真・恋姫?無双 〜夏氏春秋伝〜 第七十話
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「ん……んん〜……?」

 

「どうですか?分かりますか、一刀殿?」

 

「ん〜……いや、漠然とそれらしいものなら、程度だな」

 

「そうですか!そこまで来れば後は一息です!」

 

氣の修練に関して一刀が凪に師事し始めてから5日目。

 

毎日早朝にて行われる2人の修練は、新たな日常の風景となり始めていた。

 

この日も一刀は凪の指導の下、坐禅を組んで氣の修練に励む。

 

が、さすがに思うようには進まない。

 

一刀が桂花に掛け合って、一刀と凪の出陣は可能な限り遅らせてはいるのだが、それにも限界というものがある。

 

一つ諍いが発生すると、周辺の諸侯がまるで同調したかのように各方面から同時多発的に攻められ始めていた。

 

今の魏はその対応に追われている。

 

事前の通告通り各戦場に派遣する将は2、3人とは言え、その数が多い。

 

最後まで残してもらったとして、一刀達の出陣までもって2週間。

 

それまでにせめて制御の基礎くらいは会得しておきたいところであった。

 

しかし、会話から分かる通り、一刀は自身の氣を感じ取る段階からまだ動けていない。

 

5日を掛けてこの程度の進み具合ということに一刀は自身に対して落胆を禁じ得なかった。

 

「あと一息とは言うけど、もうずっとこの状態だしなぁ。やっぱり俺には氣を扱う才は無いのか?」

 

「いえ、そんなことはありません。一刀殿の修練の進捗状況は驚くほど早いです」

 

「早い?遅い、じゃなくて?」

 

「はい。言ってませんでしたが、そもそも氣を感じ取れる程に瞑想を形にするのに、通常であれば月単位での修練が必要となります。

 

 見た目だけはしっかりと瞑想していても、実際には氣が整えられていない、ということが修練を始めたばかりの人の普通です。

 

 ですが、氣の修練ではまず初めにここから始めなければなりません。

 

 いくら氣を扱うに当たって、まずはそれを感じ取ることが必要だと言っても、第一に氣を整えなければそれすらも出来ませんから。

 

 私も当時は大体三月を掛けて站?を形にすることが出来ました。ですが、一刀殿はすでに坐禅にてその段階をほぼ終えている状態でした。

 

 氣の修練における入り口にして最も苦労するここをほとんど無視出来るのはとても凄いことです」

 

瞳を見れば分かるが、凪の言葉に嘘は無い。

 

知らぬ間に多大なアドバンテージを得ていた、とそれが分かっただけでもモチベーションは向上する。

 

とは言っても、タイムリミットが伸びる訳では無い。

 

「…………んっ!よし!」

 

一刀は両手で自身の頬を張って気合を入れ直す。

 

弱音を吐くくらいなら少しでも練習をしろ、とはよく祖父や父に言われたこと。

 

何より、今一刀に時間があるのは、桂花を始め、軍師達が皆一刀の修練に理解を示してくれたことが大きい。

 

ならば、早々に諦めてしまうことは彼女達を裏切るに等しい行為とも言えるだろう。

 

それだけは決してしまい、と心に決め、一刀は再び修練に戻った。

 

 

 

それから半刻、坐禅を続けていた一刀は結局この日も大した成果を出せないまま修練の終わりを迎える。

 

「ん……そろそろ軍議の時間だな。今日もありがとう、凪」

 

「いえ、お気になさらず」

 

最近のテンプレと化しつつあるやり取りを経て、2人は軍議室へと足を向ける。

 

その道中で一刀は凪にとある問いを投げかけてみた。

 

「なあ、凪。站?で瞑想を行う時、気をつけていることって何かあるか?」

 

「気をつけていること、ですか。そうですね……

 

 内外の雑音を意識の外に追いやって、私自身と周囲の自然に溢れる氣の流れに集中する、といったところでしょうか」

 

「雑音を意識の外に追いやる、か。心を無にする、ってことと同義と見ていいのかな?」

 

「あ、はい。その解釈で問題無いと思います」

 

