ゼロの使い魔 AOS 第28話 YOUR WORLD |
握りつぶせ!!そう心の中で唱えた、ミス・ロングヒル。
ラ・ヴァリエール公爵とエレオノールを握っているアース・ハンドに力が入る。
これで二人は握りつぶされる・・・体中の骨を砕いて、体中の内臓がぐちゃぐちゃにすり潰される。
二人は今ここで死ぬ、ミス・ロングヒルは表情を変えずにアース・ハンドを眺めている。
だが・・・急にミスロング・ヒルの表情が一変する。
(・・・・・・な!?)
「・・・ぐっ!?うぷっ!!」
アース・ハンドが崩れる、その姿を再び土くれに戻す。
アース・ハンドの拘束から逃れたラ・ヴァリエール公爵たちは地面に落下する、なんとか無事のようだ。
ミス・ロングヒルの精神が乱れてアース・ハンドを維持できなかった、いったい何が起こったのか?
「うぇ・・はぁ・・はぁ・・いったい何が・・サイト?、今のはあんたが・・・」
ミス・ロングヒルが足元を見ると、サイトが下からこちらを睨み付けている。
彼の右手がミス・ロングヒルの足を掴み、いままで以上の輝きを放ちながら・・・。
ミス・ロングヒルは大きく後ろに飛んで、サイトから距離を置く。
「今のは・・サイト、あんたが・・・ぐっ・・・・おえぇっ!!」
ミス・ロングヒルは嘔吐する、体から湧き上がる吐き気を堪えきれない。
「また手が光ったぞ!」
「あのねーちゃんが吐いている・・やっぱり、魔法で攻撃されたんだ!」
「あの光を見るな!あれを見るとやられちまうぞ!」
「いや、俺は気持ち悪くならねぇよ・・ただ・・なんて言うんだろう、すごく悲しくなってきやがる」
「でも・・すごくきれい・・・」
ミス・ロングヒルの様子を、周りでを見ていた住民たちからも声が上がる。
再び目にしたサイトの手の輝きに魔法の攻撃だ!きれいな光だ!などとみんなが口々に騒ぎ出す。
(何なんだいったい・・サイトの手から私に流れてきたのかい?)
(すごく悲しくて・・どうしようもない後悔と激しい怒りの感情が私に流れ込んできたような・・・)
(サイトは魔法が使えたのか?・・・いや、あれは魔法なんてもんじゃない)
(あれは・・呪いだ、いや、ちがう!あのルーンが呪いそのものなのかも・・・・)
使い魔のルーンを見たのは初めてではない、そもそもあんなに禍々しいものではなかったはず。
精神を攻撃する魔法やマジックアイテムが無いわけではないが、こんなに気持ちの悪く恐ろしいものは初めてだった。
(まるでエルフの先住魔法のようだ・・・サイトあんたはどこの世界から召喚されて来たんだよ・・・)
(そして・・そんなになってまで・・私と戦う事になってもそいつらを守ろうって言うのかい・・・)
(・・・)
(・・・こいつはどうやら)
ミス・ロングヒルとサイトは睨み合う、地べたに倒れこみながらもサイトは譲らない。
「まいったよ、私の負けだよ」
「・・えっ・・今・・・・何て?」
「そいつらは殺さないよ、サイト」
「本当か・・姉さん・・・・本当に殺さないでくれるのか・・・・」
「殺さないよ、ただし、けじめはしっかり取って貰うよ」
「・・けじめ・・・・?」
「私とあんただけの問題じゃないのさ、分かるだろ?」
ミス・ロングヒルが流し目で周りの住民たちを指す、私とサイトだけが許しても意味が無いだろ、と。
「いいよ・・それでも・・殺さなければ・・いい・・・・ルイズが泣かなければ・・い・・い・・」
ミス・ロングヒルが二人を殺さないと約束した、その言葉を聞いてサイトは意識を落とした・・・心底安心した表情で。
才人が気を失い、周りがざわめきだす。
いったいどうなったんだ?こいつらをもう一度つるし上げるか?とざわめきだすが・・・。
「あんたたち!!こいつらは殺さないよ!!その代わりこの貴族さまたちにいっぱい償ってもらうことになったから!!!」
ミス・ロングヒルが、大声でこの場の雰囲気をけん制した。
「誰か!!ここに机と紙をもってきな!!紙はいっぱい持ってこい!!」
ミス・ロングヒルの言葉に戸惑う住民たち、殺さないって?償いっていったい?そんな声が上がりだす。
「察しが悪いね!!金だよ!!こいつらから金で償ってもらうんだよ!!いいから紙を持ってきな、欲しくないのかい貴族さまがくれるお金を!!」
