艦隊 真・恋姫無双 74話目 |
【 目撃者は語る の件 】
? 洛陽 都城内 練兵場 にて ?
私は………目を疑うしかなかった。
祭殿が使用される弓と、ほぼ同一形状にも関わらず……空中に投げ出され矢が炎と化した! ────だが、驚くのはそれだけではない!
炎が消えると、先ほど上空を飛んでいた物が姿を現したのだ!
数体の飛行する物は、陣形とおぼしき形を整えて、規則正しく一方向に向かう。 一糸乱れず陣形を運用する事、よく訓練された水軍の動きに似る。
だか、それもまた……当然の事なのだろう。 水上と空中──地上とは、理も法も異なる運用先の場なのだ。 ならば、似てくるのも必然なのだろう。
その美しさに──暫し我を忘れ見続けるが、同じように見入る視線に気付き、その視線の主を探った。
───そこに居たのは、銀髪の髪を持つ将!
号令を掛し、矢を放った後でも、その端整な顔を厳しくさせ上空を睨む。
それだけ、今の状況が切迫している事を示すのだが、驚く事に………目は優しく慈愛に満ちていた。
まるで、我が子の活躍を楽しみにしている母のような顔で!
蓮華さまと私達は、北郷の将が飛ばす鳥のような物を、興味深く眺めていた。
−−−
小蓮『すっごいなぁ! 鳥の様に自由自在で飛べるなんて───お、お姉ちゃん、あぁぁ、アレ、アレェ!! あそこの飛んでる奴! 危ないっっっ!! 』
蓮華『あっ! あの飛ぶ物が──衝突しちゃう! ど、どうしよう! ──思春、何とかならないのっ!?』
思春『………申し訳ありませんが、御命令でも無理かと! 高さ、距離が既に私の行動範囲を遥かに越えています! 』
明命『わ、私も無理です! あんな速い物に、追い付くことさえ出来ません! それに、ぶつかる先は皇帝陛下の居城の塔です! この多数の目がある中、塔内に侵入など───不可能ですよ!?』
蓮華『どうしよう! どうしよう!? 冥琳、どうしよう!?』
冥琳『…………運を天に任すしか………』
−−−
私は……自分自身薄情だと思いつつ、その様子を最後まで見続けた。 飛行する物が破壊され、どれだけの被害が出るか知りたかったのだ。
蓮華『きゃあああああ───ッ!!』
小蓮『危なぁぁぁぁぁい!!』
あの時、横一列に並ぶ絡繰りの進路方向には、天を衝かんとばかりに聳え立つ塔があり、そのまま進めば───激突は必至!
蓮華さま、小蓮さまは顔を隠され、思春、明命は、その後の惨劇を予測して、此方に被害が被らないように、注視していたのだ!
『『『 ──────!?!? 』』』
だが、予想に反して衝突すると思えた飛ぶ物は、難なく塔を避けて、回避運動を行ったのだ! しかも、衝突の惨事を免れただけでなく、元の陣形の位置に移動し、何事もなかったかのように、飛び立っているではないか!?
─── 《−−−》 ───
その瞬間、私の目に……信じられないモノが見えた!?
冥琳『────んっ? 今、何か人らしいものが!? いや、そんな馬鹿な事! 私らしくもない! それよりも、この様子を早く──蓮華さま方に御覧頂かなければ──!!』
私は、頭を左右に振った後──二人に声を掛けた!
−−−
冥琳『蓮華さま! 小蓮さま! ───あれを御覧下さい!』
蓮華『ど、どうなった───えっ? ええぇぇぇ───っ!?』
小蓮『なんでよぉ! 何でなの!?!?』
明命『はわわわっ! わ、 私にも分かりませんっ!!』
思春『──────!』
−−−
蓮華さま、小蓮さま、思春、明命が……その様子を目撃し、声を上げたり、唖然と眺めたりと………各々何も対応できず注視するのみ。
驚愕する蓮華さま達を裏腹に……私は冷静だった。
私の見たモノは……あくまでも一瞬である。
何かの見間違いとの事も考えられるし、雪蓮の奴に日頃から振り回されて、疲労が溜まっている為に見えた幻覚かも知れない。
確か……この前、眼鏡の度数も合わせた。
しかし、あの速さで動く物を、簡単に判断できる武など私は持ち合わせて居ない。 祭殿のような武を……私は持っていないのだ!!
