景色が入れ替わる。

そこは某国民的アニメのネコ型ロボットが生まれた世界のように近未来的な街並みをしていた。

物珍しげに周りを見ていると案内の人に妙に生暖かい目で見られていることに気づく。

一つ咳払いをしてごまかし、ギルド支部へ連れて行ってくれるよう頼む。

少し観光をしてもいいといわれたが、今俺はこの世界のお金もないし人に借りるのもあまり好きではない。

さっさと冒険者になって金を稼いでからにする、と言葉を返し先を急いでもらった。

そして

 

「……でけぇなぁ」

 

それが、ギルド支部を始めてみた感想だった。

外観からして東京ドーム並にある気もする……さすがにそこまではないか?

そういえば聞いた話によるとここは「ハーレス」支部というこの世界の支部、つまりこの世界に複数支部があるわけでなく、この世界にはここ一つしかないわけか。

なるほど、確かにそれならこれほどの大きさなのも理解できる。

よく創作物にでてくるギルドというのはその村々に存在する村一つのギルドだからこそ小さくても問題はないのだ、しかしここはこの世界唯一のギルド支部。

一つしかないということはみんながここに集まるというわけだし、下手に小さい建物だと人が混雑して利用者にとっては利用し辛い状況になるし、支部側も利用者の対応についていけなくなる。

しかも、この世界の周囲の世界にも支部が存在しないギルド勢力下の世界が複数存在するわけで、そういう所の人は支部が存在するこの世界のようなところに集まったりすることもあるわけだが、そうなるとなおのこと建物が小さくては収まりきるはずもない。

そう納得すると俺は支部の中へと入っていく。

ちなみに案内してくれた人は用事があるからと支部についた時に別れた。

今回はいろいろと世話になったし、いつかお礼をしにまたあの村に行こう、そう心に誓う。

 

やはりといったところか中にはかなりの人がいた。混雑しているほどというわけでもないけど。

 

(……ん?)

 

今までの癖で感覚をとがらせ周囲を探っていたら、この中にいくつか強そうな力を感じた。

これがいわゆる高位ランク者というやつなのかもしれない。

 

(……まぁ、だからどうしたっていうわけでもないんだけど)

 

ここにいる彼らが敵意を向けてきているわけではないのだ。俺も何か問題を起こしたわけでもないし、彼らが俺に突っかかる理由もない。俺はただ自然にしてればいいのだ。

周りを見渡して複数ある受付の内、ちょうど開いたところを見つけその受付に向かった。

 

「ギルド、ハーレス支部へようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

受付に行くと20代半ばに見える男性が声をかけてくれた。

 

「えと、ギルドに入りたいんだけど、何か特別な試験とかってあったりします?」

 

「入局希望者ですね? いえ、特に試験はございません」

 

それを聞き少し安心する。

てか、いきなり試験なんてあったら絶対落ちてたぞ、魔法の知識とかデバイスの知識とかそういうのよく知らないし。

 

「それでは、こちらの用紙に必要事項をご記入ください」

 

そう言うと、複数の項目が書かれた紙を渡してくる。

 

【氏名】

 

……どうしよう、普通に本名でいいのかな?

でも、イエローと一緒にいるときはイエローにニックネームを考えてもらったんだっけ。

イエローは俺の本名の方がいいんじゃないのかって言っていたけど、その時俺はピカチュウだったからなぁ。

俺の本名は元の姿に戻った時、その時に呼んでもらいたい。そう言ってつけてもらったんだっけ。

でも、流石にこの姿であのニックネームはなぁ……。

と、いろいろと考えた結果

 

【氏名】

マース・エレクトロ

 

ネズミの英訳マウスをもじってマース、電気の英訳エレクトリックをもじってエレクトロ、つまり電気ネズミポケモン、ピカチュウを指す。

……ネーミングセンスないとか言ってくれるな、自分でもわかってるから。

とりあえず次だ。

 

【特技、能力】

魔力変換資質「電気」

 

【所持するランク】

魔力ランクAAA

魔導師ランク不明

 

こんなもんか?

次は

 

【経歴】

 

……これは。

俺の経歴ってつまりこの体、人造魔導師としての経歴って事だろ?