その言葉の意味をやっと理解した人たちが駆け足で走り出す、どうやら紙を取りに行くようだ。
ミス・ロングヒルはそれを確認してから、杖を構えたままラ・ヴァリエール公爵とエレオノールの前まで近づく。
「状況は理解できているよね、貴族さま?」
「・・・うむ」
「・・えっ!?どういう事ですか、お父様?」
「はぁ・・・あんたはもうしゃべらなくていいよ・・ま、そういう訳だ・・たくさん譲歩してもらう事になる訳だけど文句はないね」
「・・分かっている、だが・・この事は一体どうやって?」
「一応、自然災害って事で落とし前をつけるつもりだけどね、もちろん償いの額しだいになるけどさ」
「助かる」
「お父様!命惜しさにこいつらの言うことを聞くのですか!いけません!!」
「・・・・エレオノール」
「あのね〜・・、まだ状況が分かってなかったのかい?お馬鹿だと思ってはいたけど・・天然なのかい、あんた?」
「な!?何ですって!!また私を馬鹿呼ばわりして!!」
「・・いいか、私も周りの連中もあんたらを殺してやろうと思っているんだよ・・今でもね」
「それは・・・」
「ただ、うちの弟がどうしてもあんたらを殺すなって駄々をこねるんで仕方なく見逃してあげるって言ってんの・・・ご理解いただけたかしら?」
「ルイズの使い魔が・・・?、何で・・・?」
「あんたらが死ぬとご主人様が悲しむからだとさ、詳しくは自分で聞きなよ・・・ん?来たか」
ミス・ロングヒルとエレオノールが話している間に、誰かが机と紙を持ってきた。
それを確認するとミス・ロングヒルは話すのをやめて、二人の前に机と紙を設置するように指示を出す。
「いまからあんた等に書いてもらう内容を説明する、よ〜く理解して書くんだ、いいね」
「破壊された町を全て直す事、負傷者の治療をすぐにする事、そして・・・見舞金をこの町すべての人間に払う事」
「ちょっ!?ちょっと待ちなさい!全員って一体いくらにな・・・」
「はい、はい、ストップ!続きはまだあるんだから、もう少し静かにしときな」
「そっちの娘は分かってないようだけど、あんたは分かるだろ?この状況を黙らせるのにどれくらい必要かがね?」
「具体的には幾ら出せばいいのだ?」
「まぁ、貴族さまにはあたしら庶民の感覚が分からないだろうからね〜、それはこの後に話合って決めようか」
「・・・分かった、続けてくれ、それだけではないだろう?」
「話が早くて助かるね・・・さて、ここからが本命だ。この王都の外にもう一つ新しい区画を作る、その資金と許可をラ・ヴァリエールでまかなって貰う」
「一体、何のためにそんな事をするのだ?」
「この王都はとても狭くてね、住人同士のトラブルが絶えない。あんたらは税を取り立てるだけでそんな事は気にしていないだろうけどさ」
「今回の事を口止めしても、おそらくは洩れるだろうね。そこで今回の帳尻あわせにこの王都のために一肌脱いでもらおうってわけ、平民に対して援助してくれる心優しい立派な貴族さま・・・てな具合にね」
「情報が洩れた時のための保険ってやつかね、もともとはサイトの・・ルイズの使い魔の計画だったそうだけど、乗っておけば私もサイトもいざって時にあんた等をかばってあげれるんだけどさ・・・」
「ルイズの使い魔がか?ワシらをかばえるのか?」
「サイトはこの町ではかなり名が通っているからね、なんでも子供たちの英雄らしいよ・・・くくっ。それに今回の件でだいぶ恐れられたみたいだしね、ほら」
実際に住民たちは四人には近づかずに遠巻きに囲んで様子を伺っている、恐れているのは先ほどのサイトのルーンから発した光だった。
嘔吐をする者や泣き出す者も沢山いた、サイトを神々しいものを見るような目で見つめている者もいた。
それほどまでの才人の印象は強かった。
「理解してもらえたかしら?で、どうするのかしらね?選択肢は無いとは思うんだけどさ、貴族さま?」
「分かった・・・言うとおりにしよう、この紙に全部書くのか?」
「そう全部だ・・・そして、最後に女王陛下と自らの杖に誓いますと一筆入れること・・・必ず書くんだ!いいね」
強く念を押して、ミス・ロングヒルは誓約を紙に書かせていく。
全てが書き終わり入念に内容を確かめて、ようやくひと段落ついた。