もしかしたらと考えたものの、そこはやはりと言うべきか、站?と坐禅は瞑想を行う方法は異なれど、目的とするところは同じであるようだ。

 

ただ、今までの一刀は坐禅を組むことにより心を無にし、意識を周囲に広げる、つまり集中を高めてより広い範囲に知覚を伸ばす方向性だった。

 

”集中する”という一事においては同じことであるのに、対象が氣となった途端にその難易度が跳ね上がる。

 

と、両者の違いに思いを巡らせていると、一刀はとある気付きを得ることとなった。

 

(俺はもしかしたら、やり方を間違っていたんじゃないか?凪の站?との違いは、本当に対象だけだったんじゃないのか?)

 

暫しの自問自答を経て、一刀はその考えに可能性を見出す。

 

軍議が終わったら、早速試してみよう。

 

そんなことを考えながら、一刀はいつの間にか着いていた軍議室の扉を押し開いた。

 

 

 

 

 

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「悪い、凪。もう少しだけ付き合ってくれないか?」

 

この日の軍議が終わった後、一刀は凪にそう切り出した。

 

早急に片付けるべき仕事が凪に無いことは一応確認済みではあるが、他に優先事項はあるかも知れない。

 

だがそれも杞憂だったようで、凪は快諾してくれ、すぐに2人は連れ立って調練場へと向かった。

 

 

 

「実はな、凪、さっき少しだけ考えてみたことがあるんだ。実践できるかは分からないし、それで改善されるかも分からない。

 

 だから氣に関して熟練の凪にどんなものかを見てもらいたい」

 

「そういうことでしたか。はい、構いません」

 

「よし、それじゃあいくぞ……」

 

凪に確認を取ってから、一刀は先程の思いつきを実行に移そうとし始めた。

 

まずはいつも通りに坐禅を組み、呼吸を整えて心を無にせんとする。

 

雑念を丁寧に消していく毎に徐々に集中力が高まり、心は落ち着いていく。

 

そうして高めた集中力を、ここ最近は自身のうちに向けて一点集中で氣の気配を探っていたのだが。

 

今回はそうでは無く、まずは以前までの坐禅で行っていた過程を辿る。

 

広く周囲に集中し、自然と己を感じ取る。

 

ここまでは以前と同じであったが、今までと今回の違いはここからである。

 

その状態から自身を中心に集中の範囲を少しずつ狭めていく。

 

そのまま範囲を狭め続け、自身以外をほとんど感じなくなった辺りで留める。

 

身体の各所を一点集中で氣を探るのでは無く、全体を一つと捉えて大きく探る。

 

それが一刀が先程考えついたことであり、今試していることであった。

 

氣の流れ、というものがどういうものか、まだ一刀ははっきりとは分かっていない。

 

だが、その片鱗らしきものはこの数日で掴みかけていた。

 

それに類する感覚を自らの身体という小さな世界の中で見つけようとする。

 

これまでの数日はこの段階で止まってしまっていたのだが、今回に限っては探り始めてすぐに一刀の意識に引っかかるものがあった。

 

「……ん?これは……」

 

「おぉ……」

 

一刀の呟きとほぼ同時に、凪の漏らした感嘆の声が耳に届く。

 

どうした、と問おうとするも、それよりも早く凪が言葉を発した。

 

「今、一刀殿の氣はほとんど淀みなく整っています。どうでしょう、何かを感じたりはしませんか?」

 

「む……うっすらと、なんだが。身体の奥に、渦……のようなものが巻いている感覚が……」

 

「具体的にどの辺りですか?」

 

「そうだな……丹田、と言って分かるかな?その奥、といった感じだ」

 

「丹田……一刀殿、それです!恐らく今一刀殿が感じられている渦が、一刀殿の氣の源と思われます!

