妖世を歩む者 〜1章〜 2話 |
1章 〜向き合う者〜
2話「秘めた決意」
――― "((妖世|ようせ))"。
妖の世(あやかしのよ)、つまりここは妖怪の住む世界なのだろう。
しかしそこで陽介は思った。この猫又が"人間"を知っているということは、
「僕以外にも、この世界に来た人間がいるんですね」
「正解だけど、多分お前さんは勘違いしているニャ」
「勘違い、ですか?」
「お前さんの言うように、他の世界からこの妖世に来た人間はいる。
だけど、この妖世にも元々人間はいるんだニャ」
『人間がいる』。その言葉は、陽介に安堵をもたらした。
妖怪だらけの世界に迷い込む"人間"の自分。例え妖怪が好きであっても、いや、妖怪の恐怖を知るからこそ陽介は不安を覚えた。
しかし、人間がいるのであれば、人間と妖怪が"共存できている"ならば、思ったほどこの世界は危険じゃないのかもしれない。
その陽介の"甘い"考えは、次の一言で否定される。
「ただ、妖怪に襲われることが増えた今じゃ、あまり人間は残ってないけどニャ」
この猫又は、どれだけ陽介の心を弄ぶのか。
妖怪に会えた喜び。別世界へ来たという不安。
人間がいるという安堵。
――― そして、人間が妖怪に襲われるという絶望。
「あなたは、僕をどうするつもりですか」
「どうもしないニャ。珍しい異世界からのお客さんに挨拶にきただけニャ」
「なぜ、僕が異世界から来たと?」
「珍しい服装だからニャ。あとは"勘"だニャ」
陽介の服装は上が白のワイシャツに黒のベスト、下はベージュのズボン。
妖世の人間がどんな服を着ているか陽介は知らないが、この妖世の"一般的な"服装とは違うらしい。
"勘"だと言う猫又は、まだ何か隠しているようにも見えたが、今はそれを言及しても仕方がない。
「元の世界には、…戻れないのですか?」
「それは分からないニャ。さっきも言ったけど、お前さんのように別の世界から来た人間はいたニャ。
だけど、その人間が今どうしているかはさっぱりニャ」
待っていればそのうち帰れる、というのは流石に都合が良すぎるだろう。
自分で帰る手段を探さなければいけない、この、"危険な世界"で。
「それじゃ、挨拶も済んだし、あたしは行くニャ」
「………」
陽介は返す言葉がなかった。この林を抜ける方法を聞きたかった。しかし、相手は妖怪。返ってくる答えを信用できる自信はない。
ただひたすらに突っ立っている陽介に、猫又はやれやれとため息をついた。
「仕方ないニャー。…あっちの方に村があるニャ。そこの妖怪達なら、襲われる心配もないニャ」
猫又が指すその方向にあるのは林のみ。少なくとも見える範囲に村はない。
信じていいのだろうか。
陽介には決められない。信じないとしても、頼る指針はない。
「お前さんはこの先、妖怪に襲われるかもしれないニャ」
陽介がずっと考えていたことだ。そんなことは分かっている。
「お前さんは、妖怪を"頼る"ことなく生きていけるのかニャ?」
(………え?)
考えもしなかった。
人間がほとんどいないと聞いて、頼るものはないのだと思った。
多くの妖怪が住むこの"妖世"。
自分を脅かすのは妖怪。では、自分が頼れるのは…?
自分が頼れるのは自分だけ、とは陽介も思っていない。
自分だけで乗りこえらるとはとても思えない世界だ。
陽介は決めた。
「信じます。あなたの言葉を」
この猫又を"信じる"ことを。
すべてを疑い、すべてから逃げているわけにはいかない。
見極めていかないといけない、自分で。
「ちょっといい目になったニャ。この先お前さんが生き残れることを祈ってるニャ」
陽介のまっすぐな目を見た猫又は、満足そうにそう言うと、陽介に背を向けた。
「"また"ニャ。異世界の人間さん」
「ええ、"また"いつか」
それは生き残るという覚悟を示す言葉。
陽介も猫又が示した村の方向へと歩き始めた。
その足取りは、しっかりとしている。
「そういえば、名前を聞きそびれたニャ」
陽介と別れてしばらく、猫又は思い出したようにつぶやいた。
「"人妖"についても話してないけど、まぁすぐ分かることニャ」
そのつぶやきは、林の中へと消えていった。
説明 | ||
これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。 "人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。 ※既にこのアプリは閉鎖となっています。 拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。 構成) ・1章5話で構成(場合により多少変動) ・5話の2ページ目にあとがきのような何かを入れます |
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