模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第25話
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「ナナちゃん!早くガリア大陸へ行こうよ!」

 

「あぁもう、わかったからもうちょっとゆっくり行こうよ!」

 

初夏の木曜日、夕暮れの商店街をアイが走り、それをナナが小走りで追いかける。

 

「次のイベント明後日なんだよ!早く練習の仕上げしなくちゃ!」

 

そう、今週の土曜日はガンプラバトルのイベント大会の日だ。今回の内容は宝探しのミッション。

かつてあった複数のガンプラが一斉に戦う『サバイバル戦』同様、

巨大なフィールドに一斉に出場ガンプラが降り立ち、二人一組で宝を探すという内容だ。

それに加えてアイは、今日の小テストの点数が良かった為、彼女は一層はしゃいでいた。

 

「あぁもう、だからってそんな子供みたいにはしゃがなくてもいいじゃん」

 

人多いんだからそんなにはしゃいでるとぶつかるわよ?とナナは言おうとしたが

 

「あいた!」

 

「キャッ!」

 

その前にアイは女性とぶつかった。お互いに声を上げ尻もちをつく。

 

「痛ぅ……!あ!すいません!大丈夫でしたか」

 

「あ、えぇ、大丈夫よ。気にしないで」

 

立ち上がる二人。相手の安否を気遣うアイに女性は穏やかな笑みを浮かべて答えた。スカートスーツを着た赤い髪の女性だ。

後頭部をお団子状にまとめている。

20代後半に見えるが優秀なキャリアウーマンといった印象で、アイが持った第一印象は「カッコいい、そしていい人だ」だった。

 

「カナコ君。大丈夫かい?」

 

すぐに中年の男性が現れ女性に話しかける。こちらは50代頭といった感じだ。

 

「あ、はい、大丈夫です。じゃあ行きましょうか。それじゃ」

 

女性はアイ達に会釈すると男と並んで去って行った。優しい笑顔が印象に残る女性だった。

記憶に残る笑顔は、営業スマイルとかの作り笑いとかではなく

自然な感じの笑顔だった。

 

 

「綺麗な人だったね。ナナちゃん」

 

「ぶつかっといてその反応ってのもどうなのよ」

 

ま、綺麗だってのは同意だけどね。とナナは苦笑した後に付け加えた。

しかし……どうもナナはひっかかりを感じていた。

 

「なんか……あの人どっかで会ったような気がするんだけど……」

 

「え?知り合いだった?」

 

「いや、そうじゃないんだけど……」

 

……

 

そして商店街から離れた別の場所、こちらも下校途中の数人の学生、制服を着た男子中学生だ。

うち一人はご存じアサダ・ソウイチ、

彼はいつもアイ達の前では眉間に皺をよせた仏頂面だが、学校でまでそうかと言われたらそうではない。

割と普通に仲間とうちとけていた。(それでも笑うことはあまりないが)

しかし……今日の彼は一層不機嫌そうな顔をしていた。

 

「おいソウイチ、いい加減機嫌直せよ」

 

友達の一人がソウイチに話しかける。

 

「うるさいなぁ」

 

鬱陶しそうにソウイチは答える。今日の彼は右頬が赤く腫れていた。

 

「あんな奴が言った事、気にする程でもないだろ。ただの見間違えだ」

 

友達が続けてソウイチに話しかける。

 

「……だけど……」

 

「お前がネガティブになってどうするんだよ。あの人があんな事する人じゃないってお前が一番よく理解してるだろ」

 

「……」

 

渋い顔がほんの少し和らぐ、このままいけるか?と友達はソウイチの機嫌を治そうとする。が

 

「そうかなぁ。僕は無視できないと思うけど」

 

別の友達の余計なひと言。その言葉と同時にソウイチの表情がまた戻る。

お前な!何まぜっかえしてんだ?!と友達がリアクションを取る。

 

「だってそうでしょ?!火のないところに煙は立たないっていうし、ソウイチのお母さん、

最近帰りが遅いらしいじゃない。それにソウイチのお父さんは……」

 

「くっ!お前!」

 

ソウイチはその友達を掴みかかろうとするが、最初の友達が「やめろやめろ!」と間に割って入った為ソウイチはその場にとどまった。

掴みかかろうとした友達も「言い過ぎた、ごめん」と頭を下げる。

 

「でもさ、ソウイチはお母さんから何も言われてないんだろ。ソウイチもお父さんがいた方がいいって思ったのかも」

 

「お前ソウイチに懲りない事言うなよ」

 

――父なんておぶってもらった記憶しかないよ――とソウイチは右頬に手を当てながら心でつぶやく。

 

「何かそれらしい素振りとかなかったの?」

 

「……わかんないよ。いつもと変わらない素振りだったし」

 

事情はこうだった。『ソウイチのお母さんが知らない男と街を歩いてるのを見た』『男の家らしき場所に二人で入るのを見た』とあるソウイチのクラスメイトが言った。

これだけなら意味はないだろう。だがクラスメイトの一人がそれで『ソウイチのお母さんが不倫している』とソウイチをからかった。

ソウイチは冗談の受け辛い性格だ。ムキになって反応した為、さらに面白がった数人のクラスメイトがソウイチをからかう。

怒り心頭したソウイチはそのクラスメイトと喧嘩になってしまい、殴り殴られと右頬を腫らす結果となったのだ。(喧嘩自体は先生によって仲裁されたが)

 

「でもあぁでもしないとコミュニケーションもとれない連中だぜ。相手にしなきゃよかったのに」

 

「……あぁしなきゃわからないだろ」

 

「周りの大人にも相談した方がいいよ。お前が憧れてるコンドウ・ショウゴさんとかツチヤさんとか、最近仲良くなったヤタテ・アイさんとか」

 

友達もソウイチのガンプラ仲間の事は知っていた。だがアイの名前が出た途端、ソウイチの苦い顔はますます苦くなった。

 

「……なんでヤタテさんが出るんだよ」

 

「だってお前と仲いい人だろ?お前も結構気に入ってるみたいだし」

 

「なっ!あの人には手を貸してるだけだよ!」

 

慌ててるが、アイに対してのソウイチの言ってる事は本心だった。

ソウイチがガンプラバトルチーム『ウルフ』に入った際、ソウイチは周りとの実力差でいじめられることがよくあった。

だからこそ『勝てば誰も文句は言わないだろう』という考えにいたった。

 

その為、ガンプラバトルを楽しそうにやっていながらもコンドウに迫る実力を持った少女、ヤタテ・アイ、

ソウイチにとって彼女は相成れない存在だと思っていた。

 

「そうかなぁ、お前その人とガンプラの話する時、ちょっとは前より楽しそうに話してたぞ。なにかしらお前もその人の影響とか受けてるんじゃないか?

