真・恋姫SS 【I'M...】10話
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―――ドン!

 

「琳音さん!」

 

あわてて、琳音の部屋へ飛び込む。

 

「一刀さん…どうかしましたか?」

 

「陶謙の軍がきたそうです…」

 

「……そうですか…。では、いきましょうか」

 

琳音はそういうと、すっと立ち上がる。

そのまま歩き出そうとするが

 

「え、行くって、どこへ…」

 

「……………華琳を、お願いしますね」

 

「琳音さん!」

 

「一刀さん、私はあなたがうらやましかった。」

 

「え…?」

 

「あなたのいたところは、戦も起きず、とても平和なのでしょう?…私達がそんな世界に生まれていれば、どれだけ幸せだったか…」

 

「それは……でも――」

 

言い返そうとしたところで「分かっています。」と口を挟まれた。

 

「だから、言ったでしょう?…あなたの夢が私達を表しているのなら…華琳をお願いしますと。これから先がおそらくあなたの見た夢の結末。ですから、私は行かなければなりません。」

 

「どうして…」

 

琳音の言動が理解できなかった。

俺は夢のことをこの人に話した。

そして、それはこの人たち自身のことを現している。

それは、この人も分かっているはずだ。

今、夢が現実になろうとしている状況で、この人はそれに抗うどころかむしろ実現させようとしている。

それが、自分の死を意味しているというのに。

それが、華琳を悲しませると分かっているのに。

 

「どれほどつらくても、傷は癒えます。必ず。」

 

なんて、綺麗な顔で笑うんだろうと思った。

こちらを振り向いて、そういう琳音の顔はとても幸せそうで。

 

「一刀さん」

 

「はい…」

 

「あの子を…“救ってあげて”ください」

 

「っ!」

 

それだけ言い残し、琳音が部屋を出てしまった。

俺は、追えなかった。

あの人の最後に見せた顔が頭から離れなくて、その場から動けなかった。

 

 

……自分が悔しい。

力で無理なのだから、俺に出来ることなんて、逃げろということくらいだ。

なのに、言葉ですら守れない…

 

俺は…

 

俺は………

 

 

ガチャ…

 

ゆっくりと扉が開いた。

目をあげ、そこにいた者を確かめる。

そこにいたのは、先ほど出て行った女性と同じ、金色の髪をもつ女の子だった。

 

「ひぐっ…っ………一刀ぉ…」

 

 

 

 

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「華琳…」

 

そこにいたのは、先ほど出て行った女性の娘。

 

雨で濡れ、その髪もリボンがほどけ、肌に吸い付いていた。

 

「ひっ……っ…ひっ……」

 

泣くことに必死で抗おうとしているが、それも効果はなく、ただしゃくり上げるだけだった。

 

もう、雨か涙かわからないほど顔をぬらした女の子の頭に手を置き、なでてあげた。

 

「華琳、春蘭たちのこと頼めるか?」

 

なかなか喋ることができず、目線だけで俺に疑問をぶつけてくる。

 

「琳音さんは、俺がつれて戻るから。皆と逃げられるか?」

 

その表情を驚きのものに変え、必死で顔を横に振る。

 

「………華琳。お願い」

 

「…嫌」

 

「華琳…」

 

「嫌よ!!…私だって……――っ!」

 

叫び散らす華琳をだきよせ、黙らせる。

 

「お願い…」

 

「何よ………なんで……」

 

華琳なりに、今の状況を理解していたのかもしれない。

 

だからこそ、この子は必死になっている。

 

おそらくは俺と同じように止めようとして、止められなかったのだろう。

 

しばらく、華琳は何も話さなかった。

 

話せなかった。涙も止まらず、体がひくつき、全身で泣いてしまっていた。

 

 

 

華琳が手に俺の服をつかみ破ろうとするほどの力を込める。

 

ただ、それは自分達の悔しさを握りつぶすように。

 

「…っ……ぜったい……だから…」

 

搾り出すように、声に出す

 

その目を見て、俺は言う。

 

「ああ、必ずつれて帰るから。」

 

「もし戻ってこなかったら、頸撥ねてやるんだから!」

 

「…もちろんだよ」

 

 

 

 

 

 

華琳は、行った。

 

俺との約束を果たすために。

 

俺も行かないとな。…頸を撥ねられるわけにもいかない。

 

あの人を助けないと。

 

扉を開けて、雨の中をまた走る。

 

今度はあの軍隊の中へだ。

 

腰が引けそうなるのを抑え、必死で琳音を止めに走る。

 

