ダンまち 例の紐alternative または神々の刃(勝利すべき黄金の短剣)
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ダンまち 例の紐alternative または神々の刃(勝利すべき黄金の短剣)

 

 

「ごめんなさい神様。僕が時間を稼ぎます。神様はこのまま逃げてください」

 死を覚悟した悲壮な決意が篭められた言葉。それを、見ていて逆に泣きそうになる爽やかな、けれど影のある笑みを浮かべながらベルくんはボクに告げた。

 

 ヘファイストスにベルくんの武器を作ってもらった帰り道。偶然ベルくんと出会えたボクは早速デートと洒落こんでいた。

 けれどその最中、真っ白い巨大なゴリラみたいなモンスターが突然ボクたちを襲ってきた。そのモンスターは豚みたいにブヒブヒ言っているのでブタゴリラと名づけたいと思う。

 ブタゴリラは真っ直ぐにボクたちだけを襲ってきた。誰かに操られているのかもしれない。けれど、黒幕が誰かなんて確かめている余裕はなかった。逃げるだけで必死だった。

 けれど、ブタゴリラは巨体に似合わずに俊敏でボクたちより足が早かった。逃げ切れないと悟ったベルくんはボクを通路の奥へと押しやって1人で戦う道を選んだのだった。

 

「何を言ってるんだい、ベルくん? 今すぐここを開けるんだ」

 ベルくんの言っていることはあまりにも無謀過ぎた。成長著しいとはいえ、ダンジョンに足を運び入れてまだ半月のレベル1の少年が1人で戦って勝てる相手じゃない。しかもベルくんは武器のナイフを既に失っている。

 ブタゴリラに勝てないことはベルくんだって十分にわかっているはず。でも、それでも彼は1人で戦うことを選んだ。

「神様。ボクはもう、家族を失いたくはないです」

 ボクを傷付けないようにと。ベルくんは、ボクを助けるために自らの大切な命を散らそうとしていた。ボクこそ自分がどうなろうとベルくんに死んで欲しくないというのに。

 

「ところで神様。一つ、確認してもよろしいでしょうか?」

 ベルくんはとても落ち着いた声を出していた。もしかすると考え直してボクと一緒に逃げる道を選んでくれたのかもしれない。ボクはちょっとだけ希望を抱いて聞き直した。

「いいよ。何?」

 ボクはベルくんが一緒に逃げましょうと言ってくれることに期待を込めた。

 だけど──

「時間を稼ぐのは構わないのですが……別に、アレを倒してしまっても構いませんよね?」

 ベルくんが口にしたのはボクの期待とは正反対の言葉だった。

 自分がこの戦いで死んでしまうのがわかっていて敢えて強気の言葉を放っている。ボクを安心させるために。

 ボクは何て彼に応えるべきなんだろう?

 

{うん。遠慮は要らないよ。がつんと痛い目に遭わせてやっちゃってよ、ベルくんっ!}

{そうですか。なら、期待に応えることにしますね}

 

 ツインテールなボクとしてはこう応えるのが正しい気がする。でも、これじゃあベルくんの死が確定してしまう気がする。

「ボクが望むのはベルくんを犠牲にして生き残る未来じゃない。2人とも死んじゃう未来でもない。ボクとベルくんが2人で生き残って夫婦として幸せに暮らす未来だっ!」

 ボクの方針は決まった。

 

 

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「I am the bone of my knife……」

「こんな扉なんてぇ〜〜〜〜っ!!」

 まだ魔法が使えないはずなのによくわからない呪文の詠唱を始めたベルくん。そんな彼を横目にボクと彼を阻んでいる扉に体当たりを仕掛ける。しっかりと鍵が掛かっていたわけでない扉は1度で開いた。

「何で、ここにいるんですか、神様? 逃げてくださいって言ったのに。どうして?」

 ベルくんは怒っている。でも、ボクだって譲れないこともある。

「本当にしょうがない子だなあ、君は。ボクが君を置いて逃げ出せるわけがないじゃないか」

 明るく朗らかに。ボクはベルくんに伝える。

「ボクを護りたいだって? その言葉、そっくり君に返してあげるよ」

 ベルくんがボクを護りたいようにボクもベルくんを護りたい。損得とかそういう次元の話じゃない。ボクはただ、全力を尽くしてこの子を助けたい。大事だから好きだから。

「それに約束してくれただろ? ボクを一人にしないって」

「でも、でもこのままじゃ、2人とも……」

 ベルくんはとても悔しそうな表情を見せる。そんな心優しい少年の手をボクは優しく握り締める。

「諦めるのは早いぜ、ベルくん…………ボクはもう、ベルくんのプロポーズを受けると決めたんだからっ!!」

 ボクを一人にしない → 一生僕が神様の隣にいます → 結婚しましょう

 ベルくんの明白過ぎるプロポーズの言葉はボクの生きる原動力となっている。ボクが人間になったのは、ベルくんと結婚して幸せな家庭を築くためだったんだ。それを理解した今、死んでる暇なんてない。

「逃げるよ、ベルくんっ!!」

 ベルくんの手を取って走り出す。ここで死別なんて冗談じゃないっ!

