九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = カムイ篇 |
二話 「月夜」
げんぶが負傷する所から時間は少しさかのぼる
カムイ城下町にある茶屋。
そこで二人と別れたガルムは一人、ゆったりと緑茶を楽しんでおり息抜きを行っていた。
「…ふぅ」
完全に茶を飲んでのんびりとしていると思われるが、実際そうにしか見えず傍から見てもサボっているようにしか思えなかった。
しかしガルムから言わせれば「あくまで茶を楽しんでいるだけでサボっているわけではない」らしい。
これを二百式が見れば面倒なことになるなと思いつつも、当の本人が居ない事を良いことに彼はすっかりカムイの町を満喫していた。
「緑茶おかわり〜」
「あいよー」
厨房の奥から聞こえる店員の女性の声を聴いて顔を振り向かせると、そこには完全にのんびとしている顔があった。
「…久しぶりに茶屋で飲んだな…」
最早完全に茶屋での休憩に浸って帰りたくないという顔でいる彼の顔は、これが旅団のナンバーズかという程、日向に当たって呆けている老人の姿と同じだった。
当然。それを他のメンバーが見ればあきれ返るか言葉が出ないかのどちらかだ。
「―――楽しんでるな。随分と」
「ん…まぁな。久しぶりにこんな所に来たから、少し羽目を外した」
偶然だが通りかかったげんぶが隣に座り、近くで接客していた店員を捕まえて緑茶と団子を注文する。
袴姿の若い店員が元気な声で答えると、草履を地面に擦らせながら店内の奥へと消えていく。現実を飲み込めない人間が見れば江戸時代にでもタイムスリップしたかのように思えるが、その現実であるという証拠とタイムスリップはしていないという事実として店員の手には洋風な注文票があり、書く者も当然ながらペンだ。
カムイに入って、まだ風景に慣れないげんぶはそう言った辛うじて違いのある所を見つけては安堵したかのように軽く息を吐く。
風景があまりに見慣れない、というより飲まれるように思えた彼は自意識を保つためにかキョロキョロと周りを見回す。
「…どうした。げんぶ?」
それに気づいたガルムは一体なにに気になっているのかと尋ねると、苦笑し恥ずかしそうに答える。
「いや。下手な映画のセットよりも和風しているな。ってな。お陰で自分が何時の時代にいるのか分からなくなる」
「…そういうモンか」
「幻想郷に居たお前なら慣れてると思うが、俺にはどうもな…自分だけ浮いているように思えて仕方ない」
分からない理由ではないが、少し自分の事について小馬鹿にされたように思えるガルムは癇に障りはしなかったが、悪かったな、と苦い顔で言い返す。
自分だってもし江戸時代になどタイムスリップしてしまえば驚くこともあるし、周りの空気にだって飲み込まれるはずだ。
幻想郷も全て和に統一されたという訳でもないし洋風や中華のようなものも数多くある。
何も全て同じという訳ではない。
「ノイシュタットならまだ色々と見られたが…ここはそういうよそ者って言う感じの奴らが少ない」
「それは俺も思った。殆ど侍とかだからな」
別段外界との関係を断っている訳ではないし規制をしている理由でもない。
ただ城下を警備する侍などから街の空気を嫌う者が多いのだ。厳しく張りつめられた空気。自由ではない決められた階級。
そして侍たちの目。嫌に思うのも無理はない。
「だが、だからこそよそ者が居ればいち早く気付く…か」
「俺たちみたいに浮いてしまうからな。誰だって二度見はするだろうさ」
しばらくそのまま緑茶を飲んでいたガルムだが、後で自分も浮いた存在であるというのに気づき湯呑と共に固まった。
昼下がりから緑茶を飲み、少しだけ体を温めたげんぶは、その後ガルムと別れ一人捜索を始める。
ガルムは東を調べ、自分が西側を調べる。一通り調べたら一旦宿屋で落ち合おう。
茶屋を離れる前にそう約束し、彼は人気の無さそうな場所を重点的に調べ、どこかに潜伏していないか。また新たに事件を起こさないかと考えながら目に映った角や細道に手あたり次第に入っていく。
