ゼロの使い魔 AOS 第22話 めざせ経済大(町)国 D
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平賀才人が、ルイズに東地区拡張計画のスポンサーへのアポイントを頼んでから一日が過ぎていた。

 

早馬を使った速達で出してくれたらしく、三日もあれば手紙が届くらしい。

 

ただ忙しい人らしいので、返事が来るまでどの位の時間が掛かるかは分からないのだが・・・。

 

とは言え、準備だけはしてしっかりしておかなければいけない。

 

才人は午前中は本業の大工の仕事をして、午後はスポンサーへのPRのために企画書を作っていたのだった。

 

 

 

「とは言ったものの、どうやって書けばいいのかな」

 

「企画書なんて作った事ないしな、誰も手伝ってくれないしな」

 

才人は親方の家で、まっさらな紙と睨めっこをしている。

 

「そもそも、ちゃんと字を読み書き出来る人がいないなんて思っていなかったし・・・」

 

才人を手伝ってくれる人はいなかった、別にいじわるで手伝ってくれない訳では無い。

 

才人の周りにいる大人たちが、みんな書類仕事が出来ない以前に読み書きがまともにできる人がいなかったのである。

 

この世界の平民の識字率はかなり低い、最低限の読み書きは出来るものの仕事で使えるレベルには至っていない。

 

平民の世界には学校が無いのだ、ほとんどの平民が子供のころに周りにいる年上の人になんとなく教わるぐらいなのだ。

 

教育とは国力とはよく言ったものだ、トリステインでは貴族だけがまともな教育を受けられるのが現状なのだ。

 

もちろん、貴族だけが教育を受けられるのには理由がある。

 

この世界では階級制度があり、支配者層の貴族と被支配者層の平民に別れている。

 

被支配者である平民が教育を受けて、余計な知識をつけるのを貴族側は嫌っているのだ。

 

識字率が限りなく100%に近い現代の日本から来た才人には俄かに信じられないのだが、これがこの国の現実である。

 

先ほどは下書きをしている所をアナちゃんに見られて、「サイトって、頭良いんだね〜///」と言われたばかりである。

 

平賀才人の計画書作りは、困難を極めていた・・・。

 

 

 

「はあ〜〜〜〜〜〜・・・、企画書がこんなに難しいものなんて思わなかったな・・・」

 

「なんだかんだ言っても、ちゃんと仕事している大人って凄かったんだな〜」

 

独り言を呟きながら才人は、町を散歩していた。

 

一時間ほど机の前で睨めっこしていたのだが良いアイディアが浮かばず、気分転換に外に出たのである。

 

そもそも仕事どころか、アルバイトもした事が無い中学を卒業したばかりの高校生だった才人。

 

生徒会や部活の部長をやった事もないし、まともな事務仕事をしたことが無い何処にでもいる平凡な男の子だったのだ。

 

ちゃんとした大人の助けが無いと、スポンサーを納得させられる企画書は出来そうもない。

 

才人はそう思って、もう一度周りにいる大人を思い返していたのだが・・・。

 

「やっぱり、居ないんだよな〜」

 

「この国は貴族しかまともに教育を受けていないなんて思ってもいなかったし・・・ルイズか、いや・・・無いよな」

 

読み書きがまともに出来ると言えば貴族、才人は唯一の貴族の知り合いであるルイズを思い出したのだか却下した。

 

「どう考えても興味ないだろうしな〜、それにあいつ世間知らずのお嬢様っぽいし・・・」

 

才人は前回、ルイズに東地区拡張計画を熱く語ったのだが完全に右から左に流して興味が無さそうにしていたのを覚えていた。

 

結局、助けてくれそうな人は居ないとあきらめかけた才人だったが・・・。

 

「あっ!?居た、貴族の知り合いが一人だけいたじゃん俺!」

 

誰かを思い出して、才人は北地区の町に走っていった。

 

 

 

「それでお店が開く前に私の所に来たと・・・そういう事かい、ボウヤ?」

 

「ロングヒルさんぐらいしか、思いつく人が居なかったんで」

 

才人は北の町の酒場に足を運んでいた、外は子供たちが遊んでいる時間だったので酒場が開いている訳も無いのだが。

 

現在は仕込みの時間で女の子たちもほとんど出勤していない開店前、ロングヒルに会えたのは才人にとっては運よかったと言える。

 

