本編 |
悪魔騎兵伝(仮)
第9話 神性
C1 重い朝食
C2 記憶
C3 お出かけ
C4 カフェ
C5 撮影
C6 ファッションショー
C7 自警団
C8 夜警
C9 汎神論
C10 神…
次回予告
C1 重い朝食
朝。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。城主寝室。ベットで毛布を被り、眠るファウス。椅子に座り、テーブルに置かれたステーキを食べる城主のオータキ。黒雲から降り注ぐ雨が窓に叩きつけられ、滴となり下に落ちる。眼を開き、上体を起こして窓を暫し見つめるファウス。彼は目を見開く。
ファウス『えっ…。』
ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『目が覚めたか。』
オータキの方を向くファウス。
ファウス『…御主人様。』
ファウスは開けた口に手を当てる。
ファウス『あ、その…僕、あのまま眠ってしまったみたいで…。』
周りを見回すファウス。
ファウス『それにここ…御主人様のベットで。』
ファウスはオータキを見つめ、頭を下げる。
ファウス『申し訳ありません。僕…。』
オータキはファウスを見つめる。
オータキ『気にするな。あんまり気持ちよさそうに寝ていたのでな。書斎のソファでは寝心地が悪かろう。』
オータキを見つめるファウス。オータキはナイフで切ったステーキの切り身をフォークで刺し、口に運ぶ。
ファウス『オータキ様。』
オータキ『添い寝してやってもよかったのだがな。』
オータキに向けて頭を下げるファウス。
ファウス『ありがとうございます。』
止まるオータキのフォークを持つ手。彼は、フォークを降ろし、ファウスを見つめる。
ファウス『…こんな僕の為に。こんな…。』
ファウスは俯き、毛布を握りしめる。
オータキ『ファウス。』
顔を上げるファウス。
ファウス『は、はい。』
頷き、手招きするオータキ。
オータキ『こっちへ来い。』
ファウスはオータキを見つめ、頷いた後、オータキの傍らに寄る。
オータキ『朝飯を食べんと元気はでんぞ。』
指を鳴らすオータキ。寝室の扉が開き、サラダ、パン、ステーキの載ったワゴンを持って現れるメイド服を着た女アンドロイドA。メイド服を着た女アンドロイドAは一礼し、机にステーキを載せる。机に載る料理を見つめるファウス。
ファウス『これは…。』
ファウスはオータキの方を見つめる。
オータキ『さあ、食え。食え。』
ファウス『こんな豪華な食事を…。よ、よろしいんですか?』
頷くオータキ。
オータキ『お前はこの城の一員だ。何を遠慮することがある。』
ファウスはオータキを見つめた後、崩れ落ち、下を向いて泣き出す。
ファウス『…こんな僕の為に。こんな…。』
オータキに深く頭を下げるファウス。
ファウス『ありがとうございます。』
C1 重い朝食 END
C2 記憶
午前。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。厨房。
鍋でソースを作るアンドロイドのポンコU。扉を開け、ワゴンを引くファウス。
ファウス『失礼します。』
ファウスの方を向くポンコU。
ポンコU『ファウスさん。』
ポンコUを見つめるファウス。
ファウス『ポンコUさん。』
ファウスはポンコUの方へ歩み寄る。
ファウス『ここにいたんですね。』
ファウスはポンコUの傍らに立つ。
ポンコU『はい。主様の決めたローテーション通りです。』
ファウスはソースの入った鍋を見つめる。
ファウス『…すごいです。ここのメイドさんは何でもできるんですね。』
ファウスはポンコUの方を向く。
ファウス『お料理とってもおいしかったです。』
ポンコUはファウスの方を向く。鍋のソースを見つめるファウス。
ファウス『とても懐かしい味で…。昔、お父様と一緒に食べた…。』
ファウスの方を向くポンコU。彼女の方を向き、俯くファウス。
ファウス『…お父様といっても、本当のお父様ではないんです。でも、いっぱい沢山のことを教えて頂いて…。自分がもし、戦争で戦死することがあっても、仕方のないことで相手を恨んではいけないといつも言い聞かせられていました。立派な方で…。それなのに僕は、知らなかったとはいえあの方を、皆をずっと今までだましてきていたんです。』
ファウスを見つめるポンコU。ファウスはポンコUの方を向く。
ファウス『ポンコUさん。僕、手伝います。』
眼を見開くポンコU。
ファウス『これでも、少しは料理ができるんですよ。お母様がとても料理が上手で、たくさん色々なことを教えてもらったんです。』
眼を見開き、俯くファウス。
ファウス『あの女の子達も…アギーラさんも。あの傭兵団の人達も…皆、いい人達ばかりだったのに。』
彼の頬を流れる涙。暫しファウスを見つめるポンコU。
ファウス『僕のせいで…僕の…。』
肩を震わせるファウスを抱きしめるポンコU。ファウスは顔を上げ、ポンコUを見つめる。ポンコUは立ち上がり、レードルで鍋の中のソースをかき混ぜる。
ファウス。『ポンコUさん…。』
ファウスの方を向くポンコU。
ポンコU『…ファウスさん。何かご用でしょうか?』
ポンコUを見つめて、頭を下げるファウス。
ファウス『ありがとう…。』
C2 記憶 END
C3 お出かけ
早朝。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。月明かりで仄かに青く染まるメイド寝室。ベッドに眠るファウス以外いない。彼は起き上がって周りを見回し、下を向いて掌を見つめる。時計の針の音。俯き、シーツを握りしめるファウス。
