ALO〜妖精郷の黄昏〜 第30話 2人の騎士とカーディナル
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第30話 2人の騎士とカーディナル

 

 

 

 

 

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キリトSide

 

ユージオが《バーチカル・アーク》を使い、続けて放った《スラント》が見事にハマり、赤い鎧の整合騎士を破った。

爆炎を振り払って見たユージオの戦いに俺は改めて良い剣士になるなと思う。

いずれ戦ってみることを考えると本当に楽しみだ。

そんな風に思いつつも爆炎によって負った火傷を神聖術で治療する。

 

そしてユージオはというと、整合騎士の目の前に『ハテン』を突きつけ、決着を安易に示している。

しかし、意外にも口を開いたのは整合騎士の方だった。

 

「小僧……最初に使った秘奥義の、名は何だ…?」

「アインクラッド流剣術二連撃技《バーチカル・アーク》…」

「二、連撃技……そっちの、貴様の技は…?」

「キリト、怪我は…?」

「大丈夫だよ、粗方治療できた。俺の技だったな、アインクラッド流防御技《スピニングシールド》だ」

 

整合騎士は俺たちにそう問いかけ、ユージオに続いて近づいた俺も答えた。

彼はしばし沈黙したあと、再びその口を開いて自分自身に語りかけるように話しだした。

 

「人界の端から端まで、その果てを越えた先まで見てきたつもりであったが、世にはまだ我の知らぬ剣や技があったのだな…。

 貴様らの剣や技には一滴の穢れもなく、真摯な修練を積み重ねた重みが篭っていた…。

 穢れた術によって、騎士エルドリエを惑わせたと言ったことは、誤りであったか…」

 

俺は整合騎士の言葉を聞き、彼は真摯で真面目な武人であることを悟った。

騎士は俺たちに視線を向けて再び訊ねてきた。

 

「名を、教えてくれ…」

「剣士ユージオ、姓は無い…」

「剣士キリト。同じく姓は無い」

「剣士ユージオ、剣士キリト……貴様らに、頼みがある…」

 

名を聞かれ、彼を倒したユージオが答えてから俺も名乗り、

俺たちの名を聞いた騎士は頼みがあるいって僅かに頭を下げた。

俺たちは驚き顔を見合わせてから、そのまま騎士の言葉に耳を傾けることにした。

 

「敗北者である我を、アドミニストレータ様はお許しくださらないだろう…。

 騎士たる証の鎧と神器を回収されたのち、永久凍結刑となるのは目に見えている…。

 そのような辱めを受ける前に、我を堂々たる剣で打ち倒した貴様らの手で、天命を断ってくれ…」

「なっ…!?」

 

整合騎士の意志と言葉に絶句するユージオ。

なるほど、確かにアドミニストレータならそうするだろうが、貴重な戦力を態々削るとは思えないな。

そうなると、差し詰め記憶をもう一度改竄してくる可能性が高い。

それにしても、まさかこれほどまでの武人だとは……傀儡にされているとはいえ、根付いている心は素晴らしいものだ。

 

「アンタ、名前は?」

「我は整合騎士、デュソルバート・シンセシス・セブン」

 

その言葉を聞き、俺はさすがに驚いた。

その名はユージオから聞き及んでいるが、俺自身もしっかりと覚えている。

デュソルバート、かつてアリスをルーリッドの村からこのカセドラルへと連行した張本人だ。

アリスを連行したというのならば、彼がここに居ることも納得がいく。

しかし、納得がいくのは俺だけであり、傍らのユージオはそうともいかない。

 

「デュソル、バート……アンタが、あの時の…?天命を、断ってくれだって…?堂々たる、勝負だって……っ!

 たった…たった11歳の女の子を、鎖で縛りあげて飛竜にぶら下げて連れ去った奴が、今更そんな口を利くなぁぁぁっ!」

 

ギリッと唇を噛み、ハテンを握る手に力が篭り、悔恨が、絶望が、怒りを明らかにしていく。

不味いと感じた俺はすぐさまユージオの右手を掴もうとしたところで、

彼の手が不自然に止まり、それを好機として左手で腕を掴んだ。

 

「なんで……止めるのさ、キリト…。こいつが、アリスを…」

「真実を知らずに手を出すな。それに、お前も理解しているだろう?

