妖世を歩む者 〜1章〜 1話 |
1章 〜向き合う者〜
1話「妖世」
どこまでも林が続いていた。
陽介はひたすら林を歩き続けてきたことを、少し後悔していた。
「何も見えてきませんねぇ」
空は微かに赤みを帯びて、太陽もだいぶ落ちていた。
明るいうちに林を出たかった陽介だが、進む先に光は見えない。
手に持っていた懐中電灯も、携帯と同様に壊れていた。
「野宿は流石に遠慮したいですが」
「お困りですかな、人間さん」
声は上から聞こえた。陽介は木を見上げ、声の主を探す。
――― スタッ
陽介が見つける前に、声の主は下へと降りてきた。
露出の目立つ薄手の着物、そしてその上に羽織を着た女性。
着物が隠しきれない大きな胸が見え、陽介は咄嗟に顔を背けようとして、
"それ"を見つけた。
「……耳?」
その女性の頭には黒い耳があった。時折ピクッと動いているようにも見える。
視線を少し下げてみると、そこにあった"猫目"と視線が合った。
「あまり初対面の女性をジロジロ見るもんじゃないニャ」
「あっ、す、すみません」
反射的に謝る陽介だが、ここでも1つ気になった。
(……ニャ?)
なりきりのコスプレだろうか。
しかしこの女性は木の上から飛び降りてきた。
なりきっているからといって、身軽過ぎるのではないだろうか。
陽介の頭が再び混乱しそうになると、
「((猫又|ねこまた))を、知っているかニャ?」
――― 知っている。
妖怪の中でもメジャーな方だろう。
老いた猫は猫又になり、尻尾が二股に割れる、という話は良く聞かれる。
この女性はその"猫又"のコスプレをしているということだろうか、と陽介は考える。
よく見れば女性の後ろに二股の尻尾が見え隠れしている。とてもリアルな動きだ。
「あたしはその"猫又"なんだニャ」
――― え?
何を言っているのかと思った。
『この女性はおかしい』、『そんなわけない』、普通の人であればおそらくそう思うだろう。
しかし、陽介は思い出した。
『お困りですかな、"人間"さん』
コスプレであってもそれくらいは言うだろう。
しかし、陽介にはその言葉がとても自然に聞こえた。
「本当に、…猫又、なんですか?」
完全に信じているわけではない。
しかし、陽介の目には"期待"が込められていた。
「本当ではあるけれど、なんだか思った反応と違うニャー」
「本物の、妖怪…」
陽介の鼓動が高鳴る。確証はなくとも、洋介にとってはすでにその女性は"妖怪"にしか見えなかった。
「本当にいたんですか、妖怪は」
「お前さんのいた世界じゃ知らないけど、ここじゃ普通ニャ」
「え?」
猫又が何と言ったのか、陽介は最初理解できなかった。
"お前さんのいた世界"
それはつまり、ここはそことは違う世界だということ。
「いったいここは、どこなんですか?」
「ここは、"((妖世|ようせ))"と呼ばれているニャ」
説明 | ||
※本章より、基本三人称視点となります。 これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。 "人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。 ※既にこのアプリは閉鎖となっています。 拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。 |
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