Fate / YATAI Night |
第四話 「不思議な客たち」
「………。」
「――――。」
エミヤと響は困っていた。
今まで難なくこなしてきたハズの仕事だが、今回の客は例外的な人物と言えた。
様々なニーズに応え、屋台としての最大限のパフォーマンスを行う。
それがエミヤの求めた屋台だった。それが、彼に(多分)許された屋台だった。
しかし…
「…すまない。バーガーを一つ。貰えるか」
ここはファストフード店じゃないぞ。
と。くたびれたスーツを着る、ぼさぼさ頭と髭の初代「正義の味方」兼外道の男に心の中で叫んだ。
「…あ、あの…すみません。ウチはバーガーチェーンじゃ―――」
「バーガーだ。バーガーも出せない屋台など、屋台じゃない」
「ええ…」
あまりに暴論すぎるその言葉に返すどころか文字通り開いた口が塞がらない響は、余裕げな顔でタバコを吹かす客に、苛立ちよりも呆れを感じてしまう。
どこの世界にハンバーガーを出す屋台があるのだろうか。
と、普通に考えてしまうが、彼の中ではそれが常識となってしまっているのだろう。
お陰で横で腕を組んで考え込んでいるエミヤも唸り声をあげてどうするかと迷っていた。
「………。」
「て、店長…」
「さぁどうする。
出すのか。
出さないのか。
それとも―――」
ハッキリ言えば「出せない」だ。
幾ら屋台であってもハンバーガーを出すなどという意味不明な事をできる筈がなく、第一その為の材料も揃っていない。
それに、作るにしてもあまりに時間がかかってしまい客に失礼。
だが出せなければ店の看板に傷がついてしまう。
いやそもそも………
「て、てんちょー…?」
「ッ………」
「フッ…」
嘲笑った声を聴いた響は客の方に顔を振り向ける。
彼は笑っており、閉じていた目は完全に悦に浸ったかのように面白がっているという色を示していた。
彼は初めから分かっていたのだ。
屋台でハンバーガーを出せるわけがない。
そもそも。そんなのを出すのはイレギュラー。辺鄙な店としか言い様がない。
彼は単に試していたのではない。潰しに来ていたのだ。
客として、客が求めるものを食べさせる。その重圧をエミヤに負わせ、店を潰すために…!
「ッ―――」
「どうしたんだい。店長。バーガーが出せないのなら…
この店は三流以下だぞ?」
「………。」
沈黙するエミヤ。勝利を確信する客。
勝敗は決した。
これで((自分|客))の勝ちだ。
勝機を悟り、たばこを吸う彼の姿に我慢が限界だった響は歯を強くかみしめて腹の底から大声を出そうとする。
「ッ…この―――」
「待て響」
しかし咄嗟に止められてしまい、浅黒く太い腕で仕切りを作られてしまう。
この先なにを言うのか分かっていた彼は、長く保っていた沈黙を破り、一言そういうと目を開いて客と向き合った。
「…注文はハンバーガーだったな」
「ッ………ああ」
「…そうか」
再度確かめるエミヤの言葉に、まだ諦めていないのかと眉を寄せる。
ハンバーガーを出すなどと本気で考えている。しかしそんな事できる筈がない。
何故ならここは屋台だ。
おでんを出し。ラーメンを出し、焼き鳥を出す店だ。
その証拠に彼らの間には湯気の立つ食べ物たちが今か今かと待ち望んでいる。
本音を言えば彼もここで焼き鳥を食べたいと思っていだ、どうにも店に舐められていると感じてしまい、彼を挑発するように無理難題を言いだしてしまった。
後悔はしている。だが、ここまで来てしまえば後は流れに任すまま。勝って勝利の美酒を食べればいい。
「店長。バーガーなんて…!」
「………ああ
いや。一体、何バーガーを食べたいのかとずっと考えていたのでな」
「「――――――――――は?」」
刹那。世界が凍った。
「別にハンバーガーが出せないわけでは無いぞ。時間を掛ければ不可能ではないからな」
「え………ええ?!」
いつも通りの顔で平然と話し続けるエミヤに、その言葉に驚く二人は口を開けてしまう。
「な…オイまて。ココは屋台なんだろ?!ハンバーガーなんて出せるわけが…」
言い出しっぺである客の方は自分の言葉を否定することになるが、それでも流石にそれは受け入れがたいとして思わずそう言い返してしまう。
