真恋姫無双幻夢伝 第九章2話『恐怖と勇気』
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   真恋姫無双 幻夢伝 第九章 2話 『恐怖と勇気』

 

 

 数日のあいだ駆け続け、アキラたちはやっと長安まで辿りついた。ちょうどその地で政務を行っていた稟が、彼らを迎える。アキラに抱えられた恋の姿を見た彼女は、驚きを隠せなかった。

 

「アキラ殿!これはいったい?!」

「すぐに華琳たちを集めてくれ!すぐに!」

 

 それから1週間もたたずに、華琳たちや詠たちが集まった。よほどの強行軍だったらしく、疲れ切った状態だった。それほどに、恋が瀕死の状態で帰ってきたことが、衝撃的だったのだ。

 彼女たちは会議場に集まると、アキラの話を聞いて、息を飲んだ。

 

「まさか、そんな…!」

「華琳、これは事実だ。やつらはすぐにここまで来る!」

「いや…でも……」

 

 恋が勝てない相手に対して、どうやって勝てるのか。誰もその答えを知らなかった。

 詠がその恋を気づかう。

 

「恋の容体は?」

「かなり厳しい。道中で応急手当てをしたが、意識が戻らない。ずっと寝たままだ」

「恋も心配だけど、ねねも…」

 

 長安にいち早く着いた音々音は、恋につきっきりとなっていた。満足に食事をとっていない様子だ。身動きせずに座り続け、恋を見守っている。

 しかし、彼女はアキラを責めることはなかった。音々音は恋を信頼するように、アキラのことも信頼しているのだった。

 沈黙が会議場を支配する。長い机の周りに座る彼女たちの間に、だんだんと絶望が広がり始めた。

 

(このままではいけない!)

 

 アキラが口を開こうとした時、彼の代わりに話し出した者がいた。

 

「なんだ、なんだ?もう諦めちまうのか」

 

 会議場の窓の方から声がした。アキラたちが振り向くと、そこにいたのは、華佗だった。

 以前、彼は華琳を暗殺しようとした。それを知っていた春蘭は、怒り狂い、立ち上がって叫ぶ。

 

「華佗!貴様!」

「怒るなよ。別に曹操を殺しに来たわけじゃない」

 

 平然と答える華佗の様子に、春蘭の怒りが増す。

 

「だったら、なにをしに来た!斬りすてるぞ!」

「待て!待ってくれ!」

 

 新たな男の声がした。すると、華佗の隣に、左慈と于吉が現れる。頭から徐々に浮かび上がった彼らの姿に、彼女たちは口々に驚いた。

 一人だけ驚いていないアキラが、彼らに声をかける。

 

「左慈!于吉!ひさしぶりだな!」

「こうして会うのは“世界の狭間”以来だな、アキラ」

「アキラ、彼があなたの言っていた…」

「そうだぜ、曹操さん。俺が左慈で、こっちが于吉だ。いやあ、この姿も久しぶりでさあ」

「左慈、そんなことを言っている場合じゃありません」

「おっと、そうだったぜ」

 

といった左慈が、華佗の背中をポンと叩く。嫌な顔をしている華佗を気にせず、左慈は彼の肩に手を置いて笑った。

 

「こいつはあの“ばあさん”に愛想を尽かして、こっちに付いたんだ。実は、俺たちが立ち上げた会社が成功してさ、そこがこいつの再就職先ってことよ。俺たちが成功した商品っていうのが、またすごくてさあ…」

「再就職と偽の身分証を与えることを条件に、彼はこちらに寝返ったのですよ。彼は打算的な男です。こちらの提案に利益がある以上、信用していいでしょう」

「ふん」

 

と、華佗は鼻を鳴らす。アキラの目が希望に輝いた。

 

