ALO〜妖精郷の黄昏〜 第34話 二刀流VS時穿剣
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第34話 二刀流VS時穿剣

 

 

 

 

 

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キリトSide

 

ユージオとアリスから離れた小川で2人に背を向けて休憩しながらも俺は考えごとをしていた。

俺は彼女が『プロジェクト・アリシゼーション』における『A.L.I.C.E』であることは既に勘と推測上で間違いないと判断している。

しかし、そんなアリスでさえもアドミニストレータによる管理者権限の前に力敵わず、整合騎士にされてしまった。

同時に俺は奴に対して入れ知恵した者がいるのではないかと考えており、

おそらく“始まりの4人”の1人であるあの男だと予想できる。

早いところ現実世界に戻って伝えたいのだが、この世界から出ることは出来ず、

それを為すには最高司祭を倒してカーディナルに管理者権限を取り戻してもらわなければならない。

早く戻って現状を確認したいと言うのもある。

 

「キリト!」

 

その時、ユージオからお声が掛かった。どうやら話は付いたようだな。

 

2人の元に歩み寄ると俺としてはそうでもないが、見た人ならばかなり慌てるだろう光景があった。

アリスの閉じている右眼から血が流れている…システムが封じていた右眼の封じを破り、

彼女の疲労具合からして額の『((敬神|パイエティ))モジュール』も打ち破ってみせたのだと理解できる。

俺は懐のポケットに持っていたカーディナルからの餞別である小瓶を取り出し、ユージオに渡す。

 

「薬だよ、アリス。飲んで」

「えぇ…」

 

エルドリエやデュソルバートとは違い、やや疲れている様子であるのは戦闘での消耗も影響しているだろう。

だが薬を飲んだアリスはその味に表情を歪めただけでたちまち傷が癒え、疲労も回復したらしい。

ふむ、それにしてもだ…。

 

「なんですか…?」

「いやいや、随分と仲がよろしいようで……愛の言葉でも交わしたかな?」

「な、なな、なんでそれを…///!?」

「へぇ、ホントだったか。カマかけただけだったんだが…良かったじゃないか、ユージオ」

「お、おまえ、私を誘導して…///!」

「はは、まぁありがとう」

 

怪訝そうなアリスに対してニヤリと笑いながらカマを掛ければ見事に引っ掛かり、自爆してくれた。

そのままユージオに言葉を掛ければ苦笑しながらではあるものの嬉しそうに礼を言い、アリスは怒りか羞恥かで顔を赤くしている。

 

「そう睨まないでくれ。お前達の間でどんな話がされたかは詳しく知らないが、その想いは大切にしろ。

 愛し合う者同士の想いは未来を切り開いてくれる」

「あ、愛し合うなど///! わ、私は別に、彼の想いを聞いただけで…///」

「そうだとしても、だ……愛情っていうのは、憎しみや怒りよりも強い力になるからな」

 

昔のアリスとは違う彼女を諭すように話すと最終的には大人しく言葉を受け入れてくれたようだ。

未だ記憶を取り戻しておらず、整合騎士のままであるにも関わらず、彼女はユージオの隣にあることが似合っており、

そこにかつては幼馴染であった俺の入る余地は無く、やや寂しい気分になった。

 

「どうしたの、キリト?」

「いや、2人を見ていてアスナに会いたくなっただけだ。もう2年以上会ってないからな」

「アスナとは、誰なのですか?」

 

親友の問いかけに誤魔化すようにそういうとアリスが不思議そうに聞いてきた。

彼女に俺は恋人…というか、婚約者である((女性|アスナ))のことを話した。

お互いに想い合い、家族も公認ということもあるので禁忌目録に反することはなく、俺の話はアリスにも普通に聞き入れられた。

まぁ、肉体関係まであることを話した時は顔を真っ赤にし、

それでも興味を持って聞いていたことは、彼女の中の女性としての本質なのだろう。

 

「それよりも、私のことも連れて行ってもらいますよ」

 

そんな話をしていたらアリスが同行を願い出てきた。

別に俺もユージオもそれは構わないため、了承してアリスがついて来ることになった。

 

それから俺たちは上の階に進み始める。

既に大分時間が経っていることもあり、騎士がどの辺りにいるかは分からなくなっている。

少なくともアリスが言うには俺たちと戦う前はまだこの先の階層に騎士は配置されていなかったという。

それを含めて警戒しながらも俺たちは81階、82階と上がっていく。

 