その内自分の居場所が分からなくなるんじゃないかと思うが、大道を出れば大丈夫だというBlazの言葉を信じ、それを迷ったときの措置として片隅に置いていた。
ただし、もしそれで帰れなかった場合は彼を殴る。と。
「…もうそんな時間か」
気づけばもう夕暮れ時になり、茜色の夕日が東から西へと落ちていこうとしていた。
時刻はそろそろ五時を回る。冬の時期は日が沈むのが早いので一旦戻ろうかと思うが、まだ調べきっていないという自意識が振り返ろうとする自分を抑えて意識の主導権を握る。
―――まだ帰ってはいけない。もっと調べないと。
自分の中で起こった意識同士の戦いの結果に軽く息を吐くと、げんぶは再び前に向けて歩き始めた。
しかし次の瞬間。
「―――――。」
彼の肌に毛が逆立つほどの殺気を感じ取る。
それも一瞬の内に彼が悪寒で硬直するほどのだ。
「………。」
たった一瞬の出来事だったというのに、彼の顔や額からは滝のように汗が吹き出し、止まっていた息も再び呼吸を始めると肩で荒くする。
目を大きく開き、全身に力を込める。心臓が今にも破裂しそうなほど激しく鼓動し、そして恐怖している。
―――この感覚は一体なんだ
長年戦いを経験してきた猛者であるげんぶでさえも、コレほどの悪寒はクライシスと初めて出会った時以来だ。あの時はまだ実力が足りなかった事と彼を知らなかった事から今以上だったが、それでも今回感じた寒気はそれに匹敵するほどの何かだった。
「なん――だ―――」
重くなった唇を開き、くぐもったような声を出す。
未だ分からない寒気の正体に怖がっているというのか。自分が。
疑いたくなるような感覚に歯を強く噛みしめ、気配のした方角を探りだす。
一瞬の事だったが、まだ寒気のようなものは肌が感じており、その根源が何処か近くに居るのは感じている。
それに彼の中でこの気配の正体を知らなくてはならないという気持ちが奥底から沸き上がり、彼の体を動かし気持ちを逸らせていた。
「ッ―――」
すると、げんぶの肌に小さな弱々しい風が当たり、どこかへと去っていく。始めはただの風だと思っていたが、妙に気配が似ていると感じ体もそれに同意している。
この風の正体。それが恐らく今回の犯人だ。
勇気を振り絞るわけではないが、覚悟を決めて足を踏み出す。
「―――――それで?私に話とは何かな、竜神丸」
「いえ。他愛のない話、とでも取って下さい」
クライシスの部屋に足を踏み入れたのは他でもない、旅団の中でも最も底が読めない人物である竜神丸だ。
彼は自前のタブレット端末を脇に抱え、それをもって暗く夜空の月明りだけが差し込む部屋の奥へと歩いていく。
他愛のない話だというのに何か面白みがあるような顔をする彼に、クライシスは振り向かずに小さく口元を釣り上げる。
「なら。その「他愛のない話」とは何だ?」
「…そうですね。では、率直にお聞きします。
団長。貴方は「覇獣」についてどこまで知っているのですか。
そして、今回の事件。何故、話さなかったのでしょうか。
貴方が((観測|み))た未来について」
「…ほぉ」
興味深そうに反応する声に、竜神丸は確信を得る。今回の事件の事をクライシスは知っていた。いや、始めから観測していたのだ。
自分の力。観測者としての側面を用いてだ。
なのにそれをどうして話さなかったのか。
「観測者としての能力なら、能力と合わせて未来を予測する事は造作もない事のはず。
なのに、貴方はそれを使いながらも、知っていながらも、教えることをしなかった」
「………確かに、観測者としての力があれば未来を予測する事は可能だろうな」
「―――――ッ」
だがな竜神丸。と声のトーンを変えたクライシスは話続ける。
それがどうしても彼にとって間違ってほしくない事だからだ。
「例え観測できたとしても、私ができるのは『予測』と『測定』。全て決められた事でしかない。
未来を予測することと、『予想』する事とでは根本的に違うのだよ」
