「真・恋姫無双  君の隣に」 第53話
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陳留の留守を委ねられている私のところへ押し寄せてきた天和達。

挨拶も無しで人和が詰問してくる。

「桂花さん、一体どういう事ですか!どうして華琳様が一刀さんに攻め込んでるんですかっ!」

でも来る事が分かっていた私は用意していた言葉を返すだけ。

「一刀は敵よ、何の問題も無いわ」

三人が納得出来る訳がないのを百も承知で。

「何でよっ、一刀が何をしたってのよ。攻めてくるどころか逆に助けてくれたじゃない!」

「だから何?戦乱の世は食うか食われるかよ。状況によって誰とでも手を組むし誰とでも戦うわ。華琳様と一刀の目指すものは同じ、大陸を統一する王となる事。必ず戦う相手で、その時が来ただけよ」

そうよ、戦う時が来るのは誰もが分かっていたわ。

もう、これ以上の先送りは出来ない。

「私達の事を偽って使者を送って、騙し討ちのようにしてもですか」

普段の能天気さが全く無い、初めて見る天和の態度。

「兵は詭道なり。戦とは突き詰めれば騙しあいよ。戦を行う者なら誰もが承知して然るべき事で、一刀は華琳様に遅れをとっただけよ」

・・それしか、手が無かったのよ。

今の苦しい局面を覆し、尚且つ一刀を生かして捕える為には。

でないと、魏国は滅ぶのを待つだけ。

「それは華琳様や桂花さんの本心なんですか?一刀と一緒に居た時の楽しそうな顔は演技だったんですか?」

「・・・・」

・・何よ。

アンタ達に、華琳様や私達の何が分かるってのよ!

どんな思いで華琳様が決断を下したのか、どんな思いで私達が従ったのか、アンタ達には分からないでしょ!

「帰りなさい。戦が終わったら直ぐに寿春に行って貰う予定だから」

陥落後は可能な限り迅速に人心を落ち着かせないと、暴動が起こったら寿春が火の海と化してしまう可能性もある。

そんな事になったら、それこそ一刀の身に最悪の展開が起こりかねない。

「冗談じゃないわよっ、ちいは今すぐ寿春に行くからね!」

「私もそうさせて頂きます。止めても無駄ですので」

「ごめんなさい、桂花さん。私も同じ思いだから」

何言ってんのよ、もう戦は始まってるのに。

「待ちな「は〜い、ちょっと待っていただけますかー」

扉が開いて入ってきたのは、風!

どうして、アンタは一刀に付いたんじゃ。

「桂花ちゃん、ただいま戻りました。ちなみに華琳様には途中でお会いしましたから挨拶は済んでますのでー」

途中って、進軍中の華琳様と話したの?

「天和ちゃん達もあんまり桂花ちゃんをいじめないであげて下さい。決して今の事態を歓迎してる訳ではないのですから」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第53話

 

 

狙いは攻城兵器の井闌車と衝車や。

あれさえブッ潰しとけば兵力差は関係あらへん、虎牢関では四倍差でも守りきったんやからな。

「真桜ちゃん、まだ放たないの?もうそこまで来てるの」

「分かっとるよ、ウチを信じとき」

とは言うものの、投石機の実戦投入は今回が初陣やねん。

何べんも試験はやったから自信はあるで、そやけど今回の的は動いとる的や。

投石機は連発できるもんとちゃう、一回放つだけでもかなりの時間と準備が必要や。

それに籠城やと岩の補充が困難やから、一発も無駄には出来へん。

台風のせいで視界はようないし風も強い、照準を合わせるには最悪の天候や。

悪条件が重なっとる、沙和もそのへんの事が分かっとるから焦ってまうんやろな。

・・せやけどな、関係あらへんで!

他の場所に設置しとんのはウチが信頼しとる奴等に任せてる。

ウチと一緒に設計から実験まで試行錯誤を繰り返して、寝る間も惜しんで完成に漕ぎ着けたな。

アイツ等やったら絶対に上手うやってくれる。

そんなら、ウチが外す訳にはいかんやろ!

「今や、放ちっ!」

巨大な岩が飛ぶ、井闌車に真っ直ぐ向かって。

ドッカーーーーーーーーン!!!!

