コードヒーローズ〜魔法少女あきほ〜
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第二十六話「〜流 星〜ちりゆくホシボシ」

 

 

 

 

 

 相手は見違えるほど強くなってきている。戦っている最中でもそれは感じられた。この短期間で我の星の動きを捉えてきている。もちろん完璧とは言えない。第六感。それで動きを捉え始めているのだ。エイダの助言があったとしても、それだけでは対処できないはずだ。

 黒き炎の斬撃が、魔鎧を、衣服を斬り裂く――。

 我の身を守るものがとうとう斬られた。

 されど胸中に湧き上がる感情は悦楽。彼が我の顔を見ることが出来たならきっと笑っているだろう。命の鬩ぎ合い。生と死の間でしか味わえない高揚感。それが心身を熱く滾らせる。

――二撃目が首に迫った。

 寸分違わず迫る黒き刃。炎で形勢されているためか、時折揺らめきそれが刃の軌跡を読みにくくさせている。

 星となり星座を描いて転移する。飛ぶ場所はオニキスの背後。

 ピッタリと背後に飛ばず、一息で懐に飛び込めるくらい間を置く。

 握られた宝具を視界の端で確認。魔力を込めた――。

――どうかこの剣で我が国をお守りください――

 ふと脳裏に、この剣を我に授けてくれたお方が過る。

 ――紺色の光が煌々と光った。一息で振りぬく。が、背中に黒い一閃がそれを阻んだ。

 一瞬の動きに対応し、二振りあった武器を連結させ、竿状の棒としそれを背中に回して攻撃を防いだのだ。そのままの勢いで押し切ろうとしたが、空間が歪んだように見えた。

 超常生命体10号と呼ばれている、白い戦士の姿を思い出す。

 ほぼ本能。飛び退き転がった。そしてそのまま相手と距離を取るべく、星座を描き転移する。

「なるほど。一筋縄ではいかないな」

 相手に対する賞賛だ。

 しかしオニキスは答えない。息を乱しながらも真っ直ぐに我を見据えている。

「言葉を交わしてももらえないか」

「いや、楽しくてさ」

「楽しい?」

 相手の意外な返答につい聞き返してしまう。

 オニキスは「ああ」と言うと、構えを解いた。

 今が攻撃の絶好の機会である。しかし、我はそれを良しとしない。それをわかっていて彼もそうしているのだろう。

 構えを解き、相手の言葉を待った。

「貴方と戦うのは楽しい。戦う度に俺に足りないものがわかるんだ。そしてまた強くなれると俺は確信出来る」

 ルワークの姿が重なる。そうだ我が主もこんな時期があった。

「強くなってどうするつもりだ?」

 かつてルワークと同じ問答をする。その時は「俺が最強の覇者として、君臨する」だったな。オニキス、お前はどう答える?

「超常生命体10号。そう呼ばれている奴を倒す」

 純白の戦士。奴を倒すというのか? さすがに今の強さでは奴に敵うまい。

「貴方を倒して、奴も倒すさ」

 オニキスの声は真剣そのもの。いつの間にか構えをとっている。一瞬、ほんの一瞬だけこいつなら勝てるかもしれないと思わせた。

「ふふ……」

「何が可笑しい?」

「いやな。お前と戦えるのがより楽しくなってきたのだ。いくぞオニキス」

 

 

 

 言葉が終わると同時に互いに動き出した。先に仕掛けたのはオニキス。

 手に持つ武器は漆黒の竿状の棒。両端の先端から黒き炎が吹き出る。両刃の剣。それを振り回しながら飛びかかった。

 漆黒の連撃がオリバーを襲う。が、たやすく受け止められる。

 魔鎧と空間湾曲領域の激突。2人が肉薄するだけで衝撃が生まれ、地面を空気を震わせた。

 互いに人智を超えた力学が作用しているだろう。

 オリバーは一度受け止めた攻撃を引き、押し返した。

 オニキスは低い試製のまま地面に着地する。彼の眼前にはオリバーの姿はない。背後に一撃を見舞うが、空を切る。

「こっちだオニキス!」

 声は上から降ってきた。オニキスは瞬間的に視線を向けて、武器を棒から二振りの刀へと変えた。

 上空から紺色の一撃がオニキスを襲う。寸で避ける。オリバーに追撃の攻撃を見舞うが、彼は余裕を持って飛び退く。星座の動きでさらに撹乱させた。

 それでも第六感。それでオニキスは追撃を成功させて、鍔迫り合いに持ち込む。

「ぬぐぅ!」

「はぁあああああああッ!!」

 気合一閃。オニキスはそのまま押しこむが、逆に勢いを利用されて距離を取られる。

 オリバーの剣に紺色の光が輝き放つ。周囲が紺色の世界へと変わった。

「星の一撃! 受けてみよ!」

 紺色の流星が真っ直ぐにオニキスを襲う。彼は跳躍して避けるが、二撃目がすでに放たれていた。寸分違わず彼はそれを受けてしまう。地面を転がり、建物に激突する。

 衝撃は凄まじく、建物が倒壊するほどだ。が、瓦礫はオニキスに降り注ぐことはなく、彼に降り注ぐはずだったモノは全て直前で砕け散る。

 オニキスは起き上がり――

 オリバーは間髪入れずに追撃を入れた。

 ――地面を転がってやり過ごす。

 カポエラーの要領で起き上がり、蹴りを見舞う。

 オリバーはそれを左腕で受け止めて、懐に潜り込むと紺色の光る刃を切り上げる。

 

 

 

 水っぽい音と、鈍い音が地面を叩く。左腕を肩口から斬り飛ばした。赤い鮮血が勢い良く飛び散る。

 うめき声の1つでも上げると思ったがそんなことはなく。相手はむしろ我の首筋に噛み付いた。

「ぬぐぁああうッ!」

 咄嗟の攻撃に回避も防御も間に合わない。

 肉薄する顔は赤い線が走っていた。否、全身だ。首に巻いているマフラーにもその線は走っている。

(これはなんだ?!)