「…それぐらい、貴方ならできると思っていたのですがね」
「私とて神ではない。出来ない事だってある」
「なら。予測だとしても、どうして話さないのですか?」
「簡単な事だ。
予測とは自分が持つファクターの中からはじき出される結果であり、イレギュラーを認める事は決してしない。
決められた物の中だけで、決められる結果のみを導き出すのだからな。
だが予想は違う。
自分の中にあるファクターだけではなく、ありとあらゆる「可能性」という素材が集まり、集合体となって初めて作られる存在。それが予想だ。
何も決められず、あらゆる可能性が混ざり合い、無限の近い答えを湧き出すのだからな」
「―――――つまり。自分の中でしか決められない予測では、イレギュラーな時に対応する事はできない、と」
「そうだ。仮にも私は彼らの命を預かる身だからな。軽はずみにそれだけしか起こらない、などと言うつもりはない」
大よそは予想通りの返答だ。クライシスの言葉に小さく微笑んだ竜神丸はその答えに満足したのか、そうですか、と納得したように話を切り上げる。
しかし質問はまだ終わっていないので、そこから更に追及をする。
「では覇獣については?」
「…どう答えてもらいたい。君は」
「………。」
意地悪く切り返す言葉に詰まらせるが、直ぐにその問いへの返事を返した。
「―――貴方の思うがままに」
「………。」
竜神丸の返事にしばらくは沈黙するが、やがて考えが纏まったのか。クライシスは一拍置くと、話を切り出した。
彼がそう言った通り。自分が思うがままに。
「君が思う通り…といえばどうだ?」
「…なるほど」
答えに納得したのか、ただ一言呟くと後は成すがままといった様子で独り言のように話し始めた後ろ姿を見る。
かまかけだったと言えばそうなのかもしれないが。いずれにしても、それが彼にとっては納得であり、彼の真意を悟った瞬間でもあった。
「覇を極めし存在。幻想にあらず、聖なる存在でもなく、悪しきものでもなし。
魔に身を委ねる存在もいれば、精霊と共に共存する存在もいる。
全ては森羅万象の中にある理。
人が人理を司る者たちであるなら、覇獣は全ての生きとし生ける者たちの「意思」を司る」
「…意思、ですか」
「そうだ。
破壊 挑戦 調和 探求 傍観
喜び 悲しみ 怒り 憂い 優しさ 愛しさ
無限とも呼べる感情、意思。それら全てを覇獣は一つずつ受け取り、司っている」
「なるほど。古代の神々が営みや自然を司っていたように、覇獣は古代から続く生き物の意思を司って来た。
外界的存在が神や悪魔。天使が守っていたように、彼らはその中身を守って来た」
「いかにも。それ故に、意思などを感じ取りやすい彼らは稀に共存者ではなく『適合者』を選ぶ」
「…『適合者』?」
「言葉通りだ。桁外れの意思の暴走。それを糧に力を授けるシステム。まだ憶測は出ていないが、適合者についての条件はこれが前提だ。
全てを破壊する衝動や越えるべき試練へと挑戦する志。
それぞれの意思に適合した刻、覇獣は彼らに力を与える―――
恐らく。今回も」
どろり。
粘膜のある赤黒い血が地面へと滴る。
「………。」
その有様を見たげんぶは、最初に言葉を失った。
これが実際にあり得ることなのか。いや、現実なのかと。
そして目を疑う。
散々探していた人物が今になって現れたからではない。
仲間の一人がたかが可能性だと吐き捨てた情報が事実だったからではない。
そんな事を全て吹き飛ばすように、彼の後ろにはその決定的たる証拠。その現場があったのだ。
八人目の死体。綺麗な和服に身を包んだ、あの時茶屋で接客を行っていた彼女が
今は無残に命を散らせていた。
―――冷たい目だ。そして。それとは相反する烈火の如き殺意だ
いつの間にか向けられていた目を冷静に分析したげんぶは呆けたまま目を合わせる。
全身に力が入ることはなく、呆けてしまった彼には今到底出来ることではない。