85階に辿り着いた時、俺はそろそろ良い時間だろうと判断し、昼間にユージオと食べた饅頭をポケットより取り出し、

2個しかないためそれをユージオとアリスに手渡す。

 

「ユージオもアリスも、さっきの戦いで腹が減っているだろ?」

「まぁ少しは。でも良いのかい? それだとキリトの分が…」

「私は遠慮します。整合騎士なのですから空腹など我慢でき(くぅ〜)……くっ///」

「はは、そうか。なら饅頭は2つともユージオに渡そう。ユージオ、それはお前のだから好きにしていいぞ」

 

俺は再び2人の前へ出て上層への階段を登る。その後ろでは2人の声が聞こえてくる。

 

「それじゃあ…はい、アリス。僕は1個で十分だから、ね?」

「あ、ありがとうございます…///」

 

いやはや、ホントに仲がよろしいようでなによりだ。

アリスはユージオに心を開いているようだし、彼に任せておけばいい。

彼女は俺には少々厳しいようだからな。

 

2人の雰囲気を羨ましく想いながらも着実に俺たちは上に向かい、ついには90階に着いた。

扉の前に立つ俺とユージオにアリスは大浴場だと教えてくれた。

普通はここを迎撃地点にはしないのだろうが、俺は中に気配を感じており、それはアリスの物よりも強い。

つまり、中に居るのは自然に誰かわかるが、どうせ進むのだから構わないか。

白い扉を開き、俺、ユージオ、アリスの順で中へと踏み入った。

 

 

この階層をほぼ全て費やしていると思われる大浴場。

ユージオは当然の如くその広さに驚き、プール施設を知らなければ俺も相応の驚きを示しただろうし、

アリスはユージオの反応に楽しそうな表情をしている。

そんな2人を置いて俺は前に進み、言葉を投げ掛ける。

 

「湯浴みの最中だろうが失礼する!」

「おぉ、もうこんなところまで来たのか。悪いがもう少し待ってくれねえか?

 さっき央都に着いたばかりでな、飛竜に乗りっぱなしで体が強張っちまってな」

「お、小父様ですか!?」

「この声…アリス嬢ちゃんか!? こいつはすまねぇ!」

 

声の主とみられる男はアリスの声を聞くとさすがに女性が居るということに問題を感じたようで、

すぐさま上がると少し離れたところに行き、どうやら着替えを行ったらしい。

 

そして晴れてきた湯煙から見えたのは2m近い身長、首筋は太く、そこから繋がる肩もまた広く、丸太のような上腕をしている。

着物を着ているのだが、その上からでも逞しい筋肉が良く分かり、一部見える傷跡は全てが矢傷や刀傷と思われる。

髪は青みを帯びた鉄灰色であり、瞳は淡い水色、高い鼻梁と削げた頬に緩みはまったくない。

しかしながら、瞳からはかなりの圧力を感じ、視線にはこれからの戦いに対する純粋な興味と戦闘への歓びが感じられる。

右手に1振りの長剣を握っており、これもまた神器で最高の名剣だと窺える。

 

「整合騎士の長、騎士長であるベルクーリ・シンセシス・ワン殿と見受ける。如何か?」

「おう。その通りだ」

 

訊ねてみると笑みを浮かべて返答した。

その笑みには慢心や油断はなく、純粋に浮かべていることがわかる。

そんな彼は改めてアリスの存在を認識したことで彼女に声を掛けた。

 

「よう、嬢ちゃん……そいつらと一緒に居るってことは、右眼の封印を破ったのか?」

「はい、小父様…。剣を交えた後、彼らの言葉により己の過去を知った次第です。

 それにより、最高司祭が私に施した術を破ることが出来ました」

「己の過去…?」

「ええ。私たち、整合騎士は「待て」…キリト?」

 

整合騎士の本来の姿を話そうとしたアリスの言葉を途中で遮り、俺は改めてベルクーリに話し掛ける。

 

「アリスがなんと言おうと、どうせ俺たちと戦うつもりなんだろう?」

「まぁな。俺たちに何か真実があったしても、俺はお前さんと戦ってみたくてな……お前さん、かなり強いようだからな」

「キリトだ。強さに関しては、これからやり合うんだからいいだろう」

 

お前さんと呼ばれるのもアレなので名を名乗り、俺も笑みを浮かべる。

アリスは尊敬する騎士長が俺を強いと言ったことに驚いており、ユージオは苦笑している。

 

「話しをするのもいいが、そろそろ始めないか?俺たちの最終目的はアドミニストレータなんだ……時間が惜しい」

「せっかちだな。なら始めるか」

 