 

「あの、すみません」

 

「はい、なんですか?」

 

「えっと、プライバシーの義務に関わることだったら答えてくれなくていいんですけど。

……あの、人造魔導師ってこのギルドにいたりしますか?」

 

この聞き方なら俺自身が人造魔導師に対して何か思うところがあるというように聞き手には取られるだろう。

俺自身特に思うことがあるわけじゃないしむしろこの体が人造魔導師だけど、俺のことがばれるとかじゃないから大丈夫か。

 

「人造魔導師の方ですか? えぇ、おりますよ。流石に誰がそうかは、それこそプライバシーの侵害になりますのでお教えすることはできませんが」

 

……なるほど。この人の反応を見るに、ここでは人造魔導師だからと言ってひどい扱いを受けるわけではない、のか。

 

「このギルドには様々な事情を抱えた方が入局されます。それこそ人造魔導師だったり、種族的な問題で他で迫害されたり。管理局での職務についていけず、退局してこちらに入局される方もおります。

もちろん、偽りの経歴を並べ犯罪者が入局しようとすることもありますが、我がギルドはすべての局員をしっかりと調査し、信頼できるかどうかを判断してから入局させます。なので、経歴部分には嘘偽りなく書いてくださるとこちらとしても無用な手間をかけずに済むのですが」

 

……ちゃんと見ていたっていうのか、俺が経歴のところで考え込んでいたところを。

流石にいろんな人間が集まるギルドの窓口をやってるだけあって、この人自身もかなりできそうだ。

 

「基本ギルドはどのような事情の方でも差別なく受け入れます。犯罪を犯した方でも、しっかりとそれを償った後でならば受け入れることはできます。

我らギルドのモットーは“信頼を大事に”です。それは依頼者との信頼関係に重きを置きますが、局員同士にも言えることなのです。同じ局員同士、仲間同士、メンバー同士を信頼できず依頼者との信頼関係など結べません。それが、我らがギルドの創始者ミカド・クサナギの意思です。

まぁ、全ての入局している人たちが同じ考えかどうかはわかりませんが、私はその意思に賛同しています」

 

「……そう、ですか」

 

信頼関係、それは俺だって望むところだ。

流石に内部でいがみ合うようなところにはいたいとは思わない。居心地が悪いからな。

とりあえず、下手な経歴詐称はこっちの不利になるだけだな。嘘偽りなくそこに記入することにしよう。

その他にもいろいろと記入するところがあったが、滞りなく進んだ。

 

「……はい、確かに……この魔導師ランク不明というのは?」

 

その記入した用紙を受け付けに渡すとそれ見て確認したのちにそう言ってきた。

 

「いや、俺そこにも書いた通りの経歴なんで魔力ランクは知ることはできましたけど、魔導師ランクというか、戦闘ランク? そんな感じの奴はわからないんです」

 

「なるほど。はい、わかりました。ちなみに魔導師ランクとは管理局におけるランク付けになりますので、われらギルドにおいては使っている人はほとんどいません。

一部の管理局に入局していた方がギルドカードに記載していることがある程度ですので、わからなくても特に問題はございません」

 

そういうと、受付の人はキーボードをたたいて何かの作業を始める。

俺との会話の時に嘘発見器(魔法的な)のようなものが使われていてその結果を調べているか、またはただ単に俺の情報を記入しているだけか、もしくはその両方か。

 

「……はい、登録が完了しました。これであなたも正式にギルド局員の仲間入りです。こちらがギルド局員に渡されるギルドカードとなります」

 

そういうと、一枚のカードのようなものを取り出し俺に渡してくる。

 

「このカードはあなたの個人情報を記録したデバイスです。これは記録されている当人にしか使用することができませんのでご了承ください。

機能としましては身分証明にも使用できますし、何か依頼を受ける際の受付カードとしても使用されます。依頼を受けた後、詳細がそのカードに記録されますのでいつでも確認することができますし、依頼が達成したら自動的に記録されますのでそちらの精算窓口でそのカードを提出していただければ、依頼終了が確認され報酬が支払われます。

なお、そのカードは財布としての機能もございますので支払われた報酬はそちらに入金されます」

 

なるほど、依頼内容が確認できるのは便利だと素直に思う。

昔ゲームをやっていてクエストを受けた時、クエスト内容が受諾後に表示されないタイプのゲームだった。その後、用事があって数日放置したらどんなクエストを受けたのか忘れてしまった、なんてこともあったからな。

