リリカルなのはZ 第十六話 その男。ザ・ヒート |
自衛隊のコクボウガーと戦車部隊。海上には戦艦が何隻も待機していた。
新たに現れた使徒。
それはとても独創的だった。
『・・・あれ、どう思う?』
「・・・すごく、大きいです」
って、何言わすんだよ。
しかし、見れば見るほど変な使徒だ。
ガンレオンですっ飛んできてみれば青い立方体が浮遊していた。
・・・あれ?凄くやばい気がしてきた。
あの使徒はガンレオンやコクボウガーでは対応できないと本能的に悟った。
悟ったからこそ、自衛隊よりも前に出る。
『お、おいっ、民間人が前に出るなっ!』
「ガンレオンの方がそちらよりも頑丈です。何かあった場合素早く対処できるのもこっちです。前の使徒みたいに触手を高速で伸ばされて攻撃されても耐え切れますが、そちらは耐え切れないでしょう?」
『・・・む。・・・・・・わかった。だが、無理はするなよ』
通信を取っていたコクボウガーから通信でこちらを危険な目に会わせないようにと心配しての言葉だろう。
そして、自分達の力不足を感じてか、少し間があっての返答に高志は苦笑するしかなかった。
(それにしても・・・。なんだか、頭に靄がかかった感じがする。あの使徒を俺は知っている。いや、知っていたはず・・・。ん、考えがまとまらないな?)
前世の記憶を持っている高志は今、自分達がいる世界観を描いたアニメを知っている。
その『原作』という記憶が思い出せない。
ガンレオンに乗り込んでからちょっとした((ハプニング|・・・・・))に遭遇したから思い出せないのか。それでも、あんな怪物を忘れようが・・・。
(・・・ふふっ♪)
ふと、スタジアムで出会った女の子の声が聞こえた気がしたので辺りを見渡してみたがガンレオンのモニターに映し出されている。
その画面と自分の視線を遮るようににゅっとすらりと細長いモデルのように整った足が伸びてきた。
「うんしょっ。と、セットアップ調整完了。と。まさか、ガンレオンに乗ってマグナモードの力を少しでも使うと元の体に戻るなんて、我ながらドウカしているよ」
「お−う。もう振り向いてもいいか?」
「別に見ても良かったのに。小さい服を無理矢理来た美女が後ろにいたっていうのに・・・。ちなみに『ガンレオンと同化』していると『どうかしているぜ!』のドウカを合わせてみました!」
「やめやめっ。これ以上『本当に人?』疑惑持たれたくないだろっ」
ガンレオンのマグナモードを一部開放して高速飛行をした瞬間、サブパイロット席に座っていたアリシアの体が光り、光が収まると二十代の体に変化。いや、この場合は元に戻ったと言うべきか。
体内に『傷だらけの獅子』のスフィアを有しているからか、ガンレオンの変化と共に彼女の体にも変化が見られている。
ガンレオン自体が魔力の塊だから、アリシアに魔力で出来るバリアジャケットとして医学生じみた白衣の衣装を着けてもらっている。
一応、音声や通信は切っているからこちらの情報が周囲に漏れることはないと思うがあまり元気よく話さないで欲しい。
白衣を着たアリシアが再びオープンチャンネルで待機している自衛隊と目の前でプカプカと浮かんでいる怪物の情報を集めている。
NERVからはアレが使徒だという事が知らされる。と、同時にシンジがエヴァに乗るまでこちらから刺激を与えず様子を見ろとのお達しが来た。
グランツ研究所からも未だに避難が完了していない所もあるのでそれが完了するまで待機を下された。
「・・・でも、あれって、見事なまでに頭テカテカだよね」
「頭というか、体全体がテカテカだよな」
陽光を弾くあの怪物。使徒は何を喰えばあんな風になるんだろうか?
「冴えてピカ、ピーカ」
「そうだな。鏡みたいにピカピカだな」
立方体だから冴えているというか尖っているというか・・・。
「そ〜れがどーした」
『『「僕、ドラえもん〜」』』
ビゴッ!