 おそらく、コイツがアリスを連行した記憶を消されていることくらいは…」

「っ……解って、いるよ…それくらい…」

 

確かにアリスを連れ去ったのはこのデュソルバートであろうが、

彼女を連れ去るように命令したのは公理教会であり、強いてはアドミニストレータである。

かつての己の無力感と罪悪感、そして怒りが溢れてくるのは解るが、それをぶつける相手を間違えてはならない。

やがてハテンを振り上げていた腕の力が弱まり、力がなくなったことで俺はユージオの腕を離した。

 

「兜を外してもらえるか?」

 

俺の言葉に彼は頷き、兜の側面にある掛け金を外し、兜を外した。

 

顔は40歳前後と見える剛毅そのものと言っていい風貌。

髪は短く刈られ、太い眉は鉄錆に似た赤灰色、両眼は鋼の鏃を思わせるほど鋭い。

高い鼻梁と引き結ばれた口許は一刀彫りであるように真っ直ぐだ。

しかし、濃い灰色の瞳は先程のユージオの言葉からか、動揺を映して僅かに揺れている。

 

「騎士デュソルバート。アンタは8年前までノーランガルス北部の辺境を守る整合騎士だった、間違いないな?」

「然り……ノーランガルス北方第七辺境区が、我が統括区であった。

 そして8年前、功績大なりとして、この鎧とともにセントラル・カセドラル警護の任を与えられた…」

「その功績がなにか、覚えているか…?」

 

デュソルバートは最初の問いかけにこそ答えたものの次の質問には即答できず、視線を宙に彷徨わせた。

そんな彼に俺は現実を突きつけた。

 

公理教会の命を受けてアリスを連行したこと、そのアリスが整合騎士になる器であった為にそれが功績となったこと、

整合騎士は天界から召喚されていないこと、同じく整合騎士は人間であり記憶を消去されたこと、

公理教会への忠誠心を埋め込まれていること、例え敗北したとしても再び記憶を改竄されること、

そしてそれを最高司祭であるアドミニストレータが行っていることを伝えた。

 

「そんなことが、あるはずがない……我ら整合騎士が、かつて人界の民であったなどと…。

 信じられぬ…最高司祭猊下が、我らにそのような術を掛けているなど…」

「それが真実だ、現にアンタの流している血は俺たちと同じ赤色だろう。

 騎士エルドリエの様子がおかしくなったのは俺たちが彼の記憶を呼び覚まさせたからだ。

 いまは封じが解けたからなのか気を失っているけどな。

 だから、アンタの中にも残っているはずだ……どんな術でも消し切れない、騎士以前の大切な記憶が…」

 

信じられないと言っていたデュソルバートだが、俺の言葉を聞くにつれてその表情はどこか思い当たることがあるようだ。

 

 

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その時、俺は不意に気配を感じ、そちらを見てみるとベンチに寝かせていた整合騎士、

エルドリエが体を起き上がらせていた。

 

「目が覚めたか、気分はどうだ?」

「最悪、としか言い様が、ないね……だがアルメラと母さん、という言葉…思い出せそうだが、何もわからない…。

 それでも、私は、私の心は、覚えている……やはり私は、人界の民だったようだね…」

 

先程の三角柱の封じが解けたからなのか、思い出そうとすることに関しての弊害は無くなったようだ。

 

「騎士デュソルバート様。私は若輩の身ながらも、この国を『ダークテリトリー』の魔物から守りたいという思いは本心です。

 しかしながら、いまの公理教会では勝つどころではなく、民を徒に失うだけです…」

「騎士エルドリエ…」

「だから私は、思い出したい…。

 私が民であった頃の、大切な記憶を……それを取り戻すことができれば、私はいまよりも強くなれると考えます。

 そのためには彼らと共に進むことこそが最善、例え整合騎士の使命を捨てようとも、ぐぅっ…!?」

 

その時、エルドリエが突如として苦しみ出した。右眼に手を当て、痛みを堪えているようだ。これはまさか…。

 

「右眼が、焼ける…ようだ……なにか、文字のような…ものも、見えて…!」

「しっかりしろ、騎士エルドリエ! くっ、一体どうなっているのだ…!」

「キリト! これ、僕がなったのと同じ現象だ!」

 

苦痛に耐えるエルドリエに俺たちは駆けより、傷を負いながらもデュソルバートは彼を心配しており、

ユージオはつい先日に自身が体験したものと理解したようだ。

俺は彼の眼を覗いてみると、そこには反対向きにだが間違いなく『SYSTEM ALERT』という文字が警告として現れている。

なるほど、ユージオはこれに耐えてウンベールを斬り、ロニエとティーゼを間一髪で救ったわけか。

ならば俺がやることはただ1つだ。

 

「いいか、エルドリエ。それはお前たちが公理教会に逆らわないようにするために施されているものだ。

 そのまま教会から離反する意思を持っていると右眼が吹き飛ぶ。このユージオもそれを受けて右眼が吹き飛んだからな」

「なんだとっ!?」

 

俺の説明に驚いたのはデュソルバートであり、当事者であるユージオはそれに頷いて応えた。

一方、エルドリエが痛みに耐えたまま話を聞いていたが、不意に話しだした。

 

「右眼が、吹き飛んだ、ところで……死には、しないのだね…?