 

「それでは、知っているかもしれませんがギルドに関して説明させていただきます。

我がギルドは、この次元世界の勢力下世界で依頼者の依頼を受け活動しています。仕事内容は多岐にわたり、子供の世話や清掃活動から要人の護衛、町や人々に被害を与えている魔法生物の討伐依頼などと様々です。

しかし、最初に入局された方には要人の護衛などの重要性の高い依頼はお任せできません。入局されたばかりで無名、つまり功績がない者に任せて失敗でもされたら、それこそギルドの威信にかかわります。なので、ギルドでは功績でS、AAA、AA、A、B、C、Dと7つのランクに分けて、それぞれに合わせた難易度の依頼を振り分けています。このランクは先ほど渡したカードにも記載されていますので後程ご確認ください。

ランクを一つ昇格させるためには10の依頼を達成して初めて昇格試験を受ける権利を得ます。試験内容では自分のランクの一つ上の依頼をこなしていただきます。もちろん、一度でも依頼を失敗すればまた一からやり直しです。

まだ先でしょうが、Aランクからの試験には上位ランク者が試験管として同伴して試験を行います。Aランクからの依頼は危険度が一気に高くなり、死亡する危険性はBランクまでの比ではありませんので。これは試験管という役割のほかに有望な冒険者を減らさないための配慮でもあるのです。

ちなみに、Aランクはただ強いというだけでは認めることはできません。ギルドの方針としては、『Aランクならばある程度強いのは当たり前。ただ強いだけでなくその冒険者の持つ技術や人間性など、様々な観点から評価すべき』となっております。まさしく『心・技・体』がそろって初めてAランクと認められるのです」

 

ランク分けが7つしかないのか。

しかも、話を聞く限りもしかしたらAランク以上だと管理局のランク付け以上に厳しいのかもしれないな。

 

「続いて、ギルド内の施設についてですが、ギルド内には各世界へと向かう転送ポートが存在します。使用は自由ですので依頼があった際や用事があった際にでもそこを利用してください。そちらのカウンターは先ほども言いましたように精算窓口で依頼の終了後に確認と報酬の支払いがされます。

続いてそちらのカウンターですが、そこではデバイスの販売、修理などを受け付けています。カタログもございまして買いたいものがありましたら取り寄せることもできます。

少々値は張るでしょうが特注することもできます。

他にも、あちらのカウンターではこの世界ではあまり手に入らない雑貨品等を販売しており、さらに戦闘に役立つような様々なアイテムも取り扱っております。

あと、いろいろな技術を教導管から学ぶ教導施設や模擬戦を行う施設などもあるのですが、各支部では最小限の設備となっております。本格的なことに関しては第一統括世界アスガルドで行われていますので、もしもの時はそちらをご利用ください。

……と、簡単ではありますが私からの説明は以上となります。何かご質問はございますか?」

 

一度に説明されたから頭が少しこんがらがってしまっているが、よくある二次創作と似たような内容だったのでそこまで気にすることはないだろう。

本局というところにはいつか一度行ってみようかな。

 

「えっと、今のAランク以上の人って何人くらいいるんですか?」

 

「そうですね、Aランク以上の冒険者ですと約一万人ほどですね。おおざっぱですがもう少し細かく分けるとAランクが8000人、AAランクが1800人、AAAランクが190人、そして最高ランクであるSランクが10人です」

 

「一万人、ですか」

 

そりゃ多いなぁ。

ランク付けが管理局以上に厳しく、さらに依頼の難易度が増すから上のランクになるにつれて格段に少なくなっているのはわかるけど、でもAランク以上がそんなにいるとは。

 

「……多い、そう思いますか?」

 

「え、えっと……はい、まぁ」

 

「そうですね、数字の上で見ると多いように思います。ですが、私たちギルドの勢力下にある世界は現在508世界、単純計算で一つの世界20人程のAランクオーバーの冒険者を割けることができるわけですが、一つの世界においてAランクオーバーが必要になる依頼がその数以上になることもよくあります。それにパーティーを組んでいる方も多いため依頼に回せる方が足りなくなることもままあります。