バシャバシャと土がはねて走りづらい。

 

だけど、止まってられない。もう陶謙の軍はそこまで来ていたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………本当に…あなたたちもしょうがないですね…」

 

琳音は苦笑いを浮かべ、目の前の男達に話しかける。

 

「曹嵩様のいくところが我々の向かうところです!」

 

「こんなところで逃げるんじゃ、最初からこの旅にだってついてきませんよ。曹嵩様」

 

数人の兵がそれに答え、皆がそれにうなづく。

 

この先にあるのが死のみだと知っても彼らは誰一人沈むことなく、曹嵩への忠誠を示していた。

 

「本当に………、皆、馬鹿なんだから……」

 

笑いながらも、その目には雨とは別の水滴が浮かべられた。

 

 

誰かの来たぞ!!という叫び声に皆が反応する。

 

その視線の先には、陶の旗が立てられた軍がいた。数にすればおそらく数千の軍。

 

こちらはそれに対し数百もない。

 

 

 

だが、その数少ないものを導いていた女性はひるむことなくその軍の前へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「陶謙様、お久しぶりですね」

 

「そうだな。だが、曹嵩よ。この再会が喜ばしいものだと勘違いするほどそなたは無能ではなかろう」

 

「ふふ…そうですね。ですが、あなたは相変わらずの臆病振りですね」

 

「……なに?」

 

「この程度の兵をその数十倍もの兵で取り囲み、制圧する……大したものです」

 

「何とでも言えばよい。これもわが民のためだ。」

 

「民のため…ですって?」

 

「そうだ、貴様のような者がわが領地にはいったのだ。反乱の芽は摘んでおかねばならん」

 

「………笑わせるな、臆病者。」

 

突然、琳音の口調が変わる。

 

優しく諭すものから、相手を威圧し、自らを誇示しようとするものへと。

 

「貴様…」

 

「……よくもそんなことが言えたものね。器がしれるわよ、陶謙。それでは、私でなくとも、乱世が訪れれば他の誰かに領土でも掠め取られるでしょうね」

 

「ほざくな!帝を誑かし、賄賂で成り上がった女が偉そうなことを!」

 

「……ふふふ」

 

「何が可笑しい」

 

「やはり小さい人ですね。………所詮、袁成さまの軍がなければ動くことも出来ない臆病者。そんなものにくれてやる首など、この曹巨高、持ち合わせてはいないわ!」

 

「黙っ…―――ぐ…」

 

琳音が鎌を持ち上げ、その切っ先を陶謙へと向ける。

 

「華琳……あなたは、こんなことしないでね…」

 

誰にも聞こえない声で、つぶやくとすぅっと息を吸い、そして―――

 

 

 

 

 

「聞け!わが兵達よ!この臆病者は、自らの保身のために多くの命を散らそうとするばかりか、その言い訳を民のためなどとほざく愚か者。それに集う兵とてまた同じ!そんな奴らに奪われてよい命などあるだろうか。いや、あるはずがない!」

 

その雨の中でも、全ての音を掻き消すように叫ぶ。

 

「しかし、奴らの数は多い。これはもはや戦とも呼べぬだろう。だが、あの臆病ものどもに教えてやれ!我らの生き様、我らの願い、我らの誇りを!死神と呼ばれたわが刃にて一人でも多くやつらの頸を撥ね、その魂に刻み込んでやるのだ!!」

 

その場にいる誰よりも強く、ただまっすぐに、叫ぶ。

 

「曹巨高、生涯において、ただ一度…最初にして、最期の号令を発す!冥府への土産に奴らの屍を築いてやるのだ!」

 

その命を燃やすように。

 

「…全軍…突撃せよ!!!!」

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

説明
この話もそろそろ佳境へ入ろうとしています。
急ぎ過ぎないように気をつけないと…。

色々やることあって、あまり進められませんでしたが10話です。



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コメント
かずと〜〜〜〜!!!(混沌)
急げーーーーーーーーーーーー!!一刀ーーーーーーーーー!!!!(atuantui)
一刀ーーっ早くーー!!(乱)
どうやってこの乱戦の中から助け出すのか見ものですw(フィル)
たのむ、まにやってくれーーーーーーーーーーーーーー(ブックマン)
一刀よ・・・・・急いでくれ! 次回・・・・どうなる!?(Poussiere)
一刀は間に合うのかな?次回が待ち遠しいです。(もっさん)
一刀、全速力で吶喊ー 次作期待(クォーツ)
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