病弱な御使いと逆行の恋姫:外伝 |
外史、というものがある。
三国の英雄たる乙女たちが覇権を争い知勇を尽くす世界。
そんな世界に一人の少年が降り立った、その名は天の御遣い【北郷一刀】。
彼は一人の少女、曹操孟徳と出会い、三国志の英雄が女性となっている異常に驚愕する。
その後、曹操軍に属することになった一刀は天の知識、即ち三国志の歴史と現代の知識を用いて曹操を支える。
曹操軍で信用を得ていく中で曹操を始めとする乙女たちは彼のその人柄に惹かれていく。
だが、歴史を変えるその代償はあまりにも重かった、赤壁、定軍山、死を避ける等、歴史に残る大戦の度に彼は代償に蝕まれる。
やがて曹操が天下を制し、一刀の提案もあり三国が共存し同盟を組む形で戦は終わった。
しかし北郷一刀は、その平穏を分かち合うこと無く、真名を預けられ、恋中でもあった華琳、彼女を置いて消えるようにこの世を去る。
後の者達は北郷一刀は天の国に帰った、役目を終えた、などの言葉が飛び交ったが、そんなことは些細な事。
北郷一刀が消えてしまった、曹操が率いる魏の乙女たちや、戦の中で認め合った者もその悲しみに打ち拉がれた・・・。
◆
それが、曹操孟徳【華琳】が辿った外史の道だ、ならば今、ここはどこで、彼女の目の前に居るの少年は誰なのだろうか?
「・・・お姉ちゃん、誰?」
「え・・・?」
話は遡る、北郷一刀が消えて1年後、華琳は護衛も付けずに一人遠乗りをしていた。
「・・・一刀。」
彼女が思うのは何年経とうが消えることがない悲しみと、恋情。
「私の許可無く消えて、私が諦めると思ったら大間違いなんだから・・・!」
彼自身が帰ってこないならば自分から会いに行く、しかし立場がそれを許さない。
彼女は三国の一つ魏を束ねる王だ、ただ一人の男のためだけに国を放り出すのは彼女の誇りが許さないし、彼もそれを望まない。
「それでも私は、貴方のことが忘れられないのよ。」
愛馬に乗ったまま後ろを振り返る、彼や慕ってくれた皆で築き上げた魏の首都許昌、
初めて此処を担当した時とは見違えて栄えた、その影には間違いなく彼の功績もある。
「私は、どうすれば・・・!?」
これからを考えている時に突如湧き上がる悪寒、敵の襲撃かと思い周囲を見渡すが敵らしき影は見えない・・・が。
「な、なによこれは!?」
揺れている、景色が、空や山、あらゆるものが歪み、大地が揺れた。
絶を構え何があってもいいように備えるがなんの意味もないように歪みが強くなる、華琳を除いて。
「これは一体なんなの・・・?」
天変地異なのか、それとも、焦る思考で考える間に更に歪みが強くなり、地が割れた。
「なっ・・・。」
割れた地に落ちるように落下していく、掴むものもなく、抵抗もできないまま。
次に目を覚ませば、自分の姿以外目視できない闇の中、手元に絶もなく馬も居ない、ただ暗中を模索し始める。
「ここは、どこなのよ?」
「お姉ちゃん、誰?」
「え・・・?」
ふと視点を下ろせば一人の少年、しかしその姿はあまりにも彼に酷似していた。
薄汚れた衣に不釣り合いの無垢な瞳と幼い容姿、だが、あまりに【似ていた】、この少年に彼が重なった。
「そう、ね、私は曹操よ、貴方の名前は?」
「僕?僕は北郷一刀、でも、それ以外何にも覚えてないんだ・・・。」
「・・・!!」
記憶を失っているのか、だとしたも、何故彼はこれほどにも幼い?