朝。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。メイド寝室。執事の服に着替えるファウス。扉を開け、現れるオータキ。ファウスはオータキの方を向いて、顔を真っ赤にして手で体を隠そうとするファウス。
ファウス『あ、オ、オータキ様。』
オータキは扉を閉じる。咳払い。
オータキ『ファウス。今日は出かけるぞ。』
扉の方を見つめる。
ファウス『出かける…。』
オータキ『お前も一緒にだ。』
扉の隙間から手を出し、キャスケットを置くオータキ。ファウスはキャスケットを見つめる。
オータキ『早く着替えて、それを被って来い。』
扉の方を向くファウス。
ファウス『は、はい。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。正門に立つデジタル一眼レフカメラを首からかけるオータキ、傍らにはファウス。オータキは空を見上げる。
オータキ『いい天気だな。』
ファウスはオータキの方を向き、頷く。
ファウス『はい。』
正門のロータリーに止まる萌キャラに変化する絵が車体に映された高級車の扉が開き、乗り込むオータキとファウス。動き出す高級車。運転席にはメイド服を着た女アンドロイドA。ファウスはカメラを構えるオータキの方を向く。
ファウス『あの…これからどちらに。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『ついてからのお楽しみだ。』
瞬きするファウス。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。グリン区緑化公園山道を進むオータキの車。車を運転するメイド服を着た女アンドロイドA。サイドガラスから木々が生い茂る外を眺めるファウス。傍らの席に座るオータキ。
ファウス『緑が綺麗…。』
ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『そうだな。ここはグリン区緑化公園だからな。他のどの区よりも緑と自然が多い。』
オータキの方を向き、頷くファウス。
ファウス『そうなんですか…。』
木々が開け、差し込む光。フロントガラスの向こうに見えるグリン区緑化公園駅。
C3 お出かけ END
C4 カフェ
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。グリン区緑化公園駅のロータリーに止まるオータキの車の扉が開き、降りるオータキとファウス。ファウスは周りを見回した後、オータキを見上げる。
ファウス『…誰も居ませんね。』
オータキ『それはそうだ。』
オータキはファウスの方を向き、笑みを浮かべる。首を傾げるファウス。汽笛の音。機械音と共に索条を移動する古い形状の記念ロープウェイ。オータキはデジタル一眼レフカメラを構え、記念ロープウェイを撮影する。オータキの方を向くファウス。
ファウス『御主人様。これは…。』
オータキはデジタル一眼レフカメラを持ちながらファウスの方を向く。
オータキ『はは、貸し切りだぞ。』
ファウス『貸し切り??』
オータキはファウスの肩を叩く。
オータキ『さ、ついて来い。』
ファウスはオータキを何回も見上げる。ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『どうしたファウス。早く来い。』
ファウス『は、はい。』
オータキに続き、記念ロープウェイに乗り込むファウス。椅子が置かれたカウンターの向かい側に立つマスター。机の上にはメニューが置かれている。ファウスは暫く周りを見回す。扉が閉まり、動き出す記念ロープウェイ。
ファウス『あの…オータキ様。これは??』
ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『この季節に運行される記念ロープウェイカフェだ。』
ファウス『記念ロープウェイカフェ…。』
オータキを見つめるファウス。
ファウス『記念っていったいなんの記念何ですか?』
オータキたちの方を向くマスター。
マスター『もともとこの路線もこのサウザンド号も経営難で廃止されたものなんですよ。』
ファウス『廃線…。こんなに綺麗なところなのに…。』
ため息をつくマスター。
マスター『綺麗で美しいところですが、それ以外に何もありません。』
マスターを見つめるファウス。
マスター『道がつながると、人々は豊かさと利便さを求めて次々と故郷を去って行ったのですよ。』
ファウス『そんな…。』
席に座るオータキ。頷くマスター。オータキはファウスに手招きする。オータキの傍らによるファウス。
オータキ『座れ。』
ファウスは頷きオータキの隣の席に座る。マスターの方を向くオータキ。
オータキ『それでも一番最後の日は盛り上がったよな。』
マスター『廃止を止めて欲しいなら、もっと前から利用していただければよかったのですがね。』
笑うオータキ。
オータキ『皮肉だな。』
マスター『だから、この線をロープウェイカフェにして、廃止されたこの季節に復活して記念として運行しているんですよ。』
ファウスはオータキとマスターを見た後、頷く。
マスター『では、何にいたします?』
手元のメニューを開くオータキ。ファウスはオータキの方を向く。ファウスを見、メニューを見せるオータキ。
オータキ『お前はどれがいい?』
メニューを見つめるファウス。
ファウス『僕は…。』
オータキ『俺はサウザンドコーヒーを頼むがな。』
オータキを見上げるファウス。
ファウス『サウザンドコーヒー…。』
オータキ『お前もそれにするか?』
頷くファウス。
ファウス『は、はい。』
ファウスとオータキの方を向き、頷くマスター。
