真 恋姫無双 もう一人の大剣 2話 |
城門にて
「悪い!馬をくれ!」
景気よく飛び出したのは良い。
だが炎は出発するとすぐに戻ってきた。
移動する手段がないと出発してから気付いたからだ。
「ほう・・・お前の旅はさぞ楽しかったのだろうな」
「いや、まて!俺の旅はこれからだって!そのための馬を・・・な?」
「ふむ・・・」
そもそもそこが炎の間違い。
商人達に荷物と共に乗せてもらえばいいものを。
やれ遅いだの、やれ遅いだのと文句を言った過去があったので馬を借りようと秋蘭に頼みに戻ってきた。
「炎、金をだせ」
「え?」
「有り金すべて出せと言っているんだ」
金がはちきれそうなほど入った小さな袋を取り出した。
炎は華琳が生まれた時から華琳に小遣いとしてほぼすべての給金を渡してきた。
今袋に入っている金はその残りカスだ。
秋蘭はその袋に手を突っ込む。
一掴み。
二掴み。
その残りカスから二掴み分の金を取り出し、自分の金の入った袋へ入れる。
「ふむ、これだけあれば足りるだろう」
そう言い、秋蘭は城へと戻っていく。
「お、おい!秋蘭!」
「馬は用意しよう。一掴みはその手間賃だ」
「ん?もう一掴みは?」
「お前の部屋の扉の弁償代だ」
「それを壊したのは春蘭だろぉ!!」
扉を叩く音。
「む?」
おかしい・・・老人はそう思わずにはいられない。
「誰だ?」
返事はなし。
扉を叩く音を聞いた。
老いてるとはいえ、体が不自由に感じたことなど一度もない。
老人は間違いなく音を聞いた。
気配はなかった。
「やれやれ、最近の若者は人使いが荒いな。どっこいしょ」
読んでいた本に葉を挟み、閉じる。
馴染みの椅子から離れると、音が数回。
「む、これも替え時か・・・」
また扉を叩く音。
「はいはい。今出る」
老人が扉を開く。
「・・・誰もおらんな」
扉を閉め、自分の家を見渡す。
老人の家は大きくはない。
扉のついている部屋一つを除いて、首を振ると屋内全体を見渡せる。
「昔・・・かくれんぼを教えてもらった。久しいな。炎」
おずおずと布団の中から顔を半分だけ炎はでてきた。
「あははは・・・・お邪魔してます。曹騰様」
「よく私だとお分かりになりましたね」
炎にはかくれんぼには絶対の自信があった。
それを打ち砕かれた炎は少しショックを受けていた。
「やはりお前はバカのままか。こんな山の奥に建てたこの家に来る者はそうおらん。山の中に入っても儂が気付けない程の使い手ならばなおさらだ。」
「まだまだ健在のご様子で」
「当り前だ、儂はまだ死なん。ついでに言っておくと窓があいとったぞ」
「流石は曹騰様」
曹騰。
曹操の祖父にして、炎の絶対的存在。
炎は曹騰の命ならば死ぬことができる。
炎は曹騰の命ならば華琳達を殺すことだって躊躇わない。
「もう許してはくれんか。一度としてお前に真名で呼ばれたことはない」
炎の首左側面から右腹部まで残っている斬撃の傷。
炎の小さいころについた傷である。
曹騰は服の首元から見えるその傷を手で優しくなぞる。
「何度も申し上げてるでしょう。この傷は恥ずべきものではありません。私が貴方を守ることができた証なのですから。それに、真名は確かに預かってもらってますから呼ぶのは私の自由ですが、恐れ多くてとてもとても」
「そうか・・・何度この会話をしたか」
「13回目ですよ」
「む・・・それにしても、まさか魏を離れるとはな」
「・・・聞きなれない言葉ですね。魏ですか?」
「いや、こちらの話だ。華琳の元を離れたと今聞いたが、華琳は怒っていただろう」
「それはもう。・・・・曹騰様はお怒りになられないのですか?」
「儂が出した条件は華琳が大きくなるまで育てろだ」
「・・・・いやいや、大雑把すぎますよ!」
「ん?違ったか?まあよかろう」
炎はこのとき春蘭を相手してるようだと少し思った。
「君主探しか・・・・どうだ?もういっそ儂に仕えて一獲千金!ついでに天下統一!」
「いいですね・・・・って冗談言わないでください。しかも統一はついでですか」
「なんだ、いい案だとおもったんだが」
「やめてください」
頭が痛い。
炎の言葉遣いも徐々に崩れる。
「見当はついとるのか?」
「え・・あー、それが・・」
「なんだ?あれだけ啖呵を切っておいていざ行動に移してみたらこのザマか。情けないのう」
「ま、まるで俺と華琳のやり取りを見ていたかのように聞こえますが?」
炎の目が怒っている。
「し、知らんな」
視線を逸らす。
「曹騰様、知ってますよね。俺の前じゃあ嘘は意味のないことだと」
「・・・・全くお前は余計なものを覚えおって。ああ、そうだよ。儂は老いても曹騰。兵の一人や二人顎で動かすことなど他愛ないわ」
曹騰は観念したかのように白状した。
「・・・・・・・・・・」
炎が曹騰に顔を近づけ、目を見る。
「嘘ですね」
「本当だと言っているだろう。お前の腕も落ちたのではないか?いや落ちたのは目か?はっはっはっは」
曹騰は椅子から立ち上がり、首をかしげながら炎とは逆方向へ。
「そうやって、人に背を向けるのは自身の言に自信がないからですよ。正面向いて発してください。ほら」
「何を言う。儂が口を酸っぱくしてお前に言ったはずだ。目の前の真実を拒むだけでは成長はない」
炎の言われた通り、向き合って言葉を発する。
「・・・・・・白々しい」
呆れた顔で曹騰を見て、短くつぶやく。
「まあいいでしょう」
「わかってくれたか」
「ええ、しっかりと!」
炎は怒りに任せて勢いよく椅子から立ち上がる。
その衝撃で椅子が粉砕した。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・さて」
炎は部屋の壁に立てかけておいた大剣を背負い家を出る。
「こら炎どこへ行く」
「わからないですよ!!」
「怒るな!未来の君主の候補だったな。・・・・二人ほどいるんだが」