言葉を掛けあったあと、俺たちは互いに剣を構える。

すると、ベルクーリは俺の構えを見て連続剣の使い手かと訊ねてきた。

彼曰く、『ダークテリトリー』の暗黒騎士が連続剣を使用するとのことで、俺は違う意味で嫌な予感がした。

 

さらに、副騎士長であるファナティオの安否も訊いてきた。

ファナティオが無事で治療を受けていることを教え、ついでに彼女の部下である『四旋剣』、加えてフィゼルとリネルの無事、

そしてエルドリエとデュソルバートがこちら側についたことを教えると色々な意味で驚いた様子を見せた。

 

ある程度の疑問が解消されたからなのか、ベルクーリの闘気が改めて放出される。

思わず舌なめずりをしてしまった……彼は強い!

俺も『黒剣』を構えながら闘気をだし、その様子を見たベルクーリは驚いたようで、

傍目に見えるアリスはユージオの服の裾を握る始末。

 

ベルクーリは掲げた剣を振りおろして、俺たちは構えのままに口を開き…、

 

「剣士キリト…」

「整合騎士長、ベルクーリ・シンセシス・ワン…」

「「参る!」」

 

戦闘を開始した。

 

キリトSide Out

 

 

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No Side

 

ベルクーリが重い足で床を踏み締めた途端、周囲を覆っていた湯気が一気に振り払われ、

さらにキリトも踏み締めてみれば彼と後方にいたアリスたちのところの湯気も払われた。

直後、キリトが猛烈な勢いで突進し、ベルクーリに斬り掛かった。

あまりの速さに驚愕しながらも、ベルクーリは彼の黒剣を己の剣で受け止めた。

そのあまりある力のぶつかり合いによって衝撃波が発生し、大浴場を満たしていた湯が一気に波打った。

 

「はぁっ!」

「ぐぅっ!」

 

整合騎士の長を務めるベルクーリの力、一撃は騎士たちの中でも最強であるにも関わらず、キリトはベルクーリを容易に押し込む。

たった一撃を交わしただけで騎士長である彼は力の時点で自身が劣っていることを。

 

そんな時、キリトの僅か頭上で何かが動き出した。

その瞬間、キリトは膝蹴りをベルクーリの腹部に叩き込み、頭上の何かに反応するように黒剣を斬り当てた。

するとそこには斬撃が奔り、しかし黒剣がその斬撃を弾いた。

 

いまの現象にキリトと戦いを見ていたユージオは驚き、

しかし攻撃を行ったベルクーリとその正体を知っていたアリスもまた驚いていた。

 

「既に《武装完全支配術》の状態か、厄介だな…」

「あんな勢いで突っ込んできた事にも驚いたが、アレを防いだのはお前さんが初めてだぞ」

「斬撃が滞空していたわけじゃないな……まさか、時間差攻撃か…!」

「力だけじゃなく読みまでいいのかい? まぁその通りだ、“未来を斬った”ということだ」

 

お互いに驚きと感嘆を交えながら話していく。

そして未来を斬り裂くという剣に対してキリトはやはり興味を持ち、ベルクーリに詳しい内容を尋ねた。

彼もまた気前よくそれに応じ、剣について語り始めた。

 

剣の銘は『時穿剣』、名の通り“時を穿つ剣”である。

かつて、セントラルカセドラルの壁に取りつけられていた時計の針であり、その針を鍛え直した物がこの剣。

アリスの『金木犀の剣』が横軸にある空間という広がりを斬るのに対し、時穿剣は縦軸にある時間という広がりを貫くもの。

最高司祭曰く、『時計は時を示すに非ず、時を創るもの』らしい。

 

「ご教授感謝するよ。礼とは言えないが、俺も本気でいこう!」

「っ…お前さん、ほんとにただの人間か?」

「最近は良く化け物って言われる」

「そうかもな」

 

礼を述べたキリトが先程とは比べ物にならない闘気を放ち、戦いに楽しみを持ち、

笑みを浮かべていたさしものベルクーリもその圧倒的な闘気の前には真剣な表情になり、顔には冷や汗を流していた。

 

改めて剣を構えあった2人は再びぶつかり合う。

一瞬で距離を大幅に詰めたキリトの剣撃、それをベルクーリは受け止めるといなすことで受け流し、

斬り返しては少しの時間で空間を斬っていく。

キリトの連撃は凄まじく、しかし秘奥義の類は一度も使用せずに攻撃を繋いでいく。

彼もまたベルクーリの“未来斬り”を警戒しているからだ。

 