マスター『サウザンドコーヒー二つですね。かしこまりました。暫くお待ちください。』
C4 カフェ END
C5 撮影
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。索条を移動する記念ロープウェイサウザンド号カフェ。カウンター席に座るファウスとオータキ。彼らの前のテーブルに置かれるサウザンドコーヒー。
窓から見える、山々、生い茂る木々。サウザンドコーヒーを啜りながら、窓の外の風景を見つめるオータキ。ファウスは両手でコーヒーカップを持ち、サウザンドコーヒーを飲む。オータキはコーヒーカップを置き、デジタル一眼レフを持つオータキ。
オータキ『そろそろだな。』
ファウスはオータキの方を向く。停車する記念ロープウェイサウザンド号。ファウスは周りを見回した後、マスターの方を向く。笑うマスター。
マスター『心配ありませんよ。これは我々のお客様方への配慮ですから。』
瞬きするファウス。
ファウス『配慮…。』
ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『このサウザンド号は絶景ポイントで停車するのでな。』
頷くマスター。
マスター『その通りです。お客様に撮影の絶景ポイントを提供するサービスございます。』
笑うオータキ。
オータキ『まあ、最も人が多ければ撮影など全くできんがな。』
苦笑いを浮かべるマスター。
マスター『まあ、そこはおっしゃる通りでございますが。』
オータキはデジタル一眼レフカメラのズームリングを回し、サウザンド号の前方の窓を見つめるオータキ。
オータキ『だから貸し切りにしたのだがな。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『さ、ついて来い。』
頷くファウス。
ファウス『は、はい。』
前方の窓の席に移動するオータキとファウス。木々の開けた場所に色とりどりの花が咲き、小川が流れる。ファウスは手すりにつかまり、前方を見つめて微笑む。
ファウス『お花が綺麗…。』
オータキは上体を傾け、デジタル一眼レフカメラのシャッターを何回も切る。上体を戻し、デジタル一眼レフカメラを手に持つとファウスの方を向くオータキ。
オータキ『どうだ?お前も撮ってみるか?』
ファウスはオータキの方を向き、瞬きする。
ファウス『えっ、でも…。』
オータキ『心配することは無い。座れ。』
ファウスはオータキの顔を見つめ、頷く。
ファウス『は、はい。』
椅子に座るファウス。オータキはファウスの後ろに立ち、カメラをファウスに持たせる。
オータキ『このボタンを押せば写真がとれる。どうだやってみろ。』
ファウスは頷いて、液晶を見ながらボタンを押す。液晶に映るぶれた画像。オータキの方を向くファウス。
ファウス『あ、す、すみません。』
笑うオータキ。
オータキ『まあ、初心者だからしょうがないな。』
オータキ達の方を向くマスター。
マスター『お客様。そろそろ次のポイントへ向かいます。』
マスターの方を向くオータキとファウス。
オータキ『おお、そうか。』
彼らは元いた席に戻って行く。
C5 撮影 END
C6 ファッションショー
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン。夕日がソーシン駅のプラットホームを橙に染める。グリン線のホームに止まるサウザンド号、扉が開き、降りるオータキとファウス。ファウスは振り返り、サウザンド号に向けて一礼する。伸びをした後、ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『さて、次はロテスク劇場に行くか。』
オータキを見つめるファウス。
ファウス『ロテスク…。ロテスク劇場ってあの大きな切株の建物ですよね。』
頷き、プラットホームからネオンのイルミネーションに彩られた巨大な切り株を流用したロテスク劇場の方を向くオータキ。
オータキ『今、ファッションショーが行われている最中だからな。』
ロテスク劇場を見つめるファウス。
ファウス『そうなんですか。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『では行くとするか。』
オータキはファウスの手を握る。オータキを見上げ、ファウスは彼の手を握りしめる。
ファウス『はい。』
夜。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン。ロロテスク劇場。屋上。ファッションショー会場に入るオータキとファウス。ステージの周りに集まる大勢の人々。ステージの上には煌びやかな衣装をまとったファッションモデル達が次々と出て来る。彼女たちを見つめるファウス。
ファウス『綺麗…。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『今回は有名魔縫士でデザイナーのタザヘ・アルデザタのファッションショーで暗黒大陸連邦の有名ファッションモデルのダリア・アッカーが来ているからな。』
頷いてステージを見るファウス。ファッションモデル達がステージから去り、暗くなる。紫の煙が出て、ステージに現れる黒い影。見つめる人々。煙が徐々に消え、姿を現す魔縫士でデザイナーのタザヘ・アルデザタ。彼は深々と頭を下げる。
タザヘ・アルデザタ『紳士淑女の皆さま。』
頭を上げるタザヘ・アルデザタ。
タザヘ・アルデザタ『私のファッションショーに来ていただき、真にありがとうございます。』
効果音。煙と共にタザヘ・アルデザタの横に現れるグラマラスな羊獣人のファッションモデル。眼を見合わす彼ら、羊獣人のファッションモデルはステージの上を歩く。タザヘ・アルデザタは紡錘車を取り出し、呪文を捉えると羊獣人のファッションモデルの毛に絡める。