「じゃあ、このバグを止められるのか!?」

「悪いが、それは俺の権限じゃ無理だ。そこのパスワードはやつしか分からない」

「だがよ、アキラ。このバグっていうのは、“ゲーム”のシステムをぶっこんだだけらしいんだ!つまり“バグ”じゃない。これは“変更”さ」

「賭けを始めた時から、外部からの介入を防ぐために、この世界に強力なプロテクトをかけています。“彼女”自身もこの世界を壊せずに、適当な既存のゲームシステムを応用するしかなかったのでしょう」

「時間もなかった。研究所も警察に押さえられた。やつでも手詰まりさ」

 

 華佗は肩をすくめる。だったら、あの化け物も、その“ゲーム”の敵キャラなのか。

 アキラはなんとか想像がついたが、華琳たちにはまったく理解が出来なかった。

 

「げーむ?ぷろてくと?いったい何を言っているの?」

「あとで説明する。それで左慈、俺たちはどうしたらいい?」

「ゲームってことは、あの化け物にも弱点がある!そいつを探すしかない!」

「弱点だと?」

「ええ、プレイヤーを勝たせるのがゲームですからね。その手段を見つけられたら、我々の勝ちです!」

 

 そこまで言うと、急に彼らの姿が歪み始めた。左慈が叫ぶ。

 

「ちくしょう!気づきやがったか!」

「アキラ!我々はあっちの世界で、どうにかこの世界を守ります!頑張ってください!」

「おい」

 

と、華佗が最後に話した。

 

「置き土産だ!さっき呂布を治療しておいた。ひと月もすれば完治するだろう」

「なんだと?!」

「あがいてみせろ。俺を楽しませるんだな!」

 

 3人の姿が消えた。アキラはふうと息を吐くと、彼女たちに振り返った。全員が唖然とした表情でアキラの顔を見つめてくる。

 

「今から説明する。一言も聞きもらさないでくれ」

 

 アキラの目に闘志が灯った。

 

 

 

 

 

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「弱点、か」

 

と、秋蘭が顎に手を当てて考える。しかし、彼らの姿も見たことがない彼女には、予想がつかない。

 その秋蘭の袖を、春蘭が引いた。口をパックリと開けている。

 

「しゅ、しゅうら〜ん、なにがなんだか、さっぱりだ。おしえてくれー」

「…あれだけ説明してもダメだったか……えっとだな…要するに、やつらは不思議な敵で、姉者はやつらを倒せばいい」

「それだけか?」

「ああ」

「そうか!」

 

と、春蘭はにんまりと笑った。そしてまだ頭を抱えている季衣の元に行くと、さも偉そうに自慢している。季衣の隣にいた流琉が、愛想笑いを浮かべていた。

 その隣で華琳と軍師たちが一斉に、アキラに尋ねた。

 

「アキラ、しっかりと思い出しなさい!何でもいいから!」

「また始めから、ボクたちに説明しなさい!」

「この色情魔!あんたの下半身にいっている血を、ちゃんと頭に上らせなさいよね!」

「お兄さん、お願いしますー。お兄さんだけが頼りなのですからー」

「アキラ殿。例えば敵の仕草や動きに特徴はありませんでしたか?よく思い出してください!」

「そんないっぺんに言うな!えーと、待てよ……」

 

 思い当たることがあった。彼の攻撃は通用したのに、恋の攻撃は通用しなかった。彼よりも恋の方が強い。それを考えると、合点がいかない。

 アキラは、自分の腰に下がっている南海覇王を見た。雪蓮の言葉が蘇ってくる。

 

『銀をね、含んだ鉄で作られているの。本来なら純度の低い鉄で作った剣は脆くて使い物にならないのだけど、これは偶然成功したのよ』

 

 これだ!、とアキラが声を上げた。

 

「銀だ!銀がやつらの弱点だ!」

「銀ですって?」

「そうだ!この剣に含まれている銀で奴らを消すことが出来た。それに違いない」

「でも……」

 

 雪蓮も言っていたように、鉄剣に銀を含ませること自体が難しい。華琳はそこを心配した。

 だが、やるしかない。アキラは真桜を呼んだ。

 