 学院生であった、彼に出来て…整合騎士の、私が耐え切れないなど、笑い種では、ないか…!

 これで、私の記憶を…取り戻せると、いうのならば……耐えて、みせようではないか!」

 

そう宣言したエルドリエは夜が明けた空を見上げ、高らかに叫びだした。

 

「最高司祭、アドミニストレータ!私は貴女の操り人形などにはならない!

 私から奪った記憶を、家族との思い出を、私自身を取り戻すためにも……私は貴女と戦おう!」

 

彼は自身で体を押さえつけながら、右手で右眼を抑え……直後、エルドリエの右眼から血飛沫があがった。

 

声を上げずに耐えきってみせたエルドリエ。

彼の右眼は既に高等神聖術によって完全に治癒されており、俺たち…デュソルバートを含めて全員が回復している。

そのデュソルバートはというと、先程の俺たちの光景を見ていたからなのか、ある言葉を口にしだした。

 

「人界に降り立った頃から、何度も同じ夢を見たのだ…。

 我を揺り起こす小さな手と、その指に嵌められた銀の指輪……しかし、目覚めても…そこには誰もいない…」

 

その言葉にユージオはハッとしている。俺の考えでは、それは彼の妻なのだと窺える。

小さな手ということから女性なのだろうし、銀の指輪を嵌めているというのも婚約か結婚の証だろう。

ユージオもそれに考え付いたからなのか、悲痛そうな表情をしている。

 

「騎士デュソルバート様。おそらく、その光景こそが貴方の大切な記憶なのでしょう。

 ですがそれを、貴方は奪われている…」

 

エルドリエもユージオと同様に封じこそ破ったものの、まだ記憶を取り戻せていないからなのか、

デュソルバートを気遣う色が濃い。上手くいくかは微妙だがやるしかないな。

 

「アンタの名前は、デュソルバート・エーレンブルグだ」

「デュソルバート・エーレンブルグ……それが、我の…」

「100年以上前に行われた四帝国統一大会でアンタは優勝したんだ!

 南帝国の出身で、剣の腕も然ることながら弓の腕前は四帝国随一とさえされていた!

 アンタは弓で出場し、その腕前で見事に異例の弓での優勝を成し遂げてみせた!

 当時の騎士団で将軍の補佐を務め、部下からも慕われていた!

 奥さんの名はルイーナ・エーレンブルグ、アンタの最愛の女性だ!」

「南、帝国の…将軍補佐……妻の、ルイーナ………ルイーナ…」

 

俺の呼びかけにエルドリエの時同様、額に逆三角形の三角柱が浮かび上がってきた。

正直、エルドリエも昔の人物であるからかなり難しいだろうが、やらないわけにはいかない。

 

「そうだ、妻のルイーナだ! アンタの最愛の女性は年老いながらもアンタの帰りを待っていたはずだ!

 何よりも無事を願うだろうが本心では帰りを何よりも願っているはずだ!

 どんな人でも、愛する人の無事な帰りを願う……俺を待ってくれている女性がいるように…!

 アンタの奥さんは、死ぬ直前まで待っていたはずだ!」

「ル、イーナ……そうだ、我は…ルイー、ナに……約束、したのだ…。

 必ず、帰る…と……我は……ルイーナの、元に……帰る…ぉ、おぉぉぉぉぉっ!」

 

俺の呼びかけに応えるようにデュソルバートは声を荒げ、しかし己の目的をハッキリとさせるように叫ぶ。

三角柱は一気に額から現れて地に落ち、また“帰る”という言葉が整合騎士の使命に反するからなのか、

右眼を抑え……血飛沫が上がった。

 

まさか、いきなり同時にやってのけたのか……しかも、意識を失うことなく、目的までハッキリさせて…。

呼吸を荒げながらも整えていき、剛毅な表情へと戻す彼はまさしく益荒男というべきか…。

この世界の人間は、本当に俺を驚かせてくれる。

 

「騎士エルドリエ、治療を頼んでも、良いか…?」

「は、はっ! システム・コール!……………」

 

エルドリエに頼み、彼はそれに応えて高等神聖術による治癒を始めた。高速詠唱の後、

デュソルバートの右眼は綺麗に元通りとなった。彼は僅かな間考えた様子を見せたあと、俺たちに向き直った。

 

「ルイーナ、そして帰るという約束だけが…いまハッキリと我が覚えていることだ。

 他のことはうろ覚えでしかないが、それでも目的は定まった。

 剣士キリト、剣士ユージオ、礼を言おう……お陰で、何と戦うべきか分かってきたようだ」

「そりゃ良かった」

「僕は別に…」

 