「それじゃあ動くとするか・・・ラ・ヴァリエール公爵、水のメイジと医者を呼んできな。死人がいるか分からないけど、急いだほうが都合がいい・・・分かるだろう?」
「分かった、早急に手配する」
ミス・ロングヒルに返事を返すと、ラ・ヴァリエール公爵は王宮のほうに走っていった。
「ちょっと!なぜ私がここに残らなくちゃいけないの!話はついたんだからもういいでしょう!?」
住民たちの中に一人残されたエレオノールがミス・ロングヒルに解放するように怒鳴りつけるのだが。
「あのね〜・・二人で行かせるわけないでしょう!あんたは人質なのよ、暇ならサイトの手当てでもしていな。簡単な水魔法ぐらい使えるだろ、ほれ」
「ちょっ!?・・・くっ・・・なんで私がルイズの使い魔なんかを・・・」
ぶつぶつ文句を言いながらもエレオノールは才人に回復魔法を掛ける。
(そもそも何で私がこんな目に合わなくちゃいけないのよ・・・ルイズがこの使い魔の事を教えなければこんな所には来なかったのに)
(あのちびルイズのせいよ!そしてこの使い魔のせいよ!こんな事に巻き込まれたのは全部この使い魔が居たから・・・)
「サイトのせいで私がこんな目に・・・ってな所かな。あんたさ〜思っている事が顔に出ているよ、ついでに性格の悪さもね」
「なっ!?そ・・そんな事、思ってないわよ!」
「命を掛けてあんたを守ってあげたのにね・・・この子は本当に女を見る目がなっちゃいないわ。」
「優しさと思いやりが足りないね、あんたさ・・・・・・男にモテないだろ?」
「はぁ!?何よそれ!私には婚約者もいるし、あなたよりはモテるわよ!!」
「婚約者ね・・・どうせあのお父様あたりが持ってきたんだろ。それにしても婚約者か〜・・こんなのと結婚させられるとは、不憫な男もいたもんだ」
「あんたみたいに性格が悪い女に言われたくないわよ!どうせ恋人もいないんでしょうに、あなたのほうが不憫じゃなくって!?」
「そうだね〜私には婚約者はいないからね〜・・愛してるって毎日言ってくる七つほど年下の男が居るくらいかしらね〜」
「ええっ!?・・・愛してる?・・・年下の男?」
「あんたは毎日言われてるのかい?愛してる・・・ってさぁ?」
ふっ!と勝ち誇ったような顔で問いかけるミス・ロングヒルにエレオノールは・・・
「いっ・・言われているわよ、別に毎日じゃあないけど!」
「ふ〜ん・・・・・・どうせお父様あたりにだろ」
「・・・」
・・・図星だった、正確にいえば最近はお父様にすら言ってもらっていない・・・すこし涙が出てきた。
「ちょっと・・泣くほどの事でもないだろうに、悪かったわよ。あんたさ・・・本当に打たれ弱いね」
「ぐっ・・あっ・あなたみたいに趣味は悪くないんだから!年下の男なんて信じられない!あなたより七つも下ってほとんど子供じゃない!」
「はあ〜・・年下の男が趣味が悪いってね〜・・あんたは本当にお子様みたいだね。男に対してだいぶ理想が高いみたいだね」
「別に高くはないわよ!女性に対して何にも出来ない子供なんてありえないってだけで」
「・・・年下の男はいいわよ、自分の好みに育て上げることが出来るんだからね」
「えっ・・・」
「ガキだから何も出来ない知らないは当たり前だけどさ・・・知らないからこそ一から自分の理想の男に育てることが出来る、自分を好きになるように誘導しながらね」
「・・・!?」
「私のところのも最初は気の利いたことが言えないガキだったんだけどね、私の教育で毎日のように愛してるって言えるようになったしね・・・まだまだ仕込む予定だよ、楽しいよ本当にね」
ミス・ロングヒルの言葉にエレオノールは衝撃を受けていた、年下の男という存在についての価値観が狂うほどに。
エレオノールは家柄も良く少しきつめな印象を受けるが、間違いなく美人のカテゴリーにはいる外見をしていた。
それでも彼女はモテなかった・・・性格のキツさも災いしたのだが、男性に対しての理想が高く近づく男たちを次々に袖にしていき気がつけば二十六歳・・・いろんな意味で男が寄り付かなくなっていた。
結婚適齢期をはるかに越えてしまった娘を哀れんだ父に婚約者を紹介されたのだが、正直言って関係はかなり宜しくない。