私の見たモノに裏付けがなければ ……所詮……空想にしか過ぎない。
そう考えて、私の目撃した『??』を、頭の中で理論整然と不定した。
そんな時、思春が珍しく興奮した様子で、私に報告して来たのだ。
−−−
思春『冥琳さま……お話が……』
冥琳『………聞こうか』
思春『はっ! 実は……先ほどの飛行物ですが──何者かが乗っている事を目視できました! アレには間違いなく……人が乗って操っています! 』
冥琳『────なにっ!?』
思春『私は……蓮華さまの安全を確認した後、少し前へと出たのです。 すると、飛行物の先端付近が透明になっており、そこには小さい人影が──』
冥琳『しかし、あの飛行物は……私達の腕より少し大きいぐらいの物だ。 そんな所に人が乗り、飛ぶ物を操る事ができると……思春は思っているのか?』
思春『──私も半信半疑なのですが……間違いなく見たのです。 それに、 中に居た者が私を確認すると……驚きながらも額に手を当て、陣列に加わっていきました! …………まるで、礼を言うかのように!」
───《 (^-^ゞ 》───
冥琳『────!?』
思春『………今思えば、あれは北郷が行う《敬礼》では……なかったのかと』
思春の話を聞き、私の疑問は氷解した。
────しかし、何と不思議な事か!?
私は、思春を下がらせて……一人思案をする。
かの、飛行する物に乗り込む『あの者』は、いったい……何だったのだろうか……と。
◆◇◆
【 編隊特殊飛行 の件 】
? 洛陽 都城内 練兵場 にて ?
東西南北に飛び立ち、洛陽の郊外まで向かう艦載機たち!
五機で編隊で組み、アブレスト(横一列)で編隊飛行を行い、洛陽の上空を飛行する! 空に響くは……高速回転するプロペラの音、風を切り裂く風切り音!
聞き慣れない轟音に驚き、空を席巻する謎の飛行物を見上げ───実際に接して──口々に恐怖、怯え、叫びの言葉を上げる……洛陽住民たち!
〔── (; ゚ ロ゚)!?〕
〔 Σ((゚□゚;)) (゚Д゚≡゚Д゚)゙? ( :゚皿゚) (ノ゜ο゜)ノ〕
〔 !!(⊃ Д)⊃≡゚ ゚ 〕
噂の根源も判らずまま……漢王朝への憤り、不満、嘆きにより立ち上りし者!
祭り騒ぎに乗じて、利を得ようと考えた不届き者達!
それらが……空飛ぶ『天よりの使者』を……呆けた顔で眺める。
−−− ―――
今回の蜂起は、民の不満を煽動して起こした物である。
簡単に述べれば──『対岸の火事を皆で望み、意見を煽って火元の主を非難するような物』である。 自分達は安全な場所に居て、火事の原因、火元の家の生活、家族の話を勝手に非難している──そんな状態だ。
始めの状態は、 城より聞こえる轟音、見たことのない物を恐れて、洛陽の民は眺めてはヒソヒソと話すだけであった。
そこに、楊奉が『漢王朝は天に見放された』という噂を流布させ、洛陽の民へと更に広まる! 一滴の墨が、水瓶の水を染めるかのように!
普段なら、このような事を口にしただけでも……官兵に罪を問われ、軽くて牢屋行き …………重くて死罪を命じられたことだろう。
─── だが、今回は違う!
洛陽に流布する話に寄れば、天は『漢王朝の存続を許さない』と言うではないか! 漢王朝を滅ぼし、新たな天の代理人を決めるのだと!