歩きながら、裸になって行く羊獣人のファッションモデル。ファウスは顔を真っ赤にして舞台から目を背ける。オータキはファウスの方を向いて微笑む。
彼女は舞台を一周し、タザヘ・アルデザタの横に立つ。胸と腰に毛を残す羊獣人のファッションモデル。紡錘車にまとまる羊獣人のファッションモデルの毛。タザヘ・アルデザタは羊獣人のファッションモデルを向いて満面の笑みを浮かべる。
タザヘ・アルデザタ『綺麗になったよ。お嬢さん。見てごらん。』
羊獣人のファッションモデルは自分の体を見て、タザヘ・アルデザタの方を向いた後、タザヘ・アルデザタに平手打ちをして去って行く。頬を抑えるタザヘ・アルデザタ。笑いが起こる。タザヘ・アルデザタは両手を上げる。
タザヘ・アルデザタ『さてお次は皆さまお待ちかねのファッションモデル。暗黒大陸の麗しき龍鱗、ダリア・アッカーです。』
闇の中からにうっすらと輪郭を出す暗黒大陸連邦の有名ファッションモデルで女蛇人のダリア・アッカー。
呪文を唱えるタザヘ・アルデザタ。紡錘車に巻き取られた羊獣人のファッションモデルの毛が、様々な色に変化して、ダリア・アッカーに巻き付いていく。
暗闇から出るダリア・アッカー。歓声が上がる。彼女が一歩動くたびに、形成されていく煌びやかなドレス。息をのむオータキ。ファウスは目を見開いてステージ上のダリア・アッカーを見つめる。
ファウス『すごい…。』
舞台を一周周り、美しいドレスを身にまとったダリア・アッカーがタザヘ・アルデザタの傍らに立つ。拍手が巻き起こり、大歓声が上がる。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。公道を走るオータキの車。運転席にはメイド服を着た女アンドロイドD、後部座席に座るオータキとファウス。オータキはファウスの方を向く。
オータキ『ファウス。今日はどうだった。』
瞬きしてオータキの方を向き、笑顔になるファウス。
ファウス『とっても楽しかったです。色んな所に行けて、色んなものが見れて…とてもとっても…。』
ファウスは目を見開き、俯く。眉を顰めてファウスを見つめるオータキ。
オータキ『どうした?』
涙を流すファウス。
ファウス『僕…こんなに幸せでいいのかな。だって、僕…。』
ファウスを見つめるオータキ。
ファウス『…朝、起きると聞こえるんです。憎いって…。』
眼を見開くオータキ。彼は前方を向き、ファウスの頭に手を当てる。
オータキ『…過去に何があってもな。人は幸せになる権利がある…。』
ファウスはオータキを見上げる。
ファウス『オータキ様…。』
オータキはファウスの頭を撫でる。
C6 ファッションショー END
C7 自警団
朝。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファンション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。メイド室。
上体を勢いよく起こすファウス。かれは俯き、シーツを握りしめる。
朝。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。厨房。コーヒーを入れるポンコU。扉を開け、食器の乗ったワゴンをひくファウス。ポンコUはファウスの方を向く。
ポンコU『おはようございます。ファウスさん。』
ファウス『おはようございます。ポンコUさん。』
ワゴンから食器を取り、流しに運ぶファウス。ポンコUはファウスの傍らに寄る。
ポンコU『そのままにしておいてください。後は私が行います。』
ファウスはポンコUの方を向く。
ファウス『食器くらい自分で洗います。』
ファウスは食器を洗う。
ファウス『それに、メイドさんたちも夜いなくて、忙しそうで…。』
ファウスを見つめ、眉を顰めるポンコU。ファウスはポンコUを見つめて微笑む。
ファウス『…何かしなくっちゃ。何もしてないなんて申し訳ないんです。』
眼を閉じるポンコU。
ポンコU『ファウスさん。大丈夫ですよ。』
ファウスの手に持つ食器を取り上げるポンコU。ポンコUを見上げるファウス。
ファウスの方を向き、微笑むポンコU。
ポンコU『私たちはアンドロイドですよ。』
ファウスはポンコUの顔を見つめる。
ファウス『そうですか…。』
下を向くファウス。
ポンコU『心配ありません。私たちは機械なのですから。雑務はすべて任せてください。』
ポンコUを見上げるファウス。
ポンコU『ファウスさんはとりあえず部屋に居てください。』
ファウスは頷く。
ファウス『はい。』
手を洗い、厨房の扉の方へ歩いていくファウス。彼の眼に映るいくつかのコーヒーカップが乗るトレイ。
ファウスはポンコUの方を向く。
ファウス『あの…どなたかいらっしゃっているんですか?』
ポンコU『はい。自警団の方々が。今、コーヒーを持っていくところです。』
ファウスはいくつかのコーヒーカップが乗るトレイを持ってポンコUの方を向き、微笑む。
ファウス『僕が持っていきます。』
駆けていくファウス。ポンコUはファウスに向けて手を伸ばす。
ポンコU『あ、ファ、ファウスさん!!』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。いくつかのコーヒーカップが乗るトレイを持ち、駆け、書斎の扉の前で止まるファウス。
彼は手の甲をあげる。
ギルノアの声『昨日でも3人も失踪してるんですよ。決まって、爬虫類系人間の…。』
オータキの声『それは…失踪事件が頻発しているのは分かっている。他都市の失業者や難民が流入して、中には犯罪者が混じってるかも…。』