誰もが知っているだろう猫型ロボットの歌を通信していた自衛隊の数名と共に歌っていると、立方体の使徒がまるでゼリーの様に波打つように変形する。
そして、角張ったどらやきの様に変形した後、具にあたる赤い宝石から高出力のビームが放たれた。
その高熱のビームはガンレオンがいた所に着弾すると同時にまるでそこに突き立てたかのような十字の火柱を立てた。
その火柱の光の所為でガンレオンの姿が見えないがやられたのかもしれない。
『ツッコミだ!使徒からツッコミが来たぞぉおおおっ!』
『いや、そうじゃないでしょ?!攻撃だよ攻撃!あんな長距離からビームとかガンレオンやコクゴウガーの装備じゃ届かない。・・・一時撤退するぞ!』
『りょ、了解!』
ガンレオンの安否はわからないが恐らく今の攻撃で遠くに飛ばされたか。もしくはあれだけの攻撃で蒸発したかもしれない。
ガンレオンよりも軽装甲のコクボウガーはもちろん、戦車部隊も海の上に浮遊している使徒への攻撃が届かない。
このままではこちらもガンレオンの二の舞だ。
使徒の方は一度、どらやきから立方体の形へと変化したが、すぐさま変形を開始する。
光が強くなると同時にコクボウガーの影が真後ろに伸びる。それはコクボウガーに先程照射したビームを放とうとしていることだ。
『まずい!総員退避!』
ガオオオオオオォン!!
コクボウガーを含めた自衛隊は撤退命令を出すがこのままでは逃げられない。
跡形もなく消し飛ぶビジョンしか見えなかった彼等だった。だが、そのイメージは獅子の咆哮に消された。
同時に使徒が放とうとしたビームを妨害するように咆哮が上がったところから何かが投げ飛ばされ、使徒に直撃する寸前で使徒が作り出したATフィールドに弾かれる。
弾かれた物の正体は巨大なスパナだった。
「ちぃっ!弾かれた!」
「びっくりした。すっごいびっくりした!漏らすかと思った!・・・フェイトもきっとスターライトブレイカーを受ける時、こんな感じだったのかな?」
「やめろ、思い出しちまっただろう」
十字の火柱から飛び出すように現れたガンレオンは弾かれたスパナをキャッチし、人のふとももにあたる収納スペースに入れ直す。
.多少焦げ跡はあるものの未だに戦闘続行可能であることを示しつける様に腕を回しているガンレオンの頑丈さに目を剥く。
「・・・」
使徒はそんなガンレオンの様子をどう感じたのか、再び変形をしてビームを撃つ準備をしようとする。
これで三度目となる光景にそれを察知した『傷だらけの獅子』の行動は早かった。
「させるか!アリシア!」
「燃えろ!ガンレオン!」
ガオオオオオオォン!!
高志とアリシアの二人の思いに応えたのかガンレオンが再び咆哮を上げる。
その咆哮と共にガンレオンの腕と足の装甲が開き、その奥にある緑色に光。それは『傷だらけの獅子』のスフィアが持つ光と同じ色だった。
ガンレオンの変化はまだ終わらない。兜にあたる部分が開き、その中にあった凶悪な顔が見える。そして背中に収めていた鋼鉄の翼に炎の羽が生える。
その姿はまるで炎の悪魔。されど、その背中が守るものは未だに避難を終えていない住人達。そして、使徒の標的にされている自衛隊。
ガンレオンは恐れられ、拒まれるだろう存在達を守る為。
その力の正体を解き放つ。
「?!」
「真正面からぶっ叩く!」
背中の炎はまるでミサイルの様にガンレオンを空へ、使徒へと向かわせた。
そして、その勢いそのままに鋼鉄の腕を振るって使徒に殴りかかる。
使徒もその攻撃をまともに受けるはずもなくATフィールドを展開。その障壁はガンレオンのパワーで破る事は出来なかった。いや、あえて破らなかった。
「このままお前を海まで押し返す!」
ここで使徒を倒してもその時の余波で町が業火に包まれたら意味が無い。
ATフィールドいう壁と使徒のいる空間ごと押し返すその光景は後に守護の機神。『獅子神』と報道される姿だった。
「!・・・っ?!」
「隙有り!お兄ちゃん!」
「おっしゃあ!」
