紫閃の軌跡 |
旧校舎入ってすぐの広いスペース……そこに集められたのは、男女合わせて12名。すると、高くなっている場所……リィン達がいる場所からすると講堂のステージ上ぐらいの高さに、案内してきた女性の教官とその隣に男性の教官がいた。
「何人か顔見知りもいるけれど、改めて自己紹介するわね。サラ・バレスタイン……今日から君たち≪Z組≫の担任を担当させてもらうわ。よろしくね。」
「副担任のラグナ・シルベスティーレだ。基本は数学を教えるが、軍事学も教えることがあるのでよろしく頼むぜ、皆。」
女性―――サラ・バレスタイン。そして、男性―――ラグナ・シルベスティーレ。この二人の出自はいろいろ複雑であるが、帝国での実情をよく知る上での適切な“人選”であり、このあたりにこのクラスの発足にあたっての本気さを窺うことが出来る。とはいえ、その事情を知らない者たちにとっては驚愕の嵐であるのだが。
「≪Z組≫……!?」
「えっと、サラ教官にラグナ教官。この学院では確か、五つのクラスしかなかったと思うのですが?」
「そうですね。貴族クラスが二つに平民クラスが三つ……X組までしかないはずですよね?」
眼鏡をかけた男子生徒は驚き、同じく眼鏡をかけている三つ編みの女子と綺麗なほどの金髪を持つ女子生徒(アリサではない)が二人の教官に問いかけると、サラが嬉しそうに答えた。
「お、さすがは首席入学に第三席。よく調べているじゃない。そう、5つのクラスがあって貴族と平民で区別されていたわ。―――あくまで、“去年”まではね。」
解ってはいたことだが、貴族クラスでも平民クラスでもない制服を着ているということは、そういうことだ。一部例外がいるようだが……比較してはいけない部類である。
ともあれ、リィンはサラに尋ねた。
「ということは……このクラスは、新しいクラスということですか?サラ教官にラグナ教官。」
「そういうことだ。それと、このクラスにはリベール王国からの留学生もいる。いきなり貴族クラスや平民クラスに入れるというのは抵抗があるだろう?それに対するテストケースも兼ねている。」
「それに、この国とは違ってお国柄身分に対して煩くないわけだし、身分に関係なく集められたこのクラスに入れても問題は無いと判断したわけ。」
表面上は友好的でも、『百日戦役』(+『百日事変』)のことも相まって水面下では反感的な感情が燻っているのも事実である。それと、大分昔に貴族制度を廃止(一部は特例として残っているが)したリベール出身者ならば、相手がだれであっても差別をしたりすることは少ないと判断しての≪Z組≫編入である。この中での該当者はアスベルとラウラの二人。
「――――冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話は聞いていませんよ!?」
するとその時、眼鏡の男子生徒は怒りの表情で怒鳴ってサラたちを睨んだ。
「えっと、確か君は……」
「マキアス・レーグニッツです!それよりもサラ教官、ラグナ教官!自分はとても納得しかねます!まさか貴族風情と一緒のクラスでやって行けって言うんですか!?」
男子生徒―――マキアスの言葉にリィンらは色々と思うところを感じていた。
「………(貴族嫌い、か……)」
「(解ってはいたことだけれど……やっぱりいるのね)」
「(仕方があるまい。『百日戦役』後、リベールに対しての受け入れを突っぱねた貴族は少なからずいたそうだ。それと似たようなものだろう。)」
貴族嫌いが態々貴族も通う学校に入ってくることに関して色々ツッコミを入れたいのであるが……恐らくは彼の父親の影響というか、意向が強く反映されたのだろう。
「うーん、そう言われてもねぇ。同じ若者同士なんだからすぐに仲良くなれるんじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
とはいえ、埒が明かない……その時だった。端の方にいた金髪の男子が鼻を鳴らして黙り込んでいた。それを見たマキアスは彼の方を向く。
「フン………………」
「……君。何か文句でもあるのか?」
「別に文句などない。ただ、“平民風情”が騒がしいと思っただけだ。」
マキアスに睨まれた金髪の男子はそう淡々と呟いた。この物言いにはマキアスも怒りの感情を震わせながら、彼に尋ねる。
「これはこれは……どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度……さぞ名のある家柄と見受けるが?」
「ユーシス・アルバレア。尤も“貴族風情”の名前ごとき、別に覚えてもらわなくても構わんが。」
マキアスに睨まれた金髪の男子―――ユーシスは振り向いて名乗った。
「!!!」
「ご、<五大名門>………」
その言葉に驚くマキアスとエリオット……一方、リィンとアスベル、ルドガーは小声で話していた。
「東のクロイツェン州を治める“アルバレア公爵家”の………」