すると、その利益にありつける者は……我ら民が一番ではないか?
つまり───『天の御遣いさまは、我ら民の味方だ!』と。
何があっても、漢王朝を滅して我らを導いて下さるのだと、信じていたのだ!
漢王朝の政策に飽きている──『閉塞感の打破』を!
今に生きる者たちが渇望している──『未来への希望』を!
誰もが望む──『漢王朝断罪の答え』を!
そして、長年積もりに積もった怨みを、不満を爆発させながら蜂起へと結び付けた───結果である。
−−− ―――
───しかし、怒りの権化とされる『天の使者』が──洛陽の街に現れたのだ! 民の味方だと……信じられていた飛行する物が、編隊を組んで進んでくるではないか!?
皆が皆、人生初めて聞く音、初めて見聞する物、初めて味わう……天の御遣いの力! 漢王朝を破滅に追い込もうとしている物が!
あろう事か───今、頭上を高く───飛行しているのだ!!
普通、味方ならば──自分達を怯えさせる事はしない。
無用な圧力は、恐怖を呼び、疑心暗鬼を生み出し、味方を敵に容易く変化させるのだ。 それを判らない天の御遣いでは無い筈だ。
すると、つまり───敵?
『───ザワッ!?』
───洛陽の民が、顔を青ざめて騒ぎだす!
『 ────話が違うのではないかと───!?』
ーーー
確証の無い噂を簡単に信じた洛陽の民を…………
───愚か者として嘲笑うべきか?
それとも、このような手を張り巡らせた…………
───楊奉の策謀を褒めるべきか?
蜂起に加わる多くの民が、怯えて眺めるしかなかったのは……間違いない事実! 後悔をしても──既に遅きの状態である。
正に『対岸の火事と思っていた火が、此方に向かって来ちゃた現象』………とでも言っておこうか。 『笑う角には福来たる』………とでも。 いや、根源の意味は正解だが、内容自体は真逆の答え故……違うけど。
ーーー
先程まで漢王朝を貶し、皇女の即位を反対していた者たちも……色を失い隠れたり、どこかに逃走を始め出した!
他の者も、腰を抜かしたり、身体が緊張で動けない!
喜怒哀楽の表情を……目まぐるしく変えて……覚悟をするのみだった!
だが──艦載機達から変化が起きる。
艦載機の後方より───『色付きの煙』が帯状に伸びていったのである!!
◆◇◆
【 様々な反応 の件 】
? 洛陽 都城内 練兵場 にて ?
月「え、詠ちゃん! あ、あれぇ───っ!!」
詠「う……嘘! どうやって……………っ!?」
−−−
華琳「──五色の雲………瑞雲!? 」
桂花「か、一刀! 貴方………吉兆を自分達で!?」
−−−
蓮華「────!」
冥琳「ふむ………だが、それだけでは足りないぞ!?」
−−−
風「これはこれは………綺麗ですねぇ。 ですがぁー?」
稟「ええ………これだけ終わり……では無い筈ですよね?」
−−−
アブレスト隊形(ラインアブレストととも)の艦載機から、五色(白、赤、青、黄、緑)の『カラースモーク』が噴出されて、洛陽上空に描いて行く。
色鮮やかなに並び伸びる五本の線は、洛陽の街からもハッキリと見えた。
学識ある者は、吉兆の意味を悟る!
新興宗教である『仏教』を信仰するも者は、来迎の奇跡に伏し拝む!
純朴なる者は、その瑞兆の奇跡を目の当たりにして、ただ畏れるしかなかった! 天の御遣いの絶大な力を────!!
