機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 失われた記憶を追い求める白き騎士 |
ここはコズミック・イラとはまた別の世界にあるとある研究施設の部屋。
そこには、部屋中パソコンのモニターやらハードやらでごった返した部屋に、この部屋の雰囲気には果てしなく不釣り合いな格好をした女性が一人いた。
その女性の格好は機械でできたウサミミに水色を基調としたドレスのような衣装と、まるで不思議の国のアリスのようだった。
女性は、((どこのものでもない|・・・・・・・・・))((宇宙船|スペースシャトル))から射出されている小型の救命ポッドを映したモニターを前に目にも留まらぬ早さでキーボードを叩いていると、不意にそのしなやかな指先がピタッと止まる。
そのころモニターには、救命ポッドが消える瞬間とその時の状態の空間をグラフにしたものが映し出されていた。
「フンフン、やっぱり■■■■が消えた所、この時を境に急激な質量変化が起こってるね〜。そこに気付くなんて流石だね!わたし!」
女性は新しいオモチャを買ってもらった子供のように、顔がイキイキとしてくる。そして再び、あまりにも早すぎて指が何本もあるように見える、通称ゴットフィンガーを再開し、そして幾多のモニターになにやら複数のウィンドウが開いては閉じ、画面が著しく回って行く。
「っ!そうかぁ!そうと分かれば、まずは■■■■■に連絡だね!」
そして何かに気が付いた女性は、キーボードの横に置いてあった携帯電話を取ろうとする……のだが
「あ……」
その手前に置かれてあったファンタ(グレープ味)をその携帯電話の上に盛大にぶちまけた。防水機能がついていないその携帯は女性の思った通り使い物にならなくなっており、彼女が再び携帯電話を手にしたのは、実にこの一週間後の事だったとか。
◇
漆黒の宙に雲母の欠片を落としたように、光るものが一片、きらりと太陽光を反射した。宇宙空間を舞うそれは、二枚の翼を広げた青と白、赤の三色で彩られた機体だった。
その正体はZGMF−X56S/α フォースインパルス。
インパルスは今装備している高機動戦仕様の『フォースシルエット』の他に、近接格闘戦仕用の『ソードシルエット』、砲撃戦仕様の『ブラストシルエット』の計三つのシルエットを使い分けながら戦っていく喚装システムを搭載した新型モビルスーツである。また、インパルスは初の小型の飛行機のようなモビルアーマー、『コアスプレンダー』と上半身のチェストフライヤー、レッグフライヤーとを合体させることで完成する一機のモビルスーツでもある。さらに付け加えるとインパルスは喚装したシルエットによって流れる電流を調節できるようになったフェイズシフト装甲の新たな形、ヴァリアブルフェイズシフト装甲が搭載されており、エネルギーの消費量を大幅に押さえることが出来るようになっている。
と、そこへ一つのビームの固まりがインパルスの肩を掠めた。
「くっ!」
((風防|キャノピー))の偏光ガラスを通して、パイロットの赤いスーツが見える。乗っていたのはシンだ。
そのシンが素早くモニターに目を向け、ソレを視点に入れた途端に操縦桿を強く握り、引き金を引く。すると、それに連動してインパルスも手に握っていたMA−BAR72高エネルギービームライフルから一筋のビームが宇宙空間に走った。その先には、青と白を基調とし、折り畳み式のブレードを右腕に装備した機体。GN−001 ガンダムエクシアがシールドを構えてビームを防ぐ姿があった。
エクシア、というよりも発見された五機のGNシリーズは、背部のGNドライヴと呼ばれる動力源によって圧倒的な性能を誇っていた。
このGNドライヴから生成されるGN粒子には、レーダーや通信機類を阻害する機能や機体の周りを円形で包み、攻撃を無力化するGNフィールド、また強力なビーム兵器への転用等の他に、装甲や実体剣に纏わせることで驚異的な切れ味と強度を誇るのだ。しかも核動力のようにエネルギーが無限にある上に頑丈で誘爆もしないというのだから、シンは卑怯だと叫びたいくらいだった。
「だったらっ!」
しかしそんなことを言ったところで状況は何も変わらない。