今まで勝つ事ばっかりこだわってたけど、楽しくやりたいって気持ちも強くなって来たように見えるし」

 

「……あ!あの人から学ぶ事なんて何もない!」

 

「あぁ悪い悪い、解ったからそんなうろたえるなよ」

 

「コンドウさんと同じ位大きい存在なんじゃないの?ソウイチにとって」

 

最後の余計なひと言でまたソウイチが騒ぎ出した。

友達がソウイチをなだめる、落ち着く頃にはソウイチの暮らすマンション『ムーンムーン』についた。そこでソウイチは別れる。

 

「さっきあぁは言ったけど、要はちゃんと話しなよって事だからね。気に障ったならゴメンね」

 

「よく冷やしとけよそのほっぺ」

 

「解ってるよ。……二人とも、ありがとう」

 

友達と別れ、ソウイチは自分の家のある五階へエレベーターで上がる。すれ違った近所の人にあいさつをしながら自分の家のドアを合鍵で開ける。

ソウイチは母との二人暮らしだ。ダイニングキッチンに入るとテーブルの上に母の手紙が置いてある。

 

『遅くなります。晩御飯は作ってあるので食べて下さい。食べる前に手を洗う事 ママより』

 

「……」

 

『母は不倫してるんじゃないか?』その疑問がソウイチの心にのしかかる。

 

――コンドウさんなら、力になってくれるかもしれない――

 

ソウイチはなぜだかそれが突破口になるかもしれないと思えてきた。ソウイチはガリア大陸に向かう準備の為、自室に向かった。

学校から帰ってきたら、着替えてガリア大陸に行くのがいつものパターンだった。

着替える途中、アイの顔も浮かぶ。

 

「……アンタじゃない……」

 

ソウイチは部屋で一人吐き捨てた。

 

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そしていつもの模型店『ガリア大陸』、ソウイチはついたらすぐさま二階へ駆け上がる。コンドウは大抵ここにいる。ソウイチは携帯電話はもっていないが

連絡をとらずともここにくればほぼ会えた。二階に上がると大きな背中が見えた。後ろ向きのコンドウだ。

 

――あの背中だ――

 

ソウイチはすぐに話しかけようとするが

 

「土曜日のイベント、どんなフィールドになるんですかね」

 

「さぁな、宝さがしってわけだから見通しのいい場所ってわけじゃないだろうなぁ」

 

「飛べる機体も重要になりそうですね。それはそうと私はナナちゃんと組みますけど、コンドウさんはツチヤさんとソウイチ君どっちと組むんですか?」

 

コンドウはアイと話しをしていた。後ろからだった為、角度的にかすかにしか見えないが、とても楽しそうな表情だった。

 

「……」

 

自分とだってあんな表情はあまり見せたことがないのに。と、ソウイチにはコンドウのアイに対する表情が面白くなかった。

 

「コンドウさん……」

 

「ん?お!ソウイチか。……ってどうしたんだその顔!」

 

「ソウイチ君!?」

 

話しかけたソウイチの顔を見るや否やコンドウはソウイチの腫れた頬に驚く、ナナとツチヤも寄ってきて同じことを聞いた。

 

「ただの喧嘩ッスよ。お気になさらず」

 

「何かで冷やした方がいいよ。といってもここじゃ何も冷やすものもないけど……」

 

アイも心配する。が、今のソウイチにはその気遣いも鬱陶しい。特に言ってるのがヤタテ・アイという理由で。

 

「いらないッスよ。それよりもコンドウさん、相談があるんスけど」

 

「ん?どうした?」

 

ソウイチは母が不倫してるかもしれないという噂と頬の事情をコンドウに話す。真剣な表情で聞いてくれるコンドウにソウイチは安堵していた。

 

「そりゃ本当か?!」

 

「あくまで噂ッスけどね」

 

「もし本当だったら大変だよ!なにか手伝える事ってないかな?」

 

コンドウに続いてアイが真剣な表情でソウイチに迫る。真剣なのはコンドウだけではない。

その場にいたアイとナナ、ツチヤも同様だった。しかしソウイチにはアイが反応した事がやはり面白くない。

 

「ヤタテさん、悪いけどこれは俺の問題なんス。身内である『ウルフ』ならともかく、部外者のアンタに口出しされたくない」

 

いつにも増して渋い顔で言い放つソウイチ。

 

「え?でも……同じビルダーの仲間、友達じゃない」

 

「……友達だって?」

 

ソウイチの言葉に面食らうアイ、そう言われたアイは少しショックだった。

 

「そうだソウイチ。ヤタテの好意を無駄にするな」

 

言い放つソウイチにコンドウは怒る。

 

「コンドウさんは黙ってて下さい。ヤタテさんとはたまたま利害の一致で共闘しただけじゃないスか」

 

「ソウイチお前!」

 

「丁度いい。明後日のガンプラ宝探しイベント、ヤタテ・アイさん、俺はアンタに挑戦する」

 

アイを指でさしながらソウイチは言い放つ。

 

「もともと次のイベントで競うつもりだったけどいい機会だ。だいたい本来敵同士なのにこうやってなぁなぁになってる状況がおかしいんだよ。

今回の戦いで自分達との立場の区別を分からせてあげるッスよ」

 

「ソウイチ!いい加減にしろ!」

 

「お母さんの事で辛いのは分かるがその態度はないだろう!」

 

ソウイチの態度に怒りを露わにするコンドウとツチヤ、

 

「……コンドウさんも結局ヤタテさんが大事スか!」

 

 

少年は二人から目を背け言い放った。

 

「何?!」

 

「明後日はコンドウさんと組みたかったけど、これじゃあ無理ッスね。一人で出ますよ。それじゃあ」

 

それだけ言うとソウイチは逃げる様に去って行った。

 

「おい待て!」

 

追いかけるコンドウ、ツチヤは暴言を吐かれたアイに駆け寄った。

 

「すまないヤタテ。解ってくれとは言わないけどソウイチも辛いんだ」

 

「解ってますよ。家庭の問題ですもん」

 

「にしても酷くない?オッサン以外に頼ろうとしないとか」

 

「そう言わないでくれハジメ」

 

ツチヤはナナもなだめる。しかしナナはそのツチヤの態度に納得がいかなかった。

 

「アサダに文句言う資格はツチヤさんもあるでしょ?いくらオッサンに憧れてるからってツチヤさんを無視したわけだし」

 

さっき頼ろうとしたのはコンドウだけだ。ツチヤも気配りが出来る性格な為、コンドウだけに相談を持ちかけたというのは不自然にナナは感じていた。

 

「まぁ、それだけコンドウさんには信頼してるって事なんだろうな……」

 

「にしても見損なったわよ!前に比べて態度も軟化したと思ったらあの態度だもん!友達だと思ってたのアタシらだけなわけ?!」

 

「……」

 

アイは思い出す。――そういえば昔、ソウイチ君がビルダーの実力でいじめられた時、いつもコンドウさんが助けてくれたんだっけ……――

それだけアイはソウイチにとってコンドウは大きい存在なんだなと感じていた。

 

……

 

その後もコンドウはソウイチを捕まえる事はできず(コンドウは徒歩、ソウイチは自転車だった為)

そのままソウイチは家に帰った。用意してあった夕食を済まし、テレビを見て時間を潰していたが母はまだ帰ってこない。

何か見たいわけじゃない所為か、テレビ番組の内容はまるで頭に入ってこない。

ずっとソウイチの頭には母が不倫してるんじゃないかという不安があったからだ。

 

「……」

 

ふとソウイチは部屋の棚に目をやる。棚の上には写真立てが置いてあった。

中の写真に写っていたのは幼稚園児の時のソウイチと一人の女性、そしてもう一人、ガタイの良い男が立っていた。

立ち上がり写真立てを手に持ちながらソウイチは黙りこくる。

 

「ただいま〜」

 

「!」

 

その時、玄関でドアが開く音と共に、聞き慣れた声が響く。

ソウイチは素早く察知すると玄関に向かった。2LDKの部屋の為、すぐに着く。

ソウイチは外ではあまり見せない穏やかな顔で出迎えた。

 

「おかえりなさい、母さん」

 

「ただいまソウイチ」

 

挨拶を返す女性は昼間アイにぶつかった女性その人だった。

 

「ところで母さん……ちょっと聞きたい事が……」

 

「……ってどうしたの!その頬!」

 

ソウイチが不倫の事を母に問いだたそうとするが、母はソウイチの右頬が腫れてる事に気付く。

すぐさま女性の顔が急に真剣な物に変わった。

 