ーーー
───大陸で譲位以外に皇帝に即位する場合、幾つかの方法がある。
例えば──三国志での後漢の献帝の後、三国で皇帝が輩出されたが、三国ともそれぞれ違う方法で皇帝に即位した。
魏では、献帝より禅譲される。
蜀は、献帝が弑逆された事(誤報)により、漢室の血筋という正統性で。
呉は──色々と経緯があるが(魏から九錫を賜り自治を認可された)、吉兆により臣下から奉じられ、それを理由に皇帝へと即位した事だ。
吉兆とは、賢君が現れる予兆を指す。 新しき皇帝の誕生を、天が祝福するために起こす、普段は見れない現象。
つまり、皇帝即位を天が頻繁に促すため、臣下が挙って推戴したと理由付けを行った訳である。
残りの二国より責められても……『天が選び出したからには、拒否は許されない。 嫌々ながらも、皇帝に即位した』と《言い訳》もできるのだ。
……… 相手に通じるかは知らないけど。
結果としては、蜀は自国の事情が事情なので、祝福して使者を送り、魏も一応認めたらしい。 この即位の前に、魏へ一時的に臣下として降った際、自治の認可を受けていた為、即位しても大丈夫という考えもあったようである。
ーーー
そんな、三国志の知識を知っていた一刀は、洛陽へ向かうと決まった時に、翔鶴達に頼んでいた。 ……………編隊での曲技飛行を行うようにと!
カラースモーク発生機の装備、アブレスト隊形の編隊飛行を行うように指示。
後から参陣した二隻には、予備器具を渡して取り付けるようにと。 そして、艦載機で作り出した吉兆(瑞雲)を、洛陽の上空で十字展開させたのだ。
───御遣い達にしか出来ない方法で、人工的な吉兆を作り出す事を!
本来は、一刀達が疑われた場合の演出であったが、その演出も……既に行う事も無いぐらい認可されている。 それに、今は一刀達よりも劉辯の即位が危ういのだ。 その為に出来るだけの事をしておきたい!
一刀は、この行動で劉辯の皇帝即位を承諾させる、最終手段にするつもりだったのだ。 それに、先にも述べたが一刀達が疑われた場合の策。 念には念を入れて準備された物ゆえ……続行が可能!
ーーー
瑞鶴「さて、次は難易度が上がるからね! 第二次航空隊! 発艦始め!」
ビッグE「アタシ達の曲技飛行を、その目で刮目しろ!!」
ーーー
空母二隻による再度の発艦!
一方の五機の編隊が、スモークを発生させながら急上昇を行ない、もう一方の編隊はスモークを発生せず、更に上を目指す!
目指すは都城の上空!
そして、スモークを発生したした編隊は、一定の上空まで来ると一機が速度を落として追尾。 少し上空で四機が四方に分かれ、その中央を最後の一機が、まん中を抜けて飛び出す! ( 上向き空中開花 )
その横では、今までスモークを出さなかった編隊が、飛行しながらスモークーを出し、巨大な五芒星を描き出した!! ( 描きもの )
ーーー
小蓮「うわぁ──凄い、凄いよぉぉぉ!」
冥琳「──あれは……北極星!?」
蓮華「……北極星って………北辰?」
ーーー
風「稟ちゃん……これで文句を言う人は、居ないでしょうねぇ?」
稟「北極星、即ち天帝を意味する物。 都城の上に描き表された意味は、天の御遣いより、劉辯皇女を天帝の代理人である事を正式に認めたという、意志表示になるのでしょう! 」
ーーー
他の者達が……天高く舞う艦載機達を見て、驚嘆の声をあげた!
だが、丁度………その頃、抜き差しならぬ事態が………進行していた。
◆◇◆
【 空の箱 の件 】
? 洛陽 都城内 練兵場 にて ?
華琳が桂花を傍に連れて、上空の様子を仰ぎ見る!