だからこその連撃の応酬、されどベルクーリも整合騎士たちを率いる最強の剣士であり、

キリトの連撃を防ぎながらなんとか少しずつ空間を斬り、包囲網を整えていた。

場所を変えては斬り、しかし騎士長の体には傷が増えていく。

鎧も無く、東方の着物だけでは防御力面であまりにも分が悪いかもしれない。

だがキリトもまた鎧はなく、しかも彼の服は幾つもの部分が切れており、貫通しているところもある。

防御力では五分と言えよう。

 

「らぁっ!」

「ちぃっ!」

 

剣撃を緩めることのないキリト、それを掠ることはあれど致命傷にはさせないベルクーリ。

徐々に場所を変えていく騎士長の内心は気付かれていることに半分、気付かれていないことに半分という感じである。

包囲網さえ整えば、そして((奥の手|・・・))を使えば勝機はある。

 

しかし、それを読みも感性も鋭いこの少年が気付いていないとも思いきれなかった。

現にキリトは焦ることなく、隙を見せることもなく猛攻を続けているのだから。

だからこそベルクーリ自身も反撃を欠かさず、包囲網を縮めていく。

キリトが剣を躱せばそれだけで斬撃が未来への攻撃となるのだから。

時間は短いものの包囲網は完成しつつある。そんな時、キリトが声を掛けた。

 

「包囲網は出来上がりつつあるみたいだな」

「やっぱお見通しか…」

 

彼の言葉にベルクーリは最早呆れるほかなかったが、

同時に焦ることもなく笑みを浮かべているキリトが、果たしてどのように動くのか興味もある。

そんな心境を持ちながらもベルクーリは斬撃を残していく。しかし、どこか腑に落ちないとも思う。

 

(なんだ…? さっきからやけに、斬撃を残せている気が…)

 

そう思う間にも包囲網は整っていき、ついにはキリトを中心にベルクーリは周囲を斬り終えていた。

最後に彼との間を一閃し、後方に飛ぶ。

それを見て、キリトはその場から動かないようにし、立ち尽くす…いや、構えは解いていない。

 

「お前さんも解っていると思うが、これで包囲網が完成したわけだ」

「致命傷は与えられなかったが、それなりに傷は与えられたか。それにこの状況、1本では無理があるな…」

 

ベルクーリの言葉にキリトは珍しく聞こえていないかのように呟いている…状況を分析しているようだ。

そして、うんと頷くと両手にそれぞれ素を生成し…、

 

「ディスチャージ!」

 

右手と左手、それぞれの掌に生成した『炎素』と『凍素』を打ち合わせて蒸気を発生させた。

瞬く間にキリトの周囲を蒸気が満たす中、キリトは再び声を発した。

 

「ディスチャージ! ユージオ、飛んできたところ目掛けて剣を投げろ!」

「了解!」

 

再び手を打ち合わせたキリトは続けてユージオに指示を出した。

直後、キリトの居た場所から蒸気を抜けて鏡が1枚飛び出し、そこに向かってユージオは自身の『青薔薇の剣』を投げた。

蒸気の中でキリトが剣を掴んだ音が聞こえた。

 

その光景に驚いたのはユージオの隣に居たアリスである。

何故、鏡と剣が無事に通過したのか、それが疑問に思ったがすぐに理解できた。

キリトは騎士長が斬っていない空間を見出し、そこに向けて生成したと思われる鏡を投げ、理解したユージオも剣を投げたと。

 

 

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そして次の瞬間、凄まじい威圧感がユージオとアリス、ベルクーリを襲った。

さらに剣が振るわれる音がすれば、蒸気が湯諸共吹き飛ばされ、その風圧は3人も体が揺られるほどである。

蒸気が晴れた先には右手に黒剣を、左手に青薔薇の剣を持つキリトの姿があった。

 

「ふぅ…何度かユージオに見せたことはあるが、実戦で《二刀流》を使うのは2年ぶりか。

 あまりにも久しぶりだから、血が滾るな」

「冗談にも、程があるだろうよ…」

 

真剣そのものの表情でキリトは呟くが、相対しているベルクーリは彼の覇気に呑まれまいとしていた。

自身との年季はあまりあるだろうに目前の少年のソレは異常である。

その影響はアリスにも及んでおり、彼女は体を震わせながらユージオにしがみ付いていた。

 