 ボクのためにベルくんがどんなに覚悟を決めたってそれにボクは従えない。ベルくんのいない未来なんて意味がないんだっ!!

 

「一体、どこに逃げるって言うんですかあ?」

 引っ張られながらベルくんはちょっと不満そうな声を上げる。一世一代の覚悟をボクが独断で壊してしまったのだから男の子的には立つ瀬がないと思う。でも、それでも死んで欲しくない。格好良く死んでなんか欲しくない。みっともなくても生き延びる。

「アイツが追いかけて来られない狭い場所だよっ!」

 ブタゴリラはどう見ても身長が4、5mはある。それに合わせて肩幅も同じぐらい広い。つまり、広い場所以外は追ってこられない。ボクたちが石造りの建物に囲まれた路地の中にいる限り追いつかれない。

 幸いにしてブタゴリラには物を投げ付けて攻撃するような発想はないらしい。そして、ボクたちにしか興味ないせいか周囲を壊しまくって無理やり中に押し通ろうともしない。建物の上から唸り声を挙げてボクたちに向かって手を伸ばしてくるだけ。その際に拘束に使われていたと思うチェーンが唸るけど、ボクたちまでは届かない。

 もちろん、この状況がいつまでも安全であることを意味してはない。ブタゴリラがいつ建物ごと破壊して強引にボクたちを追い始めるかはわからない。

 でも、ボクたちに希望がないわけじゃない。

「ロキのファミリア辺りがこの騒ぎに気が付いて討伐隊を出してくれればいいんだけど……」

 ここで待っていればこの街にたくさん存在するファミリアの冒険者たちがブタゴリラを倒してくれる気はする。これだけの大騒ぎだ。凄腕の冒険者たちが気付かないなんてあり得ない。ヴァレン某とか助けにきそうな気はする。

 でも一方でボクはその可能性が高くないことを感じていた。

「もし、あのモンスターを操っているのが神の中の誰かなら……冒険者たちが加勢できないように何らかの妨害を仕掛けている可能性がある」

 自分で言っちゃうのも何だけど、ボクは神同士の関係をあまり重視してこなかった。誰かがボクを嫌って、ボクのファミリアに因縁を付けてきた結果がこれだとしても不思議じゃない。その場合、援軍を期待するのは難しくなる。

「援軍を待ちつつ、自力でも解決できるように対策を練らないとね」

 ベルくんのレベルは1。できれば援軍が来て誰か他の冒険者がやっつけて欲しい。でも、黒幕が誰かによってはそれも難しい。

 レベル1のベルくんがブタゴリラに勝つ方法も考えなくちゃならない。でも、どうすればいいだろう?

 

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「せめて、強力な武器があればなあ…………あっ」

 ボクは自分が何をしにヘファイストスの工房に行っていたのか思い出した。

「これだっ! これがあればベルくんでもあのモンスターに勝てるっ!」

 背負っていた風呂敷を開いて大切に持っていたナイフを取り出す。天界最高の名匠が打ってくれた特製のナイフ。ベルくんのための特別仕様。

 でも、ベルくんは落ち込んだ表情でボクを見ていない。

「無理です。僕の攻撃じゃ、あのモンスターに致命傷を与えられません」

 ベルくんは弱気の虫に駆られていた。彼の手には刃が完全に砕けてしまっているナイフが握られていた。前哨戦で既にベルくんの武器は使い物にならなくなっているのだ。

「ベルくん。君はいつからそんな卑屈なヤツになったんだい? ボクは君のこと信じてるぜ。だって、そうだろ? ベルくんはヘスティア・ファミリアの主神ヘスティアの夫なんだから。あんなモンスターの1体や2体、チョチョイのチョイさ」

 ニコッと最高の笑顔をベルくんにプレゼントする。

「えっ? 僕が神様の夫…………?」

 ベルくんは大きく首を傾げた。でも、こっちを見てくれた。

「やっと渡せるよ」

 ベルくんに短剣を手渡す。

「これ、は……?」

「君の、いや、ボクらの武器だ」

 この短剣の名前はもう考えてある。

「名付けて……ヘスティア・ナイフ([[rb: 勝利すべき黄金の短剣 > カリバーン]])」

 武器に自分の名前を付ける。最高に格好いいことだとボクは思う。

「これはね、大英雄の狂戦士だって1度振れば7度殺せるスゴい力を持った短刀なんだよ。ボクが君を、勝たせてみせるっ!」

 この短刀さえあれば、ベルくんでもブタゴリラを倒せるっ!!