「あ、これ?なんでもない。ちょっとぶつけただけだからほっとけば……」

 

「駄目よ!腫れがひくまで冷やさなきゃ、待ってて、いま氷持ってくるから!」

 

女性は玄関から上がるとパタパタと台所へ消える。しばらくして氷を詰め、タオルをまいたビニール袋をソウイチの右頬にあてがった。

 

「あ……」

 

ソウイチは「やめて」と言おうとしたが、目の前の心配そうな母の顔を見るとそんな気持ちも失せる。

 

「……ありがとう。母さん」

 

感謝の気持ちを述べると共に――そうだよな。不倫なんかするわけないよな――と思った。

 

「ソウイチ?そういえばさっき何か言いかけていたけど?」

 

「いや、なんでもない……」

 

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翌日……、アイ達は明日のイベントバトルの練習の為、ガリア大陸に立ち寄るべく商店街に向かっていた。

例によって通学路が一緒だったのでタカコとムツミも一緒だった。

 

「いよいよ明日だね。ソウイチ君、大丈夫だったかな」

 

「さぁね、本人がアタシらの協力拒否してる以上、今は不用意につつけないわよ」

 

商店街の入り口にさしかかる二人。ここまではいつも通りだが、今日はいつもと違っていた。

 

「ん……?あそこにいるのコンドウさんじゃない……?」

 

「え?あ、本当だ」

 

ムツミが指を指す。その先には後ろ姿のコンドウとツチヤが見えた。

しかも様子がおかしい。電柱の陰に隠れながら前方の様子をうかがっていた。

気になって声をかけるアイとナナ

 

「何不審者みたいな事してんのよオッサン!」

 

『うわっ!!』

 

完全に不意打ちだったらしい。大声をあげる二人、

 

「ハジメか!?いきなり話しかけるな!」

 

「何やってんですか?そんなコソコソと」

 

「いや、まずはあれを見てくれないか」

 

ツチヤが指をさす方向、見ると昨日の女性と男が向こうに歩いてるのが見えた。

 

「あ、昨日のお姉さん」

 

「会ったことがあるのか。あの人がソウイチのお母さん、『アサダ・カナコ』さんだ」

 

全員が『え?!』と驚く、特にアイとナナは、ちょっと会っただけとはいえ、昨日会った時には子持ちとは思えなかったからだ。

初めて見るタカコとムツミも驚くほど若々しい。

 

「丁度俺とコンドウさんが会った時に見かけてね。昨日の事も気になるし追跡してるんだ」

 

「わ〜スニーキングですか!なんか面白そう!」とタカコ

 

「言いたい事は分かるけど趣味悪いわね。追跡してどうしようってのよ」

 

「さぁな、勢いで出たはいいが確めるくらいしか考えてない」

 

「でもそれで本当に不倫とかだったらどうするんですか?ソウイチ君にそう伝えるわけにもいかないし……」

 

「……さぁな、少なくとも不倫じゃないと俺は思うよ。あの人は旦那さんを絶対忘れない人だ」

 

「……忘れない?」

 

含みを持たせた言い方に疑問をもつアイ、そうこうしてる内に六人は追跡、そしてある店に二人は入っていった。

 

 

「ゲームセンター?」

 

そう、二人が入っていったのはゲームセンター『キオ』だった。

閉店したホームセンターを改装したのだろう。かなりの広さの駐車場と店の大きさが確認出来た。

先に入った二人を追い、入る六人。入るや否や二人は真先にあるコーナーに向かった。

 

「……え?これって……」

 

その光景を見た六人は驚きの顔を見せた。

 

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ソウイチの家にコンドウからの電話が来たのはすぐ後だった。コンドウは「至急ゲームセンター『キオ』に来てくれ」

と伝えた。しばらくしてソウイチがやってくる。

店に入るとコンドウが手招きしてるのが見えた。

 

「いきなりなんなんスか?こっちは明日のイベントバトルに使う新作の準備で忙しいってのに……」

 

文句を言うソウイチにコンドウは「ある人に会わせたい」と案内した。その先は……

 

「なんスかこれ?ゲーセンのガンプラバトルのコーナーじゃないスか?」

 

ソウイチの言った通りだ。ゲームセンター内に設けられたガンプラバトルの機器一式、観戦モニターとGポッドが6個、

店内の明るさと広さに差はあるが、それはガリア大陸にあった設備と同じだった。

目の前に赤く塗装されたセラヴィーガンダムが戦ってるのが見えた。『ガンダムOO』に登場したガンダム、対艦・要塞用のその機体は

両肩と両手、両膝に大型のビーム砲を装備しており全体的に大型だ。『太ってる』といった表現がよく似合う。

 

セラヴィーは粗さはあるがよく動く、対戦相手のガンプラの攻撃を器用に回避し、難なく両手の『GNバズーカU』で相手を破壊した。

 

「俺たちが見せたかったのはあれだ」

 

コンドウがセラヴィーを指さす。――あれが何だって言うんスか――そうソウイチが言おうとした時、

 

「ソウイチ、見ててくれた?私の操縦」

 

ソウイチにとって馴染みのある声がGポッドから聞こえた。そして声の主がGポッドから現れる。その人は……

 

「か……母さん?」

 

ソウイチは言葉が出なかった。自分の母親がパイロットスーツを着てガンプラバトルをしていた事に

 

「な……なんで?」

 

わけがわからない。といったソウイチにアイが答える。

 

「ソウイチ君、お母さん、不倫じゃなかったんだよ」

 

アイに代わってカナコが前に出る。

 

「お母さんね。明日のガンプラバトルの大会で、ソウイチと一緒に出たくて、会社の人に習ってたの」

 

「私だよ」という言葉と同時に一人の中年男性が現れる。話の冒頭でカナコと一緒にいた男性だった。

 

「じゃあ、男の人と一緒に家に入ったっていうのは?」

 

「そこで組み立て方とか習ったのよ。そのほっぺも私を心配してなんでしょ?……ゴメンね。心配かけさせちゃった……。

でも理由は明日、ソウイチと楽しみたくてやったの……、その気持ちだけが理由で、それだけが真実だから」

 

カナコはソウイチに手を差し出す。

 

「私と一緒に明日のガンプラバトル、出てくれる?」

 

「母さん……」

 

おそるおそるながらもカナコが聞く。ソウイチは「不倫じゃなかった」という安心感、そして自分も「一緒に楽しみたい」

という想いからカナコの手を取ろうとする。が……

 

「ソウイチ君……」

 

安堵するアイの、自分の名前を聞いた時、ソウイチはハッとした。そして……

 

「甘ったれた事言うなよ……」

 

ソウイチは母、カナコの手を払いのける。

 

「!?ソウイチ?」

 

カナコを中心にその場にいた全員が驚く。

 

「お……俺は今まで勝つことこそが大事なことだと考えてビルダーやってきたんだ……!そのメンツを守る事こそが強者の務め!

明日だってヤタテさんとの勝負が取り付けてある……!