「ユー、ジオ……彼は、なんなのですか…?」

「正直、僕もなんて言ったらいいのか分からないけど、アレがキリトの本質らしいよ。少なくとも僕は彼からそう聞いたから」

 

未知の感覚にアリスは恐怖し、ユージオも聞き及んでいるとはいえ畏れがないわけではない。

ただ彼はキリトを信じている、それだけで畏れは尊敬へと変わるのだ。

 

「中断して悪かった。ここからはさらに本気で((征|い))かせてもらう」

 

両手に剣を持ち構えたキリトは、自身を包囲しているであろう斬撃に向けて走り出した。

 

 

二閃、キリトは黒剣と青薔薇の剣でそこにある斬撃を斬り裂いた。

次いで左右に向けて剣を振るい、再びそこにある斬撃を斬り裂く。

さらに続け様にベルクーリが残していた斬撃を斬り、斬り裂き、弾き飛ばし、キリトは包囲網を真正面から破壊していく。

 

その姿に戦慄しているのはベルクーリであり、

呆然と恐怖しているのはアリスであり、苦笑しながらも尊敬するのがユージオである。

絶対不敗ともいわれていた“未来を斬る”一撃を次々と獰猛な笑みを浮かべながら斬り裂くのだから、彼への感想は様々だろう。

 

未来を斬り、空間に斬撃を残して時間差で一撃が襲い掛かる、これだけを聞けば確かに恐ろしいものだろう。

だがキリトの考えは違った……その斬った場所にしか斬撃が残らないのならば、その場所を覚えておけばいい。

さらに、斬った一撃の強さは変わらないということも予測し、彼はそれ以上の威力のある剣撃で斬撃を破壊しているのだ。

キリトの圧倒的な能力と記憶力があるからこそ、これほどのことを実行できるわけだ。

 

次々と斬撃を破壊していくキリトに対し、ベルクーリもただ立ち尽くしているわけではない。

彼も力の限りに剣を振るい、いままでよりもずっと強力な斬撃を残していく。

だがそれでも、キリトの歩みは止まらない。

黒剣を振るい、青薔薇の剣を振るい、己が力を揮い、斬撃を薙ぎ払う。

 

(最初から全部吹っ飛ばすわけだったのか…しかしまぁ、世の中とんだ奴がいるもんだな……ん? 口を動かして、まさかっ!)

 

ベルクーリはそう考えながらも斬撃を残すことをやめず、次々と剣を振るい、斬撃を発生させていく。

そんな中で彼はキリトが口を動かしていることに気付いた…高速詠唱、

さらに詠唱の長さを考えるに《武装完全支配術》だと悟った。

そしてキリトは詠唱を終え……再び高速詠唱を始めた。

 

騎士長はさらに警戒を強め、包囲網を破りつつあるキリトに敢えて接近し、剣を振るった。

意外かはたまた面白いと感じたのか、キリトは笑みをさらに濃くしてベルクーリと剣を交えるが、詠唱はやめない。

 

長い時を剣に捧げてきたベルクーリは年季と技術でキリトに勝り、

彼に比べて短い時であるにしてもキリトは天賦の才と対人戦の回数、命の危機、

なにより様々な世界で培ってきた((経験|ステータス))と技術によって、ベルクーリを上回っている。

 

だからこそ、キリトとベルクーリは互いに剣を互角近くに交わらせることができ、真正面から戦える。

2人が打ち合うことで再び斬撃がキリトを囲い始めるが、そこでキリトの詠唱が終了した。

 

「ベルクーリ、伏せて避けてくれよ。ユージオ、アリス! お前らも伏せろ!」

「「「っ!?」」」

 

キリトの有無を言わさぬ言葉にユージオはアリスを庇うように床に伏せ、ベルクーリも彼の発した威圧に即座に身を伏せた。

そして黒剣と青薔薇の剣を左右それぞれ真横に向け…、

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

《武装完全支配術》の発動句、それをキリトが発した。

その瞬間、黒剣からは闇の奔流が、青薔薇の剣からは氷の奔流が溢れだした。

キリトはそれぞれの剣を真横に持ちながら、勢いよくその場で回転切りを行った。

すると2つの奔流も回転し、闇と氷の奔流は大浴場にある未来を斬っていた斬撃を飲み込み、全て破壊し尽くした。

 