 見えない湾曲領域は魔鎧で相殺しているが、黒い牙までは防げず肉に深々と突き立てられた。引きちぎられそうになるのを感じて、剣を振り回そうとするが肉薄して、致命傷を与えることが出来ない。むしろ空間湾曲領域に阻まれてしまう。

(このままではまずい!)

 冷や汗が背中を伝う。

 イチかバチかで至近距離で流星を発動。互いに吹き飛ばされた。

 すぐさま傷の様子を見ると、肉をえぐり取られている。血が吹き出てまずい状態だ。すぐにでも手当をしなければまずい。まずいのだが、身体から沸き上がる感情は死への恐怖ではなく。強敵との死闘による歓喜だ。

 つくづく我は狂ってしまっている。

 視線を吹き飛んだ先に向けると、奴も起き上がりこちらに向かって突進してきていた。傷など知ったことではないという風体。隻腕になっても纏う戦意はいまだ最高点。

 数度の攻防でどちらかが死ぬな。今までの経験がそう告げていた。

「ふはははははははは! これだ! これこそだ! そうだ! オニキス!!! 我と殺し合おぞ!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 すでに獣のような咆哮。否、龍の咆哮だ。肌が、魂がそう告げいる。

 星座を描き、転移していく。オニキスは手に持つ刀を大剣とした。

 背後に転移する。回し蹴りで迎撃されてしまう。が、飛び退き、星座を描く。

 瞬間オニキスの瞳の色が変わった。

 青い瞳。その双眸が描いた星座の軌跡を辿る。

 瞬間悟った。

(見ている?!)

 奴の魔石はない。ならなぜだ? なぜ、こうなってしまえば星座の転移など意味は無い。むしろ墓穴だ。どこに出てくるのか相手に教えてしまっているも同然だ。

 上空で転移をやめるとすでに迎撃体制に入っていた。

「ぬぅ! ここに来てさらに強くなったな! オニキス!!!!」

「―――――――――――ッ!!!!」

 声にならない咆哮。

 紺色と漆黒の一閃。互いに防御は捨て、揉み合うように斬りかかる。血飛沫が周囲を染め上げていく。壁にアスファルトの地面に窓ガラスに鮮血の一線が走る。

 2人して転がるように斬りかかり、起き上がる。相手の動きが一瞬鈍る。それを逃さずオニキスの右腕斬り飛ばす。肘から斬り落とされ、血飛沫が空中を舞う。それは一瞬静止したようにも感じられた。

 狙うは相手の胸部にある黒き水晶。

 突きの要領で一撃を見舞う。

 

 

 

 紺色の剣がオニキスの胸部を穿いた。

 

 

 

 

 

 赤銅の雨が降り注ぐ。それらが降り注ぐと赤い鮮血が地面を染めた。

「くそっ! くそが!」

 斉藤和也は叫ぶ。周囲に居た大人たちはすでに絶命して地面にその躯を横たえていた。

 白河白百合は悲鳴を上げそうになるのを必死で抑える。

「か、和也さん」

「俺が守る。だから、索敵はやめるなよ」

 和也は武器を構える。フォトン・ライフル。相手は本物のエレメンタルコネクター。しかも歴戦の戦士だ。対して和也は最近戦うことを覚えた程度である。喧嘩殺法。なんかが通用するような相手ではない。

 白百合の前に立つと。まっすぐと敵を見据える。

「ふん。つまらん。腰抜けが、見逃してやるから魔石を捨てて、尻尾を巻いて逃げるがいい」

「逃げられるかよ! 俺達はお前たちから街を、家族を、友人を守るんだ!」

 白百合も後ろで首肯した。

「命を落としたな」

 リョウセンは赤銅の輝き放つと、赤銅のハルバートを手に握っていた。

『斉藤! 白河! 逃げるんだ!』

 滝下浩毅の言葉は彼らには届かない。

 フォトン・ライフルからオレンジの光弾が迸る。リョウセンはそれらを余裕で避けていく。恐ろしい速度で和也に肉薄する。和也は蹴りを見舞うが硬い壁。否、魔鎧にその一撃は完全に無効化されてしまう。

「無駄だァ!!」

「やってみなきゃわかんないだろうが!」

「和也さん!」

 赤い光が走る。リョウセンの上に赤い亀裂が走った。

「ぬっ?!」

 気を取られた一瞬で回し蹴りを見舞う。今度は完全に入った。脇腹に入った一撃は甲高い音を響かせる。

「ぐぬぅ! 雑魚風情ガァ!」

 ハルバートの一閃が和也をたやすく吹き飛ばす。ゴム毬のように地面を転がると、建物の壁に激突して、彼は動かなくなった。

「和也さん!」

 リョウセンはそれを確認すると視線を白百合に向ける。

「次はお前だ」

 冷たい死刑宣告。それでも白百合は無視して和也のもとに駆け寄った。彼は額から血を流している。

「和也さん! しっかりしてください。まだ何も――」

「黙れ。そして死ね」

 赤銅のハルバートが高々と抱え上げられた。

 甲高い発泡音。リョウセンの魔鎧はすでに回復しているのか、銃弾は弾かれてしまう。

「あまり効かないか」

 そう言うと神代拓海は拳銃を捨てた。そして構える。羽織ったコートが風に舞う。

「力も持たぬお前が俺に立ち向かえるのか?」

「その余裕を打ち砕くくらいにはな」

「ぬかせ!」

 赤銅の戦士が一飛で神代拓海に迫る。彼はステップを踏むかのようにリョウセンの攻撃を交わす。逆にすり抜けざまに背中に蹴りを見舞う。

 リョウセンは勢いがついてつんのめる。すぐに態勢を立て直すと、顔を修羅の形相へと変える。

「貴様」

「お気に召したかな?」

「気に入った!」

 ハルバートの素早い突き。1秒間に三連撃。しかしすべてギリギリのところで避けられる。逆に懐に潜り込まれ、魔鎧越しに重い一撃が入る。

「くっ、さすがに浅いか」

 彼は言うと距離を取って、相手の様子を見た。

「馬鹿な?! 魔鎧越しにこれだけの威力を……面白い!」

 赤銅の武器が周囲に顕現する。それらを掴むと投擲した。赤銅の雨が神代拓海を襲う。拳で、肘で、膝で、足で、全てを払っていく。彼の衣服に傷ひとつない。

「なん……だ?」

 神代拓海は言葉を紡がない。無言で迫る。ハルバートの一撃を見切り、懐に潜り込む。

 顎目掛けて拳を振りぬく。如何に魔鎧があろうと、脳を守ることは叶わない。そして魔鎧を打ち貫く拳打は続く。顔面を執拗に連打。リョウセンはその場で立ち尽くすように受けていた。

