妖世を歩む者 〜2章〜 1話 |
2章 〜鍛える者〜
1話「現実」
――― 死ぬ。
妖怪に"まだ"襲われたことのない陽介は、動揺した。
最初に会った猫又には、この世界のことを教わった。
次に会ったアトリとは、共にこの村まで歩いてきた。
そしてサクヤさんには、優しい笑顔で迎えられた。
人間が妖怪に襲われるという現実を知ったはずだった。
しかし、この妖世で"幸運な"出会いが続いた陽介は、その現実を軽く見ていたのかもしれない。
「今のあなたでは、次の村に着くことも出来ないかもしれません」
でもこの村までは無事に辿り着いた、と陽介は言いたかった。
しかし、サクヤの真剣な眼差しは、それを許さない。
"運が良かっただけ"
それが陽介がこの村まで辿り着いた理由なのだ。
それが、"現実"なのだ。
「凶暴な妖怪に会えば、それまでです」
現実は尚も突きつけられる。サクヤの言葉は、陽介にグサリと刺さり続ける。
「…僕がこの村から出て行くことは、できないのですか?」
振り絞った言葉は、必死に何かにしがみつこうともがくような、頼りないものだった。
「どうしても、北の地へと向かいたいですか?」
しかし、もがいたその手が、何かを掴んだ。
「向かいたいです。元の世界に、戻りたい。その手がかりが、北にあるかもしれない。今の僕の、唯一の指針、なんです」
途切れ途切れになりながらも、陽介はその気持ちを言葉にした。
この妖世に興味がないとは言わない。"死"という現実がなければそこは、陽介にとって夢の世界だから。
だが、妖怪に襲われながら生き抜くことが、自分にできるのか。
元の世界に残してきた家族や友人達はどうなるのか。
心配させてしまっているのでないだろうか。
少なくとも、このまま妖世で生き続けるという選択肢は、今の陽介にはない。
妖怪に襲われることのない元の世界に戻る方法を探すためには、妖怪に襲われる世界へと飛び出さなくてはいけない。
正解か不正解かは決められない。
ただ、陽介の"元の世界に戻りたい"という気持ちは、本物だった。
「仕方がありませんね」
サクヤは苦笑ではあるが、その顔に笑みを浮かべていた。
「それならば、半月です」
「えっ?」
陽介にはサクヤが何を言っているのか分からなかった。
妖世でも年月などの概念は一緒なのだろうか、と見当違いなことを考えていると、
「半月で、私があなたを強くします。妖怪に襲われても、"死なない"ように」
――― "勝てる"ではなく"死なない"。
それが"現実"。しかしその現実は、陽介には刺さることはない。
陽介はしっかりとその現実を"受け止めた"。
「陽介さん、北の大陸へ行くんですか?」
それまでおとなしく話を聞いていたアトリが尋ねる。
「そうね。半月で及第点までいければ、だけど」
及第点に届かなければダメらしい。陽介の体に緊張が走った。
「それじゃあ、私も一緒に行きたいです!」
「「えっ?」」
アトリの突然の申し出に、陽介とサクヤの声が重なった。
「本気で言ってるの?アトリ」
「うん!私も北の大陸へ行きたい!」
聞き間違いではない。アトリは本気だった。
未だに困惑している陽介だが、サクヤは何かに思い至ったようで、
「…姉さん達に、会いに行きたいのね」
「……うん」
その推測は間違っていなかった。
先ほどまでの勢いはなかったが、サクヤの言葉にアトリは力強く頷いた。
説明 | ||
これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。 "人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。 ※既にこのアプリは閉鎖となっています。 拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。 構成) ・1章5話で構成(場合により多少変動) ・5話の2ページ目にあとがきのような何かを入れます |
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