黒剣の《武装完全支配術》はキリトが元から持つ力であるが詠唱が同じとはいえ、

なぜ青薔薇の剣の力を発動することもできるのか。

それはキリトが、ユージオが信の置く相棒だからであり、

同時にキリトもまた青薔薇の剣を手にする機会が多くあったということである。

黒剣を手にするまでにユージオを鍛えるためにキリトは青薔薇の剣を振るっていた。

それは極力武器召喚を行わないようにするためであった…そういった経緯があったからこそ、

キリトは青薔薇の剣に認めてもらえたのだ。

 

そしてキリトが思い描いた《武装完全支配術》の形こそ、全てを凍てつかせる絶対零度の奔流なのである。

 

「さて、これで余計な斬撃は全部吹き飛んだな。さぁ、続きをやろうぜ」

「はっ…無茶苦茶だな、お前さんは…」

 

キリトは伏せていたベルクーリにそう言い、敢えて戦いの続行を望む。

騎士長もまたそれに応えるように立ち上がり、剣を構え直し…再び彼らは剣を交え直した。

 

そこからは剣撃の応酬となる。

斬り、払い、突き、薙ぎ、斬り下ろし、斬り上げ、斬り払い、連続で突き、薙ぎ払う、様々な攻撃の繰り返し。

その中でもキリトは剣を2本行使しているため、全ての攻撃を敢えて防いでいる。

その行いはベルクーリに斬撃を残させないためであるが、

もう1つの意味は『お前の“未来を斬る”攻撃はもう意味がない』というものである。

そのプレッシャーたるや並みのものではない。

 

そして徐々に、いや次々とキリトの攻撃が確実にベルクーリの体に傷を与えていく。

傷は大きな裂傷から小さな切り傷まで様々だが、明らかにベルクーリの行動力を奪っていく。

 

 

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だが騎士長である彼の意地もまた強く、キリトの服をところどころ斬り裂き、切り傷を与えている。

けれどそれも長くは続かず、ついにキリトの攻撃の前にベルクーリは体勢を崩してしまった。

さらにそこにキリトが強烈な二撃を放ち、ベルクーリは両肩から脇に掛けて大きく交差するように斬られた。

 

「ぐっ、おぉっ…!リリース、リコレクション!」

「ここで、かっ…!」

 

騎士長として、整合騎士を束ねる者として、なによりベルクーリという1人の剣士として、

彼は敗北を甘んじて受け入れずに抵抗しきることを選択し、《武装完全支配術》による“未来を斬る”攻撃から、

《記憶解放》による……“過去を斬る”攻撃を選んだ。

 

「《裏斬り》」

 

一閃――《裏斬り》というその一撃は確かにキリトを斬り裂いた。

その技は斬った者の過去を断ち切り、“現在や未来”との繋がりを断つ。

それは斬られた者の過去を斬り捨てることでその者の存在を消してしまう恐ろしいものである。

そんな一撃を耐えきれるはずもなく、当然ながら((人|キリト))は消滅する……はずだった。

 

「どういう技かは知らないが、どうやら俺には通用しなかったらしいな」

「なん、だと…?」

 

斬られたはずのキリトは衝撃こそ受けたものの傷はなく平然としており、ベルクーリはその事実に驚愕していた。

普通ならばそこでキリトが一撃を決めて終わりだろうが、キリトは攻撃を仕掛けない。

 

「もう1度構えろ、ベルクーリ。いまの《記憶解放》が意味を成さなかった以上は剣で決着をつけるぞ」

「礼の代わりと言っちゃ難だが、応えてやるさ」

 

キリトとベルクーリが構えあい、大浴場に静けさが訪れ……水滴が滴り落ち、その音が響いた瞬間に駆け出した。

 

「アインクラッド流二刀流奥義《ダブルサーキュラー》」

 

右の黒剣による一撃が放たれ、それはベルクーリが防ぐ…が、直後に放たれた青薔薇の剣による一撃がベルクーリの脇腹を抉った。

 

「かはっ……強いったら、ありゃしねぇな…」

 

血を吐いたベルクーリはキリトの強さに敬意を表したあと、床に倒れた。

 

整合騎士を束ねる騎士長、ベルクーリ・シンセシス・ワンはキリトに敗北した。

 

No Side Out

 

 

キリトSide

 

「はぁ〜……心臓に悪かった…」

 

最後の一撃、あれが何故俺に効かなかったのかは分からないが、本能的にヤバいものだということは悟っていた。

俺に効かなかったということは本当に運が良かった。

 

「キリトって、言ったな……お前さん、何者、なんだ…?