彼の言葉に俺は素直に嬉しく思い、ユージオは複雑そうだ。

仕方がないことかもしれないが、少なくとも怒りをぶつけることはしないだろう。

 

「そこで、だ……もし良ければだが、我も同行させてもらえないだろうか?」

「勿論、私もだよ」

 

デュソルバートとエルドリエの提案に俺は心躍る気持ちになった。

この2人とは剣を交えたからこそ、卑怯な手を使う人間ではないと分かっている。

高等神聖術に《武装完全支配術》、《記憶解放》、さらに剣などの達人ともなれば戦力としては申し分なしである。

だが、ユージオはどうだろうか……彼を横目で見てみると、俺の視線に気付いて苦笑した。

 

「キリト。幾ら僕でも彼らがライオスたちとまったく違うことくらい解っているさ。

 僕もアリスを取り戻したいから、手数は多い方がいいし」

 

思うところもあるようだが、やはりそれはアドミニストレータにぶつけるべきだと、理解しているらしい。

 

「なら決まりか……よろしく頼む、2人とも。俺のことはキリトで構わない」

「僕はユージオで構いません」

「私のことはエルドリエで構わないよ。キミたちは私よりも強いからね」

「我もデュソルバートで構わん。よろしく頼むぞ、キリト、ユージオ」

 

こうして俺とユージオは大切な記憶を取り戻すために動き出したエルドリエとデュソルバートと手を組むことになった。

 

 

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まずはデュソルバートが乗ってきた飛竜だが、彼を回復させてから北辺境区の国境付近で守らせることになった。

飛竜に乗って移動することも可能だろうが、おそらく出入りするための場所は封じられることになるだろう。

同時にかつて俺とユージオが北の洞窟でゴブリンの先遣隊と遭遇したことを伝えた結果、

国境守備に回すことが得策であると判断した。

危険になったら帰ってくるようにデュソルバートが言い聞かせたあと、飛竜は北へ向けて飛び去った。

 

そして整合騎士である2人の案内で塔を進もうとした時、俺の元に小さな飛行体がやってきた。

それに気付いた他の3人が警戒したが、俺は知り合いだといって彼女を迎え入れた。

 

「シャーロット、無事だったか」

「はい、キリト。貴方も無事で良かったです……でもまさか、3人も封じを解くとは思いませんでしたが…」

 

どうやら様子を窺っていたようで、ユージオたちのことを知った彼女は大層驚いている。

 

「キリト……この、小さな女の子は一体…」

「彼女はシャーロット。アドミニストレータと敵対している人物の補佐なんだ。まずはその人のところに向かおう」

「最高司祭殿に敵対している…? しかし、そんな者がどこに…」

 

驚いているユージオ、一方でデュソルバートは敵対している人物が居たこと自体に驚いているようだ。

まぁ居る場所が居る場所らしいけど…。

 

「ここ、カセドラルの中だ」

「「「はっ…?」」」

 

3人とも呆けた様子を見せ、俺は思わず苦笑する。

シャーロットの案内の元、俺たちは迷路の中を歩きだし、行き止まりへと到達したのだがそこに扉が現れた。

さすがに俺も驚いたが、扉が開いてシャーロットが入るように促したため、ユージオたちを先に中に入れ、

俺は外に蠢いていた蜘蛛らしき生き物を剣で引き裂いてから中へ入った。

 

扉の中は僅かに暗闇であり、俺たちはシャーロットに促されるままに廊下と思わしき場所を奥に進んだ。

すると、急な階段があったのでそこを登りきると丸眼鏡を掛けた1人の少女が待っていた。

全員が階段を登りきったところで少女は鍵束の内の1本を手早く選び、すぐさま施錠を行った。

 

「探知されたか……このバックドアはもう使えんが、十分役に立ってくれたな」

「キリト、みなさん。このまま奥へ進んでください」

 

少女の言葉のあとにシャーロットがそう言ったので俺達は従い、廊下の奥へ進んだ。

辿り着いた場所は真四角の小部屋であり、壁にはランプなどが掛けられている。

少女が俺たちのあとから部屋に入ると、「ほいっ」という掛け声と共に手に持っていたスタッフを振りかざし、

直後に地響きと共に壁が動きだし、俺たちの通ってきた廊下がただの壁と化した。

この光景に他の3人は驚いているが、俺の考えが正しければこの少女ならばこの程度のことは容易にできるだろうと判断した。

 