 

 その渦から全身に流れが巡ってはいませんか?」

 

凪に聞かれ、一刀は会話を止めて再び集中する。

 

先程感じ取った”渦”を中心に周辺に知覚を広げてみると、凪の言う通り、僅かに流れを感じられるような気もした。

 

「こっちもはっきりとは分からないが、確かに流れのようなものは感じる。

 

 だが、とても細いものに感じられる上に、全身でなく精々上半身程度まで、かな」

 

「そうですか。どうも、まだ完全な形にはなっていないみたいですね。

 

 瞑想が、一刀殿の場合は坐禅ですが、それが完全に形になれば、渦から全身を巡る氣の本流をはっきり感じ取れると思います。

 

 あ、いえ、ですが今の一刀殿の感覚を突き詰めていけばもう3日と待たず全身の氣の流れを把握出来るようになるはずです!」

 

「つまり、このやり方が正解、ってことでいいのかな?」

 

「はい、そうです。えっと、もしかして私の説明が悪かったのでしょうか?」

 

一刀の確認が凪に不安を呼び起こしてしまったようで、申し訳無さそうな顔にしてしまう。

 

そんなつもりは無かった一刀は慌てて凪にフォローを入れた。

 

「いやいや、そうじゃないよ。凪の説明は間違っていなかった。

 

 単に俺の意識の持ちようの問題だったんだ。”氣を修練する”ってことに身構えすぎて、瞑想の基本が疎かになってたんだろうな」

 

「そうだったのですか?それでも十分に瞑想を行えているようでしたが?」

 

「今にして思えば、今朝までは気もそぞろ……とまでは言わないが、少なくとも今まで通りの瞑想にはなってなかったな。

 

 全く、いつ何時も平静を保つことの大切さを説いておきながら自分がこの様じゃあなぁ……」

 

自身の言動を振り返って自己反省に沈みかけるも、今の状況を思い出して凪に声を掛ける。

 

「時間を取らせてしまってすまなかったな、凪」

 

「いえ、そんなことはありません。むしろ、こうして一刀殿のお役に立つことが出来て光栄に思います」

 

与えられた仕事や頼まれた事、何にでも真摯に向き合って真面目にこなそうとする凪。

 

だからこそ、こういった言葉も凪の口から出たのであれば、裏の意図は無いものと信じられる。

 

それは一刀でなくとも非常に好ましく思う要素であろう。

 

改めて凪に最大限の感謝を示した後、少々時間が押していることを確認する。

 

最後に凪からこれからの修練で気にするべきポイントを2、3教えてもらってから、共に駆け足でそれぞれの仕事の場へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

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朝、昼、夜と一日の仕事を終えた一刀は、夕食を取ろうと食堂に顔を出す。

 

と、いつもの声に加えて更に2つの声が一刀を出迎えた。

 

「あ、兄様、お疲れ様です。すぐに夕食お作りしますね」

 

「兄ちゃんも今からご飯?一緒に食べようよ!」

 

「……ここ、空いてる」

 

流琉が調理場に向かい、季衣と恋がテーブルで料理を待っている。

 

見かけによらぬ大食漢たる2人は食堂という空間に実にピッタリな人物のように感じられた。

 

そんな他愛も無いことを考えつつ、一刀は恋が空けてくれた席に腰を降ろす。

 

「ありがとう、恋。それと、いつも悪いな、流琉」

 

「いえ、これも私の大事なお仕事ですから!」

 

流琉は城にいる限りは毎日華琳と将達の食事を賄っている。

 

それもこれも美食家を自負する華琳の舌に適う料理人が流琉を除くとほとんどいないからであった。

 

一刀は以前からそれとなく流琉がオーバーワークでは無いのか、と華琳に訴えかけていたのだが、当の流琉が皆に料理を出す事を楽しんでいると言い切ったために、最早その光景も見られなくなって久しい。

 

こういった行動や先程のような言葉から感じる一刀の気遣いは、いつも流琉の笑顔を引き出していた。

 

気分良さそうに鍋に向かう流琉。

 

その背を眺めながら一刀達は待ち時間を潰すべく話に興じる。

 

「今日は霞と梅と詠が出陣したんだったな。季衣達もそろそろかもな」

 

「今残ってるのってボク達と秋蘭様、それから斗詩さんに凪ちゃん?」

 

「ああ。それと軍師が稟と風、それにねねだな。最初に出た春蘭達は直に帰ってくるだろうが、それよりも先に出陣の命が1回か2回は下りそうだ。

 