我を取り戻さねば、彼ももしかしたらああなってしまうのだから。だが、げんぶは動けない。
冷たい殺意を向けられた目が、まるでメデューサの瞳のように彼を硬直させていたのだ。
力を入れようにも動かず、口を動かそうにも固まって微動しかしない。喉も腹の底にある声が食堂のあたりで気持ち悪く押し留められている。
何もできない。何もすることが出来ない。
これは一体なんだ。
「―――貴様」
「ッ―――!」
呟くように口を開いた彼の言葉に目を動かす。
口元は周りをぐるりと囲む襟で見えないが、くぐもったような声が耳に届く。
細くなった目は微動するのがやっとな彼をひたすら捉え、ただ一言彼に問いかけた。
「――――――旅団か?」
「ッ………!!」
自分たちの事を知っている。その瞬間、彼が自分たちを追う復讐者。猟奇殺人の犯人であると確信する。
だが口が動かず体も動けないげんぶは答えることはできない。
数秒の間を置いて、彼はげんぶの方を見ると何か悟ったかのように目を閉じる。
何も言えなかった。返すことすらできなかった筈だ。
なのに。
どうして自分が旅団のメンバーだと分かったのだろうか。
明確に向けられた殺意は、気づけば彼の懐に入り銀色の刃を抜刀していた。
「ッ………………!!!!!」
刹那、げんぶは全身に力を込めて無理やりにでも硬直を振り払う。
そして反射神経を頼りに彼の刀の攻撃を紙一重でかわしていった。
空を切る音が間近で鳴ると、彼の背筋に悪寒が走り冷や汗がにじみ出る。
なんども振り下ろされる的確な攻撃に回避を専念して行うが、次第に動きが読まれていくと感じ自身の命の危機を察し始める。
「クッ…!!」
バックステップを強く踏み距離を取ったげんぶは直ぐに腰に常備していた変身ベルトを晒すと、構えを取って変身を始めた。
「変―――!」
しかし。
「遅い」
「ッ………!?」
再び間合いを詰められ、刀の距離に入られてしまった。
それも一瞬というには生易しいほどの速さで、最早瞬間移動と言っても遜色のない接近はげんぶの肝を冷やし僅かに死を悟らせるほどだった。
だが。げんぶもただそれでやられるほど弱くはない。
自分の変身する瞬間。それが一番の弱点だというのは自分が良く分かっている。だから、彼はもしその時に敵に接近された場合は、どうすべぎか。それをもう反射的に身に着けていた。
「………!?」
「甘い…!」
鉄の城。
黒き拳が全てを防ぎ、そして
「トルネード…クラッシャァパァンチッ!!!!」
地獄へと誘う。
「ッ!?」
黒鉄の腕を振り下ろした刹那。攻撃への危機感に反射的に身を退き、先ほどの死体の近くまで下がっていく。
「ッ………」
「速い…」
警戒したまま下がった直後、ようやく思考が追いついたげんぶは無意識に体などが動いていたと自覚し、見上げて目を合わせる。
距離を取られ月明りの下に再び現れた姿は、刀を構えるのではなく鞘から引き抜こうとした時までに戻っていた。
身を屈め、突進の体勢であるその姿にもう一度あの音速のような攻撃を仕掛けてくるのは明らか。だが彼の腕のパーツを見て警戒しているのか、間髪を入れず打って出ようとはしない。様子を見て隙を窺い攻撃して行こうという。
(落ち着いているな。あの奇襲といい、攻撃が的確だ。アレが奴のフォームと見て、間違いは無さそうだが…)
「………。」
対峙した二人はじっと動かず、互いの様子を伺い隙を見計らっていた。
部分展開した武装だが十分応戦が可能なげんぶ。
対し一度見せた技とは言え、先手なら確実に取れるだろう。
なのに攻撃を仕掛けてこないのは、げんぶの攻撃に警戒心を抱き、手口を探ろうとしているからか。
(判断としては良いだろう。だが、これでお前は連続での攻撃を行える権利を失った)
連続での攻撃継続であれは確実にげんぶの腕の一つは取れただろう。
だが、相手は臆したのかそれを捨てて身の安全を優先した。
体勢を整え、相手の出方と手数を窺う。考えとしては間違っていないが、げんぶから言えばまだまだ甘い考えだ。
(体勢さえ整えば…!)