灯りに照らされたことで少女の姿を確認することが出来た。

ベルベット様の光沢がある黒いローブに身を包み、

頭には同じ素材と思われる大きな博士帽を被っているためか、魔法使いでありながら学者のようにも見える。

髪は栗色の巻き毛となっており、肌はミルク色となっている。

鼻にちょこんと乗る丸眼鏡の奥の瞳からは知識と叡智を感じさせる。

 

「ついて来るがいい。もてなさせてもらう」

 

少女が正面の壁にある大きな扉に向けて杖を振るうとそこが開き、先に奥へと入っていく。

俺がそれに続き、驚くユージオたちもそれに続いてきた。

けれど、さすがの俺も次の現れた光景には目を剥かざるをえなかった。

その空間は高さが軽く40m以上もあり、壁一面を本棚と本によって埋め尽くされている。

 

「ここは、セントラル・カセドラルの内部なんですか…?」

「我は、長きに亘りこのカセドラルに居たが、このような場所があるとは…」

「これほど大規模の書庫があるとは、聞いた覚えもない…」

 

ユージオが驚愕のままにデュソルバートとエルドリエに訊ねるも、その2人も呆然としたままでゆっくりと反応した。

その3人の反応を僅かに楽しんでいる様子を見せながら、少女は言葉にしだした。

 

「そうであるとも言えるし、違うとも言えるな。

 この『大図書室』の本来の扉はわしが消去したゆえ、わしが招かない限り何者も入ってくることはできない。

 この大図書室には、この世界が創造された時よりのあらゆる歴史の記録と天地万物の構造式、

 そして全ての神聖術が収められておる」

「歴史の、全てが…」

「それに神聖術の全ても…」

「なんということだ…」

 

少女の言葉にユージオもエルドリエもデュソルバートも絶句しながらも呟いた。

どこか自慢気なシャーロットとニヤリと笑みを浮かべる少女に対し、俺は苦笑してから言う。

 

「そろそろ、名乗ってもいいんじゃないのか?」

「ふん、お主はわしのことを知っておろうが……まぁよかろう、そっちの3人は知らぬしの…。

 わしの名はカーディナル。かつてはこの世界の調整者であり、今はこの大図書室ただ1人の司書じゃ」

 

ついに出会えた、この世界の真なる統制者『カーディナル』。

茅場から聞き及び、この世界の状態を知り、対策を持って時間を過ごしてきたが、ようやく報われる時が来た…。

その時、ユージオが不意に口を開いた。

 

「あらゆる、歴史……四帝国の建国以来の年代記が、ここにあるんですか…?」

「勿論じゃ。他にも、ステイシア神とベクタ神による人界とダークテリトリーに別たれた頃の創世記すら所蔵されておる」

「な、なんと!?」

「本当ですかっ!?」

 

歴史好きのユージオが聞くとそう答えたカーディナル。

また、創世記のものの本があることに2人の整合騎士が驚いている。

ふふっ、と笑った彼女は食事と休息を提案し、杖を振りかざして小さな円卓を出現させると、

そこにサンドイッチやソーセージ、まんじゅうや揚げ菓子さえも出してみせた。

 

「ユージオ、それにエルドリエとデュソルバート。お主らはまず風呂にでも入ってくるがいい。

 神聖術で傷は癒えても疲れは取れていまい。ここはアドミニストレータの害も及ばぬから、安心しろ」

 

名乗ってもいないのに名前を言い当てられた3人はまたも驚いた様子を見せたものの、今更だと思ったようだ。

 

「カーディナルさん……その、えっと、創世記というのは、どの辺に…」

「あの階段から先が歴史の回廊じゃ。風呂を終えたら食事を取りながらでも読むといい」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

シャーロットに案内されて風呂場へ向かって言ったユージオ。

それに続いていこうとした騎士をカーディナルが止めた。

 

「騎士エルドリエ、騎士デュソルバート……お主ら、よくぞ封じを破り個人を取り戻した。

 お主らの記憶を取り戻せるようにわしも全力を尽くす……ゆえに、いまは休め」

「「……はっ!」」

 

カーディナルの慈愛が含まれた言葉はどこか統べる者に近いものがあり、

やはりそれは全ての知識を得ているからなのだろう。

彼女の正体を知ってはいないだろうが、2人は彼女がそれなりの存在であることを肌で感じているようで、

毅然とした態度で応えたあとに風呂場の方へと歩いていった。

 

 

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2人が去り、入れ替わりでシャーロットが戻ってきたところで、俺たちは円卓の椅子に座る。

 

「さて、あの者らには悪いが、これで本題に入れるの…」

「あぁ。知っているとは思うが、会うのは初めてだから名乗っておこう。キリトだ、よろしく」

「うむ………わしは、お主が来るのを待っておったぞ…」

 

