妖世を歩む者 〜1章〜 4話 |
1章 〜向き合う者〜
4話「足取り」
オボはイタチの妖怪の一種。人が歩くのを邪魔する妖怪で、服の一部などをあげると去っていく。
陽介の中では、オボはそういう妖怪だった。
(僕の足をしっかりと掴んでいたのは、妖怪の本能だったんですかね)
そう思うと、自然と笑みがこぼれる陽介だった。
陽介とアトリは今、陽介が歩いていた方向へと歩いている。
アトリは木の実を取りに林へと来ていたらしい。途中で珍しい木の実を見つけ、これはラッキーと取りに向かったそうだ。
しかしそれがまずかった。珍しい木の実を取るために、いつもの道を外れるアトリ。夢中で木の実を集めていくと、そこは知らない場所だった、要は迷子である。
"襲ってくる"妖怪ではなかったが、"頼れる"妖怪でもなかったということだ。
陽介が村へと向かっていることを話すと、
「私の住んでいる村かもしれません!」
と、ついてくることになったのである。
ちなみにアトリが持っていた木の実を分けてもらい、空腹問題は解決している。
妖世にも人間がいるのだから、食べられないことはないと思った陽介。
実際に食べてみると、元の世界の果物に似ておいしかった。
陽介には返せるものがないので少し困ったが、アトリは「道を教えてくれたお礼」と言って断った。
これで陽介の目指す村がアトリの村でなければ、アトリに顔向けできない。
「見えませんねぇ、私の村」
最早陽介の向かっている村が自分の村だと信じているアトリ。
陽介にかかるプレッシャーが、少し大きくなった。
「まさかまた迷子になるなんて。これだから"((足取り|あしとり))アトリ"なんて呼ばれるんだろうなぁ」
「"足取りアトリ"?」
「あっ」
独り言のつもりだったのだろう。陽介が聞き返すと、アトリは照れたように話し出した。
「私、小さい頃からドジで、皆の足を引っ張ってばかりだったんです。探検に出たら迷子になるし、手伝いをしようとするとよく転びますし」
「なるほど」
"足を引っ張る"からアトリという名前とかかって"足を取る"に。
アトリの親も、まさかそんなあだ名がつくとは思っていなかっただろうが、あまりにハマり過ぎていた。
「アトリちゃんは…」
「待ってください!」
陽介が話しかけようとすると、そこにアトリの待ってがかかった。
「ちゃん付けはなんか子供っぽいですし、『アトリ』って呼んで下さい!」
「そっか、じゃあ改めて、アトリはそんな自分が嫌いですか?」
陽介には、自分を嫌いになりそうになった過去がある。
陽介の妖怪好きが、周りから変に見られた頃である。
雨が突然降り出した時は、『雨女の仕業かもしれない』
寝相が悪いという話であれば、『枕返しがやったのかも』
たまに聞くならユーモアで済む話も、度々聞くのであれば、変に思ってしまうもの。
陽介は友人達との距離が離れていくのを感じていた。
妖怪の話をすると皆離れてしまう。
なんで自分は妖怪が好きなんだろう。妖怪が好きじゃなければ、皆が離れることはなかったのに。
友人達が離れていくほどに、陽介は自分が嫌いになっていった。
高校に入ると陽介は、妖怪の話をあまりしなくなった。
妖怪好きは変わらないし、変えられなかった。
もっと妖怪の話はしたいが、友人達と離れたくはない。
そんな少しの我慢で、友人達との距離はまた縮まっていった。
確かに"妖怪好き"の自分は周りには受け入れにくいのかもしれない。
でも陽介は、そんな自分が―――
「嫌いじゃないです!」
アトリの答えに迷いはなかった。
少し過去の自分を思い出していた陽介は、そのハッキリとした声で現実に引き戻された。
「いっぱい失敗したけど、その分いっぱい勉強になりました。まだ迷子になったりしますけど、またいっぱい覚えていけばいいんです!」
"足取り"の自分と向き合うアトリが、陽介にはうらやましかった。
"妖怪好き"を抑えつけた陽介には、アトリがまぶしかった。
(僕も、向き合うことができるでしょうか)
妖怪ばかりのこの妖世で、"妖怪好き"の自分とどう向き合うのか。
陽介の課題は増えるばかりだった。
「あっ、あれ!」
アトリが指差す先、そこに光が見えた。
周りが暗くなり始めているため、肉眼でも確認できた。
「私の村です!行きましょう!」
出会った時の疲れきった姿はどこへやら。
アトリは光の方へと元気よく走っていく。
「待ってくださいよ、アトリ」
陽介もそれに続いて走り出した。
――― その村が、アトリの村であることを切に願いながら。
説明 | ||
これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。 "人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。 ※既にこのアプリは閉鎖となっています。 拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。 構成) ・1章5話で構成(場合により多少変動) ・5話の2ページ目にあとがきのような何かを入れます |
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