2話「全てが交錯する」 |
翌朝、ガイとレイナはコンラッドに見送られルーヴルの町を出発した。リーラ城は先日ガイが落盤をよけて道を作ったリーラ山洞を抜け、その北に位置している。
「ここが例の魔物が出た場所ね」
2人は落盤が起こった場所までたどり着いた。
「ああ、俺くらいの背丈だったな」
「人型と聞いたからゾンビの可能性も考えたのだけれど…その線はなさそうね。確か背中に羽が生えていたのよね?」
無言で頷くガイ。
「ゾンビなら身体自体は元々人間のもの。そこに残留思念が宿って初めてゾンビという魔物になる…」
「なぁレイナ…今は別に考える事があるんじゃねぇのか…?」
例の魔物の検証を始めるレイナにガイは苦笑した。
「そうね、リーラに向かわなくちゃ」
「ああ、お前に傷を負わせるなって旦那様に釘刺されてんだ。まぁそりゃそうだよな」
「もう、お父様ったら…」
見合いが目的でリーラに向かうのだからレイナ自身が傷を負うのは許されないのだ。それがかすり
傷であったとしても。
「まぁ安心しな。俺がしっかり守ってやるから」
ガイはレイナに背を向けながら赤面した。自分の発言がクサい事を自覚し、その表情を彼女に見られたくないためである。
「ガイ…」
不機嫌そうなレイナの声。ガイがしまった!と思いながら振り返るとレイナがこちらを睨みつけて
いた。彼女が欲しい言葉がそれではない事を知っていたにも関わらず出てしまったのだ。
「わ、悪かったよ…お前はトコトンお姫様には向いてねぇな…」
「お姫様になった覚えはないわね」
「ハイハイ。そんじゃ…『俺の背中を預かってくれよ』?」
レイナは手のひら返すように態度を変え、満面の笑みを見せた。男性に守ると言われてときめくと
いう乙女な思考を彼女は持ち合わせていない。自分も戦う側に回る、それがレイナという女性なのだ。ガイがコンラッドから買い出しを頼まれたりする事がしばしばあるのだがレイナはそれに決まってついて行っては道中の戦闘にて後方で魔法を使い彼を援護している。守られる存在である事を嫌い、肩を並べる存在である事を好いていて、実際に攻撃魔法、特に爆炎の魔法に長けている。
「おっと、敵さんのお出ましだぜ?」
前方から蝙蝠が2匹、こちらに向かって飛んで来る。
「ウチの大事なお姫様を噛まないでくれよ?」
ガイは背中の剣を抜き蝙蝠が向かって来るのを構えながら待つ。蝙蝠の1匹がその頭上に迫った瞬間、剣を振り上げまず1匹を叩き落とした。
1匹に気を取られていたせいでもう1匹に背後を取られたガイだが全く動じる事はなかった。
「ウチの大事な騎士様を噛まないでくれる?」
レイナが手に持っている赤い宝石のロッドから炎の球を発生させ、ロッドを振ると炎の球は蝙蝠に
直撃、塵も残さず消滅した。
「おいおい、真似すんなよ…」
ため息をつきながら苦笑するガイ。
「目には目を、歯には歯を、よ」
得意げに笑顔を見せるレイナ。こいつには敵わない…ガイは心の中で呟いた。
やがて2人は山洞を抜け、その西側、リーラ城からは南に位置するサウスリーラという町へ辿り着いた。この町で迎えの兵が馬車を用意しているのだ。
「レイナ・ルーヴル様ですね?お待ちしておりました。どうぞ中へ」
「ええ、お迎えありがとうございます」
2人は塵ひとつ落ちていない美しい町に入る事なくリーラの馬車に乗り込んだ。
「サウスリーラは相変わらず栄えてんなぁ」
だんだん小さくなっていく町を眺めながらガイが馬車の窓に目を向ける。彼らは買い出し目的でこの町を何度か訪れた事があるのだ。
「ルーヴルはどちらかといえば辺境ですものね」
そんな会話をしているうちに馬車は北上し、険しい森を抜け遠くに白く美しい城が見えてきた。
「もう少しで到着致します」
兵が言葉を添えると2人はただただ次第に近づき大きくなるリーラの城を眺め続けていた。
城門の前で馬車は止まり、ガイとレイナは門番の兵に案内され中に入る。
城内はどちらかといえば城というよりは教会に近い雰囲気があった。1階の中央には広い聖堂がある。