 が、すぐに再起し、反撃する。神代拓海は飛びのきハルバートの一撃をやり過ごす。

 彼に追いすがるように武器が投擲された。槍を受け止められる。それらで武器を迎撃されるが、槍はリョウセンの意志で砕け散った。

 それを確認した神代拓海は地面を転がる。

 ようやくスーツに土をつけた。だが、相手の息は乱れておらず、怯えた様子もない。

「その余裕もどこまで持つかな?」

 リョウセンは矛先を斉藤和也と白河白百合に向ける。

 間髪入れずに武器が投擲された。白百合はそれをただ黙って眺めることしか出来ず、和也もまた意識がない。

「やめろぉ!」

 神代拓海の叫びだけが響き渡る。

 オレンジの光弾が6つ走った。それらは寸分違わず武器を叩き落としていく。

 白を基調とし、6色の戦士。左肩に刻印された数字は08。タスク・フォースのチーム08だ。

「待たせたな銅色の戦士。リターンマッチと行こうぜ」

 烈は力強く言った。

「おいおい。俺達でやれるのかよ?」

 流は肩をすくめる。だが、その口ぶりには余裕が伺えた。

 その他の面々も似たり寄ったりだ。

「じゃあ行くぜ。神代さん! 援護します! 前衛は任せましたよ」

「って、僕達がやるんじゃないの?!」

「適材適所だよ」

「フォーメーションデルタだ! 流、旋は俺とオフェンス。バックは任せたぜみんな」

 黄色の戦士のツッコミは流によって遮られる。烈はそれらを無視してフォーメーションだけを告げる。

 神代拓海とリョウセンを中心に黒、紫、黄の戦士が三角形になるように位置につく。その中に小さな三角形を描くように烈たちも陣形を組み、素早くフォトン・ライフルを発砲する。

 オレンジの光弾がリョウセンの視界と動きを封じる。その合間を縫って神代拓海は拳を振るった。

 

 

 

 

 

「神代たちと富永の坊主たちが戦闘に入っただと?!」

 須藤直毅は怒鳴るように叫んだ。インカム越しに滝下浩毅は怒鳴る。

『そう怒鳴られても困る。貴方方の班が一番近い。応援に向かってください』

「だが、まだ周囲の敵が……そっちはいいのか?」

『そちらはスミス財団に任せましょう。それよりも思った以上に、ローズクオーツ達が押されています。そちらに戦力を割り振って倒すことに専念したほうがいい状況なんです』

「グレートゴールデンドラゴンナイトはどうした? あいつが向かうはずじゃ?」

『彼はクロムダイオプサイトとカーネリアンの援護に向かわせました。今はルワークと戦闘中です』

「わかった。俺達が向かう」

 須藤直毅は通信を切ると、地図を取り出す。もちろんここ最近の戦闘のせいで地図としては役目を成していない。それどこら今現在進行形で建物の倒壊で変わってきている。

「ちっ。近いって言っても遠いじゃねーか迂回しないと……」

――お父さん――

 須藤直毅は娘の声を幻聴した。振り返ると地図にない道が出来ている。

「これは……」

「おやっさん道だ! 道が出来ている」

「直……ありがとうよ」

 須藤直毅は一度胸のペンダントを一度掴んだ。

 

 

 

 

 

 烈達は確実にダメージを与えていった。魔鎧を削り、動きを封じて神代拓海が打撃を与えている。しかし相手はまだ倒れない。それどころか瞳には闘志が滾っている。

「嫌な予感がするぜ」

 独り言は流にも届いていた。

「俺もだ。なんか嫌な予感がする」

 背後では未だ意識が戻らない斉藤和也とそれを介抱する白河白百合。白百合は半ば戦闘を呆然と眺めていた。

 その肩に手が添えられる。

「白百合……」

「か、和也さん?! 大丈夫ですか?」

 和也は辛うじて首を縦に振った。とても大丈夫そうに見えない。

「そうじゃないんだ。白百合……空の……力で索敵を……みんなを援護してくれ。俺はいいから」

「でも!」

「守るんだろ……この街を! 俺は大丈夫だ」

 額から血を流しながら彼は立ち上がる。

「お前に迫る脅威は俺がなんとかする。だから信じろ!」

 白百合は首肯すると、蒼穹の輝きを放つ。瞑目し何かを感じる。

「ハッ! 皆様地中に敵の魔法が仕掛けれられております! 避けてください!」

 舌打ち。リョウセンは即座に大地に手を当てると、赤銅の光の粒が地面に浮き上がった。

 神代拓海と08タスク・フォースの面々は、粒から逃げるように跳躍。

 直後にアスファルトが爆ぜるように吹き飛んだ。赤銅の武器が天を突かんと顕現したのだ。

「しまった! 逃げるんだ2人共!」

 赤銅の剣山はまっすぐと迫る。和也と白百合を目掛けて突き進むかのようにアスファルトがめくれ上がっていく。

 白百合の前に和也が立ち塞がった。

「俺に出来るのは破壊だけだ」

「はい。守ってくださいね?」

「姐さんのようにはいかないけどな! 位置を教えてくれ!」

「私達の足元に来ます。5センチ手前を殴ってください!」

 白百合は素早く指示をする。それと同時に和也は赤い光を帯びて、地面を殴った。瞬間。迫る剣山の山は和也の目の前で止まった。顕現する前に彼が破壊の力で壊したのだ。

「余所見をするな!」

 彼が視線を上げると、赤銅の武器の雨が迫っていた。

 赤い光をそのままに彼は迎撃していく。赤い光に触れた武器は地面に力なく消えて霧散していく。

「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 和也は叫ぶ。

『白百合逃げろ。もう持たない。魔力が』

「え?」

 白百合は空の力で和也の状況を見る。魔力が消費されているのが見て取れた。和也は元々魔力がそこまで多くない。故に長時間の使用はご法度である。

 武器の雨が更に降り注ぐ――。

 が、それは彼1人の場合の話だ。

「俺達を忘れているんじゃねぇ!」

 烈は剣山の山を突進していく。タスク・フォースの戦闘要員の装備には、ファントムアーマーが備えられており、それらが武器の山を突き抜けて行く時にダメージを和らげてくれていた。それでも無理に突進すればエネルギーが切れるか、装備が壊れるかである。もちろんこれも1人でやった場合だ。