 

「な、何だかよくわかりませんけど……そんなスゴい武器を今の僕が扱えるんでしょうか? その、これ、真の力を発揮するのにスゴい技量とか魔力とか必要な剣に見えますけど」

 ベルくんは痛い所に気付いてしまった。この短剣は実際のところ、レベル1の駆け出しの冒険者に扱えるような代物じゃない。ヴァレン某クラスの力量を必要とする。

 でも、大丈夫。対策はちゃんと取っている。

「問題ない。これはボクらの武器だって言ったろ」

 ベルくんに自信満々に笑って返す。

「ボクの力をベルくんに送り込む。その力を使ってベルくんはこのナイフの真の力を引き出せばいい」

「なるほど。神様の力をお借りするわけですね」

 ウンウンと頷くベルくん。けれどすぐに首を捻った。

「ですが、どうやって神様の力を僕に送り込むんですか?」

「その言葉を……ボクは待っていたんだぁ〜〜〜〜?」

 ボクはベルくんを押し倒して馬乗りの姿勢になった。

「古今東西、魔力の受け渡しと言えば体と体の交わりによる体液交換が王道なんだよぉ〜〜っ!!」

 ブタゴリラにも負けない獰猛な唸り声がボクの口から漏れ出る。

「そ、それって、まさか……」

「そうだよ。要するに、エッチするとボクの力がベルくんに注がれるってことだよぉ?」

「かっ、神様とエッチだなんて、そんな、不敬ですっ! それに、命の危機なんです。破廉恥なことをしている場合じゃないですよ!」

 ベルくんは必死に暴れる。でも、マウントポジションを取っているボクを払いのけることはできない。神様を舐めてもらっちゃ困る。

「すまない、ベルくん。ボクはこんな状況なのに心から幸せを感じてしまっている」

 ベルくんと結ばれることができる今を最高に嬉しく思っている。力の供給のためにエッチが必要だという今の状況が最高にハッピーなのだ。

「それに、ボクはベルくんのプロポーズを受けたから、もうお嫁さんも同じ。2人がエッチしても何もおかしくないと思うんだ。うん」

 チャームポイントの紐をクイッと引っ張ってみせる。ベルくんが暴れ続けているおかげでボクの自慢のおっぱいもスッゴく揺れている。ベルくんにとっても眼福なはず。

「ベルくんが正直に答なってくれれば。この紐、ベルくんが好きにして……いいんだよ?」

 紐だけじゃなくボク自身もね?

 だけどベルくんは草食系少年の本領を発揮してなかなか乗り気になってくれない。

「やっぱりここは、他のファミリアの援軍が来るのを待ちましょう。そうしましょうっ!」

「おおっとぉ〜。あのモンスターが今にもボクたちに襲い掛かってくるような気がする。これは力の受け渡しに一刻の猶予もないなあ〜」

 ボクがエッチなんじゃない。全てはブタゴリラが悪いんだっ!

「もう1度言う。ボクが君を、勝たせてみせるっ!!」

 ボクは野獣の咆哮をしながら無我夢中でベルくんの衣服を無理やり歯で脱がせていった。

「かっ、かっ、神様の……ケダモノぉおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 ベルくんの絶叫が狭い路地内に木霊した。

 

 

 ベルくんが女の子みたいな悲鳴を上げる中、魔力供給は無事に成功した。

「さあ、夫婦の初めての共同作業行くよ…………っ!!」

「「必殺、勝利すべき黄金の短剣(カリバーン)っ!!」」

 ボクの力を供給されたベルくんは一撃でブタゴリラを消し去ることに成功した。

 こうしてボクはベルくんの勝利に貢献すると共に、身も心も繋がった夫婦としての第一歩を踏み出したのだった。

「幸せになろうね……ベルくん?」

「…………あっ、はい。よろしくお願いします」

 ベルくんに、夫に抱きつく。

 やっと掴んだこの幸せをもう絶対に手放さない。

 ボクは今、とっても幸せです?

 

 

 ダンまち 剣の種類が違えばすぐに出会いはあったエンド

 

 

説明
ダンまち例の紐SS その3
続きものではありません。
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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

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