 春蘭達の休息のことも考えると本当にギリギリだな。桂花の計画が無ければちょっとやばかったな」

 

「……恋は一刀と一緒がいい」

 

「あ、ボクもボクも!」

 

「いやいやいや、恋、今回に限ってはそれは無理だ。そうそう戦力を偏らせるわけにはいかないんだから」

 

ポツリと漏らした恋の言葉に一刀は咄嗟に苦言を呈する。

 

季衣も同調していたが、こちらは可能性があるためにひとまず放置しておいた。

 

不満そうな顔を隠そうともしない恋であったが、一刀が言葉を尽くしてどうにかこうにか納得させる。

 

丁度そのタイミングで流琉が全員分の夕飯を作り終えたようで、3人が着くテーブルに配膳を始めていた。

 

さりげなく一刀も配膳を手伝い、作られた料理が全て並ぶと皆で手を合わせて食前の言葉を唱和する。

 

流琉の料理にはいつも舌鼓を打つ3人のこと、唱和を終えるや否や恋と季衣が我先にと箸を伸ばしに掛かる。

 

一刀も軽く窘めつつ、自らはきっちりと欲しい料理を確保していた。

 

華琳が同席している時には考えられないような騒々しい食卓。

 

しかしこういった食事風景もまた料理がより美味しく感じられる良い調味料となっていた。

 

 

 

流琉の料理は瞬く間に全ての皿から消え失せた。主に恋と季衣が原因で。

 

今は先程の一幕とは打って変わって、落ち着いた食後の歓談タイムである。

 

「そう言えば、恋。少し前に街の大通りで話した恋のところの子たちの話、考えてくれた?」

 

「……ん。恋、いっぱい考えた。ちょっとだけど、試してみようとも思った。

 

 ……でも、あの子たち、恋がいないか、ご褒美がすぐに貰えないと、じっとしてられない」

 

「ん〜、そうかぁ……じっとしてられない、ってのは確かに少し厳しいなぁ。

 

 何か他にいい案……は……」

 

何の気なしに辺りを見回しながら考えに耽ろうとしていた一刀は、ふと流琉を視界に収めたところで動きが止まる。

 

もう遥か昔、一刀がまだ現実世界にいた頃の話を思い出そうとする。

 

単語は出てきた。そこから概要は何となく分かる。その詳細を説明されたこともあったはずなのだが……

 

元々、当時それほど興味を示しておらず、話半分にしか聞いていなかったために詳細を思い出すことが出来ない。

 

いや、ならばいっそのことアレンジしてしまっても良いのでは無いか。一刀はすぐにその考えに至る。

 

幸い魏に在籍する軍師達は皆とても優秀な者たちばかり。

 

この提案も持ち込んでさえしまえばあっさりと形にしてしまうのだろう。それだけの信頼はあるのだ。

 

「なあ、恋。ならもう少し変わった案を提案してみようか?」

 

「……?」

 

コクンと首を傾げる恋。

 

それを促しと見て、一刀はその”案”を恋に示した。

 

「犬喫茶、あるいは猫喫茶。そんな感じの店を作る、ってのはどうだろうか?」

 

「……?」

 

恋は再びコクンと首を傾げる。が、今度のそれは意味合いが異なっていた。

 

それは流琉にも分かっていたようで、自身の疑問を晴らす意味でもそちらから質問が飛んでくる。

 

「あの、兄様?それは一体どのようなものなのですか?」

 

「喫茶ってのは、まあ飯店と同じようなものだ。ただ、出す料理は飲み物と軽い料理だけで、簡単にいえばお昼時なんかに休憩する為のお店、ってとこだな。

 

 その形態の店がこの大陸でも通用するかはまだ分からない。色々と検討が必要な、課題その一だ。

 

 で、犬喫茶なり猫喫茶なりってのは、俺が元いた場所にあったお店のことで、店内に犬や猫が放し飼いにされているんだ。

 

 客は自由にその犬達や猫達と触れ合うことが出来る。もちろん食事を取りながら、な。

 

 まあ、食事場所ってことだから、犬や猫はそれなりに綺麗にしておかなきゃならない。それと大人しいことも絶対条件だ。

 