そんな大事な時に『楽しみたい』なんて気持ちでバトルなんて出来るか!」

 

躊躇しながらもソウイチは言い放つ。

 

「ソウイチ君!そんな言い方ないでしょ!」

 

止めようとするアイにソウイチは顔を向けた。

 

「アンタは関係ないって言っただろう!」

 

「ソウイチ!お前本当にいい加減にしろ!」

 

コンドウとツチヤはソウイチを捕まえようとするがソウイチは二人より早く動き、その場から逃げ出した。

 

「あっ!お前!」

 

ソウイチは振り向かずに走り続けた。

――ヤタテさんがいなけりゃこんな事には!――そう呟きながら身も心も逃げていた……。

 

 

ソウイチが逃げ出した後、アイ達はカナコをベンチに座らせ慰めていた。

ソウイチのあんな拒絶の仕方だ。カナコもかなりショックを受けたのだろう。暫くは鼻をすすらせながら静かに泣いていた。

 

「グスッ……私が……もっと事前に言っておけば……」

 

「カナコさんの所為じゃありませんよ。ソウイチの奴……」

 

「大丈夫ですよ。なんとかなりますよ」

 

「そうですよ〜。元気出してくださいオバサン」

 

「……」

 

タカコがオバサンと言った時、カナコの泣く音が止んだ。そしてそのまま黙り込んだ。明らかに空気が悪くなった。

 

「ぁ……、フ・フジさんの言う通り大丈夫ですよカナコさん!ソウイチだって内心悪い事したとは思ってるハズですから!」

 

ツチヤが慌ててタカコのフォローをする。横でムツミがタカコを余計な事言うなと目で訴えてる中、

ツチヤは自分の発言に確証を持っていた。ソウイチが言いすてた時、声の調子からして無理して言ってる感はありありだったからだ。

 

「でも、なんとかなるっていってもどうするんですか。宝探しのイベント大会明日ですよ」

 

「ソウイチの性格上、明日のイベント大会は出るだろう。そこでどうにか説得すればいいんだが……」

 

途中まで言ったコンドウが黙り込む。と、その時だった。

 

「それなら私にも手伝わせてくれないか?」

 

カナコと一緒にいた中年の男が名乗り出た。

 

「あなたは……?」

 

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そして翌日、いつもの市民体育館にて大会は開催される。

アイに挑戦すべく来ていたソウイチは、エントランスで待機していながら気持ちは沈んでいた。

あの後、ソウイチはガンプラやら道具を持って友達の家に押しかけ泊まり込んだ。その時今日使うガンプラを完成させたのだった。

しかしながら、完成の達成感も嬉しさもない。それは母達に対して嫌な態度をとってしまった事への後ろめたさに他ならない。

 

「クソッ……」

 

しかしアイと母に自分の考えを言った手前、その気持ちを表に出すのは嫌だった。

自分が正しいと思っていた気持ちが変わってきてる事をソウイチは認めたくなかった。

 

「ソウイチ君。おはよう」

 

ソウイチを見つけたアイがソウイチに話しかけてくる。

 

「……おはようございます。今日は負けませんからね。いつまでもアンタの後ろにいる俺じゃない」

 

「ちょいちょい、それはいいんだけどさ、アンタ今日は誰と組むってのよ」

 

一緒にいたナナが聞く。今日のイベントバトルは二人一組のペアが前提だ。アイ達はソウイチが誰と組むかまだ知らなかった。

 

「俺一人ッスよ。別に一人でもレギュレーション違反してるわけじゃないんだ」

 

「そうなんだ」

 

その言葉と一緒にカナコが現れる。現れた母にソウイチの表情は一瞬怯えたようになるが、すぐに戻った。

 

「母さん……俺と組もうったって無駄だよ」

 

「……解ってるわ。今日は私一人で出るから。折角今日の為に出たんだもの、やりたいようにやる。やるからには全力で楽しむわ」

 

「……」

 

笑顔とVサインで答えるカナコ、ソウイチの後ろめたさはますます大きくなっていた。

 

 

そしてイベントバトルが始まった。ビルダー全員は未だ待機中。始まれば全機が空からフィールドに降り立つ。

今回のフィールドは前々回同様『Gガンダム』に登場した島、ランタオ島だ。島一つで森あり荒れ地あり崖ありと宝探しのイベントにはもってこいだろう。

アイの機体はいつも通りユニコーン、ソウイチの機体はアストレアダークマター

(以前作ったアストレアFR2にダークマターブースターという鳥型支援機を背中にとりつけた機体だ)

ナナの機体はサツマとの戦いで仕様したフリーダムガンダムアルクスだ。

 

「勝敗のルールは簡単ッス。イベント通りのルールに乗っ取って正解の宝をとってきた方の勝利ッス」

 

Gポッドの通信でソウイチがアイとナナに勝負のルールを伝える。

今回のイベントルールはこうだ。ペアの機体の内、片方には円盤状のアンテナ、レーダードーム(レドーム)が渡される。

これは機体を中心に一定範囲で宝のある場所を探す仕組みだった。宝はランタオ島中いたるところに設置されているが

正解はひとつだけで他は全部ハズレ、正解をとったチームが優勝となるわけだ。

同時に出場ビルダーも同じチーム以外はバラバラの場所に出撃する為、運要素も強く絡むだろう。

 

「それでいいよ。私達の方は」

 

アイとナナは応えながらうなずく。そうこうしてるうちにディスプレイにカウントダウンが始まる。

 

『9・8・7・6・5』

 

出場するビルダーがそれぞれの想いを浮かべながらもカウントダウンは止まらない。

 

『4・3・2・1・0!!』

 

0という言葉と同時にブザーが鳴る。それを合図にそれぞれのビルダーは一斉にカタパルトから飛び出した。

まずアイ達は着地すると同時にレドームで範囲を確認する。レドームを受け取ったのはナナの方だった。

 

「どう?ナナちゃん」

 

ユニコーンに乗ったアイが聞く。ナナはフリーダムの飛行能力を活かし、上空で宝を探していた。

 

「とりあえず一個それらしい点があるわ」

 

ナナはディスプレイを見ながら答える。ディスプレイに追加されたレーダーは自機を中心に自動で円形の索敵を行う。

宝がある場所には赤い点で表示されるのだ。

 

「岩山の方ね。こっちから南が一番近いわ」

 

「解った。行ってみよう」

 

「うん。ん?」

 

と、ナナが答えると同時にナナのGポッドに警告音が響く。「後ろか!」とナナは身をひるがえし後ろからのビームを回避した。

別チームの二機がナナのフリーダムに狙いをつけながら飛んでくる。今回のイベントは攻撃による妨害は許可されている。

レドームを壊されたら索敵が出来なくなるため一気に不利になる。襲ってきたのはそれが目的なのだろう。とナナとアイは考えた。

 

「気が早いね!でも歓迎するよ!ライバルが減るから!」

 

アイは嬉しそうに応えながらも襲ってきた二機に狙いをつけビームマグナムを放った。

 

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コンドウ達も同じく戦ってる一方で、こちらはソウイチ、彼もまた宝を探してランタオ島を飛び回ってる。しかし……

 

「チッ!また取られた!」

 

向かってた先の赤い点が消えたのが見えた。先に宝をとられたという事だ。

向かう途中でソウイチも別のチームに襲われた。向うは二体だがこちらは一人で対抗しなきゃいけない。

その為、余計に時間を食ってしまうというわけだ。

 

――クソッ!やっぱり一人じゃ自分の筋も通せないってのかよ!――

 

心の中で愚痴ってると、またもGポッドに警告音だ。

 

「クッ!」

 

警告音が示した方向にソウイチは身構える。一人な分余計に狙われやすいのだろう。

前方に迫る敵機、迎撃しようとGNビームライフルを構えるソウイチ、がその時だった。向かってきた二機を横からの大型ビームが飲み込んだ。

 

『!?』

 

 

ソウイチも襲おうとしていたビルダーも驚く、ビームに飲まれた二機はそのまま爆散した。

 

「大丈夫だった?ソウイチ」

 

カナコの声だ。同時に乗っていた赤いセラヴィーガンダムが姿を現す。

 