どこか感慨深く言ったカーディナル。

俺が早くに禁忌目録を破っていれば、早くことを進めることはできただろうが、それでは意味がない。

1人では何もできず、ただ終わらせるだけでは意味が無いのだと、俺は知っている。

とはいえ、あまり感傷に浸っているのも良くない、早いところ用事を済ませないとな。

 

「システム・コール、オブジェクト・データ、『リバイバルス・コード』。

 カーディナル、これがアンタに疑似管理者権限を与えるプログラムだ」

「これが……これで、わしの役目も…。感謝する、キリト…」

「礼を言うのは全てを達成してからだ。まずはこれを自分に使え」

 

俺がコマンドを唱えて出現させたのは1枚の紙。

ただの紙のように思われるが、これは茅場の指示の元に俺が構築した補助プログラムである。

 

なぜこれを彼女に渡すのか。

それは彼女が最高司祭アドミニストレータによって取り込まれたカーディナル・システムの片割れであるからだ。

アドミニストレータのかつての名はクィネラといい、いま目の前に居るカーディナルは分離した存在である。

その存在意義はカーディナル・システムのサブプロセスである“メインプロセスの過ちを正せ”であり、

この場合はメインプロセスがアドミニストレータに当たる。

 

 

 

そもそも、全ての始まりはこの世界の誕生からだ。

 

この世界にステイシア神、ソルス神、テラリア神、ベクタ神は存在しないが、それに該当する存在が4人居る。

それはこの世界の最初の人間である4人のラースのスタッフを指す。

男女2人ずつを『原初の4人』といい、彼らはこの世界で人工フラクトライトを育てた。

この世界において彼ら4人は人間として最高級の知性を持っていたが、その内の1人は善ならざる者だった。

そいつの性根である闇が子に引き継がれ、のちのライオスなどの存在の起点になっている。

 

俺は、選ばれた4人の顔を覚えている。

1人は慈愛がある優しい女性、もう1人は陽気で明るい男性、

もう1人はしっかりとした考えを持つ強気な女性、そして最後の1人は冷静で落ち着いた様子を見せた男性。

だが俺は、その最後の男にどこか違和感を持っていた。

前者の3人が光の三神であるとすれば、最後の男が闇の神であり、全ての原因なのだ。

 

そして時が流れ、クィネラが生まれた。彼女はかなりの美貌を持って生まれ、最大級の利己心すら持って…。

神聖術の才能も発揮し、奴はありとあらゆる術を手にし、のちに周囲の人間たちは奴を神の御子と崇めるようになった。

奴は神の名の下に貴族に爵士の地位を与え、支配のために身分制がうまれた。

 

再び時は流れ、クィネラも老いてくるようになった。

だが奴は己の欲望のままにカーディナル・システムと融合し、その力を揮った。

破壊不能な壮大な壁である『不朽の壁』、“割れない巨岩”、

“埋められない沼”、“渡れない激流”、“倒せない大樹”など作り上げた。

それはカーディナル・システムのプロセスである『秩序の維持』に基づいた行動であるといえば間違いではないのだろうが…。

 

とにかく、クィネラはその力の一端を用い、個人のライトキューブの限界を回避するべく、

1人の見習い修道女を呼び寄せ、フラクトライトを操り自身のバックアップとした。

その少女の肉体こそ、いま目の前のカーディナルの肉体であるわけだ。

カーディナルは影の意識として人格を持ってから虎視眈々とアドミニストレータの隙を窺い、

隙を突いて最大級の神聖術を喰らわせ、その天命を大幅に削った。

しかし失敗し、彼女は逃走、大図書室に隠れることができた。

 

カーディナルが離れたことでアドミニストレータの行動は過激化し、

人体実験を繰り返し、フラクトライトの操作技術を高めた。

様々な整合騎士や元老院を支配下に置き、己の支配欲を満たし、力も蓄えた。

整合騎士の半数が禁忌を破った犯罪者、もう半分は大会の優勝者となっており、

1番であるベルクーリ・シンセシス・ワンの実力は如何程か…。

そんな話しになっていたがカーディナルは俺に勝てる者はこの世界に居ないと言った、解せぬ。

 

その一方でカーディナルは魂の限界量を防ぐべく、己の記憶を整理して記憶を本に記録し、

アドミニストレータの情報を収集し続けた。

個人で勝利する事は叶わず、それならばせめて時が来るまでの武器とするために。

 