 俺の、あの一撃、は…過去を、斬り、その存在を……なくすもの、だった…。それが、なぜ…効かない…?」

 

なるほど、“過去を斬る”という技だったのか…。

“現在と未来”の繋がりを断つことで存在そのものを消滅させるとは、恐ろしいな。

だがその技が効かなかったのは“俺”だからこそだろう。それを教えてもいいかもしれない。

 

「俺はな、この世界の人間じゃない…別の世界から来たんだ。

 この世界で俺が経過した時間は約2年だが、その繋がりを断つことに意味はない。

 それ以上の年月を別の世界で過ごし、“俺”という存在はそちらの世界で構成されているからだ」

「……は、ははは……そりゃあ、効く訳が、ねぇな…。完全に、俺の……負けだ…」

「俺も楽しませてもらったよ、ベルクーリ。また勝負しようぜ」

 

重傷を負いながらもベルクーリはしっかりと意識を保ち、俺に敗北を告げた。

俺もそれに応え、彼は一瞬呆けてからまた笑みを浮かべた。本当に強かったな…。

 

キリトSide Out

 

 

To be continued……

 

 

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あとがき

 

原作にはなかったキリトVSベルクーリは《二刀流》を解放したキリトの勝利でした。

 

キリトの『青薔薇の剣』による《武装完全支配術》はユージオのものとは別にしました。

なんだかんだでウチのキリトの技は攻撃的な物になりますからねw

武器との絆に関しては本文でもあったようにキリトも『青薔薇の剣』を使っていたことにあります。

なんせ『黒剣』こと『夜空の剣』が完成するまでは『エリュシデータ』なども使わないようにしていましたから。

 

そしてベルクーリの《記憶解放》はWeb版時代はどうだったか覚えていませんが、

“過去を斬る”と言われている《裏斬り》にしました。

キリトに効かなかったのも本文であった通り、キリトは現実世界に肉体があるからということにしました。

実際にはどうなるかわかりませんが、人工AIとはいえ術で記憶を切断するなんてさすがに不可能ですからね。

UWの住人はその世界にしか魂がない以上、過去を斬られれば消滅するでしょうが・・・。

 

というわけで今回はここまでです・・・次回は元老長戦になります。

 

それではまた・・・。

 

 

 

追伸

 

前回の後書きにも追記したのですが、

小説サイトの「ハーメルン」にてイバ・ヨシアキ様が再び『黒戦』の三次小説を書いてくださりました。

内容は前にあったR-18のキリアス初夜のキリトサイドになります。

ウチのキリトさんの闇を上手に描いてくださっています。

アスナサイドと同様に素晴らしい作品になっておりますので、是非読んでみてくださいね。

 

 

 

 

