みつどもえ=+2 クラスの人物紹介っぽい話
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一時間目・数学

 

「それじゃあ、教科書を開いて―――」

 

どうも、矢部です。

今日も教科書を片手にチョークで黒板に公式を書いていく。

生徒達は、ノートに書き留めたり、僕の話に耳を傾けている―――

 

「…………」

 

いや、一人だけなんか別の事してる?

窓側の一番後ろの席。その生徒は、机の上で何かをしていた。一応、教科書やノートは開いてるみたいだけど、どうみても僕の授業には参加してる様には見えない(他にもおっぱいの落書きを書いたりしている子もいるけど……)。

 

(う〜ん、佐久間君か……)

 

佐久間 彰。

ひょんな事から僕は彼と出会い、しかも僕の受け持つクラスの生徒だったという。

でも、授業をちゃんと聞いてもらいたいなぁ。……よしっ、ちょっとイジワルかもしれないけど、問題を出すとするか。

 

「………………」

「―――佐久間君!1/5+2/3は?」

「答え13/15」

「……せ、正解」

 

……た、偶々なのかな?

も、もう一度。

 

「それじゃあ、佐久間君!4/7+1/9は?」

「43/63」

「うん、正解」

 

わお、即答……。

授業は、聞いてるみたいかな?

でも、せめて姿勢だけでも示してほしいな。

それにしても、何をやってるんだろう?

ちょっと覗いてみよ―――

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

あっ、終わっちゃった……

 

 

 

 

 

 

う〜ん、何やってたんだろう?

ノートに何か書いてたのかなぁ?見たところ、教科書もノートもちゃんと開いてるし、う〜ん…………

 

「矢部先生……」

「んわぁ!?」

 

机の下から声がした。肩にかかるか、かからないか位の長さの黒髪をお団子でまとめている女の子。丸井ひとはちゃんだ。

何故かは分からないけど、いつも僕の机の下にいる。しかもすんごいホラー系の目をして僕を驚かせてくる。

 

「も、もう、驚かさないでよぉ……」

「先生が勝手に驚いたんですよ」

 

心臓がいくつあっても足りないよ〜……。

ひとはちゃんは構わずに“あの本”を読んでいる。

 

「……あき君がどうかしたんですか?」

「へっ?」

 

あき君って……。

 

「ああ、佐久間君の事か。仲いいの?」

「まあ、幼なじみなので……」

 

そういえば佐久間君も言ってたけど、ひとはちゃんの事だったのか。

 

「ちょっと聞きたいんだけど、あの子は何やってるの?」

「あれはあき君なりの暇潰しですよ」

 

いやいや、授業中だよ!?

暇潰しって、僕の授業が暇だって事!?

 

「或いは、つまらないからじゃないんですか?」

 

心読まないで!!

あと今ので若干傷ついたよ!

 

「でも、あき君もあれでちゃんと授業は聞いてますよ」

「えっ、そ、そうなの?まったく別の事やってる様に見えるんだけど」

「あき君も真面目な時は真面目にやりますから……」

 

そっか……。

佐久間君の事、よく見てるんだね。僕もちゃんと信じてあげないと……。

 

 

 

 

 

 

 

―――とは言ったものの……。

 

「…………」

 

全然、黒板に目を向けてくれない……

ていうか、本当に授業聞いてるの?

ひとはちゃんは、ああ言ってたけど、やっぱり気になる。そう思って、僕は佐久間君の席に近づいていく。

 

〈チョーク、別名は白墨ともいうらしい〉

 

全っっっっっっ然!聞いてないね!?

関係ない事だし、チョークの自由研究でもしてるの!?

僕はふと、ひとはちゃんの方を向く。すると、ノートの一ページをチラッと見せてきた。

 

〈場合によっては、そういう時もあります〉

 

なんなのもぉぉぉう!!

 

 

 

 

 

 

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―休み時間―

 

久し振りの小学校。なんだかんだいって、もう小学六年生になってしまった。入院生活の方が長かった俺にとっては実に早いものだ。

まあ俺自身、静かに過ごす方が好きだったし、別にどうでもよかった。友達と一緒に遊ぶのが嫌いって訳じゃない。でも、自分から行くということは滅多にない。

だからこうやって一人、本を両手に読書を嗜んでいるのだ。周りから見れば独りぼっちの寂しい奴だと思うかもしれない。だが言っておく。

 

俺は寂しいんじゃない……自分の時間を優先しているだけだ!