ライフルの威力では決定打にはなれないと踏んだシンは、ビームライフルを即座に仕舞うと、肩とフォースシルエットが接続している部分からMA−M941ヴァジュラ・ビームサーベルを抜き出し、こちらへ向かってくるエクシアとぶつかりざまに、激しく斬り結んだ。両機の剣からビームと粒子の光が迸った。
「近接戦なら、負けない!」
伊達にアカデミーでナイフ格闘一位の座に座っているだけに、シンは近接戦における間合いの取り方も立ち回りも上手い。傍観者たちから見ているととてもこれがインパルスでの初戦闘とは思えなかった。
エクシアとインパルスの鍔迫り合いは続く。力は拮抗している。二つの剣は、その微妙なバランスの上でぎりぎりと押し合っていた。
「このっ!」
開いていたもう片方の腕をビームサーベルの柄に握らせ、引き抜いた二本目のビームサーベルを引き抜いた。狙うは先に抜いたビームサーベルを受け止めている右腕の間接部。ここを落とせばあの複合武装は使えなくなり、その上機体のバランスも崩せる。
が、それをわかっていながら甘んじて受けるほど目の前の機体は優しくはなかった。
エクシアの背中からGN粒子が溢れ出し、インパルスのビームサーベルを弾き飛ばしたのだ。
「圧倒された!?」
どうにか二本のうち一本は飛ばされずに済んだビームサーベルを手にしながら後退するインパルスに、エクシアが斬り掛かろうと迫り来る。
(くっ、これは……!)
フォースシルエットの高い機動性を駆使してどうにか接近してくるブレードを掠る程度で凌いでいくインパルスだが、目の前のブレードにばかり気がいっていたせいか、背後のデブリの存在に気付いたのはそれと衝突した直後だった。その衝撃でせっかく掴んでいたビームサーベルをポロリと手からこぼれ落としてしまう。
敵との距離を考えると、ここで回収することはできない。
「っ、しまった……!」
今ので完全に動きが一瞬止まってしまったシンに詰めてくるエクシアに、インパルスは再びライフルを掴み、連射する。
しかし、その至近距離からの攻撃すらエクシアは避けてみせた。なんという垂直的な動きだ。
シンはエクシアの挙動を瞬時に理解し、ライフルの標準を修正して放つ。だが、それすらもエクシアはかわした。さっきよりも動きが速くなっている。一体あの機体はどこまでが限界なのだろうか。
シールドを投げ捨て、GNソードを畳んだエクシアが、左腕を胸の前に回し、肩口辺りの突き出たパーツを掴んだ。
刹那、赤い光が疾った。ぶおん、と空を薙ぐ音がしてインパルスのビームライフルの砲身が両断される。エクシアの右手には、インパルスと同じ……いや、それ以上の性能を持った鈍い赤色光を発している収束粒子の刃が握られていた。
「そんなっ!?」
咄嗟にシンはビームライフルを捨てた。
GNビームサーベルによって過負荷を受けたライフルが爆発を起こす。
瞬間の閃光と広がる爆煙━━その機を逃さず、エクシアは一気に距離を零にすると、無造作にGNソードを振り下ろした。
◇
そもそも何故、友軍同士であるはずのこの二機が交戦状態に陥っているのかというと、それは遡ること今から数十分前……
◇
「うわーっ!また負けたーー!!」
ここはアプリリウスにあるザフト軍のシュミレータールーム。
そこで廃棄されたジンのコクピットを流用したシュミレーター用のコクピットからルナマリアが叫びながら飛び出してきた。その後からレイ、シンの順で隣のシュミレーター用コクピットから出てきた。
その反対側のシュミレーター用コクピットからは刹那、ハイネがそれぞれ持参のタオルで汗を拭き取っていた。
ハイネがみんなに提案したこと。それはこのシュミレーターによる刹那&ハイネVSシン&レイ&ルナマリアによる模擬戦のことだったのだ。幸いにもインパルスやエクシア、キュリオスのスペックデータはすでにシュミレーターに登録されていたおかげで、すぐにでも模擬戦はできた。
ちなみに、エクシアとキュリオスのコクピットはジンのものとは違っていたため、急遽取り外しを終えたOガンダムと呼ばれる機体とガンダムヴァーチェのコクピットをシュミレータールーム代わりに使用する事ができていた。まあ、実際に模擬戦で使ったのは両陣営共々ゲイツなので通常のものを使ったのだが……