もはや男性や結婚に対しての嫌悪感すら抱いていたエレオノールだったが、目の前の年下の男がいると言う女の言葉に感銘に近いものを感じていた。
(・・・なんてことなの・・理想の男を一から自分で育てる・・自分を好きになるように・・それなら私でも・・いや・・まず年下の男を確保するところから・・)
(・・・年下の男・・さっき私を命がけで守ろうとしたこのルイズの使い魔・・どう見ても私より年下だし・・死にかけで私を・・あれ?この子、私のこと好きなのかしら・・私の名前を呼び捨てにしていたし・・)
「・・・」
「まあ・・あんたの恋愛感については何も言わないよ。そのままサイトの介抱をしっかり続けてちょうだい、私はみんなにあんた等との約束を説明してくるからさ」
そう言ってミス・ロングヒルはこの場に才人とエレオノールを残して離れていく、そして残されたエレオノールは・・・
才人の頭を膝の上に移動させて水魔法を掛けていた、さきほど自分を守ってくれた少年を今度は自分が守るように。
今回の事件の真相は洩れずにひとまずは自然災害という形で幕を閉じた、見舞金をかなり多めに出したのも原因だが奇跡的に死者が出なかったのも大きいだろう。
あの事件から三日が経った、そして今日は王都トリステインのホテルの一室で拡張計画の大まかな調整を行う。
参加者は才人とミス・ロングヒル、ラ・ヴァリエール公爵とエレオノールの四名・・・の予定だった。
「え〜と・・・お父様、エレオノール姉さま、お久しぶりです・・その・・お元気でしたか?」
「うむ、会いたかったぞルイズ。この間はほとんど話しができなかったからな、こんな形で会えることになるとは、なんと喜ばしい!」
「・・・」
「私もです!家を離れてからさびしい思いをしていたので今日は二人に会えるなんて・・とても嬉しいです、お父様!」
「そうか、今日は王都に一泊していく予定だ。カリーヌとカトレアが居ないのは残念だが今日は家族水入らずで過ごせるな」
「・・・お父様、お仕事を先に済ませてからですよ。で、ルイズ・・・なぜあなたがここにいるのかしら?」
「えっ!?そっ・・それは、お父様たちと会うからサイトが来て欲しいって・・・」
四名で拡張計画の調整と交渉だとエレオノールは聞かされていた、聞かされていたのだが当事者である四名以外がこの場にいる。
「ルイズ様、それは私のほうからご説明します」
そう言って立ち上がったのはミス・ロングヒルだった。
「まずは本日はお集まりいただき、ありがとうございます。すでに面識があるとは思いますが改めて自己紹介をさせていただきます。ミス・ロングヒルと申します。どうぞよろしくお願いします」
「そして、こちらが本日話し合う計画の立案者であり責任者でもあるヒラガ・サイトです。サイト様、皆様にご挨拶をお願いします」
「えっ・・はい、えっと・・平賀才人です。ルイズの使い魔をやっています。その・・こないだは色々あったけど・・今日はそれを無しにして話しましょう・・・・・・これでいいの?」
「はい、よろしいと思いますよ。それでは次に・・・」
「あっ!?ちょっと待って、もう一つ言い忘れていた事があった。え〜と・・・エレオノールさん」
「なっ、何よ!?」
「その・・・この間は、助けてくれてありがとう」
「・・・え!?」
「その・・あの後・・俺のことを一生懸命介抱してくれていたって町の人たちから聞いたんだ、だから・・・ありがとう」
「それは、別にあな・・」
「はい!ストップ!・・・失礼、お二人の個人的なお話はお仕事の後でしていただければと。宜しいでしょうか、エレオノール様?」
脱線しかけた話を元に戻すミス・ロングヒル、才人は反省しつつも、やっぱり姉さんは秘書とかに向いてるよな・・と感心したもよう。
「では最後にご紹介しますのが、今回に拡張計画の最高責任者であるルイズ様です」
「はぁ!?ルイズが!?最高責任者!?あなたは一体何を言っているのかしら!?」
「エレオノール様、それは今からご説明します。落ち着いて聞いていただけますか?」
この展開を待ってましたとばかりにミス・ロングヒルが慌てているエレオノールを制して説明しようとする。
今回の件とまったく関わりのないルイズをこの場に呼んで最高責任者にした理由とは一体?