……余談ですが、以前魔王なる強大な存在が現われ、その世界全体で魔物が活発化しまさしく世界の危機に陥ってしまうということがありました。その時には緊急依頼としてSランク1人に手の空いている、または空けてもらったAランクオーバーとAランク以下でも実力があるものを総勢1000人程動員して依頼に当たりました。 

……事務方が依頼の対応にてんやわんやで、500人程が過労で倒れました。私もその一人です。

過去の記録によると5つの世界で同時に魔王が現われたということもあったそうです。

あまりにも手ごわい相手だったそうで当時はSランク冒険者総出で、そしてそのほかの実力のある冒険者10万人を超える大規模な動員となったこともあったそうで……いろいろと悲惨だったそうです。

……まぁ、ここまで統括世界を広げてしまった弊害といえますが、このように冒険者はいくらいても足りません。そして今後もまた統括世界が増え続けていくだろうことを考えると、Aランクオーバーが約10000人というのは少ないと言わざるを得ません。まぁ、今では私たちギルドは管理局ほど勢力圏を増やすことに躍起になっているわけでもありませんし、かなりの冒険者人口を誇っていますので、あちらほど人員不足に悩まされているわけでもありませんが、全く悩まされていないといえば嘘になるのです」

 

なるほど、俺は一つの世界でAランクオーバーが一万人と考えてしまっていたようだが、ここは無数と言えるほどの次元世界が存在する世界。

そう考えれば一万人という数は確かに少ない。

しかも、世界規模の問題となればそれだけ一つの世界に動員される冒険者も増えるわけだし。

……それにしても、過労で倒れた話をした時の彼の悲壮な表情には、さすがに同情を禁じ得ない。

絶対ギルドの事務方には入らないようにしよう、そう決意を固めた瞬間だった。

 

「さて、他に何かありますか?」

 

「……あぁ、いえ、とくには」

 

「そうですか、それではこれから頑張ってください……あ、そうそう。言い忘れていましたが、Sランクになりますと、とある大会に出場できる権利が与えられます」

 

「大会? 権利?」

 

「はい、それはこのギルドが主催する、4年に一度行われるギルド内において強者を決める大会です。今現在Sランクを保持している人は数十億の冒険者中10名。その中から大会を勝ち抜いた上位6人、この6人をギルド最強の6人として六神将の称号が与えられます」

 

六神将……って、どこのテイルズ!?

ここの創始者、ぜってぇそういう知識豊富だった奴なんだろうな。

 

「ただ、今現在の六神将がその地位についてからこれまで12年間、3度の大会が行われていますが、今までで移り変わりが多かったはずの六神将の地位が変わることがありません。それだけ、今の六神将の力が同じSランク保持者の中でも別格だということでしょう。

あなたもSランクを目指し、その先にあるギルド最強の称号、六神将となることを目指して頑張ってください」

 

六神将、確かに一人の男としては最強の称号とかっていうのはかなり魅力的だ。

だけどまぁ、目指す目指さないは今は保留でいいだろ。

こうして俺のこの世界での仕事が決定したわけだし、ようやく一息ってところか。

それじゃあ

 

「……まずは、どんな依頼を受けようかなぁ」

 

 俺の冒険はここから再び始まるのだ。

 

 

 

説明
こんにちは、お久しぶりです。はじめましての方ははじめまして、ネメシスです。
最終投稿から約半年間、地道にちまちまと作り続けてようやく一話という遅い執筆ぶりな私を笑ってやってください(泣
今回は以前某所で投稿していた作品の中で最後に製作した作品、『ポケモンになってしまった俺物語 IFエンド 2』 の投稿です。
……なんだか以前から思っていましたけど、私が書くとどうしても地の文が多くなりすぎるきらいがあるなぁ、と改めて思う今日この頃(汗

ちなみに今までの作品からわかる人は分かるかもしれませんが結構私ポケモン好きでして、作中でポケモン贔屓なところもあるかもしれませんが「まったくネメシスはしょうがないなぁ」といった感じで、生暖かく見ていただけると幸いです。
少しでも皆さんに楽しんでもらえたら、また少しでも暇つぶしに使えたらこれまた幸いです。
……地の文が多いと言っておきながらまた長くなってしまいました。
それでは、本編のほうをどうぞ。

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