奪われた花嫁
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中国の神獣が営む『うさぎ漢方 極楽満月』。其処は今日もいつも通りの時間を過ごす筈だった。

 

 

「たのもーーー!!!」

ガラッ!と喧しい音と声を出し、地獄の鬼神・鬼灯が来店してきた。

「薬の用意は出来てますか?白豚さん」

「僕は白澤だ!もう少し待て!」

「客が来る前に準備してろや駄獣があ!!」

いつも通り白澤の『出来てない』宣言に、いつも通り鬼灯の金棒が唸りをあげる。

しかし、何度も繰り返してきた結果かはたまたマグレか、彼はギリギリで避ける事に成功した。鬼灯は凶悪面で「チッ」と舌打ちする。

「あんなモン当たってたまるか!」

白澤を睨む鬼灯を、彼も負けじと睨み付ける。

「良いからさっさと薬を寄越せ!」

「もうすぐだよ!」

いつもの二人のやり取りだ。しかし、今日は偶々長引かずに済んだ。

「鬼灯さん、用意出来ました」

桃太郎が注文された薬を手にやって来たのだ。

「あぁ、ありがとうございます、桃太郎さん。本当に貴男は優秀ですね。其処の白豚と違って」

桃太郎を称賛しつつ支払いをする。その様子に白澤は拳を握りブルブルと震わせた。

「桃タロー君にはお礼を言って、僕には無しかよ!」

「誉められたければ誉められるだけの事を成しなさいよ」

「あーもう!お前ホント可愛くない!そんなんじゃ嫁の貰い手無くなるぞ!」

「ふんっ。残念ながら嫁には行きますよ、明日」

「…は?」

あれだけ煩かった店内が、鬼灯の一言によりシン、と静まり返った。

「…あ、あの…鬼灯さん、嫁に行くとは…」

怖ず怖ずとした桃太郎の問いに、鬼灯は腕組みしはっきりと言い放った。

「私は明日、結婚します。そうなったら、もう此処には来ません」

彼女の爆弾発言に少しの間の後、白澤が口を開いた。

「…お前…恋人いたの?」

その声は震え、信じたくないという想いを桃太郎は犇々(ひしひし)と感じた。しかし、鬼灯は気付いてないのか表情を変えない。

「恋人などいませんよ。国同士が決めた、政略結婚です」

彼女の淡々とした言葉に、白澤も桃太郎も目を見開く。

「政略…そんな…お前は、それで良いの?」

白澤の声は掠れ、聞き取り難い。しかし、鬼灯には正しく聞こえたようで、フ…、と笑った。

「…億年単位で存在してる貴男なら分かるでしょう?政略結婚に、心は必要ありません」

「っ」

鬼灯の笑顔は寂しげで、話す言葉は悲しくて、白澤は思わず息を詰めた。その隙に、彼女は「お邪魔しました」と出ていってしまった。

 

 * * *

 

鬼灯を慕ってくれる者達は皆、反対してくれた。心配してくれた。「他の方法を考えよう」と言ってくれた。

でも、彼女は結婚を受け入れた。自分が嫁ぐ事が、一番手っ取り早くて安全で最善だと思ったから。

閻魔大王は泣いて謝ってくれた。自分がもっとしっかりしていればという言葉には全面的に同意したが、泣いてくれただけ嬉しい。

結婚式の前に、天敵が営む店に顔を出した。嫁ぐ前に想い人の顔を見たかったから。結婚後も想い人の店に行くのは辛いから。

全てを済ませ、挑んだ結婚式。着慣れない婚礼衣装、会ったばかりの結婚相手、沈痛な面持ちで参列する閻魔大王や幼馴染達。

覚悟を決めたと思ったのに、涙が溢れるのを感じる。

結婚相手が自分を見下ろすのを感じる。頬に触れられ、顔が近付く。

(…嫌だ)

それ以上相手を見たくなくて、ギュッと目を閉じた。

その直後だった。

「!?」

いきなり、強風を感じた。風の吹き荒れる音と、ベキバキと何かが壊れる音。混乱する回りの声を聞きながら、風に遊ばれる婚礼衣装を押さえ付けた。風が強過ぎて、目を開けられない。

風が止むと同時に、フサフサとしたモノに包まれるのを感じた。そろそろと、瞼を開ける。まず最初に見たのは、白だった。フサフサとしている。その白いフサフサには、三つの目が付いており此方を射抜くように見詰めている。視線を上げると目に入ったのは耳と角。