自分が押し出されていることに驚き、ビームを放とうとした瞬間、ATフィールドが消える一瞬の隙をついてガンレオンのパワーで殴られた使徒はATフィールド一時的に消失。本体ごと太平洋側へと押し返される。
再びATフィールドが展開された時、その時既に町ははるか遠くにあり、使徒のビームでも届くかどうかという距離まで引き離された。いや、放つことはできないだろう。
「・・・」
目の前にいる鋼鉄の獅子。ガンレオンが目の前にいる限り、使徒は町を狙っている暇はない。少しでもガンレオンから目を離せばその腕、パワーに押し殺されると悟ったのだから・・・。
『・・・凄い。あれがガンレオンの、高志さん達の力』
エヴァ初号機の中でシンジは初めてガンレオンの力を見た。
画面越し。そして、エヴァ越しだというのにその力強さが伝わってくる。それはまさに魂を揺さぶる光景だった。
それはシンジをNERVにまで連れて来たミサト。そして、リツコやフユツキも同じだった。
「あの重量で空を飛んだ!?しかもATフィールドごと押し返した!」
「・・・非科学的だわ。・・・あれが魔法の力だというの」
ありえない光景に驚く二人に対してフユツキは別の意味で驚いていた。
それは焦りからくるもの。そして、恐怖に近い畏怖だった。
(あれは魔法という物ではない。まるで知恵の実と命の実の融合・・・。下手をすれば今この瞬間にもサード・インパクトが起こり得るかもしれんぞ?!ガンレオンとは、スフィアとはいったいなんなんだ碇!)
そして、それは同じように鎮座しながらも口元を歪めながらガンレオンの姿を見ているゲンドウがいた。
彼はまるで親の仇を見るような目でガンレオンが映し出されたモニターを睨んでいた。
それは自分が座しているテーブルに置かれた固く握られた手。そこからは血がにじむのではないかと思うほどに力が込められていた。
まるで平和な町で暴れる悪役。そこに現れるヒーロー。準備されたかのよう舞台。
そこに元からいた治安部隊など元からいなかったかのように力を振るう存在にゲンドウは怒りを覚えていた。
そこにいるのはお前じゃない。私達だ。
そうゲンドウが心の中で怨嗟の言葉をこぼした。その時だった。
じゃあ、その願いを叶えてあげるよ
悪の栄えた試しなし。
ガアアアアアアアアアアアアッ!!
その言葉を示すように。この世界の((悪|ガンレオン))に世界の((正義|青いドラゴン))の牙が突き刺さる。
使徒にだけ意識を持って言った所為で海中から迫りくる巨大な影。その口の大きさからガンレオンという巨大なスーパーロボットすらも飲みこみそうな巨体。
海中から飛び出した巨大な蛇のような体躯をしたドラゴンに気が付かなかったガンレオンは海中に引きずり込まれるように、再び海に潜り出した青いドラゴンに深い海の中に連れて行かれた。
そのドラゴンは別世界では応龍皇(おうりゅうおう)。またの名を真・龍王機(しん・りゅうおうき)と呼ばれる異形の生命ともガンレオン同様に機神とも呼ばれる存在だった。
「・・・なっ。今のは?!」
「パターン・オレンジ!識別不明!機械、生命体の両方の反応が一時的に観測できましたが・・・。ガンレオンを海中に引きずり込んで共に反応ロスト!おそらく探知範囲から大きく脱した模様!」
「…なんなの。使徒だけでも理解しがたい状況なのに、魔法に高度すぎる技術力を持つガンレオン。エヴァ以外の人型機動兵器に、異形のアンドロイドまで現れるなんて・・・」
ミサトは行き場を無くした使徒が再び自分達がいる場所へ向かってくることに気づかず、突如現れたドラゴンの存在に呆気を取られ、リツコはオペレーターから知らされるデータを聞いて、次々と起こる以上減少に頭が痛くなっていた。
「エヴァを出撃させろ」
「っ。碇指令、失礼ながらそれは無謀です。初号機および零号機のATフィールドではあの使徒の高出力の攻撃を防ぎきるのは無理です!」
ガンレオンはその攻撃を受ける直前に自身の体を覆い隠せるほど巨大なライアットジャレンチを召喚。その上、交戦が着弾する寸前ジャレンチと地面の角度を45度にして、使徒の攻撃を真上に逸らし、そして、使徒の攻撃で自身の体を真下に沈下するようにした。