 

ふぅ………。

………………こういう風に独り言言ってる時点でそう思われてるんだろうな、うん。

 

それにしても、賑やかだ。

別に騒がしいとは思わない。これくらいの方が逆に安心する。クラスの皆は相変わらず元気いっぱいだ。

 

ホント……羨ましいよ…………。

 

さて、読みかけだった本を読むとす―――

ピロリロリ〜〜ン♪

 

「あっ、また撮ったわね!この変態っ!」

「い、今のは、空耳よ!!」

 

空耳にしては無理があるなぁ、うん。

チラッと視線を横に向けると、二人の女子がなにやら睨み合っていた。

金髪で小さいツインテールにしてる方が【丸井みつば】黒髪のくるくるカールでみつばと同じツインテールが【杉崎みく】だ。

この二人はホント仲悪いな。髪の色と身長の違いさえ除けば結構似てるとこあるけど。

 

「嘘つきなさいよっ!!」

「ほ、ホントよ!!」

 

あ〜あ、飽きないねぇこの二人。

すると杉崎がまた自分の携帯でみつばを撮り、逃げていった。みつばもそれを追いかけていく。

さっき否定してた癖に堂々と撮影 してたな、あのブルジョア。

何かと不幸に思えるが、みつばこと、あのブ………もとい、三姉妹の長女はあれはあれでかなりの“S”だ。しかもこのクラスの全員を牛耳ってる気になっている。未だに幼稚園児がはくようなパンツをはいてる癖によく言うぜ。

 

良いところもあるんだからもうちょい黙ってればいいのに。

 

「みっちゃん、杉ちゃん……」

「やれやれ、またやってるよ……」

 

心配そうに二人を見ている眉毛が濃い女子【吉岡ゆき】と、ため息を吐いた、ボーイッシュな印象を与える背の高い女子【宮…宮……】まあ、名前は宮か下で合ってたと思う、多分。

 

この二人は杉崎と仲が良い女子だ。

吉岡は大人しくて、よく恋話に食い付く。でもって本当の恋沙汰にはてんで疎いときた。しかも脳内でドロドロの愛憎劇を繰り広げたりしてるから、これまた困ったもんだ。まあ恋なんて俺には無縁のものだから関係ないけどな……。

 

 

“気になってる”のはいるけど…………

 

 

宮下……ああ、宮下だ宮下だ。うんうん、宮下でOK。

宮下も比較的、常識人だ。よくツッコミ役に当たったりしてる。それに世話好きな性格だし、いい奴だと思う。ただ、いきすぎる事もあるからなぁ……。

 

この二人の他にも“あと一人”いるんだけど、敢えて説明しないでおこう。今の所まだ見かけてないし、何よりめんどくさい!

その内“アイツ”とまた出会う事になるかもしれないが、だからといって俺は紹介なんてしない!絶・対・しないっ!

 

あ〜〜、思い出すだけでムカムカしてくるぜ……。

 

おっといけないいけない。とっとと忘れて、読書の続きでも―――

 

「しんちゃ〜〜ん♪」

 

バキィィッ!!と俺の目の前で俺の机が大破した。俺が本を両手で持った直後にだ。破壊した張本人はあどけない表情をしながら頭をかいている。赤毛を頭の上でちょんまげの様に束ねており、キャミソールにスパッツといった出で立ちの女子【丸井ふたば】。先程紹介したみつばの三つ子の妹である。三つ子といってもあんま似てないけど……。運動神経抜群で、とんでもない怪力の持ち主だ。他にも色々と壊してるらしい(扉や教卓等々)。でも悪気は全然なく、素直で明るい奴だ。

 

「あれれ?」

「お、お前なぁ……」

 

ふたばの横で顔をひきつっている黒髪の男子【佐藤信也】。クラスの中ではイケメンらしく、女子にはモテる。その代わり数人の男子からは嫉妬の眼差しを受けている。まあでも良い奴だよ。俺でも話しやすいし、向こうからよく話しかけてくれる。

 

「小生は挨拶しただけッス」

「チョップを繰り出すのが挨拶なのか!?」

「ただのスキンシップっす♪」

 

スキンシップにしては危ないなぁおい。後、人の机を破壊した謝罪はなしかコラ。

 

「ていうか、佐久間の机壊してどうすんだよ」

「あっ、ごめんッス!あっきー」

「何秒か遅れの謝罪ありがと。俺そっちのけで夫婦漫才しやがって」

「そ、そんなんじゃねぇよ!」

 

満更では無さそうだぞ?顔を赤くして否定しても説得力ゼロだ。ふたばの方は頭の上に?を浮かべるだけで何も分かっちゃあいない。

 

「ったく……―――」

 

すると、佐藤は横目でチラッと後ろを見た。見た瞬間、ウンザリした様な顔をする。

ああ、あの追っかけ三人組(佐藤曰くストーカー集団)か。

あの三人組は自称“SSS”(佐藤君が好きでしょうがない隊)。佐藤をストー……慕っている三人組だ。

 

「ぐぬぬ……ふたばの奴〜……!」

「うふふ……」

「おがちん……」

 

黒髪で二つの三つ編みにしている女子が隊長である【緒方愛梨】、茶髪でおしとやかな雰囲気の【伊藤詩織】、黒髪ポニーテールが【加藤真由美】。

 

こいつらも佐藤の事が好きなんだろうな。緒方が特にそうなんだろう。伊藤は何やら侮れない感じがする。加藤はまあ……ましな方か?どうだろう?