ミス・ロングヒル、才人がルイズと喧嘩をして落ち込んでいた時にここの酒場で知り合ったお姉さんだ。

 

落ち込んでいた才人は、彼女の秘密であるこの国の人間ではない事ともともと貴族だった事を教えてもらったのだ。

 

「お願いします!ロングヒルさんしか頼れる人がいないんです、えっと・・・ダメっすか?」

 

「めんどくさそうだしね〜金になら無そうな話だし、何にしてもお店が開いてからなら聞いてあげるよ!私は安い女じゃないんでね」

 

めんどくさそうにしながらも話は聞いてくれるらしい、タダという訳にはいかなかったのだか・・・。

 

「ええっと、お店が開いてからっすか?」

 

「なんだい?綺麗なお姉さんが話を聞いてくれるのが不満かい、年上の女には素直にうんと言うのが良い男なんだよボウヤ」

 

「そういうもんなんですかね?」

 

「そういうもんなんだよボウヤ、私を口説いて協力させてみせなよ!ちなみにお金をいっぱい持ってくると私は素直になるからね」

 

要するに開店してから私を指名してという事である、良い男になるためには金がかかるんだな〜と思った才人であった。

 

「わかりました、出直してくるんで・・・」

 

「ふふっ、今日はボウヤが私を予約したんだから・・・待ってるからね」

 

親方に給料を前借しないとな〜とか思いながら、引き返していく才人だった。

 

 

 

その後、給料を親方に前借できた才人だった。

 

最近はすごい頑張ってるから特別だぞとの事、条件として壊れかけの工具を鍛冶屋に修理してもらうようにに頼まれたのだがこれは別のお話。

 

お使いを済ませた才人は親方から給料を受け取り、ミス・ロングヒルに会うために酒場に足を運んでいた。

 

街は明かりが灯りだしている、夕方になり酒場は開店した。

 

才人は、一番乗りでお店の中に入っていった。

 

 

 

「「「「「いらっしゃいませ〜〜〜〜!」」」」」

 

店内に入ると周りから一斉にいらっしゃいませの声が響いてきた、才人以外のお客はまだいないのでいらっしゃいませの集中砲火だ。

 

「早いねお客さん、今の時間なら好きな女の子を選び放題だぜ!!」

 

「一番人気のマリアちゃん!?ちょっと男勝りのセレナちゃん!?期待の新人のベリンダちゃんもいるぜ、さあ張り切って選んでくれよ!!」

 

才人に近寄ってきた男が笑顔で女の子を選ぶように促してくる、どうやらここの店長のようだ。

 

周りの女の子たちも自分を指名してもらえるように、笑顔で才人を見つめる・・・女の子たちの視線が獲物を見るような目に見えるのは気のせいか?

 

「いや・・・指名する子はもう決めているんで、呼んでもらってもいいっすか?」

 

「もう決まっているのかい!お眼が高いね!うちは若い子ばっかりなのが売りの店だからね、ささ!呼んでくるから誰だい!!」

 

もうヤダこのテンション・・・若い子が多いとアピールしつつ店長は大声で才人に誰を指名するのか促してくる、そして才人は一言。

 

「あの・・・ミス・ロングヒルさんをお願いします」

 

「うん!うん!ミス・ロングヒルちゃ・・・えっ!?、お客さんいま何て?」

 

「だから、ミス・ロングヒルさんをお願いします・・・今日は来るように約束したんだけど」

 

「ボウヤ!遅いわよ、あんまり女の人を待たせるなんて感心しないわね」

 

「いや・・・俺、開店と同時に来たんだけど」

 

「ふふっ、店長!この子は私のお客さんです、お席に案内しますからお酒とお通しをお願いしますね」

 

「あっ・・・はい!はい!ミス・ロングヒルちゃん入りました!、お客さんをお席までよろしく!!」

 

「は〜い、さあこっちの席でお相手しますわ」

 

店の奥からミス・ロングヒルが出てきて、そして才人の腕を胸元に回して席まで引っ張って行く。

 

いままで才人を取り囲んでいた女の子たちは、蜘蛛の子を散らす様に周りから居なくなっていた。

 

「ちっ!ババアが調子に乗って・・・」

 