机を叩く音。
ギルノアの声『理屈を言えっていってるんじゃねえ!現に何人も失踪してんだ!』
オータキの声『市では夜間の外出を控えるように働きかけている。今、警察や軍が調べている。時期に犯人は…。』
机を叩く音。
自警団員Aの声『時期にじゃ遅い!現に今も失踪者が出ているかもしれねえんだ!俺達の街は俺達で守るしかねえ!』
オータキの声『…それで、私に何をしろと。金を出せばいいのか?』
ギルノアの声『…まあ、それもいるが、俺達は人手が欲しい。』
オータキの声『…人手?』
ギルノアの声『凶悪犯罪者には凶悪犯罪者をだ。あんた…あの偽王子を雇ってるんだろ。そいつを使えば犯罪者は震えあがって手出しができなくなる。なんせ、ロズマールの…。』
眼を見開き、手を震わせてトレイを落とすファウス。彼の顔は青ざめ、震えだす。ファウスの傍らに駆け寄るポンコU。彼女はファウスの肩に手を掛ける。
ポンコU『ファウスさん?大丈夫ですか…。』
ファウスは震えながらポンコUを見つめる。
ファウス『だ、大丈夫…大丈夫です。』
ファウスは体を震わせながらしゃがみ、散乱したコーヒーカップに手を伸ばす。ポンコUはしゃがんで、ファウスと一緒にコーヒーカップとトレイを片付ける。
ファウス『…床を…床を磨かないと…。』
ポンコUはファウスを見つめ、彼を立ち上がらせる。ポンコUの方を見上げるファウス。
ポンコU『後は私達でやっておきます。』
ポンコUはファウスの手を引き、書斎の前の扉から去って行く。
ギルノアの声『まあ、あんたが偽王子を雇っているってことはすぐに知れ渡るぜ。』
俯くファウス。
夕刻。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。書斎。扉をノックするファウス。
ファウス『失礼します。』
オータキの声『入れ。』
扉を開け、書斎に入り、一礼するファウス。オータキは立ち上がりファウスを見つめる。
オータキ『ファウス、お前に話がある。実は…。』
ファウスは顔を上げ、オータキを見つめる。
ファウス『僕からもお話があります。』
ファウスを見つめるオータキ。
オータキ『何だ?』
ファウス『…僕を解雇してください。』
眉を顰めるオータキ。
オータキ『なぜだ?』
俯くファウス。
ファウス『…街の人達が、御主人様が偽王子を雇っていると。』
オータキ『何だ。そんなことか。』
一歩前に出るファウス。
ファウス『そんなこと!僕は…偽王子だなんて知らなかった、でもアレス王国の人達をずっと騙して…。ヨーケイ城では自分の為に、自分のせいで多くの罪もない女の子達を犠牲になって、
ポルポ市は僕のせいで…僕のせいで…。』
泣き崩れるファウス。オータキはファウスに駆け寄り、ファウスの肩に手を当てる。ファウスはオータキの顔を見つめ、俯く。
ファウス『僕はあの時、恩人を裏切って…自殺…。』
頭を抱え、首を激しく横に振るファウス。
ファウス『今も御主人様に悪評を…。』
ファウスを見つめるオータキ。
オータキ『なあ、ファウス。俺が偽王子を雇っていると知れるのはどの道時間の問題だった。』
オータキを見つめるファウス。
オータキ『それも覚悟でお前を雇ったんだ。』
ファウス『えっ…。』
立ち上がるオータキ。
オータキ『他人がどう言おうが俺はお前の主だ。俺の命に従え。』
眼を見開き、オータキを見つめるファウス。
ファウス『御主人様…。』
C7 自警団 END
C8 夜警
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン、夕刻。ヴェルクーク級人型機構が集うギルド・タワーに乗りつけるヴァンガード城城主所有のDBx-1177級の人型機構。ギルド・タワーの階段に座るギルノアと自警団員達。
ギルノアは煙草を口から離し、ヴァンガード城城主所有のDBx-1177級の人型機構を見つめる。ヴァンガード城城主所有のDBx-1177級人型機構のコックピットのハッチが開き、現れるポンコU、そしてファウス。上体を起こし、ファウスの方を向くギルノアと自警団員達。ファウスは右手を押さえ、震えを止め、一礼する。
ファウス『…オータキ様の命できました。』
顔を上げ、一同を見回すファウス。
ファウス『……偽王子であります。』
唖然とする自警団員達、煙草を口に咥える自警団団長のギルノア。
自警団員A『おいおい。あんなちっちゃいのが、あの偽王子なのか。』
自警団員女A『まあ、ポルポで見たって奴がそういうんだからそうなんだろうけど…。』
自警団員B『ほんとに大丈夫なのか?』
ファウスは自警団員達の方を向いた後、下を向く。ファウスの両肩に軽く手を当てるポンコU。ファウスは顔を上げポンコUを見上げる。
ファウス『…ポンコUさん。』
煙草を口から離し、立ち上がるギルノア。
ギルノア『よし、面子もそろったことだし、今から巡回を行うぞ。』
ギルノアの方を向き、頷く自警団員達。
夕刻。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。公道を進む、自警団員のヴェルクーク級人型機構。中央にはヴァンガード城城主所有のDBx-1177級の人型機構が位置し、その開かれたコックピットのハッチに立つファウス。通行人達がファウスを指さし、顔を見合わせる。足を震わせるファウス。ヴァンガード城城主所有のDBx-1177級の人型機構のコックピットからファウスの方を向く
ポンコU。
ポンコU『…これでは、見せしめです。』
風がファウスの銀髪を靡かせる。ファウスはポンコUの方を向く。
ファウス『ポンコUさん。大丈夫です。…それにこれは僕しかできないことなんです。』