使徒の攻撃が着弾した時に見た光景は高志が今までの戦闘経験から出来た芸当だ。
物凄く頑丈なガンレオンと高志の技術があったからこそ出来た。それをエヴァに乗ってまだ間もないシンジに病み上がりのレイに出来るはずがないと感じ取ったミサトはゲンドウに出撃の待ったをかける。
あの荷電粒子砲もどきと強固なATフィールドをどうにかしないといけない。
ガンレオンがあのドラゴンに海に連れて行かれたのが痛手だが、使徒がまってくれるわけではない。
「・・・時空管理局とグランツ研究所に時間稼ぎの要請。次元を超えてきたという者達の技術を用いれば使徒を倒すことも可能だろう。初号機、零号機パイロットはエヴァで待機」
「・・・協力してくれるでしょうか?」
ミサトはNERVとその二つの組織の交友関係が劣悪だという事を危惧していた。
ガンレオンのパイロットである高志はゲンドウがシンジに対する接し方に怒りを買った。
時空管理局とはお互いに秘匿していることも多く、信頼関係が繋がれているとは思えない。その上、この国の自衛隊とも仲が悪い。
そんな自分達が応援を出しても答えてくれるかどうか・・・。
「応じなければ人類が滅ぶだけだ」
「っ。・・・わかりました。打診してみます」
(・・・碇指令。どうして貴方はそこまで冷静でいられるのですか!)
ガンレオンが使徒を撃退しそうになった時に焦りを見せて、ガンレオンが未知の存在に強襲された時には冷静状態に戻る。その上、脅迫じみた応援要請を出すゲンドウに不信感を感じさせたミサトだったが確かにゲンドウの言う通り、このままだと使徒の侵攻を許し、サード・インパクトが起きてしまう。
「自衛隊とグランツ研究所。および時空管理局に応援要請!」
「了解!」
不信感よりも使徒の討伐を最優先させたミサト。
確かにNERV指令としての対処は間違ってはいない。だが、人類を守るという使命をおびている人間として、ガンレオンを見捨てるというのは後々後を引きそうだ。
ミサトはそう思いながらも連絡を取ろうと三つの勢力に連絡を取るのであった。
ミサトたちからの要請が来る少し前。
グランツ研究所ではガンレオンを通して、応龍皇の巨大さとパワーを見ていた。
頑強である装甲に突き刺さる牙から逃れるように、胸部部分に穴が開いた状態のガンレオンに危機感を感じたグランツとプレシアは思わず声を荒げて彼等を呼ぶ。
「高志君!」
「タカ!応答しなさい!」
今までの使徒の攻撃を受けても損傷らしい損傷を受けてこなかったガンレオンが致命傷を負ったことに驚きを隠せていない。
一度は食いつかれたが今はその牙から逃れ、海中で応龍皇が生み出した海流に逆らうようにライアット・ジャレンチを地面に突き刺し、その巨体すらも流されていくのを堪えているガンレオンの姿がそこにあった。
プレシアは驚いていた。
大破状態で大気圏から墜落した時もその中にいたアリシアと高志を守ってきたガンレオンという強固な鎧に穴が開いた。それはダメージがフィードバックするという特性があるガンレオンに乗っている二人の安否が一番気になる部分でもあった。
しかも、ガンレオンのブースト機能であるマグナモードが解けている事がプレシア達の不安をさらに掻き立てる。
『・・・い。・・・うぶ。大丈夫だ!アリシアは気を失っているけどまだガンレオンは戦える!』
ガンレオンのコックピット内部を移していたモニターが映し出されると、そこには口から血を吐き出しながらもガンレオンを操縦している高志の姿があった。
「高志君っ、その血は?!」
『あ〜、さすがにフィードバック二人分は効いた〜。しかもアリシアにも少しダメージが回ってショックで気絶している。でも、まだ大丈夫だ!』
「何言っているの!アリシアがいなければあなたもマグナモードを使えないはずでしょ!それなのに大丈夫って何を言っているの!」
グランツやプレシアの言う通り、高志は無視できないダメージを負い、マグナモードも解けているのにどこが大丈夫なのかと、強がりを言うな!