「ったく、なにか一言くらい言えよ! 烈を援護しろ」

 残った5人は剣山にフォトン・ライフルを浴びせていく。武器は壊れていき、道ができる。そこを赤い戦士が疾駆した。更にスピードを上げて、リョウセンに肉薄する。

 気合の雄叫び。フォトン・ライフルの銃身が上下で展開する。フォトン・ライフルバーストモードだ。連射が出来ない代わりに、一撃の威力を極大まで上げたモード。

 烈の道を作り終えた仲間たちは援護射撃をする。

「舐めるな!」

 地面に新たな武器が生えた。それらは烈達を襲う――。

 ――この間も投擲は止むことはなく、和也の動きは徐々に鈍っていく。

 白百合は和也の側を離れなかった。

「なんで?」

「守ってくれるのでしょう?」

 和也の動きにキレが戻る。苦笑いしながら武器を叩き落としていく。

「ちょろいな俺」

「ええ、ちょろいですね」

 ――オレンジの光弾が剣山越しに、リョウセンの魔鎧を削っていく。轟音。剣山を吹き飛ばしながら烈は再度肉薄。オレンジの光が煌々と唸っていた。フォトン・ライフルのバーストモードはいつでも発射できる状態だ。

 リョウセンは一瞬だけ投擲をやめてハルバートを顕現。烈を薙ぎ払おうとする。しかし、その攻撃は止められてしまう。

 ハルバートの切っ先が誰かの手に掴まれていた。コートを着たスーツ姿の男。神代拓海だ。

「くそぉおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 オレンジの光弾がリョウセンの腹部で破裂する。爆音。赤銅の男は吹き飛ばされて建物の中へと消えた。

 肩で息をしながら烈はその場にへたり込む。

「はぁ、はぁ。なんとか……なった?」

「そのようだ」

 神代拓海は息ひとつ乱さずに言う。彼は地面に転がしておいた自身の拳銃を拾った。

「まだです!!! 逃げて!」

 突如白百合の絶叫がこだまする。

 赤銅の巨大な槍が上空に現れた。その柄の部分にリョウセンは飛び移る。

「手こずらせてくれる! これで終わりだ!」

 赤銅の巨大な槍が地面に突き刺さり、そのまま重力に引かれて横倒しになる。大地は大きく揺れ、近くにあった家屋は天空を舞った。煙が巻き上がり、周囲の視界が奪われる。

「ふん。虫けらが」

 煙が晴れると、神代拓海以外は全員地面に転がっていた。

「む?」

 リョウセンの背後に乾いた音。神代拓海だ。

「何?! 貴様どうやって?」

「説明する義理はない」

 拳銃を素早く構えて発泡。そのまま接近して、蹴りを見舞う。

 

 

 

 巨大な槍が現れたと思ったら、同僚が水平に走って敵の背後をとっていた。その後地面に深々と突き刺さり、地面に転がる。不運にも柄が俺達の方に倒れてきたのだ。寸でのところで俺は避けることが出来たが、同僚2人がその槍の下敷きとなり、絶命。残ったのは俺だけになってしまった。

「ちくしょう!」

 悪態はついたものの内心「もしかしたら死ぬかもな」と、覚悟が出来てしまう。

 拳銃の銃弾を確認する。そのまま構えて走りだす。道中見知った道なりを視界の端に確認した。

(そうかここは直が幼稚園の時に通っていた通園路か)

 その道に恵美と直を幻視した。

「お前たちと過ごしたこの街をこれ以上やらせないさ」

 俺は走る。今までに感じたことのないくらい体が軽い。まるで羽が生えたかのように、足取りは軽やかだ。神代達がいる場所まであっという間だった。

 視界の先では神代が苦戦している。彼の背後を確認すると、坊主共が地面を転がっていた。

(どうやらぺちゃんこになっている奴らは居ないか)

 内心ほっとする。が、すぐにそれは消え失せた。

 赤銅の武器がガキどもの周りに現れたのだ。人質に取られた。これじゃあ、神代は戦えない。背中に冷たい汗が伝うのを感じた。

 どうすればいい……。

 敵の後ろに建物があったのに気づく。

(回りこんで、こちらに注意を向けさせるか)

 時間にしてそんなに経っていない。それでも裏に回り込むのに凄く時間がかかったような気がした。

 俺は首尾よく敵の背後に回ることに成功する。敵はこちらに気づいていない。神代にしか注意が向いていないようだ。

 ここまで来て、魔鎧の存在を思い出す。

 腕にブレスレット。そこに魔石がある。ということはこいつはエレメンタルコネクター。そしてエレメンタルコネクターには魔鎧がある。そうだ。こいつはエレメンタルコネクターだ。たかが銃弾でなんとかなるだろうか。ただの魔導師と呼ばれる存在にすら、苦戦した。魔鎧のようなモノや、光る壁なんかで銃弾を弾かれまくったしな。結局俺の班は俺だけになっちまった。視界に赤いものが入る。

 敵の顔が赤く腫れている事に気づいた。

(いける!)