他の将は、華琳の命令により、怪我をした将兵のために動いている。
護衛を付けるようにと渋る春蘭に、『他の諸侯が軍師と二人で居るのに、私だけ護衛を付けていたら、臆病者呼ばわりされるわ。 覇王の名に泥を付ける気?』と言って、秋欄達共々、兵士の看護のために向かわせたからである。
ーー
桂花「蜂起した民達も、五色の彩雲を望み、尚且つ都城に浮かぶ北極星と祝福する天の花を実際に見れば、劉辯皇女即位の件に対して、不満を申す事などありえないと思われます!」
華琳「………桂花……貴女は疑問に思わない?」
桂花「………は?」
ーー
険しい顔で上空を眺めていた華琳は、顔を向き直し桂花に問う。
ーー
華琳「天の御遣い『北郷』は、類い希な英傑なのは認めるわ。 だけど、これが本当に正しいやり方だったの?」
桂花「───!?」
華琳「この蜂起は、北郷が犠牲者を出さない方法を取る事で、このような事態を招いた。 逆に考えれば………かの兵士達を……いえ、あの人質の将を見殺しにしてでも執金吾を討ち取れば、こんな事は起こらなかった筈よ!」
桂花「……………」
華琳「孫子曰く『兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり』……こんな悠長な救助方法で、大陸の民達を救えると思っているの? この場所の兵達を助けている間に、賊が無垢の民を襲い、命を奪っているかもしれない!」
桂花「……………」
華琳「………天の武力で事を起こし、洛陽を支配すれば……この大陸を制圧する事など早期に可能! そうすれば、執金吾の煩わしい策にも振り回されず、もっと早く大陸全体に平和が訪れる筈よ! それなのに───」
ーー
華琳としては、己の力を遥かに超えた御遣い達の力が……羨ましかった! この力があれば、大陸制覇など易々出来ると。 しかし、御遣いは……誰の命を犠牲にする事なく、着実に慎重に事を運んできた!
華琳としては、自分が持ち得ない力を持ちながら、それを威嚇だけで済まして終わらせる一刀に苛立ちを感じたのだ!
『私の志、才能、器──どれを取っても比べれる者なんか居ない! なのに、北郷は……あれほど武力を持ちながら───どうして、天の力で漢王朝を捩じ伏せ、大陸制覇への道に突き進まないの!?』
『争乱が巻き起こり、賊が跋扈し、強者が肥え太り、弱者が嘆きながら死んで行く──この修羅の国を! 唯一正す方法は、これしかないのよ!!』
煮えきらない天の御遣いの策に、華琳の苛立ちは怒りに変わろうとしていた。
だが、隣に居た軍師が…………その考えを静かに不定する。
ーー
桂花「華琳さま、その御言葉は………間違っています」
華琳「──ど、どういう事っ!?」
ーー
桂花の言葉に、苛立ちが少し抑えきれず………覇気が桂花に流れた。 だが、桂花も元の君主との体験もあり、平気な顔で話をする。
ーー
桂花「 …………もし、華琳さまに近い者が病気になった場合、どうすればいいか……お分かりになりますか? 」
華琳「────?」
桂花「何事も聡明な華琳さまなら……容易い問題です!」」
華琳は、桂花が真っ正面より、自分に諫言してくるとばかり思っていた。 それが、病人の養生方法だったため、少し気が抜けながら、的確な答えを返す!
華琳「そうね………安静にさせてから、食べやすい料理を作り、薬を飲ませる。 普通の食事や体勢なんて、取れる物ではないわ!」
桂花「流石ですね、華琳さま。 その通りですよ」
華琳「このくらい……当然の─」
ーー
桂花の褒め言葉に気を良くした華琳。 されど、頭を下げながら桂花の目が光る! 桂花の口が開き、華琳に声が掛かった!!
