とある不死鳥一家の四男坊 〜その婚姻をぶち壊せ!〜 その2 |
つい力んでやってしまったことに、自分のことながら唖然してしまった。
(やっべぇ、力入れすぎた! 誰にも当たってないよな!?)
落ち着いていた心臓が再びドキドキし始めてはいたが、すでに扉は開いておりここで取り乱していては計画に差し支える。
なるべく平静を装ってゆっくりと室内に侵入していく。
俺が壊した扉は対面の壁にぶつかり粉々になっているのが見える。
集まっていた悪魔達は突然の出来事にどよめいていたが、どうやら特に怪我人はいないようだ。
(お、兄貴かあれ? めっちゃ久しぶりに顔見たけど、相も変わらず厭味ったらしい顔だなぁ)
一番奥の目立つ場所。そこに純白の衣装を身に纏っている人物が二人。
片方はかつて数度見ただけだが、今でもまだ印象に残っている厭味ったらしい顔をしている純白のタキシードの男。
しかし、それが今は表情を驚きの色に染めているのが今生での俺の家族の一人。
フェニックス家が三男、ライザー・フェニックス。
……そして、もう片方が。
(……あの娘が)
綺麗な真紅の長髪に見る者を魅了するような美貌を兼ね備え、純白のウェディングに身を包んだ女性。
こちらも突然の出来事に驚いているようで、侵入してきた俺を見ていた。
彼女こそ現四大魔王の一角、グレモリー家の血を引く者。
グレモリー家歴代最強の力を持つと噂される大悪魔、サーゼクス・ルシファーの妹であるリアス・グレモリー。
(あの娘がサーゼクス・ルシファーの……レッドさんの妹さんか)
以前からレッドさんが自分の妹を自慢していたが、自慢したくなる理由がよくわかる美人さんだ。
これはレッドさんがシスコンになるのも頷けるし、一応身内ではあるが確かにうちの兄貴にはもったいないと思えるほどだ。
「……貴様ぁ、いったい何者だ?」
と、一人考え事をしている俺を殺さんばかりに睨み付けてくるのは、この式の主役の一人であるうちの兄貴。
そして不信者である俺の周りに瞬時に躍り出てきたのは、兄貴の眷属達。
流石ハーレム願望のある兄貴が眷属にしている女の子だけあり、小さい娘までいるが皆美形揃いだ。
(……ん? あれ、確かレイヴェルだっけ? うっわぁ、懐かしいなぁ)
その眷属たちの中にもう一人の家族、俺の妹に当たる女の子レイヴェルの姿が見えた。
レイヴェルには小さい頃に一度か二度ほどしか見ていなかったが、本当に可愛い子に育ったものだ。
(……まぁ、自己中で兄失格な俺が考えることではないかもしれないけど)
不審者を見るような目で見ているレイヴェルから視線をそらし、同じような目でこちらを見ている兄貴、ライザーの方に向ける。
「……それは世のために」
「なに?」
そう、今ここにいるのはライザーの弟の、レイヴェルの兄のオルトではない。
「……それはブ男たちのために」
俺はただ、俺に与えられた役を全うするのみ。
「……悪と戦い今日も行く」
怒りと悲しみとその他諸々の想いが込められた、このマスクをかぶった今日の俺は……。
「愛と正義と希望の戦士……しっとマスク、ただ今参上!!!」
頼むこの世のモテない男たちよ、今だけでもいい。
お前たちの強い嫉妬力を俺に分けてくれ!
偽物のしっとマスクではあるが、この名をこの姿を冠するこの時だけは!
この身を嫉妬の炎で包み込み、それ以外考えさせないほどの強い嫉妬力を分けてくれ!
(……じゃないと、恥ずかしさやらなんやらで……辛い!)
俺の言葉を聞いた皆の俺を見る目が「何を言ってるんだこいつは?」という目になっている。
そして視線の端に見えた事の発端であるレッドさんは、こちらから視線をそらしてプルプルと肩を震わしている。
……絶対笑いこらえてるだろ。口元ヒクヒクしてるのが丸わかりだぞ?