「…まぁそういうな。別に、ハンバーガーを出してはいけない、などという訳もあるまい。違うか?」
「え…いや…まぁけど、常識的に…」
常識的にそれはどうだ?と思うところを普通に言い返す辺り、一体どっちが馬鹿なのかと本気で考えたくなる。
店長である彼の顔は凛々しいまま曲げず、言いだした客は突然の珍発言に未だ同様を隠せない。それは当然ながら響もおなじだ。彼女も現在、どうすればいいのかと迷った顔でそれぞれの顔を首を振って行き来している。
「ん?食べたくないのか」
「いや、食べる食べないじゃなくて、ここ屋台なんだろ!?常識的に考えて出るワケが…」
次の瞬間。彼の目の前に丁寧に紙に包まれたハンバーガーが出て来た。
「――――――え」
「ハンバーガーだ」
この後。同じことを繰り返していた二人は、次第に客の方が敗北してしまい。ハンバーガーを食べてさっさと帰っていったという。
ちなみに味については「まぁまぁ」だったりする。
「て、店長…」
「何かね?」
「アレ、どうやって出したんですか?」
「アレ…?」
「アレですよ、ハンバーガー」
ああ。と言い振り返ったエミヤは得意げな顔でこう答えた。
―――少し、魔法を使ってな。
と。
あまりに茶ねっけのある答えに一瞬どういう意味かと混乱した響。
結果、彼は絶対に答えないという意味で答えたらしく、その後しばらく同じような問いをしても軽く流されたりして核心に至ることはできなかった。
「………。」
思えば、この屋台には色々と気になる所が多すぎる。
人気のなさすぎる場所。聞こえるのは時折過ぎる列車の音のみ。
かと言って街の一つもない。
というよりも、そもそもここが何処なのかさえも分からない。
食材は。衣類は。資金は。
考えれば考えるほど、疑問点が多く浮かび自分が居る場所が本当に安全なのか分からなくなってしまう。
何度かそれを訪ねたことはあるが、いずれもはぐらかされたような言い方でかわされ、核心にたどり着いた事は一度もない。
(…あ。でも…)
最初に自分に言った事を思い出す。
―――ここは安全だが同時に危険な場所でもある。
だが、ココに居る限りは安全である事を保障する。
それだけは自信に満ちた顔で断言し、響もそれを疑う事はなかった。
今でもそれは変わらない。あの時の彼の言葉が絶対に嘘であると、彼女は今まで一度も思ったことはない。
―――なのに。
(…店長…何を隠しているのかな…?)
不満でも不安でも、不快でもない。
ただ純粋に何を隠しているのか、それを知りたくなった。
すると。遠くから足音が聞こえ、段々と近づく音に響は暖簾の方に顔を向かせた。
「すみませーん」
誰か居ないかと尋ねるように暖簾をかぎ分けた奥から、一人の少女が姿を見せる。
少女というよりも青年というべき年頃で、大体十六か十七。対して響と変わらないぐらいの背丈の少女だ。
黒い髪をツインテールで纏め、銀色の十字が入った赤い服と黒いスカートを着ている。幼げにも見えるその姿は響も可愛らしさと少し羨ましさを感じてしまう。
「あれ。店員さん、貴方だけ?」
「あ、すみません。今店長は裏で…」
すると、客の声に気付いたエミヤが裏で眠っていたのか体を起こして目のあたりを指でつまむ。先ほどまで気持ちよく寝ていたが、客が来たとなればそんな姿を見せる事はできないらしく、常に寝起きで客が来たら直ぐに平時のような表情を作る。
「ん。客か…すまない。少し眠ってしまっていた…」
「珍しいですね。店長が仮眠なんて」
「あのな。私も少しは寝るさ―――」
だが。次の瞬間。彼の営業としての顔は一気に崩れ去ることとなった。
「―――――――え?」
「な―――――――」
互いに互いの目を疑う。
目の前の事が現実なのか、それとも嘘なのかと信じたくなるような光景。
一瞬だが疑ってしまったのは確か。だが、直ぐにそれが現実だと、事実だと理解してしまう。
直感的な何かが、自分にそう言い聞かせたのだから。
「―――――アーチャー?」
「………凛」
運命の再開とでも言うべきなのか。
かつて主従だった二人は、最も意外な形で再び出会ってしまった。
(―――――凛さんに………((アーチャー|弓兵))…?)