「今回の交渉ではそちらはお二人とも貴族で私たちは平民二人・・・後々の誤解を招かないためにもこちら側にも貴族の方をお呼びしました」
「聞けばルイズ様はこちらの代表のご主人様という事で・・・こちら責任者の上の立場ですから、私たちの最高責任者という立場になりますね。ご理解いただけましたか、エレオノール様」
「ルイズ様がラ・ヴァリエール公爵のご息女だという事は存じ上げております。交渉で相対する立場になりましたが私情を持ち込まずに有意義な話し合いに致しましょう。よろしいですかルイズ様」
交渉で階級を盾にした圧力を無くすため、使い魔である才人のご主人様だからとそれらしい理由を挙げるミス・ロングヒルだったが内心では・・・
(決まった!最高のカードをここで切れたね。溺愛する娘がこの場に居る事で確実にアドバンテージを握ったはずだわ。ふふっ・・あんな凶行を娘に知られたくないでしょうね、どうするね〜お父様?)
(・・・そう来たか。私たち・・いえ、ルイズはお父様に対する抑止力ってこと・・・圧力を掛けているのはどっちよ!)
「ふふっ・・ご理解いただけたみたいですね。それではルイズ様・・・お父上との交渉になりますが、ここは私情を挟まずに良い条件を勝ち取りましょう。サイト様も私も頼りにしています」
「わかったわ!お父様!・・じゃなかった、ラ・ヴァリエール公爵!王都を拡張するお話を始めましょう」
「うむ!それでは始めようか。ワシから良い条件を引き出せるか楽しみにしてるぞルイズ!」
交渉は始まったが一方的にルイズ側・・・いや、才人側が有利に話し合いを進めていた。
ルイズたちは事前に打ち合わせをしていた、拡張計画の概要やそれについてのメリットなどをミス・ロングヒルがルイズにわかりやすく説明していた。
時折つまることもあったがそれとなくミス・ロングヒルが救いの手をいれて終始こちらのペース、投資額・期間・人材・出来る限りの譲歩を引き出していく。
その光景を見てエレオノールは頭を抱えていた、ラ・ヴァリエール公爵がルイズに手心を加えているのがまる分かりだからだ。
(お父様・・・この状況を明らかに楽しんでらっしゃる・・ああっ!なんでそこで妥協するのよ!・・いつものお父様なら・・って相手に助け舟を出してどうするのですか!?)
