「真・恋姫無双 君の隣に」 第41話 |
雪が大分溶けてきて、北の大地も春の模様を見せ始めてる。
そんな春の息吹を感じながら、蒲公英とお姉様は城壁から見える風景に目を送る。
眼下にあるのは十万の騎兵で溢れてる涼州軍。
「壮観だなあ。これだけの騎兵が集まるなんて初めて見るぜ」
「・・そうかもね」
「何だよ、たんぽぽ。まだ怒ってんのか?」
人ってさ、怒るのも過ぎると逆に冷静になれるんだね、初めて知ったよ。
蒲公英の頭の中では、お姉様を何十回罠に嵌めたかなあ。
「いい加減に機嫌直せよ。これから大事な戦なんだぜ、頼りにしてんだからさ」
へえ、へえ、へえ〜〜〜〜、そんな事言うんだ。
だったら、
「どうして蒲公英の言う事を聞かないで韓遂のじじい達に宣戦布告するのよ!何の為に一刀様に隠れて使者を出してたと思ってるの!」
「だから味方の振りをして裏切るなんて、あたしは嫌なんだよ。馬家の名を汚す事になるだろ」
蒲公英の怒ってる理由をお姉様は全く理解できてない。
自分の正しさを全く疑わないお姉様に怒りが殺意へと変わりそうだよ。
「そんなの強者の理屈。勝つ為に知恵を絞るのの何が悪いの。負けるのが分かりきってるのに正面からぶつかって華々しく散れっていうの!」
一刀様と合流してないと三倍以上の兵力差なんだよ。
「負ける訳無いだろ。馬軍の勇者達は最強だぜ」
「そういう問題じゃないの!」
激怒してる蒲公英を周りの皆が宥める。
どうしてこうなっちゃったんだろ、西涼に戻ってから全てが上手くいってたのに。
建国式に出ないでお姉様が領地に戻ったのは、一刀様の親書を届けるのに際してお姉様の意思を叔母様に話す決意が出来たからだった。
涼州、ひいては大陸全てに平安をもたらす一刀様の槍となる事を、そして馬家の幕引きを為すのは一刀様じゃなくて自分の役目だと言う為に。
お姉様も蒲公英達も、叔母様や皆に一刀様と共に歩む道を必死に訴えた。
そして最後に後押ししたのが、一刀様の親書の内容だった。
これまでの涼州の在り方を破壊して再構築する事が書いてあった。
涼州の人達の営みを変えようする事を。
それでも親書には、叔母様への、馬家への、涼州に住む人達への誠意と敬意が篭っていた。
大陸の未来を示したものが、一刀様の想いが記してあった。
黙って聴いてた叔母様は、最後にお姉様へ一言だけ言ったの。
優しい顔で、「今日からお前が馬家の当主だ」って。
お姉様の、一刀様の想いが伝わって本当に嬉しかった。
皆も歓声を挙げて喜んだけど、当主の引継ぎは内密にして公表はしなかった。
他の涼州諸侯が手を組んで長安を攻める気なのは分かってたし、予想通りお姉様を旗にしようと西涼に戻ったと聞いて直ぐに総大将を要請してきたから。
後は引き受けた振りをして情報は隠し送って順調だったのに、この脳筋お姉様は、「やっぱり性に合わないんだよな」って、打ち合わせに来てた韓遂のじじいに事実を伝えちゃったんだよ。
全部台無し。
念の為に注意はしてたけど、いくらお姉様でもまさかね、って思ってた事を本気でやらかしてくれたよ。
蒲公英や叔母様の残念な気持ちがどれ程のものか分かってるの!