そしてもう1つの問題は『ダークテリトリー』。彼の領域の者達は着々と戦争の準備を整えているという。

過去に東西南北に配置されていた守護竜たちは整合騎士に殺されているというし、子供が聞いたら泣き出すこと違いない。

ダークテリトリーの侵攻を止めることは叶わず、アドミニストレータと整合騎士でもそれは不可能、最早絶望的である。

そんな折り、“倒せない大樹”…つまりギガスシダーを切り倒したユージオと俺の事を知り、使い魔の監視をさせた。

ゴブリンの討伐を知ったうえに、俺が接触してこの世界の救済を申し出たことで希望が出て、

カーディナルはずっと待っていてくれたのだ。

 

「しかし、キリトよ。本当にアドミニストレータの討伐とダークテリトリーの者らを倒すことなど、できるのか?」

「原初の4人の1人に心当たりがある。指摘できなかった俺の失態だが、責任は取るさ。

 ここに来る前に((向こうの敵|・・・・・))の対策も展開してきたし、

 ダークテリトリーの奴らが侵攻してきても対応できる策もある。

 だからあとは、アドミニストレータを倒してこの世界の制御を奪還し、ダークテリトリーの敵を倒す」

「っ……ほんに、お主は…」

 

俺は覇気を放ってそう宣言した。カーディナルは嬉しそうに涙を滲ませ、ゆっくりと俺に近づいてきた。

 

「キリト。一度だけ、抱きしめてはくれぬか…?」

「お安い御用で…」

 

彼女の頼みに応じ、俺はユイを抱き締める時のように優しく腕を回して抱き締めた。

 

「これが、人間であるということか………あったかい…。

 やっと、報われた……わたしの、200年は…無駄じゃなかった…。この温かさを知れただけで、わたしは……充分…」

 

小さく呟きながらも確かに聞こえたカーディナルの言葉。

俺は彼女に温かさを伝えられるように、もう一度強く抱き締めた。

無駄にしてなるものか、長い年月をこの小さな体で、1人で頑張ってきたカーディナルを、消させはしない。

 

だから、アドミニストレータも、ダークテリトリーも……俺が、俺たちが……倒す!

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

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あとがき

 

カーディナルの邂逅となりましたが、同時にエルドリエとデュソルバートが参入しました。

 

まぁある程度は予想できたと思われますが・・・。

 

エルドリエの母親との約束、デュソルバートの過去と経歴はオリジナルですので気にしないでいただければ幸いです。

 

ちなみにキリトがデュソルバートのことを知っていたのは学校の図書館の資料ですw

 

さらに茅場によって齎された情報を元に組み上げたプログラム、これによりカーディナルが疑似管理者権限をGETです。

 

また、本作ではキリトが開発に携わっているので“悪の要因”は察しています。

 

まぁそこはキリトが現実世界に戻ってからということで・・・。

 

次回は《武装完全支配術》の会得と整合騎士戦です、頑張って書きたいと思います。

 

それでは・・・。

 

 

 

 