 

「はぁ……」

「モテモテですなぁ」

「…………そう見えるか?」

「ここまでストー……じゃなくて尾こ……えっと、慕ってるって事は、それほどお前の事を思ってるって事じゃないのか?」

「上履きチェックされたり、リコーダーを触られたり、体操服の匂いを嗅がれたり、常日頃から後をつけられたりする事がか…………?」

「……………………ごめん」

「……いいんだ」

 

流石にそれは同情するわ。俺にも似た様な事があるからな。佐藤程ではないが、俺も“アイツ”には敵わない。まあ俺の場合は“幼なじみ”だから許されるかもしれないが、女子ってもんは、まったく恐ろしいものだ…………!

 

「お前も苦労してる事はよく分かった。まあ、人目をあまり気にしない事だと思うけど?」

「いや、俺もできるだけそうしてるんだけど……」

「あいつらもいずれは自制するさ。小六になったんだから、そろそろだろ」

「ああ……。ありがとな。相談に乗ってくれるのはお前だけだよ……」

「しんちゃん、どうかした?」

 

僅かに微笑みながら、佐藤は礼を言った。俺は普通の事してるだけだけどな。

ふたばも変わらず佐藤の後ろにいる。なんだかんだいってお前ら仲良いよな?

 

さて、と…………――――――

 

「――――お前はさっきから後ろで何してるんだ?」

 

上を見上げると同時に、後ろを見る。69の数字が入った帽子を被った、男子の中では高身長の男子【千葉雄大】。仁王立ちで堂々と立ちやがって。

 

「ふっふっふ……観察さ」

「その細目で何を見てやがんだ?」

「何って、お前のエロ本」

「これは只の短編小説だ。つうか学校に持ってくる訳ねぇだろ。おめぇじゃあるまいし」

「俺だって持ってねぇからお前のを見にきたんだろうが!」

「うん、知ってる」

「じゃあ、聞くな!!」

 

聞いての通り、こいつは“健康優良児”である。ある意味。いつも怪しげなエロい秘技だのを開発してる暇人だ。

 

「新たな秘技を編み出す為に、お前のエロ本の知識が必要なんだ!頼む!この通り!!」

「お前よくそんな事大声で言えるよな?男としては当然な反応だが、人間としてはクズだな」

「いや、どちらも悪いだろ……」

 

いやいや佐藤。こいつにはこれ位が丁度いいんだって。

 

「お願いしゃああっす!」

「千葉氏、土下座してるッス」

「おい千葉ぁ……」

 

こいつのエロへの欲求は計り知れないなあ……。ていうか、何でこいつは俺に頼みに来たんだ?

もしかして俺が“秘蔵本”持ってるの知ってるのか?もし知らずに聞いてきたのならこいつにとって俺はそういう奴なのか?だとしたら心外だなぁ。こいつにだけは思われたくない。すんげぇムカつくし……。

 

あっ、因みに“秘蔵本”っていうのは、これからの教育の為に俺が集めたコレクションであって、決して“ソウイウ”ものじゃないからな?まあ、ちょっと“アレ”で“ワオ”な場面もあれば“オォ”や“ハァ”な所もあるかも…………

 

と、とにかくっ!俺は持ってきてない!

第一、全部家に保管してるからな!?両親は共働きだから基本的に家にはいない。姉と二人で暮らしてる様なもんだ。その姉すら知らないからな?俺の集めに集めたエ……教育本を見られるのは嫌なんだ。教育本なら見せてもいいんじゃないかって?そこはほら……色々とあるんだよ!!

 

「お前が何万回頭を地面につけても俺の考えは変わらんぞ?」

「ちっくしょうっ!このケチ!」

「なんとでも」

「ていうか、佐久間が持ってるとは限らないだろ?」

「何いってんだよ佐藤。そう見せかけて裏ではウホホォォォイ♪な事をしてるのが佐久間なんだぞ?分かってないなぁ〜」

 

分かってないのはてめぇだボケェ……!