笑顔をつくり、震える手を抑えるファウス。ポンコUはファウスの背を見つめる。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。キューズベリー公園の前を通る自警団員達。
悲鳴。
ファウスはポンコUの方を向く。自警団の隊列から勢いよく飛び出、キューズベリー公園に入っていくDBx-1177級人型機構。
ギルノア『おい!偽王子!何を勝手!!』
砂煙をあげキューズベリー公園の噴水を照らすDBx-1177級人型機構のライト。倒れ、体を震わせて右手を前に出すダリア・アッカー。彼女の前に立つ、マフラーとサングラスで顔を隠し、フェドラハットを被り、トレンチコートを着、肉切り包丁を振りかざす男。男はDBx-1177級人型機構の方を向く。コックピットのハッチを開くファウス。
ファウス『何をしているんですか!』
男は肉切り包丁を振りかざし、ダリア・アッカーの方を向き、彼女の方へ駆けていく。男を照らす自警団のヴェルクーク人型機構達のライト。男は舌打ちし、飛び跳ねながら北の方へ消えていく。
男の後を追うファウス。
ファウス『ま、待て!』
ファウスの足に抱き着くダリア・アッカー。ファウスはダリア・アッカーを見つめ、眼を見開く。
ファウス『あ、あなたは…。』
しゃがむファウス。ファウスに抱き付くダリア・アッカー。
ダリア・アッカー『うぇ〜ん!怖かったよぅ!』
ファウスは泣きじゃくるダリア・アッカーを見つめる。
ファウス『大丈夫ですよ。』
ヴェルクーク級人型機構から飛び出してくるギルノアと自警団員達。ギルノアはファウスに駆け寄る。
ギルノア『犯人は!!』
ファウスはギルノアの方を向き、北の方を指さす。
ファウス『あ、あっちに…。』
ファウスを睨む自警団員B『逃げられたのか!』
舌打ちするギルノア。
ギルノア『偽王子の癖に役立たずだな。』
ギルノアは煙草をくわえる。ギルノアを見つめた後、ファウスは俯く。ダリア・アッカーの方を向くギルノア。
ギルノア『おいおい。夜間の外出は控えるように言われてただろ。お嬢ちゃん。』
眼の涙を人差し指で拭うダリア・アッカー。
ダリア・アッカー『だってぇ、ぐす。そんなこと知らなかったんだもん。ただお洒落なバーがあるって聞いて…。』
ダリア・アッカーを見つめる自警団員D。
自警団員D『おいおい。こりゃ、暗黒大陸のモデルのダリア・アッカーじゃねえか。』
自警団員A『えっ、マジで!』
頭に手を当てるギルノア。
ギルノア『ちっ、外国人には情報が行きわたってなかったのか!お粗末な対応だぜ…。』
ギルノアはダリア・アッカーを見つめた後、北の方を向く。
ギルノア『賃貸ダンジョンの方か…。』
眼を見開くファウス。
ギルノア『まだ近くに…。』
DBx-1177級人型機構に乗り込むファウス。ギルノアはファウスの方を向く。
ギルノア『おい!なにやってんだ!』
ギルノアの方を向くファウス。
ファウス『賃貸ダンジョンへ向かいます!』
動き出すDBx-1177級人型機構。舌打ちするギルノア。
ギルノア『勝手にしろ。』
夜間。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。公道をスピードを出して走るDBx-1177級人型機構。操縦冠を被るファウス。助手席に座るポンコU。
ポンコU『なにをそんなにあせっているのですか?』
ポンコUの方を向くファウス。
ファウス『時間が無いんです!』
ファウスを見つめるポンコU。
ファウス『ポンコUさん…失踪した人達は爬虫類系の人達なんでしょ。』
ポンコUはファウスを見つめ、頷く。
ファウス『ゲインさんが危ないんだ!』
ポンコU『ゲイン…。あのNPO法人の…。でもあれハチュウ…。あ、賃貸ダンジョン。』
頷くファウス。
ポンコU『分かりました。』
ファウスを見つめるポンコU。
ポンコU『場所は分かりますか?』
ファウス『あっ…。』
正面を向くファウス。
ファウス『で、でもナビが…。』
ポンコUはDBx-1177級人型機構のアンドロイド専用プラグを抜き、自身の首に指す。
ポンコU『あなたより私の方がこの町は長いのです。任せておいてください。』
ファウス『ポンコUさん…。』
スピードをあげるDBx-1177級人型機構。
C8 夜警 END
C9 汎神論
深夜。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。砂煙をあげ賃貸ダンジョンの敷地に音を立てて止まるDBx-1177級人型機構。風が吹き、開閉する賃貸ダンジョンの扉。
眼を見開くファウス。彼はDBx-1177級人型機構のコックピットのハッチを開き、飛び降りる。続くポンコU。彼らは賃貸ダンジョンの入り口に駆け寄る。鼻を押さえ、咳き込むファウス。
ファウス『この臭いは…。』
青ざめるファウス。
ファウス『ゲインさん!』
賃貸ダンジョンに駆け込んでいくファウス。
ポンコU『あ、ファ、ファウスさん。』
続く、ポンコU。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。賃貸ダンジョン。内部を見回すファウスとポンコU。
整頓された爬虫類系の皮を着せた家具、棚の上にはゲインとゲインの妻、息子のエドの写真。
ファウスはよろめき、鼻を押さえて咳き込む。ファウスを支えるポンコU。
ポンコU『大丈夫ですか?』
ファウスの眼から涙が溢れる。
ファウス『は、はい。こんなことをやっている場合ではないんです。』
ゲインの声『…天地がつく………偉大なる…。』
眼を見開くファウス。
ファウス『…この声は!』
顔を見合わせるファウスとポンコU。彼らは頷いて、立ち上がる。歩き、賃貸ダンジョンのキッチンの方へ向かう彼ら。