説明
第34話です。
キリトVSベルクーリになります。

どうぞ・・・。
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コメント
間雪様へ はい、同時《武装完全支配術》はローリングバスターライフルをイメージしましたw そういえばアリスに関しては偶然ですねw(本郷 刃)
2本同時の《武装完全支配術》がガンダムWのローリングバスターライフルw そしてアリスの空腹のシーンで完全に騎士王様が頭に浮かびましたw(間雪)
アサシン様へ 原作ではユージオが倒していますが、ここではキリトのお願いしました・・・アリスをユージオが倒しましたので(本郷 刃)
アサシン『恐ろしいほどの黒士無双ぶりですね(畏△怖)最強のおっちゃんが完全敗北とか(無敵▽素敵)』(アサシン)
ガイズ様へ ふむ、聴いてみましょうかね・・・(本郷 刃)
どうでもいいことだろうと思いますがユージオさん、某動画サイトにうpされている「情熱セツナ」という曲を聴いてみると良いですよ(多分共感出来るものがあると・・・)(ガイズ)
ディーン様へ アスナ「なんていうか、シリカちゃんドンマイ…」 ユイ「沖縄ですか、わたしも行ってみたいです!」 キリト「ロマンチックなキスシーンだな」 刃「いただきますまで5秒前w 評価はSです!」(本郷 刃)
これから映像を送ります、内容は「シャインとティアが迷子センターにいたシリカを保護している(その後ヴァル達と合流)」と「クラインとカノンとケイタとサチが沖縄旅行に行く(ティアが用意した)」と「ハジメとシノンが夕日をバックにキスをしている」と「ルナリオがリーファに裸エプロン姿にさせて押し倒している」の4作品です、評価お願いします。(ディーン)
弥凪・ストーム様へ ユージオ「勿論、右だよ。キリトが言うには男の浪漫らしいからね」 アリス「ユージオ//////!」(本郷 刃)
じゃあユージオに質問アリスに服を着せるならどっちがいい?(右に裸エプロン、左にメイド服の絵を見せながら)(弥凪・ストーム)
タナトス様へ 本気のキリトですからね、一緒に居たユージオの感性がおかしいんですw(本郷 刃)
アリス、キリトの事怖がりすぎだろw(タナトス)
イバ・ヨシアキ様へ クライン「やっぱ猫だな・・・子供かぁ、そりゃ2,3人は欲しいなぁ。え〜ゴホン、ね、姉さん///」 カノン「な、なんだか照れるわね///」(本郷 刃)
では、次にクラインさんに質問です。「カノンさんを動物に例えたら?」「将来子どもは何人欲しいですか?」「カノンさんに姉さんと、一言どうぞ」(イバ・ヨシアキ)
ディーン様へ キリト「アスナ、これはなんだ?(黒笑)」 アスナ「あぅあぅ、それは…///」 刃「うわぁ、エロいキスww」 クーハ「父さん曰く『ペンペン』が良いらしい」 リンク「アニメのペンギンだっけ?」 ヴァル「シリカ、一体どこに…」 ユイ「シリカさ〜ん!」 ピナ「きゅ〜…」(本郷 刃)
今から写真を送ります、内容は「キリトがアスナの持ち物を調べていたら、大量のキリトグッズが出てくる」と「ハクヤとリズが5時間耐久ディープキスに挑戦」と「クーハとリンクが拾ってきたペンギンの名前が決定する」と「迷子になったシリカをヴァルとユイちゃんとピナが探している」の4枚以上です。(ディーン)
サイト様へ SAOからALO、そしてGGOでの経験を重ねることでキリトは成長を続けていますからね(本郷 刃)
隊長「こうなんといいますか、若者の成長をみていると滾るものがありますね」 サイト「何を言っているのかね君もまだ十分若いではないか?何といってもまだ2、、」マテナニヲスル 隊長「久々にヤリアイマショウカ?」ナニジカンハトラセマセン サイト「まったく、夕餉のしたくまでだぞ?」 隊長「、、、わかりました」(サイト)
やぎすけ様へ キリトだからこそできる無茶ですけどね(苦笑)(本郷 刃)
2本同時に《武装完全支配術》とはまた無茶苦茶な・・・人間離れし過ぎたここのキリト専用の技ですね・・・(苦)(やぎすけ)
ボルックス様へ 普段ALOで使用しているデータではなくSAO時代のデータですからね、規格外もいいところですww(本郷 刃)
観珪様へ ユージオとアリスにはそりゃもちろん、幸せになってもらいますw(本郷 刃)
遼東半島様へ SAO時代は規格外のレベル、ALOではレベルがない代わりに技術の精度があがりますからね(本郷 刃)
やっぱり、こっちのキリトは人間じゃないなww(ボルックス)
キリトくんつおい…… アリスちゃんとユージオくんは末永く爆発しろ←(神余 雛)
つ、強い…。ヒースクリフ戦から比較にならないほど強くなっている…。キリトさんのLv上限値は底なしか!(遼東半島)
kaito様へ 原作の方はあちこちで色んなフラグを立てていますよねw(本郷 刃)
弥凪・ストーム様へ アリス「だ、黙ってください//////!」 ユージオ「えぇ、まぁ(苦笑)」(本郷 刃)
最新刊にてキリトがフラグを建ててた件について(kaito)
キリトマジパネェ・・・そしてアリスとユージオに質問でぇ〜きぃ〜てぇ〜るぅ〜?(巻き舌)(弥凪・ストーム)
影図書様へ 無双させるなら中途半端はいけませんので・・・しかし本気であってもまだ全力ではないというw(本郷 刃)
キリト無双 半端ねぇ(影図書)
Kyogo2012様へ 少なくともアリスまで付いてきているとは思わなかったのですw(本郷 刃)
ディーン様へ ちゃっかりと良い雰囲気のユージオとアリスですw(本郷 刃)
ベルクーリは見られて喜ぶ変態ですか?変態親父め、チネ。しかし、この小説のキリトは二刀流すれば、負けなしだな。まさに、キリト無双ですね。次回も楽しみにしていますよ。(Kyogo2012)
流石はキリト、しっかり無双を決めてくれましたね、そして、ユージオとアリスがいい雰囲気になっていますね、さぁ、終わりのカウントダウンも始まってきましたね、次回を楽しみにしています。(ディーン)
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