ラ・ヴァリエール公爵はこの国の大貴族である、他の貴族たちとの交渉ごとは日常茶飯事で何十年もこういう場面を経験してきた。
だが、自分の子供と本格的に交渉をするのは今回が初めてだった。
舌戦で本気をだせばルイズなど相手にもならないのだが、愛娘が言葉足らずに自分に挑んでくるこの状況と頼りなかったルイズが曲がりなりにも集団の上に立って交渉をしている姿を見て彼は・・・
とても嬉しかったし、とても楽しかった。
(くくく・・・ある程度は効果があるとは思っていてけどね。予想以上の効果じゃないか!ここまで娘に甘いとはねぇ。このまま行けばすべてがこちらの思惑通りに行くね・・・笑いが止まらないよ)
にこやかな営業スマイルを崩さないミス・ロングヒルだったが、内心は勝ち誇るような大笑いをしていた。
全ての条件を調整し終わり緊張がとけている、使命をはたして満足げなルイズとルイズとの交渉を終始楽しんでいたラ・ヴァリエール公爵。
だが・・・そんな空気の中、最後にエレオノールがミス・ロングヒルに反撃をした。
「最後に一つ私から提案がありますが、発言をしてもよろしいかしら?」
「はい、まだ足りない事があればなんなりと」
「監査を入れてないわ!第三者による監査機関を設ける事を提案します、これだけの大金が動くわけですから絶対に必要だと思います・・・ねぇミス・ロングヒル?」
「もちろんですわ、公正に資金を運用するためには必要だと思いますし。そうですね・・・こちらで第三者をうまく選定しま・・・」
「私が監査機関を立ち上げてしっかり査定しますから、ミス・ロングヒルには事業のほうに力を注いでいただきますわ!よろしくて?」
「ちっ・・・・・・はい、ありがとうございます。エレオノール様にはお手数をおかけしますがよろしくお願いします」
最後の最後で釘を刺されたミス・ロングヒル、当然中抜きをする気まんまんだったミス・ロングヒルには予想外の手痛い反撃になったもよう。
今度こそ全ての交渉が終わり、解散の運びとなった。
ラ・ヴァリエール公爵は王宮に用があると言ってこの場から離れ、ミス・ロングヒルは決定事項を東地区の住人たちに説明してくるという事でこの場から離れた。
現在は才人とルイズとエレオノールの三人がこの場に残っている。
「ルイズ〜〜〜〜!!やっぱりお前ってスゲ〜よ!!あんな怖いおっさんからあれだけ良い条件を引き出したんだからな!!」
「ちょっと!私のお父様をおっさん呼ばわりしないでくれる!」
「ああ、ワリぃな。でもやっぱり凄いぜ!お前の父さんって大貴族で交渉ごとはベテランなんだろ!?こっちに有利な条件をほとんど引き出したんだからな、お前に頼んでよかったよ」
「褒めすぎよ・・・でも、私にかかればこんなものかしらね。それにしても・・困った時に頼るのは構わないけど、あんまり頼りすぎるのも困るわよ。私だっていつも暇じゃないんだからね」
「・・・面目ねぇよ。もう少しお前の力になれればいいんだけどな・・・今回も助けてもらったな」
「まったく・・別に気にしていないわよ。まぁサイトも私を見習って立派な使い魔になれる様にが・・・い!痛い!ひはははは!はにするんですか?へえはま(何をするんですか?姉さま)」
才人に褒められて調子に乗るルイズだったが、話の途中でエレオノールの拳骨を喰ってさらに頬をひっぱられる。
「こ〜〜の〜〜ちびルイズ〜〜!何も分かってないのに調子に乗ってるんじゃないの!!」
「ひはい!ひはい!へれおねーすへえはま!ゆるひへくははい!(痛い!痛い!エレオノール姉さま!許してください!)」
「まったく・・・もういいわ、それよりあなたの使い魔と話があるから、あなたは席を外していなさい」
「うう〜・・わかりました。サイト、姉さまに失礼のないようにするのよ」
そう言ってルイズは部屋から走って逃げだした・・もとい、言いつけ通りに二人を残してこの場から離れた。
「ふ〜・・悪かったわね、私の妹が見当違いに好き勝手言ってたようだけど。ルイズにも困ったものだわ・・・それで私に話があるんじゃなくって?」
「・・えっと、話って・・・?」
「さっき私に言ってたでしょ・・・その・・・ありがとうとか・・・その続きよ!」
「ああ・・最後まで俺のことを介抱してくれてたって聞いたんだ。その・・ずっと俺のことを抱きしめて離さなかったって・・・だから、守ってくれてありがとうって言いたかったんだ」
「なっ///・・誰よ!誰がそんな事を言ったのよ!抱きしめて離さないなんてそんな事・・いや・・していたけど///・・・とにかく誰がそんな事を言ったのよ!!」