 本来なら犬猫は触れ合えるだけの存在なんだが、恋のさっきの話を聞くに、希望する客にはおやつを上げられるようにすればいい。

 

 とは言っても、恋がきちんとあの子達に言い聞かせて、実際に大人しくしてくれなければどうにもならない。課題その二だな。

 

 ただ、全てが上手く行けば恋の子達に仕事を振れること、民に娯楽に近い環境を提供出来ること、より経済を回せること、と利点は多いんだが……どうだ?」

 

流琉の問いに滔々と答えた一刀。

 

それを聞いて真っ先に反応したのは季衣であった。

 

「何それ、面白そう!ご飯が食べられて恋さんの動物とも触れ合えるなんて最高じゃん!」

 

季衣が瞳を輝かせて声を上げれば、流琉も好意的な意見を表明する。

 

「私もいいと思います!確かに衛生面では気をつけないといけないと思いますけど、それでも今までに無いお店というのは素晴らしいと思います!」

 

「だよね!それに兄ちゃんが提案した天のお店って言えばお客さんもいっぱい集まるよ!」

 

「そうですよ、兄様!兄様ならご存知でしょうけど、あの天の食べ物も民の皆さんに結構な人気ですよ!」

 

「食べ物のお店ばっかりは天の名前を使ってもなぁ……って、流琉!?それって納豆のことだよな?!まさかあれ、民達に流したのか?!」

 

「はい!とても美味しかったので、以前お世話になった飯店の店主さんに紹介してみました!

 

 始めの内は隠し菜譜のような扱いでしたけれど、今では一つの目玉商品になっていますよ!」

 

「あ〜、うん、そうか……いや、あれって結構好き嫌いが別れるから市井に流すつもりは無かったんだがなぁ……」

 

幾分脱線しながら話が盛り上がる3人。

 

そうやって季衣や流琉の口から肯定的な意見がポンポンと飛び出している中、恋はジッと座ったままだった。

 

「あ、すまない、恋。大分話が脱線してしまった。

 

 それでさっきの話なんだが、どうだろう?セキトはともかく、他の子達にそういった仕事は勤まりそうかな?」

 

本来ならば話題の中心に据えねばならない恋を置き去り気味にしてしまっていたことに反省し、一刀は恋に話を振って話の筋を戻す。

 

一刀に問い掛けられても恋はまだ暫くの間、無言でジッと真正面の一刀を見つめていた。

 

いや、正確に言えば一刀を見つめているというよりも、ただ正面を見据えつつ考えに耽っているのである。

 

元より発言に独特の間を持つ恋が思索に耽ると、更に間が顕著になる。

 

が、恋もしっかりと考えている様子が見て取れ、ここに至って口を挟もうとするものは誰もいない。

 

短くない時間沈黙を保ったのち、恋はゆっくりと話し始めた。

 

「……多分、大丈夫。ご飯さえあれば、ちゃんと言う事聞く。はず。

 

 ……いいと、思う。恋も楽しみ」

 

ニコリと恋が微笑みつつそう言う。

 

これで実質のオーナーとなる恋からの許諾を得た。

 

「そうか。ありがとう、恋」

 

「……ん」

 

「よし、それじゃあ早速この案を上に上げてしまうとしよう。

 

 善は急げ。こういうのは早いに越したことはないからな」

 

そう宣言するや、一刀はすっくと立ち上がった。

 

今現在、軍師は確かに少なくなっているものの、華琳だけは絶対にいる。

 

最終決定は今はまだ無理だとしても、予め華琳に案を通しておくことのメリットは大きい。単純な時間の節約のみならず、仮に却下されるとしても早々に対策を練られるからである。

 

「流琉、今日もありがとうな」

 

「いえ、そんな。これもお仕事ですし」

 

「それでも、な。それじゃあ俺は華琳のところへ行くかな。またな、皆」

 

「あ、はい。行ってらっしゃいませ、兄様」

 

「ばいば〜い、兄ちゃん!」

 

「……ばいばい」

 

軽く挨拶を交わし、一刀は食堂を立ち去る。

 