「ッ…!!」
しかし、直後動きを見せた彼の姿に釣られたげんぶは此方に応戦してくるという事を前提にしてか動かなかったので、咄嗟に向きを変えて逃げに転じた瞬間思わず声を出して驚いてしまう。
「なっ!?」
戦力的な不利を見たのだろうか。それとも始めからそうする気だったのだろうか。
いずれにしても、その場から逃走を始めた事に反応が遅れてしまい直ぐに追おうにも既に足音が遠くなりつつあった。
逃げ足は自信があるようで風のように姿を消した事に呆気に取られるが、もう追う事は出来ないと手を伸ばすだけにとどめ去っていく音だけを耳にした。
「ッ………クッ………」
素早く逃げていった彼を追おうともせずその場に止まったげんぶ。
そこへ、先ほどの攻撃の音を聞いてなのかガルムが遅れて到着し、現場の惨状に驚きつつも、そこに立っていたげんぶに駆け寄る。
「あッ……げんぶッ!」
「ッ…ガルムか…」
「オイ、お前大丈夫か?!」
「ああ…」
ガルムが出て来た場所から数人の侍や番人のような男たちが現れ、同じく惨状を目の当たりにすると、その中の隊長らしき人物がそれぞれに指示を割り当てていく。
被害者の身元確認、傷の状態、死亡時刻。そして、その近くに居たげんぶが怪我などをしていた時のための救護の要請。
的確に割り振られた指示に従い、それぞれが解散。その中で連絡を取っていた侍の一人が隊長に話し、どうやらここに応援を出すようだ、と言っていた。
今、げんぶたちにそんな事は関係ない。特に、犯人の姿を見た本人は少しでも情報の足しになると期待し身を削ってでも手に入れた相手の事についてを話そうとした。
「すまな、い…少し…休ませて…」
「お、オイ、げんぶ!?」
突然崩れたげんぶに驚いたが、直ぐに受け止めて近くの壁に寄りかからせる。
「ッ―――!」
ずり落ちるように沈んでいくげんぶから血がにじみ出ているのに気づいたガルムはげんぶの体へと目を落とすと、時間差で開かれ始めた傷口を見て汗を滲ませた。
至るところ、腕や胴だけでなく足やももなどにも斬られた傷跡の数々。見た目は浅く斬られただけだが手当しなければならない所も多い。
「救護頼むッ!!」
「は、はいッ!!」
直ぐに手当てすれば間に合うと見たガルムは近くに居た番人の男に呼びかける。有無も言わずそれに答えた彼は直ぐに声を出して、けが人の手当てを頼む、と言い近くまで来ていた医療班の人間らしき者たちを誘導した。
「その傷…受けたのか」
「ああ。神経とかを的確に狙ってきてな。お陰で足が痛い」
「大丈夫か?神経とか」
「心配ない。足は問題なく動く」
「ならいいけどよ…」
「―――ガルム。奴の姿、正しかった」
「Blazの情報がか?」
「…ああ。東洋人…というより日本人の顔だ。服装はぼろいマントと黒いブーツ。手には滑り止めのグローブ。得物は刀だ」
「…まるで侍だな」
「かもしれん。だが、攻撃は音速かって言うぐらい速かった…」
「…そんなにか?」
げんぶが言うほどの速さを持つという相手の攻撃をとてもではないが想像できないガルムは、彼の言葉に大げさではないのか、と言いたかったが、とても嘘をついているという顔ではなく自分でも信じられないという表情だったことから、ぽつりと呟いて受け入れてしまう。
「―――マジかよ…」