ーー
桂花「──では、この大陸の渦巻く情況は……どう見えますか?」
華琳「貴女──何が言いたいの?」
桂花「今の大陸の情勢もまた……異常な気象、争乱が絶えず行われ、重税により民が苦しむ。 ───正に人でいう病人と同じです!」
華琳「それは………確かに言えるわ」
桂花「しかし、華琳さまは……そんな病人を鞭で叩き、高級な食事と薬を与え、早く治りなさいと急かす有り様! それでは、幾ら高級な薬、食材の料理を与えたとこで、病人の治療は出来ると───思われるのですか?」
華琳「───そんな訳ないじゃない! 寧ろ、そんな非常識な事をすれば、どんなに軽い症状の病人も、死に至る可能性があるわ!」
ーー
自分の考えてもいない事に対して怒る華琳。
しかし、桂花の言葉は…… 華琳に対し更なる舌鋒を紡ぎ出す!!
ーー
桂花「………華琳さま、貴女の仰る事は──この例えと同じです。 漢王朝は国の要、人で言えば体の中枢に当たります。 そんな場所を血で汚し、義を蔑ろにしてまで勝利しても、誰が王朝を心底から信じる事が出来ましょうか!?」
華琳「───!!」
桂花「それに、確かに孫子兵法は早さを優先します。 しかし、その前に──孫子始計編、冒頭の言葉をお忘れでは無いでしょうか?」
華琳「『兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり』でしょう! 暗唱するぐらい覚えているわ! だから、私は───!?」
桂花「───それならば、なぜ! 一刀達に血を流させる、そのような短絡的発想を行うのですかっ!! 冒頭の言葉を読み説けば、 兵とは争いの意、これ即ち『戦を行う事、国の滅亡に通じる大事』になりますよ!?」
華琳「私は、その被害を少なくするために──」
桂花「その考えこそ──驕りです! 天の御遣いには天の使命があり! この地の事は、私達、諸侯側の権利であり義務です! それを……御遣い達に一任し、御自分が楽をして……どうするおつもりなのですかっ!? 」
華琳「─────!」
桂花「確かに犠牲は減ります。 しかし、御遣いの一刀達に血を流させ、争いの責任を被せて、自分達は無傷で領地を治める。 こんな領主、いえ、覇王に───誰が生涯の忠誠を捧げて支えましょうかっ!? 」
華琳「………………」
ーー
唖然とする華琳に、桂花は膝を地面に付き……頭を垂らす。
御遣いに対する苛立ち、桂花の 癇に障る(かんにさわる)言葉に、華琳の怒りが頂点に達した。 手許には、兵士より奪っておいた剣を握る!
その剣先は、桂花の顔へと───向けられた!
ーー
桂花「………華琳さま。 この意が通じなければ、どうぞ……私の首を刎ねて(はねて)下さい。 君主に楯突く事は大罪、臣下としては当然の報い。 誰も、華琳さまに対して、批判的な意見など述べないでしょう………」
華琳「…………そうね。 君主の意見に諫言する事は忠臣の役割。 しかし、諫言ばかりではなく、我が覇道の道まで見下す行為は許しがたいわ! ───覚悟なさい! 桂花!!」
桂花「私は……前に仕えていた主の……最後の願い事を果たしました。 この首は華琳さま……貴女に捧げます! されど、私の心は──前の主の心と共に、天の御遣い『北郷一刀』の傍へ───!!」
ーー
しかし、桂花の様子に動揺は無い。
怯える様子もなく、瞼を閉じて従容な態度を示す桂花。
その様子に、華琳は興味を抱いた。
ーー
華琳「いい度胸ね………。 でも、その前に一つ聞きたいわ。 貴女の前の主とは──いったい何者なの? 貴女のような忠臣を従え、天の御遣いと親交があるような言い草! 幾ら考えても──そのような諸侯など思いつかない!」
桂花「…………………………」
華琳「──素直に答えれば、処刑を中止してあげる! 答えなさい、桂花!」
桂花「……………………」
華琳「───その者の名を答えるのよ!!」
桂花「……………………」
ーーーーー
ーーーーー
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
書いていたら、いつの間にか殺伐な空気になってしまい、この後どうしようかと……考えている最中の作者です。 義輝記の続きもあるのに…………