「うっひゃあ…綺麗な城だなぁ…」
せわしなくキョロキョロするガイ。2人共サウスリーラの町には何度も行った事はあってもこのリーラ城に来たのは初めてだった。
聖堂の横の階段から2階の謁見の間へと繋がっていて、兵の案内により2人はまっすぐ王の元へ通された。
この謁見の間もまた教会のような雰囲気の部屋だった。赤い絨毯が伸びている先に豪華に飾られた玉座がありそこにはここの王である年老いた男性が座っていてその傍らに金髪の美しい王妃が立っていた。
「モーリス国王陛下、お初にお目にかかります。ルーヴル町長コンラッド・ルーヴルの娘のレイナと申します」
深くお辞儀をするレイナに習いガイも頭を下げた。
「本来ならばルーヴルの町まで馬車で迎えをよこすべきだったのですが馬車ではリーラ山洞を通る事ができずにご足労頂く形になってしまい申し訳ありません」
国王、モーリスもまた深く頭を下げた。
「とんでもございませんわ。ところで…ジェリーダ王子の姿が見当たりませんが…」
周囲を見回るレイナ。今この場にいるのはガイ達を除けばモーリス、王妃リアーヌ、その左右に離れて位置する近衛兵だけである。
「申し訳ない、ここに来るよう言っていおたのですが…」
モーリスは頭を抱えて眉間に皺を寄せた。
「もう、あの子ときたら誰に似たのでしょうか…」
リアーヌもまた右手に頬を当てため息をついた。
「もし差し支えなければ私がお探ししましょうか…?」
レイナの提案にモーリスとリアーヌは互に顔を見合わせた。そしてモーリスがこちらを振り返り口を開く。
「しかし、客人であるそなたにそこまでさせるわけには…」
困惑するモーリスだが、レイナはにこりと微笑んで見せた。
「ご心配なく。きっとその方がお互いに親睦が深まるのではないかと判断しましたので」
「そうか…?では頼みます…もし見つけましたら無理矢理引っ張って来て頂いても構いません。いえあまりにも悪戯が過ぎれば叱りつけて下さっても…」
「ごめんなさいね…もしかしらたユーリスが知っているかもしれません」
リアーヌの口から出た初めて聞くに名前ガイとレイナは首を傾げる。
「一応表面上ユーリスはジェリーダの側近ですが歳の近い事もあり友達のように仲が良いのです。彼女なら今は自室にいる筈です。奥への出入りは許可致しますのでどうかよろしくお願いします」
「はい、お気遣いありがとうございます」
レイナはモーリスとリアーヌ一礼し、ガイと共に謁見の間の奥の王族達の部屋がある通路へ出た。
「しっかし…遠路はるばる来させて姿を見せねぇとか…いいご身分だよな。こりゃあ評判通りかもな」
「やめなさい、聞こえるわよ」
若干イラついた口調で話すガイの口をレイナが押さえる。
「とにかく、そのユーリスさんという方に話を伺いましょう」
「わたくしがどうかなさいましたか?」
前方から現れたのは長い銀髪をツインテールでまとめエメラルドグリーンのワンピースを纏った小柄な少女だった。
「では、貴方がユーリスさん?」
「そうですけれど…先ほどそちらの悪人のような顔立ちの方が仰っていたのはジェリーダ様の事かしら?」
この少女、ユーリスの発言にかちんと来るガイだが相手は少女という事もあり怒りを抑え込む。
「貴方達は何者ですの?このお城の人間ではありませんわね」
「自己紹介が遅れました。私はレイナ・ルーヴル、本日ジェリーダ王子とのお見合いに上がりました」
「ふぅん…」
ユーリスがレイナの眼前まで接近しその顔をジロジロ見る。
「…どうしてジェリーダ様がこんな年増女と……」
「なっ…!?」
レイナは一瞬、我を失った。彼女は18歳と若く、年齢の事でけなされた事はあまりないのだ。いざ結婚生活が始まってしまえば彼女はこのユーリスと対立する事だろう。
「まぁいいですわ。それよりわたくしに何の用ですの?」
「俺たち、ジェリーダ王子を探してるんだけど…」
まだわなわなと震えているレイナに代わりガイが答える。