「…管理局の閃光のような突撃型じゃない。変則的な動きも出来て、本人がそれについて来れている。あれが本当にアイツ本人の力なのかっていうのは…まだ信じられないがな」
「…いずれにせよ、これでハッキリしたな」
げんぶを襲った犯人が、今回の猟奇殺人鬼の正体であり、旅団に敵対心を抱いている人物だ。
「…しかし、ならマズイな…」
「…何がだ」
「二百式だ」
「二百式が…どうかしたのか?」
どうやらまだ気づいていないと、ガルムはまだ知らないげんぶに対してどう言うべきかと考えたが、ありのまましか他になく。考えるだけ無駄かと、思っていたことを打ち明けた。
「…げんぶ」
「なんだ?」
「…二百式の事、少し見ててくれないか?」
「…二百式を?俺が…??」
唐突にどうした、と聞き返すがどう説明すればいいのかまだ分からないガルムは頭を掻いて俯いてしまう。
「…一応言っておくが。完治しても俺がアイツを止められる保証はないぞ」
「それは分かってる。だがな…」
どうにも何か思う所がある。そういった顔である彼に、げんぶは短く訊ねた。
「…何があった」
「…さてな。ただ…アイツ、何か思い詰めている、と言うか…」
宿屋の時、幻霞との会合の時。
横目だが見る事のできた彼の顔。
それを見てガルムはこう言った。
あれは恐らく
「あの顔。多分、犯人について何か知ってるって顔だ」
「何っ…」
ガルムの言葉に、げんぶは目を細める。
時々顔から感情や考えていることが読めないほど無表情が多い彼だが、その一瞬の内にそれを知った彼もさることながら、それ以上に二百式が犯人について知っていると言う言葉に、げんぶはただ驚くしかできなかった。
一体、何が。彼との間にあったのだろうか。
= 同時刻 =
とある場所にある鳥居の前に集まる四人と三匹。
Blazとジョーカー
ディアーリーズと蒼牙
ロキと新たな相棒リュコス
そして彼の弟であるルカ。
その四人が集まる鳥居の前は暗く、辛うじて灯篭に火が灯されている程度で傍から見れば完全に夜の肝試しのような光景だった。
「…いや、こんなメンバーで肝試しは…」
「じゃディア。お前ひとりで逝って来い」
「ああっとロキさんいきなり酷いなーハハハハハ(棒)」
「別に一人で行くのは良いけどよ。この提灯ねーとお前、道端で魂吸われっからな」
「………は?」
「…蓬莱月下。月の下の案内道にようこそ…ってな。
ここが、ホウライに続く入口だ」
不気味に思えてくる提灯の光は、不思議と安心感を齎してくれる。
それが一体なぜなのかと思う彼らだが、それは全て彼が持つ提灯と先に永遠と続く暗い鳥居の道だけが知っていると思えた。
説明 | ||
ストーリーが異常な早さですすむ… 取りあえずそんな事をしては十話にも満たずに終わりそうなので、次から別視点を書こうかなと思っています …なんか色々とダメだった様で、ようやく修正版を出せました。 …なんか色々と変になっていましたが、ようやく修正等が完了したので投稿します。 |
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取りあえず今回の犯人。あとは二人ほど(Blaz) 俺って誰と対峙するの?(二百式) |
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