「よっしゃああああああああああああああああああ!!」

「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」」」

味方から歓声が飛ぶ。

ここだけやない、他のとっからもや。

「真桜ちゃん、凄いのっ!」

「まだまだや、沙和、絶対守りきんで」

 

井闌車が大破し、兵に動揺が広がる。

表情には出さないが私も内心ではかなりの衝撃を受けている。

情報に得ていた投石機で狙われるとは思っていたが、まさかここまで完璧に命中するとは。

初手で最も最悪の被害を受けてしまった。

本来なら井闌車は相手の戦線を崩してから投入する兵器だが、この戦は最初から全力を出しての短期決戦。

完全な力攻め、多大な犠牲が必然の戦。

拙い、兵の足が止まる。

「ひるむなあーーーーーーーーーー!!!」

姉者の怒声が響き渡る。

「曹魏の精鋭達よ!我等に前進はあれど後退はあらず、猛き心を燃やし我に続けえーーーーーーーーーーー!!!」

先頭を駆ける姉者に兵が続き、士気が跳ね上がる。

ならば私の役目は、

「破壊された井闌車を使って即席の防壁を作り陣を構築せよ。城壁の喉元に楔を打ち込むぞ」

 

敵兵が比喩でなく吹き飛んでいく。

北門の城壁上では天候の台風が霞むほどの、人の形をした台風が出現しておる。

強き者と戦うのは武人の本望だが、流石にあれは遠慮願いたいの。

兵士が敷き詰められとる城壁上において、恋のいる箇所だけは空間となっておる。

味方の兵すら近寄れん、武神とは言うたものよ。

・・成程、わしに兵の指揮を執るように言われる訳だ。

強力すぎる力は諸刃よ、使いどころを誤れば此方が傷を負ってしまう。

恋の力を上手く活かしながら全体の調整を行わねばならん。

敵は名だたる張遼に賈駆。

こいつは骨が折れるわ。

だが、お館様より託されたお役目、命に代えても必ず果たして見せようぞ。

 

僕と霞が任された北門攻略軍、敵守将は恋と厳顔将軍。

以前は味方だったから頼もしさしか感じなかったけど、敵だと考えたら逃げ出したくなるわね。

「霞、本気で行く気?恋だって休み無しで戦える訳じゃないわ、遠巻きにして直接は戦わない方が賢明よ」

「しゃあないやろ。恋に好き放題暴れさせとったら兵は恐怖のどん底や、短期戦で士気が上がらな何も出来へんで」

「・・死ぬわよ」

「何とか死なんようには頑張るから、詠、後は頼むわ」

霞が前線に向かう。

かつての仲間と、そして返し切れない程の恩がある一刀に対して刃を向ける為に。

戦が始まる前に華琳が強制はしないと言ってくれたけど、僕と霞は一刀と戦う事を選んだ。

理由は一つ、今の僕達は華琳の軍師と将だから。

共に戦ってきた仲間達が厳しい戦いに赴くのに、私情を理由に逃げたくなかった。

月、一刀。

軽蔑してくれていい、嫌ってくれていい。

僕は全身全霊をかけて、戦う!

 

眼下では孫と周の旗がなびかせた軍勢が押し寄せてきてます。

雪蓮様と冥琳様の率いる軍が。

「御免なさい、明命。私の我儘に付き合わせて」

「我儘なんて全然違いますよ。亞莎の気持ちは私の気持ちです」

いつもの明るい笑顔で応えてくれる明命に本当に感謝します。

対応する守将に私が志願して、明命も共に請け負ってくれました。

私ではとても及ばない方達ですが、この場を他の方にお任せする事だけは絶対に出来ません。

一刀様が描かれてる未来の為に、雪蓮様達と皆さんが傷付けあってはいけないんです。

命に代えても御止めします。

「亞莎、どんな命令でも出してください。だから一人で無茶をしたら駄目です、皆が揃ってないと一刀様が悲しまれるのです」

あ、・・そうです、そうでした。

一人で背負うのではなくて皆で支えあう、その為に此処にいるんでした。

肩から力が抜けて、周りが先程よりよく見えます。

「ありがとう、明命。よろしくお願いします」

「はい、任せてください」

 

さあ、始まったわ。

「あの子達と戦う事になるとはね。一刀も意地が悪いわ」

「故意か偶々かは分からぬが、厄介な敵将に当たったのは事実だな」

へえ、冥琳が本気になってるわ。

冷徹な軍師そのもの、かつての弟子や部下を見る目じゃないわね。

「雪蓮、この戦は私の指示通りに動け。魏の兵達は優秀だがお前とは波長が噛み合わないところがある、以前の感覚で戦えば思わぬ落とし穴に陥るかもしれん」

やっぱりそう?どうにも違和感があるのよね。

風土の違いってやつかしら。

「それはいいけど、じゃあ私の出番は何時になるの?」

「そうは待たさん。この戦には時間が無い、強引にでも勝機を作り出す。お前の出番は戦を決める時だ」

 