「―――――――ぷっ」
刹那。しばらく静まり返っていた中で凛と呼ばれた少女は頬を膨らませ、ため込んでいた空気と共に笑い出した。よほど面白かったのだろうか。急に笑い出すと、そのまま腹を抱えて面白おかしく笑い続けたのだ。
「…えっ……えッ……!?」
「………。」
笑い続ける彼女に沈黙していたエミヤも次第に我慢がならなかったのか呆れた様子で口を開き言葉を返す。
「…何がおかしい、凛」
「あ、アンタのその服装よ…!ぷくくくく…!!」
まだ笑い続けている彼女に、何かおかしい所があるのかと自分の服装を確認する。
だが問題はそこではないのを本人の口から直接語られた。
「そうじゃないそうじゃない!アンタがそんなラーメン屋みたいな恰好してるから…!!」
「っ………」
「…そんなに珍しかったんですか?」
「…まぁ、今まで来た事はなかっただろうが…」
そこまで爆笑することなのか、と笑い転げる彼女に聞くが。本人の顔と笑い方からしてどうやら傑作だったらしい。
言葉にはしなかったが、その返答に頭にきたのか。エミヤはため息を吐くと後ろを向いてしまう。
「…響、店番任せたぞ」
「え…良いんですか?」
「しばらく笑わせとけばいい。その内、笑いつかれて腹が痛くなる筈だ」
「え、あ…はい…」
「…君も、自分がそうなったらという事を考えたことがあるか…全く…」
すねたと言うよりも頭にきたという感じで裏方へと下がっていく。怒りを見せては居ないが、それでも不快に思ったのは確かなのだろう。
ただどちらかと言うと負けたくないというような意地に思え、顔もそんな風に響には見えていた。
「あ……ごめん、アーチャー。思わずおかしくて無意識に笑い出しちゃった」
「…別に笑う事に責めはしない。が、君はもう少し他人との接し方を学んだ方がいいと思うぞ」
「………。」
後になって彼がすねた事に気づき、少しばかり罪悪感を感じた凛は小声で失態を犯してしまったと呟く。誰の目から見ても当然の事だろうと言いたいが、凛と彼とはそれだけの事が許される仲なのだろう。
しかし今回はそれでも許されることが難しい事だったらしい。
「て、店長…」
「ごめんなさいね。彼、結構根に持つタイプだから…さっきの真に受けちゃったみたい…」
「ああ…気にしないでください。私も慣れていますので…」
だがあそこまで堂々と言いだしたのは初めてだったが、と内心で自分の言葉に付け足す響は苦笑して話を合わせる。
どうやら相手を食うのに慣れた人物らしいと見ていた。
さて。
二人の中でその言葉が浮かび上がり、周りを漂っていた和やかそうな空気は冷めていく。
今度は一対一となった二人の間でどちらが先手を打つのかという、謎の勝負が始まろうとしていたのだ。
互いに初見である二人は一見、他愛なく話せそうではあるが、ある事情から話しの切り出し、第一歩が踏み出せずにいた。
共通する点、エミヤとの関係だ。
響は彼を店長としてか知らず、対して凛は彼の正体だけしか知らない。
それなら凛が一歩先を行っているようにも思えるが、実際ここでの彼は屋台の店長。絶対に先手を取れるという理由にはならない。
「………。」
一体どっちが、どの様に話を切り出すか。
問題となっていた中で、先手を打ったのは響だ。
「――――取りあえず…お冷出しますね」
しかし。場の空気は好転しなかった。
(なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…)
内心で打ちひしがれた響は、咄嗟に後ろを振り向いて目をそらす。恥ずかしさというよりこの場を変えられなかった事を妙に気にしているらしく、気まずい空気の中で次の手を考えようとしていた。
「―――貴方、名前は?」
「え…?」
「名前。私、遠坂凛っていうの」
唐突に名前を聞かれた響は、戸惑いつつも自分の名前を言う。
自分から何か話を振ろうとしていたのに一転して向こうからの話にどうすればいいのかを考えてなかったので驚きはしていたが、名前だけという事で難なく答えられた。
「ふーん…じゃあ響ね」
「はい…って?」
「ん?特に理由はないわ。けど、アイツが傍に置いておく子だから、ちょっとね」
「………。」
切り出された話に直ぐに終わろうとしていたが、そうはさせまいと響は思っていた事を考えずに口に出す。
「あの…凛、さん」
「何?」
「凛さんって…店長とどういう関係で…?」
何か語弊のあるような言い方で問うてしまった響は、直後に慌てて言葉に捕捉を付ける。別にそういう男女関係の事ではない、と慌てた顔で言う彼女に、呆気にとられた様子で聞いていた凛は小さく微笑んで返す。
「どういう…そうねぇ…」
「へ?」
急に見る目が変わったのに抜けた声で反応する響は、彼女の動きの一つ一つがどうにも狙っているように思え、それを真に受けてしまった彼女は頬を染め始める。
程よく鍛えられた足を擦り合わせ色気を見せるように動く凛。その表情と目つきは大人のように思わせるが、彼女の言う大人と響が今見ている大人風とでは確実に差があるのは明らかだ。