華琳の下へと向かう途中、自身の近況を思ってふと苦笑が漏れてしまった。

 

(まさか、武官の仕事よりも文官の仕事の方がサクサク進んでいるなんてなぁ……)

 

普通は逆だろう、と自分に突っ込みながら、今日も一刀は仕事をこなす。

 

 

 

 

 

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動物喫茶の件は桂花や零待ち、氣の修練は進み始めたと言えどもまだ遅し。

 

そんなこんなでさらに5日が経過したこの日、一刀は軍議にて遂にあの命令を告げられる。

 

「今度は南方で諍いあり、ね。この件は一刀、貴方にお願いするわ。大丈夫かしら?」

 

「了解した。これまで随分と我儘を通してもらったしな」

 

「そうね。ああ、一刀以外では凪と斗詩、貴女達が行きなさい」

 

『はっ』

 

「軍師は風ね。頼んだわよ」

 

「お任せを〜」

 

ポンポンと采配を決めていく華琳。

 

尤も、この辺りは事前に幾つかのパターンを想定して桂花と打ち合わせてあったのだろう。

 

想定を超える程に戦線が飛び火しない限りは混乱が生じないようにし、実際に起こりそうにない辺り、改めて桂花の有能さが際立つ。

 

「出す兵の規模の詳細は後で風に竹簡で渡すわ。軍議の後で取りに来なさい」

 

「承知しました〜」

 

「この件はこれでいいでしょう。誰か、何か報告はあるかしら?」

 

華琳の問い掛けにチラホラと報告が上がる。

 

それが途絶えると軍議が終了となるのだが、今日も含めてここ最近は実に軍議が短い。

 

そも、参加する将の大半が出払っているためであって、仕方が無いことではあるが。

 

「それでは、これで軍議を終了とする。一刀、凪、斗詩、風。貴方達は早々に準備を整え、出陣なさい」

 

『はっ!』

 

華琳が簡単に締めの言葉を述べ、軍議は閉じられた。

 

 

 

「お兄さん、お兄さん。調子の方はいかがですか〜?」

 

「ん〜、絶好調とはさすがに言えないが……まあ、大丈夫だ」

 

華琳の下から戻ってきて出陣準備に加わった風がふと一刀に問い掛ける。

 

それに返されたのは偽らざる一刀の現状、本音。

 

それは一刀自身とここ最近付きっきりでいた凪の共通見解だった。

 

「凪ちゃん、お兄さんの言っていることは本当ですか〜?」

 

「はい、本当のことです、風様。付け加えますと、昨日までの修練によって、一刀殿が氣の暴発を起こすことはまず無いと言えるでしょう」

 

「氣の暴発、ですか?それは以前一刀さんが仰っていた……?」

 

横合いから同じく準備に勤しんでいた斗詩も会話に入ってくる。

 

その問いには本人が自ら答えた。

 

「その通りだよ、斗詩。もう10日以上も前になるが、凪との仕合中、そして霞との仕合中、その2回に起こった例の現象のことだ」

 

「暴発は起こらない、ですか〜」

 

「何が言いたいかは分かるが、残念ながらここまでしか出来なかった。

 

 ただ、以前のように動くに問題は無いと見てくれていい。悪いな、風」

 

「いえいえ〜。そちらに関しては風も詳しくはありませんので〜。

 

 風は確かな事実が分かればそれでいいのですよ〜」

 

風と一刀は言葉少なに、理解し合った会話を交わす。

 

が、その両隣の反応は対照的だった。

 

凪は2人の会話内容を理解しているようで、小さく頷いている。

 

だが、斗詩の方はそもそも風が何を聞きたかったのかが分からなかったようで、2人の顔を交互に見ていた。

 

これから出陣とあって、余計な疑問を残すことはしないほうがよい。

 

一刀はそう考え、斗詩にその一幕を説明する。

 

「今風が聞いたことは要するに、俺は氣を使いこなせるようになったのか、つまり戦闘力は増したのか、ってことだ。

 

 けれども、俺の言い方からそれが成せなかったことを察してくれた、と。

 

