妖世を歩む者 〜3章〜 4話 |
3章 〜歩き出す者〜
4話「妖術の力」
「なんなんですか、その妖術って」
人妖に与えられるもの、つまりサクヤやアトリも持っているのだろう。
「簡単に言えば、必殺技、ですね。人妖には、1つだけ妖怪本来の力に関係した妖術が備わっているのです」
「妖怪本来の、ということは、妖怪も持っているようなものなのではないですか?」
「確かに妖術によっては、妖怪に及ばないものもあります。しかし、強い妖術であれば妖怪を凌ぐことも、十分に可能です」
つまり、人妖と妖怪の戦いになれば、妖術の存在がその行方を左右する可能性が高い、ということだ。
「サクヤさんは、どんな妖術を持っているんですか?」
「それは、……秘密です」
指を口に当て、内緒のポーズのサクヤ。陽介はコケそうになるのをなんとか堪えた。
「アトリも、妖術を持っているんですよね?」
サクヤに妖術を聞くのを諦めた陽介は話題をアトリへと移した。
鍛錬の中で妖術を使った様子はなかった。もしかすると、鍛錬では使わない決まりだったのかもしれない。
「あの子はまだ、自分の妖術を良く知らないんです」
「知らない、ですか」
使えない、ではなく知らない。その言い回しが陽介は気になった。
「サクヤさんは、アトリの妖術を知っているんですか?」
「私も良くは知りません。妖術を知る機会が来るかどうかは人妖それぞれですので」
知る機会がなければ妖術を使えないに等しい、ということだ。
「ただ、小さい頃にそれらしいものを見たことがあります。アトリは覚えていないでしょうが」
それを教えないのは、『自分で見つけなさい』というサクヤの厳しさ。
その厳しさが、アトリを強くしているのだ。
そんな2人の関係に、陽介は自然と笑みがこぼれた。
「人妖には、人の側につくものも、妖怪の側につくものもいます」
その厳しさは陽介にも大切なことを教えてくれる。
「人妖との戦いになれば、相手がどのような妖術を使うかが重要になります」
相手がサクヤほどの力を持った上で妖術を使うなら、と考え陽介はゾッとした。
その強さを身をもって知った分、よりリアルな想像ができる。
「アトリは旅の中で、きっと妖術を開花させるでしょう。今の妖世を旅するには、それが必要になりますから」
それでは自分はどうだろう、と陽介は思う。
妖怪のような力はもちろん、妖術も使えない。
鍛錬で強くなったとはいえ、妖怪を相手に戦えるのだろうか。
「陽介さんは、自分を信じて進んでください。強い心は、大きな武器です」
サクヤの言葉が、立ち止まる陽介の背中を押した。
「風斬も、きっとそれに応えてくれるはずです」
手入れ途中のままになった風斬を見ると、磨いた鍔が綺麗に光っている。
陽介は今一度、覚悟を決めた。
― 風斬の力を生かせるくらいに
―― アトリを支えられるくらいに
――― もっと強くなる 今以上に、強く
―――――
「妖術……」
アトリは1人つぶやいた。
壁越しには陽介とサクヤがいる。
2人が見当たらないので探していたところで、偶然話を聞いた。
真剣な話だと思いその場を離れようとしたアトリは"妖術"という言葉に足を止めたのだ。
人妖には妖術が使える、それは知っていた。
現に両親やサクヤもそれを使えるのだから。
初めて知ったのは、『自分が過去に使った』ということ。
少なくともアトリの記憶にはない。無意識だったのだろう。
いつか使えるようになりたいと思っていた妖術。
しかし、使ったことがあると聞いて、アトリの気持ちは変わった。
―― "早く"妖術を使えるようになりたい
――― 陽介の力に、なりたいから
説明 | ||
これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。 "人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。 ※既にこのアプリは閉鎖となっています。 拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。 構成) ・1章毎の話数は不定 ・各章の最後にあとがきっぽいものを入れます |
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