風や雨が容赦なく顔に当たるわ。

「華琳様、こんな強い風や雨が降っててまともに戦えるんですか?」

「それは相手も同じよ。稟、対応は?」

「はっ、兵士達には滑り止めとして手に縄を結んで置く様にしています。季衣、貴女もしっかりと結んで置いて下さい、武器を滑って落とすなど冗談では済みませんから」

そう、条件は同じ、今こそ攻める時。

この天佑ともいえる台風のお陰で、私には時が与えられたのよ。

偽わりの使者を出した効果も重なって、華の援軍が大きく遅れる事は間違いないわ。

到着するまでに寿春を陥とし一刀を捕えれば、大陸の勢力図を塗り替える事が出来る。

・・私は、弱者よ。

普段他者に対し誇りを求めながら、自分が窮すれば形振り構わない手段を取る。

私に覇王を名乗る資格は無い。

でも勝ちたい、一刀、どうしても貴方に勝ちたい。

もう、置いていかれたくないのよ。

私はこの戦に、全てを賭ける。

 

 

「風、華琳様はアンタに従軍させなかったのね?」

「はいー。桂花ちゃんなら何を意味してるのか分かりますよね」

どういう事だろ?

「ねえ、人和ちゃん。何の事か分かる?」

「風さんは寿春にいた。戦をするなら風さんの持ってる情報は凄く貴重よ。でも華琳様は風さんを戦に参戦させなかった」

「何で?ちいでも事の重大さが分かるわよ?」

私も分かった、ひょっとして華琳さんは。

「悩んでるのかも。戦うけど戦いたくなくて、勝ちたいけど勝ちたくなくて、自分でも分からなくなってるのかもしれない」

そんな気がする。

華琳さんは王様だけど、私と同じで女の子だもん。

人を好きになるのに、身分なんて関係無いよね。

「戦がどうなるかは風にも分かりません。風はやる事が出来たので戻ってきたんですが、天和ちゃん達がいて丁度良かったですよ」

「会いに行く手間が省けたぜ」

うわあ、本当に人形が喋ってるみたい。

「えっ?私達にですか?」

「そうですー。率直に聞きますがお兄さんの夢を見てますよねー?覚えが無いのに現実にあったような感じの夢をです。助平な事も含めてですよー」

えーーー!どうして知ってるの?

あんな夢とかこんな夢とか見てるの、恥ずかしくてちいちゃん達にも言ってないのに。

顔が赤くなっちゃうよー。

あっ、ちいちゃん達も赤くなってる。

二人も見てたんだ、ひょっとしたら皆で一緒にしてたのも見たのかな?

「風、アンタはあれを現実だと思ってるのね」

「おや?桂花ちゃんも同じ考えのようですねー。真っ向から否定されると思ってましたが」

「どんなに不可解でもその方が辻褄が合うのよ」

「ふふふー。話が早くて有り難いのです」

今の二人の話って、やっぱりあの夢は本当にあった事なんだ!

そんな訳ないって自分に言い聞かせて誰にも言わなかったんだけど、皆もそうだったんだ。

「ち、違うわよ、だって一刀はあんなにヘタレじゃないわ」

「そ、そうです。あんなに頼りなさそうな一刀さん。絶対違いますよ」

照れ隠しに反論してる二人が可愛い。

そういえばそうだよね、夢での一刀って今より子供って感じ。

でも大好きなのは一緒だよ、傍に居てると幸せだもん。

「お兄さんが事実を言ってくれないのは、風達の事を思っての事で間違いないでしょう。だってお兄さんですから。ですからお兄さんしか覚えていない現実を思い出す為に、風は戻ってきたのですよー」

説明
桂花を問い詰める天和たち。
避けられない戦の時が遂に訪れる。
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コメント
風は何をする気なんだろうか?(聖龍)
これ、華琳は勝ってはいけない戦いなのでは……随分無茶をしただけあって相手の対応も遅れているが、どうなるか。一刀が一介の将ならまだことは単純な奪い合いで済んだかもしれないけど、今の一刀は長だから、単純に下すだけでは相応の説得力は確かに生じないか。こうなってくると付け入りやすいのが華琳なので、一刀なら付け入る方策を思いつくでしょう。(Jack Tlam)
まぁ実際の所、「我こそが天に選ばれた存在」という証拠づけをしないとこの戦いにおける説得力がないので、一刀を生け捕りにしても天の御使いを名乗っている以上は即刻斬首以外に選択肢がないんですけどね。その辺り、華琳達は恋する乙女故に解っていないんでしょうね。(h995)
みんな夢で前の外史を見てたのか〜風はどうやって現実を思いだす気なんだ?(nao)
勝っても負けても遺恨が残りそう(´・ω・`)(未奈兎)
なんか華琳は一刀に負かしてもらいたいと思ってるような風に見える(vivio)
風は一体何を・・・?ところで華琳さんや、勝ち目とか、その後の展望とか・・・ちょっと選択肢残そうよ・・・もう無理ゲーだよこれ・・・(心は永遠の中学二年生)
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