 ほぼ直感である。

 一瞬胸のペンダントが光った気がした。

「大丈夫さ。俺はあいつらを守る」

 拳銃に指をかけ引き金に指をかける。

 もう魔鎧の事は考えなかった。例え失敗しても、注意が一瞬でもこちらに向くだろうとわかっていたからだ。後はその一瞬で神代がなんとかしてくれると確信していた。

「大丈夫さ」

 

 

 

 乾いた破裂音が6回鳴り響く。赤い鮮血がリョウセンの胸から零れた。

「ガッ!」

 彼は倒れそうになる体を、ハルバートで支え瞬時に背中に振り向く。そこには須藤直毅がいた。手にした拳銃の銃口からは白い白煙が立ち昇る。

「貴様ァ!!!」

「よぅ!」

 リョウセンの怨嗟の叫びに対して、須藤直毅の返事は軽い。まるで散歩にでも行くかのような陽気さも感じた。

 赤銅のハルバートが構えられ――

 神代拓海はリョウセンの背中に位置を取る形となっていた。疾駆する。跳躍し、全体重を右足に込める勢いで突き出す。

 ――投擲された。それは一寸の狂いもなく、須藤直毅の腹部に突き刺さる。

 直後に鈍い打撃音がその場に響いた。神代拓海の蹴りはリョウセンの頭に直撃したのだ。すでに魔鎧の効力が弱まっていた彼は、それをまともに受けてしまい。地面に頭部を強く打ち付けた。

 鈍い音と、砕ける音。そして水が弾けるような音を残してリョウセンは動かなくなった。

「須藤さん!」

 普段は声を荒らげない神代拓海は叫んだ。

 彼は敵の生死を確認することなく、須藤直毅の元へと駆け寄った。

 須藤直毅のお腹には、赤銅のハルバートが深々と突き刺さっている。そこから溢れ出るように鮮血が流れ出ていた。

「須藤さん! 須藤さん! しっかり! すぐに救護班を――」

「手遅れだ」

 神代拓海の動きが一瞬止まる。

「わかるんだよ……ゴフッ。もうダメだってのがな……」

 咳き込むごとに口から赤い血が零れ出す。それは神代拓海のコートを赤く染め上げた。

「須藤さん!」

「神代……がふっ。頼みがある……あそこで気絶している奴らとみんなには、戦いが終わるまで黙っておいてくれ。こんなところで、あいつらには立ち止まってほしくないんだ……」

 神代拓海は無念そうに目を強く瞑る。

「俺なんかより……お前や……あいつらの方がこの先の戦いにも必要だ。だから……俺のことはいい。先に行ってくれ……」

 須藤直毅は弱々しく笑った。彼の視線の先では意識を取り戻し始めた面々が身動ぎしている。

「わかり……ました」

 腹部に刺さっていたハルバートは砂状に霧散した。神代拓海はコートを脱ぎ、須藤直毅に被せる。

「最後の最後まですまねぇな」

「いえ。一緒にお仕事が出来たこと……誇りに思います」

 須藤直毅は力なく「俺もだ」と答えた。

 

 

 

 

 

 神代拓海は起き上がった子供たちに、矢継ぎ早に指示を飛ばす。考える間も与えず、ルワークの元へと走らせたのだ。

 その甲斐もあってか、須藤直毅の死は、戦いが終わるまで彼らに知られる事はなかった。

 ただ1人を除いて。

 

 

 

 

 

 エイダはクリスと睨み合う。

「エイダ。貴方のことは最初から気に食わなかった」

「知っていたわ」

 2つの影は微動たりしない。

 殺気。それが目に見えたのなら、この場はそれで埋め尽くされているだろう。2人の間には見えない刃が激しく剣戟を繰り広げていた。

『エイダ。状況はどうだ?』

 静かな戦場に、滝下浩毅の声が響く。

 彼女の耳にはイヤリングを模した通信機が身にしていた。それと念話から逐次戦場の状況が流れ込んでいるのだ。

 エイダは態とらしくクリスに聞こえるように口を開く。

「そうね。予定通りの場所で、予定通りの相手にこれから戦闘に入るわ。オニキスは……こちらでもわからないけどね」

 エイダの耳には『それはこちらも掴めていない』と苦しそうな声が漏れる。エイダの表情は変わらない。開戦する前こそは心配していたが、いざ戦闘開始してからは微塵もそれを見せない。それは彼女も歴戦の戦士だからだろう。

 

 

 

「しばらく通信は切るわ」

『……了解だ』

 そう言って通信を切った。

 滝下浩毅は気づいてないと思うが、声が少しだけ震えている。よほどオニキスの存在の有無が気になっているのだろう。わからなくもない。彼とオリバーの生存がこの戦いを左右してもいいくらい大きい。オニキスを失えばローズクォーツ達は精神的に追い込まれる。この危うい連携関係も瓦解しかねない。逆にオニキスが生存し、オリバーを倒せれば我々の勝ちと言ってもいい。

 だが、オニキスに頼るだけでは駄目。早乙女優大もそれがわかっているからこそ、託してくれたのだ。この魔石を。

 私の冷静な部分が彼を失い、かつオリバーが生存した最悪の場合を想定し始める。必勝条件にこの2つの魔石とローズクォーツたちの存在だ。各所でも戦闘が始まっている。どこもかしこもギリギリの状態のようだ。無理からぬ話ではない。彼女たちはエレメンタルコネクター……じゃないわね。魔法少女となって、とても強い力を手に入れた。戦闘による経験値だってある。それでも、精神のそれは年端もいかない少女のそれだ。加えて短期間で大切な人を失っている。それらを加味すれば、彼女たちが敵のエレメンタルコネクターを倒せるはずもない。せいぜい時間稼ぎくらいだ。

 街を、人を守りながら、負けないようにする。そう言った意味ではオニキスが提案した作戦は、今出来る最善。それ以上は出来ないだろう。

「だから、私達が頑張らないとね」

 

 

 