「えっ?姉さんが・・ミス・ロングヒルさんがそういう風に言っていたんだけどさ、私がこの子を守るみたいな感じで離さなかったって・・・もしかしてからかわれてただけ?」
ミス・ロングヒルの言っていた事は事実だった、もっと言うと病院に運び込まれた才人にずっと付き添っていたのだがそこまではばれていないらしい。
年下の男について深い感銘を受けていたエレオノールは才人が自分に気があるのだと思い込んですっかり恋人気分になっていた、一晩たって冷静をとりもどしたが事実は戻らない。
実際は大勢にその現場を見られていたのだが、エレオノールは才人に夢中で周りの視線に気がついていなかった。
「あれは///・・お父様の不始末を片付けるためというか・・あなたが死にそうだったから夢中でというか・・ルイズの使い魔を死なせたら妹に悪いというか・・・」
「・・・理由はどうでもいい。俺の命を助けてくれたことには変わりないんだから!だから・・・ありがとう」
「あなた・・・・・・サイトでよかったかしら?サイト・・先に私を守ってくれたのはあなたよ。覚えているかしら?」
「覚えているよ・・・あの時は無我夢中で飛び込んだ」
「そう・・わたしの名前を呼び捨てにしたのも覚えている?」
「うん・・・あの時は余裕がなかったから、その・・ごめんな・・・えっ?」
あやまる才人の言葉を遮るように才人の体を抱き寄せる、身長差があるので才人の顔がエレオノールの胸に埋まるが彼女は気にせずに強く抱きしめる。
「サイト・・守ってくれてありがとう。私・・本当に怖かったんだから・・」
「・・・うん」
「たぶん殺されていたでしょうね・・いえ・・もっと酷い事をされていたかもしれないわ。」
「・・・」
「その・・怖くてお漏らししちゃったんだからね・・そのくらい怖かったんだから・・」
「・・・そっか」
「サイト・・私のことをエレオノールって呼んで・・お願い」
「エレオノール」
「もう一回呼んで」
「エレオノール」
「エレオノールか・・・いいわね。サイト・・あなたはこの世界と全く違う世界からこのハルケギニアに召喚されてきたのよね?」
「うん・・魔法も無くて貴族と平民も居ない世界から来たんだ。日本って言うんだけどね、そこで学生をしていたんだ」
「そう・・・全く別の世界のようね。こっちの世界が辛くない?元の世界・・その日本に帰りたくないの?」
「わかんねぇ。たまに凄く帰りたくなったりもするけど、こっちの世界であった人たちと居るのも楽しいかな?だけど・・・」
「だけど?」
「この世界の階級制度とかその・・貴族とかがどうしてもなじめねぇよ。俺の世界ではかなり前に無くなっているからさ・・こっち世界のエレオノールに言うのもアレだけど」
「・・・サイト。私の話をよく聞いて」
「・・・」
「日本とはぜんぜん違う世界に来ているあなたの苦労は私には理解できないわ。でもね・・・もうあなたはこの世界で生きているの。どんなに辛くてもそれは変わらないわ」
「・・・」
「だからこっちの世界とか言うのはそろそろ止めにしなさい、だってもうこの世界はサイトの生きている世界・・・」
───あなたの世界なんだから
「そっ・・それにサイト一人じゃないわよ!私だってあなたを守ってあげられるんだから!だから・・その・・私はサイトが・・・」
「・・エレオノール」
「だから・・サイトが私の事を・・・な様に・・私もサイトの事を・・・その・・・」
「愛しているよ、エレオノール・・・本当にありがとう」
「・・・えっ!?・・・愛しているって///その私も・・・サイトの事をあ・あい・し・・て・・うう〜///・・・私も愛している!!」
そのままお互い抱きしめあった・・・さきほどよりも強く、心をこめて抱きしめる。
愛しているの言葉はミス・ロングヒルの教育の成果ではあるが、「LIKE」と「LOVE」の使い分けが出来ていない才人くん。
ルイズと同じで基本的に素直になれないエレオノールだが、姉としての経験値の差だろうか・・・ツンデレの切り替えがかなり早い。
お互い思うところは違うのだが、熱い抱擁を交わしてから一時間ほど時間がたった・・・
「あの〜・・エレオノール?いや・・エレオノールさんそろそろ離れませんか?」
「やっ!」
「いや、もう部屋のチェックアウトの時間が過ぎているというか・・・その・・次のお客さんがもう入ってるんですが?」
「いやっ!もうちょっとこのまま」