「ガキが!ママのおっぱいがいいのかよ・・・」

 

「趣味、悪っる〜・・・」

 

去り際に何か聞こえてたような気がしたが、怖くて聞こえないふりをする才人。

 

勝ち誇ったように才人の腕を胸元に回して、才人(獲物)を見せ付けるミス・ロングヒル。

 

女って怖いよ〜と、腕に当たるおっぱいの感触を楽しむ事なく一人恐怖にうち震える才人であった・・・。

 

 

 

「ちゃんと来てくれたんだね〜、偉いわよ〜ボ・ウ・ヤ」

 

「あのさ〜俺、才人って名前があるんだ・・・ボウヤはそろそろやめてほしいんだけど」

 

「私にはまだまだボウヤにしか見えないわ、名前で呼んで欲しかったら男らしいとこ見せな!そしたら考えてあげるわ」

 

「う〜ん、俺ってそんなに子供かな?」

 

「お嬢様と喧嘩して私に慰められてるうちはお子様さ、で・・・仲直りは出来たのかい?」

 

「おかげさまで・・・いろいろあったけど、仲直りできたよ!ありがとう」

 

「そいつは良かったじゃないか、私も気になって夜も眠れなかったんだからね」

 

「はは・・・すごく顔色いいみたいだけど、でも本当に感謝してるんだぜ」

 

実際にミス・ロングヒルに励まされたのが、ルイズと仲直りの切っ掛けになったのだ。

 

そういう意味では才人は感謝をしているし、話を盛っているとしてもあの事を気にしてくれていたのは嬉しかった。

 

「それで・・・私に話があるんだろ、酒が入る前に聞かせてちょうだい」

 

「そうだった、町を拡張するって話なんだけど・・・」

 

才人は最初から話した、貧民街を無くすために居住スペースを広くする事。

 

人を集めて仕事と労働人口を増やし、町のお金の巡りを良くする事。

 

法的な問題や資金を確保するために、貴族のスポンサーと後ろ盾を見つけて交渉しようとしている事。

 

そして、見つけたスポンサーが才人とルイズが絶対絶命の時に助けてくれた厳つい貴族のおっさんである事。

 

もちろん、異世界から才人が来た事は隠して説明したのだが・・・。

 

 

 

「う〜ん、ボウヤにしては良く考えているわね」

 

「へへっ!そうかな、良い考えかな」

 

「調子に乗らないの!ただ・・・問題もやっぱりあると思うわ、まずはお金よね」

 

「いや!そのためのスポンサーだって、それに町の問題も解決する社会貢献事業だろ・・・相手にとっても悪い事じゃ無いと思うんだけど」

 

「そりゃあ分かっているわよ、私が言いたいのは街を一つ作るのに莫大なお金が掛かるって事よ」

 

「えっと?つまりは・・・どういう事?」

 

「ボウヤが思っているほど街っていうのは安くないってことよ、そこらの貴族のひと財産が吹っ飛ぶぐらいは掛かるんじゃないかしらね」

 

「え〜〜〜〜〜〜!?、マジで・・・?」

 

「かなりの大貴族様か・・・もしくは三人、いや五人以上の貴族が必要かしらね?」

 

ミス・ロングヒルのいう事はもっともだった、街を作るには家だけではなくインフラ整備やその他の公共施設も無くてはならない。

 

「それに仕事を集めると言っていたけど、それだってお金が掛かるし回収するのに何年かかるか・・・それまで貴族様たちが黙っているかしら?」

 

スポンサーと言うのは自分の企画に投資してくれる存在だ、もちろん見返りも出さなければならないし結果が出なければ資金を引き上げられてしまう。

 

「あとはこの町の貴族の問題も残っているわ、各町で貴族たちが自分たちの好きなように税率を決めて町を管理しているのよ」

 

「急に新しい町が出来て人がそっちに移住しようものなら、彼らはたまったもんじゃないでしょうね・・・ヘタすればボウヤが暗殺されるわよ」

 

おそらくここが一番のネックになるであろう、いわいる既得権益というものがこの王都トリステインにはあるのだ。

 

才人が知る元の世界の歴史でも現在でも、権力者たちは既得権益を守るためなら死に物狂いで動いてくるのである。

 

「そういう訳でこの話はダメだと私は思うわ、本当に良く考えてはいるんだけどね〜〜」

 