「(あれ?面識ないのか?)」
「(あ、ああ。確か、ルーファスって人とは何度か会ったことはあるんだ。その時、『弟に会えたら仲良くしてほしい』とか言われたけど…彼が?)」
「(どうやら、そうみたいだな。)」
同じ<五大名門>でありながらも、直接の面識がない……単純にすれ違いで会わなかった可能性もあるので一概にとは言えないが。
<五大名門>……南西のサザーラント州を治める『ハイアームズ侯爵家』、西のラマール州を治める『カイエン公爵家』、北のノルティア州を治める『ログナー侯爵家』、東のクロイツェン州を治める『アルバレア公爵家』に加え、リィンの実家である温泉郷ユミルからトリスタを含む形で成立したセンティラール州を統治する『シュバルツァー侯爵家』の五つの貴族からなる総称。
「(リィンと同じ<五大名門>……大貴族の中の大貴族ね。)」
「なるほど……噂には聞いていたが。(リィンは苦労しそうだな……)」
アリサとラウラは静かな口調で呟きつつも、リィンがこれから苦労しそうなことに同情を禁じ得ず、
「………?」
「(ふむ……)」
褐色の肌を持つ長身の男子と淡い金髪の女子は眉を顰め
「……ふぁ………」
フィーはあくびをした。それでも尚マキアスが食い下がろうと声を荒げることになるのだが、それをサラが止めた。確かにこのままだと進行しないというのは同意見であった。
「はいはい、そこまで。色々あるとは思うけど文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー。」
「くっ………」
サラの言葉を聞いたマキアスは唇を噛みしめた後、サラを見つめた。
「オリエンテーリング……それって一体、何でしょうか?」
「そういう野外競技があるのは聞いたことがありますが……」
「もしかして……門の所で預けたものと関係が?」
金髪の女子と眼鏡の女子がサラに質問したその時、校門で預けた荷物の事を思い出したリィンは尋ねた。
「ほう………」
「あら、いいカンしてるわね。」
リィンの質問を聞いたラグナとサラは感心した後、サラは前を向いたまま後ろに下がり
「―――それじゃ、さっそく始めましょうか♪」
壁に設置されていたスイッチを押した。すると、地響きの後に床が一瞬凹んだ。これで次に何が来るのか予想できた面々……アスベル、ルドガー、フィー……そして、リィンの行動は早かった。
「アリサ、失敬。しっかり掴まってろよ!」
「え、きゃあ!?」
アスベルはアリサをお姫様抱っこで抱えた瞬間、床が傾斜して対応できない面々はなすすべもなく滑り落ちていくのだが、アスベルはアリサを抱えたまま降りていくことにした。他の面々はというと……
「っと、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……あの、後ろから凄いオーラを感じるのですが?」
「じー……(羨ましい……)」
「……はぁ。」
バランスを崩した淡い金髪の女性を助ける形で抱え、滑り落ちていくリィン……その後ろではその姿を恨めしそうに見ているラウラを想像し、ため息をつく。
「うわー、落とし穴だとー(棒)」
「私じゃ対処できないー(棒)」
ルドガーとフィーはまるで息が合ったかのような芝居をしながら滑り落ちていく……それを傍から聞いていたサラの表情は引き攣った笑みであった。
「ねぇ、ラグナ。あいつらぶっ飛ばしていいかしら?」
「笑顔で言うな。地味に怖い。つーか、お前でも“調停”と“西風の妖精”の二人相手はきついと思うぞ。」
ラグナでも、ルドガー相手は正直キツイ。何せ、あの“剣帝”と真正面切って打ち合える相手というのは正直少ない。その中の一人が彼なのだから。伊達に『執行者』という訳ではない。実際のところは元執行者なのだが、本人たちはそれを知らない。
「流石、元『鉄血の子供達』の頂点にいた人間ね。」
「今はリーマンみたいなお仕事ですがね……スコールの奴は?」
「レグラムあたりじゃないかしら。一段落したらこっちに戻ってくるそうよ……さて、我が妹と弟の成長ぶり、見せてもらおうかしらね♪」
「……(身内に甘いな、サラは)」
彼らが行った先を見つめつつ、サラとラグナはそれぞれの言葉を述べていた。
キャラ紹介は序章終了あたりでまとめてやります。
ここで、補足を。
マキアスに関しては、原作を踏襲(『前作』での不戦条約締結時に同行しなかった)とし、また、レーグニッツ知事に関わる場面(外伝『西風の聖女』にて、“猟兵王”とレーグニッツ知事が出会ったということをなかったことにします)も原作を踏襲する方針にしました。
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第5話 オリエンテーリングだー(棒) | ||
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