二人はまだ抱き合っていた・・・チェックアウトの時間は当に過ぎており次のお客がこの部屋で会議をしている真っ最中である。
「なに〜あれ?貴族と平民がさっきからずっと抱き合ってるんですけど・・・」
「禁断の恋ってやつかしら・・早くキスしたりしないのかしら、男のほう攻めなさよ!」
「ちょっとジェシカ!会議中よ!せっかく奮発して高いお部屋を借りたのよ、こっちに集中しなきゃダメよ」
「いや、お父さん・・・そもそもなんであたし等が借りている部屋に他の人がずっといるのよ?しかもラブラブしてるとか・・」
「ちょっと耳を貸しなさい・・・なんでもこっちの邪魔をしないし、ここのお部屋のお金を全部だすから居させて欲しいって言ってるのよ」
「マジで・・・お金まで出して見られたいなんて・・・貴族さまの趣味は私らにはわかんないもんだね。ちょっとシエスタ!あんたは見すぎだよ!」
「はあ〜・・都会って凄いですね///私の村では見られながらなんて・・・」
「いや、私も初めて見たわよ・・・その・・露出プレイってやつ?」
才人たちの次に入った団体はほとんど女性だらけだった、どこかの酒場の人間だろうか?全員がかなり若い。
そして好奇の視線を一手に受ける才人だった。
「ふぅ〜・・もう帰ろう、エレオノール・・そのいつでも抱っこしてあげるからさ、なっ?」
「じゃあ、キスしてくれたら帰る」
「えっ?今なんて!?」
「キスしてくれたら一緒に帰るって言ったのよ!もういいわよ!サイトはジッとしていなさい・・やっぱりここは私がリードしなくちゃ!」
「えっ!?ちょっと待って!!誰か助けてくれよ!!」
エレオノールが身長差を生かして才人を床に組み伏せる、さすがに貞操の危機を感じて周りに助けを求める才人だったが・・・
「「「「「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」」」
「女主人の鬼畜攻めだわ!」
「えっ!?えっ!?これってセック・・」
「こんな明るいうちに大勢の前でそんな事をするなんて・・都会って凄いわ///」
黄色い大歓声が上がり、全員が二人を凝視している・・・だれも止めようとしなかった。
興奮しているエレオノールが才人の服を次々に脱がしていったが、途中で店長らしき男とホテルの従業員たちに止められて才人の貞操は無事守られたらしい。
興奮が収まらずに暴れているエレオノールに対して、才人は最終手段として(ほっぺに)キスをしたら今度は気絶(昇天)してまたひと悶着に・・・
拡張計画は紆余曲折があったが結果的には、最大の難関を突破できたようだ。
この先は街の建設や運用作業などがまだまだやる事は沢山残っている、才人が目指すのは新しい街なのか?それとも新しい秩序なのか?
まだまだ味方は少ないけれど、姉さんもエレオノールも親方たちも才人に味方をしてこっち世界で助けてくれるはずだ。
いいえ、才人の世界でみんなと助け合って生きていけるはず。
「最近、平民の間で妙な動きがあるみたいです。どうしますか・・・・・様?」
「引き続き情報を収集するように、どんな些細な事でも聞き逃す出ない!・・家にとって危険な存在は早めに潰さねばならん。以上だ!」
「はっ!」
そして、新しい舞台と新しい役者たちがこの国の歴史に現れるのか・・・?
....第28話 YOUR WORLD 終
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執筆.小岩井トマト
説明 | ||
何かを守ろうとした少年がいた。 少年はただの人間・・・英雄のように強いわけでもなく、すでに死に掛けている。 それでも守ろうと必死にあがく!そしてその先に起こるのは奇跡なのかそれとも・・・。 第2章の真・完結編、この世界は誰のためにあるのか? |
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コメント | ||
IFZさんに返信 茶番劇?・・・そう、これが小岩トマトの妄想劇場の茶番劇です。(koiwaitomato) ……なんだこの茶番劇はww?(IFZ) 十六夜様に返信 コメントをいっぱい下さってるようで・・・ありがとうございます。がんばっている才人くんを応援してくださればトマトもうれしいです。(koiwaitomato) 庇った辺りは少し涙ぐみました(無夢務) 楽しく拝読させていただいています(無夢務) |
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