一応、次か、その次で、この章?の話は終わらせたいと思います。
ただ………ですが、作者が私用のため、九月から十月にかけて、かなり忙しくなるため、一週間更新はできそうもありません。
数週間に一回っていうのもあるかも。
なるべく、早くあげるように致しますので、よろしくお願いします。
説明 | ||
次回からの投稿は、当分の間不定期になります。 | ||
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コメント | ||
雪風提督 コメントありがとうございます! 諫言を『嫌み』と取るか『教え』と取るかは……上に立つ人次第。 さて──ここの華琳は、どう反応するのやら。(いた) スネーク提督 コメントありがとうございます! 桂花の活躍は更に続いていきますよ! ………この難局を越えれればですけど。(いた) 忠臣、主君に諫言して怒りに触れ手打ちにされても恨むなかれ・・・。と言われてますが、主君に諫言は一発勝負・・成功か失敗か・・。そして忠臣としての行動も様々・・・by黄権(雪風) ( ▼ω-)桂花の本気が見られるとは嬉しいことだ…おや?こんなところにスモークグレネードが落ちt(ブシューーーー(スネーク) 天龍焔提督 お褒めのコメントありがとうございます! 深海棲艦も黄巾の乱から出てきますのでw 仕込みも済みましたので……徐々に出していきますよ! (いた) 荀ケとしては、献帝を支え、丞相の地位で忠義を尽くす曹操が、頼りになる忠臣に思えたのでないかと。 もし、劉備配下になって貰えれば助かるんですが、名門の出、しかも地盤が許昌の彼に、劉備へ仕えるのは難しいかもしれませんね。(いた) クラスター・ジャドウ提督 御指摘ありがとうございます! 作者も調べましたが……死因は不明。 ただ、『魏氏春秋』なる歴史書に『空の器を渡され意味を覚り自殺した』という要旨があるそうです。 荀ケは人材登用にも才を発揮し、曹操を助けたようですが……仰る通り価値観の相違で失脚したようです。 (いた) …まぁ、荀ケにしてみれば、漢王朝が蔑ろにされるのは不本意だったので諫言したら、不評を買って閑職に回され、そのまま失意の内に死去、と。でも実際には、更に空箱を送り付けて心の傷を抉る様な真似までは、曹操もやらなかったそうですが。…少々暴論かもしれませんが、史実の荀ケの目的を考えれば、実は劉備配下になるべきだったのかも?(クラスター・ジャドウ) …諫言はしただろうけど、空箱は演義では?実際の所は、荀ケは曹操に心酔しきっていた訳では無く、曹操の手で漢王朝を復興して貰う事が望みだった。しかし曹操にとって、漢王朝も皇帝も体の良い利用対象でしかなく、これで荀ケと曹操の主従関係に齟齬が生じ・・・みたいな感じだったらしいですね。(クラスター・ジャドウ) mokiti1976-2010提督 コメントありがとうございます! 原作よりも史実に近い?桂花です。 果たして……この後……どうなるのか? この小説は、何時になったら黄巾の乱に入るのか? もう暫く……お待ちを。 (いた) これぞ荀文若の真骨頂ともいうべき所ですね。後は華琳がそれを受け入れるか切り捨ててしまうか…華琳の器が試される所ですね。(mokiti1976-2010) Jack Tlam提督 コメントありがとうございます! 史実も諫言で空箱です。 作者も改めて読み直してみれば、史実に近くてびっくり! 華琳に厳しい桂花を書いてもいいかなと軽く考えた結果がコレでした。 覇王様と忠臣、その後は……どう動くのか。 (いた) 桂花が本気を出したな。こうやって諫言して、空箱に繋がったんでしたっけ。確かに華琳の覇道は有効ではありますが、その実多くの血を流し、痛みを強いる対処療法に過ぎない。その真逆とも言える思想を持つ一刀は、一度はそれで華琳を殴っている。ここでは桂花がその役目を果たしたようで。これが忠臣の姿ですね。覇王なら、家臣の拳くらい受け入れてみろ。(Jack Tlam) |
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