ゲインの声『…が、この軟弱せ……克服…。』
地下室へ続く階段を覗き込む彼ら。
ポンコU『ここから聞こえます。』
頷くファウス。階段を駆け下りていくファウスとポンコU。賃貸ダンジョン地下室。巨大なツチノコの像が置かれる地下室の台座の前に立ち、包丁を振り下ろすエプロンをつけたゲイン。
ゲイン『生き物は円柱形…すなわちツチノコ。』
ゲインを見て胸をなでおろすファウス。
ファウス『ゲインさん。よかった…無事…。』
ゲイン『全ての生命体はその身体に神であるツチノコを宿す…。』
台座に向けて包丁を振り下ろすゲイン。
ゲイン『ツチノコの肉は貨幣で支配された腐りきった世界を正す。奴らと戦う戦士を形成する。』
首を傾げ、一歩前に出るファウス。
ファウス『あの…。』
ファウスの口を押えるポンコU。振り返るゲイン。
ゲイン『おや。君は…。ちょうどいい。』
返り血を浴びたエプロンを身に纏っているゲイン。台座に横たわる四肢の切断されたワニ人の死体。唖然とするファウス。
ゲイン『奇跡をみるかね。このゆとりはさっきまで泣き叫んでいたのに…。』
ゲインは四肢を切断されたワニ人の死体を持ち上げる。
ファウス『ゲインさん…なんで。』
ゲイン『今では、もうこんな立派なツチノコ様になった!』
ゲインは四肢を切断されたワニ人の死体の後頭部に開けた穴に手を入れ、立ち上がらせて口を動かさせ、その動きに合わせ声を出す。
ゲイン『ねぇ、僕、ツチノコ。』
ファウス達の方を見つめるゲイン。唖然とするファウスとポンコU。ファウスは眼を瞑り、体を震わせて首を横に振る。
ファウス『分かんない。分かんないよ!だって、奥さんと息子さんの為に、仕事で頑張るって、なのに…なんで。』
ファウスを睨み付けるゲイン。
ゲイン『ツチノコってイ゛ェアアアア!!』
ゲインは四肢の切断されたワニ人の死体を持ち上げる。
ゲイン『いかんせん太すぎるのか!いかんせん太すぎるのか!!?ああ!!』
ゲインは四肢の切断されたワニ人の死体を投げ捨てる。
ゲイン『死してツチノコとなったものは肉となり人々に奉仕し、本来の姿であるツチノコ世界を取り戻させる!生きたツチノコは神となる…。』
台座の後ろに回るゲイン。彼はスターターロープを引く。鳴り響く音。
ゲイン『さあ、行こう…神なるツチノコの道へ。生命体、生命体、手足ちょん切りゃツチノコだーーーーーーーっ!』
チェーンソーを構え、台座から跳びファウスに向け、突進するゲイン。振り回すチェーンソーの刃を避けるファウス。
ポンコU『気を付けてください。あれはツチノコではありません。電ノコです!』
ファウス『ゲインさん。止めてください。なんで、なんでこんな酷い事を!』
ゲイン『酷い?俺は人がツチノコになるための手伝いをしてやっているだけだ。ツチノコ、すなわち神。』
ファウスの服を破るチェーンソーの刃。肌蹴るファウスの胸。つまずき、倒れるファウス。
ゲイン『人間もツチノコの派生品。成分が同じなら切って張りつければツチノコよ!』
チェーンソーを振り下ろすゲイン。ファウスを突き飛ばすポンコU。
ファウスはポンコUの方を向く。
ファウス『ポンコUさん!!』
ポンコUの体を貫くゲインのチェーンソー。ポンコUは床を蹴り、チェーンソーを地下室の壁にめり込ませる。目を見開くゲイン。彼は舌打ちし、チェーンソーを離して、駆け去る。ポンコUに駆け寄るファウス。
ファウス『ポンコUさん!』
ファウスの方を向くポンコU。
ポンコU『…私は機械人形です。メインシステムには異常はありません。と言っても少し機動には支障が出ますね。それよりも…。あの人を…。』
頷くファウス。揺れる地下室。落下する瓦礫。
ファウス『この振動は…。』
動き出すツチノコの像。
ポンコUは自らの手で頭部をとる。眼を見開いてポンコUを見つめるファウス。
ファウス『あっ…。』
ポンコU『驚くことはありませんよ。アンドロイドですから。これで随分と軽くなるでしょう。』
ポンコUの胴体から手渡されるポンコUの首。
ファウス『でも、ポンコUさんの体が…。』
ファウスを見つめるポンコU。
ポンコU『取り換え可能なので大丈夫です。ロリボディがいいですか、それともモデル体型…。』
ファウスはポンコUの頭部を抱きしめる。
ファウス『ポンコUさん。ごめんなさい。』
ファウスを見つめるポンコU。
ポンコU『それよりも、あの人を。』
頷くファウス。揺れる地下室。瓦礫が落ちる。周りを見回すファウス。
ファウス『この振動は…。』
動き出すツチノコの像。
ゲインの声『ジャイアントインパクトの時、この星に当たった隕石はツチノコたちの乗った巨大スペースシップに違いなかった…。』
ポンコU『違いなかった!!?』
ゲインの声『そして、原初の男女に知恵を与えたのもツチノコだったのだろう…。』
ポンコU『だったのだろう!!!?』
ゲインの声『とどのつまり、我々はツチノコから枝分かれし、全ての生命体はツチノコに帰化しなければならないのだ…。そう、全ての生命体は、その身体に神性、すなわちツチノコを宿すのだ!我々はツチノコにならなければならない!我々はツチノコを目指さなければいけない!それが生命としての宿命なのだ!これより全生命体をツチノコに帰依させる…。よりよい未来、貨幣に支配されない世界…。ツチノトピア…。』
穴をあけ、上へあがるツチノコの像。ポンコUの頭部を持ち立ち上がるファウス。
ファウス『止めないと…。』
C9 汎神論 END
C10 神…
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。振動する賃貸ダンジョンから駆け出て、DBx-1177級人型機構に乗り込むファウスとポンコU。