「困ったな、どうしよう・・・」

 

「この話はおしまいよ、ボウヤにしてはなかなか面白い話だったわね」

 

「ヤバイ・・・ドウシヨウ、ホントニヤバイ・・・」

 

「ほら!お姉さんが褒めてあげたんだから、今度はボウヤが私にお酒をご馳走してくれる番よ・・・なに悩んでいるのよ?」

 

「いや・・・スポンサーにって、お願いしたのがラ・ヴァリエール家の貴族らしくてさ・・・しかも結構怖い感じで」

 

「・・・・・・えっ、ボウヤ・・・なんて言ったんだい?」

 

「えっと、ラ・ヴァリエール家の貴族でルイズの知り合いらしいんだけど、俺が助けてもらった時もすげぇ魔法使って戦っていたし・・・」

 

「・・・」

 

「ルイズに会ってくれる様に手紙を出してもらってさ、いまさらダメでしたなんて言ったらどうなるのかと思って・・・ロングヒルさん?」

 

「・・・」

 

ミス・ロングヒルは固まっていた、そして何かを考え込んでいた。

 

 

 

(ラ・ヴァリエール家って言えば、この国には一つしかないはずよね・・・あの大貴族のラ・ヴァリエール家しか)

 

「あの・・・ロングヒルさん、もしも〜し?」

 

(あそこの家なら並みの貴族の百人ぶんはお金がありそうだし・・・それに、この国での影響力は王室にも匹敵するって聞いた事があるわ」

 

「お酒頼まないのかな〜?、給料でたばっかりだから何でも頼めるよ〜?」

 

(そもそもボウヤの話を聞く限りだと、ルイズって子の父親としか思えないのよね〜その助けてくれた貴族っていうのは・・・)

 

「勝手に注文しちゃうけどいいのかな〜?」

 

(本当にラ・ヴァリエール家ならボウヤの計画は問題なく進めることはできるわよね・・・それに、そこの子供がボウヤに付いてるわけだし)

 

「店長〜〜〜〜!!、お酒を注文したいんだけど」

 

「はいよ〜〜〜!!ご注文はお決まりで!?」

 

(ラ・ヴァリエール家・・・うまく立ち回れば、私にも大金が転がり込んでくるかもしれないわ・・・この子の話に乗らない手は無いかも)

 

「ボウヤ!やっぱりこの計画は進めましょう!!、私も全面的に協力してあげるからね!!!」

 

「うわっ!ビックリした〜〜・・・って、協力してくれるって言ったのか?」

 

「ええ!私も全面的に協力するわよ!!てっ言うか、ボウヤと私が二人で進めて行くわよ!!これは二人の計画だからね!!!」

 

「ああ・・・ありがとう、なんで急にやる気を出したのか分かんねぇけどロングヒルさんが助けてくれるなら心強いよ」

 

「良し!私たちは今からチームだ!!この計画は絶対に成功させるからね!!!前祝だよ、なんか注文しなさいよボウヤ!!」

 

「もう頼んであるから、そろそろ持ってくる頃じゃ・・・あっ!来たみたいだ」

 

お酒の種類なんぞ分からない才人は店長におまかせで注文していた、才人くんこういうお店でおまかせってマズいんだよ・・・後で後悔するのだが。

 

「ふふっ!気が利くじゃないか、今日は前祝だ!私に沢山ご馳走しておくれよ・・・サイト」

 

 

 

これで東地区拡張計画に心強い仲間が加わったのである、それぞれの思惑は別の所にあるのだが。

 

 

 

そして前祝の宴は続いていく、ボウヤからサイトに呼び方が変わった事に気が付かないまま・・・。

 

 

 

....第22話 めざせ経済大(町)国 D終

 

 

 

next第23話 めざせ経済大(町)国 E

 

 

執筆.小岩井トマト

 

 

 

 

説明
東地区拡張計画の企画書を必死に考えている才人。
こういう経験がゼロの彼は企画書作りに苦戦します。
やはり経験がある大人の助けが必要と考えるのですが残念ながらが見つからない。
たよれるお姉さんが再登場する第22話をお楽しみください。
ロングヘアーに顔をうずめてクンカ!クンカ!した〜い!!男子諸君は分かってくれるよね(爆)
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