なお、デイルとショーンは用事があるとかでこの場にはすでにいない。
(また……負けた)
しかもこれで五連敗目だ。
いくら相手がフェイスとそのフェイスにマンツーマンで鍛えられたからとはいえ、こっちだってアカデミーを赤服で卒業したエースパイロットなのに一勝すら得ることができないというのはやはりシンたちには堪えていた。
「まあまあ、んな落ち込むなって。お前等だって良い線いってるぜ?」
シュミレータールームから出たハイネがこちらの気落ちしている様子を察して声をかけてきた。これがアカデミーの嫌な先輩だったら即殴りかかっていたかもしれない。過去にルナマリア共々痴漢紛いな好意をされ掛けたからだ。
「ただルナマリアは狙撃より接近戦の方が上手いよな」
「うっ……!」
それはきっとこれまでの戦いを通してフレンドリーファイアが唯一あるからこその台詞なのだろう。
「レイはチームメイトに合わせすぎて遊撃の持ち味が生かしきれていない感じだな。折角視野が広いのに勿体ないぞ」
「……善処します」
まさかアカデミーで成績最優秀だったレイが指摘を受けるとは思わなかった。そんな驚いている私に、ハイネがじっとこちらを見つめてきた。
「そしてシンだが……」
来た。
といっても、他人に言われなくったって何が悪いのかなんて私自身がよくわかっている。
「はっきり言って一人で飛び出しすぎだ。総合的な実力は確かにレイに準ずるところではあるが、それだけだ。実戦だったらお前みたいなのは真っ先に囲まれてお陀仏だぞ」
「……すみません」
ハイネの言いたいことは、シンにもよくわかっていたことだ。
それにアカデミーでもレイや教官に何度も指摘されてきたところでもある。けれども、それでもやっぱり誰かと組んでやるよりも一人がやっていた方が思いっきりやれて色々と楽なのだ。特にルナマリアと組むときは……
「そうだな……お前、単機なら負けないってタイプだろ?」
「えっ?あ、まあ……」
学力とテクニックでレイには劣っていたが、ナイフ格闘と1対1の実戦ならシンは負け無しだったのは、アカデミー内でわりと有名だったりする。
「よぅし、刹那!シンと今から模擬戦だ。機体は各々の専用機。時間はそうだな…………よし、三十分後にやろう」
「ええっ!?」
「ちょっ、ハイネ!?」
ハイネが突然の無茶ぶりをかましたことに抗議を申し出るシンと刹那。がしかし、提案者のハイネがそんな言葉に耳を傾けるはずもなく、何事もないかのように部屋を後にした。
「…………」
ハイネの中では完結しているのだろうが、突然振られた話に付いて来れていない一同はポツンとその場に取り残されていた。
「ええっと……よろしく?」
しばらくすると、刹那がおもむろに口を開いたが、それが的外れな言葉であることはその場の雰囲気が無言で答えていた。
そしてあっという間に時は過ぎて三十分後。
どうにか操作方法と武装面の種類を把握した二人は、模擬戦を開始した。
こうした経緯があって、冒頭の戦闘シーンに戻るのであった。
「…………」
シュミレーター用のコクピットからシンが這い出てくる。しかしその足取りは重く、表情は彼女の中にあるナニカを砕かれたかのような、そんな絶望したように見えていた。
「シ、シン……?大丈━━」
明らかに普通じゃないと感じた刹那に肩を触られるが、シンはそれをすぐに振り払う。
「……大丈夫です。予定があるので、私はこれで」
冷たくそう言い放って、シンはその場を後にした。
悔しい。
彼女の心の中はそれだけで埋め尽くされていた。
オーブで家族を殺され、もう二度と奪われたくなくて入ったザフト軍。むかつくこともあったし、楽しいこともあった。苦しいことも、痛い思いなんて何度もした。
そうしてようやく手にした赤服と新型モビルスーツ。それなのに……
(何も、できなかった……)
機体の装甲に傷をを与えるどころか、攻撃を当てることさえろくにできなかった事実がシンの傷を抉る。
今までの努力は全て無駄。お前では何もできない、何も守れない。あの白と青のモビルスーツに、そう言われたような気がしていた。
(…………よし)
両手で頬を思いっきりひっぱたく。
レイや他の同期に負けた時によくやる手だ。
そうだ。今更徹底的に負けたからなんだ。そんなのはアカデミーで散々経験したじゃない!