「何をブツブツと」

 クリスは苛立ちを隠さない。対してエイダは涼しい顔だ。これから始まる戦いを前に彼女は淡々としていた。

 エイダは右手で魔石を2つ握り、左手で魔結晶を手にする。魔結晶が閃くと、剣が顕現した。現れたるは細身の剣。力任せに振ったり、攻撃を受け止めるだけで、折れてしまいそうなほど細い。レイピアにも似ていた。レイピア。中世ヨーロッパに護身用として用いられた刺突武器である。が、エイダのソレは針のようではなく、本当に細い両刃の剣であった。柄に若草色の宝石があてがわれている。

「さあ、始めるわよ。貴方との因縁もこれで終わり」

 エイダは切っ先をクリスに向ける。対してクリスも魔結晶を輝かせて武器を取り出す。それは彼女の体躯に不釣り合いな巨大な爪のようなハンマーであった。

 互いに武器を取り出し睨み合う。ジリジリと殺気だけがぶつかり合う。

 どれほど睨み合っただろうか。一瞬のように短かったかもしれない。永遠のように長かったかもしれない。その沈黙は、2つの爆音で破られる。2人は爆音を合図に駈け出した。

 ハンマーと細身の剣が激突する。衝撃は波となって地面と空気に走った。互いに距離を取り、並走しながら道路駆け抜けていく。

 エイダの周囲に若草色の球体が浮かび上がる。それらは1秒と経たずに、エイダを覆い尽くすような数に膨れ上がる。それらが細身の剣に集束し、眩く照らす。

 連撃。無数の刺突が若草色の線となってクリスを襲う。が、虹の光が迸る。それらはステンドグラスのような柄の壁に阻まれた。

 結界の魔石の能力だ。

 エイダは顔を一瞬引きつらせ、攻撃をやめると飛び退いた。直後に虹の壁が突進してくる。

 お返しといわん攻撃。若草色の針が飛ぶ。虹の壁がそれを阻む。壁は回転し、エイダに対して一直線になる。突風が吹くかのように、彼女に襲いかかる。エイダも攻撃を読んでいたのか、余裕を持って回避。壁はそのまま建物を穿く。穿かれた建物はまるで最初からそうであったかのように、綺麗に断たれていた。

 互いに手札がわかっている状況での戦闘。故に両者とも決め手にかけてしまう。次の攻撃がわかってしまうのだ。

 突如クリスは攻撃をやめ、相手を見据える。見据えられたエイダも相手の出方を伺うように待ち構えた。そんな彼女をクリスは睨み、叫ぶ。

「ずっとずっと気に食わなかった! 死んで欲しかった! あの人が貴方を想い続け、私の入る余地がこれっぽちもなかった!! あんたなんか死んじゃってよ!!!!」

 結界が感情を現すかのように膨れ上がり、エイダを襲う。

「主は! ルワーク様は! 貴方ことを!」

 結界の膨れ上がりに細身の剣が断たれる。苦虫を噛み潰したような顔になり、悪あがきのように折れた剣をクリス目掛けて投擲。

 クリスは泣き叫ぶ。言葉にならない声を上げ、エイダを殺さんと力を暴れさせた。

「―――――――――――――ィ!!! 貴方だってルワーク様の事を好きだったはずだ! なぜ袂を分かった?! エイダがいれば私だってあの人の心に入れたのよ!! アンタが私を! ルワーク様を1人にさせたぁ!!!!」

 エイダは言葉を交わさない。地面を転がりながら攻撃を掻い潜り、右手の中指と薬指に魔石をはめていく。色は、闇とプリズム。

「なんとか言えよぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 クリスはハンマーを振り上げ、エイダの頭頂目掛けて振り下ろす。激情に駆られている彼女の攻撃を交わすことは容易く。エイダは余裕を持って避ける。その様はまるで踊るかのようだ。振り下ろされたハンマーは渾身の力がこもっているのか、アスファルトを、下に埋まっている水道管ごと打ち砕いた。

 水が柱となって噴き出す。

 水飛沫を纏うかのように、踊る。舞う。それすらもエイダの麗美さを際立たせているようだった。

「馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがってッ!!」

 喉が潰れそうな怨嗟の叫び。ソレに対してエイダは何かを諦めるかのように、溜息を漏らす。そして口を開き言葉を紡ぐ。

「貴方自身がよくわかっているでしょう? 貴方は諦めたのよ……ルワークの一番の女になることを。私という存在を言い訳に」

 図星だったのだろう。クリスは目を見開き、犬歯を剥く。

「言うなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 言葉と同時に駆け出す。沸き立つ感情が結界を生み出し。周囲を薙ぎ払う。水が結界に押し出されるかのように水流となって四方八方に流れだす。

 エイダはそれに呼応するかのように、若草色の光を纏う。

 虹の結界を阻むかのように大木が、草木が顕現する。結界の前に為す術もなく薙ぎ払われた。さらに茶、白、黒の光が彼女から発せられる。

「なっ?!」

「アンタを殺すためなら私は!!」

 それは、アリュージャンと保奈美の魔石だった。

 

 

 

(アリュージャンのは土。白と黒は……光と闇? それにしては……弱い。明樹保のや桜のが強すぎるのかしら?)

 明樹保の光は触れなくとも、魔鎧を消し飛ばしてしまう力があるのは、わかっている。何度もあったエレメンタルコネクターとの戦いでそれを確認してきていた。桜の闇も同様であることはわかっている。

 自身の右肩に視線を向ける。

 魔鎧は再形成完了。痛みはあれど身体的に異常はない。戦闘続行可能……。

 右肩に受けた光の攻撃は今後の戦闘に支障をきたすほどではない。ならば――。

 私を捕まえんと、土が蛇の様にトグロを巻くように迫ってきていた。

 ――謎解きは全部後。今は、クリスを倒さなければ。

 桜の闇と優大の封印。そして私の樹木。これらを駆使してこの4つの属性を使うクリスを倒すのは難しい。

 樹木を顕現させて壁を作るが、光と闇の攻撃が壁を喪失させる。結界の壁が投擲される。大地の蛇の先が鋭く尖った。そのまま地面から無数に生えてくる。

 堪らず封印の力を解放。土を灰燼に帰した。闇で足場を形勢して、空中に逃げる。直角に飛び、相手に読ませないように動く。が、闇の足場が結界によって断たれる。

 空中から落下する。

「そんなものを隠してやがりましたか!」

 せめて懐に飛び込めれば、勝機はあるのだが。4つの属性の連撃に飛び込む機会を失っている。そもそも封印の力を使って強引に突っ込むのも厳しい。それは私が相手の攻撃を完全に見切ることが出来るのが最低限の条件だ。封印の力は絶大だが、それは相手の攻撃がわかっているのが絶対である。そういう意味では空の索敵能力が使えないと、ただの防御用にしか使えない。