なるほど、それが俺に対するお前の人物像か。よしっ、 一言言わせてくれ……。

 

「お前と一緒にするなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぶほぉっ!!」

 

右ストレートを帽子を被った細目少年の腹に打ち込んでやった。

ふぅ、スッキリ♪

 

「おお、あっきーもやるッスね♪」

「おい、大丈夫か?千葉」

「佐藤、千葉はそんな事で死ぬ様な男じゃねぇ。どんな奴にやられようとも、何度でも立ち上がる。そういう男だ」

「いやいや、殴ったのはお前―――」

「さっ、そろそろ授業が始まるぞ?席についたらどうだ?」

「あっ、そうっすね」

「お、おう……」

 

佐藤とふたばは自分の席に戻っていった。授業のチャイムが鳴り、他のみんなも席に戻っていく。あ、それと千葉も。

俺は初めから自分の席に座ってたから慌てる事も………………

 

「って、机ないじゃん……」

 

 

 

 

 

 

「はぁ、終わった終わった」

 

小学校の授業が終わり、下校時間。空が夕焼け色に染まる中、生徒は家に帰っていく。

 

「先生さようなら〜」

「うん、さようなら」

 

校門前で先生が生徒に下校の挨拶をする。あっ、矢部さんもいるなぁ。

 

「あっ、佐久間君」

「矢部先生、さようなら〜〜」

「うん、さようなら。ああ後、授業態度が悪いから、ちゃんとしなきゃ駄目だよ?」

「一応話は聞いてますけどね?」

「姿勢で示してくれないと分からないよぉ」

「それはごもっともですな。まあ善処します」

「本当にぃ?」

 

疑り深いなぁ。

とまあ、先生とこんな他愛もない会話を交わしながら、それをどこかで楽しむ自分がいる。そう思うだけで不思議と笑っちまうよ。

 

 

 

 

 

 

 

……………………今、俺は一人で下校している―――

 

「………………」

「………………」

 

―――筈だったのだが、隣に一人の女子がいる。前述でもあった、丸井みつばと丸井ふたばの三つ子の妹、丸井ひとはだ。

よくよく考えると、こいつとは一緒にいる回数は少なくはない。昔はよく遊んでたしな。

とはいっても、今の状況からして、会話の“か”の字もない。ただただ、無言……。

 

まあ俺もそんなに喋る方じゃないから別にいいけど……。

 

ていうか、こうしてるだけでも俺は………

 

 

 

 

とまあ、そんな甘い事はこぼさず、自分の自宅前へと着いた。

 

「そんじゃな」

「あき君……」

 

俺が家に入ろうとすると、ひとはが、んっ、と右の掌を差し出してきた。何かを渡せってやつか?

 

「……なんだ?手相見てほしいのか?」

「例の物……」

 

そんなに睨みながら取引を行うみたいな言い方せんでも……。つうか、分かった。こいつの言いたい事が。さっきのじゃあ、誤魔化せないか。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ?この間渡したばっかだよな?それに、本の数だって大分少なくなってきたし―――」

「嘘。昨日、新しい本を購入したばかりでしょ?」

 

何で知ってんの!?

 

「あき君のやっている事は何でもお見通しだよ」

「心読むなっ!てか怖ぇよもう……」

「だから、んっ……」

 

また手のひらを見せるひとは。てか何でお前が欲しがるんだよ。女だったら普通恥ずかしがるか、軽蔑するだろ?こいつの真意がもう分からん。

 

てかさぁ、俺のコレクションがどんどんなくなってきてるのは気のせいかなぁ?返ってくるのだって、一ヶ月、二ヶ月……いや、半年もかかったな(未だに返ってきてないものある)。

しかも返ってきた奴は若干くしゃくしゃだったり、何故か“血が付いてたり”、もう散々だ……。

 

「いや、その、ひとは?俺にだって都合があるんだ。そう易々と渡す訳には――――」

「お姉さんに“本”の事を話してみようかな」

「すぐ持って参ります」

 

それはダメ……NG…………。

そんな事知られてみろ……お叱り(という名の体罰)を受けるのは俺なんだからな?

そんな事を知ってか知らずか、俺から本を受け取ると、ひとはは、むふぅ♪と可愛く鼻息をつき、本を両手で抱える。

 

「それじゃあ、あき君。バイバイ」

「おう、じゃあな……」

 

ひとははそのまま、家へと帰っていった。俺の本が返ってくるのはいつの日なのだろうか…………。一ヶ月?二ヶ月?半年?それとも…………。

 

「俺まだ読んでないのに…………」

 

俺の目から流れ出た滝が、夕焼けの橙色の光に反射し、儚く光っていた…………と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
初回から大分あけてしまいましたね……。
今回も見てくださればと思います。
それでは!
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