「母さん……なんで?」

 

「言ったでしょ?『やりたいようにやる』って、私はソウイチとこのイベントがしたいの」

 

「……」

 

突っぱねようかとも思った。後ろめたさはずっと残ったままだった。

 

「……勝手にしろよ……」

 

『軽蔑されてない』という事に内心安堵しながらも、表面上はぶっきらぼうに言いながら、ソウイチはレーダーで宝の位置を確認する。

ここからすぐ近くに宝の赤点が表示されていた。が、また消える。

――また取られた?!――とソウイチが内心叫んだ時だ。

 

「やぁ、頑張ってるかね?」

 

聞き慣れない男の声がした。誰だとソウイチが見るとオーカー色に塗装されたジムキャノン・Uが見えた。『ガンダム0083』に登場した砲撃用の機体だ。

背中はガンダムmk−Uの物に換装され、その上には大型のコンテナを背負い、両肩はカラミティガンダムのシールドを搭載していた。

 

「あら、ヤナギさん。そちらの調子はどうですか?」

 

カナコがフランクにジム・キャノンUの男に話しかける。

 

「ソウイチ、私の会社の上司のヤナギさんよ。私にガンプラを色々教えてくれた人なの」

 

ソウイチの心情を察したのか、カナコがソウイチに紹介する。前日出ていた中年の男だ

 

「ぁ、始めまして……」

 

しぶしぶ挨拶するソウイチ

 

「実は選手だけでなく役員としてもこのイベントに出ててね。ビルダーが違法を行わないか目を光らせてるのさ」

 

見ただけではあまり喋ってない所為か、近寄りがたい雰囲気があった。しかしいざ会話してみると、明るい人だというのがよく解る。

 

「あなたも一人ででてるんスか?」

 

「あぁ、でも支援機と一緒だからね。そんなにつらくはないよ」

 

ヤナギは機体の手を使い上を指差す。ビルドブースターmk−Uを改造したであろう支援機が飛んでいた。機体機首下部に逆さまにレドームがついており、

あれで索敵を行うのだろう。

 

 

「それじゃあ私も行くよ。役員だからって手加減はしないからね」

 

そのままヤナギは支援機と共に去って行った。

 

「……と、いけね。呑気に話し込んでる場合じゃなかった。早く次の宝の場所を探さなきゃ……あれ?」

 

レーダーを見てソウイチは不審に思った。さっき消えたはずの場所の赤い点がついていたのだ。

見間違いか?と思うソウイチにカナコが話しかける。

 

「ソウイチ……お母さん、さっき言った通り、自分のやりたい様にやるから、一緒に行くからね」

 

「……俺だって言っただろ。好きにしなって」

 

「ソウイチ……」

 

「早速だけど確認したい場所があるんだ。手伝ってほしい……」

 

「うん!」

 

-7ページ-

 

 

カナコの見せる笑顔、ソウイチはモニター越しの母の笑顔に無意識に安心する。

そんな気持ちの中、機体を飛ばす。それに続いてカナコのセラヴィーも飛び立った。

 

 

そしてしばらくして……アイのチームでは……

 

「アイ、じゃ、開けるから」

 

「OKナナちゃん」

 

岩場の中、置かれた小型のコンテナをナナのフリーダムが屈みながら、宝箱の様に開ける。(アイのユニコーンはその後ろで銃を構え周囲を見張っていた。)

 

「……駄目だわ!またハズレ!」

 

ナナのフリーダムが『ハズレ』と書かれた紙をアイに見せる。

 

「もうこれで五個目だよ……正解はどこにあるんだか……」

 

アイは被ったヘルメットに右手を当てながら呟いた。ずっとこんな調子だ。正解なんて出やしない。

と、アイとナナのGポッドに通信が入った。別チームのコンドウの機体『ミブウルフ』だ。

コンドウもツチヤの『ガンダムX黒王号』とチームで各所を探していた。

 

「ヤタテ、正解は見つけたか?」

 

「全然ですよ。見つけてたらその場で優勝扱いになりますから……」

 

「もう本当にあるかどうかすら怪しく思えて来たわよオッサン」

 

「そうか……俺の方も同じだ。ところでソウイチの方はどうなってるんだろうか」

 

「さぁ……残念ですけど、深い所はカナコさんとヤナギさんに任せるしかないですよ……」

 

 

そして再びソウイチの方……

 

「またハズレだ!」

 

荒れ地に悔しそうなソウイチの声が響く。こちらも幾つかコンテナを開けたがハズレ続きだった。

 

「ソウイチ、落ち着いて、でも開けるペースは上がってきてるからいいじゃない」

 

「でも勝てなきゃ意味なんて……!」

 

うまくいかない事による悔しさの声を放ち、ソウイチのアストレアはハズレの紙をビリビリに破り捨てた。

態度にもカッカしてるのは目に見えた。

 

「ソウイチ……」

 

「次の、探しに行こう」

 

ソウイチはレーダーを見る。近くに一つの赤い点が見えた。手がかりがない以上そこを当たるしかない。

と、またも赤い点は消える。

 

「やぁ二人とも、調子はどうだい?」

 

ソウイチが赤い点の消失に気付くと同時に、またヤナギのジムキャノンUが寄ってきた。

 

「いぇ、正解の物はまだ見つけられなくて……」

 

「ふむ……まぁ正解さえ見つけられれば優勝だ。何処か意外な場所にあるのかもしれないなぁ」

 

まぁ最後まで頑張ってくれと言いながらヤナギは去って行く。……そしてまた消えたはずの赤い点がレーダーに現れた。

 

「!まただ……」

 

ソウイチは顔をしかめる。なぜあの人と会うたびにレーダーの赤い点が消えたり点いたりするんだろう。

あの機体を中心に何かあるのか?何の為に?何か強いひっかかりを感じた。

 

――意外な場所にあるかもしれないな――

 

さっきヤナギが言った言葉をソウイチは考えた。そしてソウイチが見据えた先は……

 

「あのジムキャノンのコンテナ……そうか!」

 

そういうや否や、ソウイチは背を向けたジムキャノン目掛けて飛び出した。

狙うは……ジムキャノンUのコンテナ!

 

「そのコンテナの中身!見せてもらう!」

 

ソウイチはアストレアの右腕に装備したGNソード改をジムキャノンUに振るう。

 

「む!?」

 

ヤナギは危険を察知すると振り向き。ホバーを活かしたバックステップでそれを回避した。

鈍重そうな外見とは裏腹にかなり軽快だ。

 

「ちっ!クラーケンブースター!!」

 

ヤナギが名前を叫ぶと支援機、クラーケンブースターがアストレア目掛けて撃ってきた。カラミティガンダムのバックパックを二体使った

四連ビームキャノンがソウイチを襲う。

 

「くっ!」

 

空中から地上に撃ちこまれるビーム、着弾と共に地面は爆発。立て続けに撃ちこまれるビームにソウイチもたじろく。

 

――このままじゃ追い込まれる?!――

 

ソウイチがどうすれば、と思案しているとアストレアの前面にカナコのセラヴィーが躍り出る。

 

「母さん?!」

 

「GNフィールド!展開!」

 

カナコが叫ぶと共にセラヴィーの両肩、両足のユニットが開き緑色のバリア、GNフィールドが展開された。

フィールドはビームを防ぎセラヴィーとソウイチのアストレアを守る。

 

「今の内よ!ソウイチ!」

 

「う!うん!」

 

ソウイチは頷くと共に左手にGNビームライフルを持ち、すかさずクラーケンブースターに撃った。

クラーケンブースターは回避行動をとろうとするも、ジムキャノンとは対照的に重武装すぎて軽快に動けない。

下部のレドームにビームは当たり、レドームは破壊された。

 