傍で控えているメイドさんもそれに気づいているのか、ジトーっとした目で見ている。
「……全国のモテない男たちの想いを背に、お前の罪を裁きに来たぞ」
「罪だと? よくわからんが、こんな登場の仕方をしておいて俺達を祝いに来た参加者というわけではないだろう? 目的はこの婚姻の妨害か?」
「ふっ、そうなるな」
「……その理由は?」
「さっき言ったはずだが? 全国のモテない男たちの想いのもと、俺はここにいる!」
ライザーは呆気にとられたような顔をした。
まさか本当にそんな理由で、こんな場所に来る者がいるとは思わなかったのだろう。
……本当はそんな理由じゃないと声を大にして言いたいが、言えないのが悔しいところだ。
「……く……くはっ! ははは、はぁっははははははは!!!!」
数瞬、その顔は一気に下卑た表情へ変わる。
「つまりは嫉妬か!? 惨めだなぁ! 男の醜い嫉妬というものは! まぁ、俺達は誰もが羨む美男美女! 貴様のような下賤なものが羨むのも仕方ないかもしれないなぁ!?
……だが。まさか、こんなことをしてただで帰れるとは思ってないだろうなぁ?」
「……関係ないな。この私、しっとマスクが来たからにはやることはただ一つ」
あくまで紳士的に、そして優雅に装い微妙にジョジョ立ちを加えながら、ビシッとライザーを指さす。
「「アベックどもに天罰を!」と本来ならば言いたいところだが、今回は違う。
ライザー・フェニックス、貴様は自分の欲望を満たすために、嫌がる婚姻をそこの美しい女性に押し付けたらしいな?」
「おいおい、言いがかりも甚だしいじゃないか? こんなに仲睦まじい二人にそんな物言いは」
隣のリアスの肩に手を乗せ自身に引き寄せる。
まぁ、それに歪めた表情をしているリアスの気持ちなど考えるまでもなく明白なのだが。
……というか、一瞬強い殺気がどこかから登った気がしたが、きっと気のせいだろう、たぶん。
「私にはそうは見えないがな? まぁ、それはどうでもいい。それならそれで本来通りに「アベックどもに天罰を!」と行くだけだ。
どちらにしろ、貴様に天罰を下すことに変更はないのだよ!
世のモテない不幸な男どもの怒りと悲しみと、そして私怨をその身に受けるがいい!」
個人的に、本人達の了解があるのならばいいんじゃない? と思わなくもないけど、妹さんはレッドさんの言うとおりこの婚姻には反対のようだ。
ならば、何の後腐れもない。
……それに、こんな恥ずかしい思いをしたのだ、少しくらい暴れてもいいだろ? いいよなぁ? なぁ、レッドさんよぉ!?
「ライザー・フェニックス! この婚姻、このしっとマスクがぶち壊す!!!」
「くっくっく、愚か者がぁ。 ……皆様!」
ひとしきり嗤うと、ライザーは仰々しく腕を広げて言い放つ。
「ちょうどいい余興です! めでたい婚礼の儀をぶち壊そうとする不届きものに、ここに制裁を加えようと思います! どうか皆様は手は出さず、我が眷属たちの実力のほどをご覧ください!
さぁ、いけ! 我が眷属たち! こいつを血祭りに上げろ!」
そう指示を出すと、周りを囲んでいたライザーの眷属たちが一斉に襲いかかってきた。
(……さぁ、憂さ晴らしをしようか!)
自然とマスクの内で口角が上がる。
飛び込んでくる相手を見ながら、体に力を込めた。
Side リアス・グレモリー眷属の転生者
考えが甘かった、それに尽きる。
この世界、ハイスクールD×Dの世界に僕が人間として転生して、何の因果かリアス・グレモリーの眷属となった。
駒はルーク。確かロスヴァイセという女性が後にグレモリー眷属に加入して、このルークの位置に収まっていたと思ったが、僕のせいで歴史が変わってしまったのかもしれない。
ハイスクールD×Dは好きな作品だったけど細部まで読み込んでいるわけではないから、これからの出来事は大雑把にしかわからない。
けれど、せめて僕にできる限り、いい未来を送れるように努力しよう。
(……そう思っていたのに)
全てが全て無駄に終わったというわけではないが、僕のしてきた事が目に見えて大きな成果とはならなかった。
特に今回のライザー戦などは、僕にとって後悔の多い出来事だった。
1ヶ月という短くはあるが集中して行える訓練期間があり、作品を見てきて僕が考えたことの意見をみんなに助言をすることで、原作以上に個々としてもチームとしても力が付いたはずだった。
レーティングゲームで僕は小猫ちゃんと一誠と一緒に行動していた。