誰もがそう言いかけた。だが、高志が発した言葉に誰もが息を詰まらせた。
『だけど、アリシアは無傷だ』
「え?」
『こいつが無事なら俺はどんなダメージも耐えられる』
「高志君・・・」
『こいつが笑っていられるなら俺も笑っていられる』
「タカ・・・」
『だから俺はまだ大丈夫だ!こんなでかい魚三枚におろしてすぐにでも使徒の迎撃に戻るさ!』
にぃっ。と、いつものように暑苦しいヒートスマイルを見せる高志。
明らかに無理をしているようにも見えるその笑顔。だが、少なからず彼と付き合ってきたプレシアを含めたグランツ研究所の研究員達はそれが強がりではなく本当に大丈夫だと思わせるような気がした。
『さすが『ザ・ヒート』ですね!』
『うん。今ならあの笑顔を受け入れてもいいかな・・・』
その笑顔を見たアミタは高志を見ならってヒートスマイル(美少女度70%)を見せ、アミタは諦めたように高志と姉を見ていた。
二人ともどうやら避難誘導を終え、海鳴の街をD・エクストラクターを使い、空を飛び、研究所へと向かっている様子が映し出されていた。
「アミタ。キリエ。分かっているとは思うが絶対に使徒と戦おうなんて考えちゃ駄目だよ。特にあの荷電粒子砲はまずい。トランザムでも回避が困難な上、直撃すれば即蒸発。たとえ躱せたとしてもその光線から五百メートル離れていなければ黒焦げだ」
『了解ですお父さん!『いのちをだいじに』ですね!』
『本当に分かっているのかしらん?『いろいろやろうぜ』なんて考えないでよね、お姉ちゃん』
常に『ガンガンいこうぜ!』なアミタが自重するほど今回の使徒はマズイ。
キリエの方も姉に似て結構無理をするからどこか放っておけない。
そんな二人は研究所へと向かいながら疑問が浮かんできた。
自分達の所に居候している四人娘がいない事に。
『あの、ところでディアーチェやユーリは何処に行ったのですか?』
『レヴィにシュテルもいないし・・・』
ガンレオンが出撃する時は目を輝かせて見守っていたレヴィが。
さりげなくガンレオンをナビゲートするシュテルが。
全D・エクストラクターの動作確認をするユーリが。
そして、その三人をバックアップするディアーチェがいなかった。
「あの四人ならD・エクストラクター七号機『紫天の書』を持って自衛隊の所へ向かっているわ」
『ちょっ、それって・・・』
『対使徒用に改良したD・エクストラクターですよね?!』
アミタとキリエが持つ五号機・六号機はエンターテイメント。ランボルトと比較すれば、玩具として作り上げた物。
七号機の『紫天の書』も同様だったが、NERVが第三の使徒と呼ぶ怪物が現れた時、ガンレオンがいない時の非常用として作り上げられた物で、その効果は非魔導師でも魔導師の様に魔法。正確には魔法に近い現象を引き起こすことが出来る兵器だ。
『プレシア!』
それを聞いて一番に反応したのは高志だ。
彼からしてみればディアーチェ達は14歳の子どもだ。そんな彼女達を使徒の前に持ちだすのはどう言う事だと怒っていた。
そんな時に応龍王の体当たりで再び体制を崩されたガンレオンの中で高志は振り回されながらも怒りの声を上げる。
「本当なら私が使うべきなんでしょうけど出力が足りないの。しかもどう頑張っても三人分の想いが必要なの。しかも息の合った三人がね」
兵器ゆえの出力が必要。
しかも使徒。ATフィールドを打ち破るには一人分ではどうしても足りない。
『だからって。ぐぅおわぁあああああ!!』
海底を引きずられるように体当たりを仕掛けてくるドラゴンの攻撃に何とか耐えている。
だが、陸上に比べ動きは鈍い。その上、応龍皇は魚の様に縦横無尽に動き、その時に生まれた海流で更に身動きが取れない。
マグナモード無しで改定を自由に動くこと不可能だった。
「・・・私だって嫌なのよ。子どもを危険な目に遭わせて自分は指示を出すだけなんてこと。だけど、今の私では足手まといになるだけ。だから、タカ。さっさとそいつを倒して研究所に戻りなさい!」
あまりにも不躾な要求。
だが、高志はそんなプレシアの要求に今まで答えてきた。
『なら、やってやるさ!』
今まで応龍皇の攻撃とその時に生み出された海流で身動き取れなかったガンレオンだが、ライアット・ジャレンチに鋼鉄のロープでヌンチャク代わりにしていたスパナを撒きつけると同時に自身にも巻きつける。
そして、ジャレンチを海底に深く突きつける。
そうする事でガンレオンは海流で流されることは無くなった。だが、それは同時にそこに固定されて逃げることが出来ない事を意味していた。
応龍皇もまたそれを感じ取ったのか一度はガンレオンを貫いた牙を生やした口を大きく開けて襲い掛かる。
ガンレオンにそれを防ぐ手立てはない。唯一自分の牙を防ぐことが出来そうなライアット・ジェレンチは海底に突き刺さっている。アレを抜こうとすれば体勢を崩してガンレオン自身の命を縮めるだけだ。そう確信したからこそその勢いのままガンレオンに噛みつこうとする応龍皇。
グアアアアアアアアアアアッ!!!!!