説明
第30話になります。
整合騎士を2人倒したキリトたち、ここからどう動くのか・・・。

どうぞ・・・。
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コメント
アサシン様へ ども、お久しぶりです・・・まったくもって過剰戦力ですが、これだけでは済まないかもしれないというw(本郷 刃)
アサシン『お久しぶりです。最新刊はいまだ読んでいませんが・・・・・・・過剰戦力に成りそうですね(汗▽汗)』黒士無双とその弟子。公式チート騎士が二人・・・・・・・・南_無(アサシン)
ディーン様へ キリト「母親にまで嫉妬するとはな(微笑)」 アスナ「前にも似たようなこと(SAOの時)があったよね〜」 ユイ「海の中は綺麗なんでしょうね♪」 刃「カラオケか、自分もそろそろ行きたいなぁ・・・評価はAAですよ」(本郷 刃)
これから映像を送ります、内容は「ルナリオと翠さんが仲良くしているのを見て嫉妬しているリーファ」と「ヴァルがまた触手に捕まったシリカを助ける」と「シャインとティアがダイビングに挑戦している」と「ハジメとシノンが二人っきりでカラオケを楽しむ」の4作品です、評価お願いします。(ディーン)
肉豆腐太郎様へ シリカ「キリトさんは絶対にライオンですね、ヴァルくんとルナリオ君は中型犬、ハクヤさんは大型犬、ハジメさんは鷹、クーハ君は猫ですね・・・アスナさんもライオン、リーファさんは中型犬、リズさんとシノンさん、リンクちゃんは猫だと感じます」(本郷 刃)
シリカさんに質問、キリト達を動物に例えて下さい。動物の感性はシリカさんが一番強い気がするので(肉豆腐太郎)
イバ・ヨシアキ様へ ハクヤ「鉱石とかに目聡いところとかカラスっぽいと思うw 子供かぁ・・・生まれりゃとにかく愛するよ(真剣) お・ね・え・ちゃ・ん(囁く感じで)」 リズ「ぶふぅっ//////!?(鼻血)」(本郷 刃)
イバ・ヨシアキです。ハクヤさんとリズさんに質問したいと思います、まずハクヤさんに「リズさんを動物に例えるならば、どんなイメージがありますか?」「将来子どもは何人希望ですか? 」「リズさんにお姉ちゃんと一言どうぞ」(イバ・ヨシアキ)
肉豆腐太郎様へ ですよね〜(本郷 刃)
そう言うものですよ(肉豆腐太郎)
肉豆腐太郎様へ なんかほのぼのとするイメージしか湧きませんねw(本郷 刃)
おれとしてはユイちゃんがピナに乗って竜騎士ごっこしてるのを見てみたいな(肉豆腐太郎)
ディーン様へ リンク「それでそれで?」 クーハ「それでだな、なんとその後ろに女の顔が…!」 アスナ「いやぁ〜っ!?(涙)」 キリト「大丈夫大丈夫(役得役得♪)」 ハクヤ「楽しみだなw」 リズ「かなり、照れるわね///」 ユイ「猫さんが長靴を履いていますね」 ピナ「きゅ〜」 クライン「これをこっちにおいてっと…」 カノン「こんな感じでいいかなぁ」(本郷 刃)
今から写真を送ります、内容は「キリトとアスナとクーハとリンクが怪談話をしている」と「ハクヤがリズに新婚ごっこの準備をさせている」と「ユイちゃんとピナが長靴を履いた不思議な猫に出会う」と「クラインとカノンが夏祭りの屋台の手伝いをしている」の4枚以上です。(ディーン)
ガルム様へ キリト「ニガサナイニキマッテイルダロウッ!」 キリトさん怖いです・・・(本郷 刃)
(・・・カチッ) よし。(キリトがカーディナルを抱きしめてるシーンを撮影) 後はこれをアスナさんに渡すd・・・殺気!?逃げるんだよぉぉぉ!!!(ガルム)
弥凪・ストーム様へ 後半には入っていますからね、原作であったシーンが省かれたりする予定ですし(本郷 刃)
影図書様へ フラグじゃないお・・・・・・多分(本郷 刃)
観珪様へ 残念、ユイちゃんはアスナの手の内ですww(本郷 刃)
タナトス様へ そう言っていただけるとホッとしますw(本郷 刃)
肉豆腐太郎様へ バーサーク化したアスナは入りません・・・というかキリト相手にアスナがバーサーク化しても色んな言葉で解除しますねw(本郷 刃)
是は終盤に近付いてきたですね(弥凪・ストーム)
キリトさん、 そこでフラグはどうかと(影図書)
これからは整合騎士さんの活躍に期待。 とりま、キリトさんがカーディナルちゃんを取るなら、ユイちゃんはボクがもらっていきますねー←(神余 雛)
デュソルバートかっこいいw(タナトス)
↓バーサーク化したアスナさん入りますか?(肉豆腐太郎)
やぎすけ様へ ウチのキリト(和人)に剣で勝てる人間は師匠を含めて実は4人居ると言う・・・w(本郷 刃)
サイト様へ キリト「隊長、すぐそちらに向かうから待っていろ・・・あぁ逃げても構わんが逃げられると思わない方がいいし勿論逃がすつもりもない」(本郷 刃)
クロス様へ しかしそのムチをキリトが奪ってアスナに使うんですね、解りますw(本郷 刃)
このキリトに剣で勝てるのは、師匠を入れても世界中に1人、2人ぐらいしかいない気がする(苦)(やぎすけ)
隊長「・・・キリト君浮気ですか?φ(..)メモメモ」 サイト「まて!早まるな!?妹か娘を諌める為に抱きしめるようなものかもしれんだろΣ(・ω・ノ)ノ!」(サイト)
キリトさんフラグ立てたんじゃないですか?嫁さん(アスナ)がムチを持ってリアルで待ってますよ……。(クロス)
ディーン様へ 騎士2人の加入になりました・・・・・・シノンの活躍もさすがでしたが、アニメオリジナルのキリアスのシーンも良かったですね(本郷 刃)
しらたき様へ 抱き締めていると言ってください、いやマジでw(本郷 刃)
キリトとユージオに新たな仲間が加わった、そしてカーディナルと出会いましたね、次回はここの黒幕の下に行くのかな、次回を楽しみにしています、そしてアニメの2話はシノンが活躍してましたね、そしてシリカは結局触手に捕まる、そしてキリアスのイチャイチャ最高です。(ディーン)
キリトが他の女を抱いてる・・・アスナがいないところで・・・アスナが怒るのが目に見えてるw(しらたき)
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ソードアート・オンライン SAO UW キリト ユージオ カーディナル 

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