「さぁ知りません。屋上にでもいらっしゃるのではないですか?」
適当に答えるユーリス。これ以上の情報は得られそうにないと判断したガイとレイナはユーリスに一礼してその場を去って行った。
「側近からしてあの態度じゃ先行き不安だなぁ…」
ガイがため息をつきながら屋上への道を歩く。
「考えても仕方ないわ。とにかく屋上へ言ってみましょう」
屋上へは南西塔と南東塔にある階段を登ればたどり着けるという兵士の話を聞き、2人は南西塔から屋上へと上がった。このリーラ城は半島に位置しているため遠いが西側に海が見える。
「へぇ…案外見晴らしいいもんだな」
ガイが海のある方を眺めていると
「あれは…」
レイナが北側に目を向ける。その視線の先には塀に背中を預けながら読書をしている少年の姿があった。ベリーショートの金髪に白い法衣、黒縁の眼鏡の奥に青い瞳を持つ小柄な少年だった。
少年はこちらに気づき、読んでいた本を閉じて笑顔でこちらに歩み寄って来た。
「見かけない顔ですね。もしかして本日王子とお見合いをされる方ですか?」
「ええ。レイナ・ルーヴルと申します。実は…」
レイナが少年に事情を話すと少年はため息混じりに苦笑した。
「仕方ない方ですね…ところで、書斎には行かれましたか?」
「書斎…?」
ガイとレイナが顔を見合わせる。
「はい。あの方は本に悪戯するのも好きですからね…歴史書なんか偉人の肖像画に落書きしたりしちゃうんです」
少年が苦笑したまま話を続け、ガイとレイナも一緒になって苦笑した。
「とにかく、一度行ってみてはどうですか?」
「ええ、ありがとう。貴方、名前は?」
少年は2人から目を逸らし一瞬焦りの表情を見せたが
「えっと…僧侶見習いのジェイクと申します」
「ジェイク、か…ありがとな。俺はガイって言うんだ」
「では、お気を付け下さいね。レイナ様にガイ様」
2人はジェイクと名乗る少年に一礼をして上ってきた階段を下りた。その姿が見えなくなるや少年は眼鏡を外し、ほくそ笑んだ。
「バーカ。奴ら、俺がそうだって事知らずにコロっと騙されてやんの♪ま、逢ってなんかやらねーけどな」
ジェイク…もとい王子ジェリーダは再度手にした本を開いた。が、それは僧侶たる者達が読む聖書の類ではなく年頃の少年の間で流行っている冒険小説である。
書斎は1階の北西に位置している。ガイとレイナはジェイクと名乗った少年の言う事を間に受け足を運んだ。
「え?ジェリーダ様がここにいないかって?いや、来てないよ?」
書斎には若い宮廷僧侶の男性が1人いるだけでジェリーダ王子と思わしき姿は見られなかった。
実際2人を騙したのが彼なわけなのだが。
「マジかよ…見習い僧侶のジェイクっていう子が言うにはここかもしれないって…」
「え?誰だいそのジェイクっていうのは?」
ガイの目が点になる。
「え…いや、ホラ…金髪で黒縁眼鏡かけてる…」
男性はしばし考え込んだ後、苦笑しだした。
「ははは、きっとそれがジェリーダ様だよ。そのジェイクって名前はよくわからないけどあの方は本を読む時や勉強する時は眼鏡をかけるからね」
「何だと……」
がっくり項垂れながら深いため息をつくガイ。あんな年下の少年にまんまと騙された自分があまりにも情けないと自己嫌悪に陥っている。
「落ち込んでも仕方ないわ。もういないかもしれないけどもう一度屋上へ戻ってみましょう」
「だな」
レイナの言葉によりガイは無理矢理自分を立ち直らせ2人は再度屋上へ上がって行ったが…
「やっぱりいねぇか…」
「これは長期戦になるかもしれないわね…」
レイナが自ら王子を探す事を提案したのを後悔し始めた時、見張りの兵の1人がこちらに歩み寄ってきた。
「お客様ですね、どうなさいましたか?」
「実は…」
2人がその兵に事情を話すと、彼もまた苦笑しだした。
「そうでしたか…ジェリーダ様の遊びに関する活動範囲はこの城全体と城門付近ですからね」
「城門付近?そりゃどういうこった」