 それでさっきの会話だ。俺は氣を使えない、つまり以前のままだ、と伝えたんだよ」

 

「なるほど……ということは、氣の扱いは一刀さんでも難しいんですね」

 

「ああ、全くもって。難しすぎて逆に楽しいくらいだぞ?」

 

冗談めかして一刀はそう言う。

 

その言葉に風が乗っかった。

 

「お兄さんはやっぱり変わってますね〜」

 

「そうかな?出来ないことが少しずつ出来るようになっていく感覚、俺は好きなんだがな」

 

「あ、分かります。私も、その、文ちゃんと麗羽様が”ああ”でしたから色々と出来るようにならきゃいけなくて。

 

 でも、色々と出来るようになってしまうと逆にもう味わえなくなってしまうんですよね」

 

「一刀殿と斗詩さんは多才でいらっしゃいますね。私など、武しか取り柄が無く、恥ずかしい限りです」

 

「そんなことは無いぞ、凪。物事を広く浅く出来る者よりも、狭くとも深く出来る者の方が重用されることはままあることだ。

 

 凪はただ後者なだけであって、そこに恥じる要素なんて一切無いさ」

 

「一刀殿……あ、ありがとうございます!」

 

賑々しく会話を進めていると、気付けば作業の手が緩んでいる。

 

それに気付いて一刀は皆に声を掛けた。

 

「おっと、皆、手を動かそう。ささっと出陣してちゃちゃっと片付けてこよう」

 

『はい(は〜い)!』

 

凪と斗詩と風の声が重なり、準備が再開された。

 

 

 

今までに無かった組み合わせでの出陣。

 

だが、そこに不安は無い。

 

凪も斗詩も、伸び途中とは言えども十分に立派な将である。

 

そして風。彼女は独特の空気感を持っているが、その頭脳は確かなもの。

 

対して、相手をするは特段気をつけるべき将もいない敵。

 

このメンバーでならば宣言通りすぐに帰ってこれるな、と確信を持って、一刀達は出陣していくのだった。

 

説明
第七十話の投稿です。



修行・実践そして実戦。
果たして一刀は全てをこなせるのか?
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コメント
>>牛乳魔人様 完全なガラ空きじゃないですから!将はちゃんと残していますので魏は大丈夫です。きっと、恐らく、メイビー(ムカミ)
>>nao様 自分の恋姫世界においては、氣の扱いは”特例”を除いて非常に難しい、といった扱いに決めております。新規キャラを含めても実際に将の中で自在に操れるのは片手で足りる程度になりそうですね(ムカミ)
>>心は永遠の中学二年生様 一刀「あからさまなフラグを立てて行くスタイル!」 いや〜、自分も書いてて思いましたけど、まあたまにはこういうのもいっか、とw このフラグがどうなるかは次回にて!(ムカミ)
>>本郷 刃様 オールマイティなメンバーを残しすぎたかなぁ、と今更ながらに……w 一刀、秋蘭、零、斗詩は単体で色々とこなせる、所謂「便利キャラ」ですねぇ(ムカミ)
>>ZSAN様 凪ちゃんは氣を絡めると出番が一気に増えること確定ですからね。犬っぽさがとてもかわいく、自分も大好きです!(ムカミ)
まずはコメント返信が遅れたお詫びをここに致します。スミマセンでした。     (PCがクラッシュしかけるなんて、そんなん考慮しとらんよ……(´・ω・`)(ムカミ)
空き巣狙いで蜀が攻めて来そうなんですが…(牛乳魔人)
気の扱いは難しいんだな〜一刀ならすぐ習得するかと思ってたがさすがに数日じゃ無理だったか^^;(nao)
「このメンバーでならば宣言通りすぐに帰ってこれるな」って「やったか!?」並にフラグじゃねぇか!!!!(心は永遠の中学二年生)
一刀、凪、斗詩、風って安定していますし、急な対処もできる面子ですから本当にすぐに帰ってこれそうに感じます(本郷 刃)
今まで影の薄かった凪の出番が一気に増えましたね。凪は好きなキャラなので嬉しい限りです。(ZSAN)
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真・恋姫†無双 一刀 魏√再編 

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