鬼灯が目にしているモノは、彼女にとって予想外のモノ。

「…白澤さん?」

白いフサフサの毛も、額の『目』も、二本の角も、間違いなく彼のモノだ。白い獣は、鬼灯から視線を逸らさぬままに言葉を発した。

「鬼灯の隣は僕のモノだ。鬼灯に触れて良いのは僕だけだ。鬼灯が産んで良いのは僕の子だけだ。別の男との結婚なんて許さない」

あまりの事に、誰も一言も話さない。鬼灯ですら、目を見開いたまま固まっている。そうこうしている間に、鬼灯は自分の体がフワリと浮くのを感じた。白澤がその尾で包み彼女ごと宙に浮かんだのだ。

白澤は空中で鬼灯から視線を逸らし、会場に集まる人々を睥睨(へいげい)した。

「日本地獄の閻魔大王が第一補佐官・鬼神鬼灯は中国妖怪の長・神獣白澤が貰い受ける」

皆に聞こえるように言い放つと、破壊した屋根の穴から鬼灯を連れ去って行った。

 

 * * *

 

目的地である『うさぎ漢方 極楽満月』に着くと、白澤は人の姿に変じ鬼灯を横抱きしたまま店内に入っていった。其処には桃太郎もおり、二人が入ったのを確認すると素早く扉を閉めた。白澤が素早く鬼灯を下ろし店全体に結界をはる。

「…ふぅ」

全て終わると、白澤は力を抜き息を吐いた。

「白澤さん」

「ん?」

パンっ!

「っ!」

鬼灯に名を呼ばれ顔を向けると、何も言わずいきなり頬を叩かれた。彼女は白澤を睨み、思いきり叩いたせいで赤くなった手を震わせながらやはり震える声を出す。

「貴男…何のつもりですか?大事な結婚をぶち壊すような真似をして!」

「お前にとっては、望まぬ結婚だった」

「日本地獄は私の全てです!守る事が私の望み!その為だったら、何だってします!」

「だったら!考えるのを止めるなっ!」

鬼灯の絶叫に、白澤も叫び返した。

「お前、頭が良いんだから考えろよ!知識の神獣を頼れよっ!」

己の胸に手をあて訴える白澤を、鬼灯は困惑した表情で見詰める。

「何でそんな…さっきも、あんな大勢いる中で求婚の真似事なんかして…」

「真似事なんかじゃないっ!」

鬼灯の言葉を遮り、彼女の腕を掴む。

「僕は鬼灯が好きなんだ!鬼灯の傍にいたいんだ!僕の番になって欲しいんだ!」

白澤にとって、初めての恋だった。どう接したら良いのか分からぬうちに、天敵なんて間柄になってしまった。それでも白澤は、鬼灯がずっとずっと好きだった。

「僕は遊んでくれた女の子に結婚を告げられても笑って祝福した。でもお前だけは駄目だ」

しかも、想う相手との婚姻ならまだしも政略結婚だ。白澤は、己の店で聞いた鬼灯の言葉を忘れちゃいない。

 

【政略結婚に、心は必要ありません】

 

「そんなの…『結婚』と云う名の『犧(いけにえ)』じゃないかっ!」

「っ!」

鬼灯は思わず息を呑んだ。

「…知っていたんですか?」

「ん?」

「私が人だった頃、犧にされ殺された事を…知っていたんですか?」

鬼灯から信じられない事を言われ、白澤は目を丸くした。

「…何それ?そんな事…されたの?」

愕然とした様子の白澤に、鬼灯は己の失態を悟った。

白澤が言ったのは喩(たと)えだった。それを勘違いし余計な事を話してしまった。自分が動揺している事を、鬼灯は認めざるを得ない。

鬼灯が自分の口を抑え失態を恥じている事など白澤は意に介さず、彼女の腕を握る手に力を込める。

「だったら、余計お前を結婚させるわけにはいかない。二度と、犧になんかさせない!」

彼の目には、強い意思と想いが籠っていた。火傷しそうな程に熱いその視線が嬉しいと、鬼灯は思ってしまった。

「…方法なんて…あるんですか?」

「ある」

短く断言した。今はまだ思い付いてはいないかもしれない。しかしこれから探し、考え、必ず成し遂げるのだという揺るぎない決意を、鬼灯は感じた。その決意に応えなければ、鬼神の名が廃(すた)る。

「分かりました。やります。どうか、力を貸して下さい」

白澤をまっすぐに見詰め頼むと、彼は嬉しそうに笑った。

 

◇ ◆ □ ■

 

この後、見事に政治的な問題を解決し皆に祝福されながら結婚する白澤とにょた灯を誰かくださいm(__)m

説明
政略結婚する鬼灯と、彼女を攫う白澤の話。
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鬼灯の冷徹 鬼灯 白澤 白鬼♀ 白鬼 にょた灯 女体化 

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