「城内だけに限らないという事です。つまり敷地にいらっしゃる可能性もあるかと…門兵に聞いてみてはどうでしょう?外に出ていなければ城内にいるという事になりますから」
「そうですわね。ご親切にありがとうございます」
レイナが一礼すると2人は城門の門兵に確認した。
「いえ、外には出ていませんよ。最近は魔物も凶暴化していると聞きますし、いくら王子が悪戯好きでも外に出るような危険な真似は避けるかと…」
「そうですか…」
ならばもう城内しかない。そう結論に達した次の瞬間…
「レイナ、よけろ!!!」
ガイがレイナの腕を引っ張り強引にその場所から移動させると、彼女の立っていた場所にべちゃっと何かドロッとしたものが落ちるような音がした。そこにあったのは割れて潰れた卵だった。
ガイが素早く上を見ると
「ゲ、やべ!!」
この門の上はバルコニーになっていて、そこに眼鏡を外した一瞬先ほどジェイクと名乗った少年―ジェリーダが顔を出しているのが見えた。すぐにその場を離れたが。
「逃がすかっ!!!!」
ガイは怒りが頂点に達し、レイナをその場に置き去りにして2階へと駆け上がった。
2階に上がると一瞬角を曲がるジェリーダの後姿を目撃する。ガイは一気に駆け寄りジェリーダとの距離をみるみる縮め、その後ろ襟をぐいと掴んだ。
「この無礼者!!!放せーっ!!!賊だ!!!賊が城内に侵入したぞーっ!!!!」
暴れながら叫ぶジェリーダ。
「誰が賊だ!!!!」
「だってそういう顔してんじゃねーかこのタレ目悪人ヅラ!!!」
「何だとーっ!!!?」
「もう、何やってるのよ…」
その場に追いついたレイナが2人のやり取りを見て目頭を押さえた。
「王子、さっきのは一体どういうつもりですか……?」
無理矢理怒りを抑えるガイだがその表情は引きつっていて完全に抑え込む事はできずにいた。
「どっちの事言ってんの?屋上での事か?それとも卵の事か?」
ジェリーダの態度には全く反省の色は見られなかった。それがますますガイの逆鱗に触れているのだ。
「どっちもですよどっちも!!!」
「あ〜あうっせぇなぁ…ところで、アンタが『レイナ』だったよな」
完全にガイを無視するジェリーダ。レイナの顔をじろじろ見回す。
「ええ、そうですが……」
これにはレイナも流石に困惑した。今度は何をしかけてくるのだろうと警戒している。
「ブス」
ジェリーダが無愛想に言い放つ。
「なっ…!?」
レイナは怒りとも驚きともつかぬ声を上げた。しかし、その傍らのガイは堪忍袋の緒が切れたのか、ジェリーダの胸ぐらをぐっと掴んだ。
「このガキ!!!!王子だからってあんま調子に乗ってんじゃねぇぞ!?王様からは容赦しなくていいって言われてんだよ」
ちっ、とこれみよがしに舌打ちするジェリーダ。
「ガイ、やめなさい」
レイナが2人の前に割って入りガイに手を放させた。
「王子、どうか一緒に謁見の間にお戻り願えませんか?」
「やだ」
ジェリーダの即答。しかしガイはその腕をぐいと掴んで引っ張る。
「おいやめろ汚ぇ手で触んなバカ!!!」
「いちいちムカつく事吐いてくれんじねぇか…とにかく陛下の所に戻りますよ」
「ちょっとガイ!」
「レイナ、こういう聞き分けのねぇガキんちょには実力行使しかねぇぞ」
ガイによってジェリーダは無理矢理謁見の間へと戻された。強制送還された彼を待っていたのは父モーリスによる大目玉だった。
「どういうつもりだジェリーダ!!!!本日の事は前々から説明した筈だぞ!!!!そして粗相のないようにともな!!!!」
「確かに説明されたけど、了解した覚えはないです」
息子をガミガミ叱るモーリス王を尻目に
「いんやぁ、次から次へと屁理屈が出て来るよな」
ガイはそっとレイナに耳打ちした。
「しっ!」
こんなやり取りに王妃リアーヌはただただため息をつくばかりだった。
「大体さ、そっちの女はその気あるわけ?初対面の相手に惚れるなんてバカはねぇと思うけど?」
「…!!」
図星を疲れたのか、レイナは一瞬目を見開き、押し黙った。
「ジェリーダ!貴方なんていう事を…!!」