と、同時に全フィールドである異変が起きる。

こちらはアイの方

 

「ん?何これ?」

 

「どしたの?ナナちゃん」

 

「いや、なんか一個いきなり反応が現れたんだけど」

 

コンドウの方

 

「?こいつは?」

 

「どうした、サブロウタ」

 

「いやコンドウさん、一個反応が、しかもこれ動いてるぞ」

 

反応が一個現れたのはソウイチとカナコの方でも確認できた。

 

-8ページ-

 

「ソウイチ!これって!」

 

「ヤナギさんと会う度に近くの宝の反応がついたり消えたりする。ジャミングで何か隠してる証拠だ。

そしてあのレドームは索敵じゃなくて何か隠す目的……ヤナギさん、つまりアンタが宝を持ってるって事っスよ!」

 

「……フフフ、ハハハハ!」

 

ソウイチの指摘にヤナギがいきなり笑い出す。

 

「大したもんだ。ヒントは与えてやったが自力で私のトリックに気付くとはな!」

 

ヤナギは背中のコンテナを切り離し、地面に置いたコンテナを開く、中には緑色に輝く四角い箱があった。

 

「これが皆の欲しがってる宝、名前は『キューブ』だ」

 

「ならそれ!すぐもらうっス!」

 

「まぁ待て、その前にボスと戦うのがイベントの常識というものだろう?クラーケン!!」

 

ヤナギが叫ぶとクラーケンブースターは機首を切り離し、後方部がジムキャノンUの背中に、つま先にカラミティの肩が装着される。

四連ビームキャノンを追加されたジムキャノンは量産機にあるまじき威圧感を放っていた。

 

「私を倒してからにしてもらおうか!このジムキャノン・クラーケンを!!」

 

 

ヤナギはそう言うや否や、全身の火器十門を一斉に発射させる。

 

「!」

 

カナコはセラヴィーのGNフィールドでビームを防ぎ、ソウイチのアストレアはビームを器用にかわす。

 

「この!」

 

すかさずソウイチはアストレアのビームライフルで撃ちかえす。

 

「フン!」

 

ヤナギのクラーケンはホバーで滑るように回避、足にカラミティのホバーを装着した為か

重量級にも関わらず機動力は一層上がっていた。

 

「ソウイチ!離れてて!」

 

カナコは叫ぶと共にセラヴィーのGNバズーカUとGNキャノンを全て発射し応戦。全八門の大型ビームがクラーケンを襲った。

 

「ほう!」

 

ヤナギは楽しそうに言うと機体を横に滑らせ回避、押されているにも関わらず余裕だ。

 

「二対一はちょっとキツイかな!ならば!」

 

ヤナギはそう言うと背中のブースターを切り離す。

 

「!?」

 

「二対二にしようか!」

 

驚くソウイチをよそに分離したクラーケンブースターはカナコのセラヴィーに襲いかかる。

カナコは迎撃しようとするも、クラーケンブースターはそれよりも早くセラヴィーに火器を撃ちこむ。

避けてる暇はないとセラヴィーはGNフィールドを張り防いだ。

 

「私はいいから!あなたはヤナギさんを!」

 

「おぅ!」

 

ソウイチはGNソードで分離したジムキャノンUに斬りかかった。

ジムキャノンUは右腕の袖からビームサーベルを抜き、GNソードを受け止める。

 

「やるね!カナコさんも実力を早くつけたが、やはり血は争えないか!」

 

ジムキャノンUのパワーは高く、アストレアのGNソードを弾いた。

 

 

「くっ!余裕を見せつけないでほしいッス!」

 

左手にビームサーベルを持ち、ソウイチは二刀流で斬りかかる、だがジムキャノンUは後方に下がりながらそれを受け流す。

 

「くそっ重量級のジムキャノンUなのに!」

 

「ホバーの機動力は飛躍的に上げている!これ位しなければイベントのボスは務まらないさ!これ位の強敵がいないと楽しくない。君にも解るだろう?」

 

「うるさい!俺は勝つんだ!勝てればそれでいい!」

 

「ほう!なら!」

 

いきなりヤナギのジムキャノンUは前にダッシュ、アストレアの前を横切ると、後方にいるセラヴィーに向かった。

 

「!?母さん!」

 

ジムキャノンUは両肩のシールドを前方に突出し、セラヴィーに勢いよく衝突させる。

使用されたカラミティのシールドは衝角としての使い方も出来るのだ。

 

「え?!キャア!」

 

予期せぬ攻撃にセラヴィーは衝角をモロにくらう。GNフィールドはビームも弱い実弾も防げることが出来るが(ガンプラバトル内の話である)

ジムキャノンUの突進はそれを上回っていたという事だ。

突進の際にセラヴィーの両肩のGNフィールド発生装置は損傷、GNフィールドは維持できなくなった。

 

「あっ!フィールドが!」

 

「今だ!クラーケン!」

 

「っ!!」

 

GNフィールドが消えた直後、クラーケンブースターがセラヴィーに連続でビーム砲を撃ちこむ、上から肩を、膝を撃ち抜かれ

瞬く間にセラヴィーはボロボロになりその場に倒れる。

 

「あぁっ!」

 

「母さん!」

 

「おっと動くんじゃない」

 

駆け寄ろうとするソウイチのアストレアにヤナギのジムキャノンUはセラヴィーの喉元にビームサーベルをあてがう。

 

「人質スか?卑怯っスよ!」

 

「そうじゃないさ。勝ちたいのなら君にチャンスをやろう。気付かないのか?今私の守ってるコンテナはがら空きだ」

 

言われてソウイチは気付いた。今自分の後方に『キューブ』の入ったコンテナはある。

 

「取っていいぞ。それを、勝ちたいと思うなら取ればいい」

 

「な!何を言って!」

 

「勝たなきゃ意味がないんだろう?何を迷う必要があるんだ?」

 

普通なら喜んで取りに行くだろう。だが今のソウイチは迷っていた。自分自身取りに行った方がいいと考えながらも、

 

「……くっ……」

 

その場に立ち尽くすアストレア、

 

 

と、遠くからアイ達がこちらに向かってきた。新しく出来た赤い点が気になって来たのだ。

 

「ヤタテ!見ろ!」

 

「あ、ソウイチ君!」

 

 

「どうした!勝ちたいんじゃないのか!」

 

「ソウイチ……」

 

「……ねぇよ」

 

「何?」

 

「わかんねぇよ!!そんなことぉぉっっ!!!!!!!!!」

 

絶叫すると同時にソウイチはジムキャノンUにロケットの様に突っ込んだ。

 

「何っ!!」

 

回避が間に合わずジムキャノンUは巻き込まれ、ぶつかった二機は放物線を描き派手に吹っ飛び、ゴロゴロ転がる。

 

-9ページ-

 

「ヌォォッ!!」

 

「……っ!」

 

衝撃が止み、起き上がるジムキャノンU、しかしアストレアの方は四つん這いの体勢、膝をついたまま起き上がらない。

 

「……おかしいんだよ。こんなの……」

 

歯を食いしばりながら、ソウイチは胸中を漏らし始める。ヤナギはそれを見たまま動かない。

 

「楽しくやりたい。それはウルフに入った時、思ってた事だった。でも周りは結果を出さなきゃ認めてくれない……。

だから俺は楽しいって気持ちは間違いだって学んで!勝つ事こそが強いチームの!ビルダーとしての正しい有り方だって思ってた!