「正々堂々って聞こえはいいけどね、だったらどうして戦には計略なんて言葉があるのよっ!」
一刀様、ごめんなさい。
この戦が終わったら簀巻きにして引き渡すから、煮るなり焼くなり好きにしちゃって。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第41話
思ってたより多いかな。
曹操さんの総兵力は十五万位だから、青州方面へは出せて三万かなって踏んでたんだけど、倍はいそうだよね。
向こうは一刀さんや劉備さんに兵力を割かないといけない筈だから、此方は五万で充分だと思ってたんだけど。
「斗詩、やっていいか。アタイが蹴散らしてくるぜ」
「待って、文ちゃん。向こうも様子を窺ってるみたいだし、迂闊に動いちゃ駄目だよ」
ここは無理せずに、何時でも防戦出来る様に備えよう。
左慈さん達が并州を陥とすまでは曹操さんと無理に戦う必要がないから。
「何をやっていますの。華琳さんの軍なんてサッサと蹴散らしてしまいなさい!」
「了解っす」
姫様〜、文ちゃん〜。
「お待ちください、袁紹様。このような小さき戦で勝利しましても袁紹様の名を知らしめるものとは思えません。やはり袁紹様が直々に兵を率いての勝利とは華麗かつ雄大なものこそ相応しいと言えましょう」
「于吉さん、貴方の言う事は尤もな事ですけど、目障りなものは目障りですわ」
「はい、目障りな事は否定致しません。ですが私としても引けぬ事が御座います。なにしろ袁紹様には途轍もない大役がおありなのですから」
「何だというのですの?」
「古の劉邦と項羽の様に、天下を懸けての北郷殿との決戦の舞台です」
ええ〜、いくら何でも持ち上げすぎじゃないかな。
流石の姫様でもそのまま受け止めないと思うんだけど。
「おーほっほっほっほっほっほ、流石は于吉さんですわ。わたくしとした事がお恥ずかしいところを見せてしまいましたわね」
・・受け止めるんだ。
「いえ、出過ぎた事を申しまして申し訳御座いません。如何で御座いましょう、小戦は私共にお任せいただき、大陸に光をもたらす袁紹様には御領地を巡幸し民に明るい未来を夢想させるお役目をお願いしたいのですが」
「よろしいですわ。それも王足る者の務めですわね」
姫様は親衛隊と一緒に上機嫌で最寄の街に向かいました。
「どうして于吉さんは姫様の行動を上手に導けるのかな?」
「そりゃ、相方も姫と同じで我儘だからだろ」
ハックシュン。
「どうした、左慈。風邪でもひいたのか?」
こいつでも体調を崩す事があるのかな、化け物みたいに強くても人なんだな。
「違うっ!不愉快な気分になっただけだ」
答えになってないぞ、機嫌悪そうだし深入りはしないでおくか。
前線に目を戻すが、より激しい戦況になっていた。
「なあ、無策で兵に突っ込ませてるけど本当にいいのか?向こうは防衛の準備をしっかり整えてたぞ」
苦戦してる前線に副将として意見を述べる。
「兵共は可能な限り鍛え上げた。あとは実戦で精鋭のみに絞り込む。公孫賛、脱落した奴は貴様の軍に入れておけ、少しは役に立つ筈だ」
脱落って、お前の軍に私の兵は全く歯が立たなかったんだぞ。
匈奴や鮮卑に漢人が交じり合った左慈の直属軍。
出自を問わない強さだけを追及した混合軍は出鱈目な強さなのに、更に絞り込もうってのかよ。
こいつにとって桃香達は演習みたいなもんなのか。
左慈直属軍の強さは身を持って知ってるけど、それでも私は責務として進言する。
「左慈、桃香達を甘く見ない方がいい。あいつらは私とは違う、本物の英雄の資質を持ってるんだ」
戦が始まる前に、桃香達に降伏勧告の使者として会って来た。
返事は予想通り徹底抗戦すると告げられた。
予想以上に兵の士気が高かったのもそうだが、何より桃香達が以前とは明らかに違っていた。
上手く言えないけど、そう、芯があると思った。
気負うでもなく、虚勢でもなくて、一歩も退かない本気の覚悟があった。
私に対しても甘い言葉は一切言わなかった。
私が憧れて止まなかった、歴史に名を残す才が開花していたのを感じた。
「だったら尚更だ、最強の礎となってもらう」
ようやっと大将が長安へ来た、急いで伝えな。
「大将、蒲公英からの急使が来とる。今頃は涼州勢とやりあっとるで!」
「やっぱりか、前回の知らせに匂わせる事が書いてあったからな」
「長安で防衛して追撃戦に持ち込む予定やったのに。その為の準備に一冬かけたんやで」
これやと向こうに有利な野戦するしかないやんか。
防衛の為に増設した投石機、西涼まで運べゆうんかい。
「とにかく長安の騎兵二万を先行させる。真桜、出せるか?」
「そう思うて準備は出来とるし斥候も出しとる。報告は順次届くはずや」
「星、風、先行してくれ。判断は全て任せる!」
「了解しました。風、往くぞ!」
「はいー」
星と風が急いで出陣して、残ったウチ等も本軍出陣の準備を始める。
「ねね、どないするんや?兵力は五分やけど向こうには地の利があんで」
「大丈夫なのです。涼州はねね達にとっても庭のようなものなので地理は把握してます。先行した二人には説明済みで案内役も付けているのです」
「向こうも同じやろ。待ち伏せされとるんちゃうか?」
「我々本軍が着くまでの撹乱が目的なので深入りはしないのです。それに一年はかかると思っていました今回の外征ですが、このような事態を想定はしてましたので防衛よりも期間を大幅に縮められる好機とも言えるのです」
おお、ちっこいのに頼もしいなあ。
よっしゃ、気合入れていこかあ!