今度はリアーヌからの叱咤。
「アンタには自分の意思はねぇのか?親が決めた事にハイハイ従ってりゃいいとか思ってんの?」
「それは……」
言葉に詰まるレイナ。ジェリーダの言う事は最もあのだろうと考え自分の行動に迷いを見せる。
「とにかく、俺はこんな女と結婚する気ねぇから。そんじゃ」
「待て!!まだ話は終わっていないぞ!!!」
自室へと戻るジェリーダを止めようとするモーリスだったが聞く耳を持たれなかった。
「レイナ殿、ガイ殿、申し訳ありません…」
「いえ、お気になさらす…王子も突然の事で混乱なさっているのかもしれまんわ。それに本日の目的はお互いの顔合わせ、今後ゆっくりお話できる機会があればきっと…」
「コンラッドにも後ほど書簡でお詫びする事にしましょう」
結局、ガイとレイナはこの日は馬車でサウスリーラまで送られる事となった。その馬車の中でレイナは何度もため息をつく。
「おい、あんま気にするなよ。ガキの言う事なんだしよ」
そんなレイナの気持ちを察してか、一緒になって項垂れていたガイが空元気を振りまいた。
「ありがと。でもあの子の言う事には一理あるわ。私には自分の意思がなかった…」
レイナは馬車の窓の外に目を向けた。次第に日は沈み外が暗くなっていくのが見える。
「お父様に逆らうつもりはない。でもあの子の前で『国を守るため』とは言えなかったわ。王子には自分の意思で選びたい相手がいるのかしらね」
と、言いながらレイナの脳裏に浮かぶのはジェリーダの側近のユーリスという少女の事だった。2人が会話している所は見なかったがユーリスの口ぶりを考えるとその可能性が浮かび上がってくるのだ。
「……逆に俺はホっとしてる」
ガイは俯きながら小声でぼそりと呟いた。
「え…?」
「いや、何でもねぇよ」
その後は2人共一言も発しないままサウスリーラに到着した。日はすっかり沈み明かりは町の街頭と家々の照明だけである。馬車を引いていた見送りの兵は2人に一礼した後、馬車を動かし北へと帰って行った。
「今日はもう遅いわ。宿に泊まって明日ルーヴルへ帰りましょう」
宿は町の入口のすぐそこに位置していた。この町には参拝者が多く訪れるため宿は大きめだった。国王モーリスの好意により今晩は無料で泊めてもらえた。当然部屋はシングルを2部屋とってもらっているためガイとレイナは別室で休む事になる。2人は食事を済ませるとそれぞれに部屋に入って行った。
「……ふぅ」
部屋の中はベッドの他にはロッカーと木のテーブルと背もたれのない椅子があるだけだ。ガイは椅子に腰をかけて一息ついた。
「こんな時に何考えてんだ俺は…」
一瞬だけ、まさか同室なんて事はないよな…と考えてしまったのだ。あの王様がそこまで抜けているとは思えないと考え直し平静を取り戻した。
ここは真夜中の海、2隻の黒い軍艦が大海原を走り続ける。
先を行く軍艦の一室にその男はいた。細身で土気色の混じった肌を持ち長く青い髪を頭の高い位置で束ねている男は黒い甲冑に身を包んでいる。
「……………」
男の居る船室の外からこつこつと足音が次第に大きくなっていく。誰かが部屋に近づいているのだとすぐにわかった。やがて足音は止まり、ドアをノックする音が聞こえて来る。
「入れ」
男が低い声で促すとドアは開かれ黒いマントに身を包んだ金髪の男が入って来る。
「もうじきリーラ城のある半島に到着します」
「わかった。後方の船にサウスリーラを目指すよう伝えろ。本艦は予定通りリーラに着き攻略する!」
2人の男は船室を後にし甲板へ向かった。
「…ドゥルを治めるのはあの男ではない、この俺だ……!!」
甲冑の男の銀色の目は鋭く光っていた。
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ハデス・ゲートの第二話でございます。 | ||
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