それなのに自分の中でそのこだわりを忘れそうになって!」

 

それは誰の所為だ。アイツだからだ。自分が嫌悪した筈のアイツに自分が……気付かない内に影響されていたから

 

「勝つ事が一番正しい楽しみ方だって!見せつけたかった人がいたのに!その人の影響を!俺は受け始めている!

なんなんだよ!自分が正しいと思っていた事なのに!こんな簡単に自分が揺らぐなんて!」

 

『だからお母さんの、お前と楽しみたいという気持ちを拒否したのか?』

 

「!?」

 

通信でコンドウの声がする。こちらの方にツチヤ、アイ、ナナを含めた四人、いや、現時点で残ってるビルダーが全員こちらに向かってきている。

いきなり表示が増えたのだ。皆ここにあるのが本当の宝だと確信していた。

 

『お前にもただ純粋に楽しみたい。遊びたいという気持ちがあると、その気持ちを受け入れるのが嫌だ、と』

 

「……そうっスよ」

 

『だからって親の気持ちをないがしろにする奴があるか!!』

 

コンドウの怒り声がソウイチの耳をつんざく、

 

『コンドウさん、落ち着いて……ソウイチ君、私の所為って思ってる?』

 

今度はアイの声だ。こちらは少し悲しそうだった。

 

「……いえ」

 

『私は今まで自分がガンプラバトルに掲げてきた想いは、自分で正しいって思った事。それがソウイチ君に悪影響を及ぼしたとしても、私は謝ることは出来ない』

 

「別に謝罪を求めてるワケじゃないっスよ……」

 

『自分でその気持ちを嫌ってるっていうのなら、私達にあなたが変化を拒むのを止める理由はないのかもしれない』

 

何を言ってるんだヤタテ!とコンドウは止めに入ろうとするがアイは続ける。

 

『強制は出来ない。でも今は、お母さんの気持ちを汲んであげて!少しでも楽しみたいって気持ちがあるのなら、せめて今は一緒に楽しんであげて!

だってあなたのお母さんは、自分でガンプラバトルをやろうと、変わろうとしたんだもの』

 

「……強制はしないって言ったはずっスよ……」

 

『自分が変わるのかどうかは、せめてその後に自分で決めろ、選ぶのは自分自身でしかないんだからな』

 

「……俺は……」

 

最後にコンドウが付け足す。アイも同じ事を言おうとしていたらしく、言葉を取られたことに面食らっていた。

 

「説教は澄んだかね?で、どうするんだい?」

 

相変わらずヤナギはその場から動かずソウイチの反応を待っていた。

 

「……俺は……!俺は!!」

 

ソウイチが叫ぶ瞬間、アストレアの全身が赤く輝く、トランザムだ。立ち上がりまたもジムキャノンUに斬りかかる。

 

「ぬっ!」

 

トランザムの加速により、アストレアの斬撃はなおも早くなっていた。ヤナギもさっきと同じ要領で受け流そうとするがこれにはヤナギも驚く、

 

「ソウイチ……」

 

「私と戦うのかね?勝てればいいんじゃなかったのか?」

 

「俺は!今はそんなのどうだっていい!!俺は!母さんと!!」

 

切り上げたGNソードがジムキャノンUのビームサーベルを弾き飛ばす。次に来る斬撃をかわそうとヤナギはカラミティのシールドを前面に構える、が、

 

「ガンプラバトルがしたいんだぁぁ!!」

 

涙を浮かべながらのソウイチの一撃はカラミティのシールドを真っ二つに斬り裂いた。

 

「ほう!だがこの場には残りのビルダー達が集まりつつあるぞ!はたしてもうすぐ乱戦になるこの場で楽しむ余裕があるかな?」

 

『ヤナギさん、そうはさせませんよ!』

 

コンドウの通信がソウイチとヤナギのGポッドにつながる。アイの通信もそれに続く。

 

『各所のビルダーは私たちが散開して相手をしています。ツチヤさんもナナちゃんも一緒ですよ』

 

「コンドウさん!ヤタテさん!」

 

『ソウイチ君、とりあえず今はいう事ないよ。楽しんで!お母さんと!』

 

「……はい!」

 

「待ってたわ!ソウイチのその言葉!」

 

ソウイチの返事に続き、カナコの声が響く。直後、セラヴィーのバックパックが分離され、畳まれていた手足が展開、頭部がせり出す。

セラヴィーの分離形態『セラフィムガンダム』だ。分離後はこちらが本体となる。

 

「母さん!」

 

「今度こそ一緒に楽しもう!」

 

セラフィムもトランザムを発動させ赤く輝く。ソウイチは嬉しそうに「うん!」と答えた。

セラフィムは両手をキャノンに戻しジムキャノンUに撃つ。

 

「活気をつけて!だが!」

 

ヤナギはクラーケンブースターをセラフィムに向ける。撃ち落そうというわけだ。

ストレアはセラフィムを助けようとするが少し距離がある。トランザムでも届かないかもしれない。

 

「母さんに手ぇ出すなぁぁ!!」

 

ソウイチは背中のダークマターブースターを切り離す。コウモリの様な形に変形したダークマターブースターは

頭部から大型ビーム砲を発射、ビームはクラーケンブースターの側面を貫いた。黒煙を吹き、爆発するクラーケンブースター

 

 

「どうだぁっ!」

 

「何っ!だが……甘いな!」

 

ジムキャノンUは背部のバックパックから左手にビームサーベルを取り出し。アストレア相手に振り上げる。

ダークマターブースターの操縦には欠点があった。それは、分離中は搭載した本体のコントロールが不可だという事。

アストレア本体に強力な火器がない以上、分離するしかなかった。

 

「っ!」

 

「わざわざ分離するとはお人よしな奴だな!カナコ君にそっくりだよ!」

 

その言葉の直後に斬り裂かれる機体、通信を聞いていただけのアイ達はソウイチがこれでやられたかと思った。だが……

直後、ジムキャノンUの胸から実体剣が生えた、否、背中から剣が貫いたのだ。

 

「バカ……なっ!!」

 

「危機一髪だったわね。ソウイチ」

 

やったのはカナコのセラフィムだ。ジムキャノンUをダークマターブレイドという手甲と一体化した剣で貫いていたのだ。

これはダークマターブースターの可変翼だった部分が変形した物だ。

 

「ふふっ……親子とはいえ即席のチームと甘く見ていたが……大したものだ。今までの無礼を……許してくれ……」

 

ダークマターブレイドを引き抜くと同時にジムキャノンUは倒れ込み爆発、墜落していたクラーケンブースターも同時に爆散した。

 

「やった……っ!」

 

安堵の声を上げるソウイチ、トランザムが切れたアストレアにダークマターブースターが再び収まる。

同時にトランザムの切れたセラフィムが寄ってきた。

 

「皆が残りの人たちを抑えてくれてる。今のうちに宝を取りなよ」

 

母の言葉にうなづき、コンテナの中に手を突っ込もうとするソウイチ、しかし、ある事が脳裏によぎった。

どうしたの?と不審に思ったカナコが問う。

 

「……違うチームだから、一緒に表彰台には上がれない……でも一緒に取れば……」

 

「ソウイチ……えぇ!!」

 

そう言いながらカナコのセラフィムはアストレアと並び、同時にコンテナに手を入れ、宝『キューブ』を掴んだ。

これにより大会はソウイチとカナコの二人の勝利となったのだ。

 

-10ページ-

 

大会の後はしばらく待機となりその後に表彰式となる。アイ達はコンドウ達とエントランスで待機していた。

タカコとムツミもいるが、ソウイチとカナコはまだ来てない中、アイ達は心配しながらその話をしていた。

 