本当にお兄さんは人使いが荒いですねー。
お兄さんの所に派遣されてから風は働き詰めなのです。
風が猫と戯れていようと思った時を狙うかのように、「風、助けてくれ〜」と頼ってくるのですから。
風としても頼られるのは吝かではありません、ですが機先を制されるのは軍師の名折れです。
主導権を握る為に改善策を講じなければいけませんねー。
「いいじゃねえか、ニーチャンがあんだけ素直に助けを求めんのはお前さんだけだぜ」
そこは宝ャの言う通りです。
お兄さんは滅多な事で弱音を吐く様な人ではありません。
出来る限りの努力をしてから、更に良くなる様にと皆に相談します。
丸投げする人では無い筈ですが、風には何度かあります。
どうしてでしょうか?
戦の事でなら分かりますが、それだけではありませんしねー。
乙女心を利用されてますか?
なんて、お兄さんに限ってありえませんね。
むー、お兄さんが何かを隠してるのは分かってますが、原因はそこですかね。
無理やり聞き出す気はありませんでしたが、これ以上放置されるのも不本意です。
少し本気を出してみますかねー。
取り合えずは、
「常山の趙子龍、敵将成宜討ち取った!!」
この戦を早く終わらせて、お兄さんに張り付いてみましょー。
星達が先行して三日が経つ。
夜も深くなる前に準備は整った、明朝に出陣だ。
こうなったら涼州勢と正面での決戦は避けられない、多くの血が流れる事になる。
重い、なあ。
翠の性格なら黙ってられないかな、って予想の枠にはあったから、皆にも備えはしてほしいと頼んではいた。
それに涼州人の心を掴むなら計略は控えめな方がいいと、月からも聞いていたし。
・・難しいな、戦は勝てばいいだけじゃない。
涼州人である翠がこの流れを作ったのは、ある意味で必然だったんだな。
よし、気合の入れ直しだ。
自分を、皆を信じて戦う。
この戦は俺が描いている国の在り方を、現実に実践して世に示す為のものだ。
その為にも必ず勝つ。
「一刀。もう寝る」
「一刀殿。準備はもう出来たのです、早く休んだほうが良いのです」
恋とねねが呼びに来てくれた。
「ありがとう。二人も休んでくれ」
「うん、一刀と一緒に寝る」
「れ、恋殿、二人きりはいけないのです。ねねも御一緒するのです」
「じゃ、そうする」
俺の意思は?
「大将〜〜」
「真桜。どうしたんだ、そんなに急いで?」
「七乃からの急使が来てん。孫家がやばいって!」
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あとがき
小次郎です。
今回も読んでいただき有難う御座います。
物語もようやく後半戦に突入しました。
一話一話大事に書こうと思います。
それでは次回もよろしくお願いします。
説明 | ||
春を迎え、各地で戦端が開く 勝ち残るのはどの勢力か |
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コメント | ||
…何だろうこの外史の連中、武官は己の我儘で手下に犬死を強いるし、文官は理屈を捏ね過ぎて国に危機を招くし…。(クラスター・ジャドウ) あーついに孫家仲間割れしちゃったか…それともどっちなお亡くなりに…(縁起でもない)(はこざき(仮)) 一人の愚者は時に百人の賢者に勝る働きをする。……これで孫呉にも援軍を差し向けた後で「魏諷」が現れたら、一刀は一気に詰みかねませんね。(h995) 翠、脳筋すぎ。無駄に兵を死に追いやってるだけなのに気が付かないのか?(himajin) 翠が戻ったのは一刀につくって言うためだったのか〜てっきり敵に回るもんだと思ってた^^;(nao) 翠を援護に行って 孫家の方にも援軍を出したら中央が不味いんじゃないかなぁ(アリカナ) 盛り上がって参りました\(^o^)/(noel) いやまあ、確かに必然かもしれんが……脳筋過ぎるだろ。性に合わない、で作戦を崩壊させるのは武将じゃない。(Jack Tlam) |
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