 私が視線をクリスに向けると、彼女が苦しみだしていた。

 なんだ? さっきまで彼女の方が形勢は優勢だったのに……。

 

 

 

 クリスは激痛に表情を歪ませる。白と黒の魔石がクリスの意思に反するかのように輝く。

「黙れ! 黙れェ! 亡霊風情が邪魔をするな!」

 土の蛇がクリスの感情を現すかのように、悶え苦しむかのように土塊と化す。

 エイダは地面に降り立つ。様子伺うように出方を伺う。

 クリスの腕に光が伝う。白と黒が神経のように伸び、彼女を更に苦しめる。桜木保奈美の幻影が一瞬だけ浮かんでは消えた。クリスはのた打ち回りながら、結界で自身の身を守る。

 エイダが訝しんでいると背後から荒い息が迫った。

 彼女は視線をクリスに向けることをやめず、背後に意識を向ける。

「エイダ無事か?」

 視界に滝下浩毅が入ってくる。

「あっ……」

 エイダは何か見てはいけないモノを見たかのような顔になる。そんな彼女の様子に滝下浩毅は動揺する。

「どうした? 怪我でもしているのか?」

「あ、いえ……どうしてここに?」

 努めて冷静に振る舞い問う。彼は「これだ」とエイダに魔結晶を差し出す。それは彼女のパーソナルカラーの若草色だ。

「これは?」

「強化ユニットと君の武器だ。通信で言ってもよかったのだがな。運ぶことの出来る人員がいなくてな」

「それで司令官が前線に?」

「もちろん渡したからには戻るつもりだ。それに彼女たちは各々の敵を打倒し、ルワークの元へ向かった。……後は野となれ山となれ状態だ。それにここからでも指示は出せる」

 滝下浩毅は言いながら耳にあるインカムを指さす。

 彼はアネットとの戦闘でも後方からの支援とは言え、無茶をしていた。元来の性格がそうだったのか、あまり後ろでじっとしていることが出来ないのであろう。何より彼の言う人員不足は事実である。現在進行形で戦闘要員も減ってきている。少しでも動ける者が動くのは道理である。

「そう……少しだけ手伝ってもらえるかしら?」

 滝下浩毅は困惑した顔をした。彼は「私に戦闘能力は皆無だぞ?」と漏らす。

「あそこに保奈美がいるとしても?」

 エイダはクリスが潜んでいる結界を指さす。彼は目を見開き驚く。

「あそこに……保奈美が?」

 滝下浩毅が視線を向けると、反応するかのように白と黒の光が強く明滅する。保奈美の声もかすかだが聞こえてくるようになってきた。

 そんな状況に彼はさらに動揺していく。

「たぶん貴方に反応しているわ。貴方がここにいれば、私達3人でクリスを倒せるわ」

「やれるのか?」

 エイダは「やるしかないでしょう?」と言う。

「――――――――――――――ぅううううぁッ!」

 クリスは叫ぶ。結界を弾き飛ばし、大地の魔法で土の蛇を無数に顕現させた。それらは暴れ猛っていた。近くにあるものを無差別に破壊していく。まるで術者の苦しみをそのまま現すかのようだ。

 彼らの周囲にも土の蛇が囲おうと、生え出てくる。戦闘を避けられるような状況ではなくなった。滝下浩毅も覚悟を決めたのか、小銃を取り出す。それはオレンジに色に光るラインが走っていた。

「先に言っておく。武器はフォトンピストルだけだ」

「十分よ。今相手が使えるのは大地と結界だけ――」

 滝下浩毅は「それでも十分脅威だよ」と漏らす。が、エイダはそれに反応しない。

「――光と闇と思われる魔石は、今は足枷になっているわ。貴方がここに居続ければ、クリスは苦しみ続ける」

「なるほど。離れすぎないようにしてればいいんだな」

 無数の蛇が動き出す。土の蛇がアスファルトを砕き、巻き上げながら2人に襲いかかった。

「死なない程度に、ね」

 エイダは樹木を顕現させ、壁を作る。が、土は樹木を無視して地面に潜り、根本からエイダ達を襲った。滝下浩毅はフォトンピストルを構えるが、襟首を捕まれる。抵抗する間もなくエイダと共に樹木の頂上に連れて行かれた。

「何を?!」

「足手まとい。樹木を伝って移動しながら、上手く戦場に留まって!」

 滝下浩毅の「無茶を言うな」は聞き届けてもらえず、エイダはそのまま飛び降りる。彼女を待ち構えるかのように土の蛇はその切っ先を鋭く尖らせた。エイダは構え――

 プリズムの輝きの前に土に還り、そしてまた茶色の輝きで土の蛇へとなる。

 ――蛇の地に降り立ち駆け抜けていく。道中土の蛇に若草色の光が灯り、宿り木が土の蛇たちの動きを封じる。

「まだだ!」

 クリスの叫びと同時に土の牙がエイダを穿かんと、襲う。それらを闇の壁で防ぎ、そのまま跳躍。クリスは叩き落とさんと結界の壁が投擲する。直後に白と黒の光が彼女をさらに蝕んでいく。

「あぐっ! こんなところで……私とてルワーク様に殉じている!! こんな亡霊風情に愛で負けるものか!」

 エイダは封印の能力で結界を霧散させた。そのまま新たな魔結晶を閃かせる。現れたるは両刃の剣。太くもなく細すぎることもない普通の剣。しかし剣の刀身は、普通のそれではない。剣の刀身は魔結晶で出来ていた。黒いが透き通っており中身の芯が見える。芯は剣の芯ではなく機械で出来ていた。

 その刀身にエイダは息を呑んだ。あまりの美しさに一瞬戦闘を忘れる。

 その隙を逃さず、クリスは結界を投擲。土の蛇を再度構成しなおす。

 

 

 

 直感でこの剣の機能を理解した。魔力を込めて、切れ味を上げる能力と、魔石の属性を付与させることが出来る。芯にも魔結晶のそれが見られ、電気を流すかのように属性を付与した魔力を流してやれば――。

 蛇と壁が肉薄する。

 ――プリズムの刀身がそれらを霧散させた。

 そのまま駆け抜ける。迫る障害は全て封印の剣で斬り伏せる。

「ああああああああああああああああああああッ!」

 クリスは己の体を蝕んでいる白と黒の魔石を強引に使う。余裕をもって封印の剣で薙ぎ払う。

(もらった!)