だとしても、この現実は、華琳に重く伸し掛かった。
かつて愛したその面影は、その幼さに僅かに残るのみだった。
【そいつはただの残光だ。】
「・・・っだれよ!」
振り向けば、一人の白装束の男が居た、うっとおしそうに頭を掻くと男は口を開く。
【俺のことなどどうでもいいだろう、お前が気になっているのは其処のそいつのことだろうが。】
そのまま彼は言葉を続ける。
【そいつは貴様の知っている北郷一刀であってそうではない、疲れ果てた末路だ。】
「な・・・!」
まるで機械がしゃべるように、今までその行動を見てきたかのように彼は次々と言葉を並べていく。
【誰がきっかけにして始まったかもわからない戦乱の時代、その中輝くように現れた3人の英雄。】
【その一人曹操の元に一筋の流星が落ちた、それが天の御遣い。】
【その後は貴様が知るとおりだが、貴様はそれ以外を知らない。】
【天の御遣いが落ちたのは貴様のところに来たのが初めてではない。】
「どういう、ことよ。」
【さてな、俺も原始と貴様のいた北郷一刀しか見ていないのでな。】
「原始?」
【貴様の知ることではない、そして貴様には二つの道が有る。】
【一つ、何も知らず元の場所に帰るか、一つ『最初に戻り』北郷一刀が消えぬ世界に行くか。】
「・・・!!」
【ほう、その様子だと未だに北郷一刀のことを諦められぬと見る。】
【もし望むならば其処に居る一刀に触れるがいい、帰りたいのならば離れればいい、それだけだ。】
【あそこの北郷一刀は混ざり者だからな、もしかしたら奇跡が起きるかもしれんぞ。】
言いたいことは言った、そう漏らして男は消えた。
「何なのよあいつ、この私に向かって好き放題・・・。」
もう一度最初に戻る?それは一体どういうことだ、北郷一刀が消えない?ならば何故一刀は消えたのだ。
「一刀・・・。」
夢にまで見てしまうほどに焦がれていた、もう一度会えるなら、私は・・・でも。
「華琳、きっと魏は大丈夫。」
「!?」
再び振り返ってみればさっきの少年が笑顔で、笑っていた。
「それに、華琳はあそこから消えるわけじゃない、左慈はああ言ったけど華琳が最初に戻っても魏にはその道を選ばなかった華琳が代わりに居るだけ、華琳が最初に戻っても、あっちの魏は大丈夫。」
「かず・・・と?」
「最初は戸惑うかもしれない、それに、もしかしたら俺は華琳のところに行かないかもしれない、なんせ記憶が無いからね。」
「そんなこと・・・!」
「だからこそ、華琳には幸せになってほしい、できることなら、俺がそっちに行きたかったけどね。」
少年は手を差し出す、少女の決意を待つように。
「ふ、残酷ね、貴方私にもう一度覇王として戦えっていうのかしら?」
「ゴメンな、何もできずに消えちゃって、恨まれても仕方ないよな・・・。」
「いいわ、捕まえに行ってあげる、私のことを忘れているって言うなら、無理矢理思い出させてあげるんだから。」
「ははは、それは怖いな・・・。」
華琳は一刀の手を取る、それと同時に一刀の体から光が走る。
「一刀、待ってなさい、貴方をすぐに捕まえてあげるわ。」
「大丈夫、華琳は一人じゃないよ、軍に一人従妹が増えてたり、あっちには・・・がいるから。」
「え、今なんて・・・?」
「愛してる、華琳、俺も頑張って華琳のことを思い出してみるよ。」
少年の形は崩れ、華琳の知る北郷一刀の姿になる、一刀は華琳のことを抱くと華琳ごと姿を消した。
【ふん、惚気けやがって。】
【は、はは、そう邪険にしないでくれるかな?】
【黙れ、外史の破壊者にこんなこと任せやがって。】
【元・・・だろ?】
【うるさい。】
「ちょっと一刀それってどういう・・・!・・・え?」