ポンコU『ファウスさん。プラグを。』
ポンコUの方を向くファウス。
ポンコU『メインシステムに異常はありません。操縦は任せてください。DBx-1177級人型機構はクセのある機体です。』
ファウスはポンコUの方を向き、頷いてDBx-1177級人型機構のアンドロイド専用プラグを抜き、ポンコUの首に指す。賃貸ダンジョンに穴が開く。DBx-1177級人型機構のコックピットのハッチの上に立つファウス。
ゲインの声『ツチノコ型機構が全ての生命体の四肢をちょん切り、永遠の桃源郷ツチノトピアを作るのだーーーーーーーーーーっ!』
穴から現れるツチノコの像。旋回し、銃を撃つDBx-1177級人型機構。ファウスは呪文を唱え、火の玉がツチノコの像に当たる。ツチノコの像の岩がまばらにはがれ、覗く爬虫類人の皮膚。眉を顰めるファウス。
ファウス『あれは…。』
音。
上空からツチノコの像に降り注ぐミサイル。爆炎がツチノコの像を包む。振り返るファウス。街の方で隊列を組むエグゼニ連邦のヴェルクーク級人型機構を中心とする軍隊。
ファウス『…えっ。』
ファウスの方を向くポンコU。
ポンコU『軍が到着したみたいです。私の中の発信機の送信をオータキ様が。』
ファウス『オータキ様が…。』
ファウスは前方を向く。
ファウス『…ゲインさん。』
一歩前に出るファウス。煙からに揺れるツチノコの像の影。煙から現れる爬虫類人の皮膚で覆われた尻尾。よけるDBx-1177級人型機構。煙が消え、現れる全身を爬虫類人の皮膚で覆った未確認生命体ツチノコ型機構。
ゲインの声『この神、すなわちツチノコにより形成されたツチノコ神像にたかだかその恩恵を受けて作られただけの模造品が勝てるものか!』
未確認生命体ツチノコ型機構を見上げるファウスとポンコU。
ポンコU『…未確認生命体ツチノコ型機構確認!』
未確認生命体ツチノコ型機構の頭部に放たれる魔砲。閃光が消え、現れる無傷の未確認生命体ツチノコ型機構の頭部。
ゲインの声『模造品は効かんと言っただろう。近代兵器も魔法も…このツチノコの皮膚には効かんのだ!無駄な進化をした者達よ!ツチノコになり、ツチノコのツチノコによるツチノコの為の未来を!!さあ、とりもどそう!!』
街の方へ這って行く未確認生命体ツチノコ型機構を見た後、街の方を向くファウス。
ファウス『…どうすれば、このままじゃ。このままじゃ町の人達が…。』
未確認生命体ツチノコ型機構を見つめるファウス。
ファウス『つなぎ目…。』
ファウスは未確認生命体ツチノコ型機構を覆う皮膚と皮膚との間のつなぎ目を見つめる。
ファウス『ポンコUさん。あの未確認生命体ツチノコ型機構の動力部は分かりますか?』
ポンコUはファウスを見つめる。
ポンコU『はい。』
ファウス『そこの場所を示してください。止められるかもしれない…。』
銃弾やビーム、魔砲を弾きながら進む未確認生命体ツチノコ型機構。
ポンコU『データ分析完了しました。』
ポンコUの眼から映し出されるホログラムに映る未確認生命体ツチノコ型機構の全体図。下腹部が丸く覆われる。横に映るその部位の写真。それを見つめるファウス。
ポンコU『おそらく、ここです。』
ファウス『分かりました。』
ポンコUの方を向くファウス。
ファウス『そこ付近までの操縦をお願いします。後は僕がやります。』
眼を見開くポンコU。
ポンコU『ファウスさん。危険です。』
ファウス『これしかないんです。』
ファウスの眼を見つめるポンコU。
ポンコU『分かりました。』
動き出すDBx-1177級人型機構。
ポンコU『行きます。』
頷くファウス。未確認生命体ツチノコ型機構の下腹部に疾駆するDBx-1177級人型機構。ファウスは呪文を唱えながら飛び上がる。薄い水色に光るファウスの手。未確認生命体ツチノコ型機構の爬虫類人の皮膚と皮膚とのつなぎ目に両手をむける。
氷に覆われる未確認生命体ツチノコ型機構の下腹部。地面に転がるファウス。機械音と共に、大きく鎌首を上げ、止まる未確認生命体ツチノコ型機構。ファウスの傍らに寄るDBx-1177級人型機構。
ポンコU『ファウスさん。大丈夫ですか!!』
起き上がるファウス。
ミサイルや銃撃、魔砲の衝撃で揺れる未確認生命体ツチノコ型機構のコックピットのハッチが開き、飛び降りるゲイン。ファウスはゲインの方を向く。
ファウス『ゲインさん…。』
上体を起こし、頭を左右に振るゲイン。立ち上がり、ゲインの方へ向かうファウス。
ゲイン『…助成金があれば、ツチノコがあった。』
眼を見開くファウス。
ゲイン『助成金があればツチノコはいた。』
立ち止まり、体を震わすファウス。
ゲイン『助成金があればツチノコは見れた。』
ゲインは懐から札束を取り出す。
ゲイン『助成金があれば、家族の団欒が壊れることも無かった…。』
俯くファウス。銃撃音、砲撃音。ゲインは札束を暫し、見つめ眼を見開く。
ゲイン『そうか。金は天下の回り物、自らの尾を飲むウロボロスの輪…ウロボロス、すなわちツチノコ。』
ゲインは札束をばら撒き、舞う貨幣一つ一つを指さしていく。
ゲイン『あれもツチノコ!これもツチノコ!はははは、これこそが…。』
鈍い音と共にゆっくりと倒れていく未確認生命体ツチノコ型機構。ファウスは顔を上げる。
ファウス『ゲインさん!!』
ゲインに向かい駆けていくファウス。
ポンコU『ファウスさん!』
ゲイン『これこそが神であるツチノコだったんだーーーーーーーーーーーーっ!』
走るファウス。未確認生命体ツチノコ型機構に押しつぶされるゲイン。砂煙が上がり、尻もちをつくファウス。血しぶきが上がり、赤く染まる未確認生命体ツチノコ型機構の下部。ファウスの顔にかかるゲインの血。
C10 神…