「なんですか、隊長?」

「真桜、銀を含んだ剣を作ってくれ」

「そんなムチャな!……と、普通の職人なら言いますが、この真桜は一味ちがうで!」

 

 と言うと、真桜はアキラに体を擦り寄せてきた。

 

「報酬次第ってとこですよ」

「分かった。これに成功したら、望み通りにしてやる」

「ホンマに!そやったら“隊長の子供”がほしいなー、一番に!」

「なんだって?!」

 

 それを聞いた凪と沙和も、アキラに急いで詰め寄ってきた。

 

「隊長!私も何でもやります!」

「真桜ちゃんだけはズルイの!」

「わかったわかった!凪は真桜の元に職人を集めて、沙和は巨大な工房を作ってくれ。至急な!」

「はい!」

「ほら、真桜ちゃん!はやく行くの!」

「ちょ、引っ張らんといてえな!隊長、約束は守ってくださいよー!」

 

 3人はあっという間に部屋を飛び出していった。うらやましい。誰かが口にもらした声が聞こえた。

 華琳は咳払いを一回すると、アキラに指示を聞いた。

 

「他の者はどうしましょう?このまま待っているのかしら?」

「いや、まだやつらの情報が足りない。俺はやつらに何回か攻め込むつもりだ」

「攻め込む?!あんた、バカなの!」

 

 声を荒げる詠に、アキラはゆっくりと説明した。

 

「やつらの習性をつかむためだ。牽制にもなる。無理はしないさ」

「でも……」

「確かにそれは必要なことだわ。春蘭!秋蘭!あなたたちはアキラの指揮下に入りなさい。桂花たちは全国から銀を集めて」

「「「分かりました!」」」

「華雄と霞は俺と一緒に来い。詠は音々音と一緒に、商人たちを使って銀を集めてくれ。呉に協力を要請しろ」

 

 気合いの入った声でアキラに応える。彼女たちの目にも闘志が灯った。

 アキラは机を叩くと、意気込みを語った。

 

「たとえこの世界が作り物でも、ここが俺たちの居場所だ!俺たちの世界は、俺たちが守る!」

 

 

 

 

 

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 それから数週間が経った。

 アキラたちは何度も、白い一刀と戦ってはみたが、やつらを傷つけられるのはアキラの南海覇王だけだった。アキラたちが手をこまねいている間にも、やつらは徐々に南下を始め、主要都市である太原の近くまで迫ってきていた。

 しかしながら、このような状況でも、彼らは冷静に分析をしている。

 この日も秋蘭が許昌城に赴き、華琳に報告していた。

 

「やつらは、最初に現れた場所を中心に、その数を増やしています。ただし、一気に拡大することはないようです。我々が、その最初に現れた地点に行こうとすると、踵を返して進路をふさぎました」

「そこに、なにかがある……?」

「そう思われます。ただ、それが何かは分かりません。アキラは、やつらが守るべきもの、つまりやつらの根幹となるものがあると、考えていました。銀の剣がそろい次第、まずはそこに攻め込みたいとも」

「危険だけど、やってみる価値はありそうね」

 

 執務室の椅子に深く座った華琳は、腕を組んで考える。彼女の顔は、強敵との戦いを楽しんでいるようでもあった。

 ところで、と秋蘭が話す。

 

「あの“法則”のことですが」

「……どうだった?」

「やはり、その通りかと」

「………そう」

 

 その時、部屋の扉が大きな音を立てて開いた。いつもは冷静な稟が飛び入ってくる。

 

「大変です!」

「どうしたの、血相を欠いて?あなたらしくもない」

「先ほど朝廷が町中におふれを出しました」

 

 稟が一呼吸おいて、そして驚くべきことを言った。

 

「白い天の御遣いに協力し、曹操を打倒せよと!」

「なんですって?!」

 

 

 

 

 

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