「やぁ皆、今日は損な役回りをさせてしまいすまなかったね」

 

ソウイチ達の前にヤナギがやってきた。心なしか少し声が沈んでいた。

 

「あ、ヤナギさん、ソウイチ君、うまくいきましたよね」

 

アイが問いかける。ヤナギが『手伝わせてほしい』と言ったのは先程のソウイチに宝をチラつかせる事だった。

これでソウイチの心に揺さぶりをかけて本心を吐かせるというヤナギ本人の発案だった。

 

「あぁ、うまくいったさ」

 

「しかしヤナギさんも思い切った事しますね。実際イベントバトルを私用しちゃった様なもんですから、怒られたりしないんですか?」

 

「……もう十分怒られたよ……」

 

ツチヤの問いに顔を青ざめてヤナギは答える。よほど絞られたのだろう。

 

「でも正直危険な賭けすぎましたよ……。もしソウイチ君がこれであの強情を貫いたままだったらどうするつもりだったんですか……?」

 

「失敗するとは思ってなかったさ。ソウイチ君はカナコさんの息子だからな」

 

「ぅーん……それでいいんですか……?」

 

「まぁまぁムツミ!結果オーライって事で〜」

 

「……要は俺を試してたって事スか……」

 

現れたソウイチとカナコに「あっ、ソウイチ」とちょっとバツが悪そうにコンドウが言う。

さっきの会話を聞いていた所為かややむくれていた。

 

「そういう事言っちゃダメよソウイチ、せっかく皆さんがソウイチの為思ってくれたんだから」

 

「母さんは黙っててよ。……でもま、ちょっと今回は感謝しますよ。今日のイベントでちょっと自分の事考える機会になりましたし」

 

そう言ってソウイチは、どこかぶっきらぼうながらも頭を下げる。

 

「……有難う。そしてすいませんでした……」

 

慣れてない所為か顔は真っ赤だ。

 

「叱ろうと思ってたけど、自分で謝ることは出来たんだ」

 

意地悪っぽく言うカナコにソウイチは反論する。

 

「う……うるさいな、俺だって悪い事の区別位つくよ!」

 

「それはよかった。……色々あったけど、楽しかったよ、私」

 

「……そりゃどうも、……俺も楽しかったよ」

 

「?!アサダ!アンタ今楽しいって……」

 

「何大げさに驚いてるんスかハジメさん。……どうせ勝つんだったら『楽しい』気持ちで勝った方がいいって思えてきただけっスよ……。

『友達』の考えをないがしろにするのは申し訳ないっスから……」

 

眼を逸らしながら言うソウイチに全員がざわめく。ソウイチの口からあり得ない言葉が出たからだ。

 

「なんて言って本当はアイに感化されてきたとか〜」

 

「な!何言ってるんスかフジさん!あくまでそういう考えもアリだって思っただけっスから!!」

 

タカコの何気ない発言にソウイチは慌てる。会話が進むたびどんどん顔は赤くなる一方だ。

 

「いずれにせよ認めたって事には変わらないと思うよ……」

 

「ミ・ミヨさんまで!もう!外行ってるっスよ!この場にいたんじゃずっとからかわれっぱなしだ!」

 

不機嫌そうになりながらソウイチはホールから出て行った。

 

「あー行っちゃった」

 

「でも今日は私にもソウイチにもいい思い出になれました。ありがとう皆さん」

 

「気にしないでくださいオバサン、当然の事したまでですよ〜」

 

タカコの発言にまた全員が「ぁ……」と顔をしかめた。そしてまたカナコが黙りこくる。

 

「……オバサンじゃないもん……そりゃもう30超えたけどまだ32だもん……」

 

俯きながらブツブツ言いだすカナコ、

 

「タカコぉ……!!」

 

「え?!あ!あたし?!」

 

何余計な事言ってるんだと迫るムツミにタカコは動揺する。どうにか話題でカナコの機嫌を直そうと考えるタカコ、ある質問が浮かんだ。

 

「あ!そういえばソウイチ君のお父さん一度も現れてませんね!今日はこないんでしょうか?!」

 

その質問に全員が凍りついた。知らないアイ達でもある程度答えは予測出来てたから、

すかさずコンドウやヤナギはタカコの質問を止めさせようとする、しかしカナコは少し黙って言った。

 

「……亡くなってます。ソウイチが五歳の時に……」

 

少し悲しそうな顔でカナコは言う。タカコは自分の言った無神経さを後悔。顔を青ざめながら頭を下げる。

 

「ごめんなさい!知らないとはいえこんな事!」

 

「いいんです。気にしないで、元々長生き出来ないって言われてた人だから、ある程度覚悟は出来てました。

それに周りの色々な人が助けてくれたからそこまで辛い思いをせずにすみましたよ」

 

――旦那を失ってる事自体一番辛いだろうに――、そうその場にいた何人が思った事だろう。

 

「でも、やっぱりソウイチは無意識に男親をダブらせてるのかもしれませんね」

 

「?どういう事ですかそれ?」

 

「夫は病弱でしたけど、体型がガッシリしたコンドウさんみたいな人でしてね。特に背中なんかはそっくりだったんです」

 

コンドウを見ながらカナコは言う。

 

「……ソウイチ君のお父さんの体型が……」

 

「オッサンみたい……、まさか……ソウイチがオッサンにベッタリなのって……」

 

アイ達が一斉にコンドウを見る。動揺するコンドウ

 

「な!なんだ!?」

 

「あ、てことはいずれコンドウさん再婚とかでソウイチ君のお父さんに……」

 

「な!!何ィィィッ!!」

 

謝ったにもかかわらずまたも失言するタカコ、ムツミが「タカコォ!」といいながら後ろからタカコの口を塞いだ。

 

「フフフ、残念ですけど私は今までもこれからも、夫しか愛しませんよ」

 

カナコはパイロットスーツの左手袋を外し、手を見せた。薬指には結婚指輪が持ち主を護る様に輝いていた。

 

 

そして外で一人表彰式を待つソウイチ……、彼の脳裏にはコンドウの背中、そしてアイの笑顔があった。

 

――越えたいって思う奴、もう一人増えたのかも……――

 

そんな事をソウイチは考えていた。

 

-11ページ-

 

ようやく完成しました。大変長らくお待たせしました。コマネチです。

今回はソウイチがアイ達に心を開く話です。本来は母の不倫で何故ソウイチがコンドウに憧れるのか、という説明みたいな話でしたが

それでは物足りなかった為、ソウイチの変化の話となりました。

宝探しネタは以前感想いただいてる方にアイディアを頂き書いてみました。この場を借りて有難う!!

 

次回はもっと単純にする為、もっと早く投稿できる、かも……

説明
第25話「思い出の宝探し」
前回キレたアイは男の尊厳を握りつぶすことによって勝利を収めた。
ナナ達にとって衝撃的だったバトルも、同時にそれはアイの注目がどんどん広がってる事を意味していた。
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コメント
飛鳥さん 有難うございます。エクシアにつくんだからやはりアストレアにもつけたくなりますよね。塗装という事はトランザムブースターとは別なですね。(コマネチ)
mokiti1976-2010さん 有難うございます。ムツミとタカコが幼馴染設定が出来てからどんどんタカコがアホの子に…まぁ元々片鱗はありましたがw(コマネチ)
なんと言うか、一皮剥けた感じになりましたね。あと、自分は白アストレアに青白に塗装したダークマターブースター着けてました(´▽`)(飛鳥)
色々ありましたが…今回はタカコがチャレンジャーだったという事ですね!?あの空気読まなさ感が素晴らしい…狙ってやっては無いですよね?(mokiti1976-2010)
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