「そうと決まったら…………あ」
くるりと反転して、歩き出そうとする足がそこでぴたりと制止した。普段通りならここでシュミレータールームに行っていたのだが、今さっき用事があるだなんて嘘をついて出たばかりなのに、戻れるはずがない。アカデミーのを使おうにも卒業生になったばかりのシンには難しいし、ここから別の施設に向かうのも面倒だ。
「……帰ろう」
結局シンは戻ることもできずトボトボと帰路につくこととなった。
……卒業後初の徹底的敗北からの立ち直りと改める決意は、こうして盛大に空振ったのであった。
「━━で、話って何よ?レイ」
翌日の朝。
シン、ルナマリア、デイル、ショーン、メイリン、ヨウラン、ヴィーノの七名は、レイの召集の元、昨日集合した喫茶店に再び訪れていた。なお、ハイネと刹那は席を外してもらっている。これはレイがハイネに頼んでおいたことだ。今頃は二人で街にでも繰り出している頃合いだろう。ちなみに訓練は午後からなので問題は無い。
「話、というのは他でもない。刹那のことだ」
「刹那さ……じゃなくて刹那?あの人がどうかしたのか?」
本人から年が近いことから呼び捨てでかまわないと言われていたデイルが慌てて訂正しながらレイに訪ねる。
「ああ。……実のところ彼は、記憶喪失なんだ」
「え……?」
手から落ちてしまいそうになった紙コップのジュースを慌てて抑える。
それでもシンの動揺は収まらない。
━━あんなに笑顔でいた人が、記憶喪失?
「彼が発見されたのはプラントの付近だ。偶然、議長とその護衛をしていたハイネが彼を乗せていた救命ポッドを発見したらしくてな。救出されたときには瀕死の状態だったと聞かされている」
「そんな……どうして、そんなことに?」
「わからない。コーディネイターによるものか、或いはナチュラルの言動に異を唱えたことでブルーコスモスにやられたか、或いはそもそもそれらとは全く無関係なのか……全てが謎に包まれている」
シンはどこの誰かも知らない犯人に対して、憎しみの業火を燃やしていた。ほんの数時間を会話をして一緒に模擬戦をした程度の中だが、それでも刹那・F・セイエイという男はとても優しい人間なのだということくらいはシンにもわかる。
自然と拳を握り締めていたシン。
心に傷を負っているのは、自分も同じだ。
かつての故郷、“オーブ“で理念を守るために家族を犠牲にされ、シンは心に傷を負った。そのことで他人との関わりが怖くなり、教官に対してでさえ生意気になってしまったり、同期と喧嘩することも珍しくはなくなっていた。
そんな彼女が自ら誰かに触れていきたいと思うようになった。
━━もっとあの人と話してみたい。
この時、無意識のうちにそう思ったシンは、午後の訓練で再び刹那に模擬戦を挑むのであった。
うーむ、やはり名無しのごんべいさんのようには上手く描けんな……TSシン。
一応原作みたいにツンデレを目指したいんだが……やはり無自覚+鈍感も入れてみたいんだよなぁ……名無しのごんべいさんみたいに
……………………………………………………………………………………あれ、なんか素直になれないシンを暖かい目で見るお兄さんなせっさん(一夏)がイメージできてしまったぞ?
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PHASE3 衝撃と天使 | ||
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