同じルークの駒を持つ小猫ちゃんとの訓練でその特性を活かした戦い方を身に着け、かつ二人掛りで一誠に接近戦の訓練をしたことで原作以上にうまく立ち回れるようになっていた。
そのおかげで緒戦はそこまで苦労することなく切り抜けることができたと思う。
一誠が“ドレスブレイク”という切り札の一つを使わなかったこともそうだけど、僕たち三人の中でも特に戦い慣れている小猫ちゃんの力を温存できていたのは僥倖だろう。
ドレスブレイクを使えなかった一誠は少し不満そうにしていたが、わざわざ切り札を見せる必要はない。
これから先に、また使うべき相手が現れたら使うように言い含めると、一誠は誰を想像したのか急にやる気になっていた。
それに苦笑する僕と、「変態です」と罵る小猫ちゃん。
疲労など感じさせない一誠の様子に、訓練の成果が出ていると実感した。
……それで油断していたんだと思う。結局は敵のクイーンの魔法による不意打ちで小猫ちゃん共々リタイア。
一誠だけ生き残ってしまったという、原作同様の終わり方だった。
後で聞いたことだが、一誠もライザー相手に一生懸命くらいつきリアス先輩を守っていたそうだが、禁手に至っていない状態の一誠では自力に差がありすぎたようで少しずつ追い詰められていき、最終的にはリアス先輩が負けを認めたというものだ。
(……少しでもいい未来になればと思っていたのに)
結局行きつく先は同じところなのか、そう思うとどうしてもやるせなくなってしまう。
そして、少し時が経ってリアス先輩とライザーの婚姻の披露宴が行われる日。
炎に包まれて現れるリアス先輩とライザーの二人。
本来ならばここで一誠が乱入してくるのだが、原作以上に怪我が酷くここに来る前に一度お見舞いに行ったのだが、まだ目を覚ましていなかった。
いつ目が覚めるかもわからない状態だという。
アーシアは一誠が心配だといい、付き添って看病を行っていた。
(……これが、僕にとっての一番の後悔)
僕がいろいろと意見を出し原作よりも強くなれたことで、ライザー相手に長くネバり必要以上に傷を負ってしまったのだ。
そして、本来来るはずの一誠がいまだにこの場に到着していない。
まだ目が覚めていないのだろうか、それともすでに目覚めてこちらに向かっている最中なのか。
いつも余裕のある笑顔を浮かべている朱乃先輩も、どこか不安そうにしている。
披露宴とは銘打っていたが、すでに会場は結婚式のように準備が整っている。
ライザーはこの場で式を済ませてしまおうと考えているのかもしれない。
(このまま式が進行し、一誠がこの場に来なかったら……。
僕がいなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに……。
なんで僕はここにいるんだろう……)
不安が募っていき、自己嫌悪にまで陥ってしまう。
(……こうなったら、せめて僕がリアス先輩を助けないと……命に代えてでも)
自分では勝てないとわかりつつも、自分に責任があるという考えが先立ってしまっていた。
意を決してライザーに殴りかかろうと拳を握り、力を込めた。
……しかし、それは実現することはなかった。
「……え?」
入口の扉がすごい勢いで飛んでいき、壁にぶつかって壊れた。
突然のことに集まっていた参加者は騒ぎ出す。
こんなの僕は知らない、一体何が起きているのだろうか。
そして、そいつは現れた。
「……貴様ぁ、いったい何者だ?」
壊れた入口から現れたのは、みんなと同じように式に相応しいスーツを着込んでいる男、だと思う。
曖昧なのは仕方ないだろう。
なぜならそいつは、顔がわからないように変なマスクをした奴だったのだから。
「愛と正義と希望の戦士……しっとマスク、ただ今参上!!!」
(……本当に誰だ!?)
あの声、そして少し高めの身長からして一誠ではないだろう。
それならいったい誰だ?
まさか僕が介入したから、何らかの変化が生まれてあいつが出て来たのか?
もしくはあいつもまた僕と同じように……。
混乱した頭で考えていると、ライザーの合図とともにライザー眷属がしっとマスクに襲いかかった。
(あぶない!)
こんなところに乗り込んでくるからには多少は自分の力に自信があるのだろうと思ったが、どういうわけかあのマスクの男からはあまり強そうな気配を感じない。
ライザーの眷属達は中級悪魔がほとんどで、ライザー自身も上級悪魔。
力の差は目に見えている。これから始まる惨劇が頭をよぎった。
―――ブンッ!