なにを勘違いしているのか色気に気を取られて口を魚のようにする響とそれを面白そうに見て遊んでいる凛。
どうにも違いがあるのを分かって行っている彼女に、誰が言ったか「あかいあくま」がそこに居た。
「アイツとは長い付き合いよ?そりゃもうほぼ一日…」
「ほ、ほぼ!?」
「昼に学校がある時は無いけど、夜になるとそりゃもう…」
「よ、夜…」
「毎日毎日激しいから困っちゃうわぁ…お陰で翌朝体が痛かったり」
「激し―――」
「いつの間にか朝になって…」
「あ、さ…」
そろそろダメ押しすぎたか。
その僅か一分後。厨房のほうに蹲っている響の姿があり、それを立って覗き込んだ凛は苦笑の顔で謝っていた。
「ちょっと言い過ぎだったかしら…?」
「―――――――――。」←赤面一色
「…大丈夫。大丈夫だから…別にそんな怪しい関係じゃないから」
「なら…」
「へ?」
「純愛なんですか!?」
ああ。彼女に誤解を招くような冗談はこうなるのか。
始めて知った相手だが、これほど面倒な相手が他にもいるのだなと思った凛は直ぐに彼女の誤解を解くように説明した。
「………。」
「ごめんなさい…ちょっと反応が面白かったから、つい遊んじゃって…」
涙目のジト目で見る響に気まずそうに謝る凛は内心で本当に面倒というか純粋なんだな、と思いもし彼女に友達がいるのなら苦労しているのだろうと、意味のない労わりを感じていた。
労わりどころかむしろそれを受け入れる母性を持った相手が、彼女の親友であると知らず。
「けどまさか、そこまで真に受けるとは思ってなかったから…」
「冗談にしても言っていい事と悪い事があると思います…」
実際、自分もこんな面倒臭い人間であると知らない凛は他人事のように自分の事から話を突き放して、先ほどの話を正しい意味で話し始める。
そう。エミヤとの関係は嘘ではないし、ただの浅い知り合いという訳でもない。
彼女が思う以上に二人の関係は深く、そして悲しいくも勇ましいものだ。
「…けど、アイツとの関係は本当よ。私、前居た場所でアイツと一緒だったもの」
「………。」
「勿論、そんな関係じゃないわ。しいて言うなら…主従関係…というより、執事と主ね」
「…はぁ」
「私も改めてアイツとどういう関係だったかって言われるとそりゃ主従関係になるけど…それじゃあ貴方がまた誤解してしまいそうだから…」
気遣っている事に理解したのか、響は無神経だとは思うが彼女に問いを投げる。
どうやら本当に何か理由があるらしい。そう見ての質問に凛も素の顔で受け取た。
「…さっきの」
「ん…?」
「さっきの…『アーチャー』って…」
「ああ。アレ?アレは………あだ名って言うより…偽名、かしらね」
「偽名?」
「ええ…自分の真名を隠すための…ね」
何故偽名が必要なのか、という問いは思い浮かばなかったが、凛の言葉にそれが本当である事と絶対に必要だったということが聞いて感じられ、割って訊ねることはできなかった。
「一応、本人の名前は知っているんだけど、似た名前の奴が居るから…。それにアイツとの関係っていうか………そう、証拠?」
「証拠…?」
「私とアイツが主従だったっていう証拠っていうか証っていうか…」
遠坂凛は改めて彼、英霊エミヤとの関係をどう表現するべきか迷った。
第五次聖杯戦争の時、最初に召喚した時から主従関係を取っているという事は確かだったが、彼との関係はどちらかというとパートナーという意識が強かった。
無論、それは凛に限った話でもない。例外的なメンバーが五次聖杯戦争には多かったのだ。
普通の魔術師であるなら、主従関係というより魔術師がサーヴァント、つまり英霊を一方的に聖杯獲得のための道具として扱う事が殆どだ。
自分たちの目的のための道具。所詮はかつて生きていた亡霊。
更に、それを制御できるシステムがあると言われれば、そうなるのも無理はないだろう。
だが、凛やその例外たちはサーヴァントを一人の人間、生き物として扱っており、彼女の知る中では一人、事情もあるがサーヴァントに食事を作ってもいた。
彼女はそこまでの関係ではないが、ほぼ対等ではあるし英霊である彼本人もそれを納得してか同じ目線で話している。
なので、主従関係という言葉は当てはまらないと見た凛は―――
「―――――思い出、かな」
「思い出…」
何度言っただろう名前。
何度問うただろう呼び名。
何度、言葉を交わしただろう
本当の名前。
「………。」
「…聞きたい?」
「えっ…」
「私と、アーチャーの…その『思い出』を」
凛の口から語られる聖杯戦争。
それはあるであろう数多の物語の一つ―――
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さぁさぁ久しぶりの第四話。 今度のお客はご存じあの方です |
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