そして、その牙とガンレオンの影が重なり合った瞬間にぐしゃりという音を鳴り響いた。その後に聞こえた大絶叫にグランツは思わず目を閉じた。だが、その隣のプレシアは握り拳を握って笑顔を見せていた。
「よしっ。あなたも少しは成長しているようね。タカ!」
その笑顔の真意を確かめるようにグランツが顔を上げるとそこには左手に持った((二つ|・・・))目ライアット・ジャレンチで応龍皇の牙を防ぎ、右手に持った((三つ目|・・・))のライアット・ジャレンチの矛先で襲い掛かって来た応龍皇の目を潰しているガンレオンの姿があった。
ガンレオンは機械のように見えて実は違う。
魔力とスフィアで作り出した物。そこから生み出されるジャレンチもそうだ。
普段なら両腕にライアット・ジャレンチを持つなど邪魔にしかならないそれをやり遂げた高志は三本のジャレンチを召還。足場。そして矛と盾を作り上げカウンターを入れた。
そのような事が出来るようになったのも今まで何度も死にかけた戦闘経験。そして『傷だらけの獅子』のリアクターとして成長した高志は成し遂げた。
だが、このような奇襲も一度使えば二度目は出来ない。
だからこそ、今の自分使える最大攻撃力を叩き付ける。
『ノットバスタァアアアッ!』
ズドンッ!
右手に持ったジャレンチのから一本の杭が応龍皇の眉間目掛けて撃ちだされる。
その鉄杭は分厚い鱗を突き破り深々と突き刺さると、応龍皇は悲鳴を上げながら海底から海上へと身を投げ出した。と、同時に三本のライアット・ジャレンチが空中に溶けていくように消え、ガンレオンはその勢いで比較的に浅い岸辺に投げ飛ばされた。
「やったか!?」
『グランツさん、それフラグになるからやめて』
ガンレオンの腰ほどの岸に投げ飛ばされた高志はグランツの言葉にツッコミを入れる。
応龍皇が沈んだところを睨みながら警戒を怠らない高志。その視線に応える様に海が光り出す。そして・・・。
ギャアオオオオオオオオンッッッ!!!
まるで逆鱗に触れられた龍の様に全身に雷を纏いながら姿を現した応龍皇。
赤一色に染まった瞳がガンレオンを睨みつけ、その口を大きく開けるとそこには今進行中の使徒よりも膨大な光を溜めこんでいた。
高志は再びジャレンチを二本召還して重ねる様に持ち、その光から身を守るように盾にした。だが、高志には分かっていた。
このままではやられると。
だが、龍の口からその光が吐き出されることはなかった。
ただグルルッと唸りを上げながらガンレオンを睨みつけた応龍皇は海に潜り、そのまま姿を消していった。
『見逃してくれた、のか?』
正直に言うとアリシアが気絶している以上、これ以上の戦闘は無理だった。
先程盾代わりに召還したジャレンチで魔力を使い切った高志にはガンレオンをグランツ研究所へ操縦していく力しか残されていなかった。
それでも未だに痛みが残る体を引きずるようにガンレオンを動かす。
『・・・今、行くからなシュテル。ディアーチェ。レヴィ。ユーリ。お前達はまだ子どもなんだから』
例え這いつくばってでも足掻く。みっともなく涙と鼻水を流しても前に出て、子どもを守る。
その姿を見た全員が高志に。ガンレオンに男を感じるのであった。
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