……ものすごい勢いで僕の真横を何かが飛んで行った。
何かが壁に衝突する音が複数。
見てみると、ライザー眷属の女の子たちが壁に埋もれていた。
「……は?」
そう漏らしたのは僕だったのか、それとも他の誰かだったのか。
Side out
拳に炎を纏わせた者、杖や短剣、大剣を振るってきた者、なんとチェーンソーなどという物騒な物を持っている者もいたが、その動きを見ながら対処していく。
「ふんっ!」
ある者は受け流し、ある者は受け止め、ある者は武器を破壊する。
そして手近にいる二人の腕をつかみ、気合と共に大きく振り回して投げ飛ばした。
それに巻き込まれた近くの者は弾き飛ばされ、近付こうとしていた者は余波でも受けたのか倒れてしまっていた。
ただの嫉妬に狂った馬鹿な男と思っていた者が瞬間的に行ったことに、会場にいる参加者は息をのんだ。
「峰打ち……っと、刀は持っていないが、別に命を取るつもりなど毛頭ない。俺の目的はその色男に私怨的な鉄拳制裁を加えること。
……痛い目見る覚悟がある奴だけ、かかってこい!」
自分からやってきて何を勝手なと、相手にとっては理不尽でしかない俺の物言い。
「くっ! それなら、私の炎で焼かれなさい!」
しかし、こちらを侮ると危険と判断したのか、眷属の中でも一番大人びている女性が杖を構えて火球の魔法を飛ばしてきた。
一つ一つは顔くらいの大きさはあり、そこそこ数もある。
……というか参加者は壁際に避難しているとはいえ、そんなに魔法連発してもいいのかと。
(あ、いつの間にか周りに簡易的な結界貼ってある。レッドさんあたりかな?)
チラッとレッドさんを見ると、いい笑顔でうなずいていた。
そしてゆっくりと口を動かしている。そこから読み取れたのは……。
『やっ ち ま え』
……多分間違ってはいないだろうが、なんだかな。
別に倒すことが目的じゃないからな? 時間稼ぎだからな?
とりあえずレッドさんは放っておこう。
先程拳に炎を纏わせた娘を真似て、拳に力を込める。
……少しでも身ばれの可能性なくすために炎でなく、込めるのは純粋に魔力だけだけど。
「……オラ……オラオラ……オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
「う、嘘でしょ!?」
スタンドは使えないけど、ジョジョ張りにオラオラしております。
弾幕というには程遠い数と、このくらいの速度ならば避けることも十分にできるのだが、別に速攻でかたを付けなければいけないわけでもない。
憂さ晴らしもかねてできるだけ派手に、かつこちらの身ばれが起きない程度に演出を加えていきたいところだ。
「なんだこいつは?」 という目で見られてるが気にしない。
俺がオラオラしていると、先ほどのぶん回しで倒れていた悪魔の一人が起き上がりざまに加速。
飛んでくる魔法の影に隠れながら突き進み、俺めがけて短剣を突いてくる。
「グッ!?」
が、短剣が接触する直前にその娘を蹴り上げる。
……上に飛んでいく途中でいくつか被弾していたけど……まぁ、大丈夫だろう。
「……ん?」
改めて目の前の魔法に目を向けると、今度は今までとは比べ物にならない威力と範囲の炎が迫ってきていた。
(……あ、これ多分兄貴の)
数瞬の思考。
しかし、それは炎が俺に届くまでには十分な時間だった。
炎は今まで弾いてきた火球を巻き込みながら、俺に着弾。
大きな炎の柱ができ、その威力の凄まじさを物語っている。
「……くっくっく……はぁっはっはっはっはっは!!!」
高笑いを上げるのは、今の超高温の炎を生み出した張本人、ライザー・フェニックス。
「なかなかやるようだが、この私の炎を受けてしまってはひとたまりもあるまい!」
まさかのフラグである。
『フラグ乙〜』
何処の誰かがそんなことを言ったような気がするが、恐らく気のせいだろう。
ジト目で見つめるメイドの視線から逃れるように、明後日の方を見ているどこかのお偉いさんがいる気がするが、やはり気のせいだろう。
「少々時間がかかってしまったようだが、余興もこれで仕舞いだ。
さぁ、リアス。待たせてしまってすまないな。続きといこうじゃないか」
「……くっ」
こちらのことなど終わったことのようにそう言うと、背を向けて妹さんの元へ歩いていく。
(……だけど)
「……おい、あれ」
「ん?」
誰が言ったかはわからないが、その言葉にライザーが振り向く。
いまだに消えない炎の中からしっとマスクこと、俺が何事もなかったかのように歩いて出てきた。
「……なん……だと?」
驚愕に目を見開かれる。
ライザーの目に映ったのは所々火傷も見えるが、ほとんど堪えていないようにそこにいる俺。
……マスクと真っ赤なパンツ、少数のアクセサリーに腰の収納バッグを身に着けた、ほぼ裸の俺だった。
説明 | ||
その2です。 なお、その1の方の最後の数行を少し変更しました。 多分こっちの方がまだ少しは自然かなぁと思いまして。 |
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