 肉薄しようとして――

 ハンマーが振りぬかれる。

 ――地面を転がった。

 視界がめまぐるしく変わり、空を見上げていることに理解した時には、体のあちこちが激痛に悲鳴をあげていた。

 

 

 

 エイダは地面に大の字転がっている。額から血を流していた。ふと彼女に影覆いかぶさる。

「さすが魔王軍の猛将を倒した戦士ね」

「うるさい!」

 エイダにクリスが迫った。

「勝ちを焦ってしまったわ」

「うるさい!」

 クリスはエイダの側まで来て、ハンマーを振り上げる。巨大な鉄塊がクリスの頭上で止まる。彼女の表情は恍惚としていた。歪んだ笑みがエイダを射抜く。

 エイダは視線を動かす。その先に剣が刺さっている地面で止まる。彼女から手が届かない位置にあった。

「一言言っておくわ――」

「うるさい! 死んじゃえ」

 最後は楽しむかのようにつぶやく。

 オレンジの光弾がクリスの頬をかすめる。いつの間にか滝下浩毅は地面に降りていた。フォトンピストルを連射しながらクリスに突進しようとしている。

 クリスは光弾を無視して、ハンマーを振り――。

「保奈美ぃ!」

 滝下浩毅の叫びが、保奈美の魔石と呼応する。

 ――抜けない。白と黒の光が動きを封じたのだ。

「な・に・を?」

「――殺すなら一気に殺しなさい」

 若草色の光が閃き、樹木の濁流がクリスを吹き飛ばす。エイダは瞬時に起き上がると剣を地面から引き抜く。闇の柱を顕現させて、クリスをそこに叩きつけた。

 ハンマーが落ち、地面をへこませる。

 エイダは叫ぶ。闇の光を纏う剣で突進した。

「このぉ!」

 迫るエイダの足元の地形が変わる。土の能力で大きな段差を作り時間を稼ぐ。

 若草色の樹木で段差を飛び越える。土の壁が幾重にも並べられ、彼女の進行を阻む。当然封印の力で霧散させていく。

 土の蛇がアスファルトをめくり上げ、そのままそれを投げつける。闇の一撃で斬り払うが、直後に結界の壁を投擲され、弾き飛ばされた。

「ぺしゃんこになれ!」

 虹の結界は現れない。

「え? あ?」

 クリスもそうだが、エイダもその事態に驚愕する。クリスの視界の端に、保奈美が現れた。その手は実態を持つ男の手を優しく添えている。

「返してもらうぞ。私の愛する人を」

 滝下浩毅はいつの間にかクリスに肉薄していた。そして白と黒の魔石に触れている。

 クリスの全身には、白と黒の光が太い神経が走っていたのだ。

「ま、さか……」

『「これが愛だ」』

 滝下浩毅と桜木保奈美は揃って言う。

 闇の光が膨れ上がる。切っ先はクリス。エイダはそのまま突進し、彼女の胸部に突き立てた。

「あ……」

「さようなら。戦友」

 

 

 

「フォトンピストルで撃ってくれればよかったのに」

「魔鎧で防がれただろう」

 彼、滝下浩毅の声は朗らかだ。

 クリスの亡骸を地面に置き、手を組ませる。彼女が手にしていた魔石は全て抜き取った。

「それもそうね」

 彼は幻影の桜木保奈美と微笑み合っている。

 私も無我夢中だったが、よくよく思い返せば彼女の魔鎧は健在だった。倒せたからまあいいか。

 亡骸を見下ろし、旅で色々合ったことを思い出した。

「あの時はこんな日が来るなんて夢にも思わなかったわ」

「ん? どうした?」

 どうやらずっとイチャイチャしていたようだ。私の話を聞いていない。それどころか、また2人だけの空間に戻ってしまう。すぐに終わる幻想だからそのままにしておきたい気もするが、不愉快なので幻想を壊すことにした。

「ちょっと! まだ戦闘中よ」

「ん? あ、ああ! そうだな。そうだったな。すまんすまん」

 後ろで保奈美の幻想も苦笑いしている。

 私は精一杯の溜息を吐いて、彼の口癖を真似した。

「やれやれ」

 

 

 

 

 

 薄れゆく意識の中でよく見知った顔が映り込む。

「なんだよ。お前に見つかるなんてな……」

 相手は何か言っているが、言葉が理解できない。だが、なんとなくわかった。

 喉にせり上がる嘔吐感はない。それだけ血が流れでたのだろう。徐々に迫る死。恐怖は不思議となかった。むしろやりきった達成感が胸中を満たす。

 胸……そうだ。ペンダントだ。力が抜けているにも関わらずそれだけはすんなり取れた。

「このペンダント……恵に渡しておいてくれるか……それと――すまない――とも言っておいてくれ」

 相手は困惑する。だが、それでも最後には「わかった」と力強く約束してくれた。

「お前には……辛いことばかり背負わせちまっているな。すまない」

 相手は「謝らないでください」と言っているような気がする。

 視界が徐々に暗くなっていく。眠くなってきた。

「そうだな。ありがとうよ。最期に会えてよかったよ……」

 

 

 

 

 

〜続く〜

 

説明
色々と決戦です。魔法少女要素薄い気がするけど、魔法少女のお話です。
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