気がつけば、自分は寝台に居た、見渡せば見覚えのある場所、しかし此処は【許昌】ではない。
「陳、留?」
そうだ、ここは陳留、自分の立志と彼との始まりの地、この地から覇道の幕が開けた。
着替えを終えて、廊下から街を見渡す、まだ一刀の知識も入っておらず、凪達の警備も無い、
栄えた許昌、移る前の陳留、全てにおいて見劣りするこの街だが、だからこそなのだろう、実感が持てる。
「本当に、戻ってきたのね。」
「華琳様、おはようございます。」
「・・・ええ秋蘭、おはよう。」
見れば、先程見た顔、遠乗りをするときに見送ってくれた彼女が居た。
「まだ陳留に入って間もないですが、我々がこの街を盛り立てていきましょう。」
「期待してるわよ、秋蘭。」
「ええ、姉者共々、この身を惜しみません。」
「あら駄目よ、惜しんで貰わないとあなた達を愛でられないじゃない。」
「勿体無いお言葉です。」
紛れも無い本心だ、春蘭は虎牢関では目と引き換えに無事ですんだが、秋蘭は漢中で一刀の知恵がなければ・・・。
「さて、これから立て直していくわよ、昨日のうちに案件はまとめたから。」
「さすが華琳様ですな。」
「ふふ。」
今は、仮面を被ろう、かつて彼に剥がされた覇王の仮面を・・・。
それからは、【今までの繰り返し】のようなものだった
「曹操様、この荀ケをお引き立ていただき光栄の至りです!」
「ええ、文官の中であなたに光るものを感じたの、これから期待しているわよ?」
「お任せください、曹操様に我が真名桂花を預けます、どうかこの身お役立てください!」
「そう、桂花、期待の証としてこの曹操の真名、華琳を預けるわ。」
「あ、ありがとうございます!必ずやご期待に応えてみせます!」
少し早いが兵糧関係を除けば内容は殆ど同じな桂花との出会い。
数日後春蘭と桂花が対立し、些細な事で言い合いに発展したりなど、
未来でも起きたというのに、言い合いが始まることは懐かしさすら感じてしまう。
(私も、この時はどんな心境だったのかしらね。)
数年前だというのに、もう何十年も前だと思える。
(不思議ね、陳留で内政に励んでいた時よりも、一刀と会った時からの方が印象強いなんて・・・。)
しかし、その見慣れた日常は突如歪んだ。
「華琳姉、私も実家から許可が出たんで手伝いに来たっすよー!」
「え、華侖?」
「そうっすよーこれからビシビシ働いて行くっす!」
「おお、華侖様、曹嵩様からお許しを得たのですか?」
「惇姉、久しぶりっすね!」
(曹仁、私の従妹・・・。)
曹子孝、真名を華侖と言い、春蘭を慕っているが正直に言うと華琳は困惑していた。
(おかしい、華侖は魏の、私達の中枢には関わらないで曹家の手伝いをしながら後方支援に徹していたはず・・・。)
他にも二人ほど従姉妹がいるのだがそちらの方は従来通り曹家の手伝いをしているらしい。
(一刀、貴方が言っていたのはこういうこと?)
「あ、そういえば華琳姉、道中で華琳姉に仕官したいって娘が居たから一緒に連れてきたっす。」
「え、あ、ああ、そうなの、どういう娘かしら?」
「ほれ、挨拶するっすよ。」
「はい、はじめまして曹操様!ボク許?って言います!」
(き、季衣!?)
華琳はさらに驚いた、賊討伐で流琉と一緒に軍に加わるはずの季衣が華侖と一緒にやってきたのだ。
(ど、どうなってるのよ、これは明らかに私の知っている流れじゃない。)
桂花や一刀のことはともかくそれを除けばほぼ同じな流れだったはずなのに、華琳の知る過去から大きく外れ始めていた。
「・・・そう、許?ね、得意分野は怪力かしら?」
「っ!?なんでわかったんですか!?」
「なんとなく、よ。」
「そっか、ボクてっきり華・・・!!じゃなくて!曹操様がボクを前に見たことがあるのかと・・・。」
(!)
季衣の一瞬の違和感を華琳は聞き逃さなかった、彼女が発音しようとした名、そして言動、それは間違いなく・・・。
「あらそうなの、じゃあ許?、夜私の部屋に来なさい、ゆっくりと話を聞いてあげるわ・・・。」
「あ、はい、やっぱり覚えてないのかな?」
ボソリといった季衣の言葉を今度こそ聞き取った。
(季衣、まさか貴女が?)
「華琳姉、またまた悪い癖がでたっすねー。」
「むむ、新参者が華琳様と・・・。」
その夜・・・。
コンコン
「そ、曹操様、許?です。」
「(やっぱり。)ええ、待っていたわよ、」
華琳の部屋に入ってきた許?、自分がやってしまったことに全く気づいていないようだが。
「え、えっと・・・。」
「それで許?、ノックは誰に習ったのかしら?」
「え、そりゃ兄ちゃんに・・・あれ!?」
「はぁ、隠そうとするならもう少しうまくやりなさい。」
「え、嘘、やっぱり曹操様も!?」
「華琳でいいわよ、私から真名を預けられているのでしょう。」
「あ、じゃあボクも季衣で大丈夫です、華琳様も未来の魏から?」
「そうね、あなたもなのかしら?」
「あ、それなんですが、少し違うんです・・・。」
「違う?」
「華琳様は、流琉のことを知っていますか?」
「当然じゃない、貴女と同じ親衛隊の一人よ。」
「・・・実は前の魏では、ボクは流琉に会ったことがありません。」
「それは本当に?」
「前の魏ではボク達は兄ちゃんと関羽とあのちびっ子と戦ったんですが負けちゃって・・・。」
「関羽、張飛・・・劉備は?」
「劉備?誰ですかそいつ。」
「知らないの?」
「うーん、前の魏では名前すら出てきませんでした。」
「そんな・・・。」
どうやら華琳と季衣は全く違う場所から来たらしい。
「あ、でも華琳様を慕う気持ちは変わりません!これからも頑張ります!」
「そう、ありがとう、季衣。」
「なら最初の仕事を与えるわ、暫く賊討伐に従軍してもらうけどいつか陳留の駿馬を与えるから故郷に戻って可能であれば流琉を連れてきてくれるかしら?」
「任せて下さい!」
それから時が経ち
「華琳様ー!大変です!」
「どうしたのよ季衣、帰って早々忙しない。」
「兄ちゃんが居たんです、少し前にボクの町に!」
「なんですって!?」
「それなんですが、少し前にボクの町に黄巾賊が来たみたいで、兄ちゃんが指揮して流琉と、
呉にいた甘寧とあのちびっ子と一緒に旅をしてるみたいなんです!」
(そう、一刀はこっちに来なかったか・・・。)
「華琳様、大丈夫です、今は未だ敵になったわけじゃありません!」
「季衣、貴女は以前の魏で一刀に負けたのに、それでも慕ってるの?」
「えっと、負けた後に・・・その・・・。」
(相変わらず種馬ね一刀。)
世界は違っても慕われる、そこだけは変わらなさに思わず苦笑いしてしまった。
(さて一刀、あなたは私を止めてくれるの?それとも、またこの仮面を砕いてくれるのかしら?)
遠いところにいるのであろう彼を思い華琳は笑みを深くした。
説明 | ||
華琳側の逆行起点 英雄譚キャラの性格はこれであっているかな? |
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コメント | ||
記憶を持って戻ったのに一刀探さないのか〜一刀の記憶戻ってもそのときには別の肌馬も沢山いて戻るに戻れなくなってそうw(nao) 待ってました!次話がとても楽しみです!そして一刀の種馬っぷりはどこまで発揮されるのか期待大ですね(ぇ(ナギサミナト) 先